遊戯王5D's-The After   作:辛麺焼き

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第2話:動き出す歯車

「……もう朝か。少し時間をかけすぎたな……」

 

ラボを出た青年―――不動遊星は、いつの間にか水平線から顔を出していた太陽を眩しげに眺めて呟いた。

チーム5D'sが解散し、仲間たちがそれぞれの道を歩み出した、あのラストランから数年。遊星はこの街でモーメントの研究を続けていた。

 

もう一人の自分―――Z-ONEとの約束を果たすために。

彼ら「イリアステル」のいた本来の未来は、デュエルディスクやDホイールの動力である無限機関「モーメント」が、人の意志や感情に反応する遊星粒子が拾った負の感情で暴走し―――その原因と言うのがシンクロ召喚のメカニズムである―――、結果直結していたネットワークが「世界を保護するため人類を殲滅する」という結論に至り、人類が滅亡するという悲劇をたどった。

 

彼らイリアステルは、その歴史を変えるためにモーメントの中心といえるこの街を滅ぼそうとした。だが、そのリーダーであり、唯一の人間であったZ-ONEは遊星との戦いの中で、モーメントが消えても人の心が変わらなければ何の意味もないのだと理解し、遊星に未来を託して散っていった。

 

今、遊星が研究しているのは、暴走、つまりは逆回転を起こさないモーメントだ。

これがあれば問題ないという単純なレベルの話ではないが、人の心を変えるだけでなく、モーメント自体も改良しなければ良い結果には繋がらない。

制御用のメインフレーム「フォーチュン」は完成したものの、研究はそれで終わりではないのだ。

 

今のところ開発は軌道に乗っており、このままのペースなら、あと8年ほどあれば新型のモーメントが完成する。

技術発展の難しさを考えれば、これは恐るべきスピードだ。

実際に普及させるまでにはまだ時間がかかるし、安全面を考えればさらにかかる。まさに人生をかけた仕事だが、遊星はそれこそ己の未来をそこに捧げるつもりでいる。

 

ただ、以前からの癖でどうしても睡眠時間を削って徹夜する習慣があり、最近でも研究メンバーから「いい加減休んでください」と苦言を呈されている。わかってはいるのだが、どうも直らない。

このため、昨日になってとうとう市長のイェーガーが強権を発動し、無理矢理長期の有給休暇を取らされてしまった。

……溜まりに溜まった有給をいい加減消化するようあちこちからせっつかれ、それらを華麗にスルーして仕事に没頭していた遊星が悪いのだが。

 

「……朝日を見るとどうしても思い出すな」

 

WRGPに出場する少し前に転がり込んできた……というか、牛尾から保護を頼まれ、メカニックの腕に目を付けたジャックが拾ってきた青年・ブルーノ。

チームきってのメカニックであり、ムードメーカーであり、遊星にとっては同じ世界を共有した無二の友だった。

 

だが、彼の正体は敵だった。

イリアステル滅四星、戦律のアンチノミー。

 

全ての記憶を失ったまま、アーククレイドル出現のためのサーキット構築を目的に遊星たちのもとに送り込まれた存在。

演じるのではなく、記憶をなくすことで本物の「仲間」となり、サーキット構築のため遊星たちを強くするべく遣わされた存在。

 

アーククレイドルを止めるため、遊星は彼と戦った。

アクセルを超えたさらなるシンクロ、デルタアクセルシンクロを垣間見た。

 

そして、フィールドとなった空間に発生したブラックホールから遊星を脱出させるのと引き換えに、彼は光の向こうへ消え去った。

 

彼のおかげで、遊星はデルタを超えた究極のシンクロ、リミットオーバーアクセルシンクロへと至ることが出来た。Z-ONEを止めることが出来たのも、そのおかげだ。

多くの仲間達の協力があってこその勝利だった。しかし、その最後の一押しは、ブルーノが示した境地にあった。

 

