遊戯王5D's-The After   作:辛麺焼き

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第20話:それぞれの未来

決着がついた。

ライフを失ったカプリコンがリングを殴りつけて頽れ、同時にモーメント・コア・フライホイールがゆっくりと出力を低下させ、降下していく。

 

「遊星!」

 

デルタイーグルを駆ってブルーノが駆け付ける、その眼前でZ-ONEのDホイールが着地した。

遊星がそこから飛び降りると同時に、まるで力尽きたかのようにマシンアームが折れ、本体も横倒しになって停止する。

 

「……ありがとう、Z-ONE。君が遊星を守ってくれたのか」

「気を抜くな、ブルーノ! まだ奴は……」

「!」

 

遊星とブルーノが見上げた先、半分だけのデュエルリングの前で、カプリコンがゆらりと立ち上がる。

 

「……なん、ということだ……」

「カプリコン!」

「全ての望みが今、潰えましたよ。ワタシでは無理でしたか……」

 

ですが、と見下ろすその視線には、冷たい氷のような敵意。

 

「我々の望みは時の果てにある……それを掴むために、我々エクリプスは、ひとまず歴史から退場するとしましょう」

「何だと……?」

「諦めませんよ、不動遊星。我々は必ず、未来を滅ぼします。我らが大願、我らが至高の御方のために」

「そうはさせない! オレたちが必ず、未来を切り開く!」

 

決して相いれることのない二つの信念。

そのぶつけ合いは、しかし、今この時は遊星の勝利という結果を見ている。

だからこれは、別れの挨拶に過ぎない。

 

「……ならば、記憶しなさい。万が一、億が一にも、貴方がその理想を叶えたならば、それを永劫守り抜く義務があるのだということを」

「!?」

「完全なる調和を、ゆるぎなき正義を、くもりなき美を保たねばなりません。人間の本性を純粋なものとし、貴方方の形が可能とするもっとも高潔な義務のもとで存在せねばなりません。そして……あの御方の苦しみを、想像しうるもっとも神聖な意義とせねばなりません」

 

冷たく、しかし断固として語る。

その姿は彼ら自身が言ったように、まさしく神の教えを説く神官だった。

 

決闘神官(ディアク・ウム)にとって戦いは絶対の掟。敗れた以上、我々にその意志を通す権利はない……ゆえに、今は去りましょう。この戦いによって、貴方は自らの道を選択しました。せいぜい進みなさい、不動遊星。約束された滅びの時まで」

 

言い残して身を翻した、カプリコンの姿が一瞬で消える。

同時に、不意に二人の視界が白い光で覆われた。悲鳴を上げる間もなくそれは過ぎ去り、気が付けばそこは、最初にたどり着いた旧モーメントの基部だった。

 

回転はゆっくりとした普段通りのもので、特に異常はない。

外に出てみれば、夜明けにはまだ遠い時間だったが、満天の星空が広がっている。まるで、何もかも、全てが夢だったかのように。

だが、それが夢ではなかったことの証拠に、横転したままのモーメント・コア・フライホイールが転がっていた。

 

「……勝った、のか」

「ああ……僕たちの勝ちだ」

 

 

 

 

各所で戦っていた仲間たちに連絡を取り、どうにか全員が勝利したことを確認した遊星は、ひとまずの安堵を得ていた。

まだわからないことは多いが、少なくとも、再びの危機を乗り越えることはできたのだ。

しかし、鬼柳との連絡で勝利の余韻も消し飛ぶことになった。

 

「地縛神だと!?」

『ああ……向こうさん、オレがダークシグナーだったってことを調べた上でかかって来やがった。あちこちでダークシンクロを集めてたみたいだが……』

「ここに来て別の敵か……本当の狙いは何なんだ?」

「鬼柳、そいつはダークシグナーだったのか?」

 

通話の向こうで、鬼柳が首を振る気配があった。

 

『いや、普通のシンクロ召喚を使ってたから、人間なのは間違いねえ。……それにあの地縛神は、オレも見たことがなかった』

「蛇の地縛神……ブルーノ、未来の記録にはなかったのか?」

「あったはずだけど、見たことはないよ。アーククレイドルに集まった時点で、少なくともダークシグナー事件の時の記録は断片的にしか残っていなかったはずだ」

 

つまり、確かなことは言えないということだ。

ダークシグナーでもないのに地縛神を操る、謎のデュエリスト。鬼柳の話では勝利を目前にしてシティ側の異変を感知し、自ら投了してその場を去ったというが、果たして何の目的があったのか?

