ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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少女の旅立ち

 リザードの組織した盗賊連合の壊滅から一週間。

 

 白百合の園とその周辺は落ち着きを取り戻し、再び多くのキャラバンや行商人たちが集まり商売を始めている。

 

 そんな中、白百合の園の大型格納庫内では、リョーコのキャラバン隊が出発の準備を終えようとしていた。

 

「幾度の危機を救っていただき、本当にありがとうございました」

 園の代表者であるミレイが、目の前にいるリョーコとエスに深々と一礼する。

 

「気にすることなかよ、ミレイちゃん。私らは商売してくれる相手が居らんかったら生きていけんと…手助けするのは当然ったい。それに、カミュには色々と借りもあったし、忘れ形見のあんたを、見捨てるとかできんとよ」

 親友と呼べる間柄だったリョーコとカミーユの二人は、お互いに何かあれば必ず助けの手を差し伸べると約束していた。

 ミレイの母であるカミーユは若くして亡くなってしまったが、リョーコはその約束は永遠だと思って、今回仲間であり家族であるキャラバンのメンバーを危険に晒すのを承知で、ミレイを助けたのだった。

 

「小母様……」

 リョーコの言葉を聞き、胸の奥が熱くなったミレイは声を詰まらせる。

 

「それにしても、いいのか?本当にフューラーを貰っても」

 そんなミレイに、エスが申し訳なさそうに尋ねる。

 ミレイは花が綻ぶような笑みを浮かべて、首を縦に振った。

「もちろんです。今回、最大の功労者であるエス様へのご恩をお返しするためですから、受け取ってくださらないと困ります。それに、あれだけの力を秘めたゾイドを御せるのは、エス様を措いていませんわ」

 

 実の所、バーサークフューラーの力を目の当たりにした白百合の園の一部――主に警備隊のOGたち――から、フューラーは警備隊で運用すべきだとミレイに上申があった。だがミレイは、その上申を却下しエスに渡すことを決定した。これには、現警備隊長のヴェアトリスにフューラーを修復したドクター・アンジェリカも賛同する意思を示し、エスに託されることとなった。

 更にこの決定を後押しする切っ掛けになったのが、ミレイの決定を不服とした者たちが、フューラーに無断で乗り込もうとし、フューラーの怒りを買って大怪我を負わされ、心に恐怖を刻まれながら殺されそうになった所を、エスが止めに入ったことで、最悪の事態を回避したのが大きかったりする。

 大暴れするゾイドを一声で止めるエスの姿は、まさに”英雄”と呼ぶに相応しいものだと、人々の間で話しが持ちきりになっている。

 

 頬を紅く染めて自分を褒め称えてくるミレイに、エスは恥ずかしそうに頭を掻いた。

「買い被りな気もするがな…まぁ、あいつもオレの事を認めてくれたようだしな。有り難く、連れて行くよ」

 エスが向いた方には、キャラバンが所有するグスタフの荷台に、”グデーン”と寝そべって、エスの方を見つめるバーサークフューラーの姿があった。相変わらず凶悪な顔をしているが、エスにはフューラーが気だるそうに「いつ出発するの?」と言っているように見えた。

 

「おい、そこに載っていたら、荷物が載せられないだろう!」

 白百合の園で仕入れた荷物を積み込んでいたホメオが、勝手に荷台に載っていたフューラーを怒鳴りつけるが、フューラーは聞こえない振りをするように顔を背けて、尻尾をゆらゆらと揺らす。

 

「エス!お前のゾイドだろう!如何にかしろ!!」

 思わぬとばっちりを受け、エスは「仕方ないな」とフューラーの元へと歩いていく。

 

 そんな彼の背中を見送っていたミレイが、リョーコの方へ向き直る。

「それから、小母様。エリーのことをお任せして、本当に宜しいのですか?」

 ミレイの言葉に、リョーコはスッと目を細め、遠くで”別れ”を惜しんでいるエリーたちを見つめる。

 

「よかよ。あんな若いのに、”世界が観て周りたい”なんて、よか根性しとるばい!ゾイド乗りとは言え、女の子の一人旅は、危ないけんね。おばちゃんに、どんと任せとき!」

 肝っ玉母ちゃんよろしく、豊満な胸をバーンと叩くリョーコ。

 

