第十八話からお読みください。
リアーナが少女たち救出に成功していた頃、遺跡正面は盗賊にとってまさに地獄の光景が広がっていた。
「おら、どうした!!手前らの力はこんなものか!?」
鉄くずと化した盗賊たちのゾイドが転がる直中に君臨するジェノブレイカーが、主の言葉に呼応して盗賊たちを挑発するように咆哮する。
『なんだよ、あの化け物は!?全然近づけねぇ?!』
『馬鹿野郎どもが、わざわざ近づいてどぉするんだ!だからてめぇらは補欠なんだよ!遠距離から押しつぶせ!!』
近接戦で全く歯が立たないと分かると、盗賊たちは距離をとって射撃戦へと切り替える。
十機にも及ぶゾイドからの一斉射がジェノブレイカーへと殺到する。
だがヴィンセントはEシールドを張るどころか回避行動さえ見せることなく、ジェノブレイカーは砲撃の雨の中へと消えたかと思うと大爆発が起こった。
『大型ゾイドも撃破する攻撃だ!見たこともねぇレアなゾイドだったんでお頭に献上したかったが、これ以上の被害はヤバい……』
現場指揮を執っていた盗賊が一心地つき胸を撫で下ろした刹那、コックピットに衝撃が走った。
『な、なんだぁ?!』
何が起きたのか解らず、モニター越しに辺りを見渡す。
すると、砲撃の爆発によって上がる土煙の中から自分の乗る機体に向かって、一本のワイヤーが伸びていた。
男の乗るハンマーロックの首に、死神の鎌のごときジェノブレイカーのハイパーキラークローが食らい付いていたのだ。
『こい、こいつはっ!?』
「盗賊にしちゃ悪くねぇ攻撃だったが、全然ヌリィな……ノアールの装甲を抜きてぇなら、あと五十機くらい連れてこい!!」
男が驚きの声を上げると同時に土煙の中から無傷のジェノブレイカーが現れると、アンカーとして射出された右手を引き戻しながヴィンセントの気迫と共にワイヤーが巻き上げられる。
『う、うおぉおおお!?』
小型アイアンコングと呼ばれるハンマーロックだが所詮は小型ゾイド。ジェノブレイカーの持つ圧倒的な出力には抗うことができず、ワイヤーを巻き取る勢いで軽々と宙を舞う。
右手に掴まれたまま飛んでくる中、突如としてハンマーロックを掴んでいたジェノブレイカーの右手が離れる。だが、勢いが衰えてることなくそのまま飛んでくる敵に合わせるように、ヴィンセントは機体を一回転させるとまるでトスバッティングでもするかのように尻尾を振りぬきハンマーロックを叩く。
強烈な攻撃にハンマーロックは原形を留めることなく粉々に砕け、その残骸が辺り一面に飛び散った。
一撃でゾイドが粉々となる光景に、下っ端の盗賊たちの精神が限界を迎えた。
『あ、あんなのと戦ってられるか!逃げろ!!』
そう言って、一人の盗賊が逃げ出したのを皮切りに何体ものゾイドが護っていた入口を放棄し逃亡を始める。
しかし、戦意を喪失し逃げ出した者たちをヴィンセントは逃がすつもりはなく、脚部に装備されたウェポンバインダーを掃射しようと逃げる盗賊たちの背中に照準を合わせた。
だが、逃げ出した盗賊たちの頭上に閃光のシャワーが浴びせられた。
『ぎゃぁあああああああああああ!!』
容赦なく浴びせられるビームの雨に撃たれ、一瞬で逃げ出した盗賊たちが絶命する。
新手が来たことを察しヴィンセントが周囲を警戒すると、遺跡の傍にある高台に盗賊たちを屠ったゾイドが現れた。
それは投入する時期を逸してしまったがために、本来の役目を与えられず”悲運”のゾイドと呼ばれてしまった機体だった。
【エレファンダー】…ガイロス帝国軍が対ゲリラ戦・対城塞攻略戦用として開発したゾイドで、敵の奇襲にも耐えうる重装甲と敵陣を引き裂くパワーを誇り、その最大の特徴はライガーゼロおよびバーサークフューラーのCASの雛型となった装備換装システムにある。
