「身の上話だと?」
戦意を見せるでもなく、ゆっくりと辺りを歩きながら語るカプリコンに、遊星は警戒を解かないまま問いかける。
「ええ。……デュエルモンスターズのルーツについてはお聞き及びのことと思います」
「古の魔術師たちが従えた、精霊や魔物……それを封じ込めた石板が、カードの起源だと聞いたが」
「その通り。そして不動遊星、あなたはご存じのはずです。精霊の世界があることを。その世界を統べるドラゴンの存在を」
「……………」
事実だった。
チームの仲間の一人、龍可。彼女は生まれつき、カードの精霊と和する力を備えていた。
エースモンスターである《エンシェント・フェアリー・ドラゴン》も、精霊の世界を統治する存在であった。遊星自身はその世界に行ったわけではないが、精霊の存在は既に理解している。
パラドックスとの戦いでは、武藤遊戯の従える魔術師の師弟、そして十代を守るネオス、ユベル、ハネクリボーと出会った。そして自身のパートナーたる《スターダスト・ドラゴン》。
範囲を広げれば、赤き竜や地縛神もその一つと言えるだろう。
「それは精霊たちの住まう世界のほんの一角に過ぎません。……カードの精霊とは、人のイメージの影響を強く受けます。時代が進むごとに彼らの世界もまた、少しずつ変わってきました。……その中にあって、特に強い力を持った精霊や魔物がいます。それらを従える魔術師の内、神を奉じ、儀式に従事する者を『
「決闘神官……お前もその一人か」
「一応は。ひとくちに神官と言っても、奉ずる神によって派閥がありますからね。歴史に残る決闘神官とは、主に究極神を崇め、その力を操る者たちです。もっとも、既に滅び去っていますが」
では、エクリプスとは?
「既にお察しのことと思いますが、我々は現代の人間ではありません。時を超えて目覚めた、古の魔術師です。そして我々12人は、それぞれに異なる場所で生まれました」
「12人……」
「我々はいずれも、精霊と和する力を持っていました。しかし、魔術師でも神官でもない者にとってそれは脅威でしかありません。ゆえに我々は排斥され、拒絶され、死を待つのみでしたが……そんな我々を救ってくださった方がいます」
「……もしや、それがエクリプスのリーダーなのか?」
「……そうなります」
肯定しながらも断言はしない、不明瞭な物言いに、しかしカプリコンは疑問を挟ませない。
「かの方の呼び名は“
虚空を見上げるカプリコンの目は、ここではないどこか遠く、既に失われた光景へと向けられている。
そんな風に感じられた。
「しかし……我々は二つの破局を経験しました。一つは、かつて、破滅を前に起きた内乱です」
「内乱?」
問いかけに振り向いたカプリコンの目に宿っていたのは、混じりけのない怒りと、そして少しの懐旧だった。
「……ある事象への対処を巡り、我々の内部から反逆者が出たのです。ワタシには……なぜ彼らが“
「………………」
「……我々にとっては不本意極まりない結果ですが、破局は防がれました。そして、わずかな従士と共に生き延びた我々8人の神官は、新たなる時代で全てを取り戻すため、眠りについたのです」
「そして今、オレたちの時代に目覚めたのか。……ん?」
遊星は、自分で口にしたその言葉に引っかかりを覚えた。
カプリコンの話の内容の真偽はともかく、筋道は立っている。だがそれならば、
「二度目の破局とは何だ? 今の話が正しければ……」
「……不動遊星。今の話には一つだけ、意図的に伏せた部分があります」
「永き眠りを経て、ワタシたちは確かに目覚めました。―――全てが滅び去った時代に、ね」
サティスファクションタウン。
旧モーメントに向かわず鬼柳がここに残ったのは、この一件に関わることになった当初、エクリプスの刺客を確認したのがこの町だからだ。
エクリプスがここを襲って来ないとも限らない。向こうの目的を考えればわざわざこちらに戦力を割くとは考えにくいが、物事に絶対はない。
もし何も起こらなければ、ただ鬼柳が待ちぼうけを喰らったという笑い話で終わる。
それならそれで結構だ。
念のため住人全員に家から出ないように指示しておいたが、結果的にそれは正解だった。
「ば、馬鹿な……!」
「そればっかりだな、お前ら……いい加減力の差ってのを思い知ったらどうだ!」
遊星からの連絡が入ってすぐに、あのタルフと似た装束を纏うデュエリストが次々と襲ってきたのである。
幸い実力の方はタルフほどではない、というかはっきり言ってかつてこの町でクダを巻いていたゴロツキと大差がなく、襲撃開始からいくらもたたず鬼柳の前に全滅していた。
ダメージの実体化の影響で全員が昏倒しているが、ざっと数えてみても20人は軽く超えている。
(すげえ人数だな……よっぽどオレを向こうに行かせたくないらしい。まあ、元から向こうは遊星たち頼みだが)
相手方の反応などから、鬼柳は《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》がカギだと見ていた。
彼らはこのカード「
だから、現状唯一、決闘竜を持つ鬼柳をマークしているのだろう。
(ひとまず襲ってきた連中は全員片づけたが……これで終わりか、それとも本命の一撃が来るか……)
「ん?」
別の気配を感じて振り向いた先、ダイン鉱山に通じる道を歩いてくる人影があった。
服装はシンプルな黒ずくめで、存在の違和感を覚えないことからしてもエクリプスではなさそうだった。
見た感じでは、まだ学生に思える。
それ以前に、
「……少なくともここの人間じゃねえな。何者だ?」
今でもなかなか治安が安定しないサティスファクションタウンに、真夜中に出て来る時点で常人ではないのは明白であった。
「何者でもない。少なくともお前の味方ではないな」
「要するに、お前もエクリプスの刺客ってわけか」
「一緒にするな」
この状況でわざわざ敵対を明言するならエクリプスだろう、と考えた鬼柳だったが、予想に反して少年はその指摘を真っ向否定した。
鋭い目線の奥には嫌悪感が強い。
「オレにとってはエクリプスも敵だ。もっとも今用があるのはお前だ、鬼柳京介」
「何?」
「失われた闇の力……たとえ残滓であろうが、オレにとっては必要なものだからな。受けてもらうぞ、オレのデュエルを」
言いつつ展開されるデュエルディスク。
風貌とは裏腹に白と青でカラーリングされたそれが、街灯(最近設置した)を反射して煌く。
「闇の力だと……狙いは地縛神か!?」
「見当違いだ。そもそも貴様の手にないのはわかっている。……始めるぞ」
「話す気はねえ、か……! こんな時に別口の敵とは!」
「「デュエル!!」」
???:LP4000
鬼柳:LP4000
「先攻はオレだな。……ああ、そうか。ドロー」
???:手札5→6
「オレはモンスターをセットし、ターンエンド」
???:6→5
「オレのターン、ドロー!」
鬼柳:手札5→6
手札を見た鬼柳の表情が曇る。
あまり良くない手だ。デュエリストを続けていると、何回かは必ず、こういう偏った手札になってしまう。
(……考えてみりゃ、ダークシグナーの時は毎回手札事故起こしてたな……幸い動けなくはねえ)
「オレは《インフェルニティ・ナイト》を攻撃表示で召喚!」
現れるのは、剣を持った黒い鎧の兵士。
「バトル! 《インフェルニティ・ナイト》で守備モンスターを攻撃!」
踏み込みから一撃、剣の一振りが少年の守備モンスターを切り裂く。
破壊されたことで墓地へと吹き飛ぶその姿は、恐ろしい顔のトマトの怪物。
「《キラー・トマト》の効果発動。このカードがバトルで破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下の闇属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。現れろ、《二角獣レーム》」
それと入れ替わりに、大きな二本の角を持つ獣が駆けこんできた。
「モンスターが残ったか……オレはカードを1枚伏せてターンエンド!」
鬼柳:手札5→4
「オレのターン」
???:手札5→6
「手札からチューナーモンスター、《ダーク・スプロケッター》を召喚」
さらに、自転車のチェーンが丸まったような姿のチューナーモンスターが少年の場に現れる。
「ありゃジャックも使ってたカード……チューナーを呼んだってことは、シンクロか!」
「オレはレベル4の獣族である《二角獣レーム》に、レベル1の闇属性である《ダーク・スプロケッター》をチューニング!」
「闇と闇重なりし時、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ!」
「シンクロ召喚! いでよ、《氷結のフィッツジェラルド》!!」
光の環と星が織りなす、見慣れたシンクロ召喚の光景。
そこから現れたのは、氷の剣とでも言うべき姿をした、既にいないはずのモンスターだった。
「!? こいつは……!」
「シンクロ素材として墓地に送られた《二角獣レーム》のモンスター効果発動。相手のデッキの上から2枚のカードを墓地へ送る。そしてバトル! 《氷結のフィッツジェラルド》で《インフェルニティ・ナイト》を攻撃。ブリザード・ストライク!」
全身から放たれる氷のつぶてが吹雪となり、《インフェルニティ・ナイト》を打ち据える。
鬼柳:LP4000→2900
「くっ……だが、《インフェルニティ・ナイト》の効果発動! 手札を2枚捨てることで、墓地から復活する!」
鬼柳:手札4→2
「オレはカードを1枚セット。これでターンエンドだ」
「このターン終了時、トラップ発動! 《インフェルニティ・インフェルノ》により、手札を2枚捨てることでデッキからインフェルニティを2枚墓地に送る!」
???:手札5→4
鬼柳:手札0
「オレのターン、ドロー!」
鬼柳:手札0→1
ドローカードを確認する鬼柳の目が、鋭くすがめられる。
(《インフェルニティ・デーモン》を引ければ一気に攻め込めたんだが……そう上手くは行かねえか。それにしても)
その視線が向かった先は、相手の場に浮かぶ《氷結のフィッツジェラルド》。
あのモンスターは、鬼柳も一度だけ見たことがある。
(確かありゃ、ルドガーが持ってたダークシンクロモンスターだったはず……何で普通のシンクロになってる? そもそもなぜ存在して……待てよ)
目の前の少年は、デュエルの前に何と言った?
(失われた闇の力の残滓……? まさかこいつ、ダークシグナーだった連中に喧嘩売って回ってんじゃねえだろうな……)
「オレは《インフェルニティ・ネクロマンサー》を召喚! モンスター効果が発動し、守備表示になる。さらに効果発動! 手札が0枚の時、墓地のインフェルニティを特殊召喚する! チューナーモンスター《インフェルニティ・セイジ》を特殊召喚!」
呼び出されたのは呪術師、ついでその力により扇を持った煉獄の軍師が蘇る。
「レームの効果で墓地に送ったカードか」
「ありがたく使わせてもらうぜ。レベル3の《インフェルニティ・ナイト》と《インフェルニティ・ネクロマンサー》に、レベル2の《インフェルニティ・セイジ》をチューニング! 死者と生者、ゼロにて交わりし時―――永劫の檻より魔の竜は放たれる! シンクロ召喚!」
「死神の真の力、拝ませてやる! いでよ、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》!!」
そして3体のモンスターがチューニングされ、舞い降りるのは煉獄の名を持つ鬼柳のエースモンスター。
ぎょろぎょろと動く4つの目線が揃い、《氷結のフィッツジェラルド》を睨む。
「この瞬間、墓地に送られた《インフェルニティ・セイジ》の効果を発動! デッキからインフェルニティと名のつくカードを墓地に送る。オレは《インフェルニティ・パラノイア》を墓地に送る」
「………………」
「さらに手札が0枚の時、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の効果発動! このターン、このモンスターの攻撃を放棄することで、相手モンスターを破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!」
「!」
「地獄の竜の息吹を浴びるがいい! インフェルニティ・デス・ブレス!!」
放たれた火炎弾が氷の剣を粉砕し、水蒸気爆発が少年のライフを削る。
???:LP4000→2750
「……《氷結のフィッツジェラルド》は効果によって破壊された場合、自己再生は出来ない」
「やっぱりその効果はあったか。これでライフポイントは互角だ。ターンエンド!」
「だが、オレはここでトラップを発動する。《ダイスエット》により、ダイスの出目の数だけデッキの上から墓地に送る。ただし6が出た場合、その後で自分の墓地のカードを1枚除外する」
ソリッドビジョンにより、1から6までの数字が並んだルーレットが現れるが、少年はそれを完全に無視してどこからか取り出したサイコロを、地面に放り投げる。
思った以上に転がり、鬼柳の足元で止まった。
「……出目は5だな」
「ならば、オレは5枚のカードを墓地に送る。そしてオレのターンだ」
???:手札4→5
「《ダーク・バグ》を召喚し、効果発動。墓地からレベル3のチューナーである《ダーク・リゾネーター》を特殊召喚」
「何!?」
立方体で出来た胴体を持つ虫が、墓地から音叉を持った悪魔を呼び出す。
それは、鬼柳にとってはなじみ深いモンスターだった。
「そいつはジャックのカード……! 何でてめえが持ってる!?」
「大して珍しいカードでもあるまい」
「そ、そりゃそうだが……」
確かに《ダーク・リゾネーター》自体はジャックの使用カードということで知名度こそ高いが、元は遊星のデッキ同様サテライトに投棄されていたカードの1枚だ。
ワンオフでもレアカードでもない、普通のカードである以上、他の誰かが使っていてもおかしくないのだが、情けないことに鬼柳はこうして目の前にするまで、その可能性に全く思い至らなかった。
(考えてみると意外といねえんだよな、シンクロ使い……)
元チーム・サティスファクションの面々は当然のようにシンクロ召喚を連打するが、遊星はメインデッキ側の攻撃力不足を補うため、ジャックは戦術そのものが《レッド・デーモンズ・ドラゴン》を前提にしているため、クロウと涼は色々な状況に対応するためと、それぞれ理由がある。
逆に言うとそうでないデュエリストは、そこまでシンクロ召喚を重視していない。
以前この町で戦ったロットンもその一人だ。
「続けるぞ。オレはレベル1の昆虫族である《ダーク・バグ》に、レベル3の闇属性である《ダーク・リゾネーター》をチューニング。闇と闇重なりし時、冥府の瞳は開かれる。光なき世界へ!」
「シンクロ召喚! いでよ《漆黒のズムウォルト》!」
そうしている内に、謎の少年の場に捻じれた杖を持つ魔術師のようなモンスターが出現している。
あれもまた、鬼柳の記憶が正しければ、ダークシンクロモンスターだったはずだ。
「バトルフェイズに入る。《漆黒のズムウォルト》で、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》に攻撃! ダーク・ドラッグ・ダウン!」
「攻撃力が低いモンスターで攻撃だと!? ってことは当然何かがあるってことだが……」
「防御手段がないのなら効果処理に入る。ズムウォルトは、自分よりも攻撃力の高いモンスターに攻撃する時、ダメージステップの間のみ、相手モンスターの攻撃力を自分と同じにする。つまり、強制的に相打ちにする効果だ」
そして当然、ただの相打ちではない。
ズムウォルトの放った闇の波動が、煉獄の炎を突き破って地獄の竜を襲う。
「ズムウォルトは戦闘では破壊されない。これで、破壊されるのは貴様のモンスターだけだ。そして効果を発動。バトルでモンスターを破壊した時、相手のデッキの上からカードを3枚墓地に送る」
「くそっ、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》が1ターン持たねえとは……!」
「呼び出したモンスターは、次のターンにはフィールドにはいない。制圧されて負けるか、制圧して勝つか。そして、1度ターンを手放せば勝利はない。それがデュエルというものだろう?」
「どこの魔境の話だよそりゃ!?」
閑話休題。
「……喋り過ぎたな。さて、もう少し付き合ってもらおう。オレはカードを2枚伏せてターンエンド」
「だが、オレの墓地の魔法カード、《舞い戻った死神》の効果が発動してるぜ! こいつが墓地にあり、オレの場のインフェルニティが破壊された時、このカードを伏せることができる!」
???:手札2
「オレのターン、ドロー!」
鬼柳:手札0→1
「! よし、オレは永続魔法《インフェルニティガン》を発動! そして手札が0枚の時、このカードを墓地に送って効果を発動できる! 墓地のインフェルニティ、《インフェルニティ・セイジ》と《インフェルニティ・ビショップ》を特殊召喚する!」
「………………」
「そして、レベル4の《インフェルニティ・ビショップ》に、レベル2の《インフェルニティ・セイジ》をチューニング! ゼロより生まれし煉獄の悪魔よ、この世の虚無を喰らいつくせ!」
「シンクロ召喚! いでよ、《インフェルニティ・ヘル・デーモン》!」
姿を見せたのは鬼柳の新たなシンクロモンスター。
《インフェルニティ・デーモン》のシルエットがさらに大きく豪奢に変化し、膨れ上がる魔力を迸らせて降り立つ。
「墓地に送られた《インフェルニティ・セイジ》の効果で、《インフェルニティ・デーモン》を墓地へ送る。そしてヘル・デーモンの効果発動! 1ターンに1度、相手フィールドの表側のカード1枚の効果を無効にする! 対象は当然《漆黒のズムウォルト》だ!」
魔法陣が浮かび、《漆黒のズムウォルト》を拘束する。
そのまま赤い電撃が走り、爆砕した。
「さらにオレの手札が0枚であれば、効果を無効にしたモンスターを破壊できる!」
「………………」
「何か言えよ……。オレは伏せている魔法カード《舞い戻った死神》を発動! 手札・墓地・除外のいずれかから、インフェルニティを特殊召喚する。オレは《インフェルニティ・デス・ドラゴン》を選ぶ!」
そして、吹き上がった炎の中から再び地獄の竜が飛翔して来る。
「専用の蘇生カードか?」
「そうだ。そしてこのカードは、インフェルニティが破壊されるたびに墓地から舞い戻り、オレのターンで再びインフェルニティを呼び戻す。死神は死なねえってことだ」
「なるほど……除外デメリットも特にない、か」
モンスターを失い、鬼柳のもとにはシンクロモンスターが2体。
絶体絶命のこの状況でなおも余裕を崩さない少年に、鬼柳はいい加減不気味さを感じていた。
(こいつ、本当に一体何者だ? 攻撃が通れば決着がつくってのに……間違いなくあの伏せカードに何かがあるんだろうが、それだけか?)
感情が読めない。
圧倒的な有利にも拘らず、むしろ自分が追い詰められているような感覚を覚えている。
だが、鬼柳はつとめてそれを無視する。動揺してしまえばそこまでだ。
(だがなんにせよ、まずはぶつかってからの話だ!)
「バトル! 《インフェルニティ・デス・ドラゴン》でダイレクトアタックだ! デス・ファイア・ブラスト!!」
「それを喰らうわけには行かん。トラップカード《リジェクト・リボーン》を発動! 墓地のシンクロモンスターとチューナーモンスターを、それぞれ1体ずつ特殊召喚する。甦れ、《氷結のフィッツジェラルド》! チューナーモンスター《ダーク・リゾネーター》!」
迫る炎の息吹の前に、氷の剣と音叉を持つ悪魔が立ちふさがり、さらに生じた光の壁が攻撃を跳ね返し、無力化した。
「その後、バトルフェイズを強制終了する。ただし、この効果で復活したモンスターは効果が無効化される」
「届かねえか……オレはこれでターンエンド!」
鬼柳:手札0
「ハンドレスコンボか。大したものだが、果たしてどこまでしのげるか。オレのターンだ」
???:手札2→3
「……もう少しか。《氷結のフィッツジェラルド》を攻撃表示に変更。さらにオレは、《ダーク・スパイダー》を通常召喚する」
???:手札3→2
「《ダーク・スパイダー》の効果発動。このカードは1ターンに1度、自分の場の昆虫族モンスターのレベルを、ターンが終わるまでの間2つ上げることができる。《ダーク・スパイダー》のレベルを2つ上げ、3とする」
「レベルを変えたか。合計レベル6……」
「レベル3となった《ダーク・スパイダー》に、レベル3の《ダーク・リゾネーター》をチューニング! 闇と闇、重なりし時、冥府の扉は開かれる。光なき世界へ!」
「シンクロ召喚! いでよ、《地底のアラクネー》!!」
3度目のシンクロ召喚、現れたのはクモの下半身を持つ女性型の怪物。
これも、鬼柳はダークシグナーだった頃に見た覚えがある。
「そいつもルドガーのカードだったはず……ダークシンクロじゃなくなってるのは他と同じか。……どうやって手に入れた?」
「カードというのは、存外ひょんなことから手に入るものでな。要するに答えるつもりはない。……一つだけ言うなら、こいつらは余禄だ」
「余禄だと?」
言葉を濁す少年だが、余禄と言うことはつまり、本来の目的が別にあり、その過程で手に入ったのがこれら、ダークシンクロだったモンスターたちということになる。
しかし、その目的を明かすつもりはないようだった。
「《地底のアラクネー》の効果発動! 相手フィールドの表側のモンスター1体をこのカードに装備する。対象は《インフェルニティ・デス・ドラゴン》! トワイナー・スレッド!」
「させるか! 手札がない時、墓地の《インフェルニティ・ルーク》を除外し、インフェルニティを対象とする効果の発動を無効にする!」
《地底のアラクネー》の下半身のクモ部分から糸が吐き出されるが、地面から飛び出した黒い盾を持つ兵士がそれを受け止め、虚空に消えていった。
「いつの間にそんなカードを墓地に……」
「《インフェルニティ・ナイト》の自己再生コストだ。さあ、どうする!」
「ターンを回せば《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の効果でオレは終わり……ならばこれに賭けよう。魔法カード《同調の宝札》を発動。場のシンクロモンスターの数だけドローできる。ただしこのターン、相手はダメージを受けない」
???:手札2→5
「バトルフェイズに入るが、攻撃は行わずメインフェイズ2へ。この開始時にリバースカード、《メタバース》によりデッキからフィールド魔法《半魔導帯域》を発動。……カードを1枚セットし、ターンを終了する」
「どうやらいいカードは引けなかったらしいな。オレのターン!」
鬼柳:手札0→1
「カードをセット! そして、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の効果発動! 《地底のアラクネー》を破壊し、その攻撃力の半分のダメージを与える!」
「無駄だ!」
フィールドを《スピード・ワールド》発動時のような波紋が駆け抜け、場に座す4体のモンスターが何かの力場を纏う。
次の瞬間、炎の息吹がその力場に弾かれてあらぬ方向に飛んで行った。
「何だ!?」
「《半魔導帯域》がある限り、メインフェイズ1の間、お互いのモンスターは、それぞれのプレイヤーから見た相手の効果の対象にならず、また破壊もされない。つまり、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の効果は対象にとれるモンスターがないことで、発動されなかった」
「……ってことは、《インフェルニティ・ヘル・デーモン》の効果も効かねえのか!」
「表側のカードは公開情報だ。テキストを確認するべきだったな」
全く持ってもっともな指摘だが、ディスクを用いたデュエルでは基本的に相手のカードテキストの確認はソリッドビジョン頼みになる。
発動された時にしっかり表示されていたのを鬼柳が見逃していたのだが、数秒であのテキストを読み取れというのは無理だろう。
(涼だったら普通にやるだろうけどよ……。ヘル・デーモンでフィールド魔法を無効にするか? いや、あのカードの耐性付与はメインフェイズ1でしか働かねえ、つまりバトルすればそれ以降は通じる……)
「……オレは墓地の魔法カード《インフェルニティ・パラノイア》を除外し、効果発動! 1ターン以上墓地に留まったこのカードを除外することで、墓地のインフェルニティ1体を手札に戻す。オレは《インフェルニティ・セイジ》を戻す」
鬼柳:手札0→1
オーガ・ドラグーンと共にいつの間にかデッキに投入されていた未知のインフェルニティの1枚。
だが、使ってみるとこのカード、思いのほか役に立つ。シンクロ召喚に使いやすいのはもちろんだが、手札0の状態ならばインフェルニティを墓地に送り込むエンジンとなる。
「そのまま通常召喚し、レベル6の《インフェルニティ・ヘル・デーモン》にチューニング! 地獄と天国の狭間、煉獄よりその姿を現せ!」
「シンクロ召喚! 《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》!!」
赤銅の体躯を曇天の夜空に躍らせ、決闘竜が舞い降りる。
さらなる満足を操り手にもたらすために。
「《インフェルニティ・セイジ》の効果により、デッキから《インフェルニティ・パラノイア》を墓地に送る。さらにヘル・デーモンを素材としたシンクロモンスターは、モンスターに対してのみ2回攻撃できる!」
「デス・ドラゴンの効果は発動自体されなかった以上、そいつも攻撃できる……」
「バトルだ! オーガ・ドラグーンで《地底のアラクネー》を攻撃!
先陣を切る煉獄の炎が、熱線となって闇のくびきを外れた《地底のアラクネー》を襲う。
「ぬうっ……オレは墓地の《シールド・ウォリアー》を除外し、戦闘による破壊を免れる!」
「だがオーガ・ドラグーンは2回攻撃を得ている! もう一発喰らいやがれ!」
一撃は耐えきった《地底のアラクネー》だが、間髪入れずに放たれた第二射には防御が間に合わず、全身を焼き尽くされて砕け散った。
???:LP2750→1550
「さらに《インフェルニティ・デス・ドラゴン》でフィッツジェラルドを攻撃! デス・ファイア・ブラスト!!」
螺旋を描く炎が飛来し、フィッツジェラルドの氷の壁を突き破り爆砕する。
しかし、破片が集まりすぐさま元の姿を取り戻した。
???:LP1550→1050 手札5→4
「手札1枚をコストに、フィッツジェラルドは自己再生する」
「やはり戦闘での突破は無理か……! オレはターンエンド!」
「では、オレのターンだ」
???:手札4→5
「……やっとか。随分かかったな」
「何を言ってやがる……?」
明らかに鬼柳ではない誰かに呟く少年に、怪訝な顔をしたのもつかの間。
少年の場に、新たなモンスターが出現した。
「魔法カード《終幕の悪魔》を発動。フィールド魔法を除外することで、デッキから悪魔族1体の効果を無効にして特殊召喚する。これによりチューナーモンスター、《幻影王 ハイド・ライド》を召喚」
「またシンクロする気か! ……? 合計レベル、8……?」
鬼柳の脳裏を嫌な予感がよぎる。
フィッツジェラルドのレベルは5。馬を駆る悪魔の騎士のレベルは3。
ここまで少年が呼び出した3体のシンクロモンスターはいずれも、元はダークシンクロだったカード。
今戦っている自分、鬼柳京介もかつてはダークシグナーだった。
―――あの時主力にしていたモンスターは何だった?
「……お前、まさか!?」
「悪魔族であるレベル5のフィッツジェラルドに、レベル3のハイド・ライドをチューニング!」
「漆黒のトバリ降りし時、冥府の瞳は開かれる。舞い降りろ、闇よ! シンクロ召喚! 」
チューニングの光が闇に塗り潰され、その中に開いて輝く目、目、目。
「さあ、こいつで血の海を渡ってもらおうか! いでよ、《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》!!」
闇の帳を突き破って現れたのは、鬼柳自身がかつて従えていたダークシンクロモンスター。
百の眼を持つ異形のドラゴンが、フィールドに舞い上がった。
二度と見ることはないと思っていたその姿に、さすがの鬼柳京介が愕然となった。
「ば、馬鹿な……! 何だってこいつが!?」
「最初に言っただろう、闇の力の残滓だと。貴様と戦ったことでその力がオレのカードに宿り、こうして我がしもべとなった。感謝するぞ、鬼柳京介」
「ぐ……だが、てめえのデッキでそいつの能力を引き出せるのかよ」
鬼柳が覚えている限り、このカードの能力は墓地の闇属性モンスター全ての効果を得るもの。
だが少年が使ったカードで、闇属性の強力なカードはほとんどない。
場に出てきたカードに限れば、だが。
「オレは《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》の効果を発動。1ターンに1度、墓地からレベル6以下の闇属性モンスターを1体除外し、このターンのエンドフェイズが来るまでその名前と効果をコピーする」
「なに?」
それ以前に、《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》の効果自体が大きく弱体化していた。
ダークシンクロの時とは異なりコピーできるのは1体だけ、さらに除外コストとターン終了までの時間制限付き。
面影こそ残してはいるが、内実はほぼ別物と化していた。
ただし、
「除外するのは《ダイスエット》で墓地に送られた《折々の紙神》。このモンスターの効果をコピーする」
コピーするモンスターを選べば、それは依然として脅威である。
「このモンスターの効果は、裏が出るまでコイントスを行い、表が出た回数2回につき1枚ドローする」
「ここに来てギャンブルだと?」
ソリッドビジョンのコインが現れる。
よく見ると少年の手元に100円玉があり、それと連動しているようだ。
「では行くぞ。……………5回目で裏だ。表は4回、よって2枚ドローする」
???:5→4→6
「手札を増強したか。だが、攻撃力は今のところ並んでるぜ」
「いや、こちらが圧倒的に上だ。《折々の紙神》にはもう一つ効果がある。それは、オレがコイントスを行った場合、その処理後に発動し、トリガーとなったコイントスで表が出た回数だけ攻撃力を倍にする。ちなみに本来は永続だがな」
「……………は?」
説明された内容を一瞬理解できずフリーズした鬼柳だが、数秒ほど置いてから「はああああああ!?」と素っ頓狂な悲鳴を上げていた。
今のコイントスで表が出た回数は4回。単に4倍になる、という話ではない。
「表が出た数だけ倍にするってことは……何だ、2倍になる処理を4回行うから……」
「3000×16。攻撃力48000だ」
「何だそりゃあ!?」
デュエリストを12人は倒せる圧倒的な攻撃力である。
「バトルだ。《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》で、オーガ・ドラグーンに攻撃! インフィニティ・サイト・ストリーム!」
「んなもん喰らってたまるか!? 《重力解除》を発動!」
危うくモンスターごと消し飛ばされるところで、フィールドの重力が一瞬だけ消失し、体勢を維持するために3体のドラゴンたちは身を固めてバランスを取る。
これで攻撃は阻止された。ひとまずは。
「そう来たか……オレは魔法カード《催眠術》を発動。次のターン、お前はモンスターの表示形式の変更が出来ない。カードを3枚伏せてターンエンドだ。コピーした効果がなくなり、《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》の攻撃力は元に戻る」
???:手札6→2
「地味に厄介な……オレのターン!」
鬼柳:手札0→1
攻撃力3000の《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》だが、今は守備表示。攻撃するなら今なのだが、《催眠術》のおかげで2体のドラゴンを攻撃表示にすることはできない。
「オレはカードを伏せる! そして、《インフェルニティ・デス・ドラゴン》の効果発動!」
「それを喰らえばオレのライフはゼロだな。速攻魔法《禁じられた聖杯》をオープン!」
「……いいだろう、そいつは通しだ」
何度目かとなる破壊を放とうとした《インフェルニティ・デス・ドラゴン》だが、突然口の中に投げ込まれた酒によって酩酊し、失敗してしまった。
オーガ・ドラグーンで無効にすることもできたが、もっと厄介なカードがあると踏んだ鬼柳はこれをスルーした。
「さらに、墓地の《インフェルニティ・パラノイア》を除外し、墓地の《インフェルニティ・デストロイヤー》を手札に加える! 《インフェルニティ・デス・ドラゴン》をリリースし、アドバンス召喚!」
「強引に来たな……」
「何としてもそいつを倒さないと次のターンで終わるんでな。バトルだ、《インフェルニティ・デストロイヤー》で《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》を攻撃!」
巨大な両腕と陣羽織のような鎧をつけた悪魔が現れ、その拳を固めて百眼の魔竜に殴りかかる。
「トラップカード《炸裂装甲》! 攻撃モンスターを破壊する!」
「それはさせねえ! オーガ・ドラグーンの効果により、トラップの発動を無効にする!」
「だがそれは見えている! トラップカード《ダメージ・シールド》を発動し、このターンのダメージを無効にさせてもらおう」
巻き起こった爆発をオーガ・ドラグーンがかき消し、突撃する《インフェルニティ・デストロイヤー》の鉄拳が《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》を殴り倒した。
百の眼全てを回したドラゴンはそのまま転倒して消滅したが、鬼柳は少年の行動を訝しむ。
そしてその真意は、当の本人から教えられた。
「トラップの順番を逆にすればワンハンドレッドアイを残せたはず、と思っているな?」
「!」
「一つは、《ダメージ・シールド》を先に使っても貴様はスルーしてくると読んだからだ。そしてもう一つは、ワンハンドレッドアイの効果を発動するためだ」
「……確か、破壊された時にカードを1枚手札に加える効果だったな」
当然鬼柳はその効果を覚えている。遊星との二度のライディングデュエルでは、地縛神をサーチし反撃に繋げたが、ダークシンクロモンスターのあのカードは、手札に加えるカードに制限はなかった。
「このモンスターは闇の力から生み出したものだが、残滓を練り上げた都合上肝心の闇の力は備わっていない。ゆえに、サーチできるカードは1種類だ」
「種類? ってことはカード名を参照して持ってくるタイプか」
そうだ、とうなずく少年。
だが、続いた宣言に鬼柳は今度こそ凍り付くことになった。
「《ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン》の強制効果発動。このカードが破壊によって墓地に送られた時、デッキから地縛神と名のつくモンスターを手札に加える」
「!?」
「サーチ対象がなくとも、これは強制効果。問答無用で発動せねばならんが……」
少年のデッキから1枚のカードが顔を出し、それを抜き出して手札に加える。
「オレのデッキには地縛神がいる。よってこのカード、《地縛神 Amaru》を手札に」
???:手札2→3
「オレの知らない地縛神だと……!? お前、本当に一体何者だ!?」
「答える理由がない。で、攻撃は終わりか?」
「くっ……ターンエンド!」
鬼柳:手札0
まずいことになった、と鬼柳は内心かなり焦っていた。
目の前の少年は少なくともダークシグナーではないようだが、なぜか地縛神をその手に収めている。
単純なカードとしての性能以上に、召喚されればこの町の人々の魂が吸い取られてしまう。
だが、今は手がない。
(ハンドレスコンボを始動するのが早過ぎたか……! だが、奴には地縛神を召喚するためのリリースがいない。あと1ターン、何としても稼げば……)
「皮算用は命取りだ。ドロー!」
???:手札3→4
「目当てのシンクロモンスターも手に入ったことだ、この戦いを終わらせるとしようか。まずはトラップ発動! 《シンクロ・イジェクション》により《インフェルニティ・デス・ドラゴン》を除外し、貴様は1枚ドローする!」
「チィッ……! オーガ・ドラグーンの効果で、そいつは無効だ!」
発動された罠カードをオーガ・ドラグーンの尾が貫き、無効化する。
しかしこれで、相手の行動を牽制する術がなくなってしまった。
「これでいい。では行くぞ。フィールド魔法《地縛地上絵》を発動。そして魔法カード《埋葬されし生け贄》を発動。このカードは、このターンの特殊召喚を放棄する代わり、互いの墓地のモンスター1体ずつを除外することで、最上級モンスターのアドバンス召喚を行う!」
「!!」
「オレは、オレの墓地の《氷結のフィッツジェラルド》と、貴様の墓地の《インフェルニティ・ヘル・デーモン》を除外し、アドバンス召喚!」
思わず周囲を見回す鬼柳だが、炎の地上絵はなく、頭上に出現した心臓型のオブジェクトも不気味に浮遊するのみで、人々の魂を吸い寄せる気配はない。
だがその代わりに、オブジェクト自体の中から不気味な紫の光が、徐々に強まりながら放出されている。
「何だ……何が起きてる!?」
「人々の魂を生贄に……だったか? そんな効率の悪いものはいらん。貴様には聞こえないか? 空に、大地に、海に溶け込んだ、ゼロ・リバースに巻き込まれた人々の無念の声が」
「!?」
心臓の像に、無数の光が吸い込まれていく。
しかしそれは周囲の家からではなく、空から、地面から、湧き出すように浮かび上がっている。
「人々の無念を生け贄に、降臨せよ! 我が神、《地縛神 Amaru》!!」
地上に落ちた光が地響きを立て、そこから巨体が起き上がる。
闇が凝ったような黒い肉体と、その表面を走る銀色の光。
天を衝くようなという形容そのままの、蛇の地縛神。
久方ぶりに見た、今となっては忌々しいことこの上ない光景を前に、鬼柳は戦慄せざるを得ない。
「じ、地縛神……!」
「わかっていると思うが、地縛神はダイレクトアタックが出来る。そしてAmaruの攻撃力は3000! これで終いだ、バトルフェイズ!」
「……!」
「《地縛神 Amaru》よ、奴にダイレクトアタ……む!?」
が、攻撃命令を下そうとした少年が何かに気づいた。
Amaruが鬼柳ではなく、ネオ童美野シティ……旧サテライトの方を見ている。
鬼柳もそちらを向くが、さすがにここから町の様子をうかがうことはできない。
「……始まったか。帰る算段はついたな」
「どういう意味だ……!?」
「話すつもりはない。……どうやらここまでだな。オレはサレンダーを宣言する」
???:LP1050→0(サレンダー)
掲げられたカードに反応するように、《地縛神 Amaru》が唸りを上げながら地面に潜り消えていく。
ソリッドビジョンが消え、デュエルが終了したのを見計らい、踵を返した少年に鬼柳は叫ぶ。
「ま、待て! どこで地縛神を……」
「貴様の耳は飾りか? 話すつもりはないと言ったはずだ。ここには力を手に入れるために立ち寄ったに過ぎん」
「力って……ダークシンクロのことか?」
少年はそれ以上何も答えるつもりはない、とばかりに背を向け、後は一切振り向くことなく、シティに向けて歩き去っていった。
その姿が闇の中に消えてからしばらくして、不意に足から力が抜けた鬼柳はその場に倒れ込んだ。
「鬼柳さん!?」「鬼柳兄ちゃん!」
「……何だったんだ、あいつは……今になって地縛神だと……?」
騒ぎを聞いていてもたってもいられなくなったニコとウェストが飛び出して駆け寄ってきたが、鬼柳はそちらに意識を向ける余裕はなかった。
(エクリプスでもなかったみたいだが……本当に一体何しに来たんだ、あいつは……)