霧が晴れていく。視界がクリアになっていくにつれて、遊星の心中には焦りが募っていた。
帰路につく間際に目撃したライディングデュエル。
そこで異形の騎士と戦っていたのは、間違いなくブルーノだった。
アーククレイドルで死んだはずの彼がなぜここに?
いてもたってもいられなかった主を乗せて、ボルガニック遊星号は夜明けのハイウェイを爆走する。
急がなければ、と何かに追い立てられるようにして、遊星は友の姿を求めて走り続けた。
この霧が晴れた時、ブルーノもまたどこかに消えてしまうのではないか。
根拠もなく、そんな考えが彼を支配していた。
「ブルーノ! どこだ、ブルーノ!!」
何かの間違いではなかったのか、と何度も思った。だが、それを振り切るようにしてひたすら走り続ける。
レーンは既に解除されているのを見ると、ライディングデュエルは終わったのだろう。
だが、決着はわからない。ブルーノは勝ったのか? 負けたのか?
そもそも、会ってどうしようというのか。
何一つ頭に浮かばないまま、ただ走る。
―――が、運命は彼を逃がさない。
動き始めた歯車は、簡単には止まらない。まるでモーメントのように。
焦る遊星の耳に、聞き覚えのある音が届いた。
「!? この音は……!!」
デュエリストでなくとも、メカマンとしても十分食っていけると評されるほど、遊星の機械への造詣は深い。
ルチアーノが龍亞に見せた「デュエルボード」をありあわせの部品で完全再現出来るほどには。
そんな彼だからこそ、その音を聞き違えることはなかった。
「ホイール・オブ・フォーチュン!?」
長い付き合いの仲間であり友であり、同じ時を過ごしてきた、遊星にとっての最強のライバル。
ジャック・アトラスの愛機、その駆動音だった。
その加速力、走行可能距離は、並み居るDホイールの中でもトップクラスの性能を誇る。
まさに、キングの玉座と言うべき機体だ。……肝心のジャックはチーム内でもトップのクラッシュ経験者だが。
(ジャックが戻ってきているのか……!? だが、アイツは確か……)
元治安維持局、現ハイウェイパトロールの狭霧御影から聞いた話では、ジャックは「真のキング」を目指して世界大会に出ているらしく、恐るべき実力で強豪をなぎ倒して回っているという。
その彼がなぜここにいるのか?
そう思った遊星だったが、追い付いてきたホイール・オブ・フォーチュンの乗り手を見て目を見張った。
「ジャック!?」
そう、そこに乗っていたのは、まぎれもないジャック・アトラスその人だった。
―――Dホイールに乗っているのにヘルメットもライダースーツも着用せず、完全にいつもの私服のままということを除けばだが。
「どういうことだ!? なぜお前がここに……!」
「…………」
無言で遊星を一瞥するジャック。その眼には、絆や友情と言ったプラスの感情がまるで感じられなかった。
いや、遊星はこの目を知っている。
かつてフォーチュンカップで対戦するまでの、自身をキングと称し他を見下していた、あの頃のジャックの目だ。
「貴様が不動遊星か……………側の……」
「何……?」
その言葉で、遊星は目の前にいるのが自分の知るジャックではないことを理解した。
ジャックとはサテライトで共に育った中、幼少期からの友だ。その彼が自分のことを、他人よろしくフルネームで呼ぶなどあり得ない。
頭をよぎったのは、イリアステルの一件で遭遇した偽ジャック。だが、あのロボットとも違う。
「お前……ジャックではないのか!?」
「フン! 言うと思ったぞ。だがその問いは、正解であって正解ではない」
不明瞭な返し方をする「ジャック」は、傲岸に、しかし自信とプライドに満ちた態度で言い放った。
「オレは
「……!」
物言い、態度。あの頃のジャックそのものだ。
だが、何かが違う。決定的に違う。長い付き合いの遊星だからこそ抱く、それは致命的な違和感だった。
「
「今はお前に構っている暇はない!! ブルーノを追わなければ……!!」
「逃げられると思うか!」
ボルガニック遊星号を再び走らせる遊星だが、ホイール・オブ・フォーチュンは恐るべき加速度であっさりと並走してくる。
いつの間にかデュエル申請が受理されていたらしく、別のレーンが再び展開され、ジャックがそちらへ誘導するように幅寄せして来る。衝突を避けるためにも遊星はその誘導に乗るしかなく、デュエルレーンへ2台のD・ホイールが突入する。
「……!? 《スピード・ワールド2》が発動されていない!?」
「フン! そんな行き詰まりのカードに頼らずとも、決闘疾走に支障はない! 目の前の敵から目をそらすなど、デュエリストにあるまじき侮辱! 先に進みたければこの
「く……やむを得ないか!」
「「デュエル!!」」
ジャック:LP4000
遊星:LP4000
一刻も早くデュエルを終わらせるには、先攻を取ってペースを握るのが一番。
第一コーナーへと全速力で駆け抜ける遊星だが、ジャックはさらに上を行った。
「フルチューンされたホイール・オブ・フォーチュンにオレの技術があるのだ……
恐るべき加速を見せるW・O・Fが、ボルガニック遊星号を抜き去る。
「くっ……さすがはジャックというべきか……!」
「オレのターン、ドロー! 《灰塵王 アッシュ・ガッシュ》召喚!」
場に現れたジャックの一番手は、剣を携えた黒衣の神官。
「さらにカードを2枚伏せる!」
ジャック:手札6→3
「ターンエンドだ。かかって来い、不動遊星!」
「オレのターン!」
遊星:手札5→6
ジャックの場のモンスターは攻撃力1000。
それをあえて攻撃表示で残しているからには、必ず何か、迎撃のための手段を用意している。少なくとも、遊星の知るジャックはそうするという確信があった。
(スターダストを呼べば破壊効果は防げる……だが、あの伏せカードには間違いなく何かがある!)
「俺は《スピード・ウォリアー》を召喚!」
先陣を切るのは白い機械戦士。
攻撃力の低いモンスターで構成された遊星のデッキにおける、切り込み役の登場だ。
「バトルだ! 《スピード・ウォリアー》でアッシュ・ガッシュに攻撃!」
「攻撃力の劣るモンスターで攻撃だと?」
「《スピード・ウォリアー》の効果発動! 召喚されたターンのバトルフェイズのみ、攻撃力を元々の数値の2倍にできる!」
足のローラーで軽快に滑走する《スピード・ウォリアー》が、前方を行くアッシュ・ガッシュに追いつき、高速回転するローラーによる回し蹴りがその身を切り裂いた。
ジャック:LP4000→3200
だが、ダメージを受けたはずのジャックの方には全く動じた様子がない。
まるで何事もなかったかのように、平然と走り続けている。
「貴様の力はこの程度か?」
「……俺はカードを2枚セットし、ターンエンド! 《スピード・ウォリアー》の攻撃力は元に戻る」
遊星:手札6→3
「オレのターン!」
ジャック:手札3→4
「オレは、チューナーモンスター《幻影王 ハイド・ライド》を召喚!」
「!」
ジャック側の二番手は、馬に乗った銀の鎧の騎士。
「さらに、永続罠発動! 《鏡像のスワンプマン》!」
「トラップモンスターだと!?」
「このカードは、発動時に種族と属性を宣言し、その種族と属性を備えたレベル4のモンスターとなって特殊召喚される! よってオレは、炎属性の悪魔族を宣言!」
そして、炎のような赤いオーラを纏う人型のモンスターが現れる。
罠モンスターのことは遊星も当然知っているが、実際に使われているのを見るのは初めてだ。だが考えてみると、伏せて発動するまでのタイムラグが大きいとは言え、任意のタイミングでモンスターを用意できるのは確かに有効だ。
ちょうど、今のように。
「さらにこの瞬間、リバースカードオープン! 速攻魔法《ダーク・フレア》!」
《ダーク・フレア》
速攻魔法
①:フィールドにモンスターが特殊召喚された時に発動できる。手札・デッキから炎属性モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
「これにより、デッキから《紅蓮王 フレイム・クライム》を特殊召喚する!」
スワンプマンの登場に呼応するように、炎そのものを纏った獅子頭の悪魔が降り立った。
ぎろりと遊星を睨んだ、そのアギトから炎が迸る。
「モンスター効果発動! このモンスターが特殊召喚に成功した時、オレの炎属性モンスター1体につき400のダメージを貴様に与える! フレイム・ストリーム!」
「なにっ……ぐおおおおおっ!?」
遊星を襲ったのは完全なる物理的衝撃。
効果ダメージ800とは到底思えないほどの、D・ホイールごと遊星の体を大きく揺さぶる一撃が襲い掛かって来た。
脳裏をよぎるのはイリアステルとのデュエル。彼らとの戦いは、ダメージが現実のものとして襲い掛かってきていた。
「これはっ……まさか、あの偽ジャックと同じロボットなのか!?」
「言うに事欠いて、このオレが機械の偽物だと!? 貴様の目は節穴か!!」
だが、口に出してしまったそれが先行するジャックの勘気に触れたらしく、怒声が帰ってくる。
「貴様に
「シンクロ召喚! 吼えろ、《天狼王 ブルー・セイリオス》!!」
遊星の知るそれとはまるで違うシンクロ召喚の様相。
2体のモンスターが球状の光に包まれ、その中から両腕にも獣のアギトを開いた狼の獣人が飛び出してきた。
「攻撃力2400……!」
《スピード・ウォリアー》の攻撃力は900。
スワンプマンの攻撃と合わせて、まともに受ければ通るダメージは3300、こんな序盤でここまでのダメージを受けては形勢が一気にあちらに持っていかれる。
ましてや相手はジャック・アトラスなのだ、そんな隙を与えれば一気に喉元まで食い破りに来るに違いない。
「シンクロ素材として墓地に送られた、フレイム・クライムの効果発動! デッキからトラップカード、《王者の覇気》を墓地へ送る」
もちろん遊星とて、ただ無防備に待ち構えているわけではない。
ないが、どうしても不安が拭えない。
眼前を走るジャックと、自分の知るジャックがどうしても重ならない。記憶と現実の不協和音が、遊星の判断力をわずかずつ削っていく。
ジャック:手札4→3
「ブルー・セイリオスで《スピード・ウォリアー》を攻撃!」
「させるか! トラップカード《ガード・ブロック》発動! バトルによるダメージを無効にし、カードをドロー!」
遊星:手札3→4
「フン、ならば《鏡像のスワンプマン》でダイレクトアタック!」
「リバースカード《カード・ディフェンス》! ダイレクトアタックを無効にする! さらに手札を1枚捨てることで、デッキから1枚ドローできる!」
遊星:手札4→4
「さらに、今墓地に送った罠カード《リミッター・ブレイク》の効果発動! 墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! これにより、手札の《ドッペル・ウォリアー》の効果発動!」
「む?」
「墓地からモンスターが特殊召喚された時、このカードを特殊召喚できる!」
葬られたはずの機械戦士が地面を割って飛び出し、その頭上を越えて黒い影の歩兵が続く。
「多少はやるようだが……その程度ではオレには届かん! さらにカードを伏せ、ターンエンドだ!」
ジャック:手札3→2
「オレのターン!」
遊星:手札3→4
手札の数では上、モンスターの数は互角。
しかし、遊星のデッキのモンスターはシンクロ召喚をすることが前提の低ステータス……言ってしまえば場に並べることだけに特化したものが多く、単独で戦えるようなカードはわずかだ。
元がサテライトに流れ着いた、捨てられていたカードを拾い集めて作ったデッキなので仕方がないのだが。
だが、今は一刻も早くこのデュエルを終わらせなければならない。
先ほど見たブルーノらしきD・ホイーラーを早く追わなければ。
「………………」
そのことで頭がいっぱいの遊星は、ジャックがわずかに速度を緩め、並走してきたことにも気づかない。
「オレはチューナーモンスター、《ジャンク・シンクロン》を召喚!」
メカニックを思わせる風貌の、リコイルスターターを背負った二頭身のロボットが現れる。
ネオ童美野シティでは安価なモンスターだったが、いまや遊星の代名詞として定着しているほど有名なカードだ。
「レベル2の《ドッペル・ウォリアー》に、レベル3の《ジャンク・シンクロン》をチューニング!」
「集いし星が、新たな力を呼び起こす! 光さす道となれ!」
「シンクロ召喚! いでよ、《ジャンク・ウォリアー》!!」
チューニングリングをくぐって遊星の前に降り立ったのは、ライトパープルの装甲に身を鎧った格闘戦士の姿。
これが遊星のエースモンスター、その一つ。
「《ドッペル・ウォリアー》がシンクロ召喚の素材となった時、オレの場にドッペル・トークンを2体、攻撃表示で特殊召喚する! さらに、《ジャンク・ウォリアー》の攻撃力は、自分フィールドのレベル2以下のモンスターの攻撃力分アップする!」
「レベル2以下……つまり、その3体のモンスターの攻撃力合計、1700ポイントが加わるというわけか」
―――パワー・オブ・フェローズ!!
「まだだ! さらにオレは、手札の《フェイク・ガードナー》を墓地に送り、《クイック・シンクロン》を特殊召喚!」
続けてさらに、ガンマンの姿をした機械戦士が出現。
手にしたリボルバーを構えると、眼前に色々なシンクロンたちの姿を映したルーレットが投影された。
狙いすまして放った銃弾?が撃ち抜いたのは《ジャンク・シンクロン》。
「このカードは、シンクロンと名のつくチューナーの代わりになることができる! オレはレベル1のドッペル・トークン2体に、《クイック・シンクロン》をチューニング! 集いし叫びが、こだまの矢となり空を裂く! 光さす道となれ!」
「シンクロ召喚! 現れよ、《ジャンク・アーチャー》!」
再びのシンクロ召喚、姿を見せたのは狩人を思わせる姿をした、弓を持つ機械戦士。
よく見ると《ジャンク・シンクロン》の意匠が見受けられ、同系統のモンスターであることが読み取れる。
「1ターンに2度のシンクロか……そのくらいはやってくれねばな」
「《ジャンク・アーチャー》の効果発動! 相手モンスター1体をこのターンの間除外する! 《鏡像のスワンプマン》を除外せよ! ディメンジョン・シュート!」
引き絞った弓から放たれた矢が空間を貫き、スワンプマンを渦の中に飲み込んだ。
「罠モンスターは、カード効果によってモンスターとして存在する! その関係性が切れれば、モンスターゾーンには留まれない!」
「それがどうした? 貴様の力はこんなものか!」
「ならば、バトルだ! 《ジャンク・ウォリアー》でブルー・セイリオスを攻撃! スクラップ・フィスト―――!!」
背中のブースターで急加速した《ジャンク・ウォリアー》が、天狼王を狙いすまして鉄拳を叩き込む。
が、
「考えが甘いわ! 罠カード《王者の疾風》を発動!」
《王者の疾風》
通常罠
①:自分フィールドのモンスターが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップに発動できる。このターン、その自分のモンスターは戦闘では破壊されず、その戦闘で自分が受ける戦闘ダメージは相手も受ける。
「これによりブルー・セイリオスは破壊を回避! さらに、オレが受ける1600のダメージを貴様にも受けてもらう!」
「なにっ……うおおおおおおっ!!?」
ヒットと同時に吹いた突風が物理的圧力を伴い、遊星号を激しく揺さぶる。
一方で同じだけの衝撃に襲われたはずのジャックの方は、やはりいささかの揺らぎもない。
ジャック:LP3200→1600
遊星:LP3200→1600
(ぐっ、戦術ミスか……! これでは《ジャンク・アーチャー》の攻撃は通らない……!)
「ターンエンド……!」
遊星:手札1
「一時的に除外された《鏡像のスワンプマン》は、モンスター扱いになる効果を失ったため墓地に送られる。オレのターン!」
ジャック:手札2→3
「どれほどの力があるかと思えば、この程度か、不動遊星!」
「何……!?」
「貴様は一体どこを見ている! 貴様の敵はこのオレ、ジャック・アトラスだ! 目前の敵が見えぬデュエリストに、勝利などあり得んッ!」
まさに、怒号。
雷鳴のような王者の一喝に、遊星は言葉を返せなかった。
確かに、一刻も早くこの戦いを終わらせ、ブルーノを追うことしか頭になかった。そのことに、今更のように気づかされた。気づかざるを得なかった。
だが、そこから遊星が立ち直るのを待ってくれるほどジャックは気が長くなかった。
その辺りは遊星の知る彼と同じらしい。
「このターンで叩き潰してくれる! オレはチューナーモンスター、《漆黒王 ブラック・クラック》を召喚! このモンスターはリリースなしで召喚でき、召喚した時にレベルを任意の数値に変更できる! レベル2を宣言!」
「チューナー!? まさか……」
合計レベル8。
まさか、と過ったその予感は、現実のものとなる。
「レベル6のブルー・セイリオスに、レベル2のブラック・クラックをチューニング!」
「漆黒の闇を裂き、天地を焼きつくす孤高の絶対なる王者よ! 万物を睥睨し、その猛威を振るえ!」
「シンクロ召喚! いでよ、《琰魔竜 レッド・デーモン》!!」
その瞬間、遊星は瞠目した。
「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》……!」
遊星にとってその姿は、チームメイトたるジャックのエース、シグナーの竜の一つにしか見えなかった。
よく見れば、その体に《レッド・デーモンズ・ドラゴン》にはない紋様が走っていることがわかったはずだが、この時の彼にそんな余裕はなかった。
「レッド・デーモンのモンスター効果発動! このカード以外の攻撃表示モンスターをすべて破壊する!」
「なっ!?」
―――
フィールド全体を覆う爆炎。
弾け飛ぶ火炎と衝撃波が、遊星の2体のモンスターを一瞬にして薙ぎ払った。
「貴様のフィールドはガラ空き、これで終わりだ! レッド・デーモンのダイレクトアタック!
「まだだ! オレは墓地の《フェイク・ガードナー》の効果発動! ダイレクトアタックを受ける時、このカードは墓地から特殊召喚できる!」
だが、続く特大の火炎弾は、墓地から飛び出したピエロのような戦士が身を挺して受け止め、遊星には届かない。
「戦闘で破壊された《フェイク・ガードナー》は、効果により除外される……!」
「フン、しぶとさだけは同じか。オレはカードを伏せてターンエンド! そして、ブラック・クラックの効果発動だ。リリースなしで召喚したこのカードを素材にシンクロ召喚を行った場合、そのエンドフェイズにお互いのプレイヤーは1枚ドローする!」
ジャック:手札1→2
「くっ……オレのターン!」
遊星:手札1→2→3
あまりにも、ジャックは強すぎた。
遊星が心の乱れから本調子でないことも手伝ってはいるが、そもそも気迫があまりに違う。
その結果がこのありさまだ。モンスターは全滅、手札は3枚。
(……頭を切り替えろ! 今は、全力でジャックを倒す! しっかりしろ、不動遊星!!)
必死で自身を説得しながら、遊星は今打てる手を全力で検討する。
ジャックの場には伏せカードが1枚、攻撃力3000のレッド・デーモンがいる。あのモンスターを突破するにはどうすればいいのか?
(モンスターをいくら並べても、効果で殲滅された上でダイレクトアタックが来る……だが、逆に守備モンスターを薙ぎ払う能力はない)
もう一度効果を使わせれば《スターダスト・ドラゴン》の効果で破壊できるが、そもそもステータスで上回っている以上、普通に殴り倒されるのが落ちだ。
それをさせないための方法は何か、それを今から実行するにはどうするべきか。
(……これに賭けるしかない!)
「オレはチューナーモンスター、ブルー・エクスペンス・ファルコンを召喚! その効果により、手札の《スター・ブライト・ドラゴン》を召喚することができる!」
《蒼穹隼》
チューナー・効果モンスター
☆2/風属性/鳥獣族
ATK800/DEF600
このカードをS素材とする場合、風属性モンスターのS召喚にしか使用できない。
①:このカードが召喚した時に発動できる。レベル4以下のモンスターの召喚を行う。
「《スター・ブライト・ドラゴン》の効果発動! 召喚に成功した時、オレの他のモンスターのレベルを2つまで変化させることができる! 《蒼穹隼》のレベルを4に!」
「来るか……!」
「レベル4の《スター・ブライト・ドラゴン》に、レベル4となった《蒼穹隼》をチューニング!」
「集いし願いが、新たに輝く星となる! 光さす道となれ!」
「シンクロ召喚! 飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!!」
天空へと舞い上がったのは、大きく広がった両翼と長い首、人間のそれに近いバランスで配置された手足が印象的な、白き竜。
遊星のエースモンスターであり、シグナーとしての半身。
「現れたか、スターダスト! だが、一手遅かったな。今になって現れたところで、我がレッド・デーモンは超えられん!」
「確かに、今のオレの手札にそれを可能にするカードはない……だから、オレはオレの可能性に賭ける! 魔法発動!」
《流星の宝札》
通常魔法
①:自分が「スターダスト」SモンスターをS召喚したターンに発動できる。自分は2枚ドローする。
遊星:手札1→2
「……!」
(何を引いた……?)
ドローカードを見て、遊星の表情が変わったのをジャックは見逃さなかった。
何かが来る、と予感が走る。
「《クイック・ソルジャー》を召喚! そしてその効果により、手札からチューナーモンスター《モノ・シンクロン》を特殊召喚する!」
「さらなるシンクロか。レベルの合計は5……」
「いや、《モノ・シンクロン》の効果により、シンクロ素材となるモンスターのレベルは全て1となる! 俺は、レベル1扱いの《クイック・ソルジャー》に、レベル1の《モノ・シンクロン》をチューニング! 集いし願いが、新たな速度の地平へいざなう!」
「シンクロ召喚! 希望の力、《フォーミュラ・シンクロン》!」
レーシングカーをロボットに改造したかのような、シンクロンの名を持つモンスター。
その名前が示すものは、
「シンクロ・チューナーだと?」
「まずはシンクロ召喚成功により、カードをドロー!」
遊星:手札2→0→1
「そして、レベル8の《スターダスト・ドラゴン》に、レベル2の《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!」
瞬間、ジャックは我が目を疑った。遊星のDホイールがいきなり加速したかと思うと、目の前から一瞬にして消えたからだ。
「何……!? 消えただと!?」
「集いし夢の結晶が、新たな進化の扉を開く! 光さす道となれ! アクセル・シンクロ――――ッ!!」
「生来せよ! 《シューティング・スター・ドラゴン》!!」
後方から姿を現したボルガニック遊星号を追って、流星の名を与えられた白き竜が夜明けの迫る暗闇の空を走る。
かつての戦いで手にした進化の一歩目、その証たるアクセルシンクロモンスターが、ジャックへと襲い掛かる。
「《シューティング・スター・ドラゴン》の効果発動! デッキの上から5枚のカードをめくり、その中のチューナーの数だけ攻撃することができる!」
「連続攻撃か。だが、そう上手く行くか?」
「やって見せる!」
言い放ち、一気に5枚のカードを引き抜く遊星。
果たして。
「……チューナーは《ハイパー・シンクロン》と《アサルト・シンクロン》! よって2回の攻撃が可能!」
めくれたチューナーはわずか2枚だったが、残りライフ1600のジャックを倒すには十分な攻撃回数だ。
恐らくここを逃せば勝機はない、そう確信した遊星は勝負をかけた。
「バトルだ! 《シューティング・スター・ドラゴン》でレッド・デーモンを攻撃! スターダスト・ミラージュ!」
流星のごとき突撃が、レッド・デーモンを貫き粉砕する。
ジャック:LP1600→1300
「ぬぅっ……!」
「これで終わらせる! ダイレクトアタックだ!」
「甘いぞ! オレは罠カード《リジェクト・リボーン》を発動! ダイレクトアタック宣言時、バトルフェイズを強制終了する!」
しかし、とどめとなるはずだった返しの一撃は急加速したホイール・オブ・フォーチュンを捉えられず外れ、のみならずたった今倒したはずのレッド・デーモンがそこに再出現していた。
「さらに、オレの墓地からシンクロモンスターとチューナーモンスターを1体ずつ特殊召喚する! ただし、モンスター効果は無効になる。これにより、レッド・デーモンとハイド・ライドを特殊召喚させてもらった」
「っ、これでは……オレはターンエンド!」
遊星:手札1
「オレのターン!」
ジャック:手札1→2
「なるほどな。正直な話、オレは貴様を見くびっていた。確かに、脅威に立ち向かうだけの力が貴様にはある」
ジャックが何を言っているのかよくわからず、ただ耳を傾ける遊星。
構わず話は続く。
「しかし、まだだ! まだそれでは足りん!」
「!?」
「人は生きていく限り一人! デュエルもまた然り! どれほどの応援を受けようが、どれほどの期待を背負おうが、戦うのは己のみ! 己を信じられぬ者に勝利など訪れはしない!! 貴様は己のカードをどれほどに信じられる? 己自身をどこまで信じている!?」
「オレには迷いも揺らぎもない! ましてや、己に疑いを持つなどあり得ぬ! 頂点は常に一人! それこそがこのオレ!
咆哮そのものの大音声で断言するジャック。
その姿は、まさにキングと言うべき気迫に満ちていた。
「これから貴様を待ち受ける敵は余人の想像をしのぐ。今の貴様がぶつかれば粉砕されて終わりだ。そうなる前に貴様の腑抜けた魂を、
レッド・デーモンと並ぶ2体のチューナー。
その姿に、遊星の脳裏を「あのモンスター」の姿がよぎる。
「オレはレベル8のレッド・デーモンに、レベル1のヘル・ゲルとレベル3のハイド・ライドをダブル・チューニング!」
「孤高の絶対破壊神よ! 神域より舞い降り、終焉を齎せ!! シンクロ召喚!!」
「降臨せよ、神王! 《琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ》!!」
―――王者。
そのモンスターを見た遊星が感じたのは、そんな印象だった。
レッド・デーモンの意匠を残しつつも、より巨大化した体躯、四本に増えた腕、何より発する威圧感。
まさにそのドラゴンは、フィールドに君臨する王だった。
「これは……! ダブル・チューニングのシンクロモンスター……!?」
「今この時、その身で学んでおけ。―――負ければこれだけでは済まんというコトをな!!」
「っ、だがレッド・デーモン・カラミティの攻撃力は4000! この攻撃を受けても、オレのライフはまだ残る!」
それでも、遊星は勝負を諦めてはいない。
《シューティング・スター・ドラゴン》が攻撃されても受けるダメージは700ポイント、まだライフを残すことができる。
「そしてシューティング・スターには攻撃を無効化する効果がある! そいつだけなら、通しはしない!」
「甘いわ! レッド・デーモン・カラミティがシンクロ召喚されたターン、貴様のフィールドで発動する効果は全て無効になる!」
「な!?」
だが、絶対王者の切り札はその程度の希望など、容易く踏み潰す脅威の化身だった。
「バトルだ! レッド・デーモン・カラミティで《シューティング・スター・ドラゴン》を攻撃!」
―――
四つの腕を組んだスレッジハンマーの一撃が、流星の竜を一瞬で撃墜する。
墜落の余波が遊星を襲い、バランスを奪われ大きく蛇行する。
遊星:LP1600→700
「うおおおおおおっ!? く……だが、まだ……!」
「そう、まだだ! レッド・デーモン・カラミティの効果発動! 相手モンスターを攻撃で破壊した時、その攻撃力分のダメージを与える!」
「!!」
そして気づけば、頭上に大量の燃え盛る隕石が降り注いできていた。
ホイール・オブ・フォーチュンがうなりを上げ、一旦後方に退いてから一気に抜き去りにかかる。
「受けろ不動遊星!! これがオレの究極の一撃―――クロス・フィール・バニッシュメントだ!!」
―――
刹那。
落雷もかくやという轟音の中、ボルガニック遊星号が宙を舞った。
途切れる寸前の遊星の意識が知覚したのは、あけもどろの光の向こうへ遠ざかっていくホイール・オブ・フォーチュンの駆動音だった。
遊星:LP700→0
―――聞いて。
―――届いて。
―――あの子たちを、止めて。
「遊星!! ……な、何だ、今のは……?」
海外のとあるホテル。
翌朝の試合に備えて調整を終わらせ、眠りについていたジャックは、何かにぶつかられるような感覚と共に眠りから覚まされた。
何事だ、と周囲を伺うが、誰もいない。
夢でも見たのか、と記憶を探るが、ぼやけて上手く思い出せない。
(遊星が出てきたような気がするが……そういえば、何か赤いものが空を飛んでいたような……)
ぼんやりとしかわからないが、あれは遊星号だろうか。
となれば、夢とはいえ遊星がクラッシュを起こしたことになる。
「……フッ、何をバカな。あの遊星に限ってそんなヘマをするはずもない」
まだあの町に未練があるのか、と自問するジャックは、即座に自答する。
いつの日かあの街に、真のキングとなって帰る。それが己に課した誓いだ。
帰りを待ってくれている者たちのためにも。
だが、もしその時が来たならば。
「そうだな……真っ先にあいつの顔でも見に行くとするか」
《漆黒王 ブラック・クラック》
チューナー・効果モンスター
闇属性/☆6/悪魔族
ATK1200/DEF1600
①:このカードはリリースなしで召喚できる。
②:このカードが召喚した時、1~12までの任意のレベルを宣言して発動できる。このカードのレベルはターン終了時まで宣言したレベルになる。
③:この①の方法で召喚したこのカードがS素材として墓地に送られたターンのエンドフェイズに発動する。お互いに1枚ドローする。
《クイック・ソルジャー》
効果モンスター
風属性/☆3/戦士族
ATK1000/DEF600
①:このカードが召喚した時に発動できる。手札からチューナー1体を特殊召喚する。
②:このカードは直接攻撃できる。