この換装システムによってエレファンダーはノーマルタイプをベースに、総合性能と指揮通信能力を向上させた”コマンダータイプ”、格闘専用装備を施した”ファイタータイプ”、索敵能力を強化した”スカウタータイプ”、そして背面砲塔をアサルトガトリングユニットに換装した”アタッカータイプ”と、一機種で多岐にわたる運用ができる万能ゾイドとなる。
ヴィンセントの前に現れたエレファンダーは、ツインクラッシャータスクとEシールドジェネレーターを強化し頭部形状も変更したコマンダータイプ…通称ガネーシャと呼ばれる形態だった。さらに鼻部先端は格闘専用のESCSユニット、背面にはアサルトガトリングユニットという超攻撃型と言っていい装備が施されている。
悠然と眼下のジェノブレイカーを見下すエレファンダーの外部スピーカーからノイズ音が走った。
『全く…たった一体の敵を前に情けなく逃げ出すなんてねぇ…そんな弱者は、あたいの部下に必要ない!そうだろ?お前たち!』
『その通りです、
エレファンダーの外部スピーカーから酒焼けした女の声が響き、その声に呼応して遺跡内からさらに六機のエレファンダーたちが姿を現す。
リーダー機と違い、現れた六機は鼻部先端をESCSユニットに換装したファイタータイプ。その六機がジェノブレイカーを取り囲むように展開する。
敵に取り囲まれながらもヴィンセントは微動だにすることなく、周りのエレファンダーへ目を配り高台に陣取るエレファンダーに目を向けた。
「…盗賊風情が、随分と装備が豪勢じゃねぇか」
エージェント4から得ていた情報で盗賊のリーダー機がエレファンダーだと知っていたが、機体に施された装備が情報より強化されており、さらに主戦力までエレファンダーに変わっていることにヴィンセントは目を細める。
(
エージェント4の気味の悪い営業スマイルが脳裏に過りヴィンセントが舌打ちしていると、再びエレファンダーの外部スピーカーからノイズが走る。
『あたいら”六爪”に手を出すなんて、馬鹿な奴がいるもんさね!一体何者だい?』
「…これから死ぬ手前ら屑どもに名乗る名は持ち合わせてねぇよ。さっさとぶっ殺してやるから、かかってこい!」
ヴィンセントの言葉に、女頭目は自分の頭の血管が”ブチッ”と切れるような錯覚を覚え、声を震わせて笑い出した。
『……ふ、ふふ…レアなゾイドに乗ってるから、命乞いすればあたいのペットにしてやっても良かったけどねぇ。もう許さねぇ、あたいらにケンカを売った落とし前はテメェの命できっちり払ってもらうわ…死に晒せや雑魚が!!』
女頭目が怒りを爆発させながらエレファンダーの背面に装備したアサルトガトリングユニットのミサイルランチャーを操作し、数発のミサイルを発射する。
だが、ミサイルはジェノブレイカーに向かって飛んではいかず、なぜか戦場の上空へと昇っていく。
そして一定の高さまで上ったミサイルが炸裂した瞬間、ジェノブレイカーの頭上に無数の槍が降り注いだ。
「ちっ」
ミサイルの軌道から通常弾頭ではないと踏んでいたヴィンセントは、降ってくる槍の雨を冷静に見極め最小限度の動きで槍の雨を避ける。
物の数秒でジェノブレイカーを中心に黒き柱の森が出現し、ヴィンセントは辺りを見渡す。
「…へっ、俺様を串刺しにするには数が足りなかったようだな」
軽口を叩くヴィンセントだったが、攻撃をよけられたことに敵が動揺を見せなかったことに違和感を感じる。
相手が油断していると判断した女頭目は即座に次の手を打った。
