「―――やっぱり、親族が争っているのを見るのは辛いから、かな」
そう言って、キャスターは秧鳴のところに戻っていった。
そして、キャスターは言う。
「それじゃあ、みんな、ここに遠坂同盟の結束を宣言しま〜っす!」
「いえ〜い!」
キャスターの宣言に対し、憐のみが乗ってはしゃいでいる、が。秧鳴と凛はお互い厳しい顔をして睨み合っていた。―――否、警戒していた、と言ったほうが正しいか。
どうであれ、二人は相手の一挙手一投足を監視し合っていた。もっとも、それは秧鳴が遠坂親子を襲撃したことから来るものなので、当然といえば当然であるが。
「それで、秧鳴のおじさま?」
「なんだ」
「今は私達をどうしようと考えているのかしら。もしかして、本当に見逃してくれるの?」
秧鳴は、その文言を鼻で笑う。
「そんな訳があるか。大体、私が君たちと協力―――同盟を組むことになったのはキャスターが私を殺すと脅したからで―――」
「あら、そう。けど不思議ね」
「……何がだ」
「あなたがその気になれば、令呪を以って、私達を殺せるんじゃないかしら」
その言葉に、秧鳴はハッとした表情を見せ、すぐに苦虫を噛み潰したかのような苦しい表情に移り変わった。そのようにして変わる表情はまるでグラデーションのよう。
そうして、秧鳴は口を開く。
「……ああ、そうだ。私は、令呪を使えばいつでも君たちをキャスターの同意無しで殺せる。けれど、それは本当に本望なのか? 私には、そう思えてならない。過去の英雄―――今の人類史を築き上げてきた時代の先駆者。その者たちの本来の自由意志を殺してまで、勝ち上がろうとは―――愚かな私には、到底考えられるものではない!」
段々と語気が強くなっていく。怒り混じりの声色は、外へ出ていくためのものではなかった。それは、自らへの怒り。不甲斐なく、眼の前の標的を殺せない自分への怒りであった。
しかし、それを聞いて凛は言う。
「ふ〜ん。あなた、そんな事考えてたんだ。けど、私はそれを愚かだとは思わない」
「なぜだ?」
「―――それは、あなたが優しいからこそ来る、迷いなんだから」
秧鳴は、面食らったような表情になった。
そうして、彼は微笑む。
「そうか、それは……なんとも、希望的観測、と言うべきかな」
「おい、面白そうな話してやがんな。オレも混ぜろよ」
そこにいた全員が声がした方を見る。
そこには、白髪のウェーブのかかった長髪の男性が杖のようなものを携えて立っていた。
指には、金色の指輪がはめられている。
「その前に、君は誰かな? 私の知っている限り、現世ではこの三人しか知り合いがいなくてね。どう? 私と知り合いにならない? そうすれば、みんなの話に混ざれるよ?」
キャスターが聞く。すると、その男は笑って言う。
「あっはっはっはっは! こりゃあ、良い! いいねぇ、嬢ちゃん。オレはそういう人、嫌いじゃない。そうだな、名乗りを上げるのを忘れていた。
オレはランサー―――真名を、ソロモンと言う」
「―――ソロモン!?」
凛が、驚いたような声を出す。続いて、眼の前の事象を信じられないと言いたいような、そんな口ぶりで言う。
「まさか―――あれが、ソロモン? いやでも、あの魔術王が、まさか、まさか―――キャスターのクラスじゃなくてランサーのクラスで顕界するなんて!」
「おい、そこの姉ちゃん。オレがランサーで不満か?」
ソロモンを名乗るサーヴァントは、不敵な笑みを浮かべ、言う。
「んじゃあ、見せてやるよ。オレの―――ランサーとしての腕前をなァ!」
「え? やるの? それじゃあ戦おう、アサシン!」
「了解した、マスター」
アサシンは右手にライフルを持ち、それを連射する。
そのライフル弾は、光のように直進し―――ランサーの右頬をかすめる。
鮮やかな赤色をまとった液体は、弾丸の描く空気の
ランサーはキッ、とアサシンを睨みつけ―――
「おう、そうか。相分かった。お前は、オレと殺り合いたいのか。そうかそうか、なれば―――死ね!」
恐るべき速さで、アサシンへと向かう。アサシンはランサーが向かってきている間もライフルを撃っていたが、いざ間近に迫ると、アサシンはライフルを投げ捨て―――一本のナイフを取り出す。
「『
アサシンは、自らの宝具を開帳し、ランサーを斬りつける。
しかし、アサシンの『
「ッ!」
「ほう。これは……なんとも無駄なあがきよ。能力は、さしづめ相手の魔術回路や魔術刻印とか、そんなモノをズタズタに切り刻んで下手に修復する、というモノだろうが―――オレには、全くと言っていいほど効果がない。それはなぜか? ―――その神秘が、まだ薄いからだ!」
「―――と、言うのも予想済みだ。僕は、ここでアレを出すしかないと、改めて決意したよ。ランサー」
「……何をする気だ」
「聞くが
……あいにく、僕にはまだ僕の身に宿っている英霊の力を存分に発揮することができなくてね。けど、知識はある。今ある宝具を組み合わせることで、本来の宝具に近い力を発揮できる」
冬の日、天使の羽根が舞う。
聖夜にはまだ早く、神の子の生まれを祝うわけでもなく、降り積もる純白の羽。
それはいずれ雪となり―――クルミの枝に降り積もる。
その雪は呪い。
彼の霊器に刻まれた、遠い遠い―――彼とは違う彼が、別の世界で体験した後悔の無念。雪のように純白な彼の娘との、遠い遠い―――呪いたいほど美しい記憶の結晶。
その雪は呪い。
その雪は―――ランサーへとふぶき、その外殻を剥がしていく。
「ぐ―――ああああああああああああ!」
白い煙幕が上がった後、目に飛び込んできたのは、絶世の美女の姿だった。
「クソっ、バレたならしょうが無い! あばよ、クソッタレの暗殺者。その面二度と見せんな!」