彼のことを忘れたことなど、一度もない。

未来を託してくれたイリアステルのメンバーたち、それぞれの道へと旅立っていった仲間達のためにも、この街をよりよく発展させなければならない。

 

(だが、気になることもある……ここしばらく、夜に出歩いているデュエリストが何者かに襲撃されているというが……)

 

遊星自身はここ最近ラボに泊まり込んで作業をしていたため、町で何が起きているのかはニュースと伝聞でしかしらない。

それでも、何か歓迎されざる事態が起きているのは理解していた。

 

(とにかく、用心しなければ)

 

 

―――そんなことを考えていた遊星は、その時見たものを一瞬理解できなかった。

 

 

「……デュエルレーン? こんな時間からライディングデュエルが始まっているのか?」

 

Dホイール「遊星号」の駐車スペースに入ると、窓から見えるハイウェイの向こう側にレーンが展開されていた。

ライディングデュエルが街中で始まると、一般人が巻き込まれないように専用レーンが構築されるよう、ダイダロスブリッジの再建時に設計されているのだ。

あれが展開されているということは、誰かがライディングデュエルを始めているということだ。

帰り道と重なっているし、明日から休暇だ。帰りがてら見物していくかとホイールを走らせ、レーンに横付けした遊星は、

 

「な、何だアレは!?」

 

いつの間にか濃霧に覆われていたレーンを走ってくる、骨だけの馬に乗った骨だけの騎士の姿を見た。

ソリッドビジョンのモンスターや魔法カードが一瞬見えたが、あの怪物がライディングデュエルをしているというのか?

自分が見たものの意味がわからず混乱する遊星だったが、理解が追い付く前に後方から対戦相手が骸骨騎士を猛追して来た。

そして、

 

「―――――!!?」

 

その対戦相手の顔を見た遊星は、凍りついた。

あの顔、あのモンスター、何よりあの流線型をした後輪だけのDホイール。

―――間違いない。

 

自失は数秒、だがその間に二人のデュエリストはレーンの向こうに去ろうとしていた。

我に返った遊星は、あわててDホイールのアクセルを全開まで踏み込んだ。

 

「ブルーノ!! お前なのか!?」

 

叫んだ声は、エンジンの音にかき消されて届かない。それでも、遊星は呼ばずにはいられなかった。

ブラックホールに消えたはずの仲間が、友が、そこにいる。

 

「待ってくれ、ブルーノ! ブルーノ!!」

 

冷静に考えれば、ライディングデュエルの最中に止まれるはずもないのだが、そんな基本的なことすら忘れるほど遊星は動揺していた。

デルタイーグルの加速力は尋常ではなく、最高速の遊星号を置き去りにして霧の向こうへ遠ざかっていく。

 

「ブルーノォォオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 

(……今のは……?)

 

懐かしい声が聞こえたような気がして、ブルーノはわずかに後ろを振り返った。

だが、霧に阻まれたそこには何も映らない。

 

「どうした……? ドローしないのか?」

「……!」

 

今は周囲のことを気にしている場合ではない。目の前の敵から目をそらして勝てるほど、デュエルは甘いものではない。

この状況、劣勢というにも余りある大ピンチだ。

ブルーノの場には既にブレード・ガンナーが戻ってきている。だが次のスタンバイフェイズ、ドラゴキュートスの効果によってブルーノは効果ダメージを受け、ライフが尽きる。

 

逆転勝利のためには、攻撃を無効にする《劫火のヴェール》と、効果耐性を付与する《幽鬼の氷塊》を掻い潜り、戦闘破壊耐性を持つ攻撃力4000の《冥界濁龍 ドラゴキュートス》を超えて、骸骨騎士の残りライフポイント2900を削り切らなければならない。

だが、ブレード・ガンナーだけではそれは不可能。しかも、ターンを回した場合、攻撃を無効化するカードがあったとしても《幽鬼の氷塊》で弾かれてしまう。

 

つまり、このターンで勝利しなければブルーノに可能性はない。

 

(だが……どうする!? この手札とブレード・ガンナーだけで、どうすれば!?)

