ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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お待たせしました!!


王となる者

「お、やっと到着か?」

 

 エージェント(フィーア)が寄越した使いのホエールキングに乗せられ数時間が経った頃、ヴィンセントは目的地に着いたことを感覚(・・)で察した。

 ホエールキングに乗せられてすぐ、窓の無い部屋へと押し込められたため、ヴィンセントは自分が何処へ連れて行かれるのか皆目見当がつかなかったが、目的地に到着し漸く降りられると、首を鳴らし背伸びをした。 

 

 だが、やってきたエージェント4の部下の女性から信じられない言葉が飛び出した。

 

「申し訳ありませんが、エージェント4のご命令で、ゾイドの修復が完了するまでこの部屋から出る事を禁止させて頂きます。もし無断で部屋を出た場合、警告なしに射殺します」

「……は?」

「必要な物はお持ちしますので、そちらの回線からご連絡ください。では、これで」

 

 突然すぎて状況が飲み込めず、呆けるヴィンセントを尻目に、女性は手早く説明を済ませると、踵を返して部屋を出て行った。

 

 一人取り残されたヴィンセントが復活したのは、女性が去って少ししての事だった。

 

 

******************

 

 ジェノブレイカー・ジェットに乗った賞金稼ぎ【ヴィンセント】との戦闘から三日。

 

 リョーコ率いるキャラバン【デザルト・チェルカトーレ】は、あの日以来、目立った襲撃を受けることなく次の街を目指して順調に移動している。

 

 そんな中、エスは先の戦闘で損傷してしまったバーサークフューラーを修理しているはずのアンジェリカから呼び出しを受け、ホバーカーゴの作業デッキへと赴いた。

 

「やぁ、エス…来たね」

 エスを出迎えたアンジェリカは、目の下に大きな隈をを作り、足取りもどこか覚束ない様子である。その姿に、エスはため息を漏らした。

 

「……ドクター、また寝てないのか?突貫作業をしてくれるのは嬉しいが、休まないとさすがに倒れるぞ」

「前にも言っただろう?こういう事は慣れっこさ……それよりも、君に伝えないといけない事があるんだ」

「それは、目の前に置かれたバーサークユニットのことか?」

 エスは視線を目の前のセッティングデッキへと動かす。そこには、分解されたバーサークユニットが並べられていた。

 彼の問いに、アンジェリカは複雑な表情を浮かべ、頷いた。

 

「あぁ……包み隠さずに言うけど、このバーサークユニット……正確にはメインとなるコアユニットの部分はもう使えないと思ってくれ」

 アンジェリカの言葉に、エスは「やっぱりか」と目を細める。

 

「修復の見込みが無いほど、酷いのか?」

「…修復するのは、不可能じゃないよ。ただこの僕を以てしても、相当な時間を掛ける必要がある。だが、問題なのはそれだけじゃない。必要とする修復部品が手持ちだけじゃ全く足りないんだ。他の機体に使う分を回したとしても不十分だし、そんな事をしたらエリーやナデアの機体に何かあった時、修理できなくなってしまう。不足分を新たに全て揃えようとしたら相当な持ち出しが必要……おそらく、別のコアユニットを探して修復した方が安くつくかもしれないだろうね」

「……ドクターがそこまで言うという事は、相当なんだろうな」

 

 付き合いが短いとは言え、現代においても稀有な存在であるバーサークフューラーという難物を、ほぼ完璧に近い形でメンテをし続けるアンジェリカの腕を、エスは高く評価していた。

 そんな、メカニックとして右に出る者がいないと言える彼女が、修復を諦めた方が良いと言い出しても、エスは反論せず、アンジェリカが差し出したタブレットに目を通した。

 

「幸いなのは、各部外装パーツとバスタークローやイオンターボブースターは手持ちの部品で修復可能で、まだ使えることさ。とは言え、コアユニットが無ければ、使い物にはならないけど」

 