 事の始まりは少し前。ミレイはエリーからある相談を受けていた。

 

――世界が観てみたい――

 

 メイドの仕事を覚え、ゾイド乗りとしての実力を持つエリーが、前の二つ以外に興味を持った事がある。

 

 それは、”歴史”だった。

 

 文字を覚える為にと、白百合の園に残っていた”共和国”や”帝国”の様々な資料を読むにつれ、エリーは歴史に興味を持つようになり、いつしか各地に残る史跡などを巡ってみたいと思うようになっていった。

 白百合の園で成人と認められる十七歳になる少し前に、エリーはミレイにその想いを告げ、ミレイも迷った末に、その熱意に負け、行かせる事を許可した。

 エリーに託された”ファイヤーフォックス”は、そんな彼女へミレイからの餞別だったのだ。

 

 リョーコは、そんなエリーの話を聞き、「おばちゃんに任せとき!!」と彼女をキャラバンの一員として迎え入れることを申し出たのだ。

 ”大陸”全土に販路を持つリョーコのキャラバンに付いて行けば、一人で行くよりもはるかに安全且つ確実に世界を見て周れる可能性がある。

 ミレイはその申し出をすぐにエリーに伝え、話を聞いたエリーも「お願いします」とリョーコの申し出を受けたのだった。

 

「小母様…」

「まぁ、本音は男所帯のキャラバンに、あげん可愛か子が入ってくれたら、相手への受けも良いやろうし、商売ばやり易くなるけんねぇ~、いつでも歓迎ったい!」

 隠せばいい本音を、茶目っ気たっぷりに包み隠さず言い切るリョーコに、ミレイは苦笑いを浮かべる。

「小母様ぁ…」

 リョーコに幼い頃から面倒を見てもらっていたミレイは、いくつになっても変わらない母の友人を見て、母の苦労が偲ばれるな、と思うのだった。

 

 そんなミレイたちから離れた場所で、エリーたちが別れを惜しむように集まっていた。

「エリー…ほんとに行っちゃうのか?」

「エリーちゃん…」

 突然、エリーが白百合の園を出ると聞いたクーとエレナが今にも泣きそうな顔をして、エリーの手を握る。

「うん…前から、決めてた…ことだから。ごめん…ね、今まで…黙ってて」

 そんな二人に、ミレイが用意してくれた新しい服に身を包んだエリーも、寂しげに目を伏せ二人の手を握り返す。

 

「ふん、清々しますわ!あれだけの腕を持っていながら、メイドとゾイド乗り。どっちつかずだった半端者が居なくなるのですから!……」

 だが、セレナーデだけは辛辣な言葉をエリーにかけ、顔を逸らすように背中を向ける。そんな彼女にクーが顔つきを強張らせる。

「セレナーデっ!…あっ」

 だがすぐに、クーは怒鳴るのをやめた。

 背中を向けたセレナーデの肩が小刻みに震え、小さく嗚咽を堪える声が聞こえたからだ。

 

「…どうして行ってしまうの?私、まだ貴女に一度も勝っていないのに……」

 聞こえてくるセレナーデの声に、「素直じゃないな」とクーとエレナが思っていたが、そのことをどストレートに指摘する者がいた。

 

「あんたさ、いい加減素直にならないと、友達なくすわよ?というか、そのお嬢様言葉。使いこなせてないならやめたら?」

 エリーたちのことを見守っていたナデアが、ため息混じりにセレナーデに直球を投げつけた。本当は、見守るだけのつもりだったが、セレナーデの言動に、ナデアは突っ込まずには居られなかったのだ。

 

「っい、色んな意味で大きなお世話ですわ!というか、何故貴女かここに居るのですの?!」

 気にしていた性格と気に入っている口調を指摘され、セレナーデが反撃とばかりにナデアに噛み付く。

 

「はぁ?ここでうちのキャラバンが出発の準備してるんだから居るのは当たり前でしょ?それに、これからエリーは、私たちの仲間になるんだから、付き添いのために一緒に居るのは当然でしょうが。それよりも、こいつの言葉遣い。クーとエレナはどう思っているの?」

 ナデアの問いに、クーもエレナも苦笑いを浮かべる中、セレナーデの額に青筋が浮かぶ。

 