『動かずそのまま串刺しになってれば楽に死ねたのにねぇ……お前たち始めな!!』
『『応!!』』
頭目の命令に、二機のエレファンダーが背面のAZ105mmビームガンを同時に発射する。
だが何の捻りもない攻撃にヴィンセントが当たるはずもなく、同時に飛来するビームを難なく避けた。
「そんなへな猪口弾、当たるか……」
と笑みを浮かべた瞬間、ヴィンセントは自分の身体が騒めくのを感じ避けたビームの行方を追い、直後に驚愕して目を見開いた。
避けたはずのビームが黒き鉄槍の柱の中を大きく湾曲し、再びジェノブレイカーへと襲い掛かったのだ。
「ビームが曲がるだと?!」
咄嗟にフリーラウンドブレードを折りたたんだまま盾代わりに使い、ビームを防御する。
『へぇ、あたいの
得意げに語る女頭目を他所に、ヴィンセントは先ほどの光景を思い返していた。
(不自然に曲がったビーム、そしてあの女の言葉……そういうことかよ)
辺りに突き刺さる槍を見渡し、敵の手の正体に気づいたヴィンセントは薄く笑みを浮かべる。
『さぁ、時間を掛けて嬲り殺しにしてやるよ!あたいを馬鹿にした罪、じっくり思い知らせてやる!!』
女頭目の宣言に呼応して六機のエレファンダーの背面砲塔がジェノブレイカーへと向けられるが、それよりも早くヴィンセントは動いた。
ブレイカーユニットに新たに装備された左右のフリーラウンドブレードを展開し、演舞を舞うようにスラスターを駆使してその場で一回転すると周囲に乱立する柱を切り裂いたのだ。
ヴィンセントの行動に盗賊たちが呆気にとられ、動きが止まる。
「……自慢の
たった一度で必殺の攻撃を見切られ、周囲のエレファンダーから動揺が生まれる。
しかし、女頭目は手の内がバレても一切動揺を見せなかった。
『一発見切ったのは褒めてやるよ…だがね、”弾”はまだまだあるんだよ!!』
ヴィンセントによって開けられた結界の”穴”をふさぐために再びミサイルを発射しようとする。
だが、それは叶わなかった。
突然、ガトリングの起動音が響き渡り、女頭目のエレファンダーが載せているアサルトガトリングユニットにビームが殺到し大爆発したのだ。
『っ!…な、なんだい?!何処からの攻撃だい!?』
爆発の衝撃に目を白黒させながら女頭目は状況を把握しようと辺りを見渡す。
すると、遺跡の一番大きな建物の屋根にリアーナのブラッディサイクスが佇んでいた。
伏兵の存在に女頭目が驚く中、ヴィンセントは笑みを深めて通信機をオンにした。
「へっ……随分と時間が掛かったじゃねぇか。それで、捕まってたお嬢ちゃんたちは助け出せたんだろうな?」
『当然でしょ?心配しなくても、あの子たちは部下に頼んで村へ送り届けさせたわ……じゃあ、私はこの先こいつらみたいな盗賊に利用されないようにこの遺跡を破壊しに行くけど、まだサポートが必要?』
「いいや、いらねぇ……さて、それじゃそろそろ
懸念事項が解消され、遺跡内へと消えるサイクスを見送るとヴィンセントは短く息を吐くと、未だ高台に居座るエレファンダーを見据えた。
『どこまでもあたいを馬鹿にしやがって……てめぇ、マジで生きて帰れると思うなよ!あんたたちはさっきのゾイドを追いな!』
『任せてくれ、姐さん!行くぞ!!』
騙し討ちされたことが頭にきたらしく女頭目が一気に殺気立ち、ジェノブレイカーの周りにいるエレファンダーたちに根城を破壊し始めたリアーナを追うよう命令すると、二体のエレファンダーが遺跡内へと向かおうと動き出す。
だが、遺跡内へと戻らせないようにとジェノブレイカーが行く手に向かってウェポンバインダーの武装を斉射し、エレファンダーの足を止める。
