ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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大変長らくお待たせしました!


紅き戦姫

「何ね、ミレイちゃんね!こげん所で、会うとか奇遇やねぇ。どうしたとね?」

「先の騒動の後、こちらの中継都市が色々と援助してくださいまして、都市長様へご挨拶に……小母様は、お仕事ですか?」

「仕事…というより、買い出しやね」

 

 思いがけない場所での再会にリョーコとミレイの顔が綻ぶも、すぐにミレイが辺りを伺うように視線を左右に振った。

 

「ごめんね、エス(・・)は今品物の手配に出とうとよ」

「えっ?!ち、違います!わ、わたくしはエリーの姿を……」

 リョーコの言葉にミレイは顔を赤くし声を上げて驚くが、すぐさま否定する。

 

 そんなミレイに対し、リョーコは実に残念そうな表情を浮かべた。

 

「何ね、エリーには会いたくてもエスには会いたくなかとね……」

「そ、そんなことありません!むしろ、エス様とは色々とお話ししたいことが……」

 

 挙動不審者のようにアタフタと慌てふためくミレイは言わなくてもいいことを口にしようとするが、リョーコの悪い笑みを浮かべているのを見て、ハッと気が付いた。

 

「あっ…小母様!わたくしのこと、からかってますね!?」

 ミレイは自分がからかわれたと分かると、別の意味で顔を真っ赤にして詰め寄る。

 

「あはは!ミレイちゃんも、まだまだやねぇ。カミーユなら、涼しい顔をして切り返しとったよ?」

「もう!」

 そんな二人のやり取りを、ミレイの後ろに控えていたヴェアトリスは頬を緩めて眺めていた。

 

 普段、一都市の代表として凛とした姿で人々の前に立つミレイが、一時でも白百合の園の人々が知らない年相応の少女の反応する姿を見せたことに、ヴェアトリスは微笑ましく思いながら見守っていた。

 

「何やら騒がしいと思ったら、これは珍しい来客だね」

 

 突然、後ろから聞き慣れた(・・・・・)声が聞こえヴェアトリスが振り向くと、そこに立っていたのは驚いた顔をしたアンジェリカだった。

 

「ドクター!久しぶりじゃないか!…変わっていないようで安心した」

「……別れてからまだ数か月、早々変わりようもないと思うがね?まぁ、貴女の言う通りに久しぶりだ」

 

 二人があいさつを交わしていると、それに気が付いたミレイが振り返り、満面の笑みをこぼした。

 

「ドクターアンジェリカ!ご無沙汰しております。お元気でしたか?」

「見ての通りさ。マザーミレイも元気そうで何より」

 

 旧友との再会に三人が笑顔を浮かべる中、リョーコがアンジェリカを見ながら首を傾げた。

 

「それより、どうしたとね?さっき買い出しに行ったばかりやろう?」

「忘れ物をしてしまってね。取りに帰ってきたところに聞き覚えのある声が聞こえたので、見に来たってところだよ」

 

 そんな説明をしていると、ヴェアトリスの見つけていた腕時計からアラーム音が鳴り響いた。

 

「…ミレイ様。そろそろ、次のご予定が」

 腕時計の時間を確認したヴェアトリスは、スッとミレイに近づくと申し訳なさそうに次の予定時間が近づいていることを伝える。

「そうなのですね……申し訳ありません、小母さま。勝手に押しかけて何なのですが、次の予定がありますので、私とヴェアトリスはここで失礼させていただきます」

 申し訳なさそうにミレイが頭を下げると、リョーコはニカっと豪快が笑みを浮かべた。

 

「気にせんでよかよ!こっちも日が上がる前には出発せんといけんけ、色々立て込んどるんよ。またゆっくりね」

「っ…そうなのですね……」

 時間があれば今はいないメンバーとも会いたかったミレイだが、リョーコたちが早々に発つことを知り悲しげな表情を浮かべると、リョーコは溜息を洩らした。

 

