遊戯王5D's-The After   作:辛麺焼き

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永遠の決闘疾走者

――――長い、戦いだった。

 

モーメントの暴走、機皇帝による虐殺。それらを乗り越えるために自ら「不動遊星」となり、尽力した。

機皇帝との和解には成功したが喜びもつかの間、逆回転を始めたモーメントの爆発と、放出されたエネルギーに引きずられた大災害で、人類は完全に滅んでしまった。

 

老い衰えていく体に鞭を打ち、仲間と共に人類を救うべく力を尽くした。

だが、叶わぬまま仲間は逝ってしまった。

 

それでも、諦めることができなかった。

自分が諦めたら、最後の一人である自分が折れてしまったら、一体誰がこの現実を変える?

寿命などとっくに通り越している体で命にしがみつき、仲間の写し身を従え、歴史を変えるために足掻き続けた。それしか、残されていなかった。

 

その果てに、結果があった。

この時代の、本物の不動遊星を通じて、全ての人々に警告が与えられる、という形で。

もしかしたら、それでも未来は破滅に繋がるかもしれない。しかし、そうならないかもしれない。

それは、確かな希望だった。

 

敗北を喫した瞬間に見た、アーククレイドルを落とした未来……それもまた、破滅の未来だった。

滅ぼすことで救われるものはない。今を救わなければ、未来もきっと救われない。

 

 

『そうじゃないのか、Z-ONE!』

 

 

その通りだ。最後の最後で、やっとそれを受け入れることが出来た。

脳裏をよぎる、仲間達の姿。

 

(アポリア……アンチノミー……パラドックス……)

 

今はもういない彼らのもとへ。

 

(すぐに私も逝きます……)

 

長すぎた戦いの日々が、終わる。

 

(これで……やっと……)

 

 

ふと、

 

 

(……?)

 

茫漠たる意識の中で、彼―――Z-ONEは思った。

なぜ自分は、不動遊星になろうと思ったのだろうか?

 

世界を救った英雄、不動遊星。彼がいれば、きっともう一度世界を救ってくれると、そう思ったからだ。

自答してしかし、違和感を覚える。

思えばあの時、自分は何かに導かれるようにして、遊星のデータを探し出した覚えがある。

 

そうしなければならない、否そうするべきなのだと、心のどこかでわかっていた。

不動遊星にならねばならない、と。

それは、どこから来たのか?

 

(私は……なぜ……?)

 

今となっては、意味のない問いかけ。しかしそれでも、Z-ONEは己に問うていた。

瞬間、

 

(!?)

 

記憶が急速に、過去へと逆行する。

イリアステルとしての日々、そしてそれ以前のあの頃。

 

 

―――みんな、聞いてくれ! この世界は滅びようとしている!

 

 

「不動遊星」となった自分の声に、別の何かが被さって聞こえた。

その重なる声が、Z-ONEの知らないはずの記憶へと彼を導き始める。

行きついたのは、

 

(サテライト……?)

 

響く声、過る情景。

 

 

 

―――この程度のフィールじゃ、オレは止められないぜ!

 

 

入り組んだ配管の上を走るD・ホイール。

 

 

―――今のままではヤツに勝てない……!

 

 

絶対王者の前に敗れ去った焦り。

 

 

―――セクトはオレの仲間なんだ! 絶対に闇から救って見せる!

 

 

闇にとらわれた双子との対峙。

 

 

―――お前……本気で全員倒すつもりだったのか!?

 

 

シンクロを操る黒い翼との交流。

 

 

―――オレに力を貸してくれ! 仲間を救う力を!

 

 

星屑の竜との「再会」。

 

 

―――今この時、最高の決闘疾走をする! それだけだ!

 

 

友との激突。

 

 

―――決闘竜に頼り切ったお前の神など、恐るるに足らん!

 

 

神に挑んだ最終決戦。

 

 

―――やはり……決闘疾走は面白いな。

 

 

その果てに立ち返る、自分自身。

 

 

自分のものではない声が、明瞭な記憶と共にZ-ONEの中に流れてくる……否、蘇ってくる。

そして不思議なことに、Z-ONEはそれを違和感なく受け入れていた。まるで忘れていたことを自然と思い出したかのように。

 

(私は……あの光景を知っている……覚えている……)

 

そして、その最後。

 

 

―――願いを言え。そなたの手にしたい願いを。

 

 

(願い……)

 

 

―――サテライトの英雄であろうとも。

 

―――未来王となることも。

 

―――歴代決闘王たちとの共闘であろうとも。

 

―――望むのならば叶えよう。

 

 

―――そなたの願いは何だ?

 

 

問われて、答えようとした。知らない相手、強くなった仲間、彼らと決闘疾走を続けたい、と。

だが、

 

(!?)

 

見てしまった。示された可能性の一つ、遥かな未来。

滅びゆく世界、絶望する人々。

そして理解した。彼らを救えるとしたら自分しかいない。今、その未来に手が届く自分だけだ、と。

 

(オレは……)

 

 

 

(あの未来を……破滅の未来を救いたい!! オレは、未来王となる!!)

