ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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まさか、こんなに早く更新できるなんて!!


宣戦布告

「……完成だ」

 

 コンピュータのキーボードから手を離し、アンジェリカが万感の思いを込めるように小さくもはっきりとした声で調整作業終了を宣言する。

 

 

―……う、うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 その言葉に、彼女を取り囲んで作業を見つめていたタダンファクトリーの整備スタッフたちが野太い歓喜の声を上げた。

 

 声に驚き、ビクッと身体を竦めて驚きの表情でアンジェリカが振り返ると、スタッフたちが口々に声を掛けてきた。

 

「すげぇ…これが三年前に噂になった再生師(・・・)の腕か……」

「”神の手を持つ”なんて噂、信じちゃ居なかったが、あんたの腕を見せられちゃ信じるしかないわな!」

「この数日、こんなに胸が熱くなったのは、二代目のおやっさんの作業を見た以来だ!良いもの見せて貰ったぜ、嬢ちゃん!!」

 

 アンジェリカの肩などを叩きながら、スタッフたちが賞賛の言葉を口にする。

 

 驚きの表情を浮かべていたアンジェリカだったが、彼らの言葉を聞いて、ゆっくりと首を横に振った。

 

「とんでもない。僕の力など、微々たる物だ……今回の作業がこれほどスムーズに進んだのは、この工場が最新の設備を備えていた事もあるが、熟練の技術を持つあなた方職人が手を貸してくれたからだ。感謝してもし足りない…やはり僕の私財から手間賃をお支払いしま…あぅ?!」

 元々、設備のみを借りる予定にしていたアンジェリカにとって、タダンファクトリーのスタッフが総出で手伝ってくれたのは予想外だった。最初、彼らが手伝いを申し出た時に、アンジェリカは「手伝っていただけるなら、手間賃を払う」と申し出たのだが、「要らない!」と一蹴され、彼らの勢いに押し切られるまま、改修作業を手伝ってもらってしまったのだ。

 

 そのことが最後まで心苦しかったアンジェリカは、改めて手間賃の支払いを申し出ようとするが、髭面の整備スタッフが手を前に出すと、言葉を遮るように彼女の額を小突いた。

 

「何言ってんだ、そんなもんいらねぇよ!なぁ、三代目?」

 髭面の整備スタッフが、クリューへと言葉を投げると、彼はゆっくり首を縦に振る。

 

「えぇ、その通りです。神の手を持つと言われる”再生師アンジェリカ”と呼ばれた貴女の技術は、我々の予想を遥かに越えた領域にあった。我々はそれを間近で拝見し、卓越した技術と知識を少なからず得る(・・)事が出来た。技術者として、これ程価値ある”モノ”はありません…むしろ、我々が授業料をお支払いしなければならないくらいですよ。なので、我々は無償で貴女から教え(・・)を請うことが出来、貴女はお仲間のゾイドを完璧な形で修復し完成させることが出来た……お互いに損することなく満足している。そう、思うことにしませんか?」

 

 そう言って笑みを浮かべたクリューを見て、アンジェリカは自分の身に付ける技術が熟練工たちの糧になったことを知って、人の役に立てた(・・・・・・・)ことに嬉しさがこみ上げ、居住まいを正すと深々と頭を下げた。

 

「…ありがとうございます!」

 感謝の言葉を述べ、頭を上げて”ニコッ”と微笑んだアンジェリカを見て、スタッフたちの顔が茹蛸のように真っ赤に染まった。

 

「ッ!……しっしかし、予想を超えていたと言えば、噂の再生師がこんな美女だったことだな!」

「いや、当時の年齢から言ったら美少女だろ?俺はその時の再生師に会ってみたかったぜ!」

 恥ずかしさを隠すように、技術屋気質の男たちがアンジェリカの容姿を褒めだす。

 

 先ほどからスタッフたちの口にしている”再生師”というのは、アンジェリカの通り名である。

 

