ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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白百合の聖女

「オレは確か・・・・」

 身体のダルさを強引にねじ伏せ、エスはベッドから起き上がろうとする。

 

「!?いけません!まだ寝ていないと・・きゃっ!!」

 そんなエスを見て、ミレイが慌てて駆け寄ろうとして足をもつれさせ、上半身を起こしたエスの胸に飛び込む形で倒れこんだ。

 

「・・・・・?!」

 自分が男に抱きついている、ということに気がつき、ミレイは顔を真っ赤にする。

「・・・大丈夫か?」

 エスに声を掛けられ、ミレイが顔を上げるとエスの顔が間近にあり、その状況に彼女の身体が緊張で硬直した。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 お互いに見つめ合い、時計の音だけが大きく聞こえている。

 

『エス!あんた、大丈夫なんね?!・・・・・・・」

 そんな最中に、豪快にドアを開け恰幅の良い女性が部屋に入ってきて、抱き合っている二人と目が合った。

 

「・・・・空気読まんで悪かねぇ~。おばちゃん、すぐ出て行くけん。ごゆっくり~」

 独特な喋り口の女性は、そのままドアを閉めて出て行こうとする。

 

「!?お、小母様!!こ、これは違うのです!!」

「女将さん!待ってくれ、誤解だ!!」 

 エスたちは慌てて離れ、出て行こうとしている女性を引き止める。

 

「・・・ウソッちゃ。そんなん、必死にならんでもよかよ!あははは!」

 振り返りながらドアを閉め、豪快に笑う女性に、エスとミレイはバツが悪そうに閉口した。

 

 入ってきた女性は、エスを助けてくれたキャラバンの副リーダーで、名前はリョーコ。しょっちゅう仕入れの旅に出てしまう夫に代わり、キャラバンを纏めるお母さん的存在で、メンバーからは「女将さん」と呼ばれていた。

 

「やけど、入ってきたんが私でよかったねぇ。”白百合の聖女”が男に抱きついとった!なんて他の誰かに知られとったら、どんな騒ぎになっとったかね・・・・ワザとやないにしても、気をつけんなダメよ~」

 軽い口調だが、リョーコの表情は真剣そのものだった。 

「も、申し訳ありません・・・・わたくしの不注意でエス様にも、ご迷惑を・・・・」

 不慮の事故とは言え、自分の軽はずみな行動にミレイは目を伏せてしまう。

 

「別に気にしなくていい。寧ろ、無理をしようとしたオレが悪かったんだ。だから、顔を上げてくれ」

「エス様・・・・・」

 エスに優しい言葉を掛けられ、ミレイが顔を上げると泣きそうなほど瞳が潤んでいた。

 

 ミレイの様子を見たリョーコが、意地の悪そうな笑みを浮かべる。

「あらっ?なんねぇ~、エス。あんた、”うちの子”やナデアだけじゃなくて、ミレイにも手を出す気ね?」

 下世話なことを言うリョーコに、ミレイは恥ずかしさで頬を赤くし、エスは「またか・・・」とため息をついた。

 

「どういう意味ですか?・・・・そんなつもりは有りませんよ」

 キャラバンに拾われて一週間。エスは女性と何かあると、リョーコにからかわれていた。もちろん、彼女に悪気が無いのは分かっているし、キャラバンに早く馴染んでもらいたいという、リョーコの心遣いというのも理解できたが、正直エスとしてはやめて欲しかった。

 

 否定するエスに、リョーコがワザとらしく驚愕の表情を浮かべる。

「まっ!こんな可愛い子たちに魅力を感じんとね?!もしかして、あんた・・・・・」

「女将さん・・・それ以上からかう気なら、オレも怒りますよ?」

 さすがに冗談にならない、とエスの目がスッと細くなる。

 

「冗談ったい。さて、エスの無事な姿も確認出来たし、私は帰ろうかね。悪いけど、一晩だけエスのこと頼むね」

 そういうと、リョーコは今度こそ部屋を出て行く。

「は、はい!小母様!」

 帰っていくリョーコを見送ろうと、ミレイが追いかけようとすると、ドアの隙間からヌッとリョ-コが顔を出した。

 

「・・・・エス。可愛いからって、ミレイちゃんに手、出したらいかんけんね?」

「女将さん・・・・・」

 これは、本気で話し合わないといけないか、とエスが立ち上がる素振りを見せると、リョーコは「あっはっはっは!」と豪快に笑いながら帰っていった。

 

 嵐が過ぎ去り、残されたエスとミレイの目線がぶつかる。

 

