(???)
月日が流れ、少年は青年へと成長していた。
幼い頃に抱いた夢…「いつか、最高の相棒となるゾイドを見つけ、一緒に地平線の向こうを見に行く」という物は、残念ながら大きくなるにつれ、地平線の向こうに何があるかを知ってしまったがために、枯れてしまっていた。
だが、それでも抱き続けた「最高の
最高の相棒を得る為、彼は一流のゾイド乗りとなるべく、村を出ることを決意する。
周りの大人から反対され、幼馴染にも止められたが、誰も彼を止めることが出来なかった。
青年は期待に胸を膨らませ、旅立っていった。
***************
「……っ」
エスが目の覚ますと、そこはホバーカーゴの中にある自分の部屋だった。
「あれ?オレ、どうやって部屋に戻って来たんだっけ?」
自分の中に、記憶の欠落が感じられ「また記憶喪失になったんじゃないよな?」と思いつつ、何が起きたのか思い出しながら身体を起こしていると、エスは自身の身体に違和感を感じ、視線を落とした。
「…なんだ、これ??」
見ると、腕には太目の針が刺さり抜けないようにテープで止められ、点滴のパックに繋がるチューブから栄養が入れられていた。
「どういうことだ?」と考えているとドアが開き、いつものメイド服姿のエリーがトレーに飲み物を載せて持って入ってきた。
「あっエリー、丁度良かった!」
いいタイミングで来てくれたとエスは、エリーに襲撃者たちとの戦闘の後、何があったのか聞こうと声を掛けたが、当のエリーはエスを見つめたまま完全に固まってしまっていた。
このときエリーは、眠っているはずのエスが目を覚まし、しかも自分に声を掛けてきたことに、彼女は数瞬理解できず呆然としていたが、目の前の状況を理解すると、手に持っていたトレーを床に落とし、エスの胸に飛び込んだ。
「?!エ、エリー!?」
「……っよかった…エス様が、目を…覚ましたっ……」
そしてそのまま嬉しさのあまり泣き出してしまい、エスは困った表情を浮かべて、落ち着くまで待とうと、エリーを宥めた。
その後騒ぎを聞きつけて、ナデアとアンジェリカがエスの部屋に駆けつけて一悶着あり、エスが状況を確認できたのは、目覚めてから一時間以上後のことだった。
「は…?意識不明で、三日も眠ってた?……オレが?」
デザルト・チェルカトーレ専属の医者である”老師”の診察を受けながら、エスは先の襲撃者撃退後にあった出来事を、エスが目覚めたと聞いて駆けつけた面々から聞いていた。
自分があの戦闘で攻撃を受けた際、目立った外傷は無かったにも関わらず、この三日間意識不明だった事を聞き、エスは目を白黒させる。
「ここにある設備では、原因を調べることも出来なくてなぁ。できる事といったら、精々栄養用の点滴ぐらいだった…正直、大怪我を負ってくれたほうが、まだ楽だったぞ?」
脈拍などを取りながら、老師はさらりと怖いことを言う。
老師と言うのは愛称で、本名はステファン。かつてはニューへリックシティーの総合病院で医師をしていたステファンは、リョーコの夫である”旦那”と同郷の幼馴染である。”旦那”が親元から独立して、自分のキャラバンを立ち上げると聞いたとき、「腕の良い医者がいたほうが、何かと助かるだろ?」と言って、高給取りだった総合病院の医師をすっぱり辞めて合流した人物で、キャラバン創立メンバーの一人だ。
しかし、腕の立つ医者ではあるのだが、真面目な顔で冗談を言うのが珠に瑕だった。
「それでステファン…エスはどうなんね?」
いつのも悪い癖が出たと思いながら、リョーコは呆れた顔をしてエスの状況を問う。
「見た限り異常はなさそうだが、出来ることなら設備の整った病院で、精密検査はした方がいいだろう。特に、エスは記憶喪失でもあるしな」
目覚めたからと言って実は脳に重大な損傷を負っているという可能性が捨てきれない、とステファンはエスに、この際に精密検査を受けておくべきと、薦めた。
「そんなら、丁度良かったぁ!」
ポンと手を叩き、リョーコが声を上げる。
「?」
何が丁度良かったのかわからず、全員が首を傾げる。
「今おる場所の近くには、この大陸で
リョーコの言葉に、何故かナデアとエリーが驚きの表情を見せていた。
「せっかくやけん、少し寄って行こうかね。英雄の都に!」
女将であるリョーコの発案で、デザルト・チェルカトーレがその都市に到着したのは、次の日のことだった。
