カイザーシュタット旧街区。
都市の東側に広がるガイロス帝国時代から残る建物が数多く存在する地区で、西側の近代的な経済区とは対照的な都市の一大観光地となっている。
だが、この旧街区の中で一部分だけ観光客どころか一般市民でさえ立ち入りが制限されている場所がある。
それが”特区”と呼ばれる重要文化財に指定される貴族邸宅が立ち並ぶ地区だ。
嘗てはガイロス帝国皇帝に仕える大貴族たちが住み、今もその子孫と言われる者たちが住み続けているその場所は特殊な自治権が確立しており、カイザーシュタット行政府さえ”不可侵”を貫いている。
そのおかげで、
特区の地下には縦横無尽に通路が張り巡らされおり、そこは大戦時に首都決戦の際の臨時指令施設としての機能が持たされていた。
その通路を、エージェント
二人の恰好はいつもの黒いスーツではなく、何故かガイロス帝国軍士官が着ていた軍服である。
「カイザーシュタットの旧街区の地下には帝国軍の秘密基地があるって都市伝説を聞いたことがありましたけど、本当だったんですね」
着慣れない軍服を気にしながら、まだ幼さの残るエージェント5がソワソワとした様子で辺りを見渡していると、前を歩いていたエージェント4が「フフフ」と笑みを浮かべた。
「噂というのも案外馬鹿にならないものですよねぇ…ここは嘗て貴族たちの緊急避難場所だったそうですよ。それをガイロス帝国の摂政プロイツェンが元帥時代から極秘の研究やらなんやらを皇帝に隠れて行うために秘密裏に接収・拡張し、彼が反乱を起こす直前には地上にあった帝都ガイガロスより広かったとか」
「そうなのですか?!」
エージェント4の情報にエージェント5が声を上げて驚く。
旧帝都ガイガロスの広さはカイザーシュタットよりも広かったという説があり、エージェント4の情報が本当なら当時一体どれほどの規模の研究が行われていたのかエージェントとしての経験が浅いエージェント5には想像すら出来ず呆気にとられる。
「とはいえここも大戦終結後に封鎖され、長い年月放置されたために崩落などの影響で立ち入ることのできる場所はごく一部です。そのさらに一部を組織が修復して今では特別な場所となっているのですよ」
そんな世間話をしていると、二人の視線の先に扉が目に入ってきた。
昨今ではあまり見かけない手彫りの装飾が高さ三メートルの木製の扉に隙間なく刻まれ、その扉の先が特別な場所であることを主張し、扉の前には二人のメイドが微動だにせず立っている。
「エージェント4様、エージェント5様。どうぞ、お入り下さい」
扉の前に立っていたメイド二人が恭しく首を垂れると、重厚な扉を押し開け二人を招き入れる。
二人が扉をくぐると中は石造りの広間が広がり、一段高い場所に玉座が据えられていた。
扉が閉じるのと同時に二人は玉座の方へと歩んでいくと、エージェント4は玉座を見つめている人影を見つける。
「……おや?エージェント
見知った後ろ姿にエージェント4が声を掛けると、玉座を見つめ佇んでいた人物が振り向く。
腰まで伸び下ろしたままの銀髪に褐色の肌。眼鏡の奥に光る瞳は血のように赤く、女性士官用のスリットの入ったロング丈のタイトスカートを合わせた軍服という出で立ちと相まって、エージェント6とは違った威圧感を纏ったその女性は、エージェント4の問いに首を縦に振った。
「えぇ、そのようです」
表情筋が固まっているかのようにエージェント3の顔は一ミリも表情が変わらないが、その声には困惑の色が見え隠れする。
そんなエージェント3の答えを聞いて、エージェント4はいつもの作り笑みを崩すことなく思案し始めた。
「ふむ、珍しいですねぇ……今回は
エージェントナンバーへの緊急招集とは、言い換えれば
そのため、集合時間の一時間前にはほぼ全員が集合しているはずの広間にエージェントが三人しかいないのは、エージェント4の言う通り異常事態なのだ。
「何か、あったのでしょうか?」
初参加であるエージェント5は只ならぬ二人の様子に、異常事態である事を察し不安げな表情を浮かべる。
そんな三人に対し、意外なところから答えが齎された。
”簡単な事だ。今回の招集は全エージェントに出された訳ではない”
扉の開閉音と共に聞こえた声に三人が振り向くと、二人の男が立っていた。
「エージェント
エージェント3にエージェント1と呼ばれた男は、まさに”巌”を体現した初老の男。短く刈り込んだ白髪に六十過ぎという年齢を感じさせない二メートル近い身長に筋肉の鎧をまとい、軍服姿と顔の傷も相まって歴戦の将と言った風貌をしている。