 実家を飛び出した後、彼女は技術向上と日銭を稼ぐ為に様々なゾイドを修復して回っていた。それも、一流のメカニックが匙を投げるようなスクラップ同然のゾイドの修復ばかりを手掛け、物の見事に修復していたために、”再生師”の名と共に幾つもの逸話が、メカニックたちの間で”噂”として広まっていったのだ。

 

 ここ数年、白百合の園から出ることがなかったアンジェリカは、「そんな噂など、当の昔に消えているだろう」と思って忘れていたのだが、忘却の彼方に追いやっていた通り名が飛び出た事で、若気の至り(・・・・・)を思い出し恥ずかしさで顔を紅くした。

 

 フューラーのコックピットの中で作業の手伝いをしていたエスは、眼下の光景をディスプレイ越しに見つめ、短く息を吐き出し肩から力を抜くと、笑みを浮かべた。

 

 すると、ディスプレイの端に通信を知らせる表示が点滅した。

 エスが眉を顰め、通信をオンにすると画面に”音声のみ”の表示が現れた。

 

『…ポイントX233で、貴方の仲間が襲われている』

「は…?おい、それはどういう…」

 若い女性と思われる声が伝えて来た内容に、エスが表情を険しくして聞き返そうとするが、通信が一方的に切断され、通信画面が消える。

 

 何かの悪戯かとも考えたエスだが、コンソールを操作してスチールギア・シティー周辺の地図を呼び出し、通信の声が伝えてきたポイントを検索した。

 そこは、輸送依頼を受けたリョーコたちが行き帰りと通る予定の交易路の中で、崖と渓谷に挟まれた危険な地点だった。

 

 そのことを知ったエスの中で、警鐘が大音量で鳴り響く。

 

『エス、調整作業は終わった。一度降りて…』

「ドクター、フューラーを出す!どいてくれ!!」

 コックピットからなかなか降りてこないエスに、アンジェリカが通信を入れてきたが、エスはその言葉を遮るように叫ぶとフューラーのシステムを戦闘ステータスで起動させた。

 

『えっ?!』

 突然のエスの言葉に、アンジェリカが驚きの声をあげ、周りに居たクリューを始めとする整備スタッフたちも騒然とする。

 

 焦燥に駆られながらも、エスが先ほど入った不審な通信の事をアンジェリカたちに伝えると、彼らの表情が一変し慌しく行動を始めた。

 

 この時、仲間たちが最悪な状況に追い込まれている事を、エスたちはまだ知らなかった。

 

 

****************

 

 

『いやぁああああああああああああああ!!おにいちゃぁああああん!!』

『ジェドー……さんっ』

『ジェドー…冗談だよな?冗談だって、言ってくれよ……』

 

 ナデアの絶叫が外部スピーカーを通して辺りに響き渡る中、エリーたちは目の前で起きた状況が受け入れられず、呆然とジェドーが落ちた渓谷を見つめる。

 

 そんな彼らに追い討ちを掛ける様に、”殿下”が「ふん!」と鼻を鳴らした。

 

『黙って見ていれば、もう少し長生きできたというのに……他人を助けて自分が死ぬとは、愚かの極みだな!!』

『っ?!お兄ちゃんを…あたしのお兄ちゃんを、馬鹿にするなぁ!!』

 ジェドーの行為を蔑む”殿下”の言葉を聞いて、涙を流していたナデアの顔に怒りの形相が浮かび、その怒りをぶつけんと、ロングレンジライフルの照準をライガーゼロへと向けた。

 

『”殿下”!!』

 ナデアがトリガーを引こうと瞬間、エリーと戦っていた最後のヘルキャットが、ライガーゼロを守るためにコマンドウルフのロングレンジライフルに、二連高速キャノン砲の照準を定めて火線を集中させると、攻撃を受けたライフルが大爆発を起こした。

 

『きゃぁああああっ!!……』

 

 破壊されたロングレンジライフルの爆発の衝撃で、コマンドウルフのコンバットシステムがフリーズし、コックピット内で成す統べなく大きく揺さぶられたナデアは、そのまま気を失ってしまう。

 

『ナデアっ…!』

 黒煙を上げながら地面に力なく倒れる親友のコマンドウルフを見て、エリーがナデアの名を叫ぶ。

 