「なんち顔しとうとね?どうせ近いうちに白百合の園にはまた顔を出すんやけ、その時ゆっくり話したらよかろう?」

「……そうですね。小母さまの言う通りです、またお越しになるのを、楽しみにお待ちしております。では……」

 

 リョーコの言葉を聞いて、ミレイは子供の様に泣き喚くことなく納得して頷くと、ヴェアトリスを伴って待させてあった車へと乗り込み去って行った。

 

「……はぁぁ……まさか、こんなところに彼女たちが居るなんて思いもしなかった……」

 

 ミレイたちの乗った車が見えなくなったのを確認して、アンジェリカは膝が抜けたようにその場にへたりこむと髪をかき上げ魂が抜けるほど息を吐き出した。

 

 そんなアンジェリカの姿を見て、リョーコは怪訝な顔をした。

 

「どげんしたとね?」

「どうしたって…女将さん、忘れたのか?ヴェアトリスはジェドーの恋人なんだぞ?」

 呆れたようにリョーコを見上げながらアンジェリカが指摘するも、リョーコは判然としない表情を浮かべる。

 

「ヴェアトリス……あぁ!ミレイちゃんの護衛してた子!そういえばそうやってねぇ、忘れとったよ!」

 

 性格から恋愛話には食いつきそうに見られるリョーコだが、メンバーの色恋沙汰について彼女はナデアやエリー、自身の娘たちを除いてあまり干渉はしていない。

 

 もちろん、キャラバンの不利益につながるのなら話は別だが、メンバーには基本的に恋愛は自由だと言ってある。

 

 そのため、前にジェドーから恋人が出来たと報告されても「そうね!フラれんよう頑張り!」と言っただけで、相手の名前以外は殆ど聞いておらず、ミレイと一緒にいた女性がジェドーの恋人だとは繋がらなかったのだ。

 

 そんなリョーコの反応を見て、アンジェリカは再び深い溜息を漏らした。

 

「信じられない…僕はヴェアトリスにジェドーの事を知られまいと必死に取り繕っていたというのに。まぁ、幸いにジェドーの話が振られなかったから助かったけど……」

「そうやねぇ……やけど、今度白百合の園に行った時にはそうはいかんやろうねぇ」

 

 次に白百合の園を訪れるまで数か月あるが、それまでにジェドーの無事が確認されれば何の問題はない。

 しかし、それまでに安否が判明するかは全く分からず、仮に安否がわからなくとも「使いに出している」という言い訳で誤魔化すことも出来るだろうが、これは何度も使える手ではない。

 

 そして、ヴェアトリスにとって最も残酷な事実であるジェドーの死がわかった場合、それをどう伝えるかが一番の問題であった。

 

「…もしもの場合は、僕から伝えるよ。彼女の友人としてね」

 

 もっとも過酷となるでだろう役目を自ら引き受けたアンジェリカは、そんな日が来ないことを祈りながらミレイたちが去った方を見つめた。

 

 

********

 

 

「ドクター、忘れ物を取りに戻るにしても遅くないか?」

 

 街角に設置された時計を見つめながら、エスがぼやく。

 

 リョーコたちがミレイたちと再会していた同じころ、エスとエリーの二人は忘れ物を取りに帰ったアンジェリカのために街中で待ちぼうけをくらっていた。

 

 すぐに戻ると言っていたアンジェリカが戻ってこないことにエスが一度戻ろうかと考えていたが、ふとエリーから反応が返ってこないことに気が付き彼女の方を見ると、何処か不安げな表情を浮かべて俯いた。

 

 エリーが何に対して思い悩んでいるのか察して、エスは俯いているエリーの頭に手を置くと優しく撫でる。

 

「……ナデアの事なら心配ない。ルナたちはオレたちより付き合いが長いんだ。ホメオも一緒だし彼らに任せて大丈夫だろう」

「…そう、ですね……」

 

