――――長い、戦いだった。
モーメントの暴走、機皇帝による虐殺。それらを乗り越えるために自ら「不動遊星」となり、尽力した。
機皇帝との和解には成功したが喜びもつかの間、逆回転を始めたモーメントの爆発と、放出されたエネルギーに引きずられた大災害で、人類は完全に滅んでしまった。
老い衰えていく体に鞭を打ち、仲間と共に人類を救うべく力を尽くした。
だが、叶わぬまま仲間は逝ってしまった。
それでも、諦めることができなかった。
自分が諦めたら、最後の一人である自分が折れてしまったら、一体誰がこの現実を変える?
寿命などとっくに通り越している体で命にしがみつき、仲間の写し身を従え、歴史を変えるために足掻き続けた。それしか、残されていなかった。
その果てに、結果があった。
この時代の、本物の不動遊星を通じて、全ての人々に警告が与えられる、という形で。
もしかしたら、それでも未来は破滅に繋がるかもしれない。しかし、そうならないかもしれない。
それは、確かな希望だった。
敗北を喫した瞬間に見た、アーククレイドルを落とした未来……それもまた、破滅の未来だった。
滅ぼすことで救われるものはない。今を救わなければ、未来もきっと救われない。
『そうじゃないのか、Z-ONE!』
その通りだ。最後の最後で、やっとそれを受け入れることが出来た。
脳裏をよぎる、仲間達の姿。
(アポリア……アンチノミー……パラドックス……)
今はもういない彼らのもとへ。
(すぐに私も逝きます……)
長すぎた戦いの日々が、終わる。
(これで……やっと……)
ふと、
(……?)
茫漠たる意識の中で、彼―――Z-ONEは思った。
なぜ自分は、不動遊星になろうと思ったのだろうか?
世界を救った英雄、不動遊星。彼がいれば、きっともう一度世界を救ってくれると、そう思ったからだ。
自答してしかし、違和感を覚える。
思えばあの時、自分は何かに導かれるようにして、遊星のデータを探し出した覚えがある。
そうしなければならない、否そうするべきなのだと、心のどこかでわかっていた。
不動遊星にならねばならない、と。
それは、どこから来たのか?
(私は……なぜ……?)
今となっては、意味のない問いかけ。しかしそれでも、Z-ONEは己に問うていた。
瞬間、
(!?)
記憶が急速に、過去へと逆行する。
イリアステルとしての日々、そしてそれ以前のあの頃。
―――みんな、聞いてくれ! この世界は滅びようとしている!
「不動遊星」となった自分の声に、別の何かが被さって聞こえた。
その重なる声が、Z-ONEの知らないはずの記憶へと彼を導き始める。
行きついたのは、
(サテライト……?)
響く声、過る情景。
―――この程度のフィールじゃ、オレは止められないぜ!
入り組んだ配管の上を走るD・ホイール。
―――今のままではヤツに勝てない……!
絶対王者の前に敗れ去った焦り。
―――セクトはオレの仲間なんだ! 絶対に闇から救って見せる!
闇にとらわれた双子との対峙。
―――お前……本気で全員倒すつもりだったのか!?
シンクロを操る黒い翼との交流。
―――オレに力を貸してくれ! 仲間を救う力を!
星屑の竜との「再会」。
―――今この時、最高の決闘疾走をする! それだけだ!
友との激突。
―――決闘竜に頼り切ったお前の神など、恐るるに足らん!
神に挑んだ最終決戦。
―――やはり……決闘疾走は面白いな。
その果てに立ち返る、自分自身。
自分のものではない声が、明瞭な記憶と共にZ-ONEの中に流れてくる……否、蘇ってくる。
そして不思議なことに、Z-ONEはそれを違和感なく受け入れていた。まるで忘れていたことを自然と思い出したかのように。
(私は……あの光景を知っている……覚えている……)
そして、その最後。
―――願いを言え。そなたの手にしたい願いを。
(願い……)
―――サテライトの英雄であろうとも。
―――未来王となることも。
―――歴代決闘王たちとの共闘であろうとも。
―――望むのならば叶えよう。
―――そなたの願いは何だ?
問われて、答えようとした。知らない相手、強くなった仲間、彼らと決闘疾走を続けたい、と。
だが、
(!?)
見てしまった。示された可能性の一つ、遥かな未来。
滅びゆく世界、絶望する人々。
そして理解した。彼らを救えるとしたら自分しかいない。今、その未来に手が届く自分だけだ、と。
(オレは……)
(あの未来を……破滅の未来を救いたい!! オレは、未来王となる!!)
