地球から遠く離れた銀河に存在する惑星Zi。
かつてこの惑星には、帝国と共和国。二つの国が惑星の覇権を争い、長きに渡る戦争が行われていた。
その戦争において、両国はゾイドと呼ばれる金属生命体を主力兵器として改造・運用していた。
激化を辿る戦争。だが、長く続いた戦争はいつしか終結を向え、永く平和な年月の中、惑星Ziからは”国”という概念が消え、各都市が確固たる自治を持ち、都市間での貿易が行われるようになっていった。
だが、戦争が終わり国が消えても、人とゾイドの関係が変わることはなかった。
***************
二人の少女に銃を突きつけられ、男の頬から汗が流れる。
「っ!・・・・・」
特に目の前に立つ、猫の様な釣り目をした女の子などは、今にも男に発砲しかねないほど殺気立っていた。
―なんで、こんなことになってるんだ・・・・オレ?
その男・・・・・”エス”と名乗る彼は、命の危機に晒されながら、自分の陥っている状況を振り返り始めた。
彼の一番古い記憶は、一週間ほど前から始まる。
気が付くと、乾いた砂と岩に覆われた荒野に一人、エスは佇んでいた。
「ここは・・・・・・・・・オレは?」
彼は、自分が何者で、何処から来て何処へ行こうとしていたのか、忘れてしまっていた。
自分のことを調べようにも、凡そ荒野を旅するには軽装過ぎる格好をして、目ぼしい手荷物は辺りに無く、あるのは首に掛かる表面が削れ、辛うじて”S”と読めるプレートと稲妻を横にしたようなマークの刻まれたプレートが二枚ついたペンダントだけ。
途方に暮れるエスだったが、佇んでいても状況は好転しない、と当ても無く荒野を彷徨い始め、そして数時間後に生き倒れた。
だが、幸運なことに彼が倒れた場所は、交易路としてキャラバンが利用している”道”の上で、さらに運良く通りかかったキャラバンに助けられたのだった。
エスは、助けてくれたキャラバンのメンバーたちにお礼を言い、自分の身に起こっている事態を説明した。
話を聞き、荒野を彷徨うには軽装過ぎるエスの格好。荷物も無く、唯一の所持品は首から下げる表面の削れ、辛うじて”S”と読めるプレートと見慣れないマークの刻まれたプレートの二枚がついたペンダントだけ。キャラバンのメンバーは、盗賊に襲われた際に、荷物だけでなく記憶も無くしたのでは、と心配した。
”エス”と言う名前も、名無しのままでは不便だろうと、唯一の持ち物であるペンダントに刻まれた”S”と言う文字から、キャラバンのメンバーが名づけたものだ。
記憶も無く、行く当てもないエスにメンバーたちは「丁度人手が足りない。仕事を手伝うなら、ここに居ても良い」とエスに提案し、彼は「頼む」と即答したのだった。
そんなエスが、キャラバンに参加し初めて訪れた都市が”要塞”と言って差し支えない、台地の上に築かれた巨大な都市であった。
要塞都市・・・通称【白百合の園】
かつて、花街として栄えていたそこでは、女性は道具であり、虐げられる存在だった。
そんな状況を憂い、一人の女性が立ち上がる。後にマザーと呼ばれるその女性は、不満を持つ多くの女性たちを束ね、都市を支配する男たちに反乱を起こし、ついには都市の首長と男たちを排除することに成功した。
その後、マザーはそこに新たな都市を作り、いつしか”女の楽園”と呼ばれるようになっていった、とエスは説明を受けた。
白百合の園は、強固な壁に護られ、台地という地理的優位も合わさり、まるで中に住む女性たちの貞操のような鉄壁さだと言わしめるほどだった。
そんな台地の麓には、他のキャラバンが数多くキャンプを張り、滞在していた。
「全員ここで、何をしているんだ?」
「もちろん商売さ。街には女しか入れないから、キャラバンに所属する女たちに街へ交渉に行かせ、帰りを待っているキャラバンや、キャラバン同士の商売や情報交換なんかも行われているんだ」
「ふーん・・・・・」
キャラバンで仲良くなったメンバーのマークに説明を受けながら、エスは興味深げに辺りを見渡す。
所属する女性たちが、白百合の園へと商売に行っている間、帰りを待つ男たちは同じように外で待っているキャラバンと情報交換などをしていた。
「・・・まぁ、俺たちは待つしかないから、好きに見て回っても良いけど、あそこへは近づかないほうがいいぜ」
マークの指差す方を見ると、銃で武装した警備と思われる屈強な女性が二人、辺りを警戒しながら立っていた。