 タブレットに目を通すエスに、アンジェリカが使えるパーツの細かい状況を説明していく。だが、彼女の説明を聞く限り各パーツの状態は、アンジェリカだからこそ使える(・・・)と言っているだけで、普通のメカニックなら全て処分する事を考える域のものばかりだった。

 

 エスはタブレットから目を離すと、短く息を吐き出した。

 

「こんなことなら、ドクターの言った通りに、他のCASパーツを探しておけばよかったな」

 

 何度か、アンジェリカにフューラが装備できるCASを探さないかと声を掛けられていたエスだが、バーサークユニットで事足りると考えていたため、いつも断っていた。

 だが、今にして思えばそれは自分自身の驕りだったとエスは恥じた。自分とフューラーのコンビなら、どんな相手でも大きな損傷を受ける事など無い……そんな驕った考えを持っていたために、今回の様な事態に陥ったしまったのだ、と彼は心の内で自分を責めていた。

 

 そんな悔しげに顔を歪めるエスに、アンジェリカは申し訳なさそうな表情を浮かべると、頭を下げた。

 

「その事なんだが……すまない!実は君に内緒で”伝”を頼って、他のCASパーツを探してもらっていたんだ。だが、現時点ではどれも空振り…一応継続して探してもらってはいるが、どちらにしても今回のタイミングには用意できなかったよ」 

「そうだったのか……ありがとうドクター、気を使ってもらって……しかし、ということは当分の間、素体状態で動かすしかないってことか」

 自分に内緒で他のCASを探し、今も引き続き探していると告白したアンジェリカに、エスは感謝の言葉をかけ、別のCASが見つかるまでの間、フューラーを素体状態で運用しないといけない事を口にする。

 

 そんなエスの意見に、アンジェリカは一瞬驚いた表情を浮かべ、すぐに首を横に振った。

 

「君の腕ならそれも可能だろうが、僕としては看過できない。メカニックとしても、仲間としても、ね……エス。君に一つ、提案があるんだが、聞いてもらえないか?」

「提案?」

「あぁ……バーサークユニットなんだが、元の状態に戻すのではなく、別の形に改修しないかい?」

「改修って、どうするつもりだ?」

「これを使おうと思うんだ」

 

 エスに渡していたタブレットを回収すると、アンジェリカが手早く別のデータを呼び出し、タブレットを再びエスに手渡した。

 そこに表示されていたのは、ジェノブレイカーの背面に装備される複合ユニット【ブレイカーユニット】だった。その画像を見て、エスは首を傾げるが、何かに気が付き驚きの表情を浮かべた。

 

「これは、ジェノブレイカーのブレイカーユニット?…っ!もしかして、ヴィンセントが置いていったやつか!」

「その通り。バーサークユニットと平行して、回収したブレイカーユニットの状態を調べたら、比較的損傷が少ないと分かったんだ。最初は、修復してコネクター部分をフューラー用に換装してそのまま使おうとも考えたんだが、それだと遠距離攻撃が荷電粒子砲しかなくなってしまうことに気が付いたんだ。ならいっその事、これを基にバーサークユニットの使える部分を組み合わせて、全く新しいユニットにしてしまおうと閃いたのさ!……ふふふ、これを形にできれば、荷電粒子コンバーターを得たフューラーの荷電粒子砲の威力は格段に上がる!!」

 

 具体的な完成イメージが出来上がっているのか、先ほどバーサークユニットの状況を説明していた時とは別人のようにトリップしたアンジェリカの口からは、様々なアイディアが漏れ出ている。

 そんな彼女を見ながら、エスは唖然として声を漏らした。

 

「随分思い切ったことを考えたな……しかし、勝手に使ってもいいのか?あれは一応、キャラバン預かりになってはずだろ?」

 

 そう問われたアンジェリカは、待ってました!と言わんばかりに得意げに胸を張った。

 

