ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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お待たせしました!

今回、暴力描写がありますので苦手な方はお気を付け下さい!


救出

 国という概念が無くなったこの時代において、外的脅威に対する急先鋒であった”軍隊”の代わりを用意する方法は大まかに二種類に分けられる。

 

 一つは、白百合の園のように守備隊のような自警団を組織し、自力で戦力を整えて脅威に対抗する方法。

 もう一つは、自力で戦力を整えることのできない小規模な町やコロニーが共同で資金を出し合い、傭兵などの用心棒を雇い定期的に巡回してもらう方法だ。

 

 双方にメリットがあるがデメリットもある。

 

 前者は防衛対象を自分たちの住む都市や町のみに限定でき、さらに護りたいという正義感の強い者で守備隊に組織するため裏切りなどを出す可能性が少ないが、ゾイドや装備の購入や隊の維持などに莫大な資金を要する。

 後者は、用心棒としての傭兵を雇う費用を複数の自治体が分割して負担するため一つの町の負担は少なくなるが、襲撃を受けた場合に傭兵たちが駆けつけるまでに時間がかかってしまい、そして傭兵の中には盗賊と大差ないーもしくは傭兵を騙る盗賊ー無法者も存在し、見極めを誤れば護ってもらうどころか逆に襲われてしまうという事案も決して珍しくない。

 

 今回、エージェント|4(フョンフ)がサイドビジネスとして行っている傭兵派遣会社に舞い込んだ依頼も、そんな複数のコロニーに雇われながら盗賊行為を働いた元傭兵たちの排除である。

 

 その依頼をエージェント4から託された賞金稼ぎのヴィンセントとエージェント4の部下であるリアーナは、盗賊たちが荒らしまわっているという地区にホエールキングで移動し、盗賊たちの根城となっている遺跡から離れた平原に降り立っていた。

 

「では我々は上空にて待機し、任務完了の連絡が入り次第お迎えに上がります」

「えぇ、お願いします」

 

 敬礼するスーツ姿の部下の女性の言葉にリアーナが頷く。

 つい先ほどまで部下と同じスーツ姿だったリアーナだが、今回の任務の内容から恰好を大きく変えていた。

 最新の防刃素材で縫製されたデザートカラーのジャケットに、同じ素材で作られたパンツには様々な道具が入ったポーチが備え付けられている。そして分厚い靴底のコンバットブーツを履き、見た目は完全にゾイド乗りの女性がする恰好である。

 さらに肩まで伸びた髪を二つ結びにし、ばっちりと決まっていた化粧は一旦全部落として極控えめなものへと変えたため一見すればほとんどスッピンに近く、童顔だったことも相まってかなり幼く見える。

 

 部下は回れ右をしてホエールキングへと戻っていき、ほどなくしてリアーナを残して大空へと飛翔していった。

 

「…では早速移動しましょう。例の盗賊が根城にしている遺跡はここから一山越えた先の、さらに先にある高原の麓ですから」

 ホエールキングを見送ったリアーナが振り返りながらヴィンセントに声をかけると、ジェノブレイカーJの横に立っていたヴィンセントがジッと自分の方を見ていたことに気が付き、リアーナは不信感を隠すことなく顔を顰めた。

 

「……何です?」 

「いや、あの野郎(エージェント4)が腕は確かと言っていたから、どんなゾイドに乗ってるかと楽しみにしていたんだが……とんでもねぇのが出てきたと思ってな」

 リアーナが不信感を露わにしてもヴィンセントは気にすることなく(・・・・・・・・)、彼女の後ろに控えるゾイドの姿を仰ぎ見ながら感心の言葉を漏らした。

 

 黒を基調とした装甲に血のように真っ赤なスプリット迷彩が施され、背面には本来であればその機体が装備するはずのないセイバータイガー用の強化ユニットを背負い、その強化ユニットには機体の全長に匹敵する大型のビームガトリング砲が備え付けられている。

 

 それは、見る人間が見ればある意味で驚愕する機体だった。

 

 【ライトニングサイクス・PK師団仕様】、通称「ブラッディサイクス」。かつて、ガイロス帝国摂政「ギュンター・プロイツェン」が表向き皇帝の近衛兵団として組織した私兵部隊「プロイツェン・ナイツ師団」。その部隊にはプロイツェンの権限によって最優先で最高のゾイドが配備されていた。ブラッディ・サイクスもその内の一体で、その特徴は他の配備された機体同様に装甲が赤く染め上げられ、搭乗するエースパイロットたちに合わせて大幅な改修が行われていることだ。