 

 

 

―――それがお前の選択か。

 

 

―――儀式を成し遂げた者の願い、我が確かに叶えよう。

 

 

―――だが、お前が選んだ道は修羅の道。折れればそこまでだ。心せよ。

 

 

 

 

 

―――解錠覇王、不動遊星。

 

 

 

 

 

全てを思い出した。破滅の時よりもはるか以前に、この道を自分自身が選択したことを。

意図とは違った形ながら、それは達せられた。

正真正銘、もう一人の自分によって。

 

(そうだ……あれは……だからあの時……)

 

全てを理解したZ-ONEは、何かが解かれ、放たれるような感覚を覚えていた。

意識が加速する。光の先に闇、あるべき場所へと続く道。

 

手を伸ばしたそこに、

 

さらなる光が、

 

 

射し、

 

 

灯り、

 

 

光り、

 

 

輝き―――

 

 

 

 

「……!?」

 

飛び起きると昼前だった。思わず頭を押さえ、冷や汗を拭いながら周囲を見渡す。

見慣れたサテライトのねぐら。

 

「ゆ、夢……か……?」

 

夢にしては、異様にリアルだった。目覚めた今は急速に薄れ、ぼやけ、思い出すことは出来ない。

だが、途轍もなく重い何かを背負っていたような気がする。

 

あれは本当に夢だったのか?

わからないが、今自分が見ているのが現実であることはわかる。

 

「……眠りすぎたな。少し外に出るか」

 

立ち上がって上着を羽織り、外に出る。

何となく思い出したのは、しばらく前の第2回D1GP。

究極神の一件で無効に終わった第1回の後に開催されたその大会を勝ち抜き、「絶対王者」ジャック・アトラスへの挑戦権を勝ち取った。

そして、全力を尽くした激突の末に勝利し、「統一皇帝」の称号を得たのは記憶に新しい。

 

ジャックはあの後すぐに修行の旅に出てしまい、あれから一度も会っていない。

が、プライドの塊であるあの男のことだ、今でもどこかで決闘疾走をしているのだろう。

余人の及ばぬさらなる高みを目指して。

 

(あいつらしいな、全く)

 

手塩にかけて整備したD・ホイールに乗ろうとしたそのタイミングで、

 

「あっ、いた! アニキー!!」

 

なじみの声が届いた。

 

「セクト? どうしたんだ、いきなり」

 

伊集院セクト。昆虫族使いの決闘疾走者であり、弟分に当たる少年だ。

いつぞやのリベンジマッチかと思いきやどうやら違うらしく、後ろを指さしてこう言った。

 

「それが、アニキの噂聞いて挑戦しに来たって人がいるんだ。なんかおかしなD・ホイール乗ってるぜ」

「おかしなD・ホイール……?」

 

言われてセクトの指差す先を見ると、そこには確かに一風変わったD・ホイールが止まっていた。

流線型のフォルムはともかく、後輪しかないその構造は明らかに異端。

だが、

 

(何だ……? オレは、あの機体を知っているのか?)

 

強烈な既視感を覚える。あのD・ホイールを、ずっと前から知っているような気がする。

気のせいと片づけるには、あまりにもリアルな記憶だった。

その、謎のD・ホイールの乗り手が近づいてくる。

逆立った青い髪と赤い遮光グラスが印象的な、ライダースーツの青年。

 

「初めまして。君があの、不動遊星だね?」

「……ああ」

「前回のD1GPのことは聞いているよ。僕はジョニー。プロの決闘疾走者だ」

 

ジョニー。初めて聞く名前だが、やはり強い既視感を覚える。

 

「オレに挑戦しに来た、とセクトから聞いたが」

「ああ。一度は世界を救い、さらにあの絶対王者をも下したほどの強者だ。一人の決闘疾走者として、僕は君に挑戦する!」

 

だが、そんな既視感はどうでもいい。

決闘疾走は、やはり面白い。自分にとって全てだと、自信を持って言い切れる。

喜怒哀楽、そして仲間やライバル、自身の全てがそこにはある。

ならば、

 

「わかった。その決闘疾走、受けて立つ!!」

「ありがとう。だが、やると決まったら手加減はしないよ」

「こちらもそのつもりだ。全力でぶつからせてもらう!」

 

「やっぱアニキはそうなるよなー」と肩をすくめるセクト。

わかっていたが、そもそも不動遊星とはこういう男だ。

肩書き以前に、筋金入りの決闘疾走者。世界の命運をかけた一戦ですら心底から楽しむことが出来る、究極のデュエリストだ。

 

少し前、アカデミアの女王こと十六夜アキが、どこで調べたのか遊星の誕生祝いに来たことがあるが、そのプレゼントというのが全力の決闘疾走。

それを聞かされた時、遊星の表情が今までにないほど輝いていたのはよく覚えている。

 

(ホントに決闘疾走が好きで仕方ないんだよな、アニキは)

 

セクト自身や悪友のロットンを含め、サテライトの全員に共通することだが、遊星はその中でもぬきんでている。

そうこうしている内に二人とも準備が整い、空気を感じたのか見物人が次々と集まってくる。

 

そして、エンジンのかかった2台のD・ホイールが同時にスタートを切った。

 

 

「「デュエル!!」」

 




遊戯王5D's The Afterは以上で完結となります。ありがとうございました。
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