ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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白百合の園の長い一日(後編)

「この奥に、稼動するゾイドが?」

「はい」

 石化したゾイドの中を歩きながら、ミレイは何処へ向っているかを、エスとエリーに説明していた。

 

 それは石化したゾイドが眠る墓場の中で、辛うじて生き残っていたゾイドを修復し保管している場所で、ミレイはそのゾイドを二人に使ってもらおうと考えて、連れてきたのだった。

 

「すでに、警備隊で使われているゾイドは全て出払ってるはずです。上に戻ったとしても、エス様とエリーの戦闘に耐えられるゾイドは残っていません。ですが、そのゾイドたちなら…」

 ドクターからエスやエリーの力量を、そしてゾイドの性能を聞いていたミレイは、修復されたソイドたちは、二人と出会う為に生き残っていたのだと、一人思っていた。

 

 そんなミレイを尻目にエスは、メイドのエリーがゾイドを操縦し、あまつさえ戦闘が行えることに驚いていた。

「エリーも、ゾイドに乗れるのか?」

「一応…乗れます」

 恥ずかしいのか、はにかみながら目を伏せるエリー。

「この子は、ゾイドの操縦に天才的な才能を持っているのですよ。ヴェアトリス隊長も、一目置くほどの」

 自分の事のように嬉しそうに話すミレイ。

 エスはこの時、部屋で断片的に聞こえたヴェアトリスとエリーの話を思い出していた。

 

―初陣式がどうこう言ってたのは、そういうことか…

 

 つまり、エリーは警備隊でパイロットが出来るほどの実力を持っており、あのヴェアトリスが認めるということは、下手をすれば初陣式に出た三人よりも強いことになるのだ。

 だがそこで、エスには新たな疑問が生じていた。

 

「じゃぁ、何でメイドなんてやってるんだ?」

 それほどの実力者なら、メイドをやらずに警備隊でゾイドに乗っているはずでは? とエスは思ったのだ。

 エスの問いに、エリーは恥ずかしそうにモジモジと指先で遊ぶ。

 

「ワタシ…ここに来た頃は…世間知らず…で、みんなに…一杯、迷惑を…掛けて。そんな、自分が嫌で…色々な…事を覚える為に…」

「最初は、見習いだけのつもりだったのですがこの子、メイドの仕事が楽しくなったみたいで…」

 ミレイ曰く、エリーが白百合の園へ来た頃は、手の付けられない”獣”のような存在だったらしく、見かねたミレイの母。先代のマザーカミーユが、人間らしさを思い出させる為に、住み込みで勉強させていたのだという。

 

 その頃のことを思い出したのか、ミレイの笑みは慈愛に満ちている。

 

「人に…喜んでもらえるの…嬉しいです」

 昨晩、テキパキと仕事をこなすエリーの姿と、サナムの肩を踵落としで蹴り砕くエリーの姿、二つのエリーを見ているエスは、「人って分からないものだ」と唖然としていた。

 

 そんな話をしていると、入り口とは反対の壁までたどり着き、ミレイが歩みを止めると目の前に巨大な扉がそびえていた。

「ここです」

 壁にあるパネルにミレイがパスワード打ち込むと、電子ロックの解除音の後に、巨大な扉が轟音と共に開いていく。

 

「こ、これは…」

 開ききった扉の向こうに立っていた二体のゾイドを見て、エスとエリーは目を見開いた。

 

 片方は、かつて共和国において、画期的なマン・マシン・インターフェイスを搭載し、”マルチウェポンラック”を活用するため専用に開発されたいくつもの換装武装まで用意されるも、完成直後に帝国の間者によって機体と武装全てを強奪され、以降帝国軍で運用されるという数奇な運命を辿った機体。

 

 そしてもう片方は、”チェンジング・アーマー・システム”と言う、帝国において考案された、数世代先までの戦況に対応できるよう、最新装備への変更を可能とする機構を持ち、帝国特殊部隊の旗艦ゾイドとして誕生した機体だった。

