『ドクター!エスの奴を置いてきて、本当に良かったのか?!』
コックピットでホバーカーゴを操縦しているマークが、興奮気味に格納庫内へ通信を入れる。余程慌てているのか、音声のみの通信だ。
そんなマークの通信に、アンジェリカは壁際の通信機をオンにする。
「残念だが、あの場に僕たちがいても出来ることはなかった……彼の言うとおり、僕たちは足手まといにしかならなかったよ」
『いや、でもよ……』
淡々と答えるアンジェリカに、マークは彼女が酷く冷たい人間に思えてしまった。確かに、襲ってきたゾイドを見て、マークもキャラバンの一員として積んできた経験から、一瞬でヤバイ相手だと察知できた。アンジェリカの言うとおり、あの場に居たとしても、ホバーカーゴの様な大型輸送ゾイドは的にしかならず、エスの邪魔にしかならないのも理解していた。それでも、あの場にエスを一人残し囮にしたことに、マークは罪悪感を感じていたため、アンジェリカの態度が一層冷たく感じてしまっていた。
だが、そのマークの捉え方は間違っていた。
突然、アンジェリカが通信機の埋まった壁に拳を叩きつけた。
「言っておくけど、僕はエスを見捨てたつもりは無い!ナデアだけではなく、エリーとジェドーも居ればやりようはあるんだ!!……とにかく今は、本隊との通信可能距離まで急いでくれ!」
『りょ、了解!』
コックピットのマークとの通信をきると、アンジェリカは唇をかみ締め、先ほど壁を殴った拳を、震えるほど握り締めていた。
フッと、コマンドウルフからナデアが降りてきていないことに気が付いたアンジェリカは、足早にコマンドウルフへ近づき、キャノピーをノックする、
だが、中に居るナデアから反応が無く、もしかしたら怪我をしているのでは?とアンジェリカは緊急用の開閉ボタンの蓋を開け、キャノピーを強制解放した。
「……足手まといって…言われた。お兄ちゃんにも、キャラバンのみんなにも…言われた事、なかったのに…」
シートの上で膝を抱え、ナデアは泣いていた。好意を寄せている相手に、足手まといだと言われたことが、彼女の心に深く突き刺さる。
「ナデア……」
嗚咽を漏らし、悔しさのあまり膝に顔を埋めるナデアに、アンジェリカは気まずく二の句が継げなかった。
「…あたしじゃなくてエリーだったら、エスの力になれてたのかな……?」
弱々しいが、ナデアの呟きはアンジェリカにはっきりと聞こえた。
シミュレーションにおいて、ナデアとエリーの戦績はエリーが勝ち越している。とは言っても、実力に大きな差があるわけではなく、同一機体でのシミュレーションでは勝敗は拮抗している。戦績の結果は単に、お互いが愛機で行っているからだ。それでもナデアは、自分よりもエリーのほうが優れている、と思っていたため、そんな言葉が口をついていた。
だがナデアの問いに、アンジェリカは首を横に振った。
「それは違う。正直、あの場に誰が居ても…例えエリーであろうとも、ジェドーであろうともエスは同じことを言っただろう」
「え?」
「それほどに危険な相手なんだよ…エスはその事を、あの一瞬で感じ取ったんだ、きっと」
ゾイドの専門家であるアンジェリカでさえ、ジェノブレイカーは殆ど未知のゾイドである。先ほどの運動性能を目の当たりにして、とてつもない性能を秘めている事は、アンジェリカにも容易に想像できた。そんな彼女には、勘の鋭いエスは自分以上に相手に対して危機感を感じたのではないか、と考えたのだった。
「……」
アンジェリカの説明を聞き、ナデアは涙を拭い、俯き加減に思案し始める。泣く事をやめたナデアを見て、アンジェリカは一先ず安堵のため息を吐く。
そして、エスの居る方向へと視線を向けた。
――エス。僕たちが戻るまで、決して無理はしないでくれ……――
***************
ナデアたちが去った後、二体の竜による激しい戦闘が開始されていた。
エスはある予測から、相手がジェノブレイカーの中でも特殊な機体だと当たりをつけ、アウトレンジからのビームキャノンによる砲撃を仕掛けた。
しかし、元々Eシールド並みに強固と言われるフリーラウンドシールドを装備し、更にEシールドを持つジェノブレイカーの防御力の前に、悉くビームを弾かれてしまう。一機のゾイドが持つには異常すぎるジェノブレイカーの防御を抜くには、やはり荷電粒子砲しかない、とエスも理解している。
しかし、相手も荷電粒子砲搭載機……荷電粒子のチャージに時間が掛かることはパイロットのヴィンセントも承知している事は容易に想像でき、易々とこちらにチャージさせるのを許すとは思えなかった。
如何にかして隙を作る必要がある。
エスは、危険を承知の上で近接戦へと攻撃を切り替え、過去の大戦でも見ることの出来なかった帝国機同士の近接格闘戦が始まった。
『はーっははぁ!!手前すげぇな!俺様とノアールを相手にこんなに長く持った奴は、初めてだぜ!!』
ヴィンセントは、ジェノブレイカーのスラスターを全開にし、フリーラウンドシールドを稼動させエクスブレイカーを展開、フューラーへと斬り掛かる。その姿はまさに、双剣を持つ剣士のようだ。
その鋭い攻撃に、エスは冷静に身構え、フューラーのバスタークローを巧みに操作し、往なし捌いていく。双方共に、練達した乗り手と最高のゾイドと言う組み合わせである為、格闘戦というより、流麗な剣士の剣舞の様相を呈している。
「っ!・・・ぺらぺらと、よく回る口だなっ!!」
拮抗していた攻防は、甘く入ったジェノブレイカーの左の攻撃をフューラーが大きく弾き飛ばす事でジェノブレイカーの体勢が崩れ、エスは相手の隙を見逃すことなく、即座にバスタークローをジェノブレイカーのコックピットへ突き出す。
『くぉ!?』
攻撃を弾かれたことでバランスを崩し、繰り出された相手の攻撃にヴィンセントは、咄嗟に残っていた右のフリーラウンドシールドを前面に展開し、バスタークローが激突した瞬間、タイミングを合わせてバックステップし、攻撃の威力と機体を真後ろへと逃がした。
「逃がすか!!」
流れを引き込む為、エスは気迫と共に、バスタークローのマグネーザーを起動させ、切っ先をジェノブレイカーに向けて追撃する。
『このやろっ!?』
迫ってくるフューラーにヴィンセントは毒づきながらも、左右のフリーラウンドシールドを操作し、エクスブレイカーを鋏のように開くと、着地の瞬間前へ飛び出し、高速回転するバスタークローを強引に挟み込んだ。回転するバスタークローとエクスブレイカーが拮抗し合い辺りに火花が飛び散る。
更に二人は、示し合わせたように機体の全推力を開放し、敵を押し潰さんばかりにスラスターを吹かせる。
拮抗する力で押し合う二匹の竜。すると、まるでダンスでも始めたかのように、二機は回転を始める。スラスターの推力を全開にしている為、その回転が加速度的に速くなっていき、遠心力が最大になった瞬間、弾きあうように機体が吹き飛び、二機は油断無く着地する。
一定の距離を置いて睨みあう、バーサークフューラーとジェノブレイカー。
すると、ヴィンセントが堪えていた笑い声を上げ始めた。
『ふふふ……正直、ここまでやるとは思ってもいなかったぜ。初めは、機体の性能に助けられているニ流かと思っていたが、機体どころか中身も超一級品と来てる……俺様は運が良いぜ!』
今までで一番の獲物だ、と嬉しさのあまりヴィンセントの顔から笑みが消えない。
逆に、自分の予想が的中したエスは、苦虫を噛み潰したように顔を顰めていた。
「こっちは最悪だよ。只でさえジェノブレイカーは生産数の少ない機体だって言うのに、その中でも近接戦闘用に特化させたジェノブレイカー
【ジェノブレイカー・ジェット】……帝国が対ブレードライガー用にジェノザウラーを強化発展させた機体【ジェノブレイカー】を、荷電粒子砲を含む射撃能力を犠牲にして、元から高い格闘能力と運動性能を更に強化した特殊戦仕様機で、漆黒の装甲を持つことから”ジェット”と名づけられた。
ジェットには二種類の仕様が設定させており、通常仕様と外見が同じタイプAと、フリーラウンドシールドの替わりに、フリーラウンドブレードという巨大なブレードを二基装備し、頭部もレーザーチャージングブレードをオミットして、簡易型フェイスマスクという増加装甲をつけたタイプBが存在する。ヴィンセントの相棒「ノアール」は前者のタイプAに該当した。
珍しい機体だと自負する相棒の正体を言い当てられ、ヴィンセントは軽く目を見張った。
『ほぉ~、ノアールが普通のジェノブレイカーじゃないと、よく気が付いたな。今まで、ジェノブレイカーにバリエーション機があること自体、知ってる奴は居なかったんだぜ?』
元々機体数の少ない機種に加え、大戦から今日に至るまで、現存数など言わずもがな、というジェノブレイカーの事を知る者など一握りである。しかも、公式記録にも殆ど出てくる事のないバリエーション機ともなれば、専門家でも把握している者は殆ど居ないだろう。そんな機体のことを知っているエスに、ヴィンセントは素直に感心する。
『なら、奥の手を隠しまま、戦うのは失礼ってもんだよな?なぁノアール』
相棒の問いに、ジェノブレイカーが雄叫びを上げる。
『そう来なくっちゃな!さて、エスにフューラー……お前らの実力に敬意を表して、こっからは手加減出来ねぇぜ?オーガノイドシステム、リミッターリリース……さぁ行くぜ、相棒!!』
ギャァアアアアアアアアア!!
喜びとも怒りとも取れるジェノブレイカーの絶叫に、エスとフューラーは神経を一気に研ぎ澄ませる。
次の瞬間、ジェノブレイカーの姿が消え、エスは勘を頼りにフューラーを左へ避けさせた。
”ギャキーン”という金属音と共に、フューラーの右肩の装甲が削れ、その衝撃でCASのアーマーが脱落する。
「っ!」
相手の反応速度と攻撃力が跳ね上がったことに、エスは舌打ちしながら猛攻を避けるが、完全には避けきれず装甲が削られていく。
「っくそ、そこか!・・っ?!」
ギュワァアアア!!
攻撃に耐えながら、エスは狙いを定めて右側のバスタークローを繰り出すも大きく空振ってしまい、逆に無防備になっていたところを狙われ、嵐の様なジェノブレイカーの攻撃がヒットする。
攻撃に耐え切れず、崩れ落ちるようにバーサークフューラーが膝をつき、離れた位置にジェノブレイカーが現れた。
、
『どうしたどうした!!さっきまでの勢いは何処にやったんだぁ?!』
興奮しているのか、ヴィンセントの声のトーンが高くなっている。
そんなヴィンセントの様子に、エスは険しい顔つきをしていた。
「くそ……オーガノイドシステムを使いこなしているみたいだが、かなり危ういな」
オーガノイドシステムは、ゾイドコアの強制的に活性させると同時に、ゾイド本来の凶暴性も引き出してしまう。しかも、OSを介してゾイドの意思が逆流し操縦者の精神に影響を及ぼしてしまうため、制限を掛けていないフルスペックのOS搭載型ゾイドを使いこなせる人間は、数が限られている。もし使いこなせなければ、暴走の後に最悪、パイロットは命を落としかねない。
だが、ジェノブレイカーに暴走の兆候は一切見られず、それは一見、ヴィンセントが完全に制御下に置いている様にも見えるが、エスからすれば薄氷の上を歩くような危うさを感じた。
ここにきて漸く、エスの思考が切り替わる。OSを進んで使う相手を、殺さずに制するのは至難の業だからだ。
『そっちが来ないなら、こっちからいくぜぇ!!』
動かないフューラに、エスが攻めあぐねていると受け取ったヴィンセントは、勝負をつけるために全推力を使って仕掛けた。
威嚇するようにフリーラウンドシールドを展開し、エクスブレイカーの切っ先をフューラーへと向け、地面を這う様に左右に機体を滑らせながら迫り来る。
だがエスは、何もすること無く、ただ迫り来るジェノブレイカーを見つめていた。
グゥウウウウウウウ……
フューラーが立ち上がりながら低い唸り声を出すと、エスはフッと口元に笑みを浮かべる。
「確かにお前の言うとおりだよ、フューラー……こいつは、手を抜いていいような相手じゃないよな!」
ギュワァアアアアアアアア!!
エスの言葉に、フューラーが咆哮で答える。
『今更やる気を出しても、もぉ遅ぇーよ!!』
既にジェノブレイカーは攻撃態勢に入っており、ヴィンセントの言葉と共に左右のエクスブレイカーを抜き手のように突き出した。
だが、その攻撃がフューラーを捉えることはなかった。
間近に迫る攻撃に取り乱すことなく、エスは冷静にフューラーを操作し、最小限の動きで攻撃を掻い潜ると、半円を描くようにジェノブレイカーの後ろへ避けたのだ。それは、先の戦いでブリッツ・ティーガー隊の隊長サン・ライトとの戦いで見せた様な、荒々しさは微塵もなく、闘牛を往なすマタドールの如き華麗さがあった。
そして、その勢いを利用し、ストライクスマッシュテイルをジェノブレイカーのブレイカーユニットに叩きつけた。
『なぁ?!がはっ!?』
間違いなく仕留めたと思った攻撃が避けられた事に、ヴィンセントの思考に致命的な隙が生じ、フューラーの攻撃をまともに喰らってしまう。
ただ、攻撃を受けたことでヴィンセントは思考力を取り戻し、淀みの無い操作でジェノブレイカーの体勢を立て直した。
だが、そこへ間髪いれずにビーム砲撃が降り注ぐ。
『んだとぉ?!』
即座にフリーラウンドシールドを前面に展開し、防御に入ったヴィンセントだったが、モニターに映る光景に盛大に舌打ちした。
バーサークフューラーが、ビームキャノンを撃ちながら、荷電粒子砲発射態勢に入っていたのだ。
『この、くそがぁ!!』
ヴィンセントも、防御を展開したままジェノブレイカーを荷電粒子砲発射形態へ変形させ、粒子チャージを開始させる。
射撃能力を犠牲にし、格闘能力に振っているとは言え、ジェノブレイカーには荷電粒子コンバーターが装備されている。
先ほどの攻撃でブレイカーユニットの破損は免れていたため、問題なく荷電粒子がチャージされていく。
そしてほぼ同時にチャージが完了し、二体の竜の口腔内に高密度に圧縮されたエネルギーが解き放たれる瞬間を待つかのように、不気味に明滅する。
『喰らいやがれ!最大級の荷電粒子砲だぁ!!』
「収束荷電粒子砲、いけぇ!!」
二人が同時にトリガーを引き、極大の光が相手に向って伸びていき、二つの光が衝突する。
衝突の瞬間、真っ白な光が辺りを覆いつくし、そして世界から音が消えた。
遅れて大爆発が起こり、爆発音と共に、凄まじいまでの衝撃波が周囲に拡散する。
かつての大戦において、【破滅の魔獣】が齎した災害を髣髴とさせる破壊の嵐。
数分に亘って巻き起こった破壊は、近くにあった森をなぎ払い、大地を抉り、そして元凶である二体の竜を巻き込んだ。
爆発の収まった後、辺りに異様なまでの静寂が訪れる。
その中で、モゾモゾと動く物体があった。
『クソ…たれが……』
覆い被さる岩などを押しのけ、ヴィンセントのジェノブレイカーが姿を現す。だが、その装甲は所々が拉げ、駆動部分からは金切り声の様な異音を上げている。ヴィンセントがモニターを確認すると、ジェノブレイカーの各部に重大なダメージを負っていることが表示されており、相棒が今までに経験した事の無い損傷を受けている、と理解したヴィンセントは顔を顰める。
『荷電粒子砲同士が衝突すれば、こんな事態になるってのか……っ!?』
すると徐々に頭痛が引いていき、リミッターが正常に作動し始めたことを確認したヴィンセントは、一息つく。そして思い出したように、
自分の状況を考えると、バーサークフューラーも相応のダメージを負っていることは容易に想像できた。だが、こちらがそうであるように、相手も動けるのでは?と予想できる以上、楽観視は出来ないとヴィンセントが辺りを警戒していた時だ。
ノイズが奔るモニターに、地面に転がるバーサークフューラーの白い装甲が映ったのだ。
しかも一部ではなく、バーサークユニットを始めとする主要パーツまで辺りに散乱している光景に、ヴィンセントは「運が無かったな」とエスとフューラーが爆発の中に散ったものと考えた。
『……?』
しかし、すぐにその考えを捨て去った。ヴィンセントの中の”何か”が警鐘を鳴らすのだ……”何かがおかしい”と。
ヴィンセントは、もう一度散乱する残骸を見つめる。大地に散らばる装甲は、間違いなくバーサークフューラーを覆っていた物だ。だが、散らばるのは
すぐに行動を起こそうとしたヴィンセントだったが、すでに手遅れだった。
突如として、右側から強い衝撃が走り、コックピットを揺らした。
『なっ、なんだ!?…っ?!』
衝撃に驚きながらも、咄嗟に右側へ視線を動かしたヴィンセントは、目玉をひん剥いた。
彼の目に、装甲を脱ぎ捨てた素体状態のフューラーがとび蹴りをかました姿が飛び込んできたからだ。
そして、その姿を見てヴィンセントは、バーサークフューラーの【チェンジングアーマーシステム】の事を思い出した。
『まさか、使い物にならなくなった装甲を捨てたのか?!』
敵の問いに、エスは笑みを浮かべる。
「壊れたパーツを後生大事に背負って戦うような、素人じゃないんでね!」
荷電粒子砲同士の衝突の際、エスはダメージを減らすために、咄嗟にEシールドを展開したが、そのせいでバーサークユニットが過負荷で破損。相殺し切れなかった爆発の衝撃で各部スラスターも沈黙してしまい、フューラーはかなりのダメージを負った。だが、ジェノブレイカーと違いバーサークフューラーは、CAS部分の装甲と本体である素体自体の装甲を持つ、いわば二重装甲で構成されている。一部関節に負荷が掛かっているものの、破損箇所はCAS側の装甲に集中していたため、エスは爆発が落ち着いたのを見計らい、使い物にならなくなったCASを強制排除し、気配を消してジェノブレイカーに近づいていたのだった。
想定外の攻撃に、ヴィンセントが必死に立て直そうとするが、損傷の激しいジェノブレイカーは堪えきれずに体勢を崩す。そのことを見逃さなかったエスは、一気に畳み掛けた。
獰猛な肉食獣がごとく、フューラーが地面を蹴って駆け抜け空中へ飛ぶと、ジェノブレイカーを右足で蹴り抜き、その勢いで左の後ろ回し蹴りを頭部に叩き込む。
ジェノブレイカーが倒れると同時に着地し、さらに蹴りを見舞っていくフューラー。その一蹴り一蹴りは非常に重く、ジェノブレイカーの装甲を削っていき、最後にはとうとうブレイカーユニットが脱落した。
『待て待て待て!!ちょっ…待てって!!降参だ、降参!こっちはもう、戦えねぇよ!!』
あまりに一方的な展開に、ヴィンセントが悲鳴を上げる。既に、彼の相棒はコンバットシステムがフリーズしており、戦闘が出来る状態ではなかった。
相手が白旗を揚げたことを確認したエスは、攻撃の手を止める。
再び静寂が、辺りを支配する。
互いに満身創痍になりながらも、最後まで立っていたのはエスとフューラーの方だった。
ギュワァアアアーーー!!
その事実を誇示するように、フューラーが空に向って咆哮する。
「まさか、ここまでやられちまうとはなぁ……」
無残に横たわる相棒を見上げながら、ヴィンセントが呟いていると、フューラーから降りてきたエスが近づいて来る。
ヴィンセントが振り返り、二人は無言でにらみ合う中、先に口を開いたのはヴィンセント方だった。
「ったく……今まで色んなゾイドと戦ってきたが、何だよさっきの攻撃は!お前のゾイドは格闘家か?!」
「無駄な装備が一切無い状態だから出来る攻撃だ。格好よかっただろう?」
「うるせぇよ!非常識すぎるわ!!」
他のゾイド乗りと比べて、自分が非常識な存在であることを自負していたヴィンセントだったが、上には上が居ることを見せ付けられ、彼は何となく自分の負けを納得しまった。
「ちくしょう……今回は、俺の負けにしておいてやるよ」
「そうか…なら約束どおり、話してもらうぞ。俺を襲うように頼んだ者のことをな」
約束と言う言葉に、ヴィンセントは盛大にため息をついた。戦闘で負けることを想定していなかったヴィンセントは、詳細を知らないとは言え、依頼主のエージェント
「仕方ねぇよなぁ……まぁ、話せることと言っても、大した物はねえぞ?」
今まで、エージェント4から色々と依頼を受けてきたヴィンセントだったが、彼の言うとおり知っていることは少なかった。
ヴィンセントが知っていたのは、依頼主が【エージェント4】と言うコードネームを名乗っている事。単独ではなく、所属する組織があり、その組織が相当な資金力と戦力を有している事くらいだった。
「俺様が知っているのは、このくらいだ」
「……」
ヴィンセントの話を聞き終わり、エスは目を細めて考え込み始める。彼の話を信じるなら、敵が簡単にバーサークフューラーを諦めるとは思えなかった。下手をすれば、大戦力を投入し攻めて来る恐れもある。そうなれば、キャラバンのメンバーに多大な迷惑をかける事になる、とエスはキャラバンを離れる事も視野に入れるべきではないかと考える。
話すことを話したヴィンセントは、物思いに耽るエスを見て短く息を吐くと、声を掛けることなく下ろしてあったジェノブレイカーのシートへ歩き出した。
「行くのか?」
気が付いたエスが声を掛けると、ヴィンセントは振り返りしかめっ面を向けた。
「このまま此処居たら、戻ってきたお前の仲間に袋叩きに遭いそうだからな。特に、あのコマンドウルフに乗ってたお嬢ちゃんが怖そうだ」
先ほどの仕返しにどんな目に合うか分かったもんじゃない、とヴィンセントはシートに座り、コックピットへと収まった。
『次は俺様とノアールが勝つからな!俺様たちと戦うまで、負けは許さねぇぞ!』
満身創痍のジェノブレイカーを立たせて、ヴィンセントが大声で宣誓すると、エスが顔を顰めた。
「こっちは願い下げだ。あんたとは二度と戦いたくないよ」
だが、表情と言葉とは裏腹に、エスの声にはまんざらでもないと言った色が見え隠れする。
『ふん!じゃーな!!』
そういうと、ヴィンセントはジェノブレイカーの脚部スラスターを噴かして、明後日の方へと飛んでいった。
「……さてと、色々考えなきゃならない事が多いが、これ…どうすっかなぁ?」
一応危機が去ったと胸を撫で下ろすエスだったが、素体状態のフューラーを見て、アンジェリカに何を言われるか戦々恐々とするのだった。
**************
格好つけて飛び出したのはいいが、ジェノブレイカーに無理をさせたのが災いして、ヴィンセントは荒野のど真ん中で立ち往生してしまった。
すると、タイミングを見計らったように通信が入り、ヴィンセントは嫌な予感を感じつつも、通信をオンにした。
『見事の負けてしまいましたね』
エージェント4の第一声を聞き、予想が的中してしまったヴィンセントが盛大に顔を顰める。
「やっぱり、部下を通して見てやがったか……依頼に失敗した俺様を、近くに控えている部下を使って始末するって腹か?」
『とんでもない!貴方の様な一流のゾイド乗りは、早々替えが利きません。ワタシ供としては、ヴィンセントさんとはこれからも変わらぬお付き合いを願いたいくらいですよ?』
思っていた返答と違い、エージェント4が下手に出てきたことに、ヴィンセントは片眉を上げた。
『ですが、今回の依頼失敗に関しては、相応のペナルティを払って頂きますがね』
「やっぱりそう来るか……何が望みだ」
『以前拒否された、ジェノブレイカーのゾイド因子と戦闘データの提供を』
「ちっ!」
エージェント4の要求に、さすがのヴィンセントも舌打ちした。
ジェノブレイカーが今の時代、希少なゾイドである事はヴィンセントも承知している。だからこそ、そのことにアドバンテージと優越感も持っていたが、その二つを提供すれば、相棒が量産される可能性が高まり、自身の優位性を失う恐れがあるのだ。
前回は、ことも無く蹴ることが出来たが、今回は依頼を失敗した負い目がある。返答を窮するヴィンセントに、エージェント4が甘言を紡ぐ。
『もちろん、ご提供していただければ、今回の失敗は全てチャラ。さらに機体も、
エージェント4の言葉に、ヴィンセントが目を閉じる。センサーが殆ど死んでいるとは言え、複数の機影がこちらに向っているのは分かっていた。移動速度や部隊の展開のさせ方から、ほぼ間違いなく盗賊だと読み取れ、数分後には接敵するとヴィンセントも予測している。ジェノブレイカーが万全の状態なら、苦も無く倒せるだろうが、今は戦闘に耐えられる状態では無い。
背に腹は代えられない。それがヴィンセントの行き着いた答えだった。
「はぁ~……分かったよ。それで手を打ってやる」
『さすがはヴィンセントさん!お話が早くて助かりますよ。すぐに部下を向わせますので、お待ちください。盗賊の方も、こちらで処理しますので』
エージェント4が通信を切ると、ヴィンセントの頭上を爆撃装備のレドラーの編隊が飛んでいく。方向は、こちらに向う盗賊たちが居る方。
そして、その編隊に遅れて、今度はホエールキングが姿を現し、土煙を上げながらジェノブレイカーの傍に着陸すると、前面のハッチを解放した。
『ヴィンセント様、お迎えに上がりました。どうぞお乗りください』
外部スピーカーから女性の声が聞こえるが、ヴィンセントは呆気に取られていたため、聞き逃していた。
「マジか……」
さすがに、この状況はヴィンセントも予想しておらず、間抜けな顔をして呟いていた。
三度目の声掛けに漸く反応し、ヴィンセントはジェノブレイカーをホエールキングの中へと進ませる。
飛び立つホエールキングの窓から眼下を見ながら、代償は高くついたが、もう一度エスと再戦できることを信じて笑みを浮かべるのだった。
やっほ、ナデアよ。
ジェノブレイカーとの戦いで、傷ついたバーサークフューラーを修理する傍ら、エスは女将さんと今後の身の振り方を相談していた。
一方その頃、赤竜旗ではやばそうな奴が動きだしちゃったみたい?!
次回、ZOIDS-記憶をなくした男- 第十三話「王となる者」!
ちょっと、エス!キャラバンを出て行くって、本気じゃないよね?!