ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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白百合の園の長い一日(前編)

「漸くこの時がきた……」

 リザードは、昨晩スーツの男が持ってきたゾイドのコックピットのシートに座り、これまで費やしてきた年月を思い浮かべ、徐に外部スピーカーのスイッチを入れた。

 

『お前ら!今日、鉄壁と言われた白百合の園は終わりを告げる!あの都市を攻め落とすという、誰も成し得なかったことを、俺たちの手で実現させる!』

 リザードの言葉に、集まった盗賊や傭兵たちが声を上げる。

 

『あの都市に眠っている財宝、ゾイド…そして、オンナ!全て、奪い尽くせ!!』

 

 集まった者たちの中には、男だけでなく女の姿も有り、歓声を上げている。

 

『行くぞヤロウども!…出陣だ!!』

 

 リザードの号令と共に、百体近いゾイドの大部隊が一斉に白百合の園を目指して、動き出した。

 

 

*****************

 

 

 一晩が経ち、身体のダルさがすっかり取れていたエスが、身支度を整えていると突然”襲撃”を受けた。

 

「やぁ、おはよう!君がエスか?君に聞きたいことがあるのだが、僕の質問に答えてくれないか?!」

 部屋のドアが豪快に開き、つなぎに白衣姿のドクターがドカドカと部屋に入ってきたかと思うと、エスに詰め寄ってきたのだ。

 すぐに、慌てて追いかけてきたヴェアトリスとドクターの間で、ひと悶着あったものの、エスが二人に落ち着くよう促し、現在三人は部屋のテーブルを囲んでいる。エスを泊めていた家主であるミレイは、マザーとしての”お勤め”があるため、すでに外出した後だった。

 

「すまない……彼女がどうしても貴殿に聞きたいことがあるそうで、連絡もなしに本当に申し訳ない」

 深々と頭を下げるヴェアトリスに、ドクターが腕を組んで不満そうに、口を尖がらせた。

「君だって、気になっているといっていたじゃないかヴェアトリス。僕一人を悪者にするのは卑怯だと思うが?」

 もう一勝負始まりそうな雰囲気に、エスは「話が進まない」と呆れたようにため息をつく。

 

「それで、二人が聞きたいことって何だよ?」

 エスの言葉に、目的を思い出したドクターが「そうだった」と居住まいを正した。

 

「その前に自己紹介をしておこう。僕の名はアンジェリカ、見ての通り科学者だ。専門はゾイド工学だが、ゾイドに関することなら手広くやっている。皆からはドクターと呼ばれているが、好きに呼んでくれて構わない。でだ、君に聞きたい事というのが……」

 

 ドクターは、自分がエスの搭乗したブレードライガーの修復を行っている事を告げ、その過程でシステム周りのチェックやエスの戦闘データの解析を行った所、パイロットの手によってOSのリミッターが解除されており、エスがこの時代の一般的なゾイド乗りでは知りえるはずのない、OSの存在を知っていたことに、疑問に思い訊ねにきたと説明した。

 

「と言うわけだ。君が一体何処で、オーガノイドシステムに関する知識を得たのか、教えてくれないか?」

 ドクターに問われたエスは、困惑して頭を掻く。

 

「何処で、と言われてもな…」

 記憶喪失であるエスにとって、彼自身が聞きたい事だった。

 全くと言っていいほど記憶の戻る気配の無い状況に、エスはどう説明したものかと思案する。

 

 だがドクターには、そんなエスが言い渋っているように見え、身を乗り出す。

「OSの情報を、秘密にしたいのは重々承知だ!君から聞いた事は、ここだけで留めておくことを約束する!」

 必死になるドクターを見て、エスは観念して口を開いた。

 

「記憶喪失なんだよ、オレ。オレが覚えているのは、一週間前からの記憶と、ゾイドに関する知識だけ。それ以外の事は、自分が何処の誰かさえ、何も覚えていない。だから、OSの事は知っていても何処でシステムの知識を得たのかは、わからないんだ」

 エスの言葉に、ヴェアトリスが唖然としていたが、気を持ち直しどうにか口を開いた。

「待ってくれ…では、昨日の戦闘は?」

 彼女の問いに、エスが頭を掻く。

 

「ゾイドを動かす方法は解るんだが、どうしてあそこまでブレードライガーを動かせるのかも、何処で習ったかも分からない。はっきり言って、オレが教えて欲しいくらいだよ」

 

