携帯に届いたそのメールの通り、待つ。
時計をみやるともうすぐ約束の時間。
来るに違いないと信じて。
バカテスト
物理
水面を、波が伝わる速さはどう求めるか。
姫路瑞希の答え
波長×振動数
教師のコメント
正解です。基本的ですね。
吉井明久の答え
半径×半径×π
教師のコメント
たしかに、円形に広がりますが、円の面積を求めないでください。
土屋康太の答え
半径×半径×バスト
教師のコメント
…。
吉井明久は走っていた。時間はあと10分もしないうちに3時になる。
まだ、駅までは少し距離がある。
「間にあうかなぁ。」
美波や秀吉に、助けられてなんとか逃げて来られた。
ムッツリーニと雄二はどうしただろうか。
ムッツリーニは、工藤さんのところへ行けただろうか。
雄二は、霧島さんと仲直りできただろうか。
美波たちは無事だろうか。
色々な不安が湧いてくる。
「とにかく急がないと!」
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「おい!ムッツリーニ!行き止まりだ。」
「…仕方ないか。」
まだまだ追手はやってくる。時間をみると、あと20分くらいで3時になる。なんせ人数が莫大な数だ。明久に、15人ほどかかっていったはずだったから、あと30人近くはいる計算だろう。
「「ここまでだな。坂本、ムッツリーニ。いや、この二つ名は今のお前にはふさわしくないな。土屋。」」
ムッツリーニの名前は土屋だったことを忘れかけていた。
だが、そんなことを言っている場合ではない。目の前のバカたちは、止まらないから。
油断すると、一斉に襲いかかってくる。
「かかれぇっ!」
異端審問会が誇る脅威のNo.2こと変態・福村が指令を出す。こういう時の団結力だけは素晴らしいほどだ。
「ムッツリーニ!やば…」
と言おうとした時、
バカどもがバタバタと倒れていく。
「そんな…バカ…な。」
どうやら一瞬で全員仕留めたらしい。
「…野暮用ができた。帰らせてもらう。」
なんだ。ちゃんと工藤のことをかんがえてるじゃねぇか。
「…雄二。」
「行けよ。俺は…」
「…霧島に、話つけてこい。」
「おう。」
俺も行こう。翔子のところへ。
あいつはきっと、バカみたいにいつまでも待ってるだろうから。
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「ついた!」
時間は3時から1分前。
間に合ったらしい。けれど時計台の前に姫路さんの姿はなかった。
「あれ…?時計台だよね。」
ここでもう一度メールを読み返す。
駅前の時計台…
「って、何駅?」
僕の計画が詰めが甘いなんてっ!!
この街には何個か駅がある。時計台は、全ての駅に小さいながらもついている。
そうこうしてると、姫路さんからメールが入る。
そこには、
明久くん?大丈夫ですか?
なんて心配してくれている。
すかさず、電話をかける。今なら気づいてくれるだろう。
「もしもし…明久くん!」
「姫路はん!いま、どこ?」
焦りすぎて関西弁風に噛んでしまった。
「駅前の時計台…」
「なに駅、かな?」
「東京駅ですっ!」
え?
「姫路さん。もう一回言ってくれるかな。」
きっと聞き間違いだよね。うん。そうに違いない。
どうやったら聞き間違えるかわからないけど。
「だから東京駅ですっ!」
「なんでそんな自信満々に東京駅にいるの⁉︎」
驚いた。
「クリスマスデートといえば東京ですっ!」
どういう思い込みなんだっ!
ここから東京は500円はかかる。往復で1000円は痛手でしかない。
それにプランなんか一つも考えていない。東京のお店なんか人がいっぱいに決まっているじゃないか!
「姫路さん、帰ってき…」
「待ってます!…ずっと。」
「…分かったよ。」
そこまで言われると断れないじゃない。
電車に乗って、東京駅を目指す。
ため息を一つついて、席に座る。寒くなってきたし、手袋でもしておこうか、なんて考えていると、不意に見知った声に呼び止められる。
「…明久!なにしてる、こんなとこで…」
「ムッツリーニ!なんでこの電車に?」
「…工藤がクリスマスデートは東京、とか言って聞かなかった。」
彼女らは、本当に頭がいいのに、なんでこんなことになるのだろうか。
改めて常識力という科目を設けるべきだと思った。
ムッツリーニと話しているうちに東京駅に着く。
「じゃあね!ムッツリーニ。頑張ってね!」
「…そんなつもりはない。(ブンブン)」
ここまでして、まだいつものような仕草で否定するのだからちょっと面白い。
そして、ムッツリーニと別れて、時計台の前まで行くと、姫路さんがたくさんの人に紛れて、佇んでいた。
「姫路さん!」
「明久くん!待ちましたよ?心配しました…。」
僕のことより、心配しなきゃダメなのは、姫路さんの思い込みだと思うんだけどなぁ。
「ごめんね。まさか東京とは…」
「いいです。こうして来てくれましたし。じゃあ行きましょう?」姫路さんの笑顔が眩しい。
「でもどこに行くの?」
「私、行きたいとこがあるんです。ついてきてくれますか?」
「うん!」女の子にこういうのを任せるのは、少し恥ずかしいが仕方が無い。
なんせノープランなのだから。
そんなことを考えてるうちに姫路さんは、つかつかと前を歩いて行く。ちゃんとついていかないとおいていかれそうになる。
「明久くん!はやく行きましょう?」
「うん。」
もう夕方にさしかかってきている。僕ら高校生にはそんなに時間はない。
今を目一杯楽しもう。
なんとかついていくと、姫路さんがお洒落な構えの喫茶店の前で止まる。
「ここの喫茶店のケーキ美味しいらしいんです!」
「そーなんだ!なら、入ろっか?」
「はいっ。」
ケーキ一つでここまで元気になるなんて、やっぱり女の子だなぁ。
「明久くんはなににしますか?」
幸いまだ夕方で、席は空いていて、すぐに座ることができた。
「うーん…」
値段はできるだけ安いものがいい。
僕にはお金がない。
「私は、これにします!」みると、ストロベリーのワッフルを指差している。値段は600円…
あれ?これって僕が奢った方がいいのかな。
でも僕が奢れるのは、ほとんど限られている。だが、このワッフルだけならなんとかなりそうだ。僕の帰りの電車賃がなくなるけど。
「姫路さん、僕がおごろうか?」
「えっ!でも明久くんお金ないんじゃないですか?」
「でもこういうときって、普通はおごるものなんじゃ…」
「いいです!そんなに気を遣わなくても大丈夫です。明久くんはどうしますか?」
そう言ってもらえると助かる。
さて僕はどうしようか、さすがに水は恥ずかしいから…と考えていると、
そんな時、素敵なメニューが目に入る。
これにしよう。
「注文しよう!」
「決まったんですか?」
「うん!」
呼び鈴はないから、店員を呼び止めて早速注文をする。
「私は、ストロベリーワッフルとグレープティーでお願いします。明久くんは…」
「うん。僕は、この生クリームで。」
無料、と書いている生クリームを指差す。十分なカロリーにもなる。
「あの…お客様…。」
生クリームになにか問題があるのだろうか。
「それは、パンケーキを頼んだお客様のみのサービスとなっておりまして…」
なんだって⁉︎とんだ誤算だ。
「ワッフルとグレープティーだけで、お願いします!」
姫路さんが顔を真っ赤にして、僕の生クリーム注文を打ち消した。
僕のデザートが無くなってしまった。
店員が去って行ってから、姫路さんが僕にさとすように言ってくる。
「明久くん!さすがに恥ずかしかったです…」
「ごめんね。今僕の財布は、雄二と同じぐらいの価値のお金しかないんだ。」
「明久くんにとって、坂本くんの価値ってほぼ0円ってことですか…。」
なにか複雑そうな顔をしている。
雄二の価値に関しては、マイナスでもいいくらいだ。
雑談をしながら待っていると程なくして、きれいに盛り付けられたワッフルをウエイトレスさんが運んでくる。
なぜか少し笑いそうになりながら。
「わぁっ!すごい美味しそうですね!」
「そうだね!」豪華にイチゴやベリーが盛り付けられ、ストロベリーソースがたっぷりかかったワッフルはとても美味しそうだった。
でも実は僕はお腹いっぱいなんだ。お腹いっぱい。お腹いっぱい。お腹いっぱい…
自分に言い聞かせていて虚しくなってきたのでここらでやめておこう。
そんな葛藤を繰り広げていると、姫路さんが
「明久くん一口食べますか?」と、フォークにさしたワッフルをさしだしてくる。
「ほんと⁉︎ありが…」
はぁっ!これは、…もしかして間接キスになってしまうんじゃないか⁉︎
それならより一層…
「明久くん?」
「やっぱりいいや!姫路さん食べなよ。」
ダメだ!そんな心でそんなことをしてしまえば、姫路さんのあの素敵な笑顔を見ていられなくなる。それに…どこかで怖い気持ちもあったから。
「そうですか…。本当にいいですか?」
そう言われると、よりワッフルが魅力的に見えてくる。
でも姫路さんの笑顔を見ているためにも、そんなことはできない。
ここは僕の得意技である自己暗示を使って、なんとかこの感情を克服してやるっ!
「あれは、雄二が食べたワッフル、雄二が食べたワッフル、雄二が…」
「明久くん?なにをいってるんですか?」
「うん。ワッフルを雄二が食べていたワッフルだと思い込もうと思って…」
「そんなに坂本くんが食べたワッフルが食べたいんですか!」
え?
「坂本くんが食べたワッフルじゃないとイヤですか?」
なんかとんでもない発言してるよね⁉︎
「断じて違うっ!」
「否定するのが余計に怪しいです!」
だからと言って肯定などするわけがないじゃないか!!
雄二が食べているワッフルなら全部食べ切ってやっても罪悪感がないから、暗示をかけていただけで…
うん。なんか言い訳みたいに聞こえるね。
泣きたくなってきた。
すると、不意に店内が騒がしくなり始める。
「なにかあったんですかね?」姫路さんが心配そうな顔で聞いてくる。
「どうしたんだろう…。」
そう思って、よく聞くと、
「 早く救急車を!」
なんて声が聞こえる。食中毒でも起きたのだろうか。
「血が!血が止まらないんです!」
「いやぁ、これくらいなら…」
「どこがこれくらいなんですか!」
見に行くと、
案の定というかなんというかムッツリーニが鼻血を出して倒れていた。
「ムッツリーニ!」
「土屋くん!」
「お客様!お知り合いなんですか?大変なことに…」
「「いや、これくらいなら本当に大丈夫だと…」」
工藤さんが手早く輸血すれば…
「工藤さん!はやく輸血を…」
「それが焦ってて、輸血パック忘れちゃって…」
「じゃあ僕のかばんに入ってるからつかうといいよ。」
「私も一応持ってきます。」
そう言って、2人して輸血パックを取りにいく。
ムッツリーニの命のために、僕らのかばんには常に輸血パックがはいっているのだ。
ムッツリーニの血液型と同じ人なら、誰であろうと助けることができる技術もある。
「蘇れ!ムッツリーニ!」
いつもの蘇生の儀式をすると…
「…夢を見ていた。女子高生のパンチラ…」
「うん。間違いなくムッツリーニは、大丈夫だよ。」
すると、店全体からなぜか拍手が沸き起こった。
「吉井クン、ありがとー。ごめんね?」
「うん。いいよ!いつものことだし。」
「あ、愛子ちゃん!私の輸血パック持って行ってください。」
「ホント?ごめんね!ありがとー!」
「それと…頑張ってください…ね?」
「うぅ…。そういうんじゃ…ないもん!」
クリスマスイブにデートしていて、まだこの2人は否定するらしい。
あれ?ということは、逆に、僕は姫路さんと…そういう関係に見られているってことだよね…。
考えていると恥ずかしくなってきた。
「さぁ、明久くん。邪魔しないためにも行きましょうか?」
「そうだね。あれ、姫路さんワッフル食べ切ったの?」
「はい!たった今。」
姫路さんも2人を邪魔したくないのだろう。
「行こっか。」
ここで、手でも差し出せれば、かっこいいのだろうけど、そんなこと僕にできるわけもない。
「はい。」
2人してお店を出る。
工藤さんとムッツリーニの関係のことと、ムッツリーニの命の無事を祈りながら。