ZOIDS―記憶をなくした男―   作:仁 尚

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強襲、ブリッツ・ティーガー隊

「それで、私に何か用ですか?エージェント(ゼクス)

 何かとちょっかいを掛けてくるエージェント6に呼び止められ、エージェント(フィーア)は「またか」と内心ため息をつくが、表情はいつもの営業スマイルを張り付かせている。

 

「帝国の遺産を、見つけたそうじゃない?」

 彼女の口から出た情報に、エージェント4はスッと薄く目を開けた。エージェント4が見つけた帝国の遺産、バーサークフューラーの情報は、組織の上層部以外、同じエージェントナンバーにもまだ伏せられている。

 それを、彼女が知っていることに、エージェント4はある事に思い至っていた。

 

「耳が早いですね。今度はどなたを誑し込んだのです?」

 エージェント6は、女としての”テクニック”を使って、組織上層部のお歴々に取り入っては機密に該当する情報を引き出していた。

 本人はうまく隠しているつもりだが、エージェントナンバー内では周知の事実だったりする。

 

 図星を突かれ、エージェント6は顔を真っ赤にして憤慨した。

「お黙り!……単刀直入に言うわ。帝国の遺産、わたしに譲りなさい。貴方の様な卑しい者には過ぎた手柄だわ」

 さすがにエージェント6のこの言葉には、エージェント4も営業スマイルが剥がれ落ち、呆けた表情を浮かべる。

 

「は?…何を言いだすかと思えば、手柄の横取りですか?まったく、どちらが卑しいのか」

 あまりに馬鹿げたことを言うエージェント6に、肩をすくめるエージェント4。だが、その行動が癪に障ったらしく、エージェント6の怒りの火に油を注いだ。

「お黙りと言っているでしょう!!卑しい野良犬風情が!横取りではなく、貴方の意思で私に譲れと命令しているのよ!!」

 

 感情のまま怒鳴り散らすエージェント6。対照的に、エージェント4は冷静そのものだった。

「貴族のお嬢様が随分汚らしい言葉を使いますね。育ちを疑われますよ?あぁ、だから、未だに嫁ぎ先がないのですね?…それからお忘れですか?出自・経歴はどうあれ、エージェントナンバーは平等の地位を与えられています。そして、我々エージェントナンバーに命令できるのは御前のみ。貴女は、”赤竜旗(ロート・ドラグファーネ)”創設から不可侵とされている部分に、土足で上がり込んでいる。それが、組織の…果ては御前に対する侮辱だと、ご理解していますか?」

 冷静に切り返しながら、毒を吐くことも忘れないエージェント4。

 

「っ!?」

 さすがに御前という至高の存在を出されると、本能的に身を引いてしまうエージェント6。彼女の攻勢が弱まったのを見計らい、エージェント4が畳み掛けた。

 

「人の手柄を横取りしている暇があるのなら、ご自身の足で別の遺産を探されてはどうです?部下をこき使うのではなく、ね。では、私はこれにて失礼を。仕事が立て込んでいますので」

 そういうとエージェント4は、彼女を置いて廊下を歩いていく。

「?!待ちなさい、エージェント4!まだ話は終わっていないわ!!」

 

 反応の遅れたエージェント6が必死に呼び止めるが、その声を完全に無視してエージェント4は廊下の角を曲がって去ってしまった。

 彼が去った方を苦々しく睨みつけるエージェント6。

 

「いいわ。譲らないというなら、奪い取るまでよ…」

 そういうと、ポケットから携帯端末を取り出し、ある場所へ電話を入れた。

「私よ。”ブリッツ・ティーガー隊”に出撃準備をさせなさい、今すぐよ!」

 怒鳴りつけるように、電話の向こうにいる部下に命令を出すと、エージェント6はエージェント4と反対へと歩いていった。

 

「…本当に、単純な方ですね」

 そんな彼女を、エージェント4は行ったと見せかけて、影から様子を探っていた。彼はエージェント6の性格を逆手にとって、ワザと煽っていたのだ。

 