 配備当初は、通常機と同様にサイクスの主兵装であるマルチパックを装備していたが、いくつかの機体は搭乗者の要望に合わせてマルチパックを装備せずに、セイバータイガー用の強化パーツであるATユニットを装備した特別仕様機も存在したとされる。

 リアーナの機体は、大戦当時の機体ではなく赤竜旗(ロート・ドラグ・ファーネ)が再生させていた量産型ライトニングサイクスをベースに同組織内で式典用として改修されていた物で、その内の一機をライトニングサイクスとのマッチングポテンシャルの高かったリアーナのためにエージェント4が手に入れ、彼女に合わせて実戦仕様に調整を行っている。

 さらに、特別仕様機のデータを遺跡からサルベージしていたエージェント4が独自に開発させたサイクス用の特殊パーツを装着することで、セイバータイガー用の強化ユニットを搭載することが可能となり、原型機のように大がかりな設備を必要とせずに換装することができるのが特徴だ。

 

 今回リアーナは、自分の役割を考えて牽制や面制圧が可能なビームガトリング砲を搭載したGCユニットを装備している。これは大戦時、機体バランスを著しく損なうと言われた装備で「帝国の至宝」と呼ばれた上級将校「カール・リヒテン・シュバルツ」が好んで使用し、使いこなすには相当の技量を必要とするという話は彼の名と共に結構有名である。

 そのことを知っていたヴィンセントは、扱いの難しいライトニングサイクスというゾイドにこれまた癖のある装備を施しているリアーナに対して、二重の意味で驚いていたのだ。

 

 そんなヴィンセントの言葉にリアーナは今の自分の恰好を茶化されなかったことに安堵したが、次の瞬間には何故か苛立ちを覚え表情を険しくした。

 

「このくらいのゾイドを乗りこなせなければ、エージェント4の部下は務まりませんので…さぁ、無駄話をしていないで移動しますよ!」

「?…何で怒ってんだ?」

 ヴィンセントとしては褒めたつもりだったが、リアーナが何故怒っているのか判らず首をかしげた。

 

 

 ひと悶着あるも、それぞれゾイドに乗り込み移動を開始する。

 

 平坦とは言えない山道をホバー走行で抜けていくヴィンセントのジェノブレイカーの後ろを、リアーナの駆るブラッディサイクスが追走する。

 

 不整地を物ともせずに走り抜けるサイクスを見て、ヴィンセントはコックピット内で口笛を吹いた。

 

「へぇ、やるじゃねぇか…あれだけの啖呵切るだけのことはあるってわけか…」

 

 リアーナの腕を目の当たりにしてエージェント4が推薦しただけのことはあることを実感したヴィンセントは、配慮の気持ちから少しスピードを緩めるつもりだったのを思い留まり、そのままの速度を維持したまま山道を走破していった。

 

 その甲斐もあり二人は予定よりも早く山越えを果たし、高原へと続く荒野に出ていた。

 

『高原はここから百キロ先ですね。行きましょう』

 コックピットのスクリーンに映し出されたマップを見ながら、リアーナが目的地を確認する。

 同じものがジェノブレイカーのスクリーンにも映し出されるが、ヴィンセントは怪訝な表情を浮かべた。

 

「おい、依頼者や被害の遭った町に行って情報を収集しなくていいのか?」

 リアーナが真っ直ぐ遺跡へ向かおうとしていることにヴィンセントが疑問を口にするが、疑問を投げかけられたリアーナは首を横に振った。

 

『必要ありません。依頼者の方には形として(・・・・)私の部下を向かわせていますし、もともと必要な情報は傭兵派遣会社の担当者からエージェント4の下に届けられそれを受け取っています。我々に課せられた任務は可及的速やかに盗賊を排除すること…それ以外に意識を割く必要はありません』

「……そうかよ」

 エージェント4の用意した情報に絶対の信頼のあるリアーナにとって、そんな信頼する上司から課せられた任務を遂行することが第一であり、余計な手間をかけるつもりは一切なかった。

 そんなリアーナの態度にヴィンセントは何処か危うさを感じるも、ここで自分が諭すようなことをすれば話が拗れることが目に見えたため、必要以上に口を出さなかった。

 

 あくまでも今回の目的は自分と相棒のリハビリを兼ねた盗賊団の殲滅であり、ヴィンセントが必要とするのは歯ごたえのある敵だけだった。

 

 話が纏まり、二人は遺跡に向けて移動を再開した。

 

