ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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剣を携える白き獅子

「っの!ちょこまか鬱陶しい!」

 ロングレンジライフルを装備したナデアのコマンドウルフが、三体のレブラプターを相手に苦戦していた。

 懐に入られれば不利となるのは明白な為、ナデアは片っ端から撃つが、妙に錬度の高い動きを見せるレブラプター三機には 砲撃が当たることは無かった。

 焦りの見え始めるナデア。

 だが、突然一機のレブラプターに二筋の光が突き刺さり、爆発した。

 

「・・・え?」

 何が起きたのか分からず、呆けるナデア。すると、通信機から叱り声が響いた。

『ボケッとするな!』

「!?・・っ!!」

 二機のレブラプターが動きを止めていることに気がついたナデアが、一機に狙いをつけトリガーを引く。

 致命的な隙を見せたレブラプターに、ナデアの攻撃が命中し爆散する。

 

 残った一機が逃げる素振りを見せるも時すでに遅く、最初の一体と同じ攻撃によって撃ち抜かれ爆発した。

 

『だから、いつも言ってるだろ?ロングレンジライフルを使うなら、射撃・・・特に狙撃の腕を上げるか、兄ちゃんのように牽制用の装備をつけろって』

 

 周りを警戒しながら、ジェドーのコマンドウルフが近づいてくる。その後方には、ジェドーが相手をしていた五体のゾイドが残骸となって転がっていた。

 ジェドーは、敵に接近されても、コマンドウルフの前脚に装備している対人ガトリングや衝撃砲などで相手を牽制しつつ、相手の足が止まった所を確実に狙う方法を取っている。

 その有効性をいつも妹に説いているのだが・・・・

 

「だって、わたしのコマンドウルフにそんなの載せたら、もっと動けなくなるでしょ!それに、ゴテゴテと牽制用武装なんてつけたら、伝説の傭兵アーバインが乗ってたコマンドウルフと同じじゃなくなるじゃない!!」

 と、持論を持ち出し、兄の指摘に対して、いつも頬を膨らませて反論していた。

 

『なら、兄ちゃんと同じ装備にすればいい!何なら青く塗って”青の軍”仕様にしても・・・』

 通信機の向こうで嬉々としているであろう兄の顔を想像したのか、ナデアは顔を真っ赤にして憤慨した。

 

「絶対、いやっ!!」

 自分乗っている機体にこだわりを持ち、あまつ思春期真っ盛りのナデアにとって、兄との”ペアルック”は堪えられないものだった。

「そ、そんな強く否定しなくても・・・・昔は、何でも兄ちゃんと同じがいいって言っていたのに」

 本気で妹に拒絶され、疎外感からジェドーがコックピット内でいじけていると、通信機からノイズと共に大声が鳴り響いた。

 

『おい!ジェドー、ナデア!聞こえるか?お前ら、何処で油を売ってる!!』

 声の主は、仲間のホメオだった。仲間の声を聞き、いじけていたジェドーは気を取り直し、通信機をオンにする。

 

「ホメオか?失礼な奴だな。こっちは今まで、白いブレードライガーが引っ張って来た盗賊どもと戦ってたんだぞ?まぁ、俺とナデアの敵じゃなかったけどな」

 サラッと自慢を挟むジェドーだったが、ホメオはあっさり無視した。

『なら、今すぐ白いライガーを追いかけろ!エスの奴、パイロットの嬢ちゃんをこっちに任せたかと思ったら、ライガーに乗って行っちまった!』

「は?」

 ホメオの説明に、ジェドーが首を傾げると、通信機の向こうでナデアが叫んだ。

『お兄ちゃん、あれ!!』

 

 ジェドーが、ライガーの転がっていった方を見ると、白いブレードライガーが未だ戦闘の続く方向へと駆け出しているのが見えた。

 

 

「ブースター、オン!」

 全開のスロットルレバーをエスがさらに押し込むと、ブレードライガーの背中の装甲が展開し、中から増速用のロケットブースターが姿を現し、その力を解放する。

 

「っ!」

 その瞬間、ブレードライガーは一気に加速を始め、コックピットのエスに強烈な加速のGが襲う。

 

 一発の弾丸と化したブレードライガーは、瞬く間に盗賊とその攻撃に晒されるニ機のブレードライガーを視界に収め、エスはウェポンセレクターからレーザーブレードを選択。二振りのレーザーブレードが上へ持ち上がり、横へ展開し光を纏って輝きを放つ。

 