 

『そっちには現れてねえか?』

「いや……涼と牛尾にも聞いたが、誰も来ていないそうだ」

「僕のところにも来ていないよ」

『そうか……だとすると、あいつは本当に何だったんだ……』

「とにかく、エクリプスはひとまず退けた。サティスファクションタウン側の警戒を強めた方がいいだろう」

 

そう結論した遊星だが、結論を言えば、その後謎のデュエリストが現れることはなく、また地縛神たちが目覚めることもなかったのである。

 

 

 

決戦から10日が過ぎた。

ネオ童美野シティにはいつもと変わらぬ平穏が戻ったが、遊星たちにとっては嵐の前の静けさに思えてならなかった。

牛尾は町の警戒に当たるハイウェイパトロールを増員し、鬼柳もサティスファクションタウン周辺の見回りを行っているが、今のところ何も異常はない。

 

「………………」

「浮かねえ顔だな、遊星」

 

ポッポタイムのガレージで作業を続ける遊星だが、様子を見に来た涼が言う通り、その表情は晴れない。

エクリプスとの戦いには勝利したものの、彼らが破滅の未来に固執するあの姿勢がどうしても気になったのだ。

かつてホセが遊星たちに見せた、人類すべてが滅び去りアポリア一人が残されたあの光景……あれが歓迎できる結末でないことは明白だ。

 

だが、エクリプスはそれを肯定し、むしろ積極的に受け入れようとしていた。

ブルーノから話を聞く限り、スコルピオは破滅の未来を回避するためにイリアステルが動いたことを強く憎悪していたらしい。

 

「涼……エクリプスは何を望んでいたと思う?」

「あ? 連中の望み……破滅の未来を再来させる、ってのはどっちかっていえば手段って感じがするけどよ」

「オレもそこは同感だ。奴らは破滅の未来をもたらすことで……いや、破滅の未来でなければ実行できない何かを狙っている。そう感じた」

 

思い出すのはカプリコンの言動。

特に、最後に投げかけられたあの皮肉に満ちた「説法」は、今でもはっきりと覚えている。

 

「“あの御方の犠牲”……」

「つまり、連中のトップか誰かが反乱で犠牲になったってことか」

「戦う前にカプリコンがそう言っていたな。アスクレピオス、と言ったか」

 

結局のところ、彼らが何を考えていたのかはわからない。

反乱で犠牲になったリーダー。

破滅の未来。

古の魔術師たち。。

そして何より、

 

(カプリコンとの戦いの直前から聞こえていた、あの女の子のような声は……)

「……涼、実は」

 

 

 

―――だめ。

 

 

 

 

―――言わないで。

 

 

 

 

―――知らせないで。

 

 

 

 

「……!」

「どうした遊星」

「……いや、気のせいだ」

 

あの声について語ろうとすると、どこからか思念というか、声にならない何かの響きが伝わってくるのだ。

強制するものでは決してない、しかし必死に訴えかけるような。

だからどうしても、遊星はその先を口にすることを躊躇ってしまう。

 

(だが、無関係とは思えない……あの声は一体何なんだ? こちらから呼びかけても答えはない……)

「……ともかくも連中を退けることはできたわけだ。奴らの目的が何であれ、その過程で未来を滅ぼそうってんなら戦うしかねえ。違うか?」

「……いや、そうだな。オレ達には未来が託されている。少しでもより良い世界を作るためにも、折れるわけにはいかないな」

「そういうこったな。……言ってて思ったが、Z-ONEはマジで『不動遊星』だったんだなって思うぜ」

「え?」

 

だってよ、と涼。

 

「責任感強すぎて全部背負いこんで一人でやろうとしてるだろ、大体。その辺の抱え込み具合なんかそっくりだぞ?」

「……マジでか?」

「キャラ崩壊してんぞ。つーか自覚なかったのかよ……他人の頼り方覚えろ、いい加減。でないとホントにZ-ONEの二の舞になるぞ」

 

