そんな時。ピリリと電話がなる。
「もしもし、あ明久くん?」
「姫路さん!どうしたの?」
「はいっ!坂本くんたちと初詣に行こうって話になってるんですけどどーですか?」
体調もだいぶよくなってきている。それに姫路さんからの誘いを断るわけにもいくまい。
「うん、いくよ。」
「じゃあ11時40分頃に。」
「うん!」
バカテスト
日本史
鎌倉期において、神仏習合を、当時の主流であった本地垂迹説に反対し、神本仏迹説を唱えたのは誰か。
吉井明久の答え
度会家行
教師のコメント
正解です。驚きました。ここまで、できるとは。
そうですね。伊勢神道とも呼ばれた神道を唱えました。
次の室町期にも同じようなことを、吉田兼倶が唱えて、吉田神道と呼ばれました。
そこも区別してください。
木下秀吉の答え
イエス・キリスト
教師のコメント
それは、また違う神様です。そもそも鎌倉期ではないでしょう。
島田美波の答え
イエスマン
教師のコメント
「はい。」とでも言えばいいですか。
姫路さんとの待ち合わせ場所である喫茶店の前に行く。
外に出るまで気づかなかったが、昼の間、外は雨が降っていたらしく、足元は濡れていた。
夜は冷え込むだろうからあったかい格好をしていけ、と姉さんが言うがままに5枚は着込んだ。
少し着ぶくれしてしまうぐらいだ。
「明久くん。こんばんは!」
「あ、姫路さん!こんばんは。待たせた…かな?」
着くと、もう姫路さんは待ち合わせ場所についていた。
どれくらい待たせたかは分からないが少し申し訳ない。
「いえ。全然です。ただ…明久くんと早く会えたらいいな、と思って…。」
「なんか用事でもあったかな?」
早く会うような用事でもあったっけなぁ。
「…なんでもないです。とりあえずみなさんのところに行きましょう?」
少しうつむき加減に姫路さんが言う。なんだったんだろうか。
「そうだね。」
とにかく行こう。
神社まで行く途中のあたりから、人がふえてきていた。その人の流れの全てが向かう場所が神社だろうか。こんな真夜中に、あかあかと照らされている辺りが、少し眩しい。
それとやはり屋台の匂いだろうか。いろいろな食べ物の匂いが混じった匂いが流れてきていた。
「雄二!生きてたんだね…。」
「明久。よかった!本当によかった…」
いつから僕らは、日々、命の心配をしあうようになったんだろう。
「お主らは、本当に仲がよいのう。」
「…命は大切。」
「苦しい人生を送ってるのじゃのう…。」
うん。
「瑞希!久々ね。」
「はい。会いたかったです。」
なんて、よくあるあいさつをかましていると、霧島さんと工藤さんも来たらしい。
「…来た。」
「坂本と一緒に来ないなんて珍しいわね。」美波がそう聞くと、
「…愛子が道が分からないから。仕方なく。本当はいつだって雄二のそば。寝てる時も、風呂に入ってる時も。」
そういえば、工藤さんって転校生だったっけ、か。なじみすぎてすっかり忘れていた。
もう霧島さんに関しては、つっこまない!