「それに関しては、女将さんには話を通してある!事情を話したら、「アレを使ってフューラーが直るなら、好きに使ってよかよ」、と気前よく許可をくれた!」

 デザルト・チェルカトーレでは、回収したゾイドやパーツは誰が拾おうとも一端キャラバンが全て預かり、その後リョーコの判断で売りに出すか出さないか判断される。

 今回の場合、回収したパーツがあまりに特殊なため、リョーコもどうするか判断に困っていたが、アンジェリカからフューラーの話しを聞き、修復に使って良いと許可したのだった。

 

「それで、エス。どうするんだい?」 

 すでにお膳立てが済み「NO」と言えない状況と、ニコニコと子供のような笑顔のアンジェリカを見て、エスは「オレに確認する必要あったのかよ?」と頭をかいた。

 

「……まぁ、あのブレイカーユニットを使って、フューラーが修復できるなら、オレが反対する理由は無い。で、すぐに作業を始めるのか?」

「いいや、タルタルの中で出来る事は限られているからね。女将さんの話では、今回の仕事が終わったら、キャラバンが拠点のひとつにしている都市へ寄るらしいんだ。本格的な改修作業はそこの作業場を借りて行おうと思っているけど、どうしてだい?」

 エスの質問の意図が分からず、アンジェリカが不思議そうな顔をしていると、エスが深いため息を漏らした。

 

「……なら、少し寝ろよ。これ以上オーバーワークを続けたら、本当に倒れるぞ」

 いくら本人が「徹夜は慣れている」と言っても、エスの目にはアンジェリカが限界に来ているのがはっきりと見て取れた。

 しかし、とうのアンジェリカはエスの言葉にムッとした表情をすると首を横に振った。

「気に掛けてくれるのは嬉しいけど、休んでる暇は無いさ。拠点に着いてすぐに改修作業に取り掛かる為にも、終わらせておかないといけない準備が山積みなんだ。だから寝ている暇は……って、僕のタブレットを返してくれないか?」

 少しでも準備を進めたいアンジェリカは、データを纏めるためにタブレットを返してもらおうとエスに手を差し出すが、彼は手にしていたタブレットをアンジェリカの手の届かない所に置いた瞬間、エスが目にも留まらぬ速さでアンジェリカの背後へと移動する。

 

「ドクター…少しでも良いから寝ろ!嫌だというなら、こうする!!」

 そういうとエスは有無を言わさず、アンジェリカを抱え上げ、所謂お姫様抱っこを敢行した。

 

「?!な、何をするんだ君は!?」

 突然のことに呼吸を忘れるほど驚いたアンジェリカだったが、自分の状況が理解できると顔を真っ赤にして暴れだした。

 

「このままドクターを部屋まで運んで行く……いいかドクター。アンタが倒れられたら、エリーだけじゃなくて、他のみんなも困るし心配するんだぞ?それにさっき、オレがフューラーを素体状態で動かすと言ったら、「仲間としてそんな危険こと、看過できない」と言ったよな?なら、オレも同じ事を言う……ドクターが無理をする事を、これ以上は見過ごせない、仲間としてな!」

 

 エスが怒っていると漸く分かり、暴れる事をやめたアンジェリカだったが、お姫様抱っこで運ばれることに強い抵抗を見せた。

 

「き、君が本当に心配してくれている事は理解した!……だからと言って、このようにして運ばれるのは…不本意だ!ちゃんと、自分の足で部屋に戻る!」

「ダメだ。ちゃんと部屋まで連れて行って確認しないと、寝ないかもしれないからな」

「僕は子供か!?だったら、別の運び方を要求する!っ~~…こう見えても、僕だって女なんだ。男の人にこういうことをされるのに慣れてないし、その…恥ずかしいんだぞ……」

 

 これまでの人生で味わった事の無い恥ずかしさで赤くなった両頬を手で押さえながら、アンジェリカが消え入るような声で抗議する。

 

 そんな彼女の姿に、キョトンとした表情をしていたエスだが、アンジェリカの女性らしい反応を見て笑みを浮かべた。

 

「…なんだ、ドクターもそんな可愛らしい表情するんだな」

「?!君は僕を馬鹿にしているのか!?」

 

 自分が女性らしくないと自覚しているアンジェリカだが、それを改めて他人に指摘されると無性に腹が立ち、声を荒げる。

 