しっかりと釘を刺しつつ、固まる遊星に涼は別の話題を振る。

 

「……時に遊星よ、まだ直らねえのか、それ」

「あ、ああ……さすがに未来の技術だからな」

 

遊星の前にあったのは、モーメント・コア・フライホイールの本体部分。

ボルガニック遊星号は世界の狭間に投げ出されて失われていたため、新たなDホイールを作るための一助として、事実上の代車と化したZ-ONEの機体を分解解析していた。

だが、やはり難航しているようだった。

 

「ベースの部分はオレのDホイールと同じだったんだが……浮遊機関周りはお手上げだ。デュエルディスクもあれっきり認証エラーばかりで接続できない」

「ある種の奇跡だったのかもな。けどよ、Dホイールなしだとこの先やってけねえぞ」

「ああ、だからこいつをベースにしてもう一度作れないかと思ってるんだが……なかなか上手くいかないな」

 

Z-ONEは自らを改造して「不動遊星」に成り代わるに当たり、愛機である遊星号も完全コピーしていた。

モーメント・コア・フライホイールはそれに改造を重ねた成れの果てに近い機体だが、それゆえに大本の部分は遊星にも馴染みの深い構造になっていた。

 

「俺にはDホイールのことはよくわからねえが……難しそうだな」

「そうだな。仮に復元できたとしても、ブルーノと一緒に組んだあの制御プログラムはもう作れない。最高速度が大きく落ちるのは避けられないな」

「そのブルーノだが、あいつどこ行ったんだ? 最近姿を見てねえんだが」

「モーメント開発局だ。あそこには―――」

 

と、そこで遊星のもとに電話が入った。

 

「おっと、電話か」

「済まない、少し待ってくれ。……ブルーノか、どうした?」

『遊星? 少しまずい事態になったよ』

 

 

『機皇帝のカードがどこかに消えた。今、開発局の人たちが状況を調べているよ』

 

 

 

 

機皇帝。

ブルーノこと「戦律のアンチノミー」の仲間であり、イリアステルという組織を実質的に立ち上げ運営していた、「絶望のアポリア」の分身である3人のアンドロイド……ルチアーノ、プラシド、ホセの3人が持つエースモンスター。

未来世界ではモーメントを制御するネットワークの防衛兵器として実在したロボットであり、対空用のスキエル、対地用のグランエル、そして対人用のワイゼルの3体が存在する。

 

彼ら「イリアステルの三皇帝」が用いていたのはそれらをカード化したものであり、創造主にしてイリアステル真の首魁である「最後の一人」Z-ONEから与えられたものだ。

使い手である彼らがいなくなった機皇帝は、アーククレイドルごと失われたものだと遊星たちは考えていたが、実際にはそうではなかった。

 

アポリアのDホイールである「トリニダード・ウロボロス」が旧サテライト近くの海中に沈んでおり、デュエルレーンの定期点検の最中に発見されたそれの中に、WRGPでアポリア(≒ホセ)が使ったデッキがそのまま残されていたのだ。

アーククレイドルでアポリアが持っていたのは恐らくZ-ONEから新たに与えられたデッキだったのだろう。

 

ネオ童美野シティではシンクロ・キラーとして恐怖の代名詞になっているそのカードは、政治機能の再編に当たって遊星が責任者となったモーメント開発局預かりとなり、詳細を調査しつつも基本的には封印されていた。

の、だが。

 

「トリニダード・ウロボロスが突然動き出して、機皇帝のカードと一緒にどこかに消えたんだ」

 

と難しい顔で言ったのはブルーノ。

イリアステルの用いた技術については、現状彼以上に詳しい者はいない。この日はそのトリニダード・ウロボロスの解析サポートのためにやって来たのだが、いざ調査を始めようとした矢先にこうなったという。

 

「しかし……別々の場所に保管してあったんだろう? なぜそんなことに」

「わからない……アポリアのDホイールは、この時代で戦うために、三皇帝それぞれのデータを反映して特別に作った機体の集合体だ。何か、知らないプログラムが組み込まれていたのかもしれない」