『エレナ?!』

 通信機のスピーカーから、先ほどの”出陣”の時に聞いた少女の声が聞こえるが、エスは答えることなく目の前に迫るレブラプターに狙いを定めた。

 

『なんだ?』

『さっき逃げた奴か?!』

 

 猛スピードで近づいてくるライガーに、レブラプターに乗る盗賊たちが気が付き振り返ろうとするが、そんな余裕は無く、白い風が通り過ぎた瞬間には、機体は真っ二つに切り裂かれ、爆発していた。

 

『こ、こいつ速い?!うわっ!!』

『じょ、冗談じゃネェ!!』

 

 エスはブースターを緩めることなく、次々と盗賊のゾイドたちの攻撃を掻い潜り、すれ違いざまにブレードで切り裂き、ブレードライガーが通り過ぎた後には、爆散したゾイドの残骸が転がり、敵はあっという間にその数を半分ほど減らしていた。

 

 大きく弧を描きながら、エスは残った盗賊たちへ狙いを定める。

 

『あのライガーに攻撃を集中しろ!』

『こっちの二機はどうするんで?!』

『放って置け!まずは、あいつだ!!』

 さすがに盗賊たちも強敵の出現に、Eシールドでエネルギーを殆ど使い果たし、動けなくなっていたセレナーデたちを無視して、エスへと攻撃を集中させる。

 

 だがブースターで加速したライガーをエスは巧みに操り、右へ左へと砲弾を躱していく。

『どうなってんた?!弾が当たらねぇぞ!!』

『ば、化け物ぉ!!』

 

 再び、レーザーブレードによって盗賊たちの機体は悲鳴を上げながら切り裂かれていき、三体いるレッドホーンの内、一体が横一直線に切り裂かれた。 

 

 百八十度ターンし、攻撃体勢のままエスの駆るライガーがその場に停止する。

 

 二十体近くいた盗賊たちのゾイドは、気が付けばレッドホーン二機だけとなっていた。

 

『くそ!ひよっ子相手の楽な仕事だと聞いていたのに、話が違うぞ!!』

『っこの、覚えていろ!!』

 在り来たりな棄て台詞を吐き、レッドホーンが慌てて逃げていくのを確認し、エスは盗賊を追いかけることなく、大きく息を吐き出す。

 

 次の瞬間、ブレードライガの各関節部がスパークし、脚部が機体を支えることが出来ずに傾いて倒れてしまった。 

 だが、エスはそのことに驚きを見せる事は無く、むしろ当然の結果だな、と目を伏せる。

 

 彼が乗り込んだ量産型ブレードライガーには、オーガノイドシステムというゾイドの戦闘力を劇的に高める特殊なシステムを実装されているのだが、代償としてフルスペックのままでは常人に操ることが出来ない”暴れ馬”となってしまう。その為、操作性を高めるためにOSにはリミッターが設けられていた。

 

 エスは、そのリミッターを全て解除しライガーの限界性能を引き出して戦っていたのだが、機体の調整がリミッターを掛けた前提で行われていたために、機体がエスの反応速度に耐え切れず、限界を超えてしまったのだ。

 

「・・・すまなかったな、無茶をさせてしまって。お前を整備してくれている人は、凄腕のようだから、ちゃんと”治して”もらえるはずだ。ありがとうな」

 

 コックピット内で、コンソールを撫でながら、エスは自分の無茶に付き合ってくれたライガーの感謝の言葉を述べ、キャノピーを開けてライガーを降りた。

 

 横たわるブレードライガーを見つめながら、エスはライガーが全力で動けたことに満足している、と感じ笑みを浮かべた。

 

「機体から離れなさい!!」

「?」

 突然、先ほと通信機から聞こえた少女の声が後ろから、しかも怒鳴り声で聞こえ、エスが振り向くと、猫のように目尻の釣りあがった少女と、その仲間と思われる同年代の少女がエスに銃を向けていた。

 

「?!」

 エスは慌てて、両手を挙げた。

 

 

 そして、冒頭へと戻り、エスは走馬灯のように思い出していた記憶を頭の隅に追いやり、意識を実時間へと戻した。

 

 引き金に指を掛けているセレナーデを刺激しないように、エスはゆっくりと口を開いた。

 

「君たちの仲間のゾイドを勝手に使ったのは謝る。それから、このライガーのパイロットの子は無事だ。怪我をしていたが、俺の仲間が応急手当をしている。安心してくれ」

 

 エスの話を聞き、セレナーデの後ろにいた少女が、安堵の表情を浮かべるが、セレナーデは全く真逆の反応を見せた。

 