 それは、越えてきた山の麓と遺跡のある高原の麓のちょうど中間地点に差し掛かった時だった。

 

「…ん?おい、ちょっと待て!」

 

 突然、ヴィンセントがジェノブレイカーを急停止させた。

 

『っ?!~~~…一体、なんですか!?』

 

 サイクスを急停止させた反動に悶絶しながら、リアーナが怒りを滲ませてヴィンセントに問いかけた。

 

「あそこを見ろ…地図に無い集落があるぞ」

『え……?』

 

 ヴィンセントに言われ、リアーナは慌ててモニターのマップを確認する。

 するとマップでは何も存在しないはずの場所に、実際は小さな集落が存在していた。

 

 だがそれは「取るに足らない情報だっただからだ」、とリアーナは組織の情報に不備があったとは思わず先を急ごうとしたがヴィンセントは違った。

「…あの煙の上がり方、何かおかしいな。おい、少し寄り道するぞ!もしかしたら、何か情報があるかもしれねぇ」

『なっ!ちょ……ちょっと待ちなさい!あんな小さな集落を盗賊が襲うはずがないわ!ちょっと考えれば判るでしょ!?』

 

 勝手に集落に向かうヴィンセントに、リアーナはとうとう敬語を忘れて止まるように声を上げる。

 すると、モニター越しのヴィンセントの目がスッと鋭くなった。

 

「…盗賊って人種はな、奪うモノがあるなら襲う場所のデカい小さいは関係ねぇんだよ」

 

『え?』

 ヴィンセントの雰囲気がいつもと変わったことにリアーナが呆気にとられる中、ジェノブレイカーは集落へと向かっていった。

 

『…あぁ~っもう!!』

 予定外の行動にリアーナは頭を抱えるも、主戦力であるヴィンセントが居なければ任務に支障が出ることも理解し、彼の後を追ってサイクスを走らせた。

 

 

「…焼けた臭いの中に火薬の臭い。まだ時間が経ってないな」

 集落から少し離れた場所でゾイドを降り、二人は集落に足を踏み入れた。

 

 先ほどの場所からは判らなかったが、集落内にあるいくつかの建物は破壊され、火事が起きていたのか未だにあちこちで煙が立っている。

 

 集落の状況を確認するヴィンセントの横で、リアーナは信じられないといった表情を浮かべていた。

 

「嘘でしょ…こんな小さな集落を襲うなんて」

 自分の中の勝手なイメージで盗賊は金品の多く蓄えていそうな大きな町を襲うものと思っていたリアーナは、何とかその日を生きているような小さな集落を盗賊が襲うとは思ってもおらず言葉を失う。

 

 二人が辺りを見回していると、建物の陰で何かが動いた。

 

「…誰だ?この村に、何の用だ?」

  

 ヴィンセントたちを警戒するように、建物の陰から一人の老人が現れる。さらに、辛うじて原形を留めている建物の中からはクワなどを手に武装した住民たちが現れ、ヴィンセントとリアーナを取り囲む。

 上着の下にあるホルスターに入れた拳銃に手を伸ばそうとするリアーナに、ヴィンセントは手で制して止めるとそのまま両手を上げた。

 

「待ってくれ!…俺様達は通りすがりの旅の者だ。この村の傍を通った時に煙が見えたんで立ち寄ったんだが…盗賊に襲われのか?」

「あぁ、そうだ!……なんで判ったんだ!?」

 ヴィンセントの問いかけに、クワを手にした若い村人の男が肯定し逆に問い返す。

 予想通りの答えと問いにヴィンセントは小さく息を吐き出すと、ゆっくりと両手を下げた。

 

「前に、同じ光景を見たことがあってな…よかったら話を聞かせてくれないか?何か、力になれるかもしれない」

 ヴィンセントの言葉に村人たちは困惑した表情を浮かべて顔を見合う。

 

「……分かった」

 その中で口を開いたのは最初に姿を現した老人だった。

 彼はこの村の村長で、しわがれた声で村に起こった悲劇を語り始める。

 

 それは今朝方、朝日が昇り始めた頃に遡る。

 突然、村に爆発音が響き渡り村人たちは慌てて家の外へと飛び出すと、村の外はすでに数体のゾイドが取り囲んでいた。

 

 一体何が起きているのか訳が分からず混乱する村人たちに、一体のゾイドから「命が惜しかったら食料を寄越せ!」とスピーカーで脅迫が行われた。

 その脅迫から村人たちは、これが盗賊の襲撃であることを理解する。

 