対するエージェント12と呼ばれた男は、一見すれば飄々とした”仙人”だった。百六十にも満たない身長に無駄をそぎ落としたような細い身体。髪を剃り落した頭と長く伸ばした白いひげを撫でるしぐさとは裏腹に、まるで全てを見通している軍師のように目の奥には鋭い光が宿っている。
互いに数十年以上赤竜旗に人生を捧げ、エージェントの在位年数は一、二を争う。
「エージェント1…緊急招集なのに、全エージェントに召集が出されていないとはどういうことです?」
先ほどの声の主であるエージェント1にエージェント3が意味を問うが、答えたのはエージェント12だった。
「現在、他の大陸にも活動範囲を拡大してエージェントを派遣しているは、お前さんたちも知っておろう?彼らの任務は赤竜旗にとって目的達成のために必要不可欠なものだと御前もご理解されており、今回の招集に関して他大陸にいるエージェントは除外とし、西方大陸にいるエージェントにのみ出された、というわけじゃよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
エージェント12の説明に、エージェント4は納得するように頷く。
この時代、他の大陸との繋がりは無いと言っていいほど、交流が途絶えていた。
そのため、大戦時に生み出された数多の技術の中には長い年月で西方大陸では失われてしまったが、他の大陸では独自の発展を遂げているモノが数多くあり、赤竜旗はその技術を手に入れるため、エージェントを各大陸に送り込んでいた。
「……ですが、変ですね。エージェント
別の大陸に派遣されているのがエージェント
エージェント4の指摘通り、いつも時間ぎりぎりに滑り込むエージェント6とは違い、エージェント2は神経質な男で誰よりも早く参上していた。
そんな話をしていると、再び重厚な扉が開いた。
「あら?今回はわたくしが最後ではないのね」
扉の向こうから現れたのは、エージェントナンバーきっての問題児と陰口を叩かれるエージェント6だった。
「皆さん、御機嫌よう。わたくしを出迎えるなんて、いい心がけですわ」
と勘違いして上機嫌に笑みをこぼすエージェント6だが、驚きのあまり誰一人として言葉を返さなかった。
何故なら、彼女の恰好が無駄にひらひらと装飾の多いピンク色のドレス姿で、そのデザインが十代前半の少女が着るような幼稚なものだったからだ。
エージェントナンバーが召集によって呼び出され、御前と直接対面する際、彼らは正装である軍服を着ることを義務づけられている。
もちろんエージェントナンバーに名を連ねる6も軍服での出席しなければならないはずなのに、何を思ってかドレス姿で現れたのだ。
そんなエージェント6の姿に5は驚き、1と4は呆れ果てた表情を浮かべ、12は「相も変わらず、期待を裏切らんの……」と関心とも呆れとも取れる言葉を漏らした。
只一人、無表情だったエージェント3だけがスッと6の前へと出た。
「召集の際、エージェントナンバーは軍服で参加する決まってるはずですよ。にも拘らず、その恰好は何なのですか?エージェント6」
「貴族であるわたくしの正装はドレスと決まっているでしょ?何を当たり前なことを言っているのかしら」
正論を述べるエージェント3に、持論を展開するエージェント6。
いつもなら、ここから平行線をたどる言い合いが始まるのだが、今日はそこまで発展することはなかった。
「エージェントナンバーの皆様、お時間となりました。間もなく御前がお目見えいたしますので、ご整列くださいませ」
玉座の一段下の下座から現れた御前直属の従者の男が、エージェント3とエージェント6の言い合いに割り込む形で、御前を迎える準備をするよう促したのだ。
不毛な争い―主にエージェント6が一方的に噛み付くだけ―が回避されたことに、エージェント5を撫で下ろす中、他の男性陣は別の事に思考が向いていた。
「エージェント2、来ませんでしたねぇ」
「あ奴にしては、珍しい事じゃな」
時間になっても現れなかったエージェント2に、エージェント4とエージェント12は扉を見つめながら所定の位置へと移動する。
その中で、エージェント1が従者へと近づいた。
「エージェント2がまだ来ていないが、何か聞いていないか?」
「エージェント2様は、特殊技術研究所からの依頼で特別任務についているとのことで、今回は欠席とお伺いしております」