「そんなことはどうでもいいですわ・・・・汚らわしい男風情が、よくも私《わたくし》の初陣式を台無しにしてくれましたわね!その代償、命で償っていただきますわ!!」

 

 怒りで我を忘れたセレナーデが、引き金に掛けた指に力を込める。

 

「セレナーデ!牽制だけならまだしも、さすがにそれはマズイよ!!」

 後ろにいた少女が、慌ててセレナーデに駆け寄り、羽交い絞めにする。

 

「!?離しなさい、クー!!貴女だって、初陣式を台無しにされたのよ!悔しくはないの?!」

「それとこれとは話が別だよ!それに、この人が助けてくれなかったら、アタシもセレナーデも死んでいたかもしれないんだよ?それにエレナだって助けてくれたんだ。恩を仇で返すような真似、アタシには出来ないよ!」

「!何を馬鹿なことを・・・・男に恩など感じる必要は有りませんわ!!離しなさい!!」

 

 少女二人の言い争う中、エスが近づいてくる気配に右へ振り向くと、見慣れたコマンドウルフ二体が駆け寄りエスの傍で止まると、パイロットのジェドーとナデアがキャノピーを開けて降りてきた。

 

「エス、無事?!」

 ナデアがエスに駆け寄り、怪我など負っていないか彼の身体を見回す。

「あぁ、無事だ。怪我も無いよ」

「そう、良かった・・・・・」

 エスの声を聞き、ナデアが頬を赤くして微笑む。

 

「ブレードライガーに乗っていったと聞いた時は、さすがに驚いたぞ」

 ナデアの後ろからジェドーが呆れたような表情でエスに声を掛け、エスもジェドーに「迷惑を掛けた」と頭を下げた。

 

「まだ話は終わっていませんわ!」

 クーの拘束から逃れたセレナーデが再び、銃口をエスへと向ける。

 

「ちょっ、あんた本気?!」

 ナデアとジェドーも、咄嗟に腰から下げた銃を取り出し、セレナーデたちに向けた。

「・・・お嬢さん。馬鹿な真似はやめるんだ」

 ジェドーが、銃の安全装置のロックを解除しながら、セレナーデの構える銃に狙いを定める。

 

「男の指図は受けませんわ!その男を庇うと言うのなら、貴方たちも同罪・・・死をもって償いなさい!」

 いつ撃ち合いが始まってもおかしくない状況に、エスは両手を挙げたまま、腰を落として目の前のセレナーデに体当たりをしようとした時だった。

 

”そこまでだ!!!”

 

 人間の声量とは思えない”生”の大きな声が大気を震わせ、エスたちの耳に届く。

 

 突然、両者の間に一台の軍用ジープが土煙を上げて滑り込んだ。

 

 運転していた女性が立ち上がり、一瞬エスたちを見て、すぐにセレナーデたちに視線を移した。

 

「た、隊長!」

 現れた女性を”隊長”と呼び、クーが「助かった」と銃を下ろす。

 しかし、セレナーデはその女性を見ても、銃を下ろすことはなかった。

 

「セレナーデ、銃を納めろ。これは、命令だ!」

 手で制しながら、女性が命令するが、セレナーデは銃を下す気配を見せるどころか、上司である女性に意見した。

「しかし、隊長!そこの男は、我が白百合の園の神聖なゾイドを無断使用しただけでなく、初陣式を汚した痴れ者!相応のバツを与えるべきです!」

 セレナーデの言葉に、女性の鋭い目つきが一層鋭さを増した。

 

「この、大馬鹿者!!」

 先ほどの人間離れした声量で、女性がセレナーデを怒鳴りつける。

「!?」

 そのあまりの迫力に、セレナーデの顔色が真っ青になり、銃を持った手を震わせながら数歩後ずさる。エスたちも、その声に耳を押さえた。

 

「命を助けてくれた恩人を痴れ者扱いすなど、この恥知らずが!私は、そんな恥知らずの部下を持った覚えは無い!!それに、今回の初陣式で敵の戦力を見誤り、お前たちを出撃させ初陣式を台無しにしたのは、隊長である私の判断ミスのせいだ。恨むならこの私を恨め!」

 隊長の言葉に、セレナーデは怒りを滲ませながらも、銃を下ろした。

 