 大切な人たちが次々と倒れる状況を目の当たりにした瞬間、エリーの頭の中は真っ白に漂白され、同時に己の中で”カチッ”と何かが噛み合う音が鳴ったのを聞いた気がした瞬間、彼女の手が普段触れることのない(・・・・・・・・)コンソールへと伸びた。

 

 ロングレンジライフルを破壊され倒れたコマンドウルフ見つめ、また(・・)助けられたことを自覚した”殿下”は苛立ちを覚え、ヘルキャットを忌々しく睨みつけた。

 

『本当に余計な事を…この程度の敵勢力など、余一人で十分だ!貴様は下がっていろ!!』

 余計な手出しをするなと怒鳴られたヘルキャットのパイロットは、言葉を返すことなく、只静かにステルス迷彩を起動して命令どおりに下がろうとした時だ。

 

 ”紅い風”がヘルキャットに襲い掛かった。

 

『?!な、なんっ……』

 突然の出来事に、ヘルキャットのパイロットが声を上げようとするが、その間もなく金切り音に飲み込まれてしまう。

 

 ”紅い風”が駆け抜けた後には、散り散りに引き裂かれたヘルキャットの残骸が広がり、数度のスパーク光が煌いたかと思うと、大爆発を起こした。

 

『な、何が起きた!?』

 事態が飲み込めない”殿下”が慌てて辺りを見渡すと、グスタフの傍に居たはずのファイアーフォックスの姿が消えていることに気がつき、その姿を探す。

 

 すると、爆発したヘルキャットの残骸から少し離れた場所に、ファイアーフォックスが静かに佇んでいるのを発見する。

 

『っ…まだ余に反抗する意思が残っているのか……いい加減諦めよ!!』

『………』

 苛立ちを露にする”殿下”が怒りを込める言葉を吐き棄てるが、エリーは反応を返すことなく、パイロットシートのヘッドレストの後ろからせり出した何本ものケーブルが繋がるヘルメットを被ったまま、アンジェリカの言葉を思い出していた。

 

―…エリー、君に一つ伝えておかないといけないことがある。君が乗っているファイアーフォックスに搭載されている特別なインターフェイスについて……。

 

 それは、ファイアーフォックスの最終調整が終わった後に、アンジェリカから聞いたフォックスに秘められた”力に”関することだった。

 

 【ダイレクト・ブレイン・コントロール・システム】…通称「DBCS」。嘗て、共和国軍の次期主力ゾイド開発の際に、創立間もない民間企業が独自開発し持ち込んだ脳波コントロール機器で、パイロットの思考を操作系コンピュータを介してゾイドコアと搭載火器管制システムへダイレクトに伝達。反応速度の向上と高精度の操作を可能とする画期的なシステムだった。

 更に、このシステムにはフルスペックOSで問題とされた「ゾイドコアの思考がパイロットへ逆流する」という問題を解消し、通常の操作を可能とすることが判明したため、共和国軍は次期主力ゾイドとして白羽の矢が立ったシャドーフォックスの量産モデルに、OS+DBCSの搭載を決定。先行量産機として九機生産されたが、それが後に帝国によって強奪され、ファイアーフォックスして共和国軍に牙をむくこととなる。

 

 そんな画期的なシステムではあるが、何故か同システムが普及したという記録は何処にもなく、ファイアーフォックス以降、DBCSを搭載した機体は同時期に試作された支援機体【キャノニアーゴルドス】以外には存在しない。そのため、DBCSに関する情報は殆ど後世に残っていなかった。

 

 ファイアーフォックス修復の際、情報不足だったアンジェリカはこのDBCSを完全(・・)な形で修復することが出来ず、自分の知る限りの代用できそうな技術を用いて修復していた。

 

 今まで、エリーがDBCSを使わなかった最大の理由は、システムの不具合を心配し、アンジェリカがエリーと約束していたからだ。

 

 システムが完全な形に修復できるまで、使わない、と。

 

《DBCS、正常起動を確認……続いてオーガノイドシステムの全リミッターを解除します》

 