 

「ファイヤーフォックスに、バーサークフューラーと言うゾイドだそうです。機体の詳しい説明は、ドクターに…」

 上と通信できる機器にミレイが手を伸ばそうとした瞬間、逆に連絡が入った。

 

『何処にも見当たらないと思って、もしかしたらと通信してみたが正解だったか!』

 機器の上空にホロ・ディスプレイが浮かび、ドクターの姿が映し出される。

 普段は冷静な彼女が、目に見えて焦っていた。

 

「ドクター・アンジェリカ!」

 丁度通信しようとしていたことをミレイが告げようとしたが、間をおかずにドクターが言葉を続けた。

『そこにいたのなら、好都合だ!敵の戦力がこちらの予想をはるかに超え、現在、こちらが圧倒的に不利な状況に陥っている。このままでは、ヴェアトリスや協力してくれているキャラバンのゾイド乗りたちだけでは、持ちこたえられそうにない!』

 ドクターの報告に、全員の表情が驚愕へと変化した。

 

「敵の侵攻は、そんなにも早いのですか?!」

 状況が知りたいと、ミレイが立ったまま前のめりになる。

『いや…キャラバンの協力で、むしろこちらが優勢だった。しかし、相手はとんでもない隠し玉を用意していたんだ……敵のリーダー機は、ゴジュラス…しかも戦闘力から推測するに”ゴジュラス・ジ・オーガ”だ』

「なっ!」

 ドクターの口から飛び出したゾイドの名前に驚いたのは、エスだった。

 彼の知識の中で”ゴジュラス・ジ・オーガ”は、共和国が手に入れたオーガノイドシステムを、最強のゾイドゴジュラスへ実験的に搭載し生み出されたものだった。その強さは通常機の凡そ十倍。だが、引き換えにあまりの凶暴さからパイロットを選ぶ機体になってしまい、もし乗りこなすパイロットがいれば、ジ・オーガは最強の存在となることは間違いなかった。

 彼女の話が本当なら、事態は一刻を争う状況にあるといえる。

 

『さらに、アイアンコングやダークホーン、ディバイソンと複数の重武装ゾイドが脇を固めている。エリー、それにエス。すまないが、そこにあるゾイドに乗って、救援に来てくれ!』

「!?」

 ジ・オーガだけでも手を焼く相手なのに、それだけの重武装ゾイドまでいることに、絶望感が漂う。

 だが、ドクターはエスとエリーが、この状況を打破できると信じており、自らが修復したゾイドの説明を始めた。

『その二機は、僕が持てる全ての技術を注ぎ込んで修復したゾイドたちだ。特にエリー。ファイヤーフォックスは、君に合せて調整を行っている。出来ることなら君の意見を聞きながら最終調整を行いたかったが、今その時間は無い。ぶっつけ本番になってしまうが、頼む』

「え…ワタシに…」

 ドクターの説明を聞き、エリーは言葉を失う。白百合の園において、機体の調整はどのパイロットが乗っても動けるよう、平均的な数値で調整されている。個人のデータが反映されるのは専用機のみ。

 つまり、目の前に立つ緋色の狐は、エリー専用の機体と暗に言っているのだ。

 

『マザーに頼まれてね。彼女は君に、その機体を託すつもりだったんだよ。”餞別”としてね』

「!マザー…」

 エリーが、ミレイのほうを見ると、彼女は笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いた。

『基本操作はコマンドウルフに近いので混乱せずに動かせるはずだ。すぐに準備してくれ!』

「!?は…はい!」

 感傷に浸る間もなく、ドクターに指示され、エリーはファイヤーフォックスのコックピットまで登り、キャノピーを開けて中へ入った。

 

 そんなエリーの姿を見ながら、エスは顔を顰めながら残ったバーサークフューラーを見つめる。

「てことは…オレは、フューラーに乗れってことか?」

 自分の中の”何か”は、「大丈夫だ」と言っているのだが、エスの中の知識がその声を邪魔していた。

 