 頭を撫でられ、エリーの表情が少しだけ和らいだ。

 

 買い出しのメンバー分けの際、ナデアは外へ出ようとせずシミュレーションシステムに篭ろうとしていた。

 いくらジェドーが生死不明の状況で情緒不安定だとしても、キャラバンの一員として仕事をボイコットすることは許されるはずもなく、ナデアはホメオに引きずられながらルナとルイたちと共に買い出しへと連れ出されたのだった。

 

 兄の安否が判らず日に日に精神が不安定になるナデアを見続け、親友であるエリーも心配から精神的に落ち込むことが増えていたのだった。

 

 

「……エス様は、今も…ジェドーさんが生きている…と信じてるんですよ…ね?」

 不意にエリーから投げられた問いに、エスは「あぁ」と首を縦に振る。

 

「どうして……信じられる…のですか?皆さん、あまり口にして…ないですけど、もうジェドーさんの事を……」

 続けられる問いにエスはほんの少し思案すると、真っ直ぐエリーを見つめた。

 

「…うまく説明できないが、”直感”みたいなものかな。ジェドーは死んでいない……オレの中の何か(・・)がそう訴えてるんだ」

 

 傍から聞けばあまりに漠然とした意見だが、エスの表情は直感を信して疑わない自信に満ちたものだった。

 

 キャラバンの中でも日ごとにジェドーの生存を絶望視する空気が流れ始め、エリーもその空気に当てられ心の片隅で「ジェドーさんはもう亡くなっているんじゃないか」と過るようになっていた。

 

 その中でエスだけが未だただ一人生存を信じていることに、エリーは心の中に溜まる暗い思いを振り払うように頭を振った。

 

 その姿を見て、エスは笑みを浮かべるともう一度エリーを撫で息を吐き出した。

 

「さぁ、暗い話はこれで終わりだ!さすがにドクターが遅いから迎えに行くか」

「…はい!」

 

 気持ちを切り替えるように、二人はもと来た道を戻り始めるのだった。

 

 少し離れた場所から二人の様子を伺う複数の(・・・)人影に気が付くことなく……

 

 

***************

 

 

 

「エージェント|4〈フィーア〉、参上しました」 

 

 |赤竜旗〈ロート・ドラグファーネ〉の秘密基地内にある貴賓室に呼び出されたエージェント4を待っていたのは、組織の長である御前と彼に仕える侍従たちだった。

 

「…お前たちは席をはずせ」

「畏まりました」

 入室してきたエージェント4を確認すると、御前はその場にいた者たちを外へと追いやった。

 

「急な呼び出しにも拘わらずよく来てくれた、エージェント4」

「御前がお呼びとあらば即座に参上するのがエージェントナンバーの務め……当然でございます」

「うむ…さて、今日お前呼んだのは他でもない。先日紹介した我が孫娘エリシアの件でだ」

 

 御前の口からエリシアの名前が出たことで、エージェント4の表情が一瞬だけ強張る。

 

 御前の正当な後継者としてエージェントナンバーに紹介された際、エリシアに経験を積ませるために任務を与え、エージェントナンバーに補佐をさせるという話を聞かされていた。

 

 状況を考えれば、エリシアが行う最初の任務の補佐に選ばれたということは容易に想像できるのだが、エージェント4もまさか自分に話が来るとは思ってもおらず、何の心の準備も出来ていなかった。

 

―こんなにも早く姫様が実戦に出るとは……しかもいきなりワタシに話が来る…まさか、マリエルさんの差し金じゃありませんよね?―

 

 何かと迷惑をかけてくれる元同僚の仕業ではないかと勘ぐるエージェント4だったが、それが全く見当違いだったことをすぐに理解する。

 

「あの子に任せる最初の任務は情報を精査した結果、お前に任せていた帝国の遺産確保とした。お前は今まで得た経験を最大限用いてエリシアを補佐せよ」

 