「現物がない以上、何を言っても推論にしかならないか……」

「ああ。……ただあの機体は、アポリアが乗っていない時はそもそも動かない。……誰かに呼ばれない限りは」

 

それが意味するところは、一つ。

 

「……誰かが機皇帝を呼んだ、ということか?」

「それしかない。だけど、それが出来るのはイリアステルだけだ。今はもうZ-ONEもアポリアもパラドックスもいない、そして僕はここにいる。……じゃあ、あれを呼んだのは?」

 

ブルーノと目線をかわした遊星は、その意図するところを正確に汲み取った。

 

「イリアステルの技術を持つ何者か、ということだな」

「ああ。だけど、いったい誰だ……?」

「……あれほど巨大な機体なら、出現しただけで大騒ぎになる。調べればすぐにわかるはずだ」

 

―――だが、予想に反してその後、それらしきDホイールの目撃情報は一切なかった。

 

 

 

 

「………………」

 

高台の展望台に上り、遊星は夜のネオ童美野シティを見渡す。

この街で生まれ、この街で生きてきた。楽しいことも、つらいことも、同じだけあった。

 

いつかこの街に帰って来る仲間たちのために、よりよき未来を切り開くために進む。

それが遊星の決めた、遊星自身の生き方。

だがここに来て、先行きが見通せない現状を前に、遊星の中には懊悩が渦巻いていた。

 

究極神にタンカを切ったように、この道を進むこと自体に迷いはもはやない。

しかし、そのために何をすべきか、何から手を付けるべきか、それを決めることができない。残された謎があまりにも大きすぎる。

 

(一体、何をどうすれば……)

「!?」

 

柵に体を預けていた、その顔を不意に光が照らした。

眩しさに眇めた視界の中に、ガタイの良い見知った男の姿がある。

 

「不審者発見、職務質問を開始する。……二度目だな、こいつも」

「牛尾……」

 

エクリプスとの決戦以来、牛尾とは連絡を取ることはなかった。

今ではお互い公僕ではあるが、分野の違い上、そもそもあまり交流はない。

 

「どうしてここに?」

「涼に言われてな。お前、ここ最近色々考えすぎて行き詰ってるらしいじゃねえか」

「……仕方がないだろう。この街のため、未来のため、考えることもやることも山ほどある。なのに、謎ばかり増えて来て、どこから何をすればいいのか見当もつかない」

「要するに人生の迷子ってぇわけだな」

 

身もふたもない牛尾の物言いに閉口する遊星だったが、一方でその形容は的を射ていた。

そんな遊星に、この街の古株は語る。

 

「頭のいい奴ってのは大体そうなるよな。なまじ色んなモンが見える分、どこに行こうか、何から始めようかってのを、その先まで考慮して結果行き詰っちまう」

「………………」

「俺はお前やお前の親父さんみたいにいい頭は持ってねえが、それでも自分が何をすりゃいいかってのはわかるぜ。なあ遊星よ、お前、もうちょっとバカになったらどうだ?」

「はっ?」

 

笑う牛尾。

 

「昔、こんな言葉を聞いたぜ。大事なのは何をすべきかじゃなく、何がしたいかだ、ってな。あれもやらなきゃ、これもやらなきゃって考えて、結局何も出来ねえってのが今のお前だ。ならよ、そういうのを一回全部忘れて、何がやりたいのか考えてみな」

「そういうわけにもいかない。オレはZ-ONE達と約束したんだ」

「それを忘れろって言ってるんじゃねえよ。……そうさな、そのZ-ONEにお前、何て言ったよ?」

「え?」

 

 

―――今を救わなければ、きっと未来も救われない! そうじゃないのか、Z-ONE!?

