雪の中で笑顔をみせるポニーテールの女の子。
その笑顔は、きらきらと光る雪の中でもっと輝いて。
バカテスト
日本語訳しなさい。
Tu ne voudrais pas devenir mon amie?
島田美波の答え
私と友達になってくれませんか?
(これはフランス語だと思います)
教師のコメント
今度はフランス語が混じっていたようですね。答えは島田さん。正解です。
坂本雄二の答え
これは英語じゃないかと思います。
教師のコメント
例によって全員正解に…(バカ2人は除く)
吉井明久の答え
僕と友達になってくれませんか?
(これはフランス語だと思います)
教師のコメント
熱でもあるのですか?
あぶりだしをしないどころかフランス語なのに正解です。思い入れでもあるのでしょうか。
僕と雪とポニーテール
ちょうど一年前頃だった。
その日僕たちの街には珍しく雪が降った。積もるといっても数センチのことであるが、雪に慣れていない僕たちからしたら、これは大きなニュースである。
その日の学校はめちゃくちゃであった。雪で舞い上がってしまったんだろうね。朝登校すると、教室の中に雪だるまが5つも積まれていた。
須川くんが一人で5つ作ったらしい。
その顔は須川くんに似て実に残念だった。
ホームルームがはじまるころには、教室全体が雪だらけだった。(主に僕と雄二がやったんだけど。)
秀吉は、それを見て唖然として、気を取られて、こけていた。
そんなふざけたこのクラスには、一人の帰国子女がいる。
島田美波さん。僕のクラスメートだ。ドイツから日本に来たらしい。
フランスだと思っていたのに…。思い出すだけで恥ずかしい。
須川くんなんかに聞いたのが間違えだったみたいだ。
それにしても雪がきれいである。言ってるそばから、その真っ白さは土屋くん、もといムッツリーニが秀吉がこけたすきに、あらわになった肌を見て流血。そして赤にそめられていくのだが。
島田さん。最初は、全然寄せ付けてもくれなかったけど
ここ最近は、よく笑ってるのを見かけるようになった。だんだん馴染めてきているのかな。最近は、ドリルの髪型の子ともよくじゃれているし。(嫌がっているようにも見えるけど)
僕と話をする機会がそんなにたくさんあるわけじゃなかったけど、笑顔なのは良いことだ。
そんなことを頭の片隅で思いながら、「塩水と雪あうかもしれない。」一生懸命雪を食べていた。
こんなことなら毎日雪が降って欲しいね。僕の貴重な食料だ。
午前の退屈な授業が終わる。
昼休みの時間だけど、今日は雪降り。外に出るにもとても寒いし、みんな教室でご飯を食べていた。
そんなみんなを尻目に、僕はもちろん外に雪をあさりにいったんだけどね。
砂糖雪はなんと美味しいのだろう!
僕は勝ち組ではないか、もはやそんな気すらしてきていた。
雪をありったけ持って教室に戻る。するとみんなが囲んでご飯を食べていた。
か、関係ないね!!僕の雪の方が何倍も……あれ?目からさっき飲んだ塩水が…
とかなんとかしていると、
「明久。今日も飯持ってきてないのか?」雄二にそう聞かれる。考えてみれば、僕がちゃんとしたご飯を持ってきたのは、9月が最後だったね。うん。
「ふふ!聞いて驚け!今日はこれがあるんだ!」
得意気に雪の山を見せる。
「「「あ、あぁ。」」」クラス全体から降り注ぐ雪よりも冷たい視線。なんだその同情の目は!同情するならカロリーをくれ!、と言いたいところだ。
「吉井!」
唐突に呼び止められる。
「し、島田さん?」
「お弁当ないの?」し、失礼な!僕のお弁当はこの銀世界全面に…
「大丈夫だよ!今日は。」あくまでも今日は、である。ガスはかろうじて使えるが、電気は昨日止められた。差し押さえも近いのかもしれない。
だからこそ雪が大サプライズご飯になるのだ、うん。
「吉井!これ食べる?ちょっと多くて…余っちゃいそうで。」
「へ?いーの!?」
島田さんから差し出される弁当。たしかに少しおおきめの箱に入れられていて、半分くらいは残されていた。
ついにカロリーをとれる!!となったら雪がどうでもいいものに思えてきた。
この前コロッケ屋の残飯をコロッケ屋のおじさんに頼み込んで、もらった時以来のまともなカロリーである。
