登校の道すがら。
明久の胸の中には、高まるある種の希望のようなものとそれと最近ずっと感じてきた不安な感じ。そんなものが入り混じっていた。
とにかく新学期。はじまったからには色々と頑張らねばならない。
バカと佳境と新学期
バカテスト
音楽
ベートーベンの代表曲を4つ挙げなさい。
霧島翔子の答え
田園、エリーゼのために、運命、月光
教師のコメント
正解です。有名どこをあげてもらいました。音楽知識もあるとはさすがですね。
島田美波の答え
運命、エリーゼのために、髪の毛、爆発
教師のコメント
ちょっと思いつかなかったからといって、それはないでしょう。しっかりと覚えておきましょう。
吉井明久の答え
ゴースト、ライター
教師のコメント
とりあえず、やめなさい。
教室の前で一呼吸。
そして、教室に入る。すると…
新学期早々、Fクラスでは、
「あなたにとって聖書(エロ本)とは?」
「そうですね。よく命とか、そう答える人もいると思うんですけど。そういうかっこいいものじゃなくて、ただ生活に欠かせないもの、そういう…ものですかね。」
「はい。カットー!お疲れ様です。」
DVD撮影を行っていた。
「須川!よくやった。面白かったぞ。」
「ありがとう。」
「…面白すぎる。」
「さすがに傷つくんだが…。」
ダメだ。こいつら手遅れだ…。
「ねぇ、雄二。ここは…どこかな?」
「残念ながら、ここが俺たちの教室で、あれがクラスメイトだ。」
不幸だなぁ。僕らは。
「おはようじゃ。明久、雄二。」
「おはよう!秀吉。…相変わらずだね。」
「まぁ、こうでなくちゃ逆に落ち着かねーがな。」
秀吉が、まさに撮影現場と化しているクラスを見ながら、ため息まじりに、「そうじゃの…。」と、雄二に相槌をうつ。
相変わらず麗しい。
「ほんとよ。全くいつも…。」
「おはよう!美波。」
美波ももう学校に来ていたらしい。というか、ほとんどみんな来ている。
いつもの僕が遅すぎるだけらしい。
「島田と奥で話していたのじゃが、肩身が狭かったからのう。来てくれて、助かったぞい。」
朝から秀吉と話していたなんて、美波もやるなぁ。
順調というところか…。
「あとは、姫路ぐらいか…」
「珍しいね。」
姫路さんがギリギリまで来ないなんて。
「あと5分だし、そろそろ来るだろ。」
それから、チャイムが鳴るギリギリになって、鉄人が入ってきて、それと時を同じくして、姫路さんが入ってきた。なんかあったのかな。
そして、新学期の少し長いホームルームが終わった後、
「ちょっと!」
美波が声をかけてきた。
「なにさ、美波。」
「瑞希なんであんなギリギリに来たのかしら。ちょっとあんた聞いてきなさい。」
うーん…
「たしかに、変だよね。うん。」
言われたとおり姫路さんの元へと駆け寄って声をかけると、
「明久くん。…なんですか?」
「いや、なんであんなにギリギリに来たのかなぁ、って。」
「ちょっと…母親の手伝いです。大丈夫です。」
そうだったのか。それなら仕方ないか。なんて安堵を覚えていると、
「いちゃついてないで、並べ。」
雄二が僕らに呼びかける。今日は始業式があるから体育館に行かねばならないのだ。
「いちゃついてなんかないですっ!」
そこまで否定されるとわりと傷つくよ?