「していない。兎に角!これが嫌なら今度からはちゃんと睡眠を取るんだな、アンジェリカ」

「くっ…僕にこんな辱めを受けさせたこと…絶対に忘れないから……」

 恨み節を口にするアンジェリカだが、その表情は何処か嬉しそうにも見える。

 

 結局、アンジェリカはエスに部屋まで運ばれ、そのままベッドに放り込まれた。エスの見立てどおり、余程眠かったのか、愚痴をこぼしていた彼女はモノの数分も経たずに、寝息を立て始めたのだった。

 

*************

 

 アンジェリカが寝たのを確認し、部屋を後にしたエスは、ホバーカーゴの外へと出た。

 

 外は既に夜の帳が下り、キャラバンは野営を行っている。

 

 エスは、手近な岩に腰掛けると夜空を見上げる。

 

 キャラバンに拾われてからというもの、エスは夜になるとこうして満天の星が煌く夜空を見上げている。何となくだが、記憶を無くす前も、誰か(・・)とそうしていたような気がしたからだ。

 

「おや?エスやないね。こんな時間になんばしよっとね?」

 

 突然、声を掛けられたエスが振り向くと、そこにはキャラバンの顔であるリョーコが立っていた。

 

「女将さん……いや、別に。女将さんこそどうしたんだ?」

「あたしは、夜番のメンバーの夜食を作りよったとよ」

 

 リョーコが指差した先に、夜番をするメンバーたちが食事をしていた。

「それで、アンタはなんしよったとね?……ははぁ~…何ね?悩みがあるなら、小母ちゃんが聞いちゃるよ?」

 

 星を眺めて黄昏ていたエスに、何か悩みがあるのでは、とリョーコは考え、「ほら、話さんね?」と促す。

 

 適当なことを言ってはぐらかす事も出来たエスだが、リョーコを見ていると、不思議と話さなければいけない気になっていく。

 

「…女将さん、実は……」

 

 そしてエスは意を決してリョーコに、ヴィンセントや先の謎の部隊襲撃の真意と、その背後に居るとされる謎の組織が糸を引いている事を話し、どうすればいいか悩んでいると打ち明けた。

 

 話し終わり、エスがリョーコの顔を見ると、彼女は何とも言えない渋い表情を浮かべていた。

 

「……何ね、色恋沙汰で悩んどうかと思ったら、そげんこつね。つまらーん」

「女将さんっ!」

 さすがに茶化されるとは思っていなかったエスが声を荒げる。

 鼻息を荒くするエスに、リョーコは二カッと笑みを浮かべた。

 

「冗談っちゃ!……それにしても、ここ最近の襲撃にはそげん理由があったとね」

 ここ最近起きたキャラバンに対する襲撃に、何かしらの意図を感じていたリョーコは、エスの話しを聞いて疑問に思っていたことが腑に落ち、何度も頷く。

 

「……その組織にフューラーを渡せば、一先ずキャラバンが襲われる事は無くなると思う。だがフューラー(あいつ)は、オレを信頼してマザー・ミレイが託してくれたゾイドだ。オレの気持ちとしては、彼女の信頼を裏切るようなマネはしたくない……それに、強硬な手を使ってゾイドを奪おうとする連中だ。そんな奴らにフューラーを渡せば、これから先、多くの人々を不幸にするような事を仕出かす気がしてならない。だが、女将さんがキャラバンの安全のために、そいつらにフューラーを引き渡せと言うなら、オレはフューラーと共に、ここを出て行く……まぁ、出来ることならここを出て行きたくは無いけどな」

 

 先ほどとは打って変わって、エスの話しを真剣な面持ちでリョーコは耳を傾けていた。エスの話しを聞き終わると、リョーコは短く息を吐き出す。 

 

「……それが、アンタの抱えとった悩みね?」

「あぁ」

「この事を、他の誰かに話したね?」

「いや、していない。まずは、女将さんに話しを通すのが筋だと思っていたからな」

「そうね……この話は一旦小母ちゃんが預かるけん、他言せんどき。分かったね?」

 そう言うと、リョーコは険しい表情のまま、自室のある車両へと帰っていく。

 