風都”ウインド・シティー”
かつて世界を救った英雄、”バン・フライハイト”の故郷であり、当時は小さな集落でしかなかったその場所は、大戦後に彼を慕って多くの人間が移り住み、今では西方大陸でもニューヘリックシティ、カイザーシュタットに次ぐ観光を主にする大都市である。
そんな”英雄の都”にある公営の大型パーキングに入ったデザルト・チェルカトーレの輸送車両や機体から、メンバーたちが降りてきた。
だがその服装は仕事着ではなく、まるでバカンスにでも行くような晴れやかなものだった。
「うわぁ~…ウインド・シティー!歴史好きなら一度は訪れるべき聖地!!その聖地に、あたしは初めて降り立った!」
「ワタシ…も、初めて……すごい人、だねっ!」
英雄の故郷を目の当たりにして、ナデアとエリーの二人が興奮気味に辺りを見渡す。
すると、パン!パン!と拍手の音が響いた。
「はいはい!この所、色々とバタつくことが多かったけんねぇ、今日一日は完全休業!皆しっかり骨休めするとよ!」
面々の視線の先に立っていたのは、普段の動きやすい仕事着では無く、親交のあるところへのあいさつ回りのために、訪問着に身を包んだリョーコと二人の娘のルナとルイだった。
メンバーたちに、休暇中の注意事項をルナが説明していると、ステファンが何処か心配そうな表情でエスに近づいてきた。
「エス…お前さん、本当に一人で大丈夫か?」
まるで初めてのお使いに行く子供に言うような台詞に、エスは顔を顰めた。
「老師…オレは子供じゃないんだ。病院くらい一人で行けるって」
当初ステファンは、エスが検査に行く病院への付き添いを申し出ていたのだが、一人で行けるとエスは同行を断った。丁度良いタイミングで、リョーコたちがステファンも知る人物に会いに行くと聞き、彼はリョーコたちについていくことになったのだった。
「まぁそうだな。こいつを見せれば、すぐに検査してもらえるはずだ。検査結果は、わしの所に送ってもらうように書いてあるから、検査が終わったら、好きにするといい」
ステファンは、上着のポケットから封書を取り出すと、エスに手渡す。中にはステファンの紹介状と共に手紙が入っており、病院に勤めている知り合いの医師に当てたものだった。
「分かった」
受け取った封書をポケットに入れると、エスはウインド・シティにある大病院に向けて歩き出した。
「エリー、まずは何処行こうか?」
「んっと…やっぱり、バン・フライハイトの生家…から、かな?」
途中まで行く道が一緒だと言う事で、ナデアとエリー、そして二人の保護者として付いて来ているジェドーの三人と一緒に、エスは病院を目指していた。
ちなみに、アンジェリカは「バーサークフューラーに関して、少し気になる事があるので残る」と言いホバーカーゴに残り、ホメオとマークはガールズハントに行ってしまい、他のメンバーも思い思いの場所へと出掛けていった。
英雄の都と呼ばれるウインド・シティーに到着してからというもの、ナデアとエリーのテンションはかなり高く、その表情は歳相応の少女そのものだった。
「やっぱ、そうだね!それから、英雄記念館に行って…締めはやっぱり!名物の…」
「よ~く冷えた…」
「「パパオの実!!」」
英雄バン・フライハイトが愛したとされる果物がこの都市の特産品で、マニアの間では彼とその仲間たちの足跡や当時の品物を展示する英雄記念館を見終わった後、偉大な英雄を想って冷えたパパオの実を食べるのが常識となっている。
二人も、その憧れを持っていたらしく、示し合わせたように言葉がハモる。
「よし!行こう!!」
「うんっ!」
待ちきれないと、ナデアがエリーの手を取り駆け出した。
「あ!おい、二人とも!!ったく……エス。検査が終わったら、絶対合流しろよ?俺一人で、子供二人のお守りは無理だからな!」
走っていく妹とその友達に悪態をつきながら、ジェドーはエスに合流する事を強く念押しし、ナデアたちを追いかけるため駆け出していった。
「分かったよ…それまで、頑張れ」
そんなジェドーの背中に声を掛けつつ、エスは短く息を吐き出すと、目的地の病院へ向け、再び歩き出した。
病院に到着して、受付でステファンに渡された封書を出して十分ほど待っていると、一人の医師がやってきた。
「エスさんですね?お待たせしました。今回貴方の検査を担当する、エマと言います。こちらへどうぞ」
