ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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白百合の園の長い一日(中編)

 一方その頃、サナムの手によって白百合の園のレーダーが破壊され、ギリギリまで盗賊たちの接近に気が付かなかったヴェアトリスたち警備隊は、準備も儘ならぬまま出撃を余儀なくされた。

 

 しかも、出撃のため正面ゲートが開放された瞬間に、駆動部分が仕掛けられた爆薬によって爆破され、ゲートを閉じることも出来なくなってしまっていた。

 

「完全に後手に回ってしまったか、くそっ!」

 愛機であるシールドライガーのコックピットの中で、ヴェアトリスは唇を噛みしめ、迫り来る盗賊の大部隊を迎え撃とうとしていた。

 彼女の機体はかつて、ブレードライガーと部品を共用した所謂”最後期生産型”と呼ばれる機体仕様と同じ物をベースに、”ダブルキャノンスペシャルユニット”と言う、強力なビームキャノンニ門を装備し、ヴェアトリスに合わせた調整が施された特別仕様である。機体を調整したドクター曰く、その性能は”DCS-J”という、かつてトップエースが乗った機体に迫るとも言われているが、白い装甲を纏ったその姿はむしろ”Mk-Ⅱ”を彷彿とさせる。

 

 彼女のシールドライガーを中心に、同じく装甲を白く染めたノーマルのシールドライガーやコマンドウルフ。”ワイルドウィーゼルユニット”を装備したガンスナイパーやスピノサパーが防衛線を形成し、最終防衛ラインには、狙撃能力をさらに強化させたガンスナイパーにその後継機であるスナイプマスターと、砲撃能力を向上させたバスタートータスが並び、総勢三十機の白百合の園警備隊の戦力がタッチの差で集結を完了した。

 

 そして、白百合の園の歴史に残る、戦闘の火蓋が切って落とされた。

 

 

「始まったか。お前ら、止まれ」

 部隊の最後尾に陣取っていたリザードが直掩部隊に止まるよう指示を出す。

 

『いいんですか、お頭?他の奴らの好きにさせて』

 リザードの指示に、部下の一人が不満を漏らす。

 

「戦いが始まったばかりで、状況がどう流れるか分からん。まずはあいつらに戦場を引っ掻き回させて、状況を見極める。敵と邪魔者全てが大人しくなったところで、後ろから止めを刺せば、こちらの損害は少なくて済む」

 リザードの思惑を聞いた部下たちから、笑い声が漏れる。

 

『なるほど!そいつは、いい手だぜ!さすが、お頭!』

「ふっ…精々、俺のために潰し合ってくれ」

 撃ち合いが始まった戦場を見つめながら、リザードは自分の勝つ姿しか思い浮かばず、笑みを浮かべた。

 

 

 そんな戦いを、遠く離れた岩場の上からスーツの男が、高性能の光学式双眼鏡を片手に観戦していた。

 数十キロ以上離れた場所とは言え、砲撃の音が彼の耳に響いてくる。

 

「リザードさんは後方に待機…高みの見物を決め込むようですね。しかし、さすがは鉄壁で名高い白百合の園の警備隊。あの数を相手に、持ちこたえますか。さて何処まで耐えられ…おや?」

 激しさを増す戦場に向って近づく”一団”を見つけたスーツの男が、楽しそうに笑みを浮かべた。

 

「これはこれは…どうやら退屈しないで済みそうですねぇ」

 

**************

 

 砲撃によって始まった戦闘。

 開始直後は、距離をとって砲弾やミサイルが飛び交っていたが、盗賊側の小型ゾイドたちが砲撃を掻い潜り、警備隊の最前列と接触したのを切っ掛けに、乱戦の様相を呈していた。

 

「邪魔だ!!」

 シールドライガーに仕掛けてくるレブラプターやガイサックを、ヴェアトリスはライガーの足を止めることなく三連衝撃砲で破壊。その後ろから迫っていた二体のセイバータイガーに狙いを定め、二連ビームキャノンを発射し、撃ち抜かれ爆発するセイバータイガーたちの横を走り抜ける。

 

 だが、すぐ目の前にはまた別の敵が迫っていた。

 