 だが、エリーは大切な人たちの窮地を目の当たりにして、その約束を破り、DBCSを起動させた。普段のアンジェリカなら、不完全なシステムをそのままにせず封印などを講じるはずだが、彼女はエリーの人柄から軽々しくシステムを使わないだろうと信頼し、敢えて封印処置をしていなかったのだ。

 

 ディスプレイに表示されるシステムの起動状況を見ながら、エリーは今にも泣きそうな顔で、口を開いた。

 

「約束を…破って、ごめんなさい…ドクター……」

 

 脳波コントロール用のヘルメットを被ったエリーが、消え入りそうな声でアンジェリカへの謝罪を口にする。少し前に、約束を破ることはいけないと、アンジェリカに苦言を呈した自分が約束を破った事に、エリーは罪悪感で胸を締め付けられる。

 だが、目の前に立ちはだかる敵の暴挙を許す事など出来なかった。エリーがライガーゼロを見据えると、彼女の顔から悲しみの色が消えていた。

 

『許さない……わたしの、大切な人たちを…傷つけた、ことっ!!』

 エリーの言葉と共にファイアーフォックスが駆け出すと、瞬く間にライガーゼロとの距離を縮める。

 

『ちぃ!!』

 ファイアーフォックスのあまりの速さに、”殿下”は舌打ちしながら、敵の足を止めるために二連ショックカノンを発射する。目に見えない衝撃波がファイアーフォックスに襲い掛かり、衝撃波がフォックスに直撃した瞬間、”殿下”は自分の目を疑った。

 

 衝撃波が直撃した瞬間、ファイアーフォックスの姿が霞みのように消えたのだ。

 

『ば、馬鹿な?!』

 訳がわからず”殿下”が声を上げる。

 彼が攻撃したのは、高速移動と装甲に散布されていた特殊塗料によって生じたファイアーフォックスの作った残像だった。

 

『ストライクレーザー……クローっ!!』

 消えた残像の影から、本物のファイアーフォックスが躍り出て、必殺の攻撃を繰り出す。

 

『っ!?』

 迫り来る敵の攻撃に”殿下”の身体がまた硬直するが、先ほどの光景を焼き回したかのように、危機を察知したライガーゼロがバランスを崩したように重心を左に大きく傾けて、ファイアーフォックスのストライクレーザークローを避ける。

 

 しかし、DBCSの恩恵による跳ね上がった反応速度によって繰り出されるストライクレーザークローは、先ほどよりも数テンポ速く繰り出されライガーゼロを捉えたかに見えたが、惜しくも右前足の肩装甲を削るだけに留まる。

 

『っ……まだっ!!』

 アンジェリカとの約束を破ってまで手を出した力を使いながら、敵を一撃で仕留められなかったことにエリーは悔しさを滲ませると、着地と同時に方向転換しながら地面を蹴って飛び上がり、側面にそそり立つ崖を足場にして三角とびの要領でもう一度方向転換すると、ライガーゼロへと襲い掛かった。

 

 しかし、既に体勢を整えていたライガーゼロが、崖を蹴って飛び掛ってくるファイアーフォックスに対して、地面を蹴って飛び上がると真正面から衝突した。

 

『っ!…っおぇ?!…』

 常人の反応速度をこえる攻防に、只一人翻弄される”殿下”は衝撃に耐え切れず、コックピット内で胃の中身をぶちまけた。

 

 空中で衝突し錐揉み状態だった二体が、弾きあうように離れると一定の距離を置いて、地面に着地する。

 

 予想以上のライガーゼロの能力の高さに、攻めきれないと感じたエリーは、敵の動きを封じた上で止めを刺すことを考え、尾部に装備されたプラズマ発生器を起動させようと思考した時だ。

 

 突如、コックピット内にけたたましい警告音が鳴り響いた。

 

《警告。DBCSに想定以上の負荷が発生。搭乗者保護を最優先し、オーガノイドシステムの全リミッターを再起動。DBCSを緊急停止します》

『えっ…?!』

 コンピュータの音声と共にDBCSがシステムダウンし、しかもその影響からコンバットシステム始めとするその他のシステムまでダウンしてしまう。

 非常灯の明かりだけとなったコックピット内で、エリーは驚きで思考を止めてしまった。

 