コックピット内では、ヴィンセントが鋭い刃物のような目つきでエレファンダーを睨んでいた。
「何処に行きやがる、手前らの相手は俺様だぞ?教えてやるよ…一方的に襲われ殺される
そういうとヴィンセントはコンソールを手早く操作する。
「いくぜ、ノアール…オーガノイドシステム、リミッターリリース!」
モニター内にオーガノイドシステムのリミッター解除の表示が浮かぶと、ゾイドコアが強制的に活性化し始め、簡易フェイスマスクの目玉のようなセンサーが煌々と光り輝いた。
グァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
鎖から解き放たれたジェノブレイカーが歓喜の咆哮を上げる。
そして、盗賊たちはヴィンセントの言葉の意味を、文字通り
「暴れるぞ、相棒!!」
ジェノブレイカーの咆哮に敵が隙を見せた事をヴィンセントは見逃さず、一番近いエレファンダーに狙いを定めると、一気に距離を詰めた。
『なっぎゃぁああああ!!』
その速度に盗賊はまるでジェノブレイカーが一瞬で目の前に現れたと錯覚するほどで、何の抵抗もできずにコックピットのあるエレファンダーの頭部が一刀両断される。
「まず一つ!」
両断されゆっくりと倒れるエレファンダーに視線が集まる中で、ヴィンセントは息次ぐ暇もなく次の獲物へと狙いを定める。
『?!くそっ!!』
狙われているのを察し、エレファンダーが背面のビームガンとパルスレーザーライフルを連射する。
しかし、狙いの定まらない攻撃に当たるようなヴィンセントではなく、ジェノブレイカーのホバー走行を駆使して回避し滑るように距離を詰めると、すれ違いざまに機体を一直線に切り裂いた。
「二つ目!」
撃破した二機目のエレファンダーに目もくれず、次の獲物へと目を向ける。
『てめぇ、いい気なるよ!』
『よくも仲間を!!』
仲間を殺された怒りで殺気を漲らせる二機のエレファンダーが、ツインクラッシャータスクを突き出しジェノブレイカーへと突撃した。
その巨体と相まってまるで”城壁”が迫ってくるような圧力があるが、ヴィンセントは焦るどころか獰猛な笑みを浮かべジェノブレイカーを”城壁”へと跳躍させた。
『馬鹿め!』
『ぶっ潰れろ!!』
自ら突っ込んでくるジェノブレイカーに盗賊たちが声を上げるが、どちらが獲物かはすぐに明らかになる。
跳躍したジェノブレイカーがフリーラウンドブレードを翼のように広げると、スラスターを全開にしてエレファンダーたちへ飛翔する。
そしてスラスターの出力方向を変えて機体をバレルロール状態にすると、楔を打ち込むように二機の間へと突入した。
金切り音が辺りに響き渡り、ジェノブレイカーがエレファンダーたちの間を通り抜けるとエレファンダーたちの半身は原形を留めないほど切り刻まれていた。
「なるほど、確かにこいつは俺様向きだな」
地面に着地しながら、ヴィンセントは自分とタイプBの相性の良さを実感していた。元々タイプAに装備されたフリーラウンドシールドのエクスブレイカーを”剣”に見立てて戦っていたヴィンセントにとって、タイプBのフリーラウンドブレードは自分に相応しい剣だと胸を張って言えた。
まさに水を得た魚のごとく、ヴィンセントの攻撃の鋭さは一撃ごとに鋭さを増していき、恐怖で固まっていた五機目のエレファンダーをあっさり切り伏せ、あっという間に六機いた部下のエレファンダーが最後の一機になっていた。
『畜生…ふざけんな、この化け物!ぶっ殺してやる!!』