「・・・!?あ、あの!すぐに、着替えを持ってこさせますね!では、わたくしはこれで!!」

 再び二人っきりになったことに気が付き、ミレイはその空気に耐え切れず、部屋の外へ走り出てしまった。

 

「あ、ちょっと!・・・・・ふぅ」

 呼び止める間もなくミレイが出て行ってしまい、一人残されたエスはドッと疲れが押し寄せ、ベッドに倒れこむ。

 

「・・・・それにしても、どうしてオレは、ライガーをあんな風に扱えたんだ?」

 昼間のことを思い出し、そう疑問を頭に思い浮かべても、今度は頭痛に襲われることは無く、むしろ胸が高鳴るのを感じた。

 まるで、自分の身体が覚えているかのように、コックピットに収まり操縦桿を握り、ライガーと共に戦場を駆けたあの瞬間、自分の居場所はここなのだと、強く思った。  

 だが、それでもエスの記憶が戻る事は無く、今の彼にはあの時の感覚や気持ちが、別の誰かの物のように思えてしまう。

 

「そういえば、何か夢をみていた気がしたが・・・・・」 

 とても懐かしい夢を見ていた気がする、と思ったエスだったが、先ほどの一件もあって夢の内容を思い出すことが出来ず、「ま、いいか」と今深く考えても仕方が無い、と考えるのをやめるのだった。

 

 

 

「はぁ・・・・」

 慌てて部屋の外へ出たミレイは、熱くなった頬を両手で押さえ、その手をそのまま胸の上に置いた。心臓の鼓動が、今まで経験したことが無いほど早く脈打っている。

 男子禁制の白百合の園に”生まれ”育ったミレイだが、男性と触れ合うことが無かったわけではない――と言っても、幼い頃の話だが。

 

 そんな彼女は、先ほど体験した出来事の衝撃で、大切なことを忘れていた。

 

「・・・いけない。わたくし、エス様にお礼を言うのを、忘れてしまいました」

 気持ちが一杯になっていたせいで、肝心の用件を忘れていたミレイ。

 だが、背中の扉を開けて、もう一度エスと顔を合わせる勇気は、今の彼女には無かった。

 

「一晩寝て、気持ちを落ち着かせれば・・・大丈夫、よね?」

 ミレイは、胸に手を当てたまま自分に問い、「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせ部屋へと戻っていった。

 

 

*********************

 

 同じ頃、白百合の園のとある区画。

 

「・・・・・・」

 警備隊長のヴェアトリスが、修復の為にバラされた一体のブレードライガーを瞬きもせずに見上げていた。

 

「やぁ、警備隊長”様”。こんな所に何か用かな?」

 すると、横から声を掛けられ彼女が振り向くと、作業着に白衣を羽織り、栗色の長い髪を一つにまとめ丸縁メガネを掛けた女性が歩いてきた。腕を組んでいるせいか、魅力的な胸が組んだ腕に乗っかっている。

 

「・・・ドクター。その呼び方、やめてくれないか?」

 女性をドクターと呼んだヴェアトリスは、目に見えて不機嫌な顔をする。警備隊隊長を拝命して、それなりに誇りを持つあるヴェアトリスだが、”様”付けされると、どこか馬鹿にされているように聞こえた。

 

 顔を顰めるヴェアトリスに、ドクターは肩をすくめる。

「一応、親愛の念は込めているつもりだけどね。君がそう言うなら、やめておこう、それで、僕のラボに何の用だい?ヴェアトリス」

 全く立場の違う二人だが、同世代と言うこともあり、何かと会話を交わしている仲だった。

 

「聞かなくても、解るだろ?ドクター」

 そういうとヴェアトリスは、数多くの作業員の手によって修復作業の始まっているブレードライガーに視線を戻す。彼女たちの目の前にあるブレードライガーは、昼間エスが勝手に搭乗し、驚異的な戦闘を行った機体だ。ある意味で、セレナーデたちが搭乗していた機体以上に損傷が激しかったため、ドクターのラボに運び込まれていた。

 

 もちろん、運び込まれた理由はそれだけではなかった。

 

「このブレードライガーのことか。それなら、見ての通り機体をバラしたばかりで、修理には時間が掛かるぞ・・・・と、そんなことを聞きに来たわけではないか。まだシステム周りのチェックと戦闘データの簡単な確認しかやっていない・・・・先に君に聞いておきたいんだが、このライガーに乗っていたというパイロットは、本当に人間だったのか?」

 メガネを指で上げながら、ドクターの目が怪しく光るのをヴェアトリスは見逃さなかった。

 

「・・・・・」

 彼女の質問に、ヴェアトリスは半日前に起きた戦闘を思い出す。彼女が知る限り、目の前のブレードライガーで戦った先輩たちの中で、エスと同じ戦闘機動が出来た者は一人も存在しない。