従者の返答に、エージェント1は一瞬目を細めるが「そうか」と言って、自分の立ち位置へと向かった。
玉座を前に、エージェントナンバー側から見て左から、エージェント1、3、4,5、6、12が整列する。
今回、事情により参加を免除されたり欠席やら欠番などで抜けているエージェントの位置が開けられているため、エージェント6から12までの間が大きく空いている。
全員が整列してから程なくして、玉座の上手側にある仕切りの奥から扉が開く音が聞こえ、赤竜旗のトップに君臨する男が姿を現した。
真っ白に染まった髪や顔に刻まれた深い皺など、エージェント1や12に比べて十歳ほど年上の御前だが、その動きに淀みは一切見られず、その場に姿を現しただけで場の空気を支配するほどの王者の気配を纏っている。
「エージェントナンバー!敬礼!!」
エージェント1の号令で、エージェントナンバーが軍隊式の敬礼を行う―ただ一人、エージェント6だけがドレスの裾をもち深々とお辞儀をしている―。
敬礼で出迎えられた御前は玉座の前まで進むと、深々と腰かけた。
「楽にせよ」
御前の言葉で、エージェントナンバーたちは直立不動の状態になり、次の言葉を待つ。
「…今赤竜旗内に蔓延っている噂のことを、お前たちも把握していることだろう。そのことで組織全体が浮足立ち、さらには幹部たちがよからぬ動きを見せていると我の耳にも届いている……我としては、この問題を早期に対処したいと考えている」
御前の言葉に、エージェントナンバーたち―エージェント6以外―は「やはり」と内心で今回の招集理由を察した。
先の一件で、御前の後継者と言われていた存在は研究中の実験体であり、実験のために後継者と名乗らせていたこと。そして、後継者は他にいることが赤竜旗内に通達された。
だが、この通達後に組織内には、「実は御前には後継者など居らず、そのことを取り繕うために実験体を後継者に仕立てていたのでは?」という噂が広がり、幹部たちの中には噂を鵜呑みにし、御前亡き後に起きるであろう権力争いに備えて暗躍を始めている者さえいる。
今の状態を放置すれば、そう遠くない未来に赤竜旗は分裂してしまう恐れがあるのは明白。
自分たちエージェントナンバーが呼び出されたのは、その”芽”を摘み取ることだと理解した。
「つまり、真の後継者は間違いなく実在しており無用な噂に惑わされるな、と組織内の綱紀粛正に努めればよいのですな?」
そのことを確認するように、古株であるエージェント12が髭を扱いながら御前にお伺いを立てる。
ふつうなら、何の断りも無しに御前に発言するなど死をも恐れぬ蛮行でしかないが、長年仕える家臣といえるエージェント12の問いに御前は怒ることなくゆっくり頷いた。
「もちろん、お前たちエージェントナンバーには動いてもらう……だが、人間というのモノは己の目で確かめなければ事実を受け入れない生き物だ。そこで、後日我の後継者を赤竜旗全構成員に披露する場を設けることにした」
御前の言葉に、エージェントナンバーたちは驚きを露わにする。
”殿下”と呼ばれていた青年の時は全構成員に対してお披露目など行われることなく、当初はエージェントナンバーや幹部たちとごく限られた者にしか顔が知られていなかった。
それが、今回は赤竜旗に属する者全てに対してお披露目が行われることに、エージェントナンバーたちの中で、”真の後継者”という言葉が現実味を帯び始める。
しかし、彼らの驚きはこれで終わることはなかった。
「そして、それに先立ち今日この場でお前たちに紹介しておこうと思う。入りなさい」
扉の開閉音の後に、御前が現れた仕切りの影から一人の少女が現れる。
ウェーブのかかった赤みの強い金色の絹糸のような長い髪に、透き通るような白い肌。まるでルビーを思わせるような紅い瞳に、赤いルージュを引いた潤いのある唇。
そして、落ち着いたデザインの紅いドレスを纏った姿は、とても十代の少女とは思えない神々しさがあった。
少女はゆっくりと御前の元まで進むと、御前の右手側に立ちエージェントナンバーの方へと向きを変え、まるで聖母のような慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「我の後継者にして、赤竜旗が世界を統一した後に女王となる…孫のエリシアだ」
「皆様、初めまして…エリシアと申します。御爺様が信頼する方々にお会いすることが出来、うれしく思います」