 彼女の背中を見送ったエスは、ほんの少しだけ胸の痞えが軽くなった気がし、残りを取り去るように一度息を吐き出すと、再び夜空を見上げるのだった。

 

 

************

 

 

「どうですか?その後、ヴィンセントさんの様子は」

『最初は、部屋から出せと騒いでいましたが、エージェント4のご指示通り、酒を提供したら大人しくなりました』

「そうですか、それは良かった」

 

 部下からの報告に、エージェント4は満足そうに頷いてみせる。彼にしてみれば、束縛を嫌うヴィンセントが部屋に押し込められれば、暴れだすのは簡単に予測できた。そんなヴィンセントを静かにさせるには、酒が一番良いと、部下に彼好みの酒をしこたま持たせていたのだ。

 

 何事もないと報告を受け、満足げに笑みを浮かべるエージェント4に、部下の女性が意を決したように口を開いた。

 

『しかし、ここまでする価値が本当にあの男にあるのでしょうか?酒で精神の安定を図るような……依頼も満足にこなせない様な男、ジェノブレイカーがを回収した時点で用済みだったのではないかと……今からでも始末した方が良いのでは、と愚考します』

 

 部下の言葉にエージェント4は目を丸くするが、すぐにいつもの作り笑みを浮かべる。

 

「おやおや…若いお嬢さんがそのように物騒なことを言ってはいけませんよ。彼の様なフルスペックのジェノブレイカーを乗りこなすゾイド乗りは早々いません。一度負けたからと言って、ヴィンセントさんの価値は何一つ失われてはいない……戦闘データを見ている貴女も、それは理解していますね?」

『……』

 エージェント4の指摘に、部下の女性は何も言い返せず押し黙る。仕事上、それなりの数のゾイド乗りの実力を見ている彼女も、ジェノブレイカーに収められた戦闘データから、ヴィンセントの実力が本物である事は嫌でも理解できている。

 だが、それでも彼女には”割り切れない気持ち”があった。

 

 反論してこない部下を見て、エージェント4は彼女がヴィンセントの”価値”をきちんと理解していると判断し、締めに入る。 

 

「理解しているのなら、結構。では、何かあればまた連絡を」

『畏まりました…失礼します』

 何処か不満そうな顔をして、女性が頭を下げると通信が終了し、エージェント4の前にある画面が漆黒へと変わる。

 

「…ふぅ、彼女の男嫌いも相当ですね。ワタシにはそこまでの拒絶反応は無いのですが……この際、苦手克服のために、今後ヴィンセントさんとの連絡役にしてみましょうか?」

 先ほどまで報告していた部下の女性が聞けば発狂しそうな事を口にしながら、エージェント4はデスクチェアに背中を預け、オフィスの窓の外に広がる空を見上げる。

 

 そんなエージェント4の背後で、オフィスのドアが勝手に開いた。

 

「誰ですか?アポ無しでの面会はお断りしているのですが…」

 またエージェント(ゼクス)辺りが乗り込んできたか、と憂鬱になりながら振り返ると、そこにはエージェント4が絶対に自分のところへやってくるはずが無いと思っていた人物が立っていた。

 

「ほう、余であっても貴様と会うために、一々連絡を入れろと言うのか?エージェント風情が、随分偉くなったものだな」

 

 立っていたのは、古めかしい貴族服を纏った二十前後の青年だった。女性を虜にする甘い端正なマスクをしているが、纏う雰囲気と服装が相まって、青年を言葉で表現すると、”尊大””不遜”と言うのが相応しい、そんな人物だった。

 

 青年は、エージェント4の言葉が気に入らなかったのか、苛立ちを露にしていた。

 

 その姿を見てすぐに立ち上がったエージェント4は、青年に対して恭しく頭を垂れた。

 