「ありがとう!島田さん!!君は僕の救世主だよ!」
「いつも砂糖水だったものね」と苦笑いする島田さん。
そんなことはない!塩水だってとっている。バカにしないで欲しい。
そして久々のカロリーにありついた後、午後の授業が始まる。
カロリー摂取をしたのだ。元気に勉強でも…
するわけないね。せっかくのカロリーを勉強で消費するなんてバカらしい。
そして全睡眠を成し遂げたのち、放課後。
「今日の教室が雪だらけだった件だが…。吉井。坂本。あとで補習室にくるように!」
「「なんで僕(俺)が!」」
「「お前のせいだろ!」」
だが残念。
どうせ汚いなすりつけあいをしたところで補習は変わりないのだ。そんなことは、何度も補習室送りにされている僕と雄二はわかっている。雄二のやつめ!明日はカバンの中に雪だるまでもいれてやろうか、ちくしょう。
今日も帰るのは遅くなりそうだ。
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鉄人の補習は、体力を食う。その補習は、今日の夜くらいはちゃんとした夜ご飯を食べよう、と神様にも仏様にもなんならお星様にも念じているうちにようやく終わった。
その帰りがけ。
「雄二。」
「なんだ明久。少しは反省でも…」
とのたまう雄二の顔に雪の塊を投げつける。
どうしてもしてやりたかったんだ、元はといえば雄二のせいだし。
「…明久。覚悟はできてるんだろうな?」
泥仕合のはじまりだった。
しばらくして疲れきった僕たちは帰路についた。
今日ぐらいはカロリーをとろう、とさらに深刻に考えてなけなしのお金を握りしめてスーパーへ向かう。夜遅くの閉店間際のスーパーは鮮度が落ちたとかで、値段が普段より格段に安いのだ。
「ん?」
いざ3ヶ月ぶりくらいのスーパーへ!!と意気込んでいたその時、ポニーテールの女の子が同じくスーパーに入っていくのが見えた。
もしかして。
僕は思わず、
「島田さん?」声をかけた。
「吉井!なにしてるのよ?」そこにいたのはたしかに島田さんだった。そう聞かれたから、
「ちょっと買い物をしようと思って…。」当たり前のように返事をする。
「そ、そうなんだ。ウチも夜ご飯の買い物を…」
夜ご飯の買い物ってことは…普段から料理とかするのかな。気になって、
「よく買い物するの?」ときくと、
「そうなの。」と答える。
かごを見ると外国系の料理の具材や、フルーツばかりである。こういうところを見ると島田さんが帰国子女であったことと、女の子であったことが改めて…「肘があらぬ方向に曲がってて痛いいい!!!」
「吉井?なにか失礼なこと考えなかった?」
島田さんはエスパーなのだろうか。だとしたら侮れない。
「考えてません!島田さんがぺったんこだからおと…股関節が脱臼するようにいたいぃぃ」
「失礼なこと考えてるじゃない!」
僕は正直者だからね。
「島田さん。ここスーパーだから!恥ずかしいからやめよう?」そう言うと、はっとしたように離してくれた。
それにしても自分で作っているなんてすごいな。そのあと色々聞いたことによると親が忙しく、妹の面倒も見ているらしく、弁当も自分で作っているらしい。
「じゃあ昼間のも…」
「そうよ。ウチの手作り。」そんな!女の子の手作り弁当だったのか!
もっと幸せをかみしめればよかった。
しばらく一緒に買い物をして、さよなら、と言いあって家に向かう。今夜はブリ大根だ。もちろん半額のシールがついていたから買ったんだけど。
それから、僕が補習を受けて(週4)スーパーの前を通るたびに島田さんを見た。いつもいつも買い物袋とかばんをさげて。
そんなある日、また雪の降る日があった。また前と同じようなことをして、補習室送りにされた僕は夜遅くに、スーパーの前を通った。全く!同じことで僕らを怒るなんて鉄人も成長しないなぁ、なんて思いながら。
だけど島田さんの姿はそこにはなかった。いつも見かけるのに、と思ってすこしきょろきょろと回りを見渡すがいない。今日は早くに買い物したのかな、と気にもとめなかった。
帰り道の公園でその姿を見るまでは。
「…島田さん?」