「生き残ったのは、これだけか……」
もしもの場合に、と集合場所に設定していた隠れ家に現れた三人の部下たちを見て、サン・ライトは沈痛な面持ちになる。
中規模なキャラバン隊から、ターゲットのゾイドを強奪するというブリッツ・ティーガー隊初の任務。しかも、相手の戦力はターゲットを含めても五機。ターゲットのバーサークフューラーは強力なゾイドだが、パイロットは所詮キャラバンに所属するゾイド乗り。他の者たちも取るに足らない相手だろうと、サン・ライトは相手の足元を見て、戦力を過小評価していた。
だが、その評価は大きく裏切られ、蓋を開けてみれば部下六人と機体九機を失うという大失態を演じてしまったのだった。
「隊長…我々は、これからどうするのですか?」
生き残っていた部下の一人が、不安げにサン・ライトへ今後の方針を聞いてきた。
他の部下たちも同様に、暗い表情をして彼の言葉を待つ。
「…決まっている。ターゲットの確保だ…でなければ、我らに待っている未来は”死”のみ」
「しかし我々に人手はあっても、機体は隊長のと予備機を合わせても四機。相手は、あの化け物だけでなく、仲間のゾイドもいるのですよ?」
ブリッツ・ティーガー隊には、正規メンバー十人以外に、予備搭乗員として四人の控えがいた。正規メンバーに比べれば若く経験に乏しい者たち。だが、六人もの欠員が出たティーガー隊に出し惜しみしている余裕は無かったが、いかんせん戦力となるゾイドが四機しかなかった。
「隊長…ここは、エージェント
部下の提案に、サン・ライトが顔を強張らせ机を殴った。
「駄目だ!あの方は、部下の失敗を一度だって許さない…我々が許されている報告は、任務完了の報告のみ。間違っても、あの方に連絡するな!!」
エージェント6は部下を酷使することで有名だが、さらに失敗した部下に対しての冷酷さは他のエージェントナンバーと比べて相当なものだった。
まさに背水の陣と覚悟せざるを得ない状況に、重苦しい空気が部屋を満たす中、勢いよくドアが開け放たれた。
「隊長!本部から使者が!!」
隊の予備搭乗員であり、唯一の女性―というより少女―でもあるアリアが慌てて部屋に入ってきた。
慌てたアリアの様子に、部屋に居たサン・ライトたちが隠れ家から外へ出ると、目の前に巨大な物体が着陸しようとしていた。
「ホエールキング?!」
大戦時から現在に至るまで、大量輸送を可能にしていた輸送用超大型飛行ゾイドホエールキング。
そんなホエールキングから、一人の男が降りてきてサン・ライトたちの前まで来て立ち止まり、書類の束を差し出した。
「あなた方への補充機体をお持ちしました」
男の言葉を聞き、サン・ライトは書類を受け取りながらも眉を顰めていた。
「補充機体?一体誰が…?」
エージェント6の部下である自分たちに、誰が救いの手を差し伸べてくれたのか見当の付かないサン・ライト。
そんな彼の問いに、男は表情筋一つ動かすことなく、首を横へ振った。
「それに関して、自分は答える立場にありません」
それだけ言うと、男はホエールキングへ指示を出し、格納庫のハッチにあたる口が開き、中から補充機体のゾイドたちが降りてきた。
「こ、これは?!」
その機体の姿と、書類の束―機体の仕様書―を見てサン・ライトは声を上げるのだった。
**************
「さぁ、皆さん!気をつけて急いで運んでくださいねぇ~。でももし商品を壊したら…一生キャラバンの奴隷ですよぉ~」
予定通り、次の街へと到着していたデザルト・チェルカトーレは、早速商売を始めていた。
白百合の園で仕入れた品物を下ろすメンバーたちに、リョーコの娘であるルナが笑顔で物騒な物言いをしている。
メンバーも冗談とは分かっているが、運んでいる品物がアンティークの調度品ばかりなので、本当に壊したら一大事だった。
「ルナ姐さん…相変わらず、容赦ねぇ…」
緊張で顔を強張らせているメンバーを、キャノピーの開いたコマンドウルフのコックピットから見ながら、ジェドーが渋い顔をする。
「良かった、護衛の時間で…」
ジェドーと一緒に護衛をしているナデアも、メンバーに悪いと思いつつもホッと胸を撫で下ろす。
「それにしても、この間襲ってきた奴ら…何だったのかな?」
フッと、ナデアが先日の襲撃のことを思い出し、呟くように口にする。
「俺は直接見たわけじゃないからなんとも言えないが、盗賊とは違ったんだろ?」
あの時、キャラバン隊の直掩に周っていたジェドーは、敵の姿を見ることはなく、妹のナデアやエスたちの話を聞いただけだった。
そんな兄の問いに、ナデアは首を縦に振る。
「うん。いつも相手にしているゴロツキとは、違った」
砂漠や荒野を行くキャラバンにとって、盗賊や夜盗の襲撃など日常茶飯事である。二人も愛機を駆り、そう言った不逞の輩を相手にした事は数知れず、ナデアも年齢とは裏腹に実戦経験豊富だったりする。
そんな妹が毛色の違う敵だったいうなら、そうなのだろうとジェドーは思ったが、情報が少ない今、あれこれ考えても仕方が無いと、肩の力を抜いた。
「まぁ、俺たちが考えても答えは出ないさ。エスが言ったとおり、また襲ってくるなら、また返り討ちにすればいい」
「そうだね…それにしても、何でドクターの買い物にエスたちが付いて行っているの?」
ジェドーの言葉に頷きながら、エスの名前が出たことでナデアが別のことを思い出し、不満そうに声を漏らす。
「ドクター曰く、エスのゾイドに関する知識は、モノによってはドクターを凌駕しているそうだ。ゾイドの補修用パーツの品定めを手伝ってもらうんだとさ」
キャラバンに所属しているゾイドの整備一切を任されたアンジェリアは、ナデアやジェドーたちのゾイドの各部品をアップデートし性能を底上げしたのだが、そのせいでパーツ不足に陥り、買出しに出る羽目になってしまい、エスとエリーを伴って街へと出ていた。
「じゃぁ、エリーは?」
エスに関しては納得せざるを得ないが、友人のエリーが連れて行かれている事は納得できなかった。
「彼女は書籍関係で、だそうだ。何でもバーサークフューラーに関する情報が欲しいらしくって、当時の資料を読み込んでいるエリーに目ぼしい物を見つけてもらうそうだ」
今居る街は、各都市への中継地となる場所ではあるが、まさかそんな重要な過去の資料が転がっているとは思えず、ナデアの顔が不機嫌なものへと変わっていく。
「むぅ~……」
むくれる妹に、ジェドーは嘆息する。
「そんなにむくれるなよ。自由時間になったら、エリーと一緒に買い物へ行けばいいだろ?」
「そうだけど…」
一応、エリーと約束はしているナデアだが、何処か納得がいかないと言った風に腕を組む。
そんな兄妹の会話に、「ふふふ」と声が割り込んだ。
「二人とも、楽しそうねぇ?」
指示を出していたルナが、満面の笑みを浮かべて二人の愛機の前に立っていた。
「「……」」
ただジェドーとナデアには、彼女の後ろにはっきりと阿修羅が視えており、顔から滝のように冷や汗が流れ落ちる。
「そんなに暇なら一週間、寝ずの護衛…イってみる~?」
満面の笑みで死刑宣告を受けた二人は「ゲフッ」と血反吐を吐いた。その後二人はルナに許してもらうために、その日半日掛けて謝り倒したのだった。
***********
三日間の滞在で、街での用事を済ませ、次の目的地へと出発したデザルト・チェルカトーレの一団。
現在護衛についているのは、エスのバーサークフューラーとジェドーのコマンドウルフの二体だった。
『しかし、何度見てもおっかない顔してるよな、フューラーって。頼もしいのは分かってるんだが』
ジェドーの言葉に、エスは首を傾げる。
「そうか?こいつ以外にのんびり屋だからな。スロースターターで困ってるくらいだぞ?」
ギュワァ!!
相棒に苦言を呈すエスに、フューラーが「大きなお世話だ!」と抗議の声を上げた。
そんな二人のやり取りを苦笑しながら見ていたジェドーが、真面目な顔をする。
『それでも、お前のフューラーやエリーのフォックスが入ったおかげで、旅がし易くなったのは確かだ、頼りにしてるんだぞ?』
彼の言うとおり、デザルト・チェルカトーレの戦力が補強されたおかげで、今まで危険から牽遠していた道が通れるようになり、キャラバン隊の移動速度が上がっていた。
「期待に応えられるようには頑張るさ…!敵だ!!」
突然、エスが叫ぶと、キャラバン隊の周辺に砲弾が降り注いだ。
「くっ!」
『くそっ!』
砲弾が当たることはなかったが、爆発の余波に耐えながら、エスが気配を感じた方を見ると、黒いセイバータイガーがこちらを見ていた。
それが、先日襲ってきたゾイドと同じものだと理解するのに、エスは注して時間を必要としなかった。
「この間のセイバータイガー!性懲りも無く…ジェドー!ナデアたちを出撃させろ!オレは、あいつを追いかける!!」
そういうと、エスはフューラーのイオンブースターとスラスターを全開にし、逃げていくセイバータイガーへと突撃していく。
『おい、エス!っくそ、ドクター!ナデアたちをすぐに発進させてくれ!マーク!仮眠を取ってるホメオを叩き起こせ!!』
手早く指示を出すジェドーだが、そこへ再び砲撃は降り注ぐ。
『この…!!』
ジェドーが攻撃に耐えていると、ホバーカーゴの上部ハッチが開放される。中には、ナデアのコマンドウルフが今か遅しと発進を待っていた。
『ナデア、コマンドウルフ…行くわよ!!』
電磁カタパルトのシグナルが赤から青へと変わり、ナデアのコマンドウルフが飛び出した。
すぐに、空になったセッティングデッキが上へと消え、下からファイヤーフォックスを載せたセッティングデッキが上昇し、発進位置に固定される。
『エリー…ファイヤーフォックス。行きますっ!』
間を置かずして今度はエリーのファイヤーフォックスが射出され、地上へと降り立った。
『随分早かったな!』
指示を出してから、二人が出てくるまでの早さにジェドーが素直に驚きを露にする。
『丁度、エリーと二人でシミュレーションバトルしてたからね!』
ナデアの言うシミュレーションバトルとは、アンジェリカが開発した訓練用システムで、実機にシステムをインストールすれば、コックピットをそのまま利用して行うことが出来るものだ。
友達である二人だが、ゾイド乗りとしてはライバル同士であり、時間があればお喋りだけでなく、シミュレーションでしのぎを削っているのだった。
『ジェドーさん…エス様はっ!』
エスの姿が見えず、エリーが辺りを窺っていると、各コックピットに接近警報が鳴り響いた。
『全員気をつけろ!かなりの数のゾイドがこっちに向ってきている!』
遅れてやってきたホメオのゴルドスからデータが送られ、レーダーに数十機の機体反応が映し出される。
そして、彼らの目に飛び込んできたのは、ジェドーたちキャラバン隊に向ってくるレブラプターの群れだった。
『レブラプター?!』
ジェドーが声を上げていると、レブラプターの群れがエスとキャラバン隊の間に入り込んできた。
『あいつら、私たちとエスを分断するつもり?!』
エスとの間に割り込まれ、ナデアが顔を顰める。
『仕方ない!まずは目の前の脅威を倒す!』
そういうと、ジェドーたちは迫り来るレブラプターへ向け、駆け出したのだった。
「現れたかと思ったら…この先に罠が仕掛けてあるんだろうが、これ以上付きまとわれるのはごめんだからな。今日で終わりにさせてもらうぞ!」
全力で逃げるセイバータイガーに、エスは罠の可能性を感じていたが、自分とフューラーのせいでこれ以上メンバーに迷惑は掛けられないと、あえて敵の誘いに乗っていた。
エスは、フューラーのバスタークローを操作し、高速移動しながらビームキャノンを発射する。
『っ!”スリーパー”レブラプターは問題なく稼動しているな…これで、前回のように助けは当分来ない。始めるぞ!』
肝を冷やすようなエスの攻撃を掻い潜る中、サン・ライトは用意していたスリーパーたちが敵の足止めをしていることを確認し、予定地点を過ぎた瞬間、作戦を発動した。
『『『了解!』』』
サン・ライトの号令を受け、隊長機が通り過ぎた瞬間に潜んでいた部下三人が、セイバータイガーの光学迷彩を解いてフューラーの進路を塞ぐように現れ、パルスレーザーライフルを連射する。
「待ち伏せか!だが、この程度!!」
エスはフューラーに急制動を掛け、左側のバスタークローでEシールドを展開し地面に降りると、右側のバスタークローのビームキャノンで応戦する。
その光景を見て、サン・ライトがニヤッと笑みを浮かべた。
『そこで止まると思っていたぞ!』
サン・ライトは用意していたスイッチを押すと、フューラーの足元に仕掛けられていた地雷が連続して爆発する。
「対ゾイド地雷?!だが、この程度の火力で、フューラをどうこうするには!」
『足が止まればそれでいいんだ!今だ!』
『『『はい!』』』
すると、砂の中からフューラーを三角形に囲むように、新たな三機のセイバータイガーが姿を現す。だが、機体はセイバータイガーブリッツでは無かった。
機体自体はセイバータイガーだが、実験機を思わせる灰色のカラーリングに、小型ゾイド並みの大きさの装置を背負っている。
『デルタフォーメーション!』
『『『ブロッケイド!』』』
掛け声と共に、各機体の装置が作動し、アームが伸びると、先端に大型のパラボラアンテナが展開される。そこからビームが発射されて各装置を結ぶように三角形を形づくり、更にフューラーの真上へビームが走り、上空を頂点とする三角錐の檻が完成した。
「これは!っ!!」
敵が用意した策に驚きながらも、エスは即座にバスタークロ-で光の檻を破壊しようと試みるが、強固な檻にクローが弾かれてしまう。
ブロッケイド維持用のパーツが装置から切り離され、三角錐の各頂点で檻を維持し始める。
『無駄だ!それはかつて、あのデススティンガーを閉じ込めた鉄壁の檻!ちょっとやそっとでは壊れない!そして、これでお前の最後だ!プラズマランサー展開!』
再び号令が飛び、展開されていたパラボラアンテナのアームを収納すると、今度はアームの両サイドに設置されていた突起が伸び、バチバチと音を立て始める。
『放電開始!』
次の瞬間、フューラーに向って高圧電流が、照射される。
「がぁあああああああああ!!!」
ギュワアアアアアアアアア!!
***********
『エス様?!』
通信機から聞こえるエスの叫びに、エリーが悲鳴を上げる。
『マズイ!』
『このっ、邪魔するな!!』
切迫した状況だと判断したジェドーとナデア二人が突破口を開こうと、迫るレブラプターを蹴散らすが、倒したそばから新たな機体が行く手を塞ぐ。
そんな中、ホバーカーゴ”タルタル”のモニターを見つめながら、アンジェリカは一人思案していた。
「…規則性のある動き。敵は間違いなくスリーパーゾイドだが、連携が取れすぎている……何処かから随時命令を書き換えている?ならば!!」
あることに思い至ったアンジェリカは、即座にキーボードを叩き、周囲の探索を始める。
「やっぱりな、ビンゴだ!!」
周囲に飛び交う信号を解析し、物の数分でアンジェリカはスリーパーゾイドを操る特定の信号を見つけ出した。
「これで、どうだ!」
信号を送っている電波に、アンジェリカは相殺する電波を発信する。
すると、連携の取れていたレブラプター部隊に、突然乱れが生じる。
『敵の手は封じた!これで、先ほどの様な動きは出来ないはずだ!』
『さっすがドクター!天才!!』
アンジェリカの言葉を聞き、ナデアが声を上げる。
『ナデア、気を抜くな!相手はまだ停まった訳じゃないんだぞ!』
ホメオの言うとおり、レブラプターは連携を失ってはいるが、無差別に攻撃を始めていた。
『みんな…少し離れてっ!』
そういうとエリーはコンソールを操作し、ファイヤーフォックスの”奥の手”を起動した。
シャドーフォックスなど通常仕様の機体は、尻尾に内蔵型電磁ネット砲と言う、捕獲用装備を搭載しているが、エリーの機体には全くの別物が装備されている。
かつてその姿から、”九尾の狐”と呼ばれるようになった装備。
フォックスの尻尾が展開し、中からプラズマ発生装置がせり出してくる。
『ナイン・テイルっ!!』
エリーのかけ声と共に、元の尻尾に纏わりつくように九本の光る尾が現れゆらゆらと蠢く。
そして、九本の尾が一つに集約され、”一振りの剣”と化した。
『切り裂いて、ライトニング・ブレードっ!!』
フォックスが群がるレブラプターたちに向って雷の剣を横に薙ぐと、十数体の敵が真っ二つに切り裂かれ、爆発した。
『……本当に、頼りになるな』
『うそ…』
『すげぇ』
フォックスの敵をほぼ一掃する攻撃に、ジェドーたちが呆気に取られる。
『エス様っ!!』
そんな三人を尻目に、エリーは残る敵をレーザーバルカンで攻撃しながら、エスの元へと走り出していた。
『?!ま、待ってエリー!!』
ナデアも、すぐに慌てて後を追いかけて行った。
***********
高圧電流の攻撃に晒され続け、とうとうフューラーが膝をつき、ピクリとも動かなくなってしまった。
その姿を注意深く観察しながら、サン・ライトは短く息を吐き出した。
『さすがに、あれだけの攻撃を受ければ、ゾイドは”無事”でも中のパイロットは生きてはいまい』
ゾイド自体も、高圧電流の影響から回路の断線が考えられるが、先に限界を迎えるのは中に乗り込むパイロットの方である。
事実、先ほどまであがっていたエスの声が、聞こえなくなっていた。
『?!隊長、ブロッケイド発生装置に異常!再展開は不可能です!!』
デルタフォーメーション用セイバータイガーたちが装備している装置から煙が立ち昇り、オーバーロードした為か、所々で火花が散っている。
『元々一回きりの試作装置だ。気にするな…それに、もう必要ないだろう』
動かないフューラに、サン・ライトは大丈夫と確信し、部下たちに指示を出し始める。
『よし、このままブロッケイドを展開したまま、ターゲットを輸送する。アリアの時間稼ぎも限界に近いはず…仲間の救援が来るかもしれん。全員、周囲を警戒しながら作業を始めろ!』
「くそ…身体が……」
そんな中、辛うじてコックピットの中で生きていたエスだったが、高圧電流の影響から身体が動かせなくなっていた。
「このまま…オレは死ぬのか?…自分のこと…を、何も…思い出せずに…」
何処かで、記憶を取り戻すことに消極的だったエスだが、命の危機に瀕して初めて、何も思い出せなかったことに後悔の念が滲んだ。
その時だ。
エスの脳裏に、ある光景が浮かび上がった。
「?!」
夕日にくれる集落を見下ろす小高い丘の上。女性が一人佇んでおり、エスはその女性の前に立っていた。
顔がはっきりとしないが、エスはその女性を知っていると思い、女性に対して、様々な感情が沸き起こった。
すると、女性の口が動いた。
―×××、私ずっと待ってるから。貴方が、ここに帰ってきてくれるのを。だから、約束して……英雄になんてならなくていいから、絶対に生きて帰ってくるって―
その言葉を聞いた瞬間、エスの頭の中が真っ白になった。
ギュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
機能停止していたはずのフューラーが突然再起動し、立ち上がって咆哮を上げた。
『まだ動けるのか?!だが、その光の檻を破壊するのは不可能!プラズマ・ランサー準備!』
サン・ライトが、攻撃の号令を下そうと声を上げたと同時に、フューラー目が怪しく光る。
そして、光の檻の中で荷電粒子砲発射態勢に入った。
『なっ、荷電粒子砲を撃つつもりか?!馬鹿な、貴様も只ではすまないぞ!』
内側からの攻撃を外へと通さないブロッケイドに対し、たとえ荷電粒子砲といえども、突破は不可能であり、下手をすれば攻撃が跳ね返り、機体に重大なダメージを及ぼしかねなかった。
だが、サン・ライトの忠告を無視し、フューラーが荷電粒子砲を発射する。発射されたのは通常とは比べ物にならないほど細く収束され、最大まで威力を増した収束荷電粒子砲だった。
一点集中の攻撃を受け、光の檻を維持していたパーツが想定以上の負荷を受け次々爆発し、ブロッケイドを維持出来なくなり消失する。
さらに、デルタフォーメーションの一角を担っていたセイバータイガーが、荷電粒子砲の直撃を受け融解する。
しかし、フューラーの攻撃は終わらず、なんと脚部のスラスターを吹かしその場で一回転して、残り二体を切り裂いた。
瞬く間に優勢から劣勢へと転じたブリッツ・ティーガー隊。
『よ、よくも後輩たちを!!』
再び仲間を奪われ、冷静さを欠いたサン・ライトの部下たちが激昂しフューラーへと殺到する。
『やめろ、お前たち!逃げるんだ!!』
だが、サン・ライトの叫びも空しく、フューラーがビームキャノンを連射し各機の足を破壊すると、そのまま荷電粒子砲を発射して、止めを刺した。
『……アリア。聞こえていたら、お前はすぐに逃げろ。間違っても、
サン・ライトは、スリーパーゾイドを操っていた最後の部下に言葉を残し、フューラーに戦いを挑むために、相対する。
グゥウウウウウ
『行くぞ!!』
唸りを上げるフューラーに、サン・ライトはタイガーのリミッターを全て外し、機体の限界を超えた速度でフューラーを肉薄しようとするが、フューラーは動きを読んでいたかのように、相手の攻撃を半円を描くように機体を捌き、その回転の勢いでセイバータイガーの背後にストライクスマッシュテイルを叩き付けた。
『ぐわぁ!?』
加速と背後からの攻撃の衝撃で機体がバラバラになりながら吹き飛び、地面に叩きつけられると、サン・ライトは血反吐を吐き、目の前が真っ赤に染まる。
仰向けに転がる壊れかけのセイバータイガーを、歩いて追いかけてきたフューラーが右足で踏みつけるとアンカーロックを展開し、コックピットのある頭部に荷電粒子砲を向けた。
朦朧とする意識の中、モニターに映るフューラを見ながらサン・ライトは一言「化け物…」と声を震わせ呟いた。
そして荷電粒子砲が発射されたと同時に大爆発が起こり、フューラーの姿が爆発の中へ消える。
『エス様っ?!』
『エスー!!』
爆発を見て、エリーとナデアがエスの名を叫ぶ。
まさかの事態が頭を過ぎり、二人とも操縦桿を握る手が震える。
すると、爆炎の中からフューラーの姿が現れ、ゆっくりと二人に向って歩いてくる。
『エス様っ!!』
『エス!良かった…もう!心配したじゃない!!』
安堵する二人だったが、歩いていたフューラーの機体が不自然にぐらついたかと思うと真横に倒れる。
さらに倒れた衝撃でコックピットハッチが開き、エスの身体が中に放り出されると、そのまま砂漠に叩き付けられた。
『え…?』
ピクリとも動かないエスの姿に、エリーの顔から表情が消える。
『い、いやあああああああああ!!』
そして、砂漠にナデアの悲鳴が響き渡るのだった。
オッス、ジェドーだ。
女将さんの計らいで休養することになった俺たちは、ある街に立ち寄ることになった。そこはかつて、英雄と呼ばれた人物が生まれ育った場所だった。
歴史好きのナデアとエリーがはしゃいでいる中、エスの様子が何処かおかしかったりと、一波乱ありそうな予感。
そんな中、エスとフューラーを狙う奴らが新たな動きを見せようとしていた。
次回、ZOIDS-記憶をなくした男-第十話「英雄の故郷」!
少しはゆっくりしたいものだよ、ったく!