仲間の仇を討たんと、盗賊はエレファンダーの鼻部先端に装備したESCSユニットを変形させてビームソードを発生させるとジェノブレイカーへと襲い掛かる。
まるで自在に動く腕のようにビームソードを振るうエレファンダーだが、ジェノブレイカーの敵ではなかった。振り下ろされるビームソードに合わせて一刀の下に鼻を左のブレードで切断し、ヴィンセントの熟練した操作によって淀みなく動く右のブレードでエレファンダーを頭部から一直線に串刺しした。
その場に崩れる最後の機体を目の当たりにし、部下たちを皆殺しにされたことに女頭目の怒りは頂点に達する。
『てめぇ!よくもあたいの可愛い部下を!!…・・・っ!?』
怒りのあまり喉をつぶすほどの怒鳴り声をあげる女頭目だったが次の瞬間、眼下の光景に絶句した。
なんと、ジェノブレイカーがブレードを突き刺したままだった180tを超えるエレファンダーを持ち上げたのだ。
「吠えてる暇があったら、そこから降りてかかってこいよ!!」
いつまでも降りてくる気配を見せない女頭目に向かって、ヴィンセントは持ち上げたエレファンダーを投げつける。
あまりに現実離れした光景に女頭目はその場から動くことができず、飛んできたエレファンダーと衝突した。
『きゃあああああああ……ぎっ!!』
想像を絶する大質量攻撃を受け女頭目のエレファンダーが高台から転げ落ち、地面に叩き付けられる。
彼女はコックピット内で抗いようのない衝撃に翻弄され、頭を正面のモニターに打ち付け額から血が流れた。
赤く染まりだした彼女の視界には、モニター越しに近づいてくるジェノブレイカーが映った。
「おら、どうした?さっさと向かって来いよ」
よろよろと立ち上がるエレファンダーに、ジェノブレイカーが右のブレードの切っ先を向けた。
『わ…判ってんのかい…?あたいを殺せば、あんたは身の破滅だよ……』
「やっと降りてきたかと思ったら、命乞いかよ……盗賊なら、最後まで足掻きやがれ!」
女頭目の言葉に肩透かしを食らったヴィンセントが怒りを発露する。
しかし、女頭目は笑みを深めた。
『ふふふ…いいことを教えてあげるよ。あたいの部隊は六爪の
その言葉に、ヴィンセントはエレファンダーの頭部にマーキングされたエンブレムへと目を向ける。
盾のような枠の中に鋭い鉤爪が左右三本ずつ描かれ、六本の内一つは紫で染められているが残りは灰色だった。
『理解できたかい?あたいの部隊以外に、六爪にはあと五つの部隊が存在し、さらにあたいらを纏める方がいるんだ!つまり、あたいを殺せばあんたはその全てを敵に回すことになるんだよ!』
ここ最近勢力を伸ばしだした新鋭の盗賊団【六爪】は、大陸中で名が知られ始めているが一つの盗賊団にしてはあまりに活動域が広範囲である。その理由は、六爪には
各部隊は普段は個別に活動しているが、その全戦力が揃えば大都市一つを余裕で焼け野原に出来るほどで、とても一人で太刀打ちできるものではない。
だからこそ、女頭目は自分の脅しが有効だと疑わなかった。
しかし、女頭目はヴィンセントという男を完全に読み間違えていた。
「…それがどうした?」
『……は?』
「…はぁ~……何を言い出すかと思えば、元から手前ら盗賊って害虫を生かしておく理由なんて俺様の中には欠片もねぇんだよ。ここ以外にも仲間がいる?上等じゃねぇか!俺様に向かってくるなら全てぶっ殺すだけだ!!」
女頭目は言葉が出なかった。
例え盗賊団の規模を知らなくとも、自分の言葉から相当数の盗賊から狙われることは察することが出来たはずなのに、ヴィンセントは臆するどころか殺気を撒き散らせているのだ。
”一体自分は何を敵に回してしまったのか?”