「なぜ、クーたちは名前で私は”こいつ”呼ばわりですの?!」

 納得がいかない、とセレナーデが吠えた。

 

「だって、あんたからは自己紹介されて無いもん。名前で呼ぶ義理はないでしょ?呼んで欲しかったら、ちゃんと自己紹介しなさいよ」

「今更過ぎて、そんなの恥ずかしい出来ないわよ!!」

 この一週間、何度か顔をあわせているため、お互いに全く知らない間柄ではないので、セレナーデも改めて自己紹介するは恥ずかしく、お嬢様口調が崩れる。

「いやだから…言葉遣いがブレブレだって言ってるでしょ!」

 そんな二人のやり取りを見ていたエリーたち三人は、先ほどまでの悲しさや寂しさが何処かに吹き飛んでしまい、声を上げて笑っていた。

 

「湿っぽい別れになっていると思って心配していたが、杞憂だったな」

「本当だ、随分楽しそうだね」

 エリーたちの笑い声を聞きつけて、ヴェアトリスとドクターが四人に近づいてくる。

「隊長!」

 ナデア以外の四人が、ヴェアトリスに敬礼する。

 

 そんな中、エリーがドクターの様子が違うことに気が付いた。

「あれ?…ドクター、その格好…」

 ヴェアトリスの横に居るドクターの格好は、いつものつなぎに白衣姿ではなく、動きやすい旅用の服装だった。

 

「ん?これかい?僕も、エリーと一緒にキャラバンに付いて行くことにしたのさ!」

「は?」

 これには、エリーたちだけでなく、ナデアも目を点にする。

「女将にはもう話を通してあるよ。こう見えて、プレゼンは得意でね…僕が同行すればどれだけキャラバンにとって有益か説明したら、喜んでOKしてくれた!」

 嬉々として説明するドクターに、ヴェアトリスが頭を抱え顔を顰めた。

「全く…貴女は本当に思い立ったら行動する人だな」

「当然だ!僕が丹精込めて修復した古のゾイドを、何処の馬の骨とも知れない者に、整備されると考えたら寒気が走るよ!それに、まだ二機とも調整が済んでいないんだ。それだけでも、付いていく理由になる!」

 

 ミレイの命により、盗賊連合の攻撃によって損傷した警備隊の保有するゾイドだけでなく、協力したキャラバンや傭兵たちのゾイド全てを修理することになったドクターを始めとする白百合の園の整備員たち。もちろん手が足りない為、キャラバンの者たちも手伝って修羅場の如きゾイドの大修理が行われた。

 その影響で、ドクターはフューラーとフォックスの最終調整が出来ずに居たのだ。

 

「ゾイドが二体増えて、人が二人も増える…只でさえ、居住スペースが狭いのに」

 リョーコのキャラバンは、他のキャラバンと比べて人数が少なく、少数精鋭を武器に身軽さを売りにしている。とは言え、それでも二十人近い者たちが行動を共にしている為、個人のスペースは限られているのだ。

 

 少ないプライベート空間が、更に減ることにナデアが肩を落とす中、ドクターが自分の後方を指差した。

「それに関しては心配しなくていい!僕には、自前の”住処”があるんだ…あれだよ」

 

「あれって…?」

 ナデアがドクターの指差す方へ目を向ける。そこには、大型格納庫の天井に届きそうな巨大な物体が鎮座していた。

「ちょっ…冗談でしょ?!」

 ナデアはずっと、それは格納庫の設備か何かと思っていたが、目を凝らして見たそれは、設備ではなく”ゾイド”だったのだ。

「僕の住処兼ラボである大型輸送ゾイド”ホバーカーゴ”、名前はタルタルだ!」

 使われる個体が特殊であるために、今では殆ど生産されず、希少とされているホバーカーゴではあるが、ドクターの所有する”タルタル”は何と、共和国軍閃光師団が実際に使用した機体で、戦争終結後にドクターの先祖が回収し、代々修復を繰り返して保存し続けた極めて稀な個体だった。

 この古のホバーカーゴの修復技術を持つ一族の出だからこそ、ドクターが帝国の遺産である二機のゾイドを修復出来たとも言えるのだ。

 