『ブレードライガーを乗りこなした君なら、大丈夫だ』

 ドクターの言葉が楽観的に聞こえ、エスは画面内のドクターへ振り返り、声を荒げた。

「腕前は問題じゃないだろ!バーサークフューラーは”完全野生体”をベースにした機体だ!あいつ(・・・)がオレを乗り手と認めなければ、動かす事は出来ないぞ!」

 エスの言葉に、ミレイはよく分からなかったのか首をかしげ、ドクターは驚いたように目を見開いた。

『そこまで知っているのか?…本当に、君の頭の中にあるゾイドの知識には興味を引かれるよ。だが、その点は問題ないと僕は確信している!』

「何を根拠に…っ!」

 ドクターにもう一言言ってやろうとしたエスだったが、突然背中に視線を感じ、勢いよく振り返った。

 

 なんと、真正面を向いていたはずのバーサークフューラーが、エスの方に顔を向け、じっと見つめていたのだ。そして、エスが振り返ったのを確認すると、誰も乗っていないフューラーが、ゆっくりとエスに向って歩き出した。

 

「そ、そんな、動くはずのないゾイドが!?」

 ゾイドが勝手に動くものだと知らないミレイが悲鳴を上げる。

『マザー!エス様!!…』

 フォックスのシステム立ち上げに時間が掛かっているエリーが、コックピットの中で焦りながら、作業を続ける。

 

「……」

 エスは、近づいてくるフューラーに臆することなく歩いていき、”二人”は一定の距離になった所で、歩みを止めた。 

「エス様?!危険です!」

 うかつな行動を取るエスに、ミレイが叫ぶが、エスはバーサークフューラーをじっと見つめる。

 

 グゥウウウウ・・・ギュワァアア!!

 

 エスと睨み合っていたフューラーが突然咆哮を上げ、大口を開けてエスを食い殺さんばかりに突っ込んできた。

 

「エス様ァ!!」

 地下の墓場に、ミレイの悲鳴が響き渡る。

 

*****************

 

『クソ、後ろ脚が…』

 ゴジュラスの攻撃で、後脚を破損したジェドーのコマンドウルフが、地面に横たわりコンバットシステムはフリーズしていた。

『コンバットシステムは辛うじてフリーズしていないが、これ以上は』

 フリーズは免れたもののヴェアトリスのシールドライガーは、二門あるビームキャノンの左側が脱落し、機体のあちこちから内部構造が露出している。

 

 死屍累々の警備隊と協力しているキャラバンたちのゾイドを見下しながら、リザードは笑みを浮かべている。

『ふふふ…随分頑張ったが、もう終わりか?やはり、あっけなかったな』

『お頭の立てた作戦が、よかったんですよ!』

 セイバータイガーATが近づき、パイロットの部下がリザードを褒めちぎる。

『そうだな…これで邪魔者はいなくなった!全機、白百合の園へ突入!お前が、突入の指揮を取れ』

『了解です!』

 そのおかげで、指揮を任された部下はセイバータイガーを走らせ、都市へ突入していくゾイドたちに混じって突入する。

 

『お頭…あいつらは、好きにしてもいいんですよね?』

 そんな中、アイアンコングMk-Ⅱに乗る部下が、地面に横たわっているセレナーデたちのゾイドを指差す。

『構わないが、警備隊のゾイドに乗るパイロットは、”売り物”になるんだ。あまり傷つけるなよ?』

『分かってますって!』

 リザードから許可が下り、アイアンコングが本隊とは逆方向へと歩いていく。

『相変わらず、弱い者いじめが好きな奴だぜ』

『好きにさせとけよ』

 他の部下たちは呆れながら、白百合の園を目指していった。

 