ドアの様な物が後ろに存在し、そこを警備しているようだった。
「何かあるのか?」
「白百合の園へ上がるエレベーターがあるんだよ。男が下手に近づけば、警告なしで撃ち殺されるからな」
首を掻っ切るようなジェスチャーをするマーク。
実際、不用意に近づこうとする男に、警備の女性は躊躇なく銃口を向けている。
「・・・・・・解った」
危険を冒すつもりの無いエスは、そのままメンバーたちと別れ、散歩へと出た。
「・・・グスタフ・・・・あまり、メンテされていないな」
目の前の鉄の塊を見つめ、エスはそう呟く。
輸送用ゾイド、グスタフ。他のゾイドと比べ、強固な装甲に覆われたその機体は、主に輸送用として古くから活躍している人々に身近なゾイドだった。
他にも、キャラバンを護衛する傭兵が乗っていると思われる、モルガやガイサックなどがそこかしこに停めてあり、傍には傭兵と思われるゾイド乗りたちが、退屈そうにしていた。
エスは、自分のことを何も覚えていなかったが、なぜかゾイドに関する知識は覚えており、その知識量はキャラバンのメンバーを唸らせるほどだった。さらに、ゾイドの駆動音を聞くだけで、調子を知ることなど朝飯前。ゾイドの操縦も、拾ってくれたキャラバンの誰よりも上手かったので、全員から「良い拾い物をした!」と喜ばれたほどだ。
とは言え、それだけの腕前と知識があるのなら、有名なゾイド乗りではないだろうか、とキャラバンのメンバーたちは考え、居残りメンバーは、他のキャラバンから情報を仕入れに行ってくれている。
やることも無く、その場に座りただ呆然とゾイドを眺めていたエスの身体を、突然言い知れぬ衝撃が駆け抜けた。
「!・・・・・・・・・」
立ち上がり、エスが遠くを見つめるも、そこは見渡す限り広がる荒野。
身体から発せられる”警報”に目を細めるエスは、遠くでいくつもの土煙が上がるのを見た。
すると、辺りにけたたましいサイレン音が鳴り響き、人々が慌ててその場から逃げ出し始める。
「おい、あんちゃん!そんな所にいたら踏み潰されるぞ!」
傭兵と思われる男に逃げるよう促されるエスは、男の腕を掴む。
「何の騒ぎだ?」
「盗賊だよ!盗賊!!もうすぐしたら、白百合の園から警備隊が出動する。ここは、その通り道なんだよ!!」
傭兵は、エスの手を振り払うと、仲間の下へと走っていった。
傭兵の警告を聞き、エスもその場を離れるために駆け出すと、誰かが落とした双眼鏡が足に当たった。
拾い上げ、土煙の方へと双眼鏡を向けるエス。
双眼鏡によって拡大される遠く離れた光景。そこに映し出されたのは、こちらに向ってくるゾイドの群れだった。
「モルガに・・・・ガイサックか?」
見える範囲で近づいてくるゾイドを確認するエス。すると、後方の台地から地響きと共に唸り声の様な轟音が響き渡り、台地の一部に造られた”発進口”が大きく口を開いた。
『セレナーデ隊、発進しますわ!外にいる者たち。踏み潰されたくなければ、道を空けなさい!!』
大音量で響く女性の声と共に、三つの白い巨体が姿を現した。
『さぁ、行きますわよ!』
『は、はい!』
『了解です!』
装甲を純白に染め、名の由来となった二振りのレーザーブレードを携えた三体の獅子が、掛け声と共に大地を踏みしめ、迫り来る盗賊たちへと駆け出した。
純白の獅子たちを見送るエスの表情が、一気に険しくなる。
「あのブレードライガーたち・・・・かなり高度な整備を受けているようだが、パイロットは”ひよっ子”か」
通り過ぎた瞬間、エスにはゾイドとそのパイロットの”力量”が手に取るように解った。
確かに、ブレードライガーは強力な機体だが、乗っているパイロットは明らかに”実戦慣れ”していない新米だった。
にも拘らず、ブレードライガー三体以外、他のゾイドが出てくる気配は感じられず、そのまま発進口の巨大な扉は閉まってしまう。
あまりに無謀な対応に、エスが舌打ちしていると、背後からニ体のゾイドがエスに向って駆けて来た。
『エスっ!』
『エス!無事か?!』
それは、エスが身を寄せているキャラバンが所有している二機のコマンドウルフで、専属パイロットの意向により、一方は伝説の傭兵が乗っていたコマンドウルフと同じ黒と赤のカラーリングに、背面武装も機動力を奪うが砲撃力を上げるロングレンジライフルが装備され、もう一方はデザートカラーに、ニ連装ロングレンジキャノンとアシスタントブースターを装備したAC仕様。しかも対人ガトリングと対ゾイドニ連衝撃砲まで取り付けたフル装備版である。