「これなら、君のコマンドウルフも含めて、四機はゾイドが格納できるし、整備や補給だって出来る!僕やエリーはタルタルに住むことになるから、君の心配は杞憂だ!」

 ドクターの説明を聞きながらナデアは、たった一度だけ、石化したホバーカーゴを砂漠で見たことを思い出し、実際に動く目の前のレアゾイドを見つめて唖然としている。

 

「でも…いいの?ドクターまで、白百合の園を…出て行っても」

 自分だけでなく、ドクターまで出て行くと聞いたエリーが、恐る恐る尋ねる。

 

 エリーの言葉を受け、ドクターはクイっとメガネを掛けなおした。

「僕は元から根無し草で、しかもはぐれ(・・・)の科学者だ。ここに居たのだって、フューラーとフォックスの修復と、整備員たちの技能向上を手助けする為に、マザーと契約していただけに過ぎない。先の大修理で、ここの整備員たちは、僕の指示を受けることなく、警備隊のゾイドを全て修理して見せ、警備隊隊長であるヴェアトリスが「文句のつけようがない」とお墨付きを出した…つまり、白百合の園での僕の役目は終わり、契約完了と言うことさ」

 

 淡々と言葉を紡ぐドクターに、エリーたちは何処か冷たさを感じる。

 

 そんな彼女たちの心情を察してか、ドクターの顔が破顔する。

「とはいっても、実家以外でこれほど長く居続けた場所はなかったからね。それなりに愛着があることは確かさ。それに、二度とここへ来ない訳ではない、だろ?」

 

 ドクターの問いが、自分に向けられていることに気が付かず、ナデアの反応が数瞬遅れる。

 

「……私?!ま、まぁこことは定期的に取引してるから、最低でも一年に一度は来ることになるんじゃない?」

 ナデアの言葉を聞き、エリーたちがキョトンとした表情を浮かべる。

 その反応に、ヴェアトリスが「やっぱりか」と嘆息した。

 

「特定のキャラバンがどのくらいの頻度でここを訪れているかなんて、お前たちは気にしていないだろうな、と思っていたが、やはり知らなかったか。つまり、何事もなければ少なくとも一年後に、エリーたちはまたここへ来るということだ」

 ヴェアトリスの説明を聞き、エリーたちは先ほどまでしんみりしていた自分たちが恥ずかしくなり、俯いてしまう。

 

 そんな光景をただ見守っていたリョーコたちの元に、ジェドーが駆け寄ってくる。

 

「女将さん、荷物の積み込み完了。出発の準備が整ったぜ」

 ジェドーからの報告に、リョーコがゆっくりと頷く。

「そうね…ミレイちゃん。また来るけんね」

「はい、小母様。また旅先でのお話を、聞かせてください」

 リョーコの話を聞くのが好きなミレイ。そんな中、ミレイの元に、エリーが駆け寄ってくる。

「マザー…」

 何処か緊張の面持ちのエリーに、ミレイが手袋を外し、エリーの頬をゆっくりと撫でた。

「エリー…わたくしの代わりに、世界を見てきなさい」

 マザーを引き継いだ時点で、ミレイは都市の外へ出ることが許されない身となった。ミレイは、”妹”のように可愛がったエリーに、自分に代わって世界の広さを観てもらいたいという気持ちもあり、今回の許可を出したのだ。

 

「うん…ミレイ…お姉ちゃん」

 そんなミレイに、エリーは自然と昔の呼び方が口を突き、ミレイは涙を浮かべてエリーを抱きしめるのだった。

 

 

 リョーコの指示の元、メンバー全員が持ち場に着く。

『マザーミレイ!元気でな!』

 キャラバン護衛のために、フューラーのコックピット内に居るエスが、ミレイに声を掛ける。

 

 ギュワァ!

 

 フューラーもエスの真似か、ミレイに声を掛けた。

 

「皆様の、旅の安全をお祈りしています!!」

 ミレイは大声で叫ぶと、右腕を挙げ大きく手を振る。

 ホバーカーゴの窓から、ミレイの姿を見ていたエリーが手を振っている。

 

『さぁ、出発!!』

 リョーコの号令と共に、キャラバンが動き出し、ミレイたちは都市を救ってくれた英雄たちの姿が見えなくなるまで、手を振り続けたのだった。

 

 

*************

 

 

 カイザーシュタット……長い年月による変遷で、名を変えたかつての帝国の首都、ガイガロス。

 

 東西によってその街並みは全く違い、当時の建築物が数多く残る東側は、歴史的価値を生み、訪れる観光客の数は大陸随一。

 

 反対の西側は、近代的なビル群が立ち並び数多くの企業が存在するビジネスエリアとなっている。

 

 そんなビル群の中で、一際巨大なビルがそびえる。

 表向きは、戦闘用ゾイドの生産販売を行い、各支社を通じて多くの都市に防衛用ゾイドを供給するビジネスモデルで成功を収めた大企業【Zi-alles(ズィアレス)社】の本社ビル。そんな大企業には、裏の顔が存在する。

 

 高層ビルのとある階から、資格を持つ者しか立ち入ることが出来なくなり、例え会社役員といえども、無関係な者はたどり着くことが出来ないようになっている。その中でも神聖とされ、資格を持つ者でも極々一部の人間しか立ち入ることが許させない最上階に、リザードにゾイドを提供していたスーツの男が、重厚かつ荘厳な扉の傍に備えられた椅子にいつもの営業スマイルを顔に張り付かせて座っていた。

 

「エージェント(フィーア)。御前がお会いになられます、中へ」

 扉の中から現れた執事服の男に促され、スーツの男…エージェント4は立ち上がり、扉の中へ入る。

 

 中へと入った先には、かつて皇宮に存在したとされる円卓の間が再現されており、円卓に座るのは、この時代には不釣合いの、時代錯誤と言って差し支えない帝国軍の軍服を身に纏う、”組織”上層部の者たちだった。

 さらに、その円卓の先の一段高くなった玉座には、円卓と区切るように御簾が掛けられ、辛うじて人の姿が窺い知れる。

 

 円卓の下座に立ったエージェント4に、全員の視線が向けられる。

 

「エージェント4、報告を聞こう」

「畏まりました、御前」

 御簾の向こうから、年老いた男性…御前の声が聞こえ、エージェント4は深々と頭を下げた。

 

 エージェント4は、白百合の園で発見したバーサークフューラーについて、ストームソーダに搭載していたカメラ映像を交えて、その場にいた全員に報告を上げた。

 

「追加情報では、現在バーサクフューラーの所有者は、あるキャラバンに所属するゾイド乗りのようで、この戦闘も、そのゾイド乗りがやって見せたことだと、都市に潜入させた諜報員から報告が上がっております。以上が、(わたくし)からの報告でございます」

 エージェント4の報告を聞き終わり、全員が押し黙ってしまう。

 

 映像に収められていたバーサークフューラーの相手…エージェント4がリザードに提供したソイドは、”組織”の資金源であり隠れ蓑になっている、ズィアレス社で販売している戦闘用ゾイドである。その性能は、この時代において、大戦時に使用されたオリジナルに匹敵すると言われていたが、そんなゾイドが束になって全く歯が立たないという、フューラーの戦闘能力を目の当たりにして、文献に残された記述が眉唾でないことを改めて認識させられていた。

 

 そんな中、上層部の一人が声を上げる。

「噂に違わぬ強大な力…御前、今すぐ捕獲すべきです!」

「所有者はたかがキャラバンのゾイド乗り。金を積めば差し出しましょう。引渡しを拒否すれば、”組織”の精鋭部隊を使って力づくで奪い取れば良いだけのこと」

 状況の見えていない一部の者の言葉を聞き、他の者たちも追従を始める中で、エージェント4は「愚かですね」と内心毒づいていた。

 

 映像の中の戦闘が、フューラーだけの性能ではなく、搭乗しているパイロットの技能が飛び抜けて優れていたから、成り立っていたことをエージェント4は見抜いていた。

 そんな相手に、”組織”の精鋭部隊を差し向けたとしても、三分も持たずに全滅させられる、と彼は断言できた。

 

 そしてもう一人、彼と同じ考えに至っていた者が居た。

「エージェント4.実際にバーサークフューラと”パイロット”の力を目の当たりにしたお前は。どう考える?意見を聞かせよ」

 御簾の奥に鎮座する御前だった。

 憎悪に近い嫉妬の視線を上層部の者たちから向けられるも、エージェント4は全く気にすることなく、いつもの営業スマイルで御前の問いに答えた。

「パイロットを含め、情報が圧倒的に不足している今、無闇に攻めればこちらの被害は甚大なものとなりましょう。ここは相手の動向を監視し、データを取るべきかと。フューラーの捕獲はその後でも」

 エージェント4の意見を聞き、「腰抜けめ」だの「我らの意見を差し置き、何と不遜な」などと上層部の者たちが罵詈雑言を小声で並べる。

 しかし、御前から放たれた殺気に、全員が顔色を真っ青にして黙り込んでしまった。

「…この件は、エージェント4に一任する。良き報告を待つ」

「はっ!エージェントナンバーの名に懸けて、必ずや御前に帝国の遺産を」

 御前からの命令に、頭を垂れるエージェント4は笑みを浮かべる。

 

 その笑みは、作られたいつもの営業スマイルではなく、獣じみた凶悪なものだった。

 

 円卓の間を出たエージェント4はエレベーターを使って、下の階に下りていた。

 

「御前より、大仕事を承りましたが…どうしたものでしょうか」

 

 今後の行動を思案していると、エレベータが目的の階で止まり、ドアが開いた。

 

「あ、先輩!!」

 エレベーターから降りたところで声を掛けられたエージェント4が顔を上げると、廊下の先から自分と同じスーツを着たまだ幼さの残る少年が歩いて来ていた。

 

「おや、君は…聞きましたよ、エージェントナンバーに昇格されたようですね。おめでとう」

 数年前に、”研修”の監督役をやった時に、エージェント4が担当した研修生で一番見込みがあると思っていた少年。

 そんな彼が、ものの数年でエージェントになったと聞き、エージェント4は驚きながらも、必然だとも思った。

「はい!エージェント(フュンフ)の席を頂きました!」

 余程嬉しかったのか、純真な笑顔をエージェント4に向けるエージェント5。

「エージェント5ですか…長らく空席だった席が埋まったのですね」

 

 エージェントナンバーと呼ばれる者たちは全部で十三人おり、その入れ替わりは、そう激しいものではないが、一度空席になってしまうと、後任が決まりにくいというのが通例だった。少年が引き継いだ”5”の席も、十年近く空いたままになっていた。

 

「しかも、”帝国の遺産”を発見・回収しての昇格でしたね…私も、見習わないと」

 エージェント4が見つけた”帝国の遺産”バーサークフューラーはごく一部であり、その他にも帝国の遺産と呼ばれるものは数多く散逸しており、エージェント5が見つけ回収したのはその一つだった。

 

「そんな偶々ですよ。先輩に比べれば、ボクなんてまだまだです!これからも、ご指導のほど、よろしくお願いします!」

 

 そういうと、エージェント5はエージェント4が乗ってきたエレベーターに乗り込み、仕事へと出て行った。

 

「若いですねぇ」

 今の自分には無い、エージェント5の溌剌さに感心していると、鼻を突く香水の”臭い”がした。

「あらぁ?何処の野良犬が紛れ込んだのかと思ったら、エージェント4じゃない」

 

 姿を見なくとも、キツイ香水と歳を考えない猫なで声で、エージェント4は自分に声を掛けてきた人物が誰か分かり、全力でスルーしたかったが、鋼の精神をもって平静を装い、声のする方向へと顔を向けた。

 

「これはこれはエージェント(ゼクス)。お久しぶりですね」

 

 そこには、彼が出来る限り接触を避けたかった同僚の女性が、不遜な笑みを浮かべて立っていた。

 




 よっ、エスだ!
 新たな仲間を迎えて、次の都市へと向うオレたちの前に盗賊とは違う統率された一団が襲い掛かってきた。は?バーサークフューラーを渡せ?なんだ、言ってる事は、盗賊と変わらないか。
 何処の誰かは知らないが、手加減は出来ないぞ!いくぜ、みんな!!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第八話「強襲、ブリッツ・ティーガー隊!」

 しかし、セイバータイガーブリッツって、またえらく半端なゾイドに乗った集団だな。

*************

 これにて、白百合の園の話は終了。

 園に住む魅力あるキャラ達は、またどこかで登場するかも?
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