御前の紹介を受け、エリシアが軽く頭を下げると満開に綻ぶ花を思わせる笑顔を向けた。
その笑顔に、その場に居合わせた者たちが軒並み驚く中、エージェント6だけがエリシアを忌々しげに睨みつける。
「エリシアは、我の下で女王となるべく様々な教育を施したが、如何せん経験に乏しい。そこで経験を積ませるため、いくつかの任務を与えるつもりでいるのだが、その際お前たちエージェントナンバーにはその補佐を任せる……我が孫に対しても我と変わらぬ忠誠を期待するぞ」
『はっ!』
御前の言葉に、エージェントナンバー全員が恭しく首を垂れる中、ただ一人エージェント6だけが頭を下げながらもエリシアの事を認めないと言わんばかりに表情を歪めていた。
**************
ジェドーが行方不明になってから一か月という時間が過ぎていた。
残念ながら、その間に彼に関する情報がキャラバンに齎されることはなかったが、それでも彼らはジェドーの生存を信じて旅を続けていた。
ただ一人を除いて……
「このぉ!あたれぇ!!」
キャノピーに映し出された紅いライガーゼロに照準を合わせ、ナデアがトリガーを引く。
背面に装備された武装からビームが発射され敵へと伸びるが、ライガーゼロは事も無げに避ける。
しかし、ナデアの攻撃はそれで終わることなく、立て続けにビームを放ちライガーゼロに襲い掛かった。
だが、その攻撃でさえもライガーゼロは驚異的な反応で避け続け、攻撃の切れ目を見定めてイオンターボブースターを作動させ、ナデアへと一気に距離を詰めると頭部の強制冷却システムが展開させ、高々と飛び上がった。
「っ!」
振り上げられた右前脚が煌々と輝きを放つのを見て、ナデアは表情を強張らせると操縦桿を強く握る。
ライガーゼロ最強の必殺技「ストライクレーザークロー」がコマンドウルフを切り裂かんと振り下ろされるその瞬間、ナデアは操縦桿を思いっきり引き、コマンドウルフが地に這いつくばるように身を屈ませると、背面に装備した武装が
パージされライガーゼロへと襲い掛かる。
飛んできた武装をライガーゼロがストライクレーザークローで切り裂くと、その瞬間大爆発を起こし一瞬で辺りに爆炎が拡がる。
完全に視界が塞がれたナデアだが、気にすることなく操縦桿を動かし、爆発の中心へとコマンドウルフを突っ込ませる。
すると、爆炎を抜けた向こうに爆発でのけぞるライガーゼロの姿を確認し、その喉元へとコマンドウルフを食らい付かせた。
「エレクトロン・バイトファング!!」
ナデアはウルフ最大の攻撃を繰り出し、攻撃の隙で出来た喉元に高電圧の電流が放たれたライガーゼロの全身からスパークが迸る。
そして、放電が終わるとライガーゼロが力なくその場に崩れ落ち、同時にコマンドウルフもエネルギーを使い果たしてシステムフリーズを起こすと、コマンドウルフのコックピット内のモニターが暗転した。
【シミュレーション終了。制限時間となりましたので、システムを停止します】
コックピット内にシステムアナウンスが流れると、キャノピーが強制解放され、ナデアの視界に見慣れたホバーカーゴの格納庫の風景が入ってきた。
「……っ!!」
コックピットから降りながら、ナデアはぐっと拳を握った。
この一か月、兄の敵を討つためにナデアは数えきれないほどシミュレーション内でライガーゼロと戦っていた。
最初は手も足も出ないほど負け続けたが、徐々にライガーゼロの動きに対応できるようになり、今日初めて相手を倒すところまで来ていた。
手ごたえを感じたナデアは、徐に愛機へと視線を向ける。
そこにはナデアの愛機であるアーバインカラーのコマンドウルフが駐機されているが、その武装が大きく変わっていた。
背面にはロングレンジライフルではなく、AZ2連装250mmロングレンジキャノンが搭載され、後脚部には増速用ブースターであるアシスタントブースターが装備され、AC仕様に変更されている。
前回の戦闘でロングレンジライフルが大破してしまい、新しい装備を手に入れるまで繋ぎとして予備で保管してあったAZ50mm2連ビーム砲を装備するのをアンジェリカから提案されたナデアだったが、無傷で残されていたジェドーのコマンドウルフが装備していたパーツを見つけ、それを自機に乗せることを望んだ。
傭兵アーバインがコマンドウルフをAC仕様にしていたという情報はなく、本来であれば歴女にしてアーバインファンを自認するナデアが、愛機をAC仕様にするなど在り得ないことだ。