 

カードを引くしかない。

なのに、デッキにかけた手が、動かない。ここに来て不調か―――違う。

 

(……僕は怯えているのか……!? この、最後のカードを引くことに……!)

 

行く手に立ち込める霧が、まるで底なしの地獄への入り口のように思える。

遊星を送り出してブラックホールに飲まれた時にも感じなかった、これは恐怖だ。

 

―――ふと。

 

(……!)

 

記憶の中を、よぎるものがあった。

そうだ、思い出せ。遊星は、Z-ONEは、どうしていた?

 

(そうだ……そうだった。遊星、君はどんな逆境に置かれても決して諦めなかった。己の力を、仲間との絆を信じ、全力を尽くして未来を切り開いてきた。

 そしてZ-ONE……君は深い絶望に心を飲まれてなお、未来を救うためにたった一人で戦い続けた。新しい可能性がある、あると信じる未来のために。

 それぞれのやり方で、君たちは己を信じて駆け抜けた。すべては信じる未来のために! ならば僕は、その君たちの仲間であり、同志であり、友だ! 君達が諦めなかったのに、僕がここで諦めるわけにはいかない!)

 

ぐっ、と手に力が戻る。

 

「―――ドロー!!」

 

デッキトップから引いた、一枚のカード。それを確認したブルーノの目が、大きく見開かれる。

 

(このカードは……!)

 

自分のデッキに入っているはずがない、しかし確かに今、手の中にある1枚のモンスターカード。

それを見たブルーノの記憶をよぎる、希望を託した友との最後の戦い。

 

突破不能の攻撃力4000。

しぶとく襲い掛かる流星のドラゴン。

跳ね返る余波、力の天秤―――。

 

(そうか! そういうことなのか……遊星! これが、僕が勝利を掴むための―――光さす道!)

「手札を1枚捨て、装備魔法《流星の残影(シューティング・ミラージュ)》を発動! これを、ブレード・ガンナーに装備する!」

 

《流星の残影》

装備魔法

手札を1枚捨て、自分フィールドのモンスター1体に装備できる。

①:1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分のデッキの上から5枚めくってデッキに戻す。

このターン、装備モンスター以外のモンスターは攻撃できず、装備モンスターはめくった中のチューナーの数まで攻撃できる。

②:相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。装備されているこのカードを墓地に送り、その攻撃を無効にする。

 

「さらに、今墓地に送られた《ネクロ・ディフェンダー》を除外し効果発動! 次のターンまで僕はダメージを受けず、モンスターの破壊も無効となる!」

「1ターンしのぐ当ては出来たか。だが、そんなことでは我は倒せんぞ!」

「誰がしのぐと言った! このターンで決めて見せる! 《バランス・シューター》を召喚!」

 

現れたのは、あの戦いで遊星が使った決め手のカード。

頭にビーム砲を装着した、機械のやじろべえのようなモンスターが出現する。

 

「そして、永続罠《エンデューロ・ソウル》! これを、ブレード・ガンナーを対象として発動する!」

「ぬ……そういうことか。《エンデューロ・ソウル》は装備モンスターを戦闘による破壊から守るが、そのモンスターが戦闘を行った場合、強制的に発動する効果により攻撃力が800ダウンする……」

「そして《バランス・シューター》は、攻撃力変化を伴う効果の発動を無効にし、相手に800のダメージを与える!」

 

つまり、これによりブレード・ガンナーが自爆特攻すれば、2枚のカードのコンボにより骸骨騎士に800のダメージが入ることになる。

だがそれには、一つ条件があった。

 

「そして、その装備魔法による連続攻撃でダメージを稼ぐつもりか……だが、我のライフは2900ポイント。必要な攻撃は4回……そして《劫火のヴェール》により、1度攻撃は無効化される。つまり、貴様はその装備魔法の効果で5枚のチューナーを引き当てねば勝利できぬ! ここまで食い下がったのは見事だが、まだ奇跡を起こせるというのか?」