 その言葉を聞いたエージェント4の表情が一瞬強張り、彼の顔を見つめていた御前の眼がスッと鋭さを増した。

 

「…不服か?」

 エージェント4の反応を不快に感じてか凍えるような冷気を纏った御前の殺気が放たれ、真っ向から受けたエージェント4だが表情を変えることなく首を横に振った。

 

「……とんでもございません。むしろ、御前のご期待に応えることが出来ず、しかも姫様の御手を煩わせてしまう己の不甲斐なさを恥じております」

「そうか……だが、お前に関して我の評価は何一つ下がってはおらん。それどころか、お前の集めた帝国の遺産の膨大な情報がエリシアのために大いに役立っていると聞き、お前の能力の高さを改めて知ることが出来た。その力、これまで以上に組織に…そして我やエリシアのために振るってほしい」

 思いがけず御前から称賛されたことに、エージェント4は得も言われぬ歓喜に身が震えるのを感じながら、膝をついて最大の礼を取った。

 

「っ…勿体なきお言葉。このエージェント4、全身全霊をもって姫様を補佐する所存……」

「うむ……詳しい話はエリシアを守護する騎士から聞くといい。下がってよい」

「はっ……」

 

 エージェント4は立ち上がって敬礼すると、貴賓室から退出する。

 

 すると、部屋の外で騎士であるマリエルが立っていた。

 

「お久しぶりです、エージェント4。最初に言っておきますけど、今回の一件に私は一切関与してませんからね?」

 

 出会って一発目にそんなことを口にしたマリエルに対して、エージェント4は呆れた表情を浮かべた。

 

「開口一番そんなことを口にするから疑われるんですよ?まぁ、今回も最初に貴女の関与を疑いましたけど」

「あっ、酷い!いくら私が騎士と言う立場でも、意見することなんて出来ないんですからね!」

 

 普段の立ち振る舞いからは想像できない十代の少女のような反応に、エージェント4は苦笑しながら歩き出した。

 

「もちろん、そのくらいは解っていますよ。ただ、ほんの少しそう思っただけです」 

「……あっ!もう!」

 

 またからかわれたことを知って、マリエルは頬を膨らませると歩いていくエージェント4を追いかけるように駆け出し、横に並んだ。

 

「それより、詳しい話を貴女に聞くよう御前に言われたのですが、ワタシは一体何をすればいいのです?普通に指揮を執る姫様のアドバイザーですかね?」

 

 先ほどまでの空気が一変して、いつもの営業スマイルを浮かべるエージェント4の問いに、マリエルも表情を引き締めると首を横に振った。

 

「いいえ、部隊の指揮はエージェント4に執っていただきます。姫様は前線に出ますから」

 

 マリエルの言葉を聞いて、エージェント4は信じられないことを聞いたと怪訝な表情に変わった。

 

「どういう意味ですか?」

「そのままの意味ですよ。まぁ、実際見てもらった方がいいかもしれませんね」

 

 そういうとマリエルはある扉の前で立ち止まり、壁のタッチパネルに暗証番号を打ち込みロックを解除するとドアが自動で開いた。

 

 ドアを潜るとその先に待っていたのはエージェント4にとっては予想外の存在だった。

 

「これは……ライガーゼロ?!」

 

 広大な空間に大小様々な機材が並び、それらから延びるケーブルが鎮座する真紅の装甲を纏ったライガーゼロに繋がっていた。

 

「ふふっ、久しぶりにエージェント4の驚く顔が見れました。さっきの事はこれでチャラですね」

 

 先ほどのからかいに対する意趣返しが成功したと笑みを浮かべるマリエルに、エージェント4は真剣な表情で見つめた。

 

「確か、先の戦闘で大破したライガーゼロは量産計画のために研究所へ回されたときいていましたが?」

「えぇ。確かにあの(・・)ライガーゼロは貴方の言う通り、研究所行きとなりました。それにしても珍しいですね。エージェント4が発見されたライガーゼロの数を把握してないなんて」