 バーサークフューラーとそのパイロットのデータを取る噛ませ犬に仕立てるために。

 

 エージェント6が引っかかったことを確認し、彼もまた部下に指示を出すために、携帯端末を取り出し電話をかけた。

「……私です。エージェント6の部隊を追跡してください。えぇ、そうです。出来る限り、克明にデータを取ってください。はい、はい。では、よろしくお願いします…」

 電話を切ったエージェント4は、薄気味悪い営業スマイルを更に深める。

 

「はてさて…結果は見えていますが、どんな展開になるか…楽しみですね」

 

 部下からの報告を楽しみにしながらエージェント4は、今度こそ廊下を歩いて自身のオフィスへと向っていった。

 

 

************* 

 

 

 

 白百合の園を出発して数日。キャラバン【デザルト・チェルカトーレ】は、小規模な盗賊の襲撃を一度受けるも、概ね順調に旅を続けていた。

 

「う~~~~~~ん……」

 ホバーカーゴ”タルタル”のブリーフィングルームで、アンジェリアがモニターを睨みながら唸っている。

 

「どうかしたのか?ドクター」

 そこへ、キャラバンの警備をジェドーに引き継いだエスが入ってきて、ソファーにドカッと腰を下ろした。

「おや、お疲れエス。丁度良かった、君の意見が聞きたかったんだ」

 そういうと、アンジェリカはキーボードを操作し、ブリーフィングルームの大型モニターに自身が見ていたデータを映し出した。

「ん?」

 画面には、バーサークフューラーのデータが映し出されており、スペックデータが表示されている。

「今、バーサークフューラー内に残っていたデータを調べていたんだが、その中でフューラーのCAS関係の制御データを見つけたんだ」

「フューラーの?」

 エスの言葉にアンジェリカが頷くと、画面が変わり、二つ3D画像のフューラーが表示される。しかし、その殆どが”不明”と記されており、名称部分に”シュトゥルム””ヤクト”とだけ書かれている。

 

「あぁ…僕は、このタルタルを所有している関係で、ライガーゼロのCASはよく知っている…というより三種全て持っているんだが、帝国製であるフューラーのCASに関しては、殆ど知らないんだ。見つけた制御データには、”シュトゥルム”と”ヤクト”二つのCASが設定されてあったんだが、ユニット自体のデータは断片的にしか保存されていなかった。エス、君はどんな物か知っているかい?」

 アンジェリカの問いに、エスは腕を組んで考え込む。すると、パソコンの検索機能のように、頭の中に知識が浮かび上がってきた。

 記憶がないとは言え、知らないことを”識っている”という事に違和感を感じるエスだが、そんな違和感を振り払い”識っていた”情報を口にする。

 

「シュトゥルムユニットは、高機動高速戦闘用のパーツだ。ジェノブレイカーのフリーラウンドシールドを小型・発展させたアクティブシールドに、背面にはバーサークユニットと同じイオンブースターと巨大なシュトゥルムブースターを装備。その気になれば、ライガーゼロのイエーガーユニットを軽く振り切れる速度を叩きだせる。ヤクトユニットは、ゼロのパンツァーユニット同様、重砲撃戦仕様の装備だ。荷電粒子砲を中心に実弾兵装を充実させ、重装甲・重武装ながら高速戦闘もこなせる…こんなところか?」

 ツラツラとエスの口から出てくる知識に、アンジェリカは目を見張り呆気に取られた。

 

「…本当に、君の知識には感服するよ。なるほど…聞く限りでは、現状の資材と設備では作り起こすのは不可能だな。本体同様、何処かに眠っていれば話は早いが、地道にデータを漁るしかないかな」

 一先ず諦めよう、とアンジェリカの肩から力が抜ける。

 

「フューラのCASか…今のバーサークユニットだけでも、十分だと思うけどな。オレは」

 根本的な話として、帝国製CASはあらゆる状況を想定して開発されている。基本装備に位置するバーサークユニットでさえ、先の戦闘のように、近接格闘戦に高機動戦、果ては砲撃戦までこなしていた。