 突然、動かなくなった敵に、自身の吐しゃ物にまみれる”殿下”は、常軌を逸した目でファイアーフォックスを睨みつける。

 

『…何だそれは?ふざけているのか……余を、どれほど馬鹿にすれば気が済むのだ!!』

 血走った目で操縦桿を握り、”殿下”はライガーゼロを敵へと目掛けて走らせ、そのまま体当たりを食らわせた。

 

『キャッ…!?』

 システムがダウンし、モニターが死んだ事で何が起きたのか解らず、エリーは操縦桿を握り締め、衝撃を必死に耐える。

 

『余は!再興した!帝国の!皇帝と!なる!存在!だぞ!貴様らの!様な!下賎の輩が…余の覇道を邪魔するな!!』

 自分の怒りをぶちまけるように、”殿下”は倒れたファイアーフォックスに対し、踏み付けや蹴りなど必要以上に攻撃を加える。

 

『エリー!!』

 一方的に嬲り殺しにあうファイアーフォックスを見て、リョーコたちが悲鳴にも似た声を上げると、グスタフの隠し兵装であるビームキャノンを起動させ、ライガーゼロへと発射する。

 

『五月蝿い!!』

 近くに着弾したビームを見て、”殿下”はライガーゼロを操り、倒れているファイアーフォックスの首元を咥えるとそのままグスタフに向って放り投げた。

 

『クッ…』

『きゃぁああ!!』

『っ!!』

 ファイアーフォックスがぶつかった衝撃に、グスタフに乗っているルナたちから悲鳴が上がる。

 

『…余に恥をかかせた罪……同じだけの辱めを以て贖わせてやるぞ……』

 

 幽鬼のようなゆっくりとした歩で、グスタフへと迫るライガーゼロ。

 

 娘二人を抱き寄せながら、リョーコは近づいてくるライガーゼロに対し、毅然とした表情で睨みつける。

 

 その時だった。

 

 近づいてきていたライガーゼロが、突然上空へと顔を上げたかと思うと、後ろへと大きく飛び退き、ライガーゼロの居た地点にビームが降り注いだ。

 

『?!何だ!!』

 

 何事かと”殿下”が声を上げ、上空へと目をやる。すると、空から一機のゾイドが現れ、ライガーゼロとキャラバン隊との間に舞い降りる。

 

「あれは…まさか……っ!」

 コックピットハッチを強制開放して外へと出たエリーが、現れたゾイドを見て歓喜の涙を流す。

 自分たちを守るように雄々しく立つ後ろ姿がどんなに変わろうとも、誰が来たのか判ったからだ。

 

「エス……様っ!」

 

 ギュワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 そう、エリーたちの窮地に駆けつけたのは、改修が済んだばかりのフューラーとエスである。

 

 改修されたCASを纏ったフューラーは、全身に亘ってその姿を変えていた。

 

 最大の変更点である背面には、ブレイカーユニットを基にして製作された複合武装ユニットが新たに搭載された。このユニットには、フューラーと相性の悪かったウイングスラスターではなく、修復されたイオンブースターを装着されている。荷電粒子コンバータはユニット中央よりやや後方に配し、その前にバーサークユニットのフレキシブルアームを取り付け、アームを介してユニット右側には機能が追加された改修型バスタークロー、左側にはフリーラウンドシールドが備えられ、その姿は槍と盾で武装した重装歩兵にも見える。

 各装甲も形状が変更され、敵の攻撃が集中する頭部や肩部、大腿部装甲には、バスタークローを装備するために撤去されたフリーラウンドシールドを加工して作られた増加装甲を取り付け重装甲化。そのために増加した重量をカバーするため、脚部を中心に撤去したウイングスラスターを加工して製作した可動式スラスターを増設してある。

 

 そして、バーサークユニットから引き続き、装甲は白を基調としたカラーリングになっている。

 

『すまない、皆…遅くなった』

 