 

 不思議がるマリエルを尻目に、エージェント4は自分の情報収集能力を以てしても組織内では調べられないことがあることを改めて思い知らされ、悔しさを感じながらそれを隠すように笑みを浮かべた。

 

「情報統制されていたようですね。ワタシが知っている限りでは発見されたライガーゼロは一体……ですが、真実は違ったわけですね?」

「はい。クリム君……エージェント(ヒョンフ)が発見したライガーゼロは完全な形で二体、パーツ状態で一体分。そのうち一体を修復後にデータ収集用として調整し実戦に投入。残る一体は先の機体で得られたデータを基に完璧な形で修復され、その後姫様専用の機体として調整がなされました。パーツの方は複製のために発見後すぐに研究所へ送られました」

 

 帝国の遺産と呼ばれるゾイドが完全な形で発見されるのは非常にまれで、エスの乗るバーサークフューラーでさえ一体しか発見されていない。

 それがパーツ状態を含めて三体も発見されるなどもはや奇跡に近かった。

 

 元から優秀だったとは言え若く経験の少ない候補生の少年がライガーゼロ一体を発見しただけ(・・)でエージェントナンバーに任命されたのか、エージェント4は少し疑問に思っていたが事実を知ってその疑問がようやく氷解した。

 

 ただ、彼には既に新たな疑問が浮上していた。

 

「しかし、姫様がゾイドに乗れるとは……腕前はどれほどなのですか?貴女もご存じのとおり、相手は伝説級と言って差し支えない化け物なのですよ?」

 

 そう、エリシアのゾイド乗りとしての力量だった。

 

 その質問を予想していたのか、マリエルは手にしていたタブレットを差し出し、受け取ったエージェント4はタブレットに視線を落とした。

 

「私はあまり好きな表現ではないのですが、敢えて言えば姫様は天才です。それは、姫様の指南役をされた前騎士団長も認めていらっしゃいます」

「っ!前騎士団長とは、あの”黒き聖騎士”と恐れられたエスター卿のことですか?!」

 

 エリシアにゾイドの操縦を教えたのが前騎士団長だった人物で、そんな人物が彼女の腕を認めたという話にエージェント4はただ驚くことしか出来なかった。

 

 前騎士団長であるエスターは、御前が赤竜旗を立ち上げる遥か以前から仕えている家臣の一人で、帝国製ゾイドが重んじられる赤竜旗において、彼は珍しく共和国製ゾイドであるブレードライガーを愛機としていた。

 そんなエスターの駆るブレードライガーは漆黒の装甲を纏い、特注のレーザーブレードを携え御前の敵を悉く切り裂いたことから”黒き聖騎士”を呼ばれ、彼が現役を退くまで赤竜旗最強のゾイド乗りと言われていたのだ。

 

 そんな組織の英雄に鍛えられ認められたという言葉を裏付けるようにタブレットに映し出されるデータの凄まじさを目の当たりにして、エリシアの実力が本物であることは疑いようがないとエージェント4も理解したが、同時に疑問も生じた。

 

「確かに、これほどの実力を持つゾイド乗りはそうはいませんねぇ……しかし、姫様は御前の正当後継者。前線に出て問題は無いのですか?」

 

 エージェント4の問いに、マリエルも少し困惑した表情を浮かべた。

 

「それは私も思っていたんですけど、姫様を前線に出すと決めたのは御前だったそうです。何でも「エリシアには戦女神の加護があるから心配ない」と仰られたとか」

「戦女神の加護、ですか……」

 

 オカルトに頼るような発言を本当に御前が仰ったのか?、とエージェント4は疑ったが、御前がお決めになったことに口出しは出来ないと頭を切り替えた。

 