 エスの説明を聞き、ヴェアトリスは絶句してしまう。記憶喪失と言う話が本当なら、エスは身体に染み付いた”感覚”で操縦していたことになる。そんな与太話を、信じろと言う方が無理な話だ、とヴェアトリスは、話せない理由があるにしても、何故エスがそんな嘘をついてまで話そうとしないのか、不信感を持つ。

 

 だが、そんなヴェアトリスとは対照的に、品定めするかのように一時の間エスを見つめていたドクターが、目を伏せ立ち上がった。

「そうか…そういう事なら、仕方が無い」

 きっぱりと諦め、部屋から出て行こうとするドクター。

 

「?!ドクター、彼の話を信じるのか!?」

 そんな彼女をヴェアトリスが驚いて引き止めるが、振り返ったドクターは呆れたように彼女を見た。

「君は、彼が嘘をついているように見えたのか?僕には、見えなかったよ」

 そういうと、ドクターはヴェアトリスから目を離し、エスの方を見る。

 

「すまなかった、時間をとってもらって。僕は、ラボへ戻るよ。エス…もし記憶が戻ったら、もう一度、僕の質問に答えてくれると助かる」

 それだけ言い残し、ドクターは自分のラボへと帰っていった。

 エスと二人になり、ヴェアトリスは先ほどのドクターの言葉を受け、自分の言動が彼に対して失礼だったと気づかされ、頭を下げる。 

「エス殿、先ほどは申し訳なかった。貴殿を疑うようなことを言ってしまい…」

 

 そんな、頭を下げる彼女を見て、エスは首を横に振った。

「気にしなくて良いさ。普通に考えたら、記憶喪失なんです、なんて説明されても簡単に信じられるものでもないだろう」

 気を悪くするどころか、自分にフォローを入れるエスを見て、ヴェアトリスは「自分はまだまだ未熟だな」と一人ごちる。

 すると、部屋の扉がノックされ、立ち上がろうとしたヴェアトリスを手で制し、エスが扉を開けに行く。

 

「あの……申し訳…ありません。マザーミレイが…エス様をお呼びに…」

 開けた扉の向こうに、褐色の肌と銀色の長い髪。そしてメイドの格好が印象的なナデアと同い年ほどの少女が立っていた。

「エリーじゃないか。マザーミレイがオレを?」

 エスの問いに、メイド姿の少女が、コクンと頷き中へと入ってくる。彼女の名前はエリー。ミレイからエスの世話を言いつけられ、彼専属のメイドとなっている子である。

 

 そんな彼女とヴェアトリスの視線が、エスの肩越しにぶつかった。

「あ…隊長……」

「エリーか…」

 何となく二人の間に気まずい空気が流れ、ヴェアトリスがすっくと立ち上がる。

 

「エス殿、私はここで失礼させてもらう……エリー、昨日はすまなかった。本来ならお前が…」

 すれ違いざま、エスに断りを入れ、部屋を出て行こうとしたヴェアトリスは、エリーの横で立ち止まり、エスに聞こえない小声で話しかけた。

「…いいえ。彼女たちも…優秀な…パイロットだから……ワタシは気にしてません」

 ヴェアトリスの謝罪に、エリーは首を振り、”隊長”である彼女に笑顔を向ける。

 

「すまない…では、エス殿。私はこれで」

 もう一度、エリーに謝罪しヴェアトリスが部屋を出て行った。

 

「あの…エス様」

 先ほどのヴェアトリスとのやり取りに、気まずさを感じてモジモジするエリーを見て、エスは徐に扉を開ける。

「マザーミレイが呼んでるんだよな?案内してくれるか?」

「え…?は、はい」

 てっきり、エスから問い質されるものと思っていたエリーは、一瞬キョトンとして慌てて首を縦に振った。

 

 エスは、彼女たちが何を話していたか、断片的にしか聞こえなかったが、その内容を聞き出そうとは思わなかった。

 

――小声で話してたって事は、オレに聞かれたくない内容なんだろう――

 

 そう考え、エスはエリーを問い質すことなく、彼女の案内で、ミレイの執務室へと向うのだった。

 

***********

 

 リョーコたちのキャラバンが野営している場所の近く。キャラバンが所有するゾイドの一体、ゴルドスの整備をしているマークの横で、ナデアが不貞腐れた顔をしていた。

 

「ねぇ…いつになったら、エスは帰ってくるの?」

 