「とりあえず行こうか?姫路さん。」
「はい…!」
なんか気をつかってるようにもかんじるんだけど。気のせいならいいのだが。
体育館での、ババァのおよそ30分にもわたる、正月にあったのことについてのくだらないお話(立ちくらみ、嘔吐多数)を聞き流して、教室に戻る。
「くそっ!ババァ長の野郎、話が長すぎるんだよ。」
「全くだよ。ババァの正月のお買い物の話なんざ誰が聞きたいんだ!って感じだよね。」
「それは、そうじゃの…。」
周りを見渡すと、みんなが、先生がくるまで教室ではしゃいでやろうというのか、バカみたいに騒いでいた時、不意に扉があく。
「もう先生が来たのかしら?」
美波が言うように、その可能性もある。
ホームルームだから来るのは、鉄人なはずだ。たしかに少し早く来てもおかしくない。
しかし現れたのは、あまり知らない同級生だった。
「俺たちになにか用か?」
雄二がそう言うとその子は、
「俺たちBクラスは、Fクラスに宣戦布告する。」
「「なんだって⁉︎」」
「…あぁ。構わない。」
「明日の9時に開戦、昼休み、放課後は休戦ということで、お願いしたい。」
急転直下。大変なことになった。
そのBクラスの使者が去っていってから、雄二が、
「ちょっと予想外だったな…。」
なんて呟く。たしかにそうだ。こんな新学期早々なんて考えてもなかった。
「…どうかしたの?」
「あれ、ムッツリーニどこ行ってたの?」
「とうちょ…ゴホン。廊下のゴミ拾い。」
分かるからね⁉︎というか今さら隠されても、困るんだけど。
「…で、どうかしたの?」ムッツリーニが言葉をついで聞き返してくる。
「実は…週刊 あの娘の制服 が発売中止になったんだ。」
「…な、なんだって!!くそ…くそっ!」
ムッツリーニが床をたたきつけている。よほど楽しみにしていたのだろう。
「明久くん。嘘はダメです。あと、その本今度回収しにいきます。」
無駄なボケをするんじゃなかった…。
「ムッツリーニ。本当のことをいうとな…Bクラスから試召戦争を申し込まれた。」
「…なんだそんなことか。」
ムッツリーニにとっては、
エロ本>試召戦争、らしい。
「ムッツリーニ。また色々動いてもらうが、出来るか?」
「…もちろん。」
「とりあえずなんとか考える。お前らも準備は怠らないでくれ。」
今度はFクラス全体にそうやって呼びかける。
「俺たちに歯向かうとはバカだなー。」
「全くだ。」
そんな声がクラスメイトからあがってくる。
「てめーら。慢心すんじゃねーぞ。純粋な力は倍以上も違うんだ。気を引き締めやがれ。」
放課後、帰り道。今日は始業式と学活だけだったので、まだ昼である。
「雄二。このあと、どうするの?」
「いつもなら遊んでいるところだが…ちょっと詰めの作業がある。」
「爪⁉︎雄二、そんな趣味が…」
「明久よ。詰め、というのは締め、終わりという意味じゃぞ。」
し、知ってたよ?
「ムッツリーニ。お前ももう少し動いて欲しい。」
「…了解。」
「じゃあ先帰ってるわよ?」
「あぁ。」
美波と姫路さんと今日は部活がないと言っていた秀吉と、学校を出る。
まさに3方に華といったところである。(1人は秀吉。)
「にしても、突然じゃったのう。」
「そうね。根本がまたなにか悪巧みしてないと、いいんだけどね。」
正直なところ、正月早々という時点で十分悪巧みと言えよう。
「姫路さんは、今回は脅されたりしてないよね?」
「はい…!大丈夫です。」
やっぱり少しおかしいような…。
そんな感じで、雑談をしながら話していて、いつもの美波と秀吉との分かれ道につく。
すると、美波が小声で、
(アキ。ちゃんと頑張って話すのよ?)