 この数十年、盗賊などの襲撃を受けたことがなかった村人たちはゾイドや突きつけられた銃に恐れ戦き、反抗することなく盗賊たちの言いなりとなり食料を差し出した。

 

 しかし、村人たちが差し出した食料の量に盗賊たちは満足しなかった。

 

『これっぽっちしか無いのかよ…なら、それ(・・)も貰っていこうか!』

 

 何と盗賊たちは村の貴重な食料だけでなく、村に住む少女三人を強引に攫って行ってしまったのだ。

 

 食料だけなら我慢できた村人たちも、盗賊たちの横暴な振る舞いに一部の男衆が限界を超え少女たちを奪い返そうと盗賊たちに挑んだが返り討ちに遭い、数名が命を落としてしまった。

 

 さらにその報復として盗賊たちは村に火を放ち、村人たちは必死に火を消し今に至る。

 

 村長の話が終わると、村人たちの中からむせび泣く声が聞こえてきた。

 

「娘が一体何をしたというの……」

「うちの子は来月結婚を控えて準備を進めてたのよ……それなのにっ!」

 

 連れ去られた娘たちの母親と思われる女性たちが泣き崩れ、周りにいた村人たちが慰めるように肩を抱く。

 

 悲しみに暮れる村人たちを見て、リアーナはどう声を掛ければいいか分からずただ村人たちを見つめる。

 

 その中で、ヴィンセントは静かに口を開いた。

「…その盗賊たち、自分たちのことを何と名乗ってた?」

「確か……”六爪”とか何とか言っていたような…」

「っ!?」

 盗賊たちの名を聞いて、リアーナは驚きを露わにする。

 

 その名前は、ヴィンセントたちの目標である元傭兵の盗賊たちが傭兵団の時に名乗っていた名前だったからだ。

 

 目の前の惨状を引き起こしたのが目的の盗賊と一致し、ヴィンセントは不敵な笑みを浮かべて踵を返した。

 

「手前ら、運が良かったな……その盗賊どもには俺様達も用があってな。物のついでだ、攫われたっていうお嬢ちゃんたちも助けてきてやるよ」

 そういうと、ヴィンセントは村の出口へと歩きだした。

 

「は、はぁ?!ちょ、ちょっと!待ちなさい!!」

 ヴィンセントの宣言にリアーナは先ほどとは違った意味で驚き、声を上げ後を追いかける。

 

 取り残された村人たちはヴィンセントの意図を全くつかむことができず、ただ茫然と二人の背中を見送った。

 

 

「ちょっと、さっきのアレどういうことよ!?」

 

 ゾイドの下まで戻り、コックピットへ乗り込もうとしたヴィンセントの上着をリアーナが掴んで説明を求めた。

 問い詰めてくるリアーナに、ヴィンセントは上着を掴む手を振り払うことなく振り向くと短く息を吐いた。

 

「どうもこうも、どうせ盗賊をぶっ潰すんだ。ついでに捕まってるっていうお嬢さんたちを助けたって構わねぇだろ?」

 あっけらかんと答えるヴィンセントに、リアーナは眩暈を覚え足元が覚束なくなるが気力を振り絞って上着を掴む手に力を込めた。

 

「遺跡の何処に捕まっているのか分からないのに、どうするつもりよ!」 

「簡単な話だ。俺様が盗賊たちの注意を引き付けておく。その間に、お嬢ちゃんが探して助け出せばいい」

「はぁ?!貴方、盗賊たちが根城にしている遺跡の広さがどのくらいか分かってるの?!闇雲に探せばいいわけじゃないのよ!」

「何言ってんだ?手前の上司が用意した遺跡の見取り図に、盗賊どもが何処を何に使っているかの情報が載ってただろうが」

「……え?」

 

 ヴィンセントの指摘にリアーナは彼の上着を掴んだまま呆けた表情浮かべるが、すぐさま上着を話してポーチに入れてある携帯端末を取り出すと慌てて見取り図を呼び出し目を皿のようにして確認した。

 

「……」

 見取り図には、盗賊たちが遺跡各所を何に使っているの情報が記載され、その中には捕まえてきた人間を監禁しておくためと思われる場所も記されていた。

 

 彼女が見取り図の情報を知らなかったのは、当初の作戦では遺跡の外に盗賊をおびき出し殲滅する予定だったため、遺跡内に潜入するなど想像すらしていなかった。

 つまり、リアーナは遺跡内部の情報をさほど重要視していなかったのだ。

 