 そのことから考えても、今急いで他のCASを用意する必要性をエスは感じていなかった。

 

 しかし、アンジェリカはその言葉を聞いて、憤慨した。

「何を言っているんだ、君は!持てる性能をフルに発揮してこそ、ゾイドは輝くんだぞ?フューラーのCASを活用しないなんて、それこそ宝の持ち腐れだ!」

 身を乗り出して力説するアンジェリカに圧倒されるエス。そんな所へ、少女二人の声が聞こえブリーフィングルームの扉が開いた。

 

 入ってきたのはナデアと、何故か白百合の園で普段着のように着ていたメイド服に身を包むエリーだった。

「ホントに借りてもいいの?こんな貴重そうな本を」

 古めかしい書籍の数々を腕の中に抱え込んだナデアが、申し訳なさそうにエリーに聞く。

「うん…ナデアが持ってる本、ワタシは全部…読んじゃったから。それに…ナデアも、歴史好きって言ってたから…読んで欲しいの…」

 ナデアが持っているのは、エリーが白百合の園から持ってきた共和国や帝国の当時の内部資料などである。白百合の園に保管されていた物だが、打ち捨てられるように図書館の片隅にあったものをエリーが見つけ、ミレイが「必要とする人の手にあったほうが本たちも喜ぶでしょう」と全て、エリーに渡した物だ。

 

「そっか…ありがとう、エリー!」

 同い年で、しかも歴史好きという共通の趣味を持つ二人はすぐに意気投合し、一緒に居る時間が増えていた。

 二人の少女がお互いに笑顔をほころばせる。

 

 そんな中エスが、ナデアの姿を認めると、呆れた表情を作った。

「ナデア、お前こんなところにいたのか?ホメオが交代時間過ぎたのに、ナデアが来ないって怒っていたぞ」

 ホメオから、ナデアを見つけたらすぐに来るよう伝言を受けていたエス。そんな彼の伝言を聞き、ナデアの顔が引き攣る。

「えっ、もうそんな時間なの?!ヤバぁ…それじゃエリー!この本ありがたく借りてくねっ!」

 大事そうに本を抱え、ナデアは慌ててブリーフィングルームから出て行ってしまった。

「うん!…お仕事頑張ってね」

 そんなナデアを見送るエリー。そして二人を温かく見守るエスとアンジェリカ。

 エスたちの視線に気が付き、エリーが頬を紅く染め、恥ずかしさで俯いてしまう。

 

「そういえば、エリー。最終調整後のファイヤーフォックスの調子はどうかな?違和感があるかい?」

 そんな彼女に気を使い、アンジェリカがエリーの気を紛らわせる為に話を振る。

「えっ…と、大丈夫…です。あの子、素直で…良い子、だから」

 今まで、自身の操縦を受け止めてくれるソイドに出会うことのなかったエリーは、ファイヤーフォックスという相棒を得て、今までにない充足感を感じていた。

 嬉しそうにはにかむエリーに、アンジェリカが頷く。

「そうか!何かあったら、すぐに言ってくれ。そのために、僕はここにいるんだから」

「はい…ドクター」

 二人のやり取りを見ていたエスの内に突然”何か”が奔り、彼は弾かれるように勢いよく立ち上がった。

 

「エス?」

「エス様…どうかしたの…?」

 エスの様子に、首を傾げるアンジェリアとエリー。

 

 彼女たちの声が聞こえていないのか、エスはある方向を見つめて、目を細めた。

 

「何か、来る」

「え?」

 呟くようなエスの言葉に、アンジェリカが眉を顰める。

 

 すると、エスが格納庫へ通じるドアへ駆け出しブリーフィングルームの外へ出て行った。

「どうしたんだ、エス!?」

 エスの行動に驚きを露にするアンジェリカ。そんな中エリーは、エスの様子に只事ではないと察し、後を追うように駆け出していた。

 

 

***********

 

 