『いけない!敵が!!』

 ヴェアトリスたちとは離れた場所で、動かなくなったコマンドウルフのコックピットの中、セレナーデが声を上げていると、不意に影が落ちた。

『他人の心配より、自分たちの心配をしたらどうだ?お嬢ちゃん!』

 先ほどのアイアンコングが、セレナーデのすぐ傍に立っており、いきなりコマンドウルフの頭を掴んで持ち上げた。

『?!は、放しなさい!!』

『セレナーデ!』

『セレナーデちゃんを放して!!』

 コンバットシステムがフリーズして動けないクーとエレナが、コックピットで悲痛な叫びを上げる。

 

『な、何を?!』

 これから何が始まるのか、薄々気が付いたセレナーデが声を震わせる。

『分からないか?こうやって、お前の悲鳴を聞くんだよ!』

 リザードの部下は、下卑た笑みを浮かべて、コマンドウルフの頭が完全に潰れないギリギリの力で、握りつぶし始めた。

『きゃあああ!!』

 強化ガラス製のキャノピーに亀裂が入り、押し潰される恐怖から、セレナーデが悲鳴を上げる。

『あの下衆!立って、ウルフ!!』

 ナデアのコマンドウルフは、システムフリーズしてなかったが、機体へのダメージ蓄積で脚に踏ん張りが利かず、立ち上がれずにいた。

 

『イヤ…イヤァアアアアアアアアア!!』

『お願い、立って!!……え?』

 セレナーデの悲鳴が辺りに木霊する中、ナデアの横を”紅い影”が走り抜けた。

 

 今にも握りつぶされそうなコマンドウルフを見て、エリーがコックピットの中で、怒りを露にしていた。

『よくも…ワタシの…友達をっ!ストライクッ…』

 全速力でアイアンコングに近づくファイヤーフォックスの前脚に、ゾイドコアからの膨大なエネルギーが集中し光り輝く。 

『レーザー…クロー!!』

 ファイヤーフォックスが天高く跳躍し、エリーの怒りを乗せた一撃が、アイアンコングの頭部へと迫る。

 

『な、何?!』

 目の前の”楽しみ”に気を取られ、男が気が付いた時には、目の前には光が迫っていた。その光がアイアンコングのパイロットが見た最後の光景だった。

 硬い装甲に護られたアイアンコングの頭部が、フォックスの爪によって引き裂かれ、パイロット諸とも頭部を失ったアイアンコングは、手にしたコマンドウルフを放し、膝をついて地面に倒れた。

 

『皆…無事!?』

 見慣れぬ紅いゾイドから聞こえる声に、セレナーデの口から声が漏れる。

『その声…貴女、エリー?!』

『エリー!!』

『エリーちゃん!』

 駆けつけたのが知り合いだと分かり、クーやエレナから歓声が上がる。

「あんた、動けるのね?!すぐに盗賊たちを追って!このままじゃ…」

 声を上げるナデアに、エリーは首を振った。

 

『大丈夫…あそこには、あの方が…いるから』

 そういってエリーは、ファイヤーフォックスの顔を白百合の園へと向けた。

 

 

『攻撃が、効かない?!なんだ、こいつ!!』

『やめろ!来るな!』

『ば、化け物だ!!』

 突入した者たちの悲鳴が通信機から響き、それと呼応するように、大きく開いたゲートの奥から破壊音が聞こえてくる。

 中の状況が分からず、言い知れぬ不気味さから、中へ入ろうとしていた者たちの足が止まった。

『なんだ?何が起きている?!』

 後方にいたリザードが声を上げると、ゲートからゾイドの残骸が飛び出した。

 

 それは、リザードに指揮を任された部下が乗っていたセイバータイガーのパーツだった。

 そしてすぐに、一体のゾイドが姿を現し、その場にいた全員に戦慄が走った。

 

 四肢をもがれ、”アサルトユニット”の大半が脱落し、頭部の潰れたセイバータイガーを口に咥え、現れたバーサークフューラーが捕らえた獲物を、全員に見せびらかすように前方へ放り出す。

 

 グルルルゥゥゥゥ……グワァァァァァァアアア!!!!!