「違う」

 

奇妙なほど静かに、ブルーノは言った。

なぜか、彼には確信があった。

 

「む?」

「僕は勝利する。奇跡でも、偶然でもなく、ただ当たり前の結果として! なぜなら今の僕は……一人ではないからだ!」

 

その時、骸骨騎士は確かに見た。

ブルーノの姿にダブって見える、初めて見るはずの、懐かしき戦士の姿を。

 

「貴様は……!」

「行くぞ! 《流星の残影(シューティング・ミラージュ)》の効果発動! デッキの上から5枚めくり、チューナーの数だけ攻撃する!」

「ならば来るがいい、ブルーノ! 貴様の力を見せてみろ!」

 

もはや恐れはない。

ブルーノはデッキに手をかけ、この町にいるだろう友の、そして道半ばで去っていった友たちの姿を想起した。

 

(遊星、Z-ONE、アポリア、パラドックス……! 僕に力を貸してくれ!)

 

果たして、

 

 

「―――1枚目、《TG ギア・ゾンビ》!」

 

「2枚目、《TG サイバー・マジシャン》!」

 

「3枚目、《TG ストライカー》!」

 

「4枚目、《TG タンク・ラーヴァ》!」

 

「5枚目、《TG ジェット・ファルコン》!」

 

 

―――運命は、ブルーノに味方した。

 

「5枚すべて……チューナーモンスター、だと……? フ、フフ……フハハハハハハ!!」

 

知らず、骸骨騎士は心底からの笑いを上げていた。

やった。やってのけたのだ、この男は。

 

(限界を超えて見せたか……!)

 

トップスピードに乗ったデルタイーグルが、全速力で走るDホースに凄まじい勢いで食らいついてくる。

ブレード・ガンナーが5体に分身、残像と共にドラゴキュートス目掛けて加速をかけた。

 

「行けえ、ブレード・ガンナー! ドラゴキュートスを攻撃! クインテット・シュート・ブレード!!」

「フッ……我にも意地はある! 《劫火のヴェール》の効果を適用し、一度目の攻撃を無効化する!」

「だが、2回目から先は防げない!」

 

嵐のように襲い掛かるマシンガンの銃撃、続く斬撃。

それら悉くをドラゴキュートスは受けきって見せたが、跳ね返る余波を全て《バランス・シューター》が取り込んでいく。

そして、

 

「《バランス・シューター》の効果発動! 《エンデューロ・ソウル》の攻撃力ダウン効果の発動を無効にし、800のダメージを4回分与える!」

 

走った光が、冥界濁龍を貫いた。

 

「……見事だ……」

 

骸骨騎士:LP2900→0

 

 

 

 

 

ライディングデュエルが終われば、レーンは変形を解除し元に戻る。

気が付けば早朝の道路の上、足を止めたDホースの上から骸骨騎士が言う。

 

「貴様の力、確かに見せてもらった。舞い戻った意味もあったというものだな」

「ならば、教えてもらおうか。何のために僕の力を試した?」

「いずれわかることだ。少なくとも、今の貴様に話す意味はない。話したところで理解できまい。一から事情を説明している時間もないのでな」

「時間がない?」

「今在る我は仮初の存在。戦いが終われば去りゆくのみだ」

 

言う間に霧が晴れはじめ、骸骨騎士の姿もその向こうに消えていく。

 

「お、おい、待て! 一体何が起こるっていうんだ!?」

「さらなる闇……世界を否定し、破壊する者……過去と未来を繋ぎ、断ち切る亡霊だ。心せよ、ブルーノ」

 

答えは、霧の向こうから奇妙にかすんで聞こえた。

そして、晴れていく霧に紛れる様にして、骸骨騎士は消え去った。

 

「き、消えた……なんだったんだ、ヤツは……」

 

呟かれた問いは、朝焼けの静寂に溶けて消える。

それに答えをくれるものは、何もなかった。

 





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