「……これは申し訳ありません、殿下(・・)。まさか、御自らお越しになられるとは露にも思っておりませんでしたので……お申し付けいただければ、こちらからお伺いいたしましたのに」

 

 エージェント4のオフィスを訪れたのは、赤竜旗(ロード・ドラグファーネ)の首魁である”御前”の孫と言われる人物だった。

 ある意味で、エージェント6以上に面倒な人物の登場に、エージェント4は内心でげんなりと言った心境だったが、難癖を付けられても面倒だ、とその顔には申し訳ないといった表情を”形”だけ浮かべている。

 

 当たり障りの無いエージェント4の言葉に、何故か青年の表情が一層険しくなった。

 

「それでは、余が待つことになるではないか戯けが……まぁ、そんな事はどうでも良い。エージェント4よ、貴様…新な帝国の遺産を見つけたそうだな?」

 断り無く、当然のようにオフィス内に入り、接客用のソファーへ腰掛けた殿下と呼ばれる青年から飛び出た言葉に、エージェント4の目が一瞬だけ鋭さを増す。

 だが、すぐにいつもの営業スマイルへと戻り、殿下の疑問に対して肯定するように頭を縦に振った。

 

「…はい、仰るとおりにございます。ただ、帝国の遺産【バーサーク・フューラー】を所有するゾイド乗りが思いのほか手強く、現在捕獲の為に情報を収集している段階でして……」

「情けない…聞けば、帝国の遺産を所有しているのは、キャラバンとか言う行商を行う者だと言うではないか。そのような下賎な者に後れを取るなど、この恥さらしが……もう良い!貴様に任せていては、いつ余の手元に届くか分かった物ではないようだ。その遺産…余、自ら回収してやろう」

 

 エージェント4の報告を聞いていた青年が突然、苛立ちを爆発させえるように盛大に舌打ちし立ち上がると、大声で出撃を宣言した。

 

「御自ら、でございますか?」

「この間エージェント(ヒョンフ)の手に入れた遺産を使う。余とアレならば、確実に敵を蹴散らし、遺産を回収できるだろう」

「アレを、もう実戦に出すと?」

 さすがのエージェント4も自身の耳を疑い、殿下に問い返した。帝国の遺産と呼ばれるゾイドは、赤竜旗においても特別なゾイドで、例え”御前の孫”という立場にあっても、おいそれと動かせる代物ではないのだ。

 

 エージェント4が驚いていると感じた殿下は、得意げに笑みを浮かべる。

 

「実戦データが欲しいそうだからな、丁度良いではないか…エージェント4よ。貴様には、余のサポートを命ずる。すぐに出撃の準備をせよ。良いな?」

 踵を返して部屋を出て行く殿下の背中を見ながら、エージェント4は自分の与り知らぬところで事態が動いている気配を察知し、「これは、少し付き合ってみるのがいいかもしれませんねぇ」と、笑みを深め再び恭しく頭を垂れた。

 

「御意……」

 

 

 エージェント4の号令で、出撃の準備が進むホエールキング内の格納庫に殿下の姿があり、乗機となるゾイドを見上げている。

 そのゾイドの雄姿に、殿下の口元が自然と緩む。

 

「さぁ、余のために働いてもらうぞ……ライガーゼロよ!」

 

 そう叫んだ彼の眼前には、装甲を真紅に染め上げられたライガーゼロが鎮座し、静かに青年を姿を見つめているのだった。

 




 オッス、ジェドーだ。
 フューラーの改修作業のため、キャラバンの拠点にしている都市に立ち寄ると、何とキャラバンの代表にして女将さんの夫である「旦那さん」が俺たちを出迎えてくれた。
 久しぶりの再会に話を弾ませていた俺たちに急遽飛び込みの仕事が入り、改修作業をしていたエスとドクターを残して指定された場所に向うと、そこにはトンでもない奴が待ち構えていやがった!
 なっ、紅いライガーだと!?こいつも、エスたちが狙いかよ?!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男- 第十四話「帝国のライガー」!

 こいつはちょっと、分が悪そうだ。
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