「クソ…どれだけ敵がいるんだ」

 ビームキャノンを撃ちながら、彼女は周りの状況を確かめる。隊員には損傷した場合は、無理をせず後方に下がるよう言い含めていたが、現状ではそれも儘ならず、完全に足を止め、取り囲まれている者が出ていた。

 

「待っていろ、今助ける!」

 部下を助ける為、愛機を転進させるヴェアトリス。そんな彼女の死角から、ヘルディガンナーが襲い掛かる。

 

『隊長!後ろです!!』

 助けようとした部下の声に、反応が一瞬遅れ、振り返ったヴェアトリスに隙が生まれた。

「っ!!」

 万事休す、と顔を顰めるヴェアトリスだったが、襲いかかろうとしたヘルディガンナーが空中で撃ち抜かれ、爆発する。

 

「え?」

 爆発するヘルディガンナーを、立ち止まって呆然と見つめていたヴェアトリスの周囲にいた盗賊のゾイドが、相次いで攻撃を受け、破壊されていく。

『大丈夫か!!』

 通信機のスピーカーから、聞き覚えのある声が響き、彼女のシールドライガーの横に、デザートカラーのコマンドウルフACが並び、その横を、何体ものゾイドが走り抜け、盗賊たちに攻撃を加えていく。

 

『間に合ってよかった』

 ジェドーの声に、ヴェアトリスは胸の高鳴りを感じると共に、幾つも疑問が沸き起こった。

「どうして、貴方が…?それに、あのゾイドたちは?」

 ヴェアトリスの疑問に、ジェドーが笑顔を向ける。

 

『うちの女将さんの指示でね。あのゾイドたちは他のキャラバンの奴らだよ。説得するのに手間取ってしまって来るのが遅れた』

 説明していたジェドーが、照れくさそうに頬を掻く。

 

『まぁ、誰も行かなかったとしても、俺は君を助けに行くつもりだったよ』

 ジェドーの言葉に、ヴェアトリスの顔が真っ赤になり、瞳が揺れる。

「っ!…ありがとう、ジェドー殿」

『お礼は、これが片付いたら改めて!行くぞ!!』

「あ…あぁ!!」

 シールドライガーとコマンドウルフACが咆哮上げ、未だ数の減らない盗賊たちに向って駆け出していく。

 

 ジェドーとヴェアトリスが合流した頃、ジェドーと別れ別働隊を率いていたナデアが、孤立しながらも奮戦する三体のコマンドウルフを発見する。

 

『この!ブレードライガーがあれば、この程度の敵…』

『そんな事言ってる場合!?目の前の敵に集中してよ!』

『今度は逃げない…ここでまた逃げたら、エリーちゃんにあわせる顔が無いもの!』

 

 通信機から聞こえる声に聞き覚えのあった彼女は、行動を共にしていたゾイド乗りたちに先に行くよう伝え、ナデアはコマンドウルフに装備したロングレンジライフルの照準を、”彼女たち”を攻撃する盗賊たちに定め、トリガーを引いた。

 背中を見せていた敵に、ナデアの攻撃が全て命中し、爆発する。

 

「昨日はブレードライガーに乗ってたけど、今日はコマンドウルフなの?」

 皮肉交じりのナデアの声に、最初に反応したのはセレナーデだった。

 

『貴女は?!…私はまだ、あの男も貴女も許したつもりは無いわ。馴れ馴れしく話しかけないで!』

 まるで親の敵のように、ナデアに怒鳴るセレナーデ。しかし、そんな彼女に、仲間であるクーの堪忍袋の緒が切れた。

 

『いい加減にして、セレナーデ!助けてもらっておいて、お礼ぐらい言ってよ!!……助けていただいたのに、仲間がすみません。それと昨日に引き続き、ご協力感謝します!あたしはクーといいます』

 礼を言わないセレナーデの代わりに、クーが礼を言い、自己紹介をする。 

 

『エレナです!貴女の仲間に助けて頂いたご恩を、お返ししますね!』

 頭に包帯を巻き、怪我を押して出撃したエレナが、何度もお辞儀をする。

 

「ナデアよ、よろしく!まずは、他のメンバーと合流するわ。私が先頭に立つから、ついて来て!」

 ナデアが、先行しているメンバーの姿を確認し、そちらへコマンドウルフを向け走り出そうとしたときだった。 

 