 辺りを見渡して傷ついた仲間に詫びながら、エスはコックピット内で頭を下げると、ファイアーフォックスから通信が入った。

 

『エス様っ!ジェドー、さんがっ!!』

 

 エリーの悲痛な声に、エスが慌ててジェドーの姿を探す。

 

「ジェドー!……っ!?」

 

 ジェドーのコマンドウルフの残骸を発見したエスは、空になったコックピットと残骸のそばに渓谷が広がっているのを見て、すぐに彼の身に起きたことを悟り、声を詰まらせる。

 自分が駆けつけるのが遅れたことで、取り返しのつかないことが起きてしまったのではないか、とエスが唇を噛み締めた。

 そして、この状況を生み出したと思われるライガーゼロを、静かに見据える。

 

 睨みつけてくる乱入者に、”殿下”は「また邪魔者か」と表情を険しくしたが、すぐにその正体に気がつき、声を上げた。

 

『貴様……その機体、バーサークフューラーか?くくく…戦闘で損傷した聞いてはいたが、元通りに直せていないとはな!何だ、その不恰好な姿は!?やはり、貴様らの様な者には不相応な「黙れ」…なんだと?』

 エージェント4から得ていた情報でバーサークフューラーの姿を知っていた”殿下”は、改修されたフューラーを見て声を上げて笑い扱下ろすが、その声を不快に感じたエスが一喝する。

 

「聞こえなかったのか?黙れといったんだ」

 エスの発した声は、恐ろしいほどの冷たさ(・・・)を伴い、声を聞いたエリーたちは普段のエスとはかけ離れた声に、言い知れぬ恐怖を感じた。

 

 しかし、一喝された”殿下”本人は、何も感じなかったのか、エスに対し怒りを露にした。

 

『貴様もか!!礼儀も知らぬ、愚か者め!コックピットから引きずり出して、ズタズタに引き裂いてくれるわ!!』

 

 ”殿下”が操縦桿を倒すと、ライガーゼロがフューラへと駆け出す。

 

 だがエスは、その場からフューラーを動かすことなく、ライガーゼロを迎え撃つ素振りも見せなかった。

 

『我が爪の、錆になるがいい!!』

 ライガーゼロのストライクレーザークローが光り輝き、真紅の機体が高々と跳躍して、フューラを切り裂かんと右前足を振りかぶった。

 

 飛び掛ってくる相手の一連の動きをただ見ていたエスが、突然ため息を漏らした。

 

「……おせぇよ」

 

 そう一言呟くと、左側に装備されたフリーラウンドシールドが稼動し、振り下ろされる直前のライガーゼロの右前足とが衝突して、激しい火花が飛んだ。

 

『馬鹿め!その程度の装甲で、余の攻撃が防げると…』

「馬鹿はお前だ。ジェノブレイカーのフリーラウンドシールドは、Eシールドクラスの強度を誇ってんだぞ?例えストライクレーザークローであっても、防ぐ角度を調整すれば大したダメージにならないんだよ。それからな……ゾイドに乗せて貰っているだけのド素人の軽い(・・)攻撃が、当たるわけないだろうが!!」

 怒りを露にしてエスが叫ぶと同時に、フリーラウンドシールドがライガーゼロを弾き飛ばす。

 

『なっ?!』

 必殺の攻撃を弾かれてしまい、”殿下”が驚愕の声をあげ、目の前のシールドを呆然と見つめる。

 

 エスという超一流(・・・)相手を前に、それがあまりに致命的な隙だと理解できずに。

 

 ライガーゼロからフューラーの姿を隠すように展開されていたフリーラウンドシールドが、ゆっくりと左側へと移動を始める。その裏からフューラーの姿が露になると、感高い音を立て高速回転するバスタークローがライガーゼロを狙っていった。

 

「相手に攻撃を防がれた程度で動揺しすぎだ……こんなのに、ジェドーがやられたのか!!」

 

 一流の剣士が繰り出す神速の突きの如き一撃が、弾かれた姿のまま空中に居るライガーゼロへ迫る。

 

 全く反応できない”殿下”に代わり、ライガーゼロが三度自らの意思で攻撃を避けようと、イオンブースターを起動させるが、今度は相手が悪かった。

 

「甘い!!」

 まるで相手の動きを読んでいたかのように、切っ先の方向が変わり、バスタークローがライガーゼロの右前脚を捉え、根元から削り取った。

 

 ゴァワァアアアアアアア?!