三十代後半くらいのエマと名乗った女医は、昔ステファンにお世話になった後輩の一人だと言い、恩義のある先輩の紹介状を見て、「自分が担当する!」と強引にエスの担当を勝ち取ってきた事を、恥ずかしそうに話した。
エスへの検査は、ステファンの要請どおり脳を中心にした検査が占められ、脳波やMRIなど凡そ一時間ほどで終了した。
検査が終わったエスは診察室に通され、すぐにエマがやってきた。
「すみません。詳しい検査結果はもう少し掛かりますので、結果はご要望どおりにステファン先輩の所へ送っておきます、と先輩に伝えてください」
「分かりました」
エスは検査結果が気にはなったが、はっきり言ってここで結果を言われても自分は理解できないだろうと思っていたので、エマの言葉に素直に頷く。
帰ろうと思い、立ち上がろうとしたエスにエマが声を掛けた。
「あ!それから、一つだけ…エスさんにお伝えしたい事があって、これを見ていただけますか?」
「?…オレの脳?」
机に備え付けられたパソコンを操作し、ある画像を呼び出すエマ。
エスは、それが自分の脳の画像だと分かるのに数秒の時間を要した。
「そうです。これは、エスさんの脳を撮影した画像なのですが、ここ分かりますか?」
エマが指し示した部分を、エスが注意深く見つめると、脳の画像内に不自然な影が映っていた。
「なんです、これ?」
「おそらく金属片だと思います。場所は、記憶を司る部分……これはあくまで私の見解ですが、おそらくエスさんの記憶喪失の原因ではないかと思われます」
頭の中に金属が埋まっていると言われ、エスは自身の脳の画像に映る金属片を凝視する。
「これが……」
――画像を見る限り、癒着が進んでいるため、取り出すのは非常に困難と思われます。仮に取り出せたとしても、下手をすれば、そのまま目覚めない可能性もあるかもしれません。差し迫って命の危険は無いと思われるので、当面は様子を見てもらって、定期的に脳の検査を行ってください――
病院を出たエスは、エマに言われた言葉を思い出しながら、ウインド・シティー名物の風車を見つめていた。
「頭の中に、金属ねぇ…」
そう言われたものの、実感があるわけも無く、爪の先ほどの金属のせいで記憶をなくしたかもしれない、と言う話しにエスは驚きしか起こらなかった。
頭をかきながら、エスはとりあえず皆には黙っておこうと決めた。今の段階で可能性を話しても、特にエリーやナデアが心配するのが目に見えていたので、ステファンと相談した上で、時を見て話そうと考えたのだった。
そして、エスは気持ちを切り替えるように、短く息を吐き出した。
「……さてと、ジェドーたちと合流するか…とは言え、何処に行けばいいんだ?」
エスはジェドーに後で合流しろと言われたものの、具体的な集合場所を言われていなかったことに気が付き、どうしたものかと考え込む。
「英雄記念館だったか…そこで待っていれば、その内来るか」
探し回るより、確実に来るであろう場所で待ったほうが良いと考えたエスは、看板を頼りに記念館を目指した。
英雄記念館……正式名称【バン・フライハイト英雄記念博物館】。
英雄バン・フライハイトとその仲間たちの活躍を後世に伝える為に、彼の死後作られた博物館である。ニューへリックシティーやカイザーシュタットにある歴史博物館と違い、バンが活躍した時代の人物たちにスポットを当てた展示がされているため、人気の高いスポットになっている。
博物館に入ってすぐ来場者を出迎えるのは、バンの相棒であるブレードライガーの実寸大モックアップ模型だった。模型の前では多くの人間が記念撮影を行っていたが、エスは特に興味を惹かれることなくその横を素通りし、館内へと入っていった。
「バン・フライハイト……」
バンの半生をパネルで紹介する最初の展示を見ながら、エスは後年のバンの活躍の部分で足を止めた。
「生涯ゾイド乗りとして現役を貫きながらも、ネオ・ゼネバス帝国との大戦で多くのゾイド乗りが戦死したことを憂い、後年は新人育成に尽力したバン氏は、へリック共和国・ガイロス帝国両国で多くのゾイド乗りたちを指導し、彼の下を巣立っていった者たちは戦後の混乱期に活躍した、か…」
六十代頃の風格のある佇まいのバンの写真を見ながら、エスは何故か自然と笑みをこぼしていた。
「新人育成…