己の理解を超える存在を前に、女頭目は人生で
「そんなことより、自分のことを心配したらどうだ?もうすぐ部下たちの後を追うことになるんだぞ?」
『ふ、ふざけんじゃないよ!あ、あたいに近づくな!!』
フリーラウンドブレードを展開したまま、ジェノブレイカーがゆっくりとした歩でエレファンダーへと近づく。
だが、ヴィンセントが何かを思い出したように「おっと」と声を上げ、歩みを止めた。
「……そういや熱くなって忘れてた。殺す前に手前に一つ聞かねぇと……手前、背中に昇り龍の入れ墨を入れた盗賊を知らねぇか?」
ヴィンセントの問いに、女頭目はここ一番の驚きを見せる。
彼女にとってその盗賊は、仲間以外の口から出てくるはずのない人物だったからだ。
『なっ?!な、なんで
ほとんど表に出ることに無い自分たちのリーダーをヴィンセントが知っていたことに、女頭目は明らかに動揺を見せ、あろうことか秘密であるリーダーの名前を口走ってしまう。
ハッと自分の失態に気が付き咄嗟に口を押えるが、時すでに遅かった。
「……ははは…あはははははっ!!」
突然、ヴィンセントが狂ったように高笑いを上げ、狂気に満ちた目でエレファンダーを睨みつけた。
「今まで全くと言っていいほど手に入らなかったのに、まさかこんなところで手がかりが見つかるとはな!!おい、女!手前の知ってることを洗いざらい吐け!!」
長年追い続けた”男”の手がかりを見つけ、ヴィンセントは殺気を漲らせる。
『ふ、ふざけんじゃないよ!そんなことしたら、あたいの命がないんだ!絶対に吐くもんかい!!』
リーダーの名前をバラすという失態を犯した女頭目は、これ以上の失態を重ねられないと拒絶する。
ヴィンセントは女をコックピットから引きずり出して拷問でも加えて聞き出そうと考えたが、自分がオーガノイドシステムの影響下にあることを思い出しクールダウンするために息を吐き出した。
「……そうか、なら手前にもう用はねぇな。俺様の追ってる男は手前ら六爪の頭みたいだし、一つずつ潰して行方を追っていくか」
女頭目からの情報引き出しを諦め、ヴィンセントは止めを刺すために荷電粒子砲を起動する。
両足がアンカーによって固定され、頭から尾の先までが一直線に伸びると尻尾の上下に配置されたパネルが展開し、ブレイカーユニットの荷電粒子コンバーターと共に空気中のプラズマを収集、口腔内のバレルにエネルギーが溜まり始める。
「せめてもの礼だ。苦しまずに殺してやる」
荷電粒子砲発射体勢を整えるジェノブレイカーを見て、女頭目は全身に言い知れぬ寒気が走り、助かりたいがために最後の足掻きを見せた。
『ち、ちくしょう!!』
耳の強化型Eシールドジェネレーターを起動し、さらに鼻のESCSユニットを防御形態に変形させてEシールドを二重に展開した。これは強大な防御力を得ることが出来るが下手をすればゾイドコアが停止する奥の手であるのだが、彼女にして見れば自らが助かるならゾイドの命を犠牲にすることに欠片も躊躇いはなかった。
「消えろ」
短い言葉とともにヴィンセントがトリガーを引くとジェノブレイカーの口腔から|最凶の力が解き放たれ、一直線に光が伸びるとエレファンダーのEシールドに直撃した。
『う、うぉおおおおおおおおおおお!!』
経験したことのない攻撃を目の当たりにして女頭目は恐怖で声が漏れ、その恐怖から逃れるためにEシールドへのエネルギー供給をさらに増やす。
その影響でエレファンダーの各部から悲鳴が上がり、エネルギーケーブルが異常加熱して煙が上がり始めた。
そして、荷電粒子砲の照射が終了すると同時に、エレファンダーの胴体が負荷に耐えきれずに爆発した。
『ぐぎっ?!……た、助かったのかい?』