「まぁ、事情がどうあれワタシは命令に従うだけですけどねぇ」

「そうですね。お互いベストを尽くしましょう」

 

 そういうと、二人は自分がやるべき準備を行うため、格納庫を後にした。

 

 そんな二人を尻目にライガーゼロのコックピット内のモニターには格納庫の映像ではなく、CGで再現された荒野が映し出されおり、正面のモニターには破壊し尽くされたバーサークフューラーが横たわっていた。

 

 その映像をヘッドギアのバイザー越しに眺めているエリシアは上がっていた息を整えるように大きく深呼吸すると、最後に短く息を吐き出した。

 

「また勝てましたが、本当に強い……」

 

 そういうと、エリシアは手を伸ばしモニター越しにフューラーに触れた。

 

 物心ついた時から御前の命でゾイド乗りとして訓練してきたエリシアにとって、シミュレーション相手の攻略など造作もない事だった。

 しかし、ここ数週間相手をしているゾイドは今までのシミュレーション相手とは別格と言っていいほどの強敵で、未だに明確な勝利のビジョンが見ることが出来ず、勝率は五分と言ったところだった。

 

 正直なところ、ゾイド乗りの師である前騎士団長エスターよりも強いとエリシアは考えており、本当に勝てるのか不安を拭えずにいた。

 

 だが、それ以上に彼女には気になることがあった。

 

「……一体、どのような方が乗っておられるのでしょうか?」

 

 データの集積でしかないシミュレーションだが、相手のバーサークフューラーに乗るパイロットの幻影がエリシアには見えており、一戦ごとにフューラーのパイロットに興味を惹かれていた。

 

「お会いする時が、楽しみです」

 

 モニターに映るフューラーに触れながら、エリシアは笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

**************

 

 

 

 日の出と共にようやく辺りが明るくなり岩場に朝日が当たる中、デザルト・チェルカトーレの一行は急かされるように足早に荒野の中を進んでいた。

 

 元々補給に寄っただけだったので長居をするつもりはなかったが、白百合の園の代表マザーミレイと護衛である部下たちが同じ都市に滞在していることを知り、ジェドーの事を悟られぬように彼女らに声をかけることなく出発していた。

 

 日が昇る前に都市を出たため、戦闘用ゾイド全機がキャラバンの隊列を護るように周囲を警戒しながら展開していたが、日が昇り明るくなったことで順番で休憩に入ろうとした時だった。

 

『ん?…おい!後方から接近する熱源があるぞ!』

 

 ゴルドスに乗るホメオから通信が入り、全員に緊張が走る。

 

『こちらでも確認した。数は四……っ?!』

 

 ホバーカーゴのアンジェリカもレーダー反応を確認したが、そこに表示された情報を見て身体中の血の気が引くのを感じた。

 

『デザルト・チェルカトーレ!ちょっと待っていただきたい!!』

 

 通信範囲に入ったのか、スピーカーから声が響く。

 

 その声を聴いて、先ほどは別種の緊張がキャラバンメンバーに走った。

 

『何で…ヴェアトリス隊長が……?!』

 

 通信相手が誰なのかすぐに分かったエリーは、アンジェリカ同様に血の気が引いていくのを感じた。

 

 キャラバン全体が立ち止まると、間を置かずにやってきた方向から四機のゾイドの姿が見えた。

 

 白い装甲を纏うシールドライガーに同じく白を纏う三機のコマンドウルフ。

 

 現れたのは、ヴェアトリス専用のシールドライガーと白百合の園所属のコマンドウルフだった。

 

 白百合の園のゾイドが見えた同時にリョーコの乗るグスタフに通信が入り、モニターにマザーミレイの姿が映し出された。

 

「なんね、ミレイちゃんも一緒やったんね?」

『はい、表向きは中継都市の近くに点在する村々の視察をするということで出てきていますから。まず先に不躾に呼び止めたことをお詫びいたします。ですが、どうしてもヴェアトリスが皆様にお聞きしたいことがあると言うので……』