 

 

「聞く限りじゃお前、未来が未来がって言ってるが、まず今、目の前に何があるのか考えてみたか? 突き進むばっかりじゃなくて、一旦立ち止まって見ようって考えなかったか?」

「……それは……」

「いつもお前が言ってるだろ、この世に不必要なものはないってよ。だったらよ、お前に出来ないことは他の誰かがやってくれるんじゃねえか? シンクロモンスターだって1体だけじゃ呼べねえだろ?」

 

牛尾にそう言われてようやく、遊星は自分が焦っていたことに気づいた。

降って沸いた謎、人知を超えた新たな敵。それを前にして、未来を何としても救わなければという意識を新たにしたが、逆にそれに囚われて周りが見えなくなりかけていた。

 

「俺には難しいことはわからねえが、自分がやるべきことはわかってる。ハイウェイパトロールとして、この街の安全を守る! それが俺の仕事だ。俺だけじゃねえ、色んな人々がこの街を作ってる。そうじゃねえか?」

「………………」

 

思わず、遊星は空を仰いだ。

珍しく雲一つない夜空に、無数の星が瞬いている。この美しい景色を彩ることもまた、星一つでは成しえぬことだ。

その考えに至ってようやく、遊星は色々なことが腑に落ちた気がした。

 

集いし願いが新たに輝く星となる。

集いし星が新たな力を呼び起こす。

そうして生まれる意志の繋がりが、未来へと続く光さす道となる。

 

結局、そういうことなのだと。

 

「……そう、なんだろうな」

「おう、そういうこった。どうしても何かやりたいってんなら、まずは今やってる研究やらを完成させるのが先かもな」

「……そうか、そうだな。何を一人でから回っていたんだ、オレは」

 

涼にも言われた通り、確かに自分は背負い込み過ぎていた。

自分にしかできない、と心のどこかで思い込み―――そして思い上がっていた。

確かに自分にしかできないことはある。だが自分にはできないこともあるのだと、そんな簡単なことを今の今まで思い至れなかった。

 

「ま、英雄だのなんだの言っても、お前さんも結局は一人の若僧ってわけだ。でだ、そんな若僧にいいニュースが一つあるぜ」

「?」

「サテライトで赤いDホイールが見つかったって連絡があったぜ。かなり壊れてたらしいけどな」

 

 

 

 

 

 

エクリプスとの決戦から半月。

ネオダイダロスブリッジの袂では、自身のDホイールに乗った涼と、それを見送りに来た遊星の姿があった。

 

「行くのか、涼」

「ああ。元々、アーククレイドル事件が終わったらこの街を出るつもりだったからな」

 

元々生粋のデュエルバカである涼は、サテライトに来てからも、シティに流れ着いてからも、デュエルの強い相手を探していた。

遊星たちに纏わる一連の事件では歯ごたえのあるデュエリストと何人も戦ったが、アーククレイドル事件ではさすがに蚊帳の外となり、どうにも不完全燃焼だったのだ。

 

「色々気になることもあって残ってたが……さすがにもういいと思ってな。オレもいい加減、別の街に行くことにするよ」

「どうせ、デュエルの相手探しだろう?」

「他に何があるんだ。ジャック達は町を出たし、お前も京介も忙しいからなかなか戦えねえしよ。ツテもないから世界に飛び出すってわけにもいかねえし、辻斬りでもやるさ」

「物騒なことを言うな。ゴーストか、お前は」

 

冗談に冗談で返すくらいには余裕の出来たらしい遊星が、苦笑いでそう言った。

 

「あながち間違いじゃない気もするけどな。で、お前のDホイールは結局どうなったんだ? 今日も乗って来てねえけど」

「明日には修理が終わる。まさか、マーサハウスに墜落していたとは思わなかったがな」

 

牛尾があの時持ってきた知らせというのは、マーサハウスの屋根にボルガニック遊星号が墜落してきたというものだった。

あの世界の狭間から零れ落ちる形で空中に転移してしまったらしく、屋根に突き刺さっていたのを発見して大騒ぎになったという。

回収されたボルガニック遊星号は破損が酷かったが、不幸中の幸いで原型は留めており、ボルガー&カンパニー社に運び込まれて修理されることになった。

 

「そうか。じゃあ、Z-ONEのDホイールはどうするんだ?」

「ブルーノの手を借りてどうにか組み換えが進んでいる。Z-ONEには悪いが、オレはあの機体を、次の世代に受け継いでもらうつもりでいる」

「次の世代と来たか」

 

軽く笑う涼に、遊星も笑って応じる。

 