『貴女に指図されるいわれは無いわ!二人とも、私たちは…』

 ナデアを無視して、指示を出そうとするセレナーデに、ナデアの目がスッと細くなる。

 

「自分の我侭のせいで、仲間を危険に晒していることに気が付いていないなら、余程の馬鹿ね、あんた。かつての戦争でも、あんたの様な自分勝手な行動を取った兵士のせいで、部隊が全滅したなんて話はいくらでもあるのよ。知らないの?あんた一人、死ぬのは勝手だけど、あんたの我侭に彼女たちを巻き込むな!」

 今まで、クー以外の同い年の人間に、怒鳴られたことの無いセレナーデは、ナデアの辛辣な言葉に絶句する。

 

 実際、今の状況もセレナーデが先輩の指示を無視し、自分勝手な判断をし招いた結果だった。自分は、純粋な白百合の園生まれだと言うエリート意識が強いセレナーデは、いつも自分の判断が正しいと憚らず、今回も自分なら状況打破できると思い込み、飛び出していた。クーたちはそんな彼女を心配して、追いかけて巻き込まれていたのだった。

 

「まぁ、勝手にしたら良いわ。私にも、やらなきゃいけないことが沢山あるし」

 そう言って、ナデアはコマンドウルフを走らせる。

 

『…彼女について行こう、セレナーデ。あたしたちだけで戦うなんて、無理だよ』

『セレナーデちゃん…』

 

 仲間の声を聞きながら、セレナーデは外部の人間に助けられる事に屈辱を感じつつも、ナデアの言葉に思うところがあり、無言で操縦桿を傾けナデアの後を追いかけ始めた。

 

「・・ふん」

 そんな後ろから追ってくる三体のコマンドウルフを確認して、ナデアは速度上げる。

 

『重武装で、どうしてあれだけの速度を出せるの?!』

 コマンドウルフを全速力で走らせているはずなのに、ナデアとの距離が縮まらないことに、セレナーデが声を上げる。

 セレナーデたちが乗るコマンドウルフはAZ50mmニ連ビーム砲座を装備した標準タイプの機体である。にも拘らず、彼女らが乗る機体よりも重いはずのナデアのコマンドウルフに、三人は喰らいついていくのがやっとだった。

 

 そのことにセレナーデは最初、ナデアの乗るコマンドウルフが自分たちの乗る機体よりも、高性能な機体なのだと信じて疑わなかった。しかし、ナデアは走りながら、扱いの難しいロングレンジライフルで敵を攻撃し、命中させているのだ。高速移動中の射撃は高等技術であり、機体性能だけでは成立しないものだ。そこから分かるナデアの腕前は、警備隊でもトップクラスのパイロットに匹敵するのでは、と三人は驚愕の眼差しをナデアに向ける。

 

 そんなセレナーデの疑問に、ナデアは「馬鹿にしてるの?」とイラ立ちを見せる。

「当然でしょ?この子とは付き合いが長いのよ。コマンドウルフの戦い方を知らないあんたとは、年季が違うのよ。それより…驚いてる暇があったら、あんたも攻撃しなさいよ!」

 クーとエレナは少ないながらも、攻撃を行いながら付いて来ていたが、セレナーデは必死にナデアに追い付こうとして、全く攻撃していなかった。

『わ、分かってるわ!』

 追い付こうと必死になり、攻撃を忘れていたセレナーデが顔を赤くしながら、誤魔化すように攻撃を始める。

 

「全く……右の手薄な所を抜けるわ!」

 後方からの支援砲撃で、手薄になっている場所を見つけたナデアが、コマンドウルフを巧みに操りそこへ向って走っていく。セレナーデたちも、間近で観察したナデアの操縦から、コマンドウルフの操縦を感じ取り、息を合わせるように、ピッタリと追走していく。

 一糸乱れぬコマンドウルフの集団が、猛烈な勢いで敵を倒しながら、戦場を駆けていった。

 

 

『お頭!どうも、押されてやすぜ!』

 後方で見ていたリザードたちに、戦場の音が近づいていた。

 