(うん!美波こそね…。)
(そうね…。)
「お主ら…なにこそこそしておるのじゃ。島田よ。いくぞい。」
「…。」
「うん!待って!木下。」
不意にうつむいてしまった顔をなんとかあげて、姫路さんに向き合う。
「行こっか。姫路さん。」
「はい…。」
「ひ、姫路さん!そういえば、正月休み忙しかったみたいだね。」
「はい。実家に帰っていて…。4日の夕方には帰ってきてたんですけど。」
4日…といえば、ケーキを作った日だっけ。
「姫路さん…も一緒にいきたかったなぁ。」
本当は、ポイズンクッキングにビクビクしていたけれど。
「なにがですか?」
姫路さんといると、ちょっと緊張して、楽しくて、というのは本当だ。
「ケーキ作り!雄二から誘われたでしょ?」
「…はい。たまたま帰れてなくて…。」
「ま、またみんなで今度、どこか遊びに行こうよ!」
色々まだまだやってみたいことも、行きたいとこもある。
「みんなで…ですか。はぁ。」
姫路さんがため息をつく。
「どうしたのさ?」
「いいえ!なんでもないです。」
よくわからないけど、そう言って笑った姫路さんがなんか少し元気になったような、そんな気がした。
「では、また明日!」
「またね。明日は頑張ろう!」
遠ざかっていく姫路さんの背中を見送りながら、自分も歩き出す。
早く帰って、少しでも勉強でもしようかな。
そんな明久を見送るように、瑞希もそのあと足を止めて、ふりかえった。
明久が、自分のことを考えてくれていた、たったこれだけのことが嬉しかった。
とりあえずは、これでいいか、なんて思えてしまった。
まだまだ色々悩ましいことはあるのだが。
「ふふ。」
あの日の光景に少しのモヤモヤを残しながらであるが。
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「アキくん。珍しいですね。勉強なんて。」
家に帰った僕は、柄にもなく、勉強をしていた。
「明日は大事な戦いでね。」
「そうですか。やる気になるのはいいことです。ですが…」
「なに?」
「今はなにを勉強しているのですか?」
「保健体育…すいませんでした。」
くぅっ!さっきまではやってたんだ!さっきまでは!
ちょっと息抜きに…。
「では、姉さんが教えてさしあげましょうか。カラダで。」
…のつもりが、ちょっと闘争になってしまうのが今の僕の生活なんだ。
少しの競り合いの末、
「違うんだ!明日のために…頑張ってて、その息抜きに…。」
「分かりました。とりあえず燃やします。」
くそっ!なにも分かってない!
…でも、もう張り合うのも疲れたしなぁ。
「…、燃やしてもいいよ…。その代わり…」
「キス…ですか?」全然代償になってないよね、それ。
「勉強教えてくれない?英語を。」
明日、負けてしまえば試召戦争はしばらくは、できない計算になる。
そうなることは…どうしても避けてやりたい。
「…分かりました。姉さんはアキくんがやる気になってくれて嬉しいです。」
「ここのwhichが関係代名詞で…ピリオドまでをくくれます。」
「なるほど…ね。ありがとう!」
それから、できる限り姉さんに勉強を教えてもらって、疲れもでだした頃。外もすっかり暗くなっていて、時計を見ると、もう8時をまわっていた。
「うーん。お腹空いたね…。すぐ作るよ。」
「そうですね…。アキくんは勉強していてください。姉さんがやります。」
なんだって⁉︎
「えーと、いーよ!僕が…。」
「何度も練習したのです。やらせてもらえませんか?」
姉さんが料理を練習…。
去年、姉さんが家に来た時のことを思い出す。
姉さんは人知れず努力していた。逃げもせずに。僕のために。
料理の最高のスパイスはなにか。それは…
「じゃあ楽しみにしてるよ!」
「ありがとうございます。」
そして僕は後悔するのであった。目の前に、真っ赤に染まった、ハンバーグらしきものが転がっているのを見た時に。
「姉さん。これは…?」
「はい。トンカツです。アキくんのために、特別です。」
ワナワナ手が震える。だめだ。見た目で料理を判断すらできないとは。
「愛情は最高のスパイス。愛情は最高のスパイス。愛情は…」
そう念じて、口にいれた瞬間弾け出す辛味。辛味。辛味。あーんど苦味。
うん。トンカツでカツ!とかいう前に、トンカツで死!、になりそうだ。
次の日、気づけば朝。
僕は…なんとか三途の川からはい戻り、死んだじいちゃんと抱きしめあってから朝、なんとか目を覚まし、そして結構に早い時間に学校にいた。
雄二から作戦を聞くことになる、と思ったからだ。
昨日一日で、僕は…覚醒したような気がする。姉さんのトンカツのおかげで。体の隅々まで渡った辛味や苦味やよくわからない味が僕を導いてくれる。今なら…
「今なら…水素の記号くらいならかける。」
「「「当たり前だろ。」」」
僕は化学だけはどうしても無理なんだっ!
