「なによ秀吉。今日は妙に気が利くわね。」
「そんなことないのじゃ!いつもお世話になっておるからのう。あ、姉上。」
「なによ?」
「クリスマスプレゼントがあるのじゃ!ほれ。」
秀吉がそういいつつ引っ張り出してきたのはゆうこの大好物の同人誌。
「え!?なにこれ、ありがとー秀吉っ!」
「姉上。それと言ってはなんなのじゃが、ひとつ頼みが…」
バカテスト
世界史
中世において、インカ帝国が滅亡した時の最後の王を答えなさい。
木下優子の答え
アタワルパ
教師のコメント
さすが木下さんです。スペインにより、滅ぼされました。
島田美波の答え
モーツァルト
教師のコメント
何問も連続で、モーツァルトと書かれても…
当たりません。
吉井明久の答え
アッチャー…
教師のコメント
なにか、失敗したんですか。
なぜアタシはこんなところにいるのだろう。
Fクラスの男子の集会なんて、ところに。
雑誌を片手に、お願いされて、断りたかったのだけど、目の前にちらついた好物に目がいって、
不承不承受けてしまった結果がこれだ。
演劇の公演があるなら初めから断ればいいのに…。
予約してしまったから、なんて言い訳にも満たない。
秀吉のやつ、家に帰ったら、腕を2本は折ってやる!
「どうしたのさ秀吉。ぼーっとして。」
「な、なにもない…のじゃ!」
吉井くん⁉︎全く警戒してなかったから焦ってしまった。
「吉井、木下。くっちゃべってないで、行くぞ。」
たしか…須川亮だっけ。試召戦争の時は申し訳ないことをしたような気がする。
「あ、うん!待ってよ。須川くん。」
「そ、そうじゃの!」
どこか目的地があるようで、そこに向かうらしい。
変なとこに連れ込まれなければいいのだけど…。
吉井くんたちに限ってそんなことはないか…。
にしてもどこに行くんだろう。
「ね…のう!雄二。」
「なんだ、秀吉。」
「どこに行くのじゃ?」
「言ってなかったか?単純に飯食いに行くだけだ。論功行賞も兼ねてな。須川が予約してくれている。」
論功行賞?なんのことだろうか。気になったが、特に聞くこともせず、なんとかかんとかごまかしつつ、雑談をしているうちに、目的地にたどり着いた。
「のう…明久。これはどういうことじゃ?」
「どうしたのさ。秀吉。待ちに待ったメイド喫茶だよ!」
「なんだ、木下。やっぱりホストクラブの方が良かったか?」
普通にご飯食べに行くって言ってなかったっけ⁉︎
なんで、メイド喫茶なのよ!!
だからといって、ホストクラブも別に行きたいわけじゃないんだけど…。
「おい、須川…これは…」
このクラスの代表である坂本くんが、呟く。さすがにこんなところとは思っていなかったのだろうか。
ようやく通常の思考の人を見つけられた。
「最高じゃねーかぁぁ!!」
前言撤回。今度、代表に報告してやろうかしら。
横を見ると、
「…メイド服ぅっ!!」
全くこんなことじゃ、愛子も大変ね…。
全員して、店に入って行く。こんなにむさ苦しいことはない。
「「「おかえりなさいませ!ご主人様ー!」」」
「「ただいま帰りました!マイスウィートハニー!!!」」
ダメだ。こいつら、息がぴったりすぎる!
「こちらへどうぞ?ご主人様。」
「「はい!」」
…。
「待て。有藤!今のは俺に対していったに違いない。」
「うぬぼれるな。福村。俺に決まっているだろう?」
「待ちなよ。僕に違いないよ!」
「「それだけはない!!」」
「僕、泣いちゃうよ!」
「アキちゃんが泣くならそばにいてやるが、お前なら蹴飛ばしても構わない。」
「まず、僕の女装のどこに、そんな魅力があるの⁉︎」
ダメだわ。こんなノリ…もうついて行く自信がないわ…
「アキちゃん!!」
ふと、大きな声がして、そっちの方を見やると、Dクラスの玉野さんがいた。
なんでこんなとこに⁉︎
「この声は、もしかして…玉野さん⁉︎バイトしてるの?」
「ご名答!会いにきてくれたの⁉︎」
「ち、違うんだ!たまたま来ただけで!」
「はぁっ!もしかしてバイトの申し込み⁉︎」
「話聞いてた⁉︎たまたまだよ!なんで僕がメイド喫茶で働けると思ってるの⁉︎」
「「「迷いなく通う。」」」
「…写真とりにいく。」
「やめて⁉︎やらないからね?それとムッツリーニ!僕は商品にはならないよ!」
そのセリフもどうかと思うんだけど、ね。
それにしてもこんなくだらないことずっとやってもいられない。
「と、とりあえずなにか注文せぬか?」
「おう。そうだな。お前ら、そろそろ座れ。座ったやつから、聖書…」
ガシャ、ガシャン!
そう言うと、みんなが一斉に素直に座る。
Fクラス代表だけあって、坂本くんはさすがにバカをまとめるのがうまいらしい。
にしても、聖書ってなになのかしら。
「みんな同時だったから聖書は、無しだな。」
「雄二!だましたな!」
「「「許さないぃ!」」」
このまま騒がせておくのもお店の人に申し訳が立たない。
「まぁまぁ、店の中で騒ぐのはやめるのじゃ!」
「「「女神様の仰せのままに。」」」
一瞬で静まり返った。
秀吉は、Fクラスの女神らしい。
これだけ言うことを聞くとは、少し面白いかもしれない。
「にしても、他のみんなも来ればよかったのにね。」
たしかに今ここにいるのは、人数にして10人ほど、Fクラスの男子の一部だけだ。
「朝倉は、近所のお姉さんとデートらしいぞ。」
「あいつの近所、おばさんしか住んでねーぞ。」
「加藤は、いとこの女子高生と遊ぶらしい。」
「あいつの親どっちも、兄弟いなかったよな。」
「明久は、姫路とデート…」
「「「殺す!」」」
「待ってよ!なんで僕だけ⁉︎ここにいるじゃないか。僕は秀吉がいればそれでいいんだ!」
まさに上の空。少しぼーっとしていたから、急に肩に手を置かれて、体がビクッとなってしまった。
「…どうしたのさ?秀吉。なんかちょっとおかしいような…」
「そんなことない…のじゃ!」
危ない。ぼーっとしてたら気づかれてしまう。
いや、別に気づかれてもいい気がしてきたのだけど…。
「まさか、また入れ替わって…」
坂本くんが発言しようとしたその時、
「ご主人様、おかえりなさいませ。ごゆっくりして行って下さいにゃん!」
キラキラ、メラメラのメイド服を見にまとい、わざとらしいぐらいのメイクを顔に施し、甘い匂いを漂わせたメイドさんが、その声を阻んだ。
とかく語尾の「にゃん」が耳障りだ。
ちょうど注文を取りに来てくれたみたいだ。
「今日はなにをするにゃん?」
「「「エッチなこと!」」」
「にゃんにゃん!」
「にゃん!」
「にゃあーん!」
「にゃにゃにゃあーん!」
むさ苦しい奇声が方々にあがる。
もう…帰りたい。
しかし店員さんは言われなれているのか、引きつる顔もみせず、
「ご主人様。それは、できません…私のハートでお飲物を美味しくすることなら…できるにゃん。」
「「とにかくアフター行きませんか!?」」
愛に飢えすぎた変態どもに驚愕する。
飲み物を聞かれてるというのに。
それとともに、秀吉の真似をしているとはいえ、自分は女なのに誰も振り向かないということが、妙に腹立たしかったりもするのだけど。
「すいません!全員にオムレツと飲み物でお願いします…。」
吉井くんが呆れ顔で、そんな注文をした。
吉井くんは、こういう時は真面目になるみたい。
「…秀吉。」
ちょいちょい、と突っつかれて振り向くと土屋くんがカメラを構えていた。
写真を撮るというのだろうか?
秀吉の変わりとはいえ、写真を撮られるのはやっぱり恥ずかしい。
「…今日の秀吉からはいいショットが撮れない。」
我慢ならない!
「なにが、よ!」
ぷしゃああああ!
「….む、むね…」
「ムッツリーニぃぃ!!」
地面が真っ赤に染まる。メイドさんごめんなさい!
お仕事頑張って。(主に掃除)
とりあえず…愛子。さすがにこいつはやめておいた方がいいんじゃないかな…
しっかりと関節を決めながら
そう、胸の奥で、友人に呼びかけた。
「秀吉。なんだかわかんないけど、そろそろやめてあげて。ムッツリーニ死んじゃうよ!貧血で。」
なんてしょうもない死因なのだろうか。
「明久は、メイドとの会話、参加しなくて良かったのか?」
「僕には秀吉がにゃんにゃん言ってくれるからね!」
よ、吉井くん⁉︎な、なんてことを言うの!!
「…期待。」
「それは面白そうだな。」
いつもの3人がニヤニヤし出した。
「そんなの言えるわけない…じゃろ!」
少し大きめの声で言ってしまって、今度はFクラスのみんなの注目を集めてしまった。
「秀吉。みんなが期待してるんだよ?お願い!」
「「「お願いにゃん!」」」
「…レコーダーはある。」
「秀吉。適当にやっとけ。こいつらはそっとやちょっとじゃひっこまねーぞ。」
うーん…。このまま変態どもに、にゃんにゃん言われてもたまらない。
ちなみに私の趣味は変態じゃなくて、高尚なたしなみの一環だからね?
…仕方ないか…けど、本当に嫌だ。なんて恥ずかしいんだろう…
秀吉、今回ばかりはごめんなさい、と思いながら
「にゃん、にゃん。」
言ってて、顔が赤くなってくるのが如実にわかる。
「「「萌ええええぇ!ぐはあああっっ!!!」」」
メイド喫茶は、さっき以上に突如サスペンス劇場の撮影現場と化した。
その後も、メイドさんとの萌え萌えじゃんけんなどイベントが開催され、バカ共は大きな盛り上がりを見せていた。
「私はあなたの?」
「「「ダーリン!!」」」
「本当に?」
「「「大好き!」」」
一方でそんな真横では、
「アキちゃん!特別接待してあげる!」
「特別なのはいいんだけど、メイド服は嫌だよ⁉︎」
「…シャッターチャンス。」
「やらない!やらないよ!僕は、全力投球でプロマイドになんかならなぁぁいっ!」
「はっ!坂本くんと一緒じゃなきゃやらない、ってこと⁉︎」
「雄二一人なら全然いい!」
「まさか!坂本くんに着せて楽しもうっていうの⁉︎」
「明久…俺にメイド服を着せる趣味があったのか…」
「って!違うよ!断じてそれはないっ!絵面が汚い。メイドは秀吉がすればいいんだよ。」
「…吐き気。」
「男同士は、爽やかだよ?」
「「「いいえ!全く。」」」
男同士は爽やか、というところのみ共感した。
両端に繰り広げられるバカの大騒ぎ。
その間、アタシはずっと頭の中で例の雑誌たちを思い浮かべて、耐えていたのだけれど。
「そういえば、秀吉。今日はメイド服着ないの?」
「へ⁉︎」
突然話しかけられて、焦る。
「…秀吉はいつだってメイド服が似合う。」
「やめとけ。秀吉がこまってるだろ?」坂本くんが少しニヤッとしたのがわかった。まさか気づかれたかしら?
「ちぇー。秀吉のメイド服見たかったのに…」
「そろそろ行くか。いつまでも馬鹿をのさばらしても申し訳ない。メイド喫茶で十分な褒美になっただろ。」
「ははは…。」
吉井くんが苦笑いをして見せる。
「そ、そうじゃのう!」
やっとここを出れるらしい。
「すいません。ご主人様!ではお会計を…」
「「「こいつが一括で!」」」
Fの面々が坂本くんを指差した。
「お前ら、おとなしく会計しろ。会計したやつには、3HD(秀吉生写真)だ。」
「「まかせろ!」」
なんて扱われやすい単純な人間(変態)どもなんだろう…。
各々が会計を済ませていく。普通のお店よりは、やはり何倍も高い値がする。
この料金も秀吉に請求してやらないと。
「また来てくださいね?」
なんていうお見送りの声に、元気よく返事をして店を出る。
これでやっと解散かな?なんにしても、難所はクリアしただろう。
店を出ると、空は暗くなってきだしていた。
冬の風が頬をつたう。それは、アタシを一仕事終えたような不思議と心地よい気分にさせてくれた。
「なぁ!公園でサッカーしにいかねー⁉︎」
須川亮がサッカーボール片手にいきなりそんな提案をする。
え⁉︎それ今までカバンに入れてたの⁉︎
「それはいいな!」
「須川くんナイスアイデア!」
もうこのノリなんか小学生の、遊びに行こーぜ!の感じとなんら変わらない。
本当になんというか…
公園に着く頃には、もう辺りは、すっかり真っ暗で、照明があかあかと照らし出すグラウンドだけが、ぼんやりと光の城のように、浮かび上がっていた。
「輪になって、蹴っていこうぜ!」
「おう!」
ここまで来て、混ざらないわけにもいかないから仕方なく、輪に加わる。
しばらく蹴っていると…
「ただ蹴るだけじゃ面白くねーよな。」
「気になってる女の子の名前言いながら蹴らねー?」
「「それだ!」」
え?なんかすごい流れになってきてる⁉︎
待とう。一旦落ち着こう。
まぁ、アタシの気になってる人は別に言わなくてもいいのよね。
ということは…秀吉の気になってる人…誰⁉︎
「じゃあ俺からだな。(美脚AV女優)!」
「(爆乳ヌードモデル)!」
「(貧乳AV女優)!」
「(自主規制)」
「(モザイク音)」
知らない人の名前しかないんだけど…。
「待てよ!お前ら。それじゃあ面白くねー!うちの学校に限ろう!」
「「⁉︎」」
「うぅ…。そうなると、恥ずかしいな…中林!」
「「「絶対無理!」」」
「その唱和傷つくんだけど⁉︎」
それを皮切りに、アホが好きな人の名前を叫びながらパスを回していく。
「ほれ、須川!」
「うむ。き、木下優子!」
「「「秀吉の方がいい!」」」
もうこいつらを生かしておく意味が分からなくなってきた。
でも少し須川亮を見直した。秀吉に負けなかったことが嬉しかった。
「お前ら!木下さんを悪く言うな!」
須川亮がそんなことを言う。
目の前で言われると、嬉しいような、こう…なんというか恥ずかしくて仕方が無い。
「次は、坂本だな!」
「須川。やるじゃねーか。目の前でそんなこと言うとは。なぁ、秀吉?」
これは、完全に気づかれてるわね…。あとでなんとか説明しておこう。
「そ、そうじゃの…。」
そのせいで、少し焦って、こうやって答えるのが精一杯だった。
「ほれ!坂本!」
「くっ…。全くもって、言いたくねーが…き、霧島翔子!」
あたりが一瞬静まり返る。
「…雄二。ばっちり録音。」
「なっ!頼む!消してくれ!言わないと殺される気がしたんだ。」
「「処刑。」」
「それだけはやめろ。」
やっぱりなんだかんだ代表はうまくいってるみたい。坂本くんがその名前を叫んだ時は他人のこととはいえ、自分も少し嬉しかった。
「いいから早く「愛してる!しょーこー!」ってやめろ!くそっ。まだその音声のこっていやがったのか!」
「つ、次は、ムッツリーニだな。」
「…そんなのはいない。」
「それはルール違反だ!早く言ってしまえよ!」
「…高橋女史。」
「「「全然いける!」」」
「…次は明久。」
なんて、選択肢なの⁉︎愛子が本気で心配になってきたわ…。
「くっそ!ムッツリーニめ!僕も言おうとしてたのに!」
高橋先生人気高いわね…
「僕は…ひ、ひ、ひ、秀吉!」
「な、なんじゃと⁉︎」
やっぱり吉井くんってそっちの趣味…
「姫路に報告だな。」
「やめて!命とか命とかに関わるから!」
「訂正するよ!姫路さん!」
「「処刑。」」
「やめて!それはお願いだから!っと、次は秀吉だね。」
ついにボールが回ってきてしまう。
秀吉の好きな人…
アタシ、なんて言ったら引かれてしまうだろうし、
代表も愛子も、姫路さんもダメ…まさか清水さんや玉野さんはないだろうし…となると、
島田さん?
でも島田さんは吉井くんのこと…
でももう言う候補が、島田さんぐらいしか残っていない。
「し、島田美波!」
「「「その組み合わせ最高!」」」
バカがその一言で、大騒ぎし出して、輪が崩れる。
その場の盛り上がりは最高潮を見せていた。
「……。」
一方で、そんな楽しそうにしている中から外れて、
1人、ハッとした様子で珍しく深刻そうな顔をしていた吉井くんの姿が目に写った。
「どうしたんだ、明久?」
「TょωヵゝぁT=まヵゞレヽT=ィ冫ヵτレヽこ<。」
「はぁ?」
…
その日はそのまま解散となった。
吉井くんは気づかなかっただろう。アタシがひっそりと、その言葉の意味を理解してしまったことに。