「……キャラバンの奴らや、用心棒していた傭兵たちが助けに来たのか?どうやら、顔の利くお節介焼きがいたようだな。想定より、数が多い…」

 リザードの想定では、白百合の園の近くにキャンプしていたキャラバンたちは、厄介ごとに巻き込まれたくないと、警備隊に手助けする者は少数だと踏んでいた。

 

 だが、そんなキャラバンたちに協力させることが出来る人物がいたのは、リザードにとって想定外だった。

 

『どうします?拮抗しているようにも見えますが、こちら側は、逃げ出している者も…』

 

 このままでは計画に支障が出ると、リザードは自ら前に出ることを決断する。

 

「仕方ない。相手が調子に乗る前に、希望の芽を摘んでおく必要があるな。少し早いがお前ら、出るぞ」

 リザードの号令に、直属の部下たちから歓声が起こる。

『よっしゃ!!』

『やっとか…待ちくたびれましたぜ』

 士気の高い部下たちに、リザードが凶悪な笑みを浮かべた。

 

「改めて、号砲を鳴らしてやる…蹂躙してやれ!」

 そういうと、リザードは操縦桿のトリガーを引いた。

 

 

 情況が警備隊の方へ好転し始めた頃、無事合流を果たしたジェドーたちと、ナデアたち。

 お互いに無事だったことに喜びを分かち合っていた矢先、聞きなれない砲撃音が当たりに響き渡った。

『何、砲撃?!』

 

 すると、彼らから少し離れた二つの地点に、激烈な着弾音と共に巨大な火柱が起こり、少し遅れて爆発音と衝撃波がジェドーたちの機体を叩く。

『な……』

 目の当たりにした破壊力に、面々が圧倒され言葉を失う。

『隊長、あれを!!』

 そんな中、いち早く何かに気が付いたクーが声を上げ、コマンドウルフの鼻先をそちらへと向けた。

 その先には、今までの盗賊たちのゾイドとは、明らかに様子の違う一団が、ジェドーたちに向ってゆっくり近づいてきている。

『セイバータイガーATにディバイソン、ダークホーン…ちょっと嘘でしょ?』

 滅多に見ることの出来ない強化型ゾイドの数々に、驚きを隠せないナデアだったが、その後ろに控えていた巨大な影を見て、肌が粟立つのを感じた。

「アイアンコングMk-Ⅱに、ゴジュラスMk-Ⅱ?!」

 盗賊どころか、大規模な都市でも所有している所が少ない、希少で強力なゾイドの出現に、その場にいた全員に衝撃が走った。

 ジェドーたちの動揺が手に取るように感じるリザードが、ゴジュラスのコックピットでほくそえむ。

 

「ふふふ…少しは、俺を楽しませろよ?」

 リザードがトリガーを引き、ゴジュラスのロングレンジバスターキャノンが火を吹いた。

 

*************

 

「あそこか…」

 ミレイたちの後を追っていたエスは、彼女たちが入っていった部屋の入り口を物陰から見ながら、様子を窺っていた。

「エス様……」

 突然後ろから声を掛けられ、エスが振り返ると、そこにはエリーが立っていた。

 

「?!エリー!何で来た…」

 大声を出しそうになり、慌てて声のボリュームを落とすエスだが、その顔は明らかに怒っている。

「マザーが心配…だったから」

 エリーにとって、”姉”の様な存在であるミレイの危機にじっとしていられなかった彼女は、仲間であるメイドたちを避難させた後、すぐにエスたちを追いかけて来ていたのだ。

「だからって…ここは、オレに任せろ。相手は銃を持っているんだぞ?」 

 銃を持っている相手に、無傷で制圧できる自信のないエスは、正直ミレイだけでなくエリーにも注意を払う余裕は、彼には無かった。

「大丈夫です・・・ワタシ、こう見えても…強いからっ」

 そんなエスに、エリーは可愛らしくガッツポーズして見せるが、エスにはふざけているようにしか見えなかった。

「エリー!」

 怒鳴りつけられ、身を竦め俯くエリーだが、意を決して顔を上げたそこに、ふざけた色は全く無かった。

「お願いです…足手まといには…ならないから……」

 真剣とも悲痛とも取れるエリーの表情に、エスは頭を掻く。

 

「…言っておくが、君を護る余裕は、オレには無いぞ?」

 エスの言葉に、コクンと頷くエリー。二人は、ミレイたちの入っていった部屋に恐る恐る入っていった。

 