朝からクラス中からのバカへの同情の目が向けられて、心が折れそうな僕と対照的に、今日は9時から試召戦争だからみんな、やる気に満ちているように見えた。
「みんな、聞いてくれ。この戦いに勝って、しばらくしたら、Aクラスに攻め込もうと考えている。大ディスプレイで、貴様らの美術品、見せびらかしたかねーか?」
「「「見たい!!!」」」
見たい。見たいよ!
「だったら、この戦。負けるわけにはいかねー。バカの意地見せてやろうじゃねーか!!」
「「「おーう!!」」」
地響きのように声が鳴り響く。雄二はほんとに人をおだてるのがうまい。
「ムッツリーニ。盗聴器は?」
「…大丈夫。問題ない。」
「ならまず作戦に関して、だが。…」
みんなが静かになって、雄二の発言に注目する。みんなかけがえのない信念(エロ)のためとあってか、真剣な顔つきである。
姫路さんと美波も、雄二のためであろうか。クラスのために頑張ろうという意思がひしひしと伝わってくる。
そしておもむろに雄二は告げる。
「お前らにはここで今から戦ってもらう。」、と。
それなんて、バイ○ハザード⁉︎
「はぁ。雄二。ふざけてないで、ちゃんと…。」
「大真面目だ。とにかく、少し、点数を減らして欲しい。とくに姫路。」
「はい…!でもどうしてですか?」
「あぁ。それはだな…。」
…
時計の針がゆっくりと動いていって、開戦の時刻へと徐々に近づいていく。
そんな時、ふと思ったのだけど、
なんで攻め込まれるんだろう。理由がどうしても思い当たらない…。
「にしても、なんで攻め込まれなきゃいけないの?向こうにメリットなんかないんじゃ…」
下位クラスを攻めるなんて、メリットはゼロに等しい。
「たぶんだが、俺は小山の告白は断ったわけだが、奴は、小山の目を引いてしまっている俺を目の敵にしている。だから、俺を倒すことでもう一度小山の目を自分に向けたい…とまぁ、こういったところじゃねーか?」
「でも、そんなの他の人が聞かないんじゃ…」
姫路さんがそう言うと…
「根本の野郎、3年との試召戦争でBクラスを犠牲にしたのは、Fクラスということにしやがったんだろう。これで俺たちは、非道な残虐者に仕立て上げられたわけだ。大義名分もでき、クラスの奴らに不審をもたれず攻められる、まぁ根本らしいずる賢い考えというわけだ。」
実際に、Fクラスのみんなを犠牲にして助かろうとしていたのだから雄二自体は、十二分に、根本並みに残虐だと思うのだけれど。それより、なにより…これって結局。
「つまり、戦争が起きたのって全部雄二のせいってことだよね?」
「まぁそういうことになるな。」
「じゃあ雄二1人でなんとかしろ!!」
本当はそんなこと思ってもないんだけれど。
戦争はAクラス戦の肩慣らしにもしたかったしね。
「1人じゃ、無理だろ?だから助けてくれるんだろ?相棒。」
「雄二。何度もその言葉いえばいいってものじゃないよ。」
全く調子のいい野郎だ。
「ちっ。…まぁいい。とにかく今は戦争に集中してくれ。」
分かってる。そんなことは。
雄二のため…いや、そういうと気持ち悪いから霧島さんのためにも頑張ろう。
「開戦だな。」
時計の針が9時になると同時に雄二が呟く。チャイムが鳴り響いて、それとともに遠くの廊下から大きな声が上がってくる。
絶対に勝たねばならない大一番が始まった。