「ああ。オレは、一人で何もかもをやり遂げようとして焦っていた。一人では出来ないことがあるとわかっていたはずなのに、すっかり忘れてしまっていた」

「自分の人生に責任持て、ってのはお前が言ったんだよな。けどな遊星、仲間と道が分かれたってことは、一人でやれって意味じゃねえぞ? お前の仲間はチーム5D’sだけじゃねえんだ」

「そうだな、その通りだ。……お前はどこに行くんだ?」

 

問われて、涼は「そうだな」と一言おいて答えた。

 

「まあ、ちょっと昔馴染みのところにな」

「昔馴染みって……お前、サテライトの生まれじゃないのか?」

「ま、色々と事情があってな。……そんじゃ、そろそろ行くぜ。達者でな、遊星」

 

 

 

 

 

 

―――1年が過ぎた。

遊星率いる研究チームによる新型モーメントのプロジェクトは順調に進んでおり、制御フレームも完成のめどが立った。

実際にその姿を見るのはまだまだ先のことになりそうだが、それでも遊星には今までのような焦りはない。

まずは目の前の問題を、一つ一つ解決していく。

 

(そうだ、未来を背負っているのはオレだけじゃない。志を同じくする仲間がいる)

 

エクリプスとの戦いで再確認したその事実が、彼の支えであり、力だった。

この街のどこかにいるブルーノもまた、その一人だ。

モーメント・コア・フライホイールの残骸を修復し、新たなDホイールを作り上げた後、ブルーノは再び遊星たちの前から姿を消した。

といっても、失踪したわけではない。

 

『……使命を果たす?』

 

完成したDホイールを前に、ブルーノがそんなことを言ったのだ。

 

『ああ。今でも僕は君たちの仲間であり、Z-ONEの同志の一人だ。だが、ブルーノとしてもアンチノミーとしても、僕の成すべきことは既に終わっている』

 

遊星には反論は出来なかったし、しようとも思わなかった。

これがブルーノなりの決意表明だと気付いていたからだ。

 

『だから、君たちがそれぞれの道を選んで歩き出したように、僕も僕の道を選び、進む』

『それは……』

 

頷くブルーノ。

 

『遊星、君のやり方とは別の形で、この町を守ることだ。僕は君の仲間として、そしてイリアステル最後の一人として、僕の使命を果たす。君の導くこの町の、この世界の未来を見届け、守る。それが僕の選ぶ道だ』

『そうか……』

 

寂しくはあったが、悲しくはなかった。ジャック達と同じように、自分の仲間が己の道を選んだ。

たったそれだけのことなのだ。

 

『1人のD・ホイーラーとして、僕は影からこの町を守ろう。そしていつか……彼らがこの町に戻ってきたら、その時は』

『ああ』

 

そして、ポッポタイムでそれぞれのD・ホイールを駆り、かつてのラストランに準えて二人で町を走り、

 

『いつかまた会おう、遊星』

『その時を待っているぞ、ブルーノ』

 

立体交差のところで別れた。あれからブルーノは戻っていないが、心配はしていない。

今でも町のどこかを走っているのだろう。

想いを馳せる遊星の耳に、研究員たちの会話が届く。

 

「なあ、聞いたか? 昨日、D・ホイーラー狩りが捕まったってよ」

「おお、あの危険人物もとうとうお縄か……しかし、あのスピードによく追いついたな、セキュリティ」

「だからハイウェイパトロールだって。それが、実際に倒したのは、何か、別のD・ホイーラーらしい。変わったD・ホイールに乗ってるって聞いたが」

「あー、例のアイツか……WRGPの時期に出没してたけど、未だに正体不明なんだろ? 何考えてんだろうな」

 

手元がおろそかになっている二人の後ろに歩み寄ると、気配に気づいたらしい二人が振り返る。

 

「あ、不動チーフ、すみません」

「話が弾むのはいいが、操作ミスには気を付けてくれ」

「はい。……ところで、チーフは例の噂知ってますか? あの謎のD・ホイーラーの」

「ああ」

 

もちろん、知っている。

 

「何か、チーフはWRGPの頃にそいつと戦ったことあるらしいですけど……誰だかわかります?」

 

よほど気になるのか、興味津々で聞いてくる新米に、遊星は彼には珍しく、からかうように言った。

 

「さあな。あのD・ホイーラー……いったい何者なんだろうな」

 

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