遊戯王5D's-The After   作:辛麺焼き

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第5話:不穏

海へと吹き飛んだ男が、派手に水柱を上げた。

どう考えても無事では済まないはずだが、予感がそれを否定していた。あの男はまた現れる、と。

 

「くそ、一体何だったんだあの野郎……」

 

極度の疲労に襲われてその場に座り込んだ涼。

ダメージの実体化を使ってきた点からして、恐らく闇のデュエルの関係者ではあるだろう。だがそれ以前に、あの男が思った以上に強かった。

 

「ぶっ飛ばしたのは早計だったかもな……とはいえ、出方を伺えるような甘い相手でもなかったしなぁ」

 

ぼやく涼。事実として、出方を伺うという選択は途中から消えていた。

決してパワーが高いとは言えないカードで、しかも切り札らしきモンスターを使わないままに涼を追い詰めて見せたのだ。

 

「シンクロどころか融合すらせずにあの強さかよ……」

 

とにかくこのことを遊星に知らせなければ、とその場を立ち去る涼だったが、一旦着替えようと自宅に戻ったところで、つけっぱなしだったテレビから飛び込んだニュースに目を剥いた。

 

「……は? 事故って入院って、遊星が!? そんな馬鹿な!?」

 

 

 

 

 

―――ドミノシティ未開発区域。

 

シティ中心部からかなり離れた場所にある鉱山地帯だ。

D・ホイールの部品となる鉱物「ダイン」が発掘される貴重な場所のひとつが、地理の問題でほとんど人の行き来はない。

たまにセキュリティが見回りに来たり、鉱物を輸送する業者が来る程度だ。

 

そんな場所に、唯一にして最大というべき街がある。

名は、サティスファクションタウン。

 

元々はダインの採掘のために集められた作業員の宿だったのだが、ダイダロスブリッジの完成後に変化についていけなかったならず者があちこちから集まり、結果できたのがこの街の前身「クラッシュタウン」だ。

なのだが、どこをどう間違ったのか街の作りから住人の服装まで中世アメリカ風という意味不明なことになっている。デュエルディスクですら拳銃型。街の住人がかなりまともになった今でも、服装とデュエルディスクだけはこの街独自のファッションとして定着してしまっている。

 

「満足」を意味する名を冠されたこの街は、かつてと言うほどでもない過去、主権を巡る争いに巻き込まれた。

その争いを制し、街の秩序を取り戻した男がいる。

―――鬼柳京介。この街の現在の長であり、かつては旧サテライトにおける最強チームのリーダーだった男だ。

 

その彼は今、

 

「なんだ……このカードは?」

 

自室に戻ってきたところで、見た覚えのないカードを前に困惑していた。テーブルの上に無造作に置かれている。

シンクロモンスターのようだが、こんなカードは知らない。最近出たカードだとしても、この町で手に入れる方法はない。

何がどうなっているのか、と考えているうちに頭が痛くなってきた。

 

思えばここ数日、まともに眠っていない。

最近はシティでもこの街でも不審者による襲撃事件が増えており、その捜索活動が続いているのだ。

だがさすがの鬼柳も、遊星のようには行かなかったようだ。

 

「……最近は働き過ぎたな。ニコの言うとおり、少し寝ておくか……」

 

 

 

―――夢を見た。

知らないはずの……だが、とても懐かしい夢だ。

 

風の吹きぬける廃墟。対峙しているのは、かつてのチームメイトであるジャック・アトラス。

だが、違う。明らかに違う。

傲慢で自分勝手で分からず屋だが、どうしても憎めないあのジャックとは違う。

 

威厳、そして気風。纏う空気はまさに王者そのもの。そこには、以前街で再会した時の雰囲気はない。

 

その彼が、自分に向けていう。

 

『いいのか? 決闘星宿(デュエル・ゾディアック)を目指さなくて。ここには星札(スター・チケット)はないぞ』

 

何だそれは、と問う前に、自分の口が勝手に動く。

 

『……オレは統一皇帝(エンペラー)など興味はない。そんな称号ではオレは満足できない。……今は廃墟と化したこの場所……覚えているだろう。だからお前はここに来た』

 

視界がわずかに動く。目に入ったのは、朽ち果てた施設の看板。

 

仮想立体触感研究所(バーチャル・ソリッド・フィール・ラボ)……フィール? フィールとは何だ?)

 

知らない単語の連発に混乱する鬼柳をよそに、夢の中の二人の会話は続く。

 

『ここは、オレ達のデュエリストとしての原点の地だ』

 

こんなところが始まり? サテライトではないのか?

夢は過去の記憶へと鬼柳を導く。

だがそこは、今や懐かしいあの無法地帯ではない。

 

監獄のような、病院のような、施設の中。

だが、そこにいる中で鬼柳が知っているのはジャックだけだ。しかも雰囲気が違い過ぎる。

やはり、自分の知るあのジャックではない。

 

(これはどういうことだ……どこなんだ、ここは? 遊星はどうした? クロウはいないのか? あいつは?)