 だから確認などしなかった…という言い訳を”エージェント4の部下”としてするわけにはいかないことと、ヴィンセントがきちんと全ての情報に目を通していたことが信じられず、彼女は画面を見つめたまま押し黙ってしまう。

 

 黙り込むリアーナを見ながらヴィンセントは頭をかくと、スッと右手を上げて彼女の背中をバン!と叩いた。

 

「いっ…た!?」

 いきなり背中を叩かれ、リアーナが目を白黒させて痛みの走る背中を押さえる。

 

「おら!これがあれば、ほとんど探す手間はねぇだろ?さっさといくぞ!!」

 

 痛がるリアーナを置いてヴィンセントはコックピットシートへ乗り機体内へと消える。

「な…ちょっと!……もう!!」

 動き出したジェノブレイカーを見て、リアーナは抗議したい気持ちを抑えてブラッディサイクスに乗り込み後を追いかけた。

 

 

「それじゃ、俺様が仕掛けるのを合図にお嬢ちゃんは反対側から遺跡内に潜入してくれ」

『…分かりました』

 名もなき村を出て十数分後、遠目だが肉眼で遺跡を確認できる距離にまで移動した二人は、最後の確認を行っていた。

 

 何処か納得のいかない体のリアーナだが、それでも村での出来事に思うところがあったようで先ほどより前向きな姿勢へと変わっている。

 

 確認が終わるとヴィンセントは遺跡の入口へと移動を始め、リアーナもすぐに動けるよう待機地点へと向かった。

 

 

**************

 

 

「畜生…まさかお頭たちがこんなに早く帰ってくるとはなぁ。本当なら今頃新品(・・)の女で楽しんでたはずなのによぉ~……」

 

 遺跡の入口で見張りをしていた盗賊の一員である男が、真新しい痣だらけの顔で空を仰ぎ見ながらボヤキを漏らす。

 そのボヤキにもう一人の見張りの男が、同じような傷だらけの顔で溜息を洩らした。

 

「もう諦めろって…あのタイミングじゃ女を隠す暇もなかったんだしよ」

「そうだけどよ!アニキたちの女の扱いを知ってるだろ?俺たちに順番が回って来た頃にはあいつら完全に壊れちまってるんだぜ?また壊れた人形相手なんて、さすがに萎えるぞ……」

 窘めてくる相方に男は未練がましく愚痴をこぼす。

 

 彼らこそヴィンセントたちが立ち寄った村を襲った張本人たちで、今回の襲撃は盗賊のリーダーを中心とする主力たちが別の襲撃に出掛けている隙に、根城に残っていた下っ端たちが自分たちの欲求を満たすために行われた。

 襲撃に成功し獲物を手にしたが彼らにとって不幸だったのは、遺跡に帰ってきた際にリーダーたちとかち合ってしまったことで勝手に根城を空け村を襲っていたことが露見してしまい、さらに攫ってきた少女たちまで見つかり取り上げられてしまったのだ。

 

 根城を勝手に空けたことで兄貴分たちから修正(・・)を受け、そのうえ獲物を全て巻き上げられてしまった自分たちの運の無さに、二人は同じタイミングで海より深い溜息を洩らした。

 

 その時だった。

 

 見張りたちの頭上に閃光が奔ったかと思うと、彼らの後ろに控えていたイグアンが爆発する。

 

「な、なんだ?!」

「敵襲!?」

 

 突然の出来事に見張りの二人は慌てて周囲を見渡す。

 

 すると、荒野に起こる陽炎の向こうからヴィンセントの駆るジェノブレイカーJがゆっくりとした歩で遺跡に近づいていた。

 

「何だよ、あのゾイド!?」

「どう見たって敵だろ!中に知らせないと……」

 

 悠然と近づくジェノブレイカーに言い知れぬ感覚を覚えた二人は、敵襲を知らせるために遺跡内へ戻ろうと敵に背を向ける。

 

 それが彼らにとって人生最大の失敗となった。

 

 彼らが走り出そうとした瞬間、その身体が一瞬のうちに蒸発する。

 

 見張りたちの命を奪ったジェノブレイカーの足に装備されたウェポンバインダーのAZ80ミリビームガンの銃口から熱気が立ち上がる中、コックピット内のヴィンセントが不敵な笑みを浮かべていた。

 

「さぁ、盗賊ども……俺様を楽しませてくれよ?」

 

************

 

 ヴィンセントの襲撃はすぐさま盗賊たちの拠点内に知れ渡り、盗賊たちは上へ下への大騒ぎとなっていた。

 

「おい!襲撃だってよ!見たこともねぇゾイドが一機、入口で暴れまわっているらしいぞ!」

「はぁ?どこの馬鹿だよ、おれ達に喧嘩を売る命しらずって!」

「知らねぇけど、ものの数分で結構な数が喰われたらしい!お頭から全員出ろってお達しだ!」

「マジかよ!?」

「急げ!出遅れたりしたら、お頭に殺されるぞ!」

 

 迎撃の命令を受けて盗賊たちが遺跡の入口へと向かっていく光景を物陰に隠れてみていたリアーナは、辺りに人が居なくなったことを確認すると手にした携帯端末へ視線を落とした。

 

「あの男、派手に暴れてるみたいね……急がないと」

 

 潜入前、改めて確認した遺跡内の情報から攫われた村娘たちが監禁されているであろう場所にリアーナは辺りを付けていた。

 ヴィンセントが盗賊たちの注意を引いているとはいえ、救出に手間取れば相手に感づかれてしまう可能性が高まり、捕まった少女だけでなく自分の身も危うい。そのことを十分理解しているリアーナは最短距離で盗賊たちが監禁場所に使っているらしい小屋へと走っていく。

 

 ほとんど無人になった敷地内を駆け抜け監禁場所の小屋の陰までリアーナがたどり着いた時、小屋の中から何かが暴れる音と叫ぶ声が辺りに響いた。

 

 

「いやっ!離して!!」

 小屋の中では捕まっていた一番年上の少女が男に襲われていた。

 一緒に連れてこられた他の二人は目の前で起こる光景に、「次は自分たちだ」と恐怖のあまり二人でお互いに抱きしめ泣きながら目をそらしている。

 抵抗をものともしない圧倒的な力を前に、少女は服を破られあられもない姿になっても泣くことなく必死に抵抗を見せる。

 

 しかし、そんな少女の抵抗も男を興奮させる一助にしかならなかった。

 

「いいねぇ、やっぱ反応する女が相手なのはよ~!ゾイドに乗れねぇ俺が行っても仕方ねぇしなぁ。ここで楽しませてもらうぜ……おら!もっと泣き喚いて俺を興奮させろや!!」

 

 必死の形相で睨む少女をあざ笑うように男は少女の頬を何度も殴り、殴られるたびに少女の気丈な心が砕けそうになる。

 

 だが、地獄は突如として終わりを告げた。

 

「死ね、この下種が」

「はへ?……」

 扉から発せられた冷気を纏う言葉と共に小さな発射音が起きると、男のこめかみから鮮血が噴き出す。

 

 頭を撃ち抜かれ、男は間抜けな声を上げながら横へと倒れそのまま絶命した。

 

 何が起きたのか解らず、少女は破れた服を掴み露わになっていた上半身を隠しながらゆっくり身体を起こすと恐る恐る扉へ顔を向ける。

 そこには消音装置付の拳銃を構え、死んだ男を睨みつけるリアーナの姿があった。

 

「…貴女たちが近くの村から連れ去られた子たちね?」

「え…?は、はい」

 

 自分たちが助けられたことがうまく呑み込めず、襲われていた少女は生返事を返す。

 少女たちの様子を見て、リアーナは銃を下すとゆっくり中へと入り上着を脱ぐと少女の肩にかけた。

 

「心配しないで、貴女たちを助けに来たわ」 

「助け…に?まさ、か…帰れるんですか…?村に…」

「えぇ」

 

 リアーナの言葉に、捕まった恐怖でも男に殴られても泣くことのなかった少女から一筋の涙が流れる。

 

「ふっ……う…うぅ……うわぁぁ…ああああああ!!」

 そして、堰を切ったように泣き崩れた。

 

 その姿を見てリアーナは少女たちを絶対に送り届ける心に誓い、使いたくはなかった手を使うために携帯端末へと手を伸ばしていた。

 

 

 

 




 どうも、エージェント4です。
 ヴィンセントさんの独断で、攫われた少女たちを助けるために遺跡へと潜入したリアーナさんが目的を達成している頃、ヴィンセントさんは盗賊団たちを蹂躙し、盗賊団の女頭目を引きずり出すことに成功していました。
 そんな女頭目との戦いの最中、彼は思いがけない情報を手に入れることとなるのです。

 次回 ZOIDS-記憶をなくした男- 第十九話「戦う理由」!

 さぁ、ヴィンセントさんへのサプライズ…喜んでいただけるでしょうかね?
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