 

 そして、悠久の時を経て外へ出たフューラーが、喜びの咆哮を天に向かってあげた。

 

 

 現れたバーサークフューラーを、光学式の双眼鏡越しに見ていたスーツの男が、双眼鏡を顔から離すと、頭を抱えて狂喜した。

「?!まさか、あれはまさか……はは、あはっはははは!!見つけた、ついに見つけましたよ!!間違いない、バーサークフューラーです!くっくっくっ、まさかこんな”辺境”に存在していたとは、私は運が良い!!さぁ、どうしましょうかねぇ…当然ここは、焦らず性能の確認をさせてもらいましょうか?当て馬としては十分なゾイドもいることですし……ふふふ、見せてください。あなたの実力を!」

 

 再び、双眼鏡を覗き様子を窺うスーツの男。その視線の先では、彼の希望通り、バーサークフューラーの一方的な戦闘が繰り広げられていた。

 

 放り出されたセイバータイガーに気を取られていた盗賊たちが、気が付くとフューラーの姿が消えていた。

 

 次の瞬間、まるでホバー走行のように、脚部のスラスターを巧みに操作しながら、バーサークフューラーが地面を滑り、まるで流麗な舞を舞うかのように盗賊たちのゾイドを蹴散らしていく。

 ある者は切り裂かれ、ある者は噛み砕かれ、あたり一面に盗賊たちのゾイドの残骸が散らばる。

 

『お頭!あ、ありゃ一体なんです?!』

『うろたえるな!たかが一機のゾイドだろうが!…全機!やつに攻撃を集中させろ!!押しつぶせ!!』

 リザードの指示で、残っていたゾイドの攻撃がフューラーに殺到するが、その全てに掠ることもなく、フューラーは苦も無く避けきった。

『なっ…』

 有り得ない光景に、リザードが絶句する。

 

「ふぅ…どうだ?少しは、オレの実力が分かったか?」

 バーサークフューラーのコックピット内で、エスがフューラーに語りかける。

 

 グゥゥゥ…

 

 だが、当のフューラーは満足していないようで、不満の声を漏らす。

「はぁ?まだまだ?・・・仕方ない。じゃ、本気でいくぞ。後で泣き言言うなよ、フューラー!」

 

 ギュワァアアア!!

 

 エスが、スロットルレバーを全開にし、目の前のダークホーンに狙いを定める。 

『こっちに来たぁ?!』

 ダークホーンが、背中のガトリングガンを始めとする、搭載する全ての火器をフューラーに集中させる。

 それを、エスはフューラの背面に装備されたイオンブースターとハイマニューバスラスターの出力を最大にして、上空へ跳んで避ける。

『と、跳んだだと!?』

 飛行ゾイドでない、フューラーの巨体が空へと舞い上がる姿を見てダークホーンのパイロットが驚愕の声を上げた。

 ダークホーンの真上に来たエスは、背中のバスタークローのアームを操作し、切っ先を真下のダークホーンへと向けると、バスタークローを高速回転させ、一直線に落下する。

 

『!?おい、逃げろ!!』

 ディバイソンのパイロットが、大声を上げて仲間に警告するも時すでに遅く、バスタークローがダークホーンの胴体に穿たれ、フューラーの脚がダークホーンの頭を踏みつけたかと思うと、重力に逆らうことなく、着地と同時に頭部を踏み潰した。

 

『てめぇ!よくも、ダチを!!フルキャノンバースト、ファイア!!』

 ディバイソンのパイロットが怒りと共に、十七連突撃砲を最大出力で発射する。一つだったビームの塊が、空中で分裂すると、光の雨のようにフューラーへ殺到する。

 だが、先ほどまで避けていたエスは、何故か避ける素振りを見せず、フューラーに攻撃が当たった瞬間爆発が起こり、機影が爆発の中へ消える。

 

『やったか?!』

 攻撃が命中し、仕留めたと思ったディバイソンのパイロット。

 