 

 右前足を持っていかれ、ライガーゼロが絶叫を上げ、地面へと墜落する。

 

『ぎゃあっ?!』

 

 地面に叩きつけられた衝撃で、”殿下”が潰れた蛙の様な声をあげる中、右前脚を失いながらもライガーゼロが残った脚で必死に立ち上がろうとする。

 

 しかし、それすら許さないとばかりに、エスがバスタークローのマグネーザーを停止させると、即座にAZ185mmビームキャノンを起動させ、左前脚に狙いをつけ肘関節をビームで撃ち抜いた。

 

 ゴァワァアアアアアアアアアアアアア!!

 

 左前脚という支えを失い、ライガーゼロが絶叫し顎から地面に倒れる。

 

『グギャぁ!?』

 再び強烈な衝撃に襲われ、聞こえてはいけない鈍い音が身体のあちこちから上がり、”殿下”が悲鳴を上げた。

 

 痛みで明滅する視界の中、モニターに映る自分を見下すフューラーを見て、”殿下”は漸く相手の意図を理解し、唇を震わせた。

 

『き、貴様……解っておるのか?余を手に掛ければ、お爺様が黙っては居ない…赤竜旗(ロート・ドラグ・ファーネ)の全戦力を以て、貴様らを完膚なきまでに叩き潰すぞ……それが嫌ならどうするべきか、解るだろう!!』

 傲慢な言葉遣いは変わらないが、彼の言っている事は”命乞い”でしかなく、”殿下”本人は「脅せば、自分は助かる」と、本気で信じて発した言葉だが、エスにしてみれば火に油を注ぐ行為でしかなかった。

 

「そうか…つまりお前を殺せば、その赤竜旗(ロート・ドラグ・ファーネ)って組織に対して、宣戦布告できるって訳だな?丁度いい…今回の件で、我慢の限界を越えたからな……だから乗ってやるよ、お前らが吹っかけてきた戦争に!!」

『なっ?!馬鹿な……よせ、来るなぁ!!』

 萎縮どころか殺意を滾らせ近づいてくるフューラーに、”殿下”の心は完全に折れてしまい、必死に操縦桿のを動かすが、両前脚を失ったライガーゼロが動けるはずもなく、一歩また一歩とフューラーが近づいてくるたびに、半狂乱になっていった。

 

『嫌だ!死にたくない!!動け!うごけぇ!!』

「オレの仲間を手を出した事、あの世で後悔するんだな……っ?」

 ライガーゼロのコックピットに高速回転するバスタークローの切っ先を向け、跡形もなくすり潰そうとしたとき、エスたちの耳に感高いエンジン音が聞こえ、高空から一機の飛行ゾイドが急降下してきた。

 

 

「全く……準備が少し(・・)遅くなったとは言え、こんな短時間で負けてしまうとは、正直期待外れでしたね」

 

 3Sのコックピット内で、モニターに映る惨状を見たエージェント4は”殿下”への評価を独り言のように下すと、ライガーゼロへの通信をオンにした。

 

『”殿下”、お助けに参りました。今しばらくの辛抱を』

 そういうと、エージェント4は3Sに搭載されたミサイルを、フューラーとライガーゼロの間に向けて発射した。

 

「ストームソーダのステルス仕様機!?こいつの仲間か!!」

 飛来したストームソーダ・ステルスタイプが敵の援軍だと察知し、エスは迎撃しようとするが、発射されたミサイルを見て即座にその場から飛び退く。

 

 発射されたミサイルは、地面に激突する手前で爆発すると、目の眩むような光と大音量の音が戦場を覆いつくした。

 

「っ閃光弾か!」

 コックピットのモニターを焼く眩い光にエスが顔を顰める。

 