 

 マザーミレイがそう言うと、画面が切り替わりヴェアトリスの姿が映った。

 

『あの……ジェドー殿の姿が見えませんが、彼は今何処におられるのですか?』

 

 ヴェアトリスに問いに、リョーコをはじめ全員が息を詰まらせる。

 

 何故なら彼女の問いが、ジェドーの身に何かあったことを知っているとしか思えないものだったからだ。

 

 リョーコはグスタフから見えるホバーカーゴに目を向ける。

 

 ヴェアトリスの問いを受け、アンジェリカはその答えに苦慮していた。

 

(ヴェアトリスはジェドーの身に起きた事を知っている?だが、一体どこで知ったんだ?……くそ、考えが纏まらない!!)

 

 もしもの場合は自分が伝えると言ったアンジェリカだったが、予想よりも早くヴェアトリスに知られた焦りから、まともに思考できずにいた。

 

『やはり、本当なのですか?彼が……亡くなったの…は……』

 

 キャラバンメンバーの沈黙を肯定と受け取ったヴェアトリスの声に、悲しみの色が混ざる。

 

「いや、まだ死んだと決まっていない」

 

 誰一人声を上げられずにいた中、エスはジェドーの死を否定した。

 

「ジェドーは確かに現在行方不明だ。だが、彼の遺体は見つかっていない……なら、あいつは生きている。オレはそう信じている」

 

 エスはそういうと、通信画面のヴェアトリスを真っ直ぐ見つめた。

 

「だから、貴女もジェドーが生きていると信じてやってくれ。愛する人そう信じてもらえないと、あいつも悲しいだろう?」

『エス殿……そう、ですね……悲観するより、あの人が生きていると信じます』

 

 エスの言葉にヴェアトリスは涙をぬぐって頷いた。

 

『……しかし、ジェドー殿はどうして行方不明に?』

「それは……」

 

 ヴェアトリスの問いかけに、エスが答えようとした時だった。

 

『!?上空に巨大な熱源反応!!』

『何だよ、これ!?むちゃくちゃデケェぞ!!』

 

 レーダーに現れた反応を見て、アンジェリカとホメオが声を上げる。

 

 その場に居合わせた全員が空を見上げた。

 

 

 すると、辺り一帯を覆っていた雲を引き裂いて、巨大なホエールキングが姿を現した。

 

 あまりの大きさにキャラバンのメンバーや白百合の園のメンバーは圧倒されていたが、ゆっくりと自分たちの方へと降りてくるホエールキングを見て異常事態であることをすぐに察すると、すぐさま身構えた。

 

 エスたちが見守る中、一定の高度まで降下したホエールキングの口にあたる部分が開き、そこから黒い影が飛び出すと、近くの小高い岩山に着地した。

 

『あ……あぁ……』

 

 初めて見るヴェアトリスたちは特に反応することはなかったが、現れたゾイドを見てエスたち…特にナデアはひどく動揺した。

 

 岩山の頂からエスたちを見下ろす姿はあの時と全く同じ光景に見え、動揺していたナデアだったがその眼に仄暗い復讐の炎が赤々と燃え盛った。

 

『紅い…ライガーゼロ!!』

 

 

 仇と呼べる存在を前に、ナデアは怒りに我を忘れてコマンドウルフを走らせるのだった。

 




 よっ、エスだ!
 オレたちの前に現れたライガーゼロには前とは別人が乗っており、エリシアと名乗った少女はオレとの対話を望んできた。
 エリシアの語る赤竜旗の目標……そして彼女は、オレにその目的のために協力してほしいと言い出した。
 あまりに馬鹿らしい話にオレが話を蹴ると、彼女の補佐であるエージェント4が仲間たちに攻撃を仕掛けた!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男- 第二十二話「王狼」!

 どれだけ崇高な目的であろうと、オレはお前たちを認めない!!

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