ゾイドの知識以外、自分のことを含めて殆ど覚えていないエスだったが、どうしてかバン・フライハイトと言う人物のことを”知って”いた…というより、思い出した。
それだけではない。彼の後に紹介されている、バンのパートナーであり、生涯にわたって彼を支えた古代ゾイド人のフィーネや相棒のジークに、仲間である傭兵アーバインに運び屋ムンベイ……エスは、彼らの事を展示で紹介されている以上に知っていることを思い出していた。
ただ各人物に共通して言えるのが、どうして知り合いだと思ったのか判らない事と、ネオ・ゼネバス帝国との戦争終結以降の事だけがすっぽり抜け落ちていると言う事だった。
「……どういうことだ?」
今まで、ナデアやエリーの話でその当時の歴史や、人物たちの話しを聞いても、特に何も浮かんでこなかったにも拘らず、今日は色々と頭の中に浮かんでくる事態に、エスは戸惑った。
「…前進したかと思ったが、自分の事は一切思い出せないとは…」
しかし、肝心な自身の事は一切思い出せず、どうしてバンたちのこと知り合いだと思ったのか判らない状況に、深いため息をつく。
その時だ。
「お前…何ため息なんてついてるんだ?」
後ろから声を掛けられエスが振り向くと、そこには呆れた表情をしたジェドーが立っていた。
「どうした?病院で、不吉な結果でも言われたか?」
ジェドーの言葉に、エスが顔を顰める。
「検査結果はまだ出てないって…別に大した事じゃない。それより、エリーとナデアは?」
先ほどの疑問を意識の外に締め出し、エスは姿の見えない少女二人を探して辺りを見渡す。
「あっちのカフェテリアで、パパオの実を使ったスイーツを食べてるよ…」
疲れた顔をするジェドーに、エスは余程の強行軍だったのか、と苦笑いを浮かべる。
「意外に、回るのが早かったんだな」
そんなエスの言葉に、ジェドーが首を横に振った。
「違うって…バン・フライハイトの生家で、はしゃぎすぎて疲れたから糖分補給だってよ……まだこの中の展示を見て回ってない」
空恐ろしいことを言うジェドーに、苦笑いを浮かべていたエスの表情が、一転して渋いものへと変わった。
「…そうか」
一箇所回っただけで、疲労困憊といったジェドーの姿に、エスは「これは、覚悟を決めないといけないな…」と諦めの境地に達するのだった。
四人が博物館から出てくる頃には、エスは沸き起こっていた疑問の事などすっかり忘れており、その後リョーコの知り合いの計らいで、豪勢な夕飯を食べたデザルト・チェルカトーレのメンバーたちは、賑やかなまま英雄の都での夜が更けていった。
***************
「報告は以上です」
同じ頃、エージェントナンバーのオフィス用に振り分けられた部屋が並ぶフロア。
エージェント
「ふむ…思っていた以上に、実用化には程遠いシステムだったようですね…やはり、文献に載っていた程度の情報では、再現は難しいようだ……戦闘で得られたブロッケイドシステムのデータは、ラボに送っておいてください」
報告書に目を通しながら、エージェント4は報告書にサインを入れ、部下に指示を出す。
「畏まりました、エージェント4」
指示を受けた部下の女性が頭を下げる中、エージェント4は作業の手を止めた。
「しかし、ブリッツ・ティーガー隊の皆さんも災難でしたね。結成して間もないというのに、エージェント
実は、彼らに送られてきた補充機体を用意したのは、他ならぬエージェント4だった。裏から手を回し、彼らブリッツ・ティーガー隊に補給を行ったのは、捕獲目標であるバーサークフューラーの戦闘データを、自身の戦力を削ることなく得るためだった。
”救いの手”と白々しく言っていたが、エージェント4に彼らを救う気など最初から微塵も無かったのだ。
そんな中、部下の女性が持っていた別の報告書をエージェント4に差し出した。
「エージェント4…実は、一人だけブリッツ・ティーガー隊の生き残りがいるのです」
渡された報告書に目を通すエージェント4から、笑みがこぼれる。
そこには、先の戦闘で唯一生き残ったアリアの写真が貼られており、詳しいプロフィールが記載されていた。
「ほう?…予備搭乗員の方ですか……随分可愛らしいお嬢さんだ。彼女は今?」
「故郷の実家に身を寄せています。エージェント6の方の報告書には手を回して、既にこの情報を含めてこちらに不利となる情報は削除済みです。現在、こちらで監視をつけていますが、どうされますか?」