 

 エスたちより先に、部屋の”隠し階段”を降りきっていたミレイとサナムは、その手にライトを持ち、辺りを照らしていた。

「これが…”帝国の遺産”」

 声の反響から上の格納庫を越える広大な空間が広がっていると分かり、ライトを照らして見える範囲だけでもセイバータイガーやレッドホーン。アイアンコングを始め、ライトニングサイクスやエレファンダー、ジェノザウラーなど、かつて帝国が運用していたゾイドが、整然と並んでいる。

 

 その圧倒的迫力に、サナムは狂喜していた。

「はは…あはははは!凄いじゃない!!白百合の園の地下に、これだけの数のゾイドが眠っていたなんて!これを見れば、きっとリザード様はお喜びになるわ!」

 

 狂ったように笑うサナムを見て、ミレイは冷たい眼で、元部下を見据えた。

「ゾイドを手に入れて、貴女の主は何をしようとしているのです?」

 ミレイの問いに、狂喜していたサナムがミレイの方へ振り向く。

 

「国を作るのさ。強者であるリザード様を王とし、欲望と暴力が支配する理想国家をね」

 彼女の口から語られる話を聞き、聞くに堪えないとミレイが顔を顰める。

「愚かな…力と恐怖で支配するなど、愚の骨頂。そのようなやり方を行う国が長く続かない事は、歴史が証明しているというのに」

 都市を統治する立場にいるからこそ、ミレイには人々を纏める難しさが知っている。それをすぐ傍で見ていたはずのサナムが語る妄言を、ミレイは斬って捨てた。

「黙れ、小娘!知ったような口を利くんじゃないよ!!」

 だが、すでに冷静さを欠いているサナムには、彼女の言葉は届くことは無く、再び銃口をミレイへ向ける。

 

 何を言っても無駄か、とミレイは目を閉じ、徐に壁へと歩いていき、壁にあるスイッチを入れた。

「ですが…その夢想は実現しないでしょうね」

「なんだって?」

 ミレイの言葉に、サナムが眉を顰める。

 天井のライトが点灯されていき、広大な空間が明るく照らされていく。

 

 辺りが明るくなり、保管されていたゾイドたちの姿が露となる。

「……?」

 だが、そこでサナムはある違和感を覚え、保管されていたゾイドを見つめ首を傾げる。

 

 彼女が、ゾイドたちの秘密に気が付いていないと感じ、ミレイはゆっくりと口を開いた。

「ここに置いてあるゾイドは皆、その生涯を終えたモノばかり…つまり、ここにあるのは全てゾイドの”亡骸”です」

 ミレイの言葉を聞き、勢いよく彼女へと振り向いた。

「な……ば、馬鹿な!?」

 そして、サナムは手近なゾイドへ駆け寄り、その装甲を触った。

 すると、金属で出来ているはずのゾイドの装甲が石のように変化し、長い年月の為に脆くなっていたのか、ポロポロと砂となって崩れていく。

 

「ここは、宝物庫でも保管庫でもない…ただの墓場なのですよ」

 ”帝国の遺産”と呼ばれるモノの正体に、サナムは顔を真っ赤にして銃口をミレイに向けた。

 

「よくも…よくも騙したな!!」

 怒りを露にするサナム。だが、ミレイは臆することなく、彼女の目を見つめた。

「騙すも何も、これらが”帝国の遺産”と呼ばれていたのは事実です」

「屁理屈を…あたしを騙したこと、死んで詫びろ!マザーミレイ!!」

 

 引き金に力を込めるサナムに、突然影が落ちる。

 

「?」

 何事かとサナムが上を見上げると、石化したゾイドの上からエリーが飛び降り、サナムに向って落下していた。

 何と彼女は、サナムに気づかれないように石化したゾイドの上を移動し、上から機会を窺っていたのだ。

「!!」

 器用に空中で回転し、エリーは銃を持った方のサナムの肩口に踵落としを決める。

 エリーの体重に、落下の威力と空中での回転の勢い、そして靴に仕込んだ”鉄板”の重みが合さった彼女の踵落としは少女のそれとは比較にならず、サナムの肩の骨を容赦なく砕いた。

 