 隊長は短く息を吐き、ジープから降りるとエスたちの前へ立ち、深々と頭を下げた。

「・・・・・助けて頂いたにも関わらず、部下が大変な無礼を働いてしまった。部下に代わり、謝罪する。申し訳ない・・・・私は、白百合の園の警備隊隊長をしているヴェアトリスという者だ。この度は、都市と部下の命を救っていただき感謝する。貴殿の名を窺っても?」

 ヴェアトリスと名乗る女性に、何故か懐かしい雰囲気を感じるエスは、自然と背筋が伸びる。

 

「エスだ」

 ごく短い自己紹介に、ヴェアトリスは嫌な顔を一つせず笑みを浮かべた。

「エス殿か・・・実は、我が園の代表が、貴殿に直接礼を言いたいを申している。ご同行願いないか?」

 ヴェアトリスの言葉に、セレナーデとクーが驚愕の表情を作る。

「なっ?!」

 何か言葉を発そうとしたセレナーデに、ヴェアトリスは一睨みし、彼女を押し黙らせた。

 

「ちょっと、待ちなさいよ!そんな事言って、エスを捕まえる気じゃ・・・モガモガ!!」

 今度はナデアの方が抗議の声を上げたのだが、それをジェドーが両手を使って妹の口を塞ぎ、強制的に言葉を遮った。

「すまない、妹が失礼なことを。だが、貴女について行って、エスが安全だという保障は?」

 何処か芝居じみたジェドーの言葉に、ヴェアトリスは一瞬キョトンとした顔をするが、すぐに真面目な表情へと戻る。

「マザーの名と、この隊長の証に誓って、エス殿の安全を約束する」

 襟元につける百合の形を象ったブローチをジェドーに見せ、誓いを立てるヴェアトリス。

 

 十数秒ほど真剣な眼差しで見つめ合ったままの二人が、突然笑みをこぼす。

 

「・・・エス、後はお前が決めろよ」

 妹の口を塞いだまま、ジェドーは面倒だ、とエスに決めさせることにし、話を投げた。

「は?・・・・・・まぁ、断る理由はないが・・・」

 丸投げしてきたジェドーに顔を引き攣らせるエスだが、ヴェアトリスから”悪意”を感じないし、と同行を了承する。

「そうか!では、車に乗ってくれ!・・・お前たちは機体収容後、報告書を出せ。いいな?」

 ヴェアトリスは嬉々として車の運転席に座り、直立不動の部下たちに命令を下す。

「はっ!」「・・・・・」

 クーとセレナーデは、ヴェアトリスに敬礼すると、それぞれの搭乗機へと駆けていった。

 

「では、行こう」

 エスが助手席ついたのを確認し、ヴェアトリスはジープを白百合の園へと向けて発車させた。

 

「ッッッ・・・ぷはっ!お兄ちゃん、どうしてエスを行かせたの!」

 いつまでも口を塞ぎ兄の手を振り払い、ナデアが顔を真っ赤にしてジェドーに噛み付いた。

 

「記憶を無くしているとは言え、あいつは子供じゃないんだ。自分で判断させるのは当然だろう」

 髪を掻き上げながら、ジェドーはジープが走り去った方を見つめる。

 

「・・・・それより、お兄ちゃん。あの美人な隊長さんと知り合いなの?」

 先ほどのヴェアトリスとの只ならぬ雰囲気に、ナデアがジト目で兄を睨む。

 

「ん?さぁな・・・・それより、俺たちも戻るぞ。”女将さん”たちが戻ってきてるかもしれないし、エスのことをみんなに報告しないと」

 そう言って、ジェドーははぐらかす様に相棒であるコマンドウルフの下へと歩いていく。

 

「ちょっと、お兄ちゃん!・・・もう!!」

 何となくかくしごとをしている兄に怒りを覚えつつ、ナデアもエスの乗ったジープが走り去った方を少し見つめ、愛機の下へ走っていった。

 

 

*************

 

「改めて、部下の事はすまなかった。あの子等にとって、今回は特別だったものでね。許してやってくれ、とはいえないが、その辺りを察してくれると助かる」

 ジープを走らせながら、ヴェアトリスが謝罪しながらもセレナーデたちのフォローをする。

 

「別に気にしていないさ・・・それに、謝るのはこっちだ。勝手にライガーに乗り込み、無茶をして壊してしまった。パイロットの子には申し訳ないことをしたよ」

 ライガーたちを回収に向っているであろうグスタフと、両腕をクレーンに改造した複数のゴドスとすれ違い、その機体を目で追いながら、エスは深いため息をつく。

 