エージェントナンバーの直属の部下は、基本的にナンバー本人の一存で採用されている。エージェント4は、部下の基準に「仕事の出来る者」という以外に設けておらず、人種民族問わず、優秀な人材を確保している事で有名だった。
そのため、他のエージェント―特にエージェント6―やその部下を出し抜くなど、簡単にやってのけてしまうのだった。
「いい手際です…そのまま監視を続けてください。経歴を見る限り、組織の情報を詳しく知っているとは思えませんが、監視を怠らないように」
エージェント4は優秀な部下の働きに、満足げに頷き、部下に対して”本当の笑み”を向ける。
貴重な”笑み”を向けられた部下の女性はと言うと、頬にほんのり赤みが注していた。
「畏まりました。不審な動きをした場合は、即座に拘束で?」
「それで構いません」
もう一度頭を下げた部下が、心なしか嬉しそうにして部屋を出て行くと、エージェント4は徐に立ち上がり、防弾仕様の窓から外を眺め始めた。
「ブリッツ・ティーガー隊。実力的には申し分の無いチームでしたが、あの程度の戦力では、やはり相手にもなりませんか…ここは思い切って、目には目を。化け物には化け物をぶつけてみましょうか?」
そういうと、エージェント4は携帯端末を取り出し、何処かへ連絡を入れ始めた。
「…ワタシです。おや?その様子では、また呑んだくれていたのですか?」
***********
コックピット内で、二日酔いに苦しんでいた所に通信を入れてきた人物が、取引相手であるエージェント4と判り、男の頭に「面倒」という文字が浮かぶ。
「……お前かよ。一体何の用だ?」
シートに預けていた身体を起こし、男が首を鳴らす。
三十代後半に差し掛かった男だが、だらしの無い格好と無精ひげ、そして二日酔いのせいで男前の顔が台無しになっている。
『ワタシと貴方の仲ではありませんか…お分かりでしょう?仕事の話ですよ』
いつもの薄気味悪いエージェント4の営業スマイルを思い出し、男の身体が悪寒で震える。
「気色悪いことを言うな!っつつ…で?仕事って何だよ?お前の持ってくる仕事は金は良いが、チョロ過ぎて張り合いが無いんだよな…」
二日酔いで頭痛を覚える頭を抱えながら、男は今まで受けたエージェント4の仕事を思い出だしていた。
彼の仕事は確かに内容の割りに実入りが良いので、よく金欠に陥る男にはありがたい話なのだが、それを差し引いてもあまりに簡単すぎる内容ばかりに、ここ最近は仕事を断る事が増えていた。
男にしてみれば、金よりも歯ごたえのある存在と戦う事のほうが、優先順位が上なのだ。
『そうですか?ワタシとしては、高難易度の仕事を紹介しているつもりなんですけどね?まぁ、今回の仕事は、きっとご満足いただけると思いますよ』
またその台詞か、とエージェント4の言葉を聞きながら、男は顔を顰める。
「その台詞は聞き飽きた…」
『相手がバーサークフューラーであっても?』
男の言葉を遮るように、エージェント4はフューラーの名を口にした。
「…今、何て言った?」
瞬間、男の表情から一切の感情が消える。
『今回、貴方にお任せしたい仕事は、先ごろ発見されたバーサークフューラーの捕獲です。もちろん、相手が相手ですから、無傷でとは申しません。ゾイドコアとメモリーキューブを損傷させなければ、それ以外は許可いたします…どうでしょうか?』
仕事内容を聞き終わると、男の顔に凶悪なまでの笑みが浮かんだ。
「いいだろう!やってやるよ!!」
『結構!では、詳しい資料を後ほどお送りしますので』
そういうと、エージェント4からの通信が切れ、コックピット内に一瞬だけ静寂が訪れる。
「バーサークフューラーか…俺様とお前が本気になれる相手だといいよな?なぁ!ジェノブレイカー!!」
男がコックピット内で力強く呼びかけると、漆黒の装甲を持つジェノブレイカーが歓喜の咆哮を上げるのだった。
こんにちは…エリーです。
ウインド・シティーを…後にしたワタシたち、は…次の町へ…向う途中、ゾイドの墓場に…遭遇します。みんなが、気味悪がってる中…ドクターは調査がしたいと言って、エス様とナデアを伴って…調査の為、残って…しまいました。
そして、運悪く…そこに、墓場を作った犯人が…現れたのですっ!
次回、ZOIDS-記憶をなくした男- 第十一話「魔装竜、現る」!
時を越え…暴虐の統治者と…漆黒の魔装竜の、戦いが…始まりますっ!