いくら待っても雄二は来ない。
…
「…帰ろうかな。」
バカテスト
生物
海産軟骨魚類が、体液を維持する方法を、詳しく説明しなさい。
姫路瑞希の答え
体液に尿素をとかしこみ、浸透圧の差をなくす。
教師のコメント
正解です。それにより、浸透圧調整をします。
吉井明久の答え
(自主規制)
教師のコメント
そんな行為ではありません。
島田美波の答え
殴り合わないこと
教師のコメント
体液がでるというのは、別に戦って、けがをしてでるわけではありません。
ムッツリーニと分かれて、走り出す。目指す場所はいつもの待ち合わせ場所。
「翔子!」
やっとのことで駆け込んで、名前を呼ぶ。
だが、何秒待っても声は返ってこなかった。
「くそっ!どこにいやがる。」
携帯電話を取り出して、いつのまにか再び翔子の名前だけにされていたアドレス帳を開いて、電話をかける。
すると、ピリリリ、と電話の鳴る音が自分の足下でする。
「あいつ…こんな時に…普通、携帯置き忘れるかよ…。」
心あたりはそんなに多くはない。ここにいないとは思わなかった。
置いてかれていた翔子の携帯電話をポケットにしまう。
もう帰ってしまったのだろうか。
いつになく冷静さを欠いているのを感じつつ、昇降口を駆け下りて、靴箱をスルーして走り出す。
なにをこんなに焦っているのだろうか、自分でも分からなかった。
けど、分かっていること一つ。強がって、わがままばかり言っていたのはあいつだけじゃなかった、ということ。
自分のわがままでこんなに待たせてしまっているのだから。
今、きっとあいつは1人だ。昔みたいに1人。肝心な時はいつも1人。
俺は、そんな奴の横にいなきゃいけない。
ただそれだけ。
いつもの帰り道を、全力で走る。
その道のどこにも見当たらなくて、むなしくも家までたどり着いてしまったのだけど。
本当にどこにいるんだろうか。
ついてしまったものは仕方が無い。
もしかしたら家まで来ているかもしれない。
なんせ毎朝寝込みを襲ってくるのだから。
そう思って、
家の中に入りこんで、リビングの入り口で叫ぶ。
「おふくろ!」
「あら。雄二、おかえりなさい。」
と呑気な声で母親が迎えてくれる。
小さなレゴを組み立てながら。
「おい…それいつからやってるんだ。」
いつも通りの姿に呆れながら、思わず聞いてしまう。
見たところレゴの高さは、俺の腰あたりまではあるだろうか。それも、一番小さなレゴで。
「そういえば、雄二が出かけてすぐに、見つけて…」
軽く7時間と言ったところか。もはや完全に病気だ。
「やめろ!もう、それは没収だ。」
「えー。なんで…」
なんでもこうも、やる意味がゼロだし見てて怖いから。
はたからみても、この光景は、俺が親にしか思えない光景だろう。
「そういえば…翔子来なかったか?」
「来てないわよ。もしかして…喧嘩でもしたの?」
と、目の奥を貪欲に光らせて聞いてくる。
こういう時だけ鋭いのが鼻につく。
「そうか…。」
「クリスマスイブに喧嘩なんて、最悪よ。」
「…うるせぇ。」
「じゃあなんとか見つけて仲直りすることね。さぁて!…私は料理でも…」
気を取り直したように、立ち上がった母親がとんでもないことをいいだした。
「ひとつ忠告しておくが、そのレゴは、煮ても焼いても食えないぞ。」
「えぇ!うそ!まじ⁉︎」
本気で煮るつもりだったらしい。危ないところだった。
だからこの母親には、ほとほと困らせられる。
「なんて冗談は置いといて、とっとと見つけなさい。」
あんたが言うと冗談に聞こえないんだけどな。
「おう。」
とりあえずは、
そう、とだけ返事をして家を出る。
焦りすぎて、上靴で帰ってきてしまっていたらしいから、靴も履きかえよう。それから自転車にも乗って行こう。
そうして、家を自転車に乗って駆け出す。
こういう時、数学の問題ならすぐに追いつくのだろうけど…
あいつがどこにいるか分からない、という問題は今の俺には解けそうにもなかった。
…。
だったら、難しく考える必要なんてない。がむしゃらにバカみたいに探せばいい。
バカな悪友がやるように、Fクラスなりのやり方で。
街は隅々まで走った。
どのくらいのスピードで走っただろうか。自転車もきりきりと音を立て始めている。
島田の教科書を追い求めて、トラックを追った時よりも走ったかもしれない。
あの時、俺は最高のバカに会った。それで、そんなバカが自分が欲しくて仕方ないものを全部持っていることに気づいた。
バカでもいい。
学力とかそんなものよりも大切なものがあること。それが改めて分かった、あの時。
今は俺がバカになる時だ!!
翔子の家にも行った。昔、通っていた小学校にも行った。中学校にも行った。
けれど、どれほど行っても行っても見つからない。
「はぁ。」
携帯は繋がらない。何度見ても、着信なんかあるわけはない。
時計は、もう8時前を指していた。もうとっくに日は沈んでいる。
そんな時メールが届いたのか、携帯が鳴る。
翔子なわけはないのだが、一応見ておこうと思って、メールを開けると、明久からの
雄二!ちゃんと仲直りできたの?
なんてメールだった。
あいつは今頃姫路とうまくやっているだろうか。
俺は…、といえば。
「くそっ!」
携帯をしまって、再び走り出す。
もう一回。もう一回だけ。いってみよう、いつもの待ち合わせ場所に。
走りに走って、学校にたどり着く。夜の校舎にはもちろん人気はない。
「おえ、ちょっと気味わりぃな。」
夜の校舎は、なにか出そうなレベルだった。
赤い消防灯のランプだけが光る中を、ゆっくり上がっていく。
空いていた窓ガラスからは風が吹き込み、とても寒い。
「警備ちゃんとしてんのかよ…」
携帯のフラッシュは、たいていると、逆に不気味だ。
「おう!」
不意に足をとられたらしい。目が慣れるまでは大変だ。
それから、足元に気をつけながらゆっくりといつもの場所に向かう。
すると、
いた。
静かに膝を折りたたんで、まるで捨てられた犬のような幼馴染が。
普段からまとっている雰囲気もあいまって、辺りがより一層暗く感じた。
「…雄二?」
その声に安堵と、疲れからため息が出る。
「はぁ。やっぱりここにいたか。」
「…雄二!遅い。」
「うるせぇ。仕方ねぇだろ。」
人の苦労も知らないでなんてことを言うのだろう。
「…罰として、手錠をかける。」
「なっ⁉︎お前またそんなものを…」
わかりやすく取り乱してしまうと、
「…冗談。」
そう言って、翔子は、くすっと笑った。
だからこいつがやると、冗談じゃないから本当に困る。
「…来てくれて、嬉しかった。」
「そうか。」
「…待ってた。」
「探した。」
「…私も。」
「そうか。」
短い言葉の中に色々な感情を感じた。
「…雄二。ごめんなさい。」
半分泣きながら、こっちを見上げてくる。
「それは俺が言わなきゃいけないことだ。」
「…そんなことない。」
翔子の奴。こういう時だけセンチメンタルでいやがるから困る。
「…帰るか。いつまでもこんな気味悪いとこに居たくねぇ。」
「…うん。」
とりあえずは、連れ立って校舎を出る。あんまり長居して、こんな時間にこんなとこにいるのを見られたくもないし、なんせ気味が悪かった。
「あ、俺、自転車だったっけ。」
見つけられた安堵感ですっかり忘れていた。
「…そうなんだ。」
「乗るか?」
「…2人乗りは、交通違反。」
「ちげーよ。俺はお前が一人で乗るか、って聞いたんだ。」
「…雄二。ひどい。」
「ひどくなんかねぇ。」
「…雄二、乗せてくれる?」
「交通違反だ。」
「…大丈夫。」
なにを根拠に言うんだろうか。見つかったらお縄だ。
でも、今はこいつの言う通りにしてやろうかと思えてくる。
雪がちらついてきた。これから、もっと寒くなるだろう。
「ほら、乗れよ。」
「…うん。」
後ろに翔子がちょこんと座る。
2人分の体重を乗せた自転車は、ゆっくりゆっくりと、軋みながら、走り出した。
翔子がわざとらしく体重を預けてくる。くすぐったくてしょうがない。
でも今は、
今日は、これでもいい気がした。今日だけは、このままこうしていよう。
こいつの気が済むまで。