それぞれのキャノピーが開き、中からパイロットたちが顔を見せる。黒いコマンドウルフには妹のナデアが、そしてデザートカラーの方には、兄のジェドーが乗っており、兄妹の息のあったコンビネーションには定評があった。ナデアは、他の女性メンバーと一緒に白百合の園へは行かず、兄と共に相棒であるコマンドウルフの調整をしていたが、騒ぎを聞きつけ散歩から戻らないエスを探しに飛び出し、そんな妹を心配して兄までついて来ていたのだった。
ジェドーの問いに、エスは視線を”戦場”に向けたまま、頷く。
「あぁ・・・・・それより、ここの奴らは正気か?いくら強力なゾイドに乗っているとは言え、新米だけで戦わせるなんて・・・」
苦虫を噛み潰したように顔を顰めるエスに、ジェドーは首を傾げるが、すぐに何かを思い出し、手を打った。
「新米?・・・・それは多分、”初陣式”だ」
「初陣式?」
説明するよう視線で促すエスに、ジェドーはため息混じりに説明し始めた。
「ここの警備隊は、少々古風なんだ。警備隊の訓練生の中で、試練に合格した上位三人だけが初陣式に臨めるらしい。聞いた話では一応、相手の戦力などを分析し、絶対に勝てる相手と判断した場合のみ送り出すよう、考慮しているとは言っていたが・・・・・」
暢気に説明しているジェドーに、妹のナデアが声を上げた。
「それより、お兄ちゃん!エスを連れて皆のところへ戻らなきゃ!いつ流れ弾が飛んでくるか判らないのよ?!」
「っと、そうだった。エス!」
妹に指摘され、ジェドーがエスに声を掛けるが、何故かエスはその場から動こうとはしなかった。
―何となくだが、彼女らは負ける・・・・・
彼の中に漠然と、だが確信を持ってそう思える”何か”があった。
***********
エスの予想通り、ブレードライガーの三体は、戦闘状態に突入して数分で窮地に立たされていた。
襲ってきた者たちは、ガイサックやモルガなどで武装し、白百合の園周辺を縄張りにして、いつもちょっかいを出してくる盗賊たちだった。
三体のブレードライガーは、訓練どおりにフォーメーションを組んで戦闘を行い、盗賊たちを一蹴した。
予定調和といえる戦闘。
しかし、今回はいつもと違った。
敵を倒して一息ついていた彼女たちに、砲弾が降り注いだ。
『な、何?!』
目くらましと取れる砲撃に騒然としていると、彼女たちの眼前に大型のゾイドが現れた。
「レッドホーン?それも、三体も・・・・?」
そう、重装甲と多数の武装が施された「動く要塞」と呼ばれるゾイド、レッドホーン。辺境の盗賊が持つには強力なゾイドが三体も現れ、しかも先ほど倒した数を超えるゾイドを引き連れていたのだ。その光景に、ブレードライガーのパイロットである少女たちは動揺した。
『いけ、野郎ども!』
動揺による虚を突かれ、彼女らは一瞬にしてレブラプターを中心とした小型ゾイドに取り囲まれ、四方からの砲撃に晒されることとなった。
即座にお互いの死角をカバーするようにフォーメーションを組み直し、Eシールドを展開して盗賊達の攻撃を耐える白き獅子と少女たち。
「こんな・・・・・これは、何かの間違いですわ」
攻撃の衝撃で揺れるコックピット内で、今回の初陣式で隊長に任命されたセレナーデは、目の前の現状を否定するように言葉を吐き出した。
”エリート”である自分には、この初陣式で華麗に先陣を切り、その後は華々しい人生が約束されているもの、と信じて疑わなかった。
だが、蓋を開けてみれば、聞いていた以上の盗賊の戦力に圧倒され、情けなく殻に閉じこもり攻撃に耐えている。その状況に、彼女のプライドは酷く傷つけられていた。
『・・・・いや、もういや!!』
突然、僚機から叫び声が上がり、シールドを展開したまま、たまたま手薄だった場所の敵を弾き飛ばし、白百合の園へと駆け出してしまった。
「?!エリナっ!何処へ行くのです!!」
セレナーデの怒鳴り声にも振り返ることなく、エリナの駆るブレードライガーは敵に背を向けて逃げ出してしまった。
均衡が破られ、逃げ出したブレードライガーを追って、何体ものゾイドが離れたが、レッドホーンを含む大部分が、セレナーデともう一体へと攻撃を集中させるのだった。
*************
「!こっちに来るぞ!!」