『目標のキャラバンを発見。確認できるだけで、コマンドウルフが2にゴルドスが1。それ以外の戦闘用ゾイドは見当たりません』

 先行させていた部下からの報告に、部隊の長であるサン・ライトはアゴに手をあて状況を整理し始める。

「情報では、それに紅いシャドーフォックスにターゲットのバーサークフューラーを加えた五体が、キャラバンの戦力だったな。プラン通り、まずは戦力を引きずり出す。四番機と五番機はターゲット捕獲用の電磁ネットを準備。私、二番機と三番機がターゲットを押さえている隙に捕獲を試みろ。残りの六番機から十番機は陽動と目標以外の足止めをしろ。いいか、お前たち。初の実戦だが、訓練どおりにやって見せればいい」

 全機から”了解”のシグナルが届き、サン・ライトは搭乗機を立ち上がらせる。

 

『いくぞ』

 隊長機を先頭に、装甲を漆黒に染めた猛虎たちが”瞳”を怪しく輝かせながら獲物に向って駆け出した。

 

 

『ったくナデアよ。お前も子供じゃないって言い張るなら、時間くらいちゃんと守れよな』

 交代時間を押して現れたナデアに、ホメオがチクチクと小言を漏らす。

『うるさいなぁ、ちゃんと謝ったでしょ!それに、女の子は支度に時間が掛かるの!』

 そんなホメオに、ナデアはあまり悪びれる様子もなく、移動するキャラバンに合わせて歩くコマンドウルフのコックピット内で声を上げる。

 

 妹の言葉を聞き、ナデアとは反対側でキャラバンを護衛するジェドーがため息を漏らした。

『自分を女の子だと言ってくれるのは嬉しいけどな、ナデア。それを含めて時間を守ってこそ一人前のレディだと、兄ちゃんは思うぞ?』

 兄の言葉に、ナデアの額に怒りマークが入る。

『ふーんだ!どうせ私は、美人の警備隊長さんとは違いますよーだ!』

 まるで拗ねた子供のような言い方をするナデアに、ジェドーは別の意味で渋い顔をする。

『…どうしてそこで、彼女が出てくる?』

『さーねっ!自分の胸に聞いてみれば?!』

 完全にへそを曲げたナデアに、ジェドーから再びため息が漏れる。

 白百合の園を出て以来、何かにつけてヴェアトリスのことを引き合いに出すナデア。ジェドーも、こんなことならもっと早くに紹介しておくべきだったと、後悔の念を滲ませる。

 

『ケンカは良いが、ちゃんと仕事しろよ二人…?なんだ?』

 いつもの兄妹ゲンカに、ホメオが呆れているとゴルドスのレーダーに反応が掠め、すぐに消えた。見たことのない反応に、ホメオが眉を顰めていると、通信機からノイズ交じりでアンジェリカの声が流れた。

『全員気をつけろ。今しがたタルタルのレーダーが後方から高速で迫ってくる機影を捕らえた。特殊なステルス塗料を使っているようで数は判然としないが、多くても十機はいるぞ』

 どこか緊張感に欠けるアンジェリカの通信に、ジェドーたちが間の抜けた表情を浮かべる。

『はぁ?!どういう・・・・』

 ナデアが言い終わる前に、後方からビームが飛んできて、地面に着弾し爆発する。

 

『攻撃?!敵なの?!』

 慌てるナデアと反対に、ジェドーは冷静にリョーコへ通信を入れた。

『っ!女将さん、敵襲だ!賊はここで俺たちが食い止めるから、本隊は安全な所へ!』

 先ほどの爆発で、襲撃されていると分かっていたリョーコは冷静そのもので、笑みを浮かべている。

『分かった!先にいっとるけん、あんたたちも気をつけリぃね!』

 キャラバン本隊がスピードを上げていく中、ジェドーたちのゾイドが反転し、敵を迎え撃つ態勢に入る。

 同時に、アンジェリカのホバーカーゴも反転し、ジェドーたちの後ろについた。

 