 先ほどから同じことを繰り返し聞いてくるナデアに、マークは面倒くさそうに顔を顰める。

「俺が知るわけないだろ?それより、そこの工具取ってくれよ」

 横にある工具を取ってくれ、とマークに頼まれたナデアだが、兄のジェドーの姿を見つけると、兄の元へと走っていってしまった。

 そんなナデアにため息を漏らし、マークは自分で工具を取って、作業を続ける。

 

「お兄ちゃん!エスは!?」

 妹からの問いに、ジェドーは顔を引き攣らせつつも、笑顔でいるよう努める。

「まだ戻ってきてないぞ?」

 

 そんな兄からの返答に、ナデアの怒りが爆発した。

「もう!いつになったら、帰ってくるのよ!」

 

 ゴルドスのコックピットから、その光景を見ていたホメオは、呆れた顔をして眺めていた。

「荒れてるなぁ、ナデアの奴。昨日から何度目の同じ質問だ?」

 

「兄貴、調整が終わりました!」

 油まみれになったマークが、コックピットに駆け寄り、ホメオに声を掛ける。

 

 少し前から不調だった、ゴルドスのレーダーとセンサー類の新しい交換パーツが手に入り、壊れたパーツの取り換えと調整を行っていた二人。

 マークの声に、ホメオが嬉しそうに指を鳴らす。

「よし!これで、ゴルドスのレーダーとセンサー範囲も拡大されたはず……?こいつは」

 レーダーを索敵モードに切り替えた瞬間、ホメオが眉を顰める。

 

「どうしたんです?」

 ホメオの様子に、マークが首をかしげていると、突然ホメオが立ち上がり、ジェドーたちの方へ振り向いた。

「ジェドー、ナデア!今すぐ、コマンドウルフに乗れ!!」

 ホメオの言葉に、兄妹二人は怪訝な顔をする。

「はぁ?」

「どうかしたのか?ホメオ」

 

 何事かと首を傾げる二人に、ホメオが声を張り上げた。

「とんでもない数のゾイドが、こっちに向ってきてやがる!白百合の園の奴ら、この距離まで近づかれて、何で警報を鳴らさないんだ?!」

 毒づくホメオに遅れて、白百合の園から警報のサイレンが鳴り響く。

 

「白百合の園からの警報?!」

 マークが慌てて辺りを見回す中、ジェドーとナデアは、すぐさま愛機であるそれぞれのコマンドウルフのコックピットに収まり、システムを立ち上げる。

 

「何よ…この数」

 ホメオのゴルドスから送られてきたデータを見て、その数の多さにナデアは息を呑む。

 

「何の騒ぎね?!」

 騒ぎを聞きつけて、リョーコとその娘たちであるルナとルイがやってくる。

 

「女将さん!敵だ!おそらく盗賊だと思うが、とんでもない数の大部隊が向ってきてる!」

 ホメオの報告に、リョーコの表情が険しくなり、二人の娘は驚いた表情を浮かべた。

 

「とんでもないって、どんくらいね?」

「ゴルドスのセンサーに引っ掛かるだけでも、凡そ八十機!」

 明らかに一盗賊の範疇を越えるゾイドの多さに、ルナとルイが絶句する中、リョーコは口に手を当て、思案していた。

 

「園の警備隊だけじゃ、太刀打ち出来ん数やね…ルナ!あんたは、白百合の園に連絡して、麓に居る戦闘に参加できん人間の受け入れを打診し!ルイ、あんたは私と一緒に、他のキャラバンに戦闘に協力するよう頼みにいくよ!」

 母からの命令に、絶句していた娘二人の顔が一気に引き締まる。

 

「はい、母様」

「分かったよ、お母さん!」

 娘たちの返事を聞き、リョーコはジェドーたちへと視線を移す。

「ジェドーたちは、戦闘準備が終わったら、警備隊を加勢しに行きいね!」

「了解です、女将さん!」

 ジェドーたちの返事を受け取り、リョーコが拍手を数回打つ。

 

「さぁ、皆!気合ば入れて取り掛かるよ!」

 

***********

 

 敵襲の警報が鳴り響く中、ミレイは頭に銃口を突きつけられていた。

 

「これは、どういうつもりですか?」

 顔色一つ変えずに、毅然とした態度のミレイは、自分に銃を突きつける補佐官のサナムを真っ直ぐ見つめる。

 