爆発した衝撃で頭部が胴体から切り離され地面を転がる衝撃で再び全身を強打した女頭目だったが、その痛みで何とか命をつなぎとめたことを知り安堵する。
しかし、彼女は助かってなどいなかった。
次の瞬間、地面に転がった頭部にジェノブレイカーのブレードが無慈悲に突き立てられる。
「馬鹿な奴…無駄な抵抗をしなけりゃ、楽に死ねたのによ」
エレファンダーの頭部からブレードを引き抜きながら、ヴィンセントはそんな言葉を吐き捨てた。
**************
「さすがはヴィンセントさん、期待通りの成果ですよ!リアーナさんも、よく頑張りましたね」
「は、はい!ありがとうございます!!」
「…別にどうってことねぇよ」
盗賊団をその根城諸共殲滅したヴィンセントとリアーナは、合流したホエールキングに乗りエージェント4が待つ
出迎えたエージェント4に声を掛けられリアーナは顔を上気させながら敬礼し、ヴィンセントは顔を顰めて適当に返事を返した。
正反対の反応を見せる二人に、エージェント4は笑みを崩すことなく手にした端末を操作する。
「ジェノブレイカーの方も特に問題はなかったようですね。今回の戦闘データを基にほんの少し手直ししてから正式に引き渡しとしますので、作業が終わるまで用意した部屋で休んでください」
「……そうさせて貰う」
自分の言葉を素直に受け入れて出ていくヴィンセントに、エージェント4は「おや?」と首を傾げる。
「あ、あの…エージェント4」
するとリアーナが申し訳なさそうに声をかけて来たため、エージェント4は彼女へと意識を向けた。
「どうされましたか?リアーナさん」
「その…申し訳ありませんでした。お預かりした戦力を私の勝手な判断で目的外のことに使ってしまって……」
盗賊団に攫われた少女たちを助け出した際、彼女たちを村に送り届けるためにリアーナは上空で待機していた部下を動かした。
本来であれば予定にない行動は慎むべきだったが、リアーナはどうしても少女たちを確実に村へと返したかったため、部下を動かすことを判断したのだった。
そのことに関してエージェント4が不快感を持っているのでは、と思ったリアーナが深々と頭を下げるも、エージェント4は営業スマイルとは違う穏やかな笑みを浮かべた。
「そのことですか……今回の件はヴィンセントさんに全て一任していましたし、その彼が連れ去れた少女たちを助けると決断した。貴女はそのオーダーを完遂するための最善を尽くし見事に達成したのですから、ワタシは褒めることがあっても怒るようなことはありませんよ」
「は、はい!……」
いい意味で予想を裏切るエージェント4の寛大な言葉にリアーナの表情がパッと明るくなるが、なぜかすぐに目を伏せてしまう。
いつものリアーナらしからぬ様子に、エージェント4は再び首を傾げた。
「ん?他にも何か?」
「いえ、あの……どうして、あそこまで見知らぬ誰かのために行動できたのか、と思って」
とりとめのないリアーナの言葉に、エージェント4はキョトンとした表情を浮かべるが彼女が扉の方を見ているのに気が付き、「あぁ、そういうことか」とヴィンセントが出ていった扉を見つめた。
「…何もあの人は、誰彼かまわず困っている方を助けるようなお人よしではありませんよ。ただ、彼自身が同じ体験をしているからこそ連れ去られた少女たちがどんな目に遭うか解り、助けずにはいられなかったのでしょう」
「え?それはどういう……」
エージェント4の言葉の意味が読み取れず、リアーナが眉をひそめる。
「彼は昔住んでいた村を盗賊に襲われた際に、親代わりだった姉と幼馴染の少女を目の前で連れ去られ…殺されたのですよ」
「なっ!?」