「そういえば美波はよくここまで来れたね。」
美波は、たぶん来たことがないだろう。
「木下と来たのよ。教えてもらわなかったら知らなかったもの。」
なるほど、そういうことか。
秀吉とうまくやれてそうだなぁ…。
「あっれ!優子は?」
「年越しで、どうしてもしたいことがあるとか言っていたのじゃ。」
なんとなく残念なことなんだろうな、ということは分かった。
「…残念。」
「そうか…。なら、これで揃ったか。じゃあ行こうぜ。早めにしねーと帰れなくなっちまう。」
これだけの人だ。確かに、帰れなくなるかもしれない。
みんなして、神社の中へぞろぞろ入っていく。本殿は少し小高いところにあって、しばらく上り坂を登らねばならない。
往々にして、神社はそういうところにたっている。
「にしても、初詣なんて初めてだからなんか怖いわ。」
そっか。美波は、ドイツからの帰国子女だから確かにこんな文化自体を、見たこともないか。
「ただお参りするだけだよ。お金を入れて、お願いごと言うだけ、かな。」
「お願いごと…。なんかえらく現金ね。」
「たしかに…そうかもしれませんね。」
「…難しく考えなくてもいい。」
「なんか適当ね。」
確かに、適当だと思う。仏様や神様を、キリスト教がやるように主をどこまでも尊敬とか、とは全然違う。
だいたい仏教も神教も混じってしまって、よくわからないくらいだ。
「日本なんか大抵の奴がそんなもんだろ。せいぜい少し信仰するくらいだ。」
なんかそんなことでなにが叶うんだろう、って気もするんだけど。
お賽銭だって、お金を遠投するみたいにいれる人もいるんだ。神様もこうもあったものではない。
「…屋台、気になる。」
「ムッツリーニ君?こんな時間にわたあめなんて、太るよ?」
「…そんなものどうでもいいっ!その先にいる屋台のお姉さん…」
ムッツリーニ。写真だ!写真をはやくぅぅっー
「もう!ムッツリーニくん。いい加減にしないと、またスカートを…」
「…工藤。今日はズボン。」
「あれ?そうだっけ。…ってそんなことはいいの!そんなものばっか見てない!」
ムッツリーニの頭には煩悩を消してくれる鐘は効かないらしい。
もし効いたとしたら、存在価値が危ぶまれるだろうが。
「あ、あれは!!…巫女っ!!」
「「なに⁉︎」」
残念だ。僕ら3人共どうやら効果はないらしい。
そのあと、
いつも通り霧島さんに、ボコボコにされた雄二と、
姫路さんに至る所の急所を打たれた僕は、
なんとかかんとか意識を取り戻すのに、15分は要した。
「お主ら大丈夫かの?」
「ほんと…。まぁ、いつも通りなんだけど。」
秀吉と美波が、心配してくれる。
「雄二…コテンパンだね。」
「…明久こそ、コッペパンみたいな面しやがって。」
失礼な!焼きそばぐらい挟めるはずだ。
ってなんの話だっけ。とにかく…
「僕たち前より回復するまでの時間早くなってない?」
「あぁ。着実に進化してる。…慣れ、って恐ろしいな。」
おかしいな…笑えないや。
「なにやってるのじゃ、お主らは…。」
「…バカ。」
貴様にだけは言われたくない!ムッツリスケベめ!もとはといえばムッツリーニのせいだ。
工藤さんが暴力を振るわないのが羨ましくて仕方がない。
最近は、美波も振るってこないけれど。
「…あと1分で新年。」
「なに⁉︎気絶してるうちに、そんな時間か。」
危なかった。間抜けな新年の迎え方するところだった。
「カウントダウンしようよ!」
工藤さんがそんな提案をする。
「…あと30秒。」
「「30、29、28、……」」
神社にいるたくさんの人の声が重なっていく。こうして数えていると、たしかに時間が過ぎていくのがわかる。
周りを見渡すとみんながみんな、楽しそうだった。
色々な人の色々な思いを乗せた今年が終わる。
そして、きっと同じようにたくさんの人の思いとか希望を乗せた来年がやってくる。
来年もきっと…ここにいる人たちと、楽しく…
「「10、9、8、7、6、5、4、3、2。」」
「「1。」」
「あけましておめでとうございます!」
「今年もよろしくね!」
そんな声が至る所から溢れ出す。こうやって、みんなが一体になる感じ。何と無く、
好きだ。
「みなさん!あけましておめでとうございます。」
「うん。今年もよろしくね。」
今年もきっと…
「もうすぐ参拝の番回ってくるよー。」
バタバタとしてて、気づかぬうちに、そんなとこまで来ていたらしい。
待っている退屈な時間を気絶や、年越しをしながら過ごせたから、そんなに長く感じなかったや。
「…みんなお願いごとなにするの?」
霧島さんが聞く。たしかにそれは興味深い。
「ワシは演劇がうまくいくように、かの。(あと姉上の変な趣味が直りますように)」
「ボクは、胸が大きくなることかな…(そしたら…)」
ぐはっ。鼻血が…
「…子宝に恵まれますように。(37人)」
雄二…お疲れ様。ついにパパになるんだね。
ご祝儀は、姫路さんのマドレーヌで…。
「私は、なにもかもうまくいきますように、です。(明久くんと…)」
姫路さん、なんかえらくアバウトだなぁ。
「俺は、バカのバカが直ることだな。」
雄二…それって僕のこと⁉︎
「…バカがより、お得意様になりますように。」
ムッツリーニ。それも僕のことだよね⁉︎
「バカがいなくなることかしら?」
美波、もはや僕に失踪しろというの⁉︎
誰か!僕に救いを!