 

 あの時ヴェアトリスは、すぐに乗っていたのが部下のエレナでは無く、別の人物だと分かった。そして、相手を一方的に蹂躙したパイロットがどのような人物なのか興味を持ち、彼の出迎えを買って出たのだった。だが、直接会ったエスからは、凄腕のゾイド乗り特有の凄み・・・”オーラ”を感じることは無く、いたって”普通”という印象しか伝わってこなかったことに、彼女は大いに混乱し、ドクターにどう言えばいいか考えが纏まらなかった。

 

 押し黙るヴェアトリスに、ドクターは頭を掻き、話しを続けだした。

「僕もゾイドの研究者として、様々なゾイドやそのパイロットのスペックやデータを見てきたけど、彼はどの数値においても常人をはるかに超えてしまっている。特に反応速度は、もはや”未来予知”と表現しないと説明できないくらいだ・・・・まぁ、ここからはあくまで私見だが、彼に最も近いスペックを叩き出せたのは、古の”英雄”たちぐらいだと、僕は考えている」

 近くの作業台に置いてあった戦闘データを写したタブレット端末をヴェアトリスに渡し、ドクターが作業台に寄りかかる。

「ドクターがそこまで言うほどなのか?」

 画面に目を通しながら、彼女がきっぱりと言い切ったことに、ヴェアトリスは目を見張る。ドクターと出会って数年。

そんなことは一度たりとも無かったからだ。

 ヴェアトリスの疑問に、ドクターは彼女から端末を取り上げると、画面を操作しある情報を呼び出して、再び手渡す。

 

 受け取った端末には、オーガノイドシステムに関する情報が表示されていた。

 

「そう思ったもう一つの根拠は、それだ。ブレードライガーには、オーガノイドシステムと呼ばれる特殊なシステムが組み込まれているのは、前に説明しただろ?あのシステムは、ゾイドコアに働きかけ、強制的にコアから膨大なエネルギーを引き出すためものだが、それと同時に、封じ込められているゾイド本来の凶暴性まで引き出してしまう諸刃の剣といえる代物だ。そのため、リミッターなしで扱えるのはエースパイロットと呼ばれる者の中でも一握りの者だけ。それ以外のパイロットが扱うにはオーガノイドシステムにリミッターを施さなければいけない。白百合の園が所有している三体のブレードライガーにも、そのリミッターが施してあったんだが、どういうわけか彼が乗ったこの機体のリミッターは全て解除されていたんだよ」

 そのことが腑に落ちないと言った表情を浮かべるドクターに、ヴェアトリスが首を傾げる。

 

「攻撃の影響で偶然外れたとか?」

 ヴェアトリスの言葉に、ドクターは首を横に振った。

 

「ありえないね。出撃前にも僕自身が確認した・・・・リミッターは間違いなく掛かっていたよ。それに安全策が何重にも取られている代物だ。攻撃が当たった程度で偶然外れたりはしない・・・考えられる可能性は一つ。彼自身が、リミッターを解除したということさ」

 自分の考えを述べながらも、ドクターは眉を顰める。

 

「古の英雄に匹敵する操縦技能とOSに対する適正、そして研究者ばりの知識・・・・・・彼は一体、何処でそれほどの”実力”を得たんだろうか」

 

 今となっては、失われた技術の一つであるオーガノイドシステム。ドクターがこのシステムを熟知しているのは、”学徒の都”と呼ばれるユニバースシティの出身で、しかも代々ゾイドの研究をしている学者の家系だからだ。だからこそ、ドクターはエスが何処で専門的な知識を身に付けたのか疑問に思い、同時に興味が湧いていた。

 

「ドクターもそう思ったか・・・」

 自分と同じ疑問に行き着いたドクターに、ヴェアトリスは自然と笑みを浮かべる。

 

 

「・・・・・よし!ここで悩んでも仕方が無い!直接本人に聞きに行こうじゃないか!」

 善は急げとばかりに、突然ドクターが自身のラボの出口へと歩いていく。

 

「ま、待て、ドクター!彼は、ここへ来る途中に突然気を失い、今マザーが看病している!時間も時間だ。聞きに行くなら明日にしろ!」

 思い立ったら即行動に移すドクターに、慌ててヴェアトリスが進路を塞ぎ、引き止める。

 

「何だそうなのか?・・・・・仕方ない、では朝一で聞きに行こう」

 一瞬思案し、ドクターは踵を返すと、ライガーの修復作業を行っている作業員の女性たちに、指示を飛ばし出した。

 