『ドクター!エスとエリーをすぐに出してくれ!俺たちだけで支えられるかどうか、分からない!』

 敵の乗るゾイドの種類が分からない上に、ジェドーたちには数のハンデがある。だが、二人のゾイドが出てくれば、そのハンデを埋めることが出来るとジェドーは考えていた。

 だが、次に聞こえてきたアンジェリカの言葉に、ジェドーたちは耳を疑った。

『それなら心配ない。二人なら、迎撃の為にもう出てるよ』

『えっ?!』 

 エスたちが出て行ったことに全く気が付かなかったジェドーたちは、少しに間その場に立ち尽くすのだった。

 

『まさか、ターゲットから出向いてくれるとはな』

 ブリッツ・ティーガー隊の隊長サン・ライトは、目の前に現れたターゲットのバーサークフューラーを見て、笑みを浮かべる。

「セイバータイガー・ブリッツ…にしては、装甲に随分手を加えているな」

 相対するエスは、襲撃してきた者達が乗るゾイドを見て、知識内に該当する機体が思い浮かんでいた。

 

 かつて、帝国で開発された高速戦闘用ゾイド”ライトニングサイクス”は、開発過程において多くの問題を抱えており、本体の開発が予定より大幅に遅れていた。そんな中、サイクスの主兵装である、パルスレーザーライフル・増速ブースター・ウイングスタビライザーが一体となったマルチパックが本体に先駆け完成し、当時の帝国の事情から、本装備を遊ばせておくわけには行かず、急遽調整したセイバータイガーに装備させ、セイバータイガー・ブリッツとしてごく短期間運用したことがあったのだ。

 

 だが、エスの前に立ちはだかるセイバータイガー・ブリッツは、当時の機体と違い、各部に安定翼を追加し、高速機動時の空気抵抗を考慮してか、装甲の形状も通常機と変わっていた。

 

『バーサークフューラーのパイロット!聞こえるか?今すぐ、その機体を引き渡せ!それは、貴様の様なものが持つには過ぎたゾイドだ!』

 サン・ライトの一方的な言い分に、エスは呆れた表情を浮かべる。

「いきなり攻撃してきて、相応しくないからゾイドを渡せとは…随分、礼儀知らずな奴らだな!」

 グゥゥゥ……

 

 フューラーも、「無礼者!」と言わんばかりに、唸り声を上げる。 

『警告は一度だ。命が惜しければ、ゾイドを引き渡せ!』

 十機のセイバータイガーのパルスレーザーライフルの銃口がフューラーに向けられる。

 

「否応なしか……だが、断る!」

 エスの拒絶の言葉と共に、ティーガー隊の横から撤甲レーザーバルカンが発射され、隊の外側に居た八番機が直撃を受け、大破する。

『側面から攻撃だと?!』

 攻撃を受けた八番機のパイロットが驚きの声を上げた。それと同時に、まるで蜃気楼の中から現れるように、エリーのファイヤーフォックスが光学迷彩を解除し姿を現した。

 

『光学迷彩…あなた達のより、この子の…方が、数段上』

 控えめながらも、自慢げに笑みを浮かべるエリーは、すぐにその場からフォックスを走らせ、別の相手へと狙いを定める。

『紅いシャドーフォックスか!うわ!』

 八番機の傍にいた六番機のパイロットが、エリーを追いかけようとすると、何処からともなく飛来した砲弾が命中し、行動不能になる。

 

『新手か?!』

 サン・ライトが砲弾が飛んできた方へ視線を動かすと、キャラバン隊のいる方角から、ナデアのコマンドウルフが向ってきており、ティーガー隊に向けてロングレンジライフルを連射する。

『ちょっと二人とも!抜け駆けとかずるくない?!』

『ナデア!』

 黙って敵の迎撃に出たエスたちに文句を言いつつも、駆けつけてくれたナデアに、エリーが笑顔で迎える。

 

「今の時間は、ナデアとジェドーが本隊の護衛だろ?敵の迎撃には、手の空いていたオレとエリーが出るべきと思ったんだよ。それに、オレたちが出た段階で向ってきているのが、敵か分からなかったしな」