 光を避けようと、居合わせた全員が目を瞑る中、センサー系の対閃光防御を作動させていたエージェント4は、正確にライガーゼロへと降下すると、二本のアンカーをライガーゼロの両脇へ発射した。

 

『っ!?』

 アンカーがライガーゼロの両脇に装着されロックされた事を確認すると、エージェント4は3Sの推力を全開にし、ライガーゼロの身体を吊り上げると、大空へと舞い上がった。

 

「ライガーゼロを回収するつもりか!?逃がすかよ!!」

 

 閃光弾に因る目くらましから、3Sの目的がライガーゼロの回収だと察したエスは、フューラーの全推力を全開にして空へと飛び上がる。

 

 眩い光から逃れたことで、閃光弾によって焼けついていたモニターが復活し、エスは3Sの姿を探す。すると、二本のワイヤーでライガーゼロを吊った3Sが一目散に戦域を離脱しようとする姿を見つけた。

 

「いくら音速以上で飛行できるストームソーダと言っても、大型ゾイドを吊った状態じゃ、大した速度は出ないだろう!!」

 そういうと、エスは敵を追撃する為にフューラーのスラスターを限界まで吹かし、相手との距離を詰める。

 

『さすがに、見逃してはくれませんか……これは、マズイですねぇ』

 

 陸戦ゾイドであるフューラが猛烈な勢いで空を飛んで追いついてくるにも拘らず、エージェント4は何故か暢気に構えていた。

 

『貴様、何を暢気な事を言っているのだ!!さっさと逃げぬか!!』

 

 ライガーゼロのコックピット内で、ヒステリックに叫ぶ”殿下”の言葉に「このまま牽引ワイヤー、外しましょうか…」と割と本気で考えながら、エージェント4はいつもの営業スマイルを浮かべた。

 

『ご心配には及びませんよ、”殿下”……という訳ですから、足止めお願い出来ますか?騎士マリエル(・・・・・・)

 

 

「もう少し!」

 3Sにもう一息で届くと言う距離まで詰めたエスとフューラーだったが、それ以上距離を詰める事が出来なかった。

 

 突如として、フューラーのコックピット内に接近警報が鳴り響き、二機の間を”一陣の風”が駆け抜け、フューラーの進路を遮ったのだ。

 

「何だ?!」

 ギュワァ?!

 

 咄嗟に動きを止めたフューラーだが、”風”に遅れてやってきた衝撃波をまともに喰らい、翻弄されるまま制御を失って落下し始める。

 

「ちっ、この程度で!!」

 だが、エスは冷静にスラスターを駆使して体勢を立て直してその場に滞空すると、追撃を邪魔した乱入者の姿を探した。

 

 すると、大きく弧を描きながら旋回する機影を見つけ、モニターの望遠倍率を上げていく。

 

「ストームソーダか?いや、だけど…アレは」

 

 飛行速度とシルエットから、現れた乱入者もストームソーダだと中りをつけていたエスだったが、望遠の倍率が上がるにつれ露になる姿を見て、目を見張った。

 

 通常機よりも鋭角的になった機体デザインに、長大に強化されたトップソードとウイングソードに合わせて頭部と主翼も大型化されている。そして、一番目を引くのが機体左右側面に装備された「ウェポン・バインダー」…エスの目の前に現れたその機体は、幻の機体と呼ばれるの代物だった。

 

「ストームソーダFX?!」

 

 驚きを露にするエスに対し、ストームソーダFXのコックピットに納まる人物は、静かに笑みを湛えるのだった。

 




よっ、エスだ。
 突如として現れたストームソーダFXの妨害によって、オレは紅いライガーゼロを逃がしてしまう。このまま泣き寝入りするわけにはいかないと、女将さんは赤竜旗(ロート・ドラグ・ファーネ)との徹底抗戦を宣言。その中でナデアは、一人”ある決意”を固める。
 一方同じ頃、オレたちを襲った”殿下”は、とある人物から衝撃の事実を聞かされていた!

 次回 ZOIDS-記憶をなくした男- 第十六話「決意と真実と」!

 ジェドー、オレはお前が死んだなんて思っていないからな!
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