ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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今年最初の投稿です!


魔装竜、現る

「な、何て奴だっ!化け物か?!」

 

 仲間のゾイドが次々やられる中、ダークホーンに乗った盗賊の頭がコックピット内で毒づいていた。

 モニターには、見た事のない漆黒の装甲を纏ったティラノザウルス型ゾイドが映っており、背面に装備された二つの巨大な”鋏”には、仲間のコマンドウルフが捕まっており、ジタバタと足掻いている。

 

 二十体にも及ぶゾイドを擁する盗賊たちは、いつもの様に近隣の町へ襲撃をかけ、その帰り道に見た事のないゾイドと遭遇した。

 盗賊の頭は漆黒の装甲を持つそのゾイドを一目見てレアゾイドと見抜き、周りに仲間が居ない事を確認し奪い取る為に攻撃を仕掛けた。

 しかし、結果は惨憺たるモノだった。

 盗賊たちの攻撃を寄せ付けない装甲に、ゾイドを一撃で粉砕するパワー。数分も経たずして、盗賊たちは壊滅状態に追い込まれていたのだった。

 

「あ、あんたの強さはよく分かった!俺たちが愚かだったよ、許してくれ!!」

 恥を忍んで詫びを入れる盗賊の頭だったが、彼のコックピット内に男の声で舌打ちが響いた。

 

『ちっ!…何ふざけた事言ってやがるんだ?先に因縁つけてきたのは、手前らの方だろうが。それを相手が強いと判った瞬間、掌返したように情けなく詫び入れやがって…俺様はな、弱いのに粋がってデカイ態度を取る奴が一番嫌いなんだよ!』

 そういうと、黒いゾイドは捕まえていた二機のコマンドウルフを握りつぶし、ダークホーンに向けて投げつけた。

 仲間のコマンドウルフを避ける事が出来ず、ダークホーンはぶつかった衝撃で、主兵装のビームガトリングが脱落してしまい、その場に倒れ込んでしまう。

 

『とりあえずよ、お前ら…さっさと逝っとけ?』

 

 男はゾイドの両脚のアンカーを展開し、黒いゾイドの頭から尻尾までが一直線に伸びると、尻尾の冷却システムが開き、背中の荷電粒子コンバーターが唸りを上げて大気中の荷電粒子を吸収し始める。

 

 そして、吸収された荷電粒子のエネルギーが口腔内の砲身へと注がれ、膨大なエネルギーが解き放たれる瞬間を待つかのように、限界まで溜め込まれる。

 

「なんだ…あれは?何をするつもりだ?!」

 何が起きようとしているのか判らないが、この場に留まるのは危険だと、経験によって培われた勘が盗賊の頭の頭で警報を鳴らす。だが、先ほどの衝撃でダークホーンがシステムフリーズを起こしてしまい、思うように機体が動かせないでいた。

 

『冥土の土産に味わいな!くらいやがれ、最大出力の荷電粒子砲だ!!』

 

 男がトリガーを引くと、限界まで溜まった荷電粒子が解き放たれ、大地に横たわる盗賊たちへと襲い掛かった。

 

「うっ…うわぁああああああああああああああ!!」

 真っ白い閃光に包まれ、盗賊たちが絶叫する中、二十体のゾイドが消滅する。

 

 

 荷電粒子砲を撃ち終わり、尻尾の冷却システムから勢いよく廃熱が行われると、黒いゾイドは発射態勢を解除し、身震いするように、身体を震わせた。

 

「ったく…折角、久しぶりに良い酒にありつけて良い気分だったってのに、馬鹿どものせいで酔いが醒めちまった…町に戻って飲みなおすか…行くぞ、【ノアール】!」

 コックピット内の相棒の言葉に咆哮を上げて答えた漆黒の装甲を持つジェノブレイカーは、スラスターを使って百八十度ターンすると推力を全開にして、その場から飛び去ってしまう。

 

 彼らが去った後に残ったのは、荷電粒子砲が放たれた先に広がるゾイドの残骸だけだった。

 

**************

 

 風都【ウインド・シティー】での休暇を終え、キャラバン隊デザルト・チェルカトーレは通常営業に戻っていた。

 

 出発から三日後。

 

 エスは、アンジェリカから呼び出され、ホバーカーゴ”タルタル”の格納庫に来ていた。

 

「久しぶりだな、ドクター。三日も部屋に篭りっぱなしで、エリーたちが心配していたんだぞ?」

 

 ウインド・シティーでの休暇の際、「バーサークフューラーのことで、少し気になる事があるから残る」と言って、一人出歩きもせず、アンジェリカは部屋に引きこもっていた。

 

 最初は誰も特に気にする事も無かったのだが、三日経っても部屋から出てこず、エリーやナデアなどが呼びに言っても返事は無く、中からロックが掛かっていた為、様子が分からないでいた。メンバーたちはアンジェリカが中で倒れているんじゃないか心配し、ドアをこじ開けて部屋に踏み込む準備を始めていた。

 しかし、突然そのアンジェリカからエスに連絡が入り、「格納庫で待っているので、すぐに来てくれ!」と捲くし立てるように呼び出しを受けたのだ。エスは、何事かと思いつつも、全員にアンジェリカは無事な事だけ連絡を入れ、格納庫へ来ていたのだった。

 

「そうか?…そのくらい、僕にとってはいつもの事なんだがな」

 ことゾイドに関する事となると周りが見えなくなるアンジェリカは、三日篭る事などしょっちゅうで、下手をすれば一週間も寝食を忘れて研究に没頭する事だってある。

 なので、彼女にしてみれば、三日篭ったぐらいで皆が大騒ぎしているのか理解できなかったのだ。

 

「で?オレを呼び出した理由は?」

 そんなアンジェリカに呆れながら、エスは呼び出した理由を問い正す。

「あぁ、実はな…」

 アンジェリカは説明のためにタブレット端末を取り出し、この三日間何をしていたのか説明した。

 彼女は、先の戦闘で損傷したバーサークフューラーの修復を行っているの際に、電撃を受けた痕跡を発見し、システムに不具合が起きていないか調べた。

 すると、前回の調査では”断片的”にしか存在しなかったフューラのCASに関するデータが完全な形で存在していることに気が付いたと言うのだ。

 データが現れた理由の調査と、データ自体の調査に時間が掛かってしまい、今まで部屋に篭っていた、と言ってアンジェリカは一旦説明を切った。

「フューラーのCASデータが?」

 

 断片的にしか残っていないと思われたデータが、突如として現れたと言う話に、エスは訝しげな顔をする。エスの反応を予期していたのか、アンジェリカは楽しげに笑みを浮かべた。

「どうも、先の戦闘でのダメージが幸いして、データが復元された…というより”思い出した”ようだ…まぁ、ゾイドも金属生命体(・・・)だからね。人間のように忘れる事もあれば、何かのショックで思い出すこともあるってことなのかな

?非常に興味深い事例だよ。しかし…パイロット、機体共に記憶喪失とは、つくづく面白いな、君たちは」

 

 ふふふ、と口に手を当て、淑やかに笑うアンジェリカ。一見ズボラに見えるアンジェリカだが、”笑う”などのちょっとした所作に、育ちのよさが垣間見える事がある。

 その見た目のギャップのせいか、いつもキャラバンの男性陣をドギマギさせているのだが、エスは違った。

 

「ずるいぞ、フューラー…お前だけ、記憶が戻るなんて」

 男を虜にする笑みを浮かべるアンジェリカを尻目に、エスは相棒のフューラを恨めしそうに見つめていたのだ。

 

 ギュワァ!!

 

 そんなエスの言葉に、フューラーが「そんなこと知るか!」と言わんばかりに声を上げる。

 

 いつものように”二人”で言い争いを始めてしまい、一人蚊帳の外へ出されたアンジェリカは「本当に面白いよ、君たちは」と呟き、”二人”の言い争いを邪魔しないよう静かに観戦するのだった。

 

「まぁこれで、いつでもフューラーに別のCASを換装させることが出来るわけだが、肝心のアーマーパーツが無ければ意味は無いかな」

 一段落したのを見計らって、アンジェリカはエスに声を掛け、調査で判った結論を伝える。

 

 制御データが完全なものになったおかげで、フューラーはCASの換装が出来るようになったのだが、アンジェリカが懸念していた事が現実になっていた。

 それは、個人では一からフューラーのCAS製造が不可能だと”事実”が判明したことだ。求められるパーツの精度や製造設備など、全てを揃えようとしたら、研究・開発・製造が一手に行えるような大規模プラントが必要であり、それほどの設備となると、カイザーシュタットに本社を置く”Zi-alles”社の本社工場か、アンジェリカの故郷であるユニバースシティーの”ゾイド・アカデミア”の研究プラントなど数箇所しかなく、個人では到底使用許可が下りない施設ばかり。アンジェリカは、自らの手で造ることを諦め、過去製造されたCASを探し出し修復するしかないと、結論付けたのだ。

 

「前にも言ったが、バーサークユニットだけでも十分さ」

 説明を聞き、「どちらにしても、現状で手に入る見込みが無いなら必要ない」、とエスはCAS探しに消極的だった。

「勿体無いな…」

 アンジェリカとしては、エスが望むなら”伝手”を頼って探すつもりでいたのだが再び断られてしまい、肩を竦めるしかなかった。

 

 そんな中、突然ホバーカーゴが金切り音を響かせ、急停止する。

 

「っ!?…なんだ?」

 大きく揺れ倒れそうになったアンジェリカを抱きとめたエスが、訝しげに辺りを見渡す。

 

 エスに抱きとめられていたアンジェリカは瞬間、怒りを露にしてエスから離れると、壁際に設置されている通信機まで走り、コックピットに通信を繋いだ。

「おい、マーク!僕のタルタルを、そんな乱暴に操縦していいと許した覚えはないぞ!」

 ホバーカーゴの操縦を行っていたマークを叱りつけるアンジェリカ。画面に映る怒られたマークの顔には、焦りの色が浮かぶ。

 

『勘弁してくれよ、ドクター!これでも精一杯やってんだぜ?それに、本隊の方が急に停まったんだ。文句があるなら、そっちに言ってくれ!』

 白百合の園で、アンジェリカの技術と知識に感銘を受けたマークは、彼女がキャラバンに参加したの機に、正式に弟子入りしていた。

 その一環で、ホバーカーゴの操縦を任されたのだが、慣れない大型輸送ゾイドの操縦に四苦八苦するマークには、アンジェリカの提示した操縦基準に気を回す余裕など無かったのだった。

 

「本隊が?」

「とりあえず、行ってみるか」

 状況が判然としない中、二人は様子を見に外へと出て行った。

 

**********

 

「あっ…ドクターっ!」

 状況を確認するため、ホバーカーゴの外へと出たエスとアンジェリア。既に外にはキャラバンのメンバーが出てきており、騒然としていた。

 そんな中、エリーがアンジェリカの姿を見つけると、嬉しそうに笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。

「やぁエリー、久しぶり。どうやら心配かけたみたいだね」

 

 二人のやり取りを横目で見ながら、エスはエリーについて来ていたナデアに状況を確認する。

「何があったのか?」

「エス、あれを見て」

 ナデアが指差した方向を見て、エスは目を細める。

「ゾイドの墓場か…」

 目にした光景に、素直な感想を漏らすエスに、ナデアが首を傾げる。

 

「墓場?」

「ゾイドの装甲が石化しているだろ?これは、ゾイドコアが破壊された事によって、ゾイドそのものが死んでしまったことを意味している。そして、この数……まさに墓場だ」

 話しを終えたアンジェリカとエリーがエスたちに追いつき、アンジェリカがナデアの疑問に答える。

 

「長い間キャラバンに居るが、こんな光景は初めて見たぞ」

 石化したゾイドを覗き込みながら、ホメオが頭を掻く。

「殆ど風化していないな。ということは、破壊されてまだ時間が断っていないと言う事か……一体、誰がこんなマネを」

 ホメオと一緒に、石化したゾイドを見て回っていたジェドーは、腕を組んで首を傾げる。

 

「さぁな。だが、どんなゾイドがやったかは、凡そ見当が付く」

 破壊されたゾイドを一目見たエスがそう言うと、アンジェリカ以外が驚いて目を見開く。

 そして、アンジェリカは満足げに笑みを浮かべていた。

「さすがは、エスだ。君も気が付いたか」

「え?どういうこと?」

 アンジェリカの言葉に、ナデアが頭に疑問符を浮かべて、アンジェリカとエスの顔を交互に見渡す。

 

「君たちもここ最近、規模は小さくとも似たような光景を何度か見ているはずだぞ?」

 彼女の問いかけに、全員が思案する中、最初に気が付いたのはエリーだった。

「……あっ…エス様の、バーサークフューラー…」

「正解だ」

 エリーの答えを聞き、アンジェリカが笑みを浮かべ頷く。

 

 やられたゾイドたちは、共通して荷電粒子砲によって装甲を焼かれ、ゾイドコアを破壊されていた。その事をアンジェリカの言葉で認識させられた面々の顔が、青ざめる。

「えぇ?!じゃ、じゃあエス以外にも、フューラーに乗っている奴がいるって言うの?!」

 ナデアが悲鳴のように声を上げる。

 彼らにとって、エスとフューラーの強さはよく理解していた。そんな彼らと同等の存在が実在し、敵に回ればどうなるか……考えたくも無い最悪の展開が全員の頭を過ぎる。

 

「正確に言えば、荷電粒子砲搭載機の仕業だ。機種は詳しく調べないと何とも言えないが、これほどの破壊力を持つ機種となると、数は限られるだろうな」

 どちらにしても、強力な武器を持ったゾイドが居る、と慰めにもならないアンジェリカのフォローを聞きながら、ジェドーは今ある情報を整理する。

 

「どちらにしても、これだけの数のゾイドを壊滅させる化け物が少なくとも一機、この周辺に潜んでいる可能性があるわけだな?…女将さんに話して、すぐにこの場から立ち去ろう」

 彼らキャラバンは、都市から都市へと商売をしながら世界を渡り歩く。自衛のために戦いはするが、危険は出来うる限り回避するのが鉄則である。

 デザルト・チェルカトーレ最強のエスとフューラーのコンビと同等、下手をすれば上回る存在が潜んでいる場所など、一秒たりとも留まる理由は彼らに無かった。

 

 だが、ジェドーの考えに異議を申し立てるものが居た。

「僕はここに留まり調査することを提案する。このような場所に、早々立ち会えるものじゃない。残骸を調査すれば、貴重な情報が得られるはずだ」

 アンジェリカの言葉に、キャラバンの面々が騒然となる。

 当然である。彼女の言っている事は、キャラバンに全滅しろと、言っているのと同義である。全員が一瞬、アンジェリカが性質の悪い冗談を言っているのではと考えたが、彼女の顔つきを見て本気で言っていると、呆気に取られた。

 

「それは、出来ん相談やね」

「女将さん」

 いつまで経っても誰も報告に来ない、とリョーコが娘たち共に様子を見に来た。

 

「キャラバンを預かる者としては、隊全体を危険に晒すことは出来んっちゃね。ジェドーの言うとおり、ここは先を急いだ方がよか」

 アンジェリカの意見を聞いていたのか、真っ向から却下するリョーコ。

 そんな彼女の言葉を聞き、アンジェリカは不満げな表情を浮かべると、静かに口を開いた。 

「……では、僕一人で残る。ホバーカーゴは僕のものだから、置いていってもらうよ」

 それだけ伝えると、アンジェリカは踵を返し、無言でホバーカーゴへと歩いて言ってしまった。

 

「どうしたんだ?ドクターの奴」

「さぁな。彼女には彼女の考えがあるんだろう」

 「天才の考えてることはさっぱり分からん」、とホメオとジェドーがアンジェリカの背中を冷ややかな目で見つめる中、リョーコがエスとナデアの方へと振り向く。

 

「エス、ナデア。あんたたち、今は非番やったね?」

「え?えぇ、そうですけど」

 今のキャラバンの護衛当番はジェドーとエリーの二人で、リョーコの言うとおりエスとナデアの二人は手が空いていた。

 その事を確認したリョーコが次の瞬間、耳を疑う事を言ってのけた。

 

「なら護衛として、彼女に付いとき」

「女将さん!いいのか?!」

 即座に、ジェドーが抗議の声を上げる。

 キャラバンにおいて、隊の行動を乱す行為はご法度である。入ったばかりのアンジェリカに、その事を伝えて居なかったは事実だが、分別のある大人なら、言われなくても理解できているだろうとジェドーたちは思っていた。そんなご法度を隊のリーダーであるリョーコが認めては示しが付かないと、特に古株のメンバーが抗議のまなざしを向けた。

 

 だが、そんな眼差しをものともせず、リョーコが真剣な表情をして、ホバーカーゴの方を見つめる。

「たしかに、集団行動を乱す行為は褒められたことじゃなかよ?でも、あの子は”こういったこと”に対してちゃんと見極めが出来る子だと、うちは思うとったい。だから周りから非難されても、あそこまで押し通す何かが、ここにはあるんやろうって思うとよ」

 リョーコ自身にも考えがあるのか、それだけ言うと本隊の大型車両へと歩き出してしまう。

 こうなると、誰がどう言っても覆る事はありえず、ジェドーたちも納得できないながらも閉口せざるを得なかった。

 

「次の目的地には、予定通りしか滞在せんけんね。間に合わんでも、放って行くけん。ちゃんと追いかけてくるんよ?」

 車両の入り口で、エスとナデアに「ちゃんと追いついてきなさい」と声を掛け、リョーコの姿が消える。

 

「了解」

「はい!」

 二人は、リョーコの声に返事すると、ホバーカーゴへと駆けていった。

 

*************

 

「思ったとおりだ。荷電粒子反応が、フューラーのと違う……これは機種の違いによるのか、それとも機体個々の特徴なのか…」

 調査用の機器を手に、アンジェリカが石化したゾイドの装甲を丹念に調べていく。エスは、フューラーに乗ったまま周辺を警戒し、ナデアはアンジェリカの横で手伝いながら様子を見ていたが、我慢できずに声を掛けた。

 

「ねぇ、ドクター。どうして、あんな無理言ってまで、ここを調査したかったの?」

 ゾイドの事に関して、周りが見えなくなるアンジェリカだが、メンバーの反感を買うほどまでに頑なだった事にナデアは納得が行っていなかったのだ。

 ナデアの問いに、アンジェリカは一瞬彼女の方を見て、すぐに機器へと視線を戻すと、調査しながら答え始めた。

 

「…バーサークフューラーが珍しい、希少なゾイドだと言う事はナデアも知っているな?」

「うん」

 アンジェリカの質問にナデアは頷いて答える。

「フューラーに限らず、強力な荷電粒子砲搭載機はその開発当時から機体数が、他のゾイドに比べて極端に少ない。この時代に出てくるのは壊れたパーツやデータの断片、寿命を終え石化した個体だけで、現存する稼動個体となると、殆ど無いと言っていい…僕も、あのフューラー以外に動く個体を見たこともなくてね。正直、フューラーの整備と調整は、未だに手探り状態なんだ。だから、フューラーとは別個体、もしくは別機種の荷電粒子砲搭載機それ自体やその痕跡を調べる事が出来れば、何かヒントや役に立つんじゃないか、と思ったんだ」

 

 ゾイドに携わる科学者として、ゾイドを最高状態にする事こそが最上である、とアンジェリカは考えていた。しかし、彼女はフューラーに対してそれが出来ていないと思っていた。

 その理由の一つは、パイロットであるエスがアンジェリカに口では「完璧だ」と言ってくれているが、何処か仕上がりに不満を抱えていることを彼女は感じ取っていたからだ。

 彼の意見を聞いても、それを形に出来ない事に自分の力不足をアンジェリカは恥じており、それを如何にかしたいと思い、今回のような行動に出ていたのだったのだ。

 

「なんで、その事を皆に言わなかったの?!」

 アンジェリカの答えを聞き、ナデアは声を荒げる。もし、今の説明を皆に言っていれば、少なくともあんな気まずい雰囲気になることはなかったはず!とナデアは思った。

 ナデアの言葉を聞き、キョトンとした顔をしていたアンジェリカだったが、途端にバツの悪そうな表情を浮かべた。

 

「……三日寝てなくてね。情けない話、あの時が一番頭の動きが鈍っていたんだ。そんな所にまで、気が回らなかったんだよ」

 大人とは思えない言い訳を聞いて、ナデアは呆れた顔になり、盛大にため息をついた。

 

「……もう。エリーなんてドクターが出て行くんじゃないかって、心配して本気で泣いてたんだよ?」

 ナデアとエスがアンジェリカに付いて行く際、エリーがナデアに「ドクター……このまま…出て、行かない…よね?」と嗚咽交じりに、心配していた。エリーは白百合の園からの知り合いであるアンジェリカに、置いて行かれる様な気になり、不安からそのようなことを口にしていたのだ。

 

「そうなのか?それは…エリーには悪いことをしてしまった」

 ナデアからエリーの話を聞き、アンジェリカは調査の手を止め、「またエリーに謝らなければ」と申し分けなさそうに頬をかく。

 

 そんなやり取りをしていた時だ。突然フューラーが勢いよく、”墓場”の右手にある森へと振り向き戦闘態勢に入った。

 

 そして……

『ナデア!コマンドウルフに戻れ!ドクターはタルタルに!マーク、いつでもタルタルを動かせるように準備しておけ!!』

 外部スピーカーからエスの怒号が響き、ナデアが驚いて目を見開く。

「どうしたの?!」

「どうもこうも、このパターンはいつものだろ!」

 

 ナデアと違い、即座に行動へと移っていたアンジェリカは、ホバーカーゴに走りながらフューラーが向いている森の方を睨んでいた。

「っ、敵?!」

 アンジェリカの言わんとしている事が分かり、ナデアは慌ててコマンドウルフのコックピットに乗り込み、機体を立ち上げる。

 

 それと同時に、森の中から”敵”が現れた。

 

『”情報”でここを通ると聞いて待っていた時に邪魔が入って、何も考えずに気分転換と思ってちょっと離れたが…後でこの隙に逃げられたんじゃないかとヒヤッとしたんだが、俺様は運がよかったみたいだな』

 漆黒の装甲を持つジェノブレイカーが木々をなぎ倒しながら現れ、エスとフューラーの警戒が一気に最高まで高まる。

『黒い…フューラー?』

 ナデアは、フューラーに似たティラノザウルス型ゾイドを見て、眉を顰めるがアンジェリカが即座に否定した。

「違う!あれは…ジェノブレイカーか?!まさか、この墓場を作ったのは!?」

 ジェノブレイカーの姿を確認した彼女の頭の中で、出来上がらなかったパズルが完成(せいかい)に向けて組みあがっていく。荷電粒子の吸収速度を高める荷電粒子コンバーターを持つジェノブレイカーの荷電粒子砲なら、目の前に広がる惨状をつくり出せると合点したからだ。

 

 すると、エスたちの機体に、ジェノブレイカーから通信が入った。

『バーサークフューラー…ふふふ、待っていたぜ』

「待っていた?」

 男の言葉に、エスは眉を顰める。

 

『あぁ。お前の乗っているゾイドを捕獲するよう依頼されたんだ。だが俺様としては、同じ荷電粒子搭載機がどれ程のものか力試しをしてみたくてな…東方大陸じゃこう言う時「一手御指南」って言うんだろ?』

「……」

 

 敵の目的が、またバーサークフューラーだと言う事に、前回のセイバータイガーたちといい、エスは彼らの背後に何かしらの意思が見え隠れすると、表情を険しくする。

 そんな無言のエスに代わって、ナデアが声を上げた。

『またフューラー狙い?!あんた、一体何者なの!』

 ナデアの問いかけに、ジェノブレイカーの男は面倒そうな表情を浮かべる。

 

『…元気な嬢ちゃんだな。まぁ、オレ様のことはしがない賞金稼ぎとでも思ってくれ。それから、俺様が用のあるのは、そこのバーサークフューラーとそのパイロットだけだ。怪我したくなかったら、引っ込んでろ』

 まるで犬でも追い払うように、「しっしっ」と画面の向こうで手を振る男に、ナデアは顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。

『っ?!馬鹿にするな!!』

「!ナデア、やめろ!!」

 エスの制止を無視して、ナデアはコマンドウルフのロングレンジライフルのトリガーを引き、ジェノブレイカーへと攻撃を加える。

 だが、その攻撃を男は避けることなく、背中に装備したブレイカーユニットのフリーラウンドシールドだけを動かして、ナデアの攻撃を弾く。

 

『一応警告はしてやったぞ?痛い目を見るのは、嬢ちゃんのせいだからな!!』

 そういうと、ジェノブレイカーが黒い残像だけを残し姿が消えると、突然コマンドウルフの前に現れる。

『なっ?!』

 まるでエスとフューラーのような動きに、ナデアの思考が凍りつき、コマンドウルフがその場から動けなくなる。

 男は、フリーラウンドシールドに装備されたエクスブレイカーを展開すると、躊躇無くコックピット目掛けて突き刺す。

 

 辺りに金属本が響き渡る。

『…マジかよ』

 男は、目の前の光景に声を漏らした。

 なんと、寸でのところでエスがフューラーをナデアの前に割り込ませ、ジェノブレイカーの攻撃をバスタークローで受け止めていたのだ。

 

「……ナデア、今すぐドクターたちと一緒に、女将さんたちのところまで逃げろ。お前たちが逃げる時間は、オレが稼ぐ」

 今まで聞いた事の無い余裕を感じないエスの声に、ナデアが目を見開く。それほどまでにマズイ相手なのだと察したナデアの頭には、エスを助けなければという考えが、一気に膨らむ。

 

『な、何を言っているの!ここは…』

「聞こえなかったのか?!足手まといだ、さっさと行け!!」

 だがそんなナデアに、エスは罵声を浴びせた。ジェノブレイカーと言うだけでも面倒だと言うのに、相手が”只の”ジェノブレイカーではないと見抜いていたエスに、ナデアやアンジェリカたちを庇いながら戦闘する余裕など無かったのだ。

 初めてエスに怒鳴りつけられ、ナデアの表情が凍りつく。

『っ?!……ご、ごめん…なさいっ』

 そして、目から涙が溢れ出すと、嗚咽を堪えてナデアはホバーカーゴへとコマンドウルフを向け、走り出す。

 

 先に、ホバーカーゴへとたどり着いていたアンジェリカが後部ハッチを操作し、コマンドウルフを収容すると、ホバーカーゴが急発進し、エスを置いて本隊を追いかけていった。

 

 その間、男は攻撃する事は無く、ホバーカーゴが見えなくなると、「邪魔が消えたな」と笑みを浮かべる。

『いやはや、野郎(エージェント4)の話は本当だったのか。こりゃ、退屈せずに済みそうだ』

 押し殺した笑いを上げる男に、エスが目を細めた。

「……一つ聞く。お前に、仕事を依頼したのは誰だ?」

 感情を押し殺したエスの問いに、男は笑うのをやめ、鼻で笑う。

『こう見えても、仕事に関して口は堅い方なんだ。どうしても聞きたきゃ、力ずくで聞きな!』

「そうか……」

 男の回答に、エスは意識を切り替える。話を聞く必要はあるが、手加減できる相手ではない、と自分の中の”何か”が叫んでいるからだ。

 

『やる前に、言っておく。さっきの動きで、手前は俺様が”名乗る”に値する敵だと分かった。俺様は賞金稼ぎのヴィンセント、相棒はジェノブレイカーの【ノアール】だ…名乗れよ』

 妙に古風な考えだ、とエスは思いながらも、無視するのも居心地が悪くなるような気になったので、「仕方ない」と名乗りを上げた。

「キャラバン隊デザルト・チェルカトーレ所属、ゾイド乗りのエス。そして相棒のバーサークフューラーだ」

 

 ギュワァァアアアア!!

 エスの名乗りに呼応して、フューラーが咆哮を上げる。

 

『エスとフューラーか…いいぜ。それじゃ、始めようか?楽しい殺し合いって奴を!!』

 

 ヴィンセントの言葉を合図に二機はスラスターと全開にして、一気に距離を詰める。

 

 そして、誰も立ち入ることの出来ない”竜”たちの戦闘が始まるのだった。

 




 どうも皆さん エージェント4です。
 いよいよ、暴虐の統治者と漆黒の魔装竜との戦いが始まりました。完全野生体ベースの機体とオーガノイドシステム搭載の機体。相反する二匹の竜の戦いが苛烈を極める中、限界を越えたジェノブレイカーがその本性を表し、バーサークフューラーへと襲い掛かる!
 その時、エスが取った行動とは?!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男- 第十二話「魔装竜暴走」!

 さぁ、どちらに軍配が上がるのでしょうかね?ワタシとしても、楽しみですよ。 
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