―――それがお前の選択か。
―――儀式を成し遂げた者の願い、我が確かに叶えよう。
―――だが、お前が選んだ道は修羅の道。折れればそこまでだ。心せよ。
―――解錠覇王、不動遊星。
全てを思い出した。破滅の時よりもはるか以前に、この道を自分自身が選択したことを。
意図とは違った形ながら、それは達せられた。
正真正銘、もう一人の自分によって。
(そうだ……あれは……だからあの時……)
全てを理解したZ-ONEは、何かが解かれ、放たれるような感覚を覚えていた。
意識が加速する。光の先に闇、あるべき場所へと続く道。
手を伸ばしたそこに、
さらなる光が、
射し、
灯り、
光り、
輝き―――
「……!?」
飛び起きると昼前だった。思わず頭を押さえ、冷や汗を拭いながら周囲を見渡す。
見慣れたサテライトのねぐら。
「ゆ、夢……か……?」
夢にしては、異様にリアルだった。目覚めた今は急速に薄れ、ぼやけ、思い出すことは出来ない。
だが、途轍もなく重い何かを背負っていたような気がする。
あれは本当に夢だったのか?
わからないが、今自分が見ているのが現実であることはわかる。
「……眠りすぎたな。少し外に出るか」
立ち上がって上着を羽織り、外に出る。
何となく思い出したのは、しばらく前の第2回D1GP。
究極神の一件で無効に終わった第1回の後に開催されたその大会を勝ち抜き、「絶対王者」ジャック・アトラスへの挑戦権を勝ち取った。
そして、全力を尽くした激突の末に勝利し、「統一皇帝」の称号を得たのは記憶に新しい。
ジャックはあの後すぐに修行の旅に出てしまい、あれから一度も会っていない。
が、プライドの塊であるあの男のことだ、今でもどこかで決闘疾走をしているのだろう。
余人の及ばぬさらなる高みを目指して。
(あいつらしいな、全く)
手塩にかけて整備したD・ホイールに乗ろうとしたそのタイミングで、
「あっ、いた! アニキー!!」
なじみの声が届いた。
「セクト? どうしたんだ、いきなり」
伊集院セクト。昆虫族使いの決闘疾走者であり、弟分に当たる少年だ。
いつぞやのリベンジマッチかと思いきやどうやら違うらしく、後ろを指さしてこう言った。
「それが、アニキの噂聞いて挑戦しに来たって人がいるんだ。なんかおかしなD・ホイール乗ってるぜ」
「おかしなD・ホイール……?」
言われてセクトの指差す先を見ると、そこには確かに一風変わったD・ホイールが止まっていた。
流線型のフォルムはともかく、後輪しかないその構造は明らかに異端。
だが、
(何だ……? オレは、あの機体を知っているのか?)
強烈な既視感を覚える。あのD・ホイールを、ずっと前から知っているような気がする。
気のせいと片づけるには、あまりにもリアルな記憶だった。
その、謎のD・ホイールの乗り手が近づいてくる。
逆立った青い髪と赤い遮光グラスが印象的な、ライダースーツの青年。
「初めまして。君があの、不動遊星だね?」
「……ああ」
「前回のD1GPのことは聞いているよ。僕はジョニー。プロの決闘疾走者だ」
ジョニー。初めて聞く名前だが、やはり強い既視感を覚える。
「オレに挑戦しに来た、とセクトから聞いたが」
「ああ。一度は世界を救い、さらにあの絶対王者をも下したほどの強者だ。一人の決闘疾走者として、僕は君に挑戦する!」
だが、そんな既視感はどうでもいい。
決闘疾走は、やはり面白い。自分にとって全てだと、自信を持って言い切れる。
喜怒哀楽、そして仲間やライバル、自身の全てがそこにはある。
ならば、
「わかった。その決闘疾走、受けて立つ!!」
「ありがとう。だが、やると決まったら手加減はしないよ」
「こちらもそのつもりだ。全力でぶつからせてもらう!」
「やっぱアニキはそうなるよなー」と肩をすくめるセクト。
わかっていたが、そもそも不動遊星とはこういう男だ。
肩書き以前に、筋金入りの決闘疾走者。世界の命運をかけた一戦ですら心底から楽しむことが出来る、究極のデュエリストだ。
少し前、アカデミアの女王こと十六夜アキが、どこで調べたのか遊星の誕生祝いに来たことがあるが、そのプレゼントというのが全力の決闘疾走。
それを聞かされた時、遊星の表情が今までにないほど輝いていたのはよく覚えている。
(ホントに決闘疾走が好きで仕方ないんだよな、アニキは)
セクト自身や悪友のロットンを含め、サテライトの全員に共通することだが、遊星はその中でもぬきんでている。
そうこうしている内に二人とも準備が整い、空気を感じたのか見物人が次々と集まってくる。
そして、エンジンのかかった2台のD・ホイールが同時にスタートを切った。
「「デュエル!!」」
遊戯王5D's The Afterは以上で完結となります。ありがとうございました。