双眼鏡を覗いていたエスが声を張り上げる。
「っあぁ、もう!エス、あなたは下がってて!お兄ちゃん!!」
「分かってる!!」
逃げてくるブレードライガーと、それを追ってくる盗賊達のゾイドに毒付きながら、ナデアとジェドーはキャノピーを閉め、それぞれ照準を、ライガーに近いゾイドたちへと向ける。
「当たれ!!」
「っ!!」
ロックオン表示と共に二人がトリガーを引くと、ロングレンジライフルとニ連装ロングレンジキャノンが火を吹く。
ブレードライガーに襲い掛かろうとしていたガイサックとレブラプターが、コックピットごと撃ち抜かれ、衝撃によって機体がバラバラに砕け散り、爆散した。
しかし、やられた仲間を気にも留めず盗賊たちは怯むことなく、ライガーに襲い掛かろうとする。二人の兄妹は、ライガーに当てないよう細心の注意を払いながらトリガーを引き続けるが、そのせいで照準が甘くなり命中率が下がり始める。
とうとう、盗賊の攻撃がライガーの足元に着弾し、ブレードライガーが錐もみ状態で地面を転がる。
「くそっ!!」
すると、何を考えたのかエスが、転がったブレードライガーへと駆け出していた。
「エス?!」
悲鳴を上げるナデアだが、コックピット内に警報が鳴り響き、盗賊達の狙いが自分たちに向いたことを察し、エスを追いかけるのを諦め、意識を戦闘状態へと引き戻す。
盗賊達の目がナデアとジェドーのコマンドウルフに向いている隙に、エスは横転したブレードライガーへと取り付き、キャノピーを強制解放した。
中には、十七~八歳ほどの少女が頭から血を流し、気を失っていた。
シートベルトを外し、少女を外へと運び出すエス。その姿を、キャンプを張っていたキャラバンの人々は遠巻きに見ていた。
「おい!誰でもいい、この子を助けるのを手伝ってくれ!!」
そんな人々に、エスが大声で声を掛けるが、お互いに顔を見合わせたり、俯くなどして顔を逸らし誰一人として動こうとはしなかった。
エスは舌打ちし、手持ちの物で止血しなければと、ポケットなどを調べ始めた時だった。
「エス!!」
「エス、お前無事だったのか?!」
人ごみを掻き分け、マークとその兄貴分であるホメオが駆け寄ってきた。
「丁度良かった、この子を頼む!」
エスは、少女を二人に託すと、ブレードライガーの方へと駆け出した。
「頼むって、おい!お前どうする気だ!」
「・・・・・」
慌てて呼び止めるホメオだが、エスは一瞬振り返っただけで、そのままコックピットまで駆け上り、キャノピーを閉めてしまった。
「お、おい!エス!?・・・くそっ、マーク!メディカルキットを寄越せ!!」
ホメオは顔を顰めながら、目の前の少女を応急処置しようと、ボケッとしていたマークに怒鳴りつけた。
「は、はい!」
マークは、我に返ってショルダーバッグに入れているメディカルキットを慌てて取り出し、ホメオへ手渡した。
ブレードライガーのコックピットへ入り込んだエスは、シートベルトを手早く装着すると、コンソールを操作し始めた。
「こいつ・・・やっぱり
キャノピー内に表示されるデータを見つめ、エスが再びコンソールを操作すると、画面に【オーガノイドシステム、リミッターOFF】の文字が表示され、フリーズしていたコンバットシステムなどが再起動した。
何故、自分がこんな操作を苦も無く出来るのか、やはりエスには判らなかったが、その疑問を頭の隅へと追いやり、操縦桿を握った。
「悪いな、お前の相棒じゃないが、ほんの少しだけ手伝ってもらうぞ」
エスの言葉に呼応するかのように、倒れたブレードライガーが力強い駆動音と共に、咆哮を上げ立ち上がった。
「行くぞ、ブレードライガー!!」
スロットルレバーを全開にし、戒めの解かれた白き獅子が大地を踏みしめ、駆け出した。
よっ、エスだ。
訪れた白百合の園を襲う盗賊たちのゾイドを見て、無我夢中でブレードライガーに乗り込んでしまったオレ。
記憶喪失の上、戦闘用ゾイドなんて、ナデアたちのコマンドウルフしか乗ったことなかったのに、盗賊たちと戦うなんて、オレに出来るのか?
だが、俺の中の何かが行けると言ってるし、ここまできたらやるしかないよな!いくぜ、ブレードライガー!ブースター、オン!!
次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第二話「剣を携える白き獅子」!
新たな伝説が、ここに幕を開ける!