だが、兄の仇を討つことを最優先するために自身のこだわりを捨て、装備を変更したのだった―とは言え、元はサンドカラーに塗装されていた装備を、わざわざ黒と赤のアーバインカラーに塗り替えるようアンジェリカに頼んでいる辺り、完全には拘りを捨てきれていないのだが―。
ライガーゼロと戦う準備は整ったと、ナデアは確信し格納庫を後にした。
その光景を、監視カメラで見ていたアンジェリカは大きく息を吐き出し、座っていた椅子の背にもたれかかると、通信が入った。
姿勢を正して、通信をオンにすると画面にリョーコの姿が映し出された。
「女将さんか…何か用かい?」
『ナデアがちゃんと休んでるか心配でね……どうね?』
リョーコの問いに、アンジェリカは呆れたような表情を浮かべて肩をすくませた。
「女将さんの心配通りだよ。ついさっきまで、ぶっ通しでシミュレーション戦闘をしていた。今は……あぁ、ちゃんと部屋に戻っているみたいだ」
キーボードを操作してアンジェリカがホバーカーゴ内の情報を検索すると、ナデアが寝泊りしている部屋に生体反応が表示される。
元々、本隊の居住車両に部屋を持つナデアだが、少しでも長い時間シミュレーションを行うために、今はホバーカーゴ内で空いていた部屋を使っており、自分の部屋には戻っていない。
そのため、本隊の居住車両に住むリョーコにはナデアの現状は把握できていなかったのだ。
『そうね……』
アンジェリカからの報告を聞いて、リョーコは安堵とも不安とも取れない複雑な表情を浮かべて小さく息を吐きだした。
「……しかし、キャラバンのメンバー全員がジェドーの生存を信じているというのに、何故ナデアは仇を討つことに固執しているんだ?あれじゃまるで、ジェドーは死んでいると決めつけているようにしか思えないんだが」
『あの子も、心の底じゃジェドーが生きとおって信じとうよ。でも、それと同じぐらいに”もしかしたら”という考えが過ってしまって、怖いとよ。だから”もしかしたら”と考えないようにするために、敵討ちなんて口にしとうとよ』
リョーコの話を聞いて、アンジェリカは浅慮から発した自らの言葉に怒りを覚え、画面から目をそらした。
あの兄妹の仲の良さを見ていれば、ナデアがジェドーの生存を信じていることに疑念を挟む余地などないはずなのに、アンジェリカはナデアの表面的な部分だけ見て疑ってしまっていたのだ。
――やはり、僕はまだまだ経験不足だな……
そんなことを思いつつ、アンジェリカは画面の向こうにいるリョーコへと視線を戻した。
「……女将さん、ジェドーに関する新しい情報は何か入っていないのかい?」
『残念ながら、今日も有力な情報は無しやね。一応、もう少し下流域の町や村に範囲を広げるつもりでおるよ……すまんね、通信が入ったから切るばい』
「分かったよ……」
リョーコからの通信が切れ、画面が暗転するとアンジェリカは再び椅子の背もたれにもたれ掛かる。
「はぁ……このままジェドーが無事に帰ってきてくれたら、丸く収まるんだけどな」
そんなことを呟きながら、アンジェリカは一欠伸すると涙の浮かぶ目元をぬぐい、残っていた仕事を片付け始めた。
そんなリョーコとアンジェリカの会話から数日後。
「……お、次の街が見えてきた」
フューラーのコックピットモニターに映し出された映像を見ながら、エスは声を上げる。
この時代の西方大陸には人と物資が集まり、大陸に点在する都市間を繋ぐ中継都市がいくつか存在し、キャラバン隊デザルト・チェルカトーレはその一つに到着していた。
公営のパーキングの一画にキャラバン隊の機体や車両が収まり、メンバーたちが外へと出てくる。
商品の仕入れや旅の必要な食料品、ゾイドや車両の補修用パーツを補給するために担当を手早く決め、それぞれが街中へと散っていく。
そんな中、挨拶回りのため残っていたリョーコが準備をしていた時だった。
「あれ……?小母様?」
「ん?」
声を掛けられたリョーコが振り向くと、そこには真っ白な修道服に身を包んだ白百合の園の代表であるマザーミレイと、同都市の警備隊長であるヴェアトリスと共に立っていた。
こんにちは、皆さん…エリーです。
マザーミレイたち白百合の園の人たちとの…思いがけない再会を果たしたワタシたちでしたが、穏やかな時間は長くは…続きませんでした。
ワタシたちの前に、再び…紅いライガーゼロが現れたのですっ!
次回、ZOIDS-記憶をなくした男- 第二十一話「紅き戦姫」!
っナデア!?ダメ、一人で行っちゃっ……?!