「それ以来、彼は姉と幼馴染の仇である盗賊を探して賞金稼ぎを続けている…そう言っていましたね」
「……」
思いもよらずヴィンセントの過去の一端に触れ、リアーナは押し黙る。
しかし、その表情からは更に詳しく話が聞きたいことが如実に感じ取れ、エージェント4は「ふぅ」と息を吐いた。
「他人のワタシが話せるのはここまでです。詳しく知りたいのなら、あとは貴女自身が本人に聞いてください」
「…分かりました。失礼します」
ヴィンセント本人から話を聞く勇気が持てないのか、リアーナは戸惑った表情を浮かべたまま部屋を出ていく。
扉が閉まったことを確認すると、エージェント4は楽しげに笑みをこぼした。
「あのリアーナさんが男性に興味を持つなんて…やはりヴィンセントさんは面白い方だ」
エージェント4の部下の中でも生真面目で自分の考えを曲げることのないリアーナは、悪く言えば融通の利かない女性である。
そんな彼女は普段から「自分は男性が嫌いである」と公言し、上司であるエージェント4を除いてほとんどの男性との接触を必要最低限に留め関わろうともしなかった。にも拘らず、ヴィンセントに関しては過剰なまでの反応示し、今では興味まで持ち始めている。
確かにエージェント4が仕向けた部分も多々あるが、それでもリアーナの態度は劇的に変わったと言っていいものだった。
今後の二人の関係がどう変わってくるか楽しみに思うエージェント4だったが、すぐに思考を切替えリアーナが提出した報告書をパラパラと捲り始めると、とあるページで手を止めた。
「ヴィンセントさんたちのことも気になりますが、今気にすべきは……この”電磁場誘導装置”、ですかね」
そのページには、リアーナをはじめとする部下たちが回収した盗賊たちの使っていた装備に関する報告が記載されている。
その中でエージェント4の目に留まったのが、女頭目が使った電磁場誘導装置だった。
エージェント4が所属する赤竜旗の研究所でも過去のデータから電磁場誘導装置の復元・開発が行われ、実戦配備できる形になってはいるが一般流通など行われていない。
最初は他のエージェントナンバーの息のかかった盗賊だったのではと一瞬考えたが、エージェント4の持つ情報には”六爪”と繋がりを持つエージェントナンバーは居なかったので、装置を含めた装備の出所は赤竜旗ではないと考えた。
そのことを裏付けるように、回収した装置を確認したメカニックたちから「使われているパーツが違う」という報告が上がっているため、エージェント4は別の可能性に行きついていた。
「赤竜旗以外に、盗賊たちに兵器を流している者がいる…ということですかねぇ」
過去にも似たようなケースは少なからずあったが、それも事前に情報を把握しエージェントナンバーが対処していた。
だが、今回に限って言えば情報通であるエージェント4の情報網にさえ引っ掛かっていない。
これは、相手が赤竜旗に匹敵する規模の組織が暗躍しているか、もしくは彼が全くマークしていない者の仕業であることが考えられるのだ。
「面白い……実に面白いですね」
久しぶりに自分を出し抜いた存在が現れたことにエージェント4は先ほどとは違った意味で楽しさを噛みしめ凶悪な笑みを浮かべると、情報収集専門の部下へ出頭するように連絡を入れるのだった。
よっ、エスだ!
赤竜旗の本部にエージェントナンバーが召集され、御前自らから真の後継者を告げられ彼らに波紋を呼んでいた。
一方その頃、ジェドーの無事を信じて仕事を続けていたオレたちは立ち寄った都市で思いがけない人々との再会を果たしていた!
次回 ZOIDS-記憶をなくした男- 第二十話「聖女再び」!
なんで君たちがここにいるんだ?!