 そんなエスを見て、ヴェアトリスは笑みを浮かべた。

「そのことか・・・それこそ、気にしなくていい。あのブレードライガーはエレナ・・・君が助けてくれた子だが、その機体ではない。警備隊で専用機を持つことが許されているのは、隊長である私を含めてごく一部の隊員だけで、後は状況に応じて乗る機体が変わるんだ・・・・それより、貴殿の戦いを見せてもらったが、正直、自分がゾイド乗りだと名乗るのが恥ずかしくなったよ。ブレードライガーがあんな風に動くとは思ってもいなかった。一体、何処であれほどの操縦技術を?」

 

 ヴェアトリスの問いに、エスはどう答えるか迷ってしまった・・・というより、自分でも、驚いているというのが本音だった。

 

 自分に関する記憶を忘れながらも、ゾイドに関する知識は覚えているエス。キャラバンでも、何度もゾイドを動かしていたが、戦闘用ゾイドによる戦闘機動は初めてだった。

 にも拘らず、全力で動くライガーのコックピットで、エスはいつも以上に思考がクリアになり、ブレードライガーと一体になったかのように機体を手足のごとく操っていた。

 

 ――本当に、オレは何者なんだ?

 

 そんな疑問が頭の中を過ぎった瞬間、強烈な頭痛がエスを襲った。

 

「!?っぅぅぅ・・・・・・・・」

「?どうした、エス殿?」

 額を押さえ俯くエスに、ヴェアトリスが声を掛けるが、エスはあまりの痛みで返事を返せなかった。

 

「エス殿?!どうしたのだ!!エス殿、私の声が・・・・・・」

 遠くなるヴェアトリスの声。そしてエスの視界が急激に狭まっていき、彼の意識はそこでブラックアウトした。

 

 

**************

(???)

 

 村の小高い丘から遠くに見える地平線が大好きな少年は、あの向こうには何があるのだろう、と毎日空想した。

 

 そしていつか村を出て、最高の相棒となるゾイドを見つけ、相棒と共に地平線の向こうへ行くことが、少年の夢になっていた。

 

 そのことを同じ村に住む幼馴染に語ると、彼女は「外は危ないから、村から出ちゃ駄目だよ」と言われ窘められてしまったが、少年は夢を諦めず、大人になったら・・と固く決意する。

 

 地平線の向こうを見ることを夢見ながら、少年は早く大人になるのを待つのだった。

 

 

******************

 

「・・・・・・ここは?」

 エスが目を覚ますと、見知らぬ天井が飛び込んできた。 

 

 清潔感のある白い天井。鼻腔を擽る甘い香り。事態が飲み込めず、エスが呆然と天井を見ていると、視界の端に人影が有るのに気が付いた。

 

「?」

 身体を起こすのが億劫なほどの脱力感に、エスは首だけ動かし、人影の方へ目線を動かす。

 

「・・・・・?!お目覚めになられたのですね!」

 水に浸し、固く絞った白いタオルを手に振り返ったその人物は、エスが目を覚ましたことに気が付くと、慌ててベッドサイドまで駆けてきた。

 

「よかった・・・・・エス様がここへ来る途中に気を失われたと聞いた時は、本当に心配しました」

 本当に心配していたのだろう。彼女は、タオルを手にしたまま祈るように胸の前で手を握り、安堵の表情を浮かべる。

 

「・・・それより、あんたは?それに・・・ここは何処だ?」

 自分のことを心配してくれた女性に対し、エスは状況を聞こうと、不躾と思いながらも質問した。

 

 エスの問いに、女性はハッと口を押さえ、頬を桜色に染めた。

「!申し訳ありません、わたくしったら独りで舞い上がってしまい・・・・わたくしはマザーミレイ。この白百合の園の代表をしております。ここは、わたくしの邸宅にある客室の一室です」

 

 マザーミレイと名乗るうら若き女性は白い修道服を身に纏い、その立ち姿はまるで宗教画に描かれる聖女を思わせる神々しさを纏っていた。

 

「ようこそ、白百合の園へ。エス様」

 

 そんな彼女は、天使の微笑を浮かべ、エスに深々とお辞儀するのだった。

 





 やっほ、ナデアよ。
 白百合の園に招待されたエスが、マザーミレイといい雰囲気になっていた頃、白百合の園を襲った盗賊の本隊が、また園を襲うために準備を進めてるみたい・・・って!いい雰囲気って何?!アタシ聞いてなんだけど!!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第三話「白百合の聖女」!

 ちょっと、お兄ちゃん!これどういうこと!説明してよ、もぅ!!


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