「・・・好きにしてくれ」

 相変わらずマイペースなドクターの言動に、ヴェアトリスはため息をつき、手にしていたタブレットの画面をエスの戦闘データに切り替えると、そのデータに視線を落とす。

 

 自分なら彼とどう戦うか。彼女は頭の中で、戦場を構築し目に焼きついている彼の戦闘を思い出しながら、愛機と共に戦いを挑むのだった。

 

 

**************

 

 

 白百合の園から遠く離れた古代遺跡となった軍事施設跡。

 

 学者や盗掘者たちも見向きもしない、価値の無くなったそこには現在、白百合の園を襲った盗賊たちが根城として利用していた。

 

 その中の司令部が入っていた建物から、怒声が響き渡った。

 

「何がひよっ子相手の楽な仕事だ!嘘をつきやがって・・・貴様のせいで、俺たちの仲間がやられたじゃないか!!」

 

 昼間、白百合の園を襲ったレッドホーンのパイロット二人が、不遜な顔をして草臥れたソファーに座る男に怒りをぶつけていた。

 

 だが、男は自分よりも一回り以上若いパイロットの怒声に顔色一つ変えずに、鼻を鳴らした。

 

「ふん・・・俺が貸してやった駒まで駄目にしておいてよく言う・・・・貴様らの実力が、所詮その程度だったと言うことだろう?何が名うての傭兵部隊だ。喚くんじゃねぇよ」

 ドスの利いた腹に響く声で、男が傭兵たちを威嚇する。

 

 しかし、逆に相手の怒りを助長し、傭兵たちの顔が怒りで真っ赤になった。

「ふざけるな!!あんな化け物が、ひよっ子な訳ないだろうが!リザード!!・・・落とし前は付けさせてもらうぞ!!」

 そう言うと、パイロット二人が銃を抜き、盗賊の頭目であるリザードへ銃口を向けた。

 

「馬鹿が」

 リザードがそう呟くと、傭兵たちが真横から銃撃を受け、あっという間に蜂の巣となって床に倒れこむ。

 

 機関銃を持った男の部下たちが、物陰から出てきて、血だまりの中に転がる傭兵たちの死体に唾を吐きかけた。

 

「殺すつもりなら、話しなんてせずにすぐに撃てよ、このボケが」

 物言わぬ死体に暴言を吐き、リザードが部下に片付けるよう指示しようとしたときだった。

 

「おやおや、これは・・・タイミングの悪い時に来てしまいましたかね?」

 

 入り口から、高級なスーツに身を包んだ優男が、わざとらしい言い回しをしながら入ってきた。

 

 部下たちが一斉に機関銃を向けるが、リザードが部下たちを手で制し、銃を下ろさせる。

 

「あんたか・・・・おい、それをさっさと片付けろ」

 

 リザードの指示を受け、部下たちが傭兵の亡骸を運び出す。それを横目で見ながら、スーツの男は笑みを絶やさず見送った。

 

「大事の前に貴重な戦力を・・・・よかったんですか?」

 

 男の言葉に、リザードは気だるそうにソファーへ身体を預ける。

「構わん。所詮、白百合の園の戦力を疲弊させる為に雇った使い捨ての駒・・・・替わりはいくらでも利く。それに、俺の直属の部下とあんたが用意してくれたゾイドは温存してある。心配するな」

 

 リザードが長年かけて築いてきた裏社会のパイプを使って、白百合の園を襲撃する仲間を集めていたある日、目の前にいるスーツの男が、「このゾイドたちを好きに使って良いので、その話に噛ませて下さいませんか?」と複数の強力なゾイドを持って現れた。

 

 その気前のよさとは裏腹に、名を名乗らず終始笑みを顔に貼り付けた男に、当初リザードは警戒したが、彼から”ある話”を聞き、考えを変えた。

 

―白百合の園には、古の”遺産”が眠っているー

 

 男は、その遺産が自分が探しているものかどうかが調べたいと言い、協力の謝礼にゾイドを。もし、探している”遺産”だった場合は、さらに金を上乗せすると申し出たのだった。

 

 リザードは、男の協力を快諾し、それ以来スーツの男はリザードのスポンサーの様な立場になっている。

 

「そうですか・・・・まぁ、こちらとしましては、こちらの要望を叶えてくださるのなら、どのような手段でも一向に構いませんがね」

 だが、男はリザードに注文を付けるようなことは無く、敷いて言うなら、リザードに協力する”全てのゾイドの戦闘データ”を逐一提出して欲しいというくらいだった。

 