「まあまあ、みなさん。バカと思われてる明久くんだって、バカのままじゃバカよわばり…」
姫路さん…あんまりバカって言わないでっ!
「…雄二。私とのことは願わないの?」
「お前が暴力ふるいませんように、って祈っておく。」
「…ひどい。」
「どっちが、だ。ところで…明久はなにを願う?」
僕?僕は、これと言って願い事なんて…姉さんの性格が直ることなんて叶うわけもないし…
「生きること。」
これに尽きるよね。
「「「うん。」」」
言ってるうちに、賽銭箱前までたどり着く。去年は1円足りとも入れなかった自分を思い出して、今年は10円は入れようかな。
二礼二拍手二礼だっけ。とりあえず、なにを願おうか。
生きていられますように。それから、……
……
「そろそろ行くぞ。明久。」
「え、あ!うん。ちょっと待って。まだ願い事が…」
「10円ぽっちで何個ほど叶えてもらうつもりなんだよ。新年早々図々しい。」
こういうのは金額よりも気持ちが大事だよね。うん。
「ねぇ!おみくじ引いてみない?」工藤さんが元気に提案してくる。
確かに、今年を、新年を占うものとして、引いてみたいかも。
「そうだな!みんなで引こうぜ。」
「おみくじ?」
「簡単に言うと、占いみたいなものじゃな。」
一昨年は、たしか吉が出たから、今年こそは大吉を…!
箱を振って、出たくじの番号を言う。そうしたら、巫女さんが、その番号をかかれた紙をくれる。
さて、大吉と対面してやろうじゃないか。
「一斉に開けようぜ。…せーの。」
ばっ!
末吉
どうしよう。なんのネタにもならない絶妙にどうでもいい扱いされてしまうクジじゃないか!
「なんて読むのかしら、吉中?」
「島田よ。逆から読んで、中吉じゃな。日本では昔、逆から書いておったからのう。ワシも中吉だったぞい。そこそこの運ということじゃの。」
「そ、そうなんだ!なんか恥ずかしい…。」
僕でもさすがに読めたというのに。(ちょっと戸惑ったけど。)
「雄二は、どうだったの?」
「明久。聞かないでくれ。俺は…」
末吉だ、と顔で訴えられた気がした。
「…雄二。私、大吉。」
「けっ。よかったじゃねーか。」
「…願い事必ず叶う。雄二との結婚も…」
「なっ!」
18になるからほんとに、籍入れられちゃうね。
結婚式のケーキは姫路さんに焼いてもらおう。
どうなっても幸せになんかさせるか!
「姫路さんは?」
「はい…。凶でした。でも逆に珍しいですよね…。」
なんというか…露骨に落ち込んでるのが手に取るように分かるなぁ。
末吉みたくどうでもいい、よりましじゃないか。
「ムッツリーニくん。ボクは吉だったよ。ムッツリーニくんは?」
「…俺は…聞かないでくれ。」
あ、末吉か。
一応、内容もちゃんと見ておこうかな。
えーっと…
勉学 努力すれば伸びる、か。まぁ当たり前だね。
努力すれば、というところが僕には無関係だ。
でも、今年は受験勉強しないといけないんだよなぁ…
少しは頑張らないと。
恋愛運 色情の難問題の起こる時だから用事せよ、か。
難問題…か。なんのことだろう。とりあえず気をつけておけばいいんだよね。
「ちゃんと読むと色々書いてあるのね。全然読めないけど…。ちょっとア…木下。よんでくれない?」
今!僕が!馬鹿だから、避けたの!?