「か、肩が?!ぎゃあ!!」

 肩の骨を砕かれ、銃を落とすサナム。エリーは彼女の肩に乗ったまま空中で制止した瞬間、そこを軸にしてサマーソルトの要領で、サナムのアゴを蹴りぬく。

 

 後ろに倒れるサナムと同時に、スカートを押さえてエリーが床に着地する。

「エリー!?」

 来るはずのない少女の姿に、ミレイが声を上げる。

「マザー…無事…ですか?」

 

 足元に転がる拳銃を遠くへ蹴っ飛ばしながら、エリーがミレイへと駆け寄っていると、その後ろで倒れていたサナムがヨロヨロと立ち上がった。

「こ、こひょ……クヒョガキがぁ!!」

 あごを砕かれ、まともにしゃべることが出来ないサナムが、無事な左手を懐に入れ、単発式のデリンジャー銃を引き抜き、エリーへ向けた

 

「!?」

 その光景に、エリーの活躍のおかげで出遅れていたエスが、駆け出した。

「エリー、ミレイ!!」

 相手の注意を引くように、ワザと大声を出すエスに、ミレイとエリーが驚愕して目を見開く。

「?!エス様!!」

 無謀とも言えるエスの行動に、ミレイが悲鳴を上げる。

 

「まひゃ…いひゃのかぁー?!」

 伏兵の登場に、サナムはエスに銃口を向け躊躇無く発砲した。

 

 誰もが命中したと思った弾丸を、エスはまるで来る場所が分かっていたように、予め身体を捻って紙一重で避ける。

 

「なっ、弾を…ぐぎゃ?!!」

 銃弾を避けられ、呆然とするサナムの顔面を、エスが走る勢いを乗せて殴り飛ばし、ふっ飛ばされたサナムが鈍い音をさせて床に叩き付けられ、動かなくなる。

 

「…ふぅ、うわぁ?!」

 相手が動かないことを確認して、息を吐き出すエスに、ミレイが駆け寄り身体を調べ始めた。

 

「エス様、お怪我は!?何処か撃たれて怪我を…?」

 だが、それらしい箇所が見当たらず、首を傾げるミレイ。

 そんな彼女に、エスはため息を漏らした。

 

「心配しなくても、弾は当たってない」

「!?そ、そうでしたか…」

 自分の早とちりに、ミレイは慌ててエスから離れる。

 そんな二人に、サナムの様子を見に行っていたエリーが戻ってくる。

 

「気絶していただけ…みたいでしたから……一応、拘束してます」

 エリーの報告に、二人が床でのびているサナムを見ると、手首と親指に足首を縛り上げられていた。

 

 エスは、先ほどの身のこなしといい、人を拘束する手際といい、目の前のメイドの少女が何者なのか、疑問を持ったが上から響く攻撃の振動に、疑問を頭の隅に追いやる。

 

「これは、急いで戻った方がよさそうだな。二人とも、上に戻ろう!」

 来た道を戻ろうと、踵を返したエスの腕を、ミレイが突然掴んだ。

「待ってください!」

「マザー…どうしたの?」

 この状況下で、エスを引き止めるミレイの意図が分からず、エリーが首を傾げる。

 

「二人に見せたいものが…時間が有りませんので、説明は移動しながら。とりあえず、わたくしについてきてください!」

 何の説明もせず、ミレイはゾイドの墓場の奥を目指して、走っていく。

「お、おい!」

「マザー!」

 

 エスたちの呼び止めにも応じず、走ってくミレイに二人は顔を一瞬だけ見合わせると、彼女の後を慌てて追いかけていくのだった。

 




 よっ、エスだ。
 外で戦っている皆が苦戦していた頃。サナムに連れて行かれたマザーミレイを助ける為、白百合の園の最下層に向ったオレとエリーは、何とか彼女を助け出すことに成功した。敵の攻撃が激しくなる中、ミレイは本当の”帝国の遺産”がこの奥にあると言って、オレたちを最奥へと誘う。
 地下で長い間眠りについていた、とんでもないゾイドが今、覚醒の咆哮を上げる!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第六話「白百合の園の長い一日(後編)」!


 帝国の遺産、その名はバーサークフューラー!!


*********

 次話、ようやく主人公機登場!
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