「どうもこうも、見たとおりさね、マザーミレイ」

 普段の彼女からは想像もつかない、野蛮な口調に人質となっているメイドの少女たちが絶句する。

 

「どうして裏切りなど。この十余年、貴女はこの都市に尽くしてくださっていたのに」

 ミレイの母、先代のマザーの頃から、白百合の園のために奔走していたサナムを知るミレイにとって、彼女の裏切り行為は、まさに青天の霹靂だった。

 

 そんなミレイに、サナムは「ふん」、と鼻で笑ってみせる。

「リザード様のために、白百合の園を自由に動ける地位…マザーの次に偉い、”補佐官”と言う今の地位を手に入れる必要があったからさ。そうでなければ、こんな女の墓場みたいな場所。来たくも無かったよ!それにね、勘違いしているようだから言っておくが、あたしは一度もここの人間を、仲間だと思った事はないよ!!」

 

 彼女が来て十数年。サナムの本性を見抜けなかった母と自分に、ミレイは恥ずかしさを覚え、眼を伏せる。

 

 だが、感傷に浸る暇はミレイには無く、彼女はすぐさま頭を切り替え、サナムの目的を聞き出す為、再び顔を上げた。

 

「そうまでして、一体何が目的です?」

 十年以上かけてまで果たそうとする目的を問われ、サナムが笑みを浮かべる。

「白百合の園のレーダーの破壊及び、正面ゲートの操作もしくは破壊。そして補佐官であるあたしにさえ、場所と中身が秘密になっている、”遺産”の確保だよ」

 

 彼女の目的を聞き、ミレイは眉を顰める。

 最初の二つは理解できるが、最後出てきた”遺産”と言う言葉に、ミレイが思いつくのは一つしかなかった。

「”帝国の遺産”を?あれは、あなた方が考えているような、金銀財宝ではありません…」

 

 ミレイの言い方が、自分を財宝目当てのコソ泥と言っているように感じたサナムが憤慨する。

「黙りな!リザード様は金目当ての低俗な輩とは違うんだよ!何であれ、あたしはリザード様のためにその”帝国の遺産”とやらを手に入れるだけさ!さぁ、隠し場所に案内してもらおうか?嫌だって言うなら、この子達が死ぬことになるよ?」

 

 サナムは、ミレイに突きつけていた銃口を、メイドたちの方へと向ける。

 

「マザー……」

「う……うぅ…」

 恐怖に震える少女たちの眼を見て、ミレイは悲痛な顔をする。自分一人なら、彼女と刺し違える覚悟はあるが、罪の無いメイドたちを巻き込む事は、ミレイには出来なかった。

「っ…分かりました。ただし、他の方たちには手を出さない、と約束してください!」

 

 ミレイの言葉に、サナムがニタァと笑みを浮かべる。

「……交渉成立。さぁ、案内しな」

 再び銃を向けられ、案内するよう促されるミレイは、立ち上がりドアへと歩いていく。

 その途中で、メイドたちに「大丈夫だから」と声を掛け、部屋の外へ出た。

 

 サナムに銃を背中に押し当てられ、ミレイが廊下を歩いていく姿を、エスとエリーは物陰からじっと見つめていた。

 ミレイに呼ばれ、彼女の執務室の前まで来たのは良いが、エスが中の様子がおかしいことに気が付き、様子を見るため物陰に潜んでいたのだ。

 

「マザー…」

 連れて行かれるミレイの背中を見つめながら、エリーが悔しげに唇を噛む。

 そんなエリーを見つめ、エスがサナムの背中を睨み付ける。

「あの女…とりあえず、オレは二人を追いかける。エリーは、その間に中の子達を」

 エスの指示を受け、エリーは一瞬迷いを見せるが、コクンと頷いた。 

「分かりました…」

 

 エリーが部屋の中へと入っていくのを確認し、エスは気づかれないようにミレイたちの後を追いかけていった。

 

 

 




 警備隊隊長のヴェアトリスだ。
 圧倒的に不利だった我々警備隊だが、ジェドー殿たちキャラバンの方々の助けで、盗賊たちと五分にまで持ち込むことが出来た。しかし盗賊の頭目リザードは、卑劣にも仲間を巻き込む攻撃を行ってきた。
 あれは…ゴジュラス?!っ!だが、ここで引くわけにいかない。我々の背中には白百合の園があるのだから!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第五話「白百合の園の長い一日(中編)」!

 駆け抜けるぞ、シールドライガー!
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