 爆発で起きた土煙の間から光が煌き、バスタークローの刃を開き、Eシールドを展開したフューラーが、何事も無かったように姿を現した。

「こいつのEシールドを破るには、火力不足だったみたいだな」

『そんな馬鹿な?!大型ゾイドを一撃でしとめる攻撃なんだぞ!!』

 自身の最大の攻撃を防がれ、絶叫するディバイソンのパイロット。エスは、オーバーヒートによって敵が十七連突撃砲を使えないと察知し、全スラスターを全開にして突っ込む。

 同時に、エスは両方のバスタークローのアームを操作し、切っ先をディバイソンへ向けると、金切り声の様な音を響かせ、バスタークローが高速回転を始める。

 

『く、くるなぁ!!』

 恐慌状態になり、攻撃を忘れて叫ぶパイロット。そして、肉薄したフューラーの高速回転するバスタークローが、ディバイソンの装甲を削りながら胴体の左右に突き刺さる。

『?!お、お頭!助け…』 

 コックピット内で、リザードに助けを求める部下だったが、リザードは助けるどころか、その場から動く素振りを見せ無かった。そのことに部下の頭は真っ白に染まる。

 

「ストライク、レーザークロー」

 エスの声と共に、フューラーの両腕が光り輝き、輝きを纏った爪がディバイソンの頭部をクラッシャーホーンごと切り裂いた。

 動かなくなったディバイソンを放り出し、バーサークフューラーがゴジュラスの方を向く。

 

「…なんで部下を助けなかった?」

 助けを求めてきた部下を見殺しにしたリザードに対し、エスが殺気を放ちながら問い質す。

『弱い者、無能な者など俺の部下に必要ない。それより貴様、俺の部下になれ』

「は?」

 突然のリザードの申し出に、エスが眉を顰める。

『俺が、貴様の力をうまく使ってやると言っているんだ。部下になれば、望む物を何でもくれてやる。金、女…なんでもな』

 この状況において敵を勧誘など出来る神経に、エスはリザードの正気を疑い、言葉を吐き棄てた。

「…寝言は寝て言え。この外道」

 エスの返答を聞き、リザードは目を細める。

『そうか…ならば、死ね!』

 

 リザードは、ロングレンジバスターキャノンの照準をフューラーに合わせ、発射する。

 

 だが、エスは焦ることなくEシールドを展開し、ゴジュラスの攻撃を防ぐ。

「これでジ・オーガ?全く話にならない。ドクターも相当焦っていたんだな…この程度のゴジュラスを、ジ・オーガと勘違いするんだからな!」

 もし、本物のゴジュラス・ジ・オーガの攻撃なら、さすがのバーサークフューラーのEシールドでも完全に防ぐことはできない。

 それが防げたと言う事は、目の前のゴジュラスは只の”Mk-Ⅱ”だということだった。

 

 エスが攻撃に移ろうとした瞬間、別の方向から、ゴジュラスに攻撃が加えられる。

『なんだ!?』

 思ってもいない方向からの攻撃に、リザードが振り向くと、そこにはエリーのファイヤーフォックスに、辛うじて動くことの出来たヴェアトリスのシールドライガーと、ナデアのコマンドウルフがゴジュラスを狙っていた。

 

『エス様…援護します!』

『さすがはエス殿だ…これほどのゾイドを一人で』

『ちょっとエス!何よ、そのゾイドは!!』

 三者三様の言葉をエスに掛ける中、今度は反対方向からゴジュラスに攻撃が殺到する。

 

『俺たちが、いることを忘れんなよ!』

 そこには、ホメオのゴルドスを中心に、作業用ゾイドに無理やり武装をつけ、馳せ参じた者たちが立っていた。

 

 自分が囲まれていることに、リザードが顔を顰める。

『雑魚どもが…おい、誰でもいい!邪魔者を排除しろ!!』

 だが、 リザードに応える者は誰も居らず、生き残っていた者たちはすでに逃げ出しており、気が付けば彼はたった一人になっていた。

 