それとも秀吉と話したいから…かな。
「…雄二、子宝に恵まれる、って書いてある。」
雄二、とりあえずおめでとう。
「お前の目は大丈夫か。どう見ても、和合の時である、しか書いてねーじゃねーか。」
「…気のせい。」
「お前のな。」
霧島さんはなんていうか、健気だなぁ。
「明久くん…私のおみくじ、恋愛運はいいことたくさん書いてましたよ?」
「そうなんだ!良かったね。」
「まぁ明久くんに全てがかかってるんですけどね…。」
そういうことか…。さすがに末吉の僕でも分かった。
末吉の僕次第…か。
「ムッツリーニくん、恋愛運どうだったー?」
「…いい被写体に巡り会える。」
ムッツリーニ、そんなおみくじあるわけ…
うん。
ムッツリーニならあるかもしれない。
「あとは、おみくじ結ぶだけですね。」
「そういうものなの?」美波が聞きかえす。
「たしか、ね。」
おみくじは、基本的には、持って帰るものではなく、結ぶところがあって、そこに結ぶと悪いことでも取っ払ってくれる、という。
末吉の僕の末吉も、そこにしっかりと結びつけた。
「よし、帰ろうか。あまり長居して風邪引いてもかなわねぇ。ま、ここで解散だな。」
「そうね。」
とか
「うん。」
とか口々に了承して散り散り、分かれて行く。
美波が秀吉と一緒になるとこがふっと目に写って、なんとなく目をそらした。
「明久くん。行きましょう?」
姫路さんが手招きしている。
僕も帰ろう。
帰り道の途中、
「明久くん。なんか…最近元気ないですね。」
と、唐突に聞かれる。
「え?そうかな。」
たしかに頭痛とか最近ひどかったりは、するんだけど。そんな分かるほどではないつもりだった。
「はい。なんかずっと悩んでる感じです。」
「そんなことない!」
なぜか強く否定したくなってしまった。
「そう…ですか。気のせいならいいです。」
ちょっと強くいいすぎたかな…。
「ごめん…。」
「いいんです。誰でも言えないことの1つや2つあります…よね。」
「…。」
「ちょっと変な話をしてもいいですか?どうでもいい、とか思ったら聞き流してください。」
「うん…。」
そういうと姫路さんはおもむろに喋りだす。
「今言ったみたいに、人は誰だって言えないことがある、と思うんです。きっと、そうやってなにかを隠してないと、自分を保てないんだ、って。自分が自分であるために必要なんだ。きっと。誰だって。そう、私は思ってます。」
「そういうものなの…かな。」
またこんな話か…。難しいなぁ。頭が痛いなぁ。
「嘘か本当かなんて本人にしか分からないんです。もしかしたら本人すらも分からないかもしれない。だから今明久くんに見えてるものは、本当は嘘かもしれないし、逆に言うと、明久くんが全く見てないとこに本当があるかもしれない、そう思うんです。」
「そういうことに、なるね。」
なるほど。これくらいなら、まだ分かる…。
「でも、自分を自分として守るためだからって、嘘で作り上げて、塗り固められた仮面を貼り付けないと、親しい人とすら話せないって、悲しいことじゃないですか?それは、もしかしたら今の私たちにも…」
「えっと…。」
ごめん!もう無理っ。パンクだ…。
「…いえ。恥ずかしいので…今言ったこと、忘れてください。分からなくても構いません!」
姫路さんが少し顔を赤にして、そんなことを言ってきた。
なんかごめんなさい。
そうやって、心の中で謝る。
そんな話をしていると、気づけば、もう姫路さんとの別れ場所についていた。
「では、また!」
そうやって姫路さんが手を振ってくれる。
「うん。」
はやく帰ろう。寒くなってきたし、また頭が痛くなってもかなわない。
鍵を開けて…
家に入って…って、、
「アキくん?」
姉さん?なんで起きてるんだろう。心配して待っていてくれたのかな。
とにかく返事だ。
「なにかな?」
「アキくん。」
「はい。」
「姉さんがどこかに行きますように、と祈った、とはどういうことですか?」
な、なんでそれを!!
「そ、そ、そんなこと祈ってないよ!そもそもなんでそんなことがわかるのさ!」
「はい。なぜかそんな気がしました。」
くぅ。こいつもエスパータイプか…
「違う!違うんだ!その…姉さんがお嫁に行きますように…って…」
これで誤魔化せるはずだ。
「では、今からアキくんのお嫁に行くとしましょう。」
「え?なに⁉︎待って。馬乗りになってなにするのさ!え!?ちょっとぉ⁉︎ま、ま、まってぇぇぇ!」
違う意味で頭が痛い。