「それで?あんたが来たって事は・・・」

 大事な計画を明日に控え、ここに来て男が”約束”を違える事はないと思っていたリザードだが、この時間まで現れなかったことに、やきもきしていた。

「えぇ。遅くなりましたが、お約束していた最後のゾイド。お持ちしましたよ」

 スーツの男は、懐から少し分厚い封筒を取り出し、ソファーに座るリザードに直接手渡した。

 

 リザードが封筒を開け、中から紙を取り出すと、そこには男が持ってきたゾイドのスペックデータと、起動用暗証コマンドが書かれていた。

 待ち望んでいたゾイドに、リザードが前のめりになって書類を食い入るように見つめる。

「!ふふふ・・・・これで、手駒が揃った」 

 

 すると、リザードに部下が近づき、そっと耳打ちする。

 

 書類に視線を落としたまま、話を聞いていたリザードの表情が変わる。

 

「・・・分かった。あの傭兵ども、きっちりと仕事はこなしてきたようだ・・・最大の障害になりえたブレードライガー三機の修理は最低でも一週間は掛かるそうだ。つまり、明日の”襲撃時”には出てこない」

 自分たちに有利となる情報が舞い込みリザードは凶悪な笑みを浮かべ、スーツの男は目を見張った。

 

 リザードの立てる計画において、自分たちが襲撃を掛ける時点で、相手の戦力がいかに消耗しているかが重要な要素となっている。

 

 今回、厄介と思われたブレードライガーが三機全て出撃不能と言うのは、リザードにとっては成功したも同然といえるのだ。

 例え”手練”が多くとも、それに見合ったゾイドが無ければ、戦力は減少する。それが、リザードの経験則だった。

 

「ほう、それは重畳・・・しかし、その情報は何処から?」

 スーツの男は、リザードがどうやって園の情報を手に入れているのか、疑問に思っていた。”女性の楽園”と呼ばれる白百合の園だが、中での決まりが厳しいことで有名で、例え女性でも園の重要な情報を持ち出すのは至難の業だった。 

 

「・・・・・・」

 そんな男の疑問に、リザードは沈黙を持って応える。

 

 不穏な空気を感じ取り、スーツの男は肩をすくめた。

「好奇心、猫をも殺す・・・・これ以上の詮索はお互いのためにならなさそうなので、やめておきましょう。では、吉報をお待ちしています。ご武運を」

 恭しくお辞儀をして、スーツの男が部屋から出て行く。

 

 男が出て行ったことを確認し、部下の一人がリザードへ向き直る。

「本当にいいんですか?お頭・・・あんなヤロウを信じて」

 

 部下の懸念に、リザードは鼻を鳴らし立ち上がった。

「ふん。一応、ゾイドを提供してくれるスポンサー様だ。良い顔をしておかないとな・・・奴にも思惑があるんだろうが、精々利用出来るだけ利用して、上前をはねるだけだ・・・園にいるオンナたちも、”遺産”とやらも全部、俺たちが頂く!」

 

 と言うリザードたちの会話を、仕掛けておいた盗聴器で聞きながら、スーツの男は「さすがは、悪名高い盗賊・・・期待を裏切りませんねぇ」と、彼らの思惑を知っても笑顔を崩さなかった。

 

 彼も、リザードと同じことを考え、用が済めば”消す”つもりでいたのだった。

 

 フッと男が、遺跡が基地として機能していた時のゾイドの駐機場に目を向けると、そこには百機近い大小様々なゾイドが並んでいた。

 

 それは、リザードの呼びかけに応じた盗賊や傭兵たちの駆るゾイドである。

 

 スーツの男は、そんな光景を見ながら、呆れるようにため息をついた。

「しかしまぁ・・・よくもここまで集まったものですよ。おや?あそこにいるのは、今売り出し中の盗賊団に・・・あちらは”中央”でも名の知れた傭兵部隊。他にも有名なゾイド乗りもいますね・・・・これは随分、豪勢な顔ぶれだことで。彼の”人徳”のなせる業か、はたまた園に咲く花々の魅力か・・・・・どちらにしても、ワタシにはどうでもいいことですが。重要なのは、白百合の園に眠ると言われる”遺産”が我々の・・いえ、”御前”のお探しとなっているものかどうか・・・明日が楽しみですね」

 

 男は、作り笑いを顔に貼り付けたまま、暗闇の中へと消えていった。

 




 オッス、ジェドーだ。

 性懲りも無く襲ってきた盗賊たちだったが、その数は俺たちの予想をはるかに超える大部隊だった。しかも、園の中には裏切り者がいて、状況は相当ヤバいときてる。彼女も戦うんだ・・・ここは俺が一肌脱がないとな。

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第四話「白百合の園の長い一日(前編)」!

 いくぞ、コマンドウルフ!
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