「部下を使い棄てるような奴に手を貸す奴なんていないんだよ」

『っ…』

 エスの言葉に、リザードが悔しげな表情を浮かべる。

 再び状況が逆転し、ヴェアトリスのシールドライガーが一歩前に出る。

『武器を棄て、投降しろ!お前は、もう終わりだ!!』

『…ふん、果たしてそうかな!!』

 リザードがそういうと、ゴジュラスの腹部に増設された八連装ミサイルポッドが開き、ミサイルが四方八方に発射される。

「往生際が悪い!」

 バスタークローに装備されたAZ185mmビームキャノンを使って、エスがミサイルを迎撃する。

 ミサイルが爆発した瞬間、眩い閃光が辺りを包んだ。

「閃光弾?!」

 

 反射的に全員が目を瞑り、閃光をやり過ごす。閃光弾の光が止み、目が慣れてきたエスたちが見たものは、強化パーツを強制排除し、一目散に逃げるゴジュラスの姿だった。

『今日の所は引き下がってやる。だが、これで終わったと思うなよ!俺は必ず舞い戻り、お前らに復讐してやる!!』

『あいつ、逃げた!!』

『逃がさない…!』

 棄て台詞を吐くリザードに、ナデアとエリーが追いかけようとするが、二機の前にヴェアトリスのシールドライガーが立ち塞がった。

『深追いは危険だ!あの男の事だ、罠や伏兵を忍ばせている可能性もある。悔しいが、退けられただけでも良しとしよう』

 実際、追撃に出られるゾイドはエスのバーサークフューラーと、エリーのファイヤーフォックスのみ。例え強力なゾイドとパイロットの組み合わせとは言え、何が起きるか分からない。

 全員が、一先ず危機が去ったことに安堵し始める中、只一組だけ諦めていない者たちがいた。

 

「あんな奴を、ここで逃がすわけにはいかない!フューラー!!」

 エスの声に答えるかのように、フューラーが踏ん張るように足を広げると、脚部に装備されたアンカーを展開する。

 尻尾が一直線に伸び装甲が開くと、フューラーが顔を前に突き出し頭から尻尾まで一直線になり、口腔内からバレルが展開され、エネルギーがチャージされ始める。

『エス?!あんた、何するつもり!』

 ナデアの声に答えることなく、エスが逃げるゴジュラスの背中に狙いを定めると、ロックオンの表示が点灯する。

 

「荷電粒子砲…発射!!」

 次の瞬間、フューラーの口腔内から高出力の荷電粒子砲がゴジュラスに向って発射された。

 

『まだだ…俺はまだ終わらない。このまま終わって…?』

 それが、リザードの最後の言葉となった。

 荷電粒子砲の直撃を受け、ゴジュラスの上半身が光の中に消える。

 そして、はるか彼方に着弾した荷電粒子砲によって、大爆発が起こった。

 

 直撃を受けたゴジュラスは、上半身が消失しており、そのまま崩れるように下半身が地面に倒れる。

 

 古の伝説に残る兵器の攻撃力に、全員が言葉を失い、ただフューラーを見つめる。

 

「素晴らしい…その力、しっかと見させていただきました。リザードさん、貴方には感謝を。そして、ご冥福をお祈りします…さて、急いで帰るとしましょう。”御前”に良い報告が出来そうです」

 

 離れた場所で一人、バーサークフューラーの戦闘を見届けたスーツの男は満足そうに頷き、近くに駐機していたストームソーダ・ステルスタイプに乗り込むと、空へと上がり何処かへ飛び去ってしまったのだった。

 




こんにちは…エリーです。
 盗賊たちを退けたエス様たちは…白百合の園での用事を終え…商売のため、次の都市へと向います。ワタシと、それに何故かドクターも、女将さんの計らいで…キャラバンの一員になり、エス様たちと…旅をすることに…なりました。
 一方その頃…とある都市では、エス様を狙って…ある者たちが、動き出そうと…していました。

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第七話「少女の旅立ち」!

 ワタシ、ナデアと…お友達に、なれるかな…?




 
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