 手近にいたセイバータイガーをストライクスマッシュテイルで蹴散らしながら、エスがエリーと二人で出た理由を説明する。

『だからって、一言言って行ってよ!心配するでしょ!』

「ジェドーたちと話しが弾んでたみたいだったからな、邪魔しちゃ悪いと思って」

『ナデア…楽しそうだった』

 先ほどの”兄妹ゲンカ”を聞かれていた事と、なおかつ友達(エリー)にそのやり取りを楽しんでいたかのように思われていたことに、ナデアは恥ずかしくなり、顔だけでなく耳まで真っ赤にする。

『ちょっ、エリー?!聞いてたなら、止めてよ!!』

 そんな和気藹々と会話を交わしながら、エスたちはティーガー隊を打ち倒していく。

 

『た、隊長!こいつら強いです!!』

 三番機の部下から悲鳴が上がり、サン・ライトは顔を顰める。気が付けば、味方の数は六機になっていたのだ。

『くっ…想定が甘かったというのか?!…だが、晴れの舞台…エージェント6の期待に応えるためにも、我々はターゲットを持ち帰らなければ!仕方がない…全機、リミッターを解除しろ!』

 サン・ライトは、たかがキャラバンに所属するゾイド乗り相手に侮っていたと思い知らされ、使うつもりのなかった奥の手を晒す。

 残っていた六機のセイバータイガー・ブリッツに施されたリミッターが解除され、マルチパックの増速ブースターのゲージが限界まで引きあがる。

 

 先ほどとは比べ物にならない速度で移動するセイバータイガーに、ナデアが目を見開く。

『なっ、何この速さ?!きゃっ!!』

 機体側面に攻撃を受け、コマンドウルフが膝をつく。

『ナデア!くっ…!』

 ナデアを助けに行こうとしたエリーだが、彼女の乗るフォックスにも攻撃が殺到し、エリーは驚異的な反射神経で避けるもその場に足止めされた。

 

「調整しているとは言え、セイバータイガーであんな機動をするなんて、無茶をする!」

 エスも、フューラを巧みに操作し、地面を滑るようにして敵の攻撃を避ける。

 

 すると、五機のセイバータイガーたちが一斉に、キャラバン隊の方角へと進路を変えた。

『あいつら、みんなの所へ!』

「行かせるか!」

 追いかけようとするバーサークフューラーに、残っていた隊長機のセイバータイガーが足止めするためにパルスレーザーライフルを連射する。

『貴様はここで大人しくしていろ!』

「こいつっ!」

 エスが、バスタークローを展開しようとすると、エリーのファイヤーフォックスがセイバータイガーに体当たりをかました。

『くそっ!?』

 中型機と思えない当たりの強さに、セイバータイガーが大きくよろける。

 

『エス様っ!…ここは、ワタシに…任せてっ!』

「エリー…頼んだ!」

 エリーに声を掛け、エスはフューラーのイオンブースターとスラスターを全開にし、セイバータイガーたちの追撃に入る。

『おのれ!』

 立ち上がり、追いかけようとするサン・ライトだが、足元の地面にロングレンジライフルの弾が着弾し、立ち止まった。

『私のこと忘れてたでしょ?!あんたの相手は、私たちよ!』

 機体を立て直したナデアが駆けつけ、エリーの横に並ぶ。

『邪魔…させないっ!』

 

 

『サン・ライト隊長が敵を足止めしてくれている間に、キャラバン隊を攻撃し、人質にする!例え卑怯だと言われようとも、我々は結果を残さなければならない!』

 サン・ライトに代わり、二番機に乗る副隊長が指揮を取り、黒いセイバータイガーたちが全速力でデザルト・チェルカトーレを追いかける。だが、そんな彼らの横を、白い影が一気に追い抜いていく。

 

『ば、馬鹿な?!』

 その影が、ターゲットのバーサークフューラーだと分かり、副隊長以下全員の表情が驚愕の色に染まる。

 

「サイクスのマルチパックを装備しているとは言え、所詮セイバータイガー…出せる速度なんて高が知れている!」

 

 追い抜いてから、ある程度距離が離れたことを確認したエスは機体を百八十度ターンさせ、フューラーを着地させる。

 そして、両脚のアンカーを下ろし、地面に固定した。

 

「左右に大きく展開しているのか…なら!」

 レーダーに映る機影を確認し、エスがコンソールを操作する。

 

「やるぞ、フューラー!」

 ギュワァアア!!

 

 エスの声に呼応し、フューラーが荷電粒子砲の発射態勢に入り、尻尾の装甲が展開する。

『?!荷電粒子砲か!全機、敵射線上から退避!』

 セイバータイガーたちが左右に大きく広がるのを見ながら、エスは笑みを浮かべる。、

「それでは、避けたことにならないぜ!!」

 フューラーが口を開け、口腔内のバレルが展開されると同時に、バスタークローの先端が前を向き、刃が開いていく。

 口腔内の荷電粒子砲と、バスタークローの銃口にエネルギーがチャージされる、

 

「…”拡散”荷電粒子砲、発射!!」

 エスがトリガーを引いた瞬間、三箇所から荷電粒子砲が発射される。

 フューラーを中心に三百度近い範囲に、荷電粒子砲が扇状に拡散し、荷電粒子のシャワーがセイバータイガーたちを襲う。

 

『こ、これは?!』『駄目だ、避けれない!!』『くそぉ!!』

 叫び声を残し、セイバータイガーたちが光の中へ消える。

 

 

 荷電粒子砲が終了し、その場に残っていたのは、装甲に焼け爛れたような孔が無数に開き、内部構造がむき出しになって動かなくなった五機のセイバータイガーの残骸のみ。

 

 ギュワアアアアアアアア!!

 

 敵を殲滅したのを確認し、展開していた装甲を閉じたバーサークフューラーが勝利の雄叫びを上げる。

 

 すると、隊長機と戦っていたナデアとエリーの機体がフューラに近づいてきて、二人がコックピットから降りてきた。

「くっそ~、最後の一機を逃がしちゃった!!」

「すみません…」

 隊長機と戦っていたナデアとエリーだったが、あと一歩のところで敵を取り逃がしてしまい、悔やんでいた。

 コックピットから降りてきたエスは、そんな二人の頭を優しくなでる。

 

「気にするな。これで敵が諦めれば良いし、また襲ってくるならその時決着をつければ良いさ」

「はい…」

 頭を撫でられ、エリーが嬉しそうに頬を紅く染める。

「ちょっと、子ども扱いしないでよ!……」

 ナデアも文句を言いつつも、何処か嬉しそうにしている。

 

『おい、エス!ナデア、エリー!無事か?!返事しろ!!』

 通信機からジェドーの声が聞こえ、ナデアが走ってコマンドウルフのコックピットに駆け寄った。

「お兄ちゃん?私よ。エスもエリーも無事だから、安心して」

 ナデアが嬉々として三人の無事を伝えるが、返ってきたのはジェドーの怒鳴り声だった。

 

『なら、すぐに帰って来い!今回は少し時間が押してるんだ!このまま置いていくぞ!』

 まさかの言葉に、ナデアが見る見る内に挙動不審になっていく。

「ちょっ、待ってよ!お兄ちゃん!?エス、エリー!すぐに合流しないと、みんなに置いていかれちゃう!」

 慌ててコックピットに乗り込むナデアを見ながら、エスとエリーは「それはないだろう」と苦笑いを浮かべ、それぞれのゾイドへと走っていくのだった。

 

 

 




やぁ、アンジェリカだ。

 一度は逃げたブリッツ・ティーガー隊の隊長サン・ライトだったが、生き残っていた部下たちと共に、エスたちに再び戦いを挑んできた。しかも奴は、バーサークフューラーを確実に捕獲する手段を用意していた!
 あの動き…まさか、デルタフォーメーション?!気をつけるんだ、エス!その檻に閉じ込められたら、いくらフューラーでも突破は無理だ!

 次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第九話「雷虎、再び」!


 あれが…エスとバーサークフューラーの本当の力なのか?
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