 

かわされる会話。よく聞き取れないが、養子がどうのと言った話の他、レクス・ゴドウィンの名が聞こえた。

鬼柳にとっても無縁の名ではないが、今はもういないはずだ。

 

そして始まったジャックとのデュエル。―――負けた。勝ってここを去ることを恐れた。

ジャックが何かのカードを受け取る。その表情は凶相。

 

施設の爆破。奪ったカード。逃走の日々……。

 

 

『フン……仲間思いが聞いてあきれるわ!』

 

時間が戻る。侮蔑を隠そうともせず吐き捨てるジャックに、自分の手が勝手に動き、一枚のカードを投げ渡した。

そのカードを見たジャックは、表情を変えず問いかけてくる。

 

『……何のつもりだ?』

 

自分が答える。

 

『……あのラストデュエルでの局面……オレには迷いがあった。全力を尽くすと言いながら、デュエルに集中しきれなかった。満足できなかった……だが、オレは貴様の前に帰ってきた』

 

その手が、一枚のカードを示す。

 

無手札必殺(ハンドレスコンボ)とこの決闘竜(デュエル・ドラゴン)……《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》を携えてな』

『貴様も決闘竜を手に入れたのか』

 

またもわからない単語の登場だ。

だが、なぜか直感した。それがこの夢の鍵だと。

 

決闘疾走(ライディングデュエル)だ、ジャック。今度は互いの決闘竜を賭けてな』

『いいだろう。あのデュエルに未練が残ると言うのなら……レッド・デーモンの紅蓮の炎で、貴様の決闘竜ごと焼き尽くしてくれる!』

『オレのオーガ・ドラグーンが貴様のレッド・デーモンを、煉獄に叩き落とす……!』

 

 

『『デュエル!!』』

 

 

 

「……はっ!?」

 

不意に意識が浮上する。目を開けると既に室内は真っ暗。どうやら既に夜になってしまったようだ。

 

「もう9時か……眠り過ぎたな……ニコとウェストの言うとおり、少々根を詰め過ぎたな。しかし……なんだ、今の夢は?」

 

夢の内容は、目覚めた今もはっきりと思い出せる。

どことも知れぬ廃墟で対峙する自分とジャック。両者の手に握られるカード―――決闘竜。

ジャックのそれは見ることが出来なかったが、名前から想像がつく。

 

「《レッド・デーモンズ・ドラゴン》……あのドラゴンの仲間か何かか……」

 

では、鬼柳自身のそれは?

 

「……こいつか……」

 

テーブルの上のカード。現在のエースである《インフェルニティ・デス・ドラゴン》と同じ、白地のシンクロモンスター。

《煉獄龍 オーガ・ドラグーン》。

 

「夢の中に出てきたカードがなぜここにある……まさかジャックのところにも現れていないだろうな……」

 

夢の中のジャックは明らかに人格が異なっていた。

上手く説明できないが、自分の知るジャックと比べると、切っても切れないある種の甘さのようなものが感じられない。

 

「……どうも気になるな。ただの夢とは思えねえが……ん? 何だ、ありゃ」

 

窓から外を見下ろすと、街中を誰かが歩いているのが見えた。

この街の住人の夜は、遅い。だから、こんな時間になっても誰かが歩いているのは珍しくない。

しかし、何かが引っ掛かった。かつてこの街にやってきた時の遊星のように、街の空気から浮いている。

注意深く観察していると、その人影はどうやら、街に紛れ込もうとしているように思えた。

 

移住を制限するような条例はないが、深夜にやって来るのはどう考えてもおかしい。それにこの街は規模がシティほど大きくはないとはいえ、決して少なくない住人はほぼ誰かの顔見知り。つまりよそ者はすぐに察知される。

となれば、あれはこの街で何か、よからぬコトをなそうとしていると考えるのが自然だ。

 

(放っておくのもまずい、か)

 

愛用のデッキと銃型デュエルディスクを身に着け、外出用の黒いコートを羽織る。鬼柳なりの戦装束だ。

そして、

 

「……一応持ってくか」

 

オーガ・ドラグーンのカードも取り上げ、デッキに投入した。

 

 

 

実質的な庁舎を兼ねている自宅を出ると、挙動不審な謎の人物の姿を、月明かりの下でよりはっきりと見ることができた。

長身の男のようだが、どうにも違和感が激しい。怪しいものだと全身で主張しているかのようだ。左腕に輝くものは、デュエルディスクか。

人目を憚るでもなくフラフラと歩いているが、今出てきたばかりの鬼柳はちょうど死角の位置のようだ。

 

(何をしてやがる……?)

 

しばらく後をつけていると、謎の不審者が呟くのが聞こえた。

 

「ここは……ネオ童美野シティではないのか? シグナーを狙ったつもりだったが、なぜこんなところに……

(!?)

 

しかもよく見れば、あの巨大なディスクは覚えがある。思わず飛び出した彼は、不審者に向けて叫んでいた。

 

「待て! お前……誰だ!!」

「!」

 

振り返ったその男は、今まで見たことのない顔だった。

斬り付けるような鋭い目線が鬼柳を見返し、一瞬で臨戦態勢に入る。

 

「見つかったか……! やむを得ん、排除するしかあるまい」

「こっちの台詞だ!」

 

吐き捨てて鬼柳もホルスターからディスクを早撃ちの要領で抜き、デュエルモードを展開。

同時に周囲を紫の炎の壁が覆う。

 

「こいつは……ダークシグナーの!?」

「借り物というより拾いものの力だがな。だが、貴様を潰すには十分だ。行くぞ!!」

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

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