遊戯王5D's-The After   作:辛麺焼き

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第12話:その男の言葉

デュエルが終わり、遊星の姿をした究極神と向き合う遊星とブルーノ。

 

『見事だ、不動遊星。その力と意志が折れぬ限り、迫りくる……いや、既に訪れた闇を打ち払うことが出来よう』

「既に浸食は始まっているのか……だが、オレは必ずこの町を守って見せる。いつかここに帰ってくるあいつらと、イリアステルとの約束のためにも」

「遊星がそのために戦うなら、僕の使命はその道の助けになることだ。及ばずながら、僕も力を貸すよ」

 

確固たる決意を持って言い切った二人に、究極神はこう伝えた。

 

『敵は古の魔術師……自ら名乗る名は“エクリプス”。現世を否定し、過去の光に縋る者どもだ』

「そのためにこの街を破壊しようというのか……」

『正確にはこの時代全てを、だがな。近いうちにお前たちの前に現れるだろう、備えることだ。……そうだな。以前、二つの神を宿した男がいただろう? そいつを呼び戻したついでに大雑把な事情を伝えてある。今はこの世にはいないだろうが、何かしら伝言は残しているだろうな』

 

そら、と投げ渡されたのは、たった今まで究極神が使っていたデッキ。

 

「これは……」

『あの男はお前に未来を託したのだろう。ならば今は、お前が持つべきだ』

「ま、待ってくれ。それは……ゾーンのことか? だが、彼とこのカードに何の関係が……」

『当然だ。それは不動遊星のデッキだからな』

 

言っている意味がわからず、問いを重ねようとする遊星だが、その瞬間猛烈な頭痛に襲われ「ぐっ!?」とうめき声を上げてしまった。

驚いたブルーノがデルタイーグルを降りて駆け寄って来たが、頭痛は一瞬で過ぎ去った。だがその時には、遊星の記憶の中に、そのカードに込められた意志のようなものが伝わってきていた。

 

「遊星、大丈夫か!?」

「あ、ああ。だが、今のはいった―――!?」

 

顔を上げた遊星は二度驚くことになった。

そこには既に、赤き竜も、究極神の姿もなくなっていたからだ。まるで全てが幻だったかのように、その姿は跡形もなく消え去っていた。

だが、それが夢幻でないことは、遊星の手にあるカードが証明していた。

 

「き、消えた……」

「エクリプス……それが敵の名前……」

 

 

 

―――違う。

 

 

 

「……? ブルーノ、何か言ったか?」

「いや……どうしたんだ?」

「今、何か聞こえたような……」

 

錯覚と言うにははっきりとした、現実にしては茫洋とした、記憶に残らない声。

遊星は、それが自分に届いたような感覚を覚えていた。

 

(気のせいとは思えない……今のはいったい……)

 

 

 

 

いきなりもたらされた大量の重要情報を抱え、遊星はひとまずブルーノを連れて涼の自宅に来ていた。

既に家主の涼には連絡をつけており、鬼柳も一足先に来ていた。

 

だが、情報を持ってきたつもりの遊星を待っていたのは、見舞い帰りの二人が迷い込んだ謎の空間と、そこで待ち受けていた謎のデュエリストの話だった。

ひとまず双方の持つ情報を突き合わせ、どうにか事態の全体像を掴もうと4人で意見を交換する。

 

「いきなり大ネタ持ち込んでくれたな、遊星」

「究極神に、エクリプス、魔術師と来たか。いよいよ状況がオカルトに転がり始めたな……」

「それよりも、涼、お前と鬼柳が戦ったというのは……」

「神官、と名乗ったんだね?」

 

難しい顔のブルーノ(なじみのメカニック姿である)が尋ねる。

 

「ああ。キャンサー、とか言ってたな。んで、俺が埠頭で見た二人を考えりゃ、最低でもあと一人、間違いなくそれ以上の人数がいることになる」

「敵の正体って言っていいのかわからねえが、とりあえず連中が裏にいるってことだけはわかったな」

「組織の名はエクリプス。そして決闘神官を名乗る魔術師たち、か」

「……こう言っては何だが、未だに何もわかっていないのと同じだな。手がかりは究極神くらいだが……」

 

ぼやく遊星。

ここにいる4人とも、いわゆるカードの精霊絡みの事情については実のところ疎い。遊星にしても、辛うじて赤き竜と地縛神について把握している程度だ。

この手の事情に通じているのは《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》を始め精霊たちと和する力を持つ龍可だが、彼女は今この街にはいない。

むろん連絡が取れないわけではないが、

 

「そのためだけにこっちの騒ぎに巻き込むのも、問題じゃないのか?」

「ああ。出来る限りオレ達だけでカタをつけたい」

 

ダークシグナーやイリアステルとの戦いと違い、今回は彼女を巻き込む必然性がない。

とはいえ、行き詰っている以上その手の事情通に話を聞くのはほぼ必須だ。では誰に?

視線が向いたのは涼。

 

「……涼、何かツテねえか?」

「あったかなぁ……」

 

鬼柳に言われて記憶を探る。

ここにいる中では、交友関係がそこそこ広い涼が一番の頼りだが、果たしてその中に該当する人物はいるのだろうか?

その時、遊星が顔を上げた。

 

「……二つの神を宿した男が知っている。そう言っていたな」

「何だと? ……ってことはあの人か」

 

それを受けて涼が取り出したのはかなり前のデザインの通話機。パッド状のものだ。

 

「それは?」

「長官が最後に置いてったメッセージファイルだ。後半の方にやたら長い空白があるんだよな」

「ゴドウィンの……」

 

レクス・ゴドウィン。

世界の未来を変えるために神となることを目指し、遊星たちによって阻止され、運命の決着をつけるために去っていった男。

ネオ童美野シティでは世界を滅亡させようとした悪人として認知されているが、遊星たちも涼もそれを訂正するつもりはない。

事実として彼は今の世界を破壊しようとしたわけだし、何よりレクス自身がそれを望んでいなかった。

それが、今涼が全員に見せたメッセージで語られていた。

 

「……涼、これはどこから?」

「……長官本人だ。WRGPの頃になって、残留してたマイナスエネルギーと、ダークシグナーの残留思念……っつーか、焼き付けられた思念の影って言うのか? そういうのが合わさって幻影のダークシグナーが夜な夜な出没してたんだ。長官は地縛神が復活を目論んで引き戻したらしいんだが、赤き竜の力を一時的に持ってたとかで正気を保ってた。それで、一緒にダークシグナーどもを倒して回った」

「倒して回ったって、お前……」

 

呆れたように言ったのは鬼柳だ。

元は彼自身ダークシグナーであった以上、彼らがどれほど強かったかは理解している。

レクスと力を合わせたとはいえ、それを倒したとこともなげに言える辺り、涼もまた尋常のデュエリストではない。

 

「……で、最後に倒したのは長官だ。あの人もダークシグナーだったからな」

「………………」

「遊星よ、プラクティスの終わりに俺と鉢合わせたことあったろ?」

「ああ、確かその時にお前が通りかかったんだったな」

「長官を倒した帰りだった」

「……………そうか」

 

何でもないことのように語る涼だが、鬼柳がセキュリティを襲撃する前日、ダイダロスブリッジの近くで高波に飲まれてシティに流れ着いた彼が、いかなる意図があれどレクスの世話になっていたことを遊星は知っている。

だからこそ、その恩人に最後の引導を渡した彼の心境を、推し量ることはできない。

 

「で、帰ってみたらこのビデオレターが残ってた。これの後ろの方なんだが……ここからか?」

「……!」

 

涼がタブレットでビデオを再生する。

そこに映っていた人物こそ、ネオ童美野シティ治安維持局の前長官、レクス・ゴドウィン。

涼に対する感謝のメッセージの後、数分ほど何も映っていない空白が続き、続けて何かの文字列が映し出された。

数字とアルファベットの羅列、その下に「全てはネオ童美野シティのために」。

 

「何だ、これは?」

「パスワードか何かに見えるけど……」

「これをどうすんのかが未だに……待てよ、もしかしてあれか? パソコンの中に参照不能のファイルが一つあるんだが……っと、ビンゴ!」

 

その文字列をパスワードとして、パソコンに打ち込む。

すると予想通り、ロックを解除されたファイルが表示された。そこにあったのは、先ほどのビデオレターと同じくレクスの映った動画データだったが、今度は表情を強いて消しているとわかる神妙な面持ちだった。

 

『……遊凪涼、このメッセージを君が見ているということは、ネオ童美野シティに再び危機が訪れたということです。そして不動遊星、恐らく君もそこにいるのでしょう』

「!?」

『驚く必要はありません。この街を脅かすものに対して、君たちが黙っているはずはありませんからね。……既に知っているかも知れませんが、この世界の歴史の裏にはイリアステルを名乗る者たちの介入があります』

 

そこからレクスが語ったのは、イリアステルがどんな組織か、何をしてきたのかについて。

しかし、それはあくまで前提に過ぎなかった。

 

『……その上で、もしこの街において何某かの動きがあるのならば、それは恐らくイリアステルです。そうでないのならば、恐らく、この世の誰も知らない敵でしょう』

「なに……?」

『遊星がそこにいるなら、彼が知っているでしょうが……私は自らダークシグナーとなり、そして兄・ルドガーの左腕を介して、赤き竜の力をも手にしました。その過程で、そして全てが終わり運命に決着をつけに向かった時、私たちは見たのです』

 

『それは、イリアステルも知らない、恐らくは彼らよりも過去、そして彼らよりも未来に動いていたであろう者たちです。デュエルモンスターズの起源について知っていますか?』

 

―――今を去ること、10000年以上前。その頃にも人類は文明を築いていた。

当時の世界には、数々の魔物が闊歩していた。力ある魔術師達は彼らを従え、その力を操り、覇権を争っていた。

やがて、それら魔物を石板に封じ込める術が編み出された。魔物を封じた石板を用いての決闘―――ディアハ。

 

時代が下り、魔術師達が滅びるとともに、石板も魔力とともに眠りについた。それらの伝説は「トートの書」に記されて後世に伝わり、さまざまに形を変えながら受け継がれ、最終的に形態だけを模写したタロットカードになった。

カードゲームの起源はここにあると言われている。

 

『ペガサス・J・クロフォードは、魔術師の戦いをこの世に蘇らせる媒体として、デュエルモンスターズを生み出したのです。そして私たちが見たものは、石板の魔物を使役し、戦いを繰り広げる魔術師たちの姿……ただしそれは、かの名もなきファラオよりも、明らかに古い時代の、そして色々な国のものでした』

 

『恐らくは内輪もめと思われますが、詳細は分かりません。一つはっきりと見えたのは、彼らが自ら眠りにつき、そして時を超えて目覚めたということです。そして彼らが時を超え、今のこの町に現れる様も』

 

『彼らが何を目的としているのかはわかりません。ですが、二つ、はっきりしていることがあります。遊星は必ずやり遂げるということ。そして、「彼ら」が敵だということです。この世を滅亡させるために現れるのです』

 

『彼らの名は“エクリプス”。星を喰らう者。古の魔術師たちの成れの果てです。……私にこれを伝えた者が一体何者なのか、何の意図があるのかは、今の私にはわからないことです。それでも、これには何か重大な意味があるはずです。それがあなた達の役に立つことを信じて、私はこのメッセージを残します。……武運を祈ります』

 

レクスのメッセージは、そこで終わっていた。

 

「……ゴドウィンを呼び戻したのは、地縛神と究極神、その両方だったということか」

「……なあ、遊星よ。究極神は、時の彼方から来た連中だって言ったんだな?」

「ああ。時を超えて目覚めた古の魔術師たち、と」

「ってことは、過去の時代に活動してた連中ってこった。……それで長官の記憶以外、どこにも記録が一切残っていないってことは、今までの時代に一度も目覚めてないってことだ」

「もしくは誰の目にも触れず……は、ちょっと考えにくいな。話を聞く限りそこそこの大所帯なんだろう、涼」

「らしい。俺が見たのは下っ端らしい一人を含めて4人だが……恐らく12人+αだ。十二の決闘神官って言ってたからな」

 

つまりは未知の敵であることに変わりはない、ということだ。

ただし、究極神ほどの大物が警告のために色々手を回す程度には厄介な敵らしい。

 

「つまるところ、連中がいつ、どこから襲ってくるかわからないのが一番の問題だ。何しろ精霊使ってリアルダイレクトアタックかまして来るようなリアリストだしな」

「お待ちいただきたい、リアリストとは心外な。掟を遵守しただけです」

「そうは言うけどよ、デュエルで負けたからって物理的に殺しに来る時点でダメだろ。なあ京介」

「同感だ。ロットンと変わらねえ」

「キャンサーが石頭に過ぎるだけです。我々全体を一緒にされるのは憤慨せざるを得ませんが」

「内実を知らなきゃ同じことだろ」

「……って、ちょっと待て! 誰だお前!?」

 

涼が血相を変えて叫んだことで、ようやく4人はその場に現れていたもう一人の存在に気づくことができた。

本当にいつの間にかそこにいたのは、鍔広の帽子とロングコートを纏った黒ずくめの男。帽子から覗く髪だけが、色が抜けたように白い、痩せた男が立っていた。

 

話の内容からエクリプスの一員だと直感した4人は、一斉に退いて距離を取るが、男の方は平然としたものだ。

 

 

「フム、存外気づかれないものですな。では改めて……ワタシはお察しの通り、エクリプスに属する十二の決闘神官の一人、呼び名は第十座“山羊(カプリコン)”。以後、お見知りおきを」

 

 

慇懃に一礼するカプリコンに、警戒もあらわに声を上げたのは遊星だった。

 

「なぜここに現れた!?」

「宣戦布告です」

 

回答は至ってシンプル、かつ端的な一言。

 

「まあ今回は敵情視察も兼ねていたのですが、究極神まで出てきたのであればウダウダと長引かせる意味もありません。それに」

 

ちら、と視線が向いたのはブルーノ。

 

「?」

「その様子では、我々の目的の一部は理解しているのでしょう?」

「……ああ」

「ならばこちらとしても隠れ続ける意味はありません。というわけで、お互いのためにも決着をつけてしまうとしましょう」

 

一方的に話し続けるカプリコンだが、遊星たちとしてもこの申し出は望むところだった。

相手の目的の全容は未だ見えないが、それが何であれ倒さなければならない敵なのは事実なのだ。

調べるのはそれからでも遅くはない。

 

「いいだろう、相手になってやるぜ!」

「早まられるな、無手札の鬼神。……3日後の深夜0時、旧モーメントにてお待ちしております。断っておきますが、戦わねば我々の企図は成就が約束されます。それでよろしいですかな、各々方」

 

その場の全員が沈黙で返したのを受け、「それでは」と一礼するカプリコン。

一瞬のうちに、幻だったかのようにその姿は消え失せていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――やめて。

 

 

 

 

―――止めて。

 

 

 

 

―――わたしはこんなことを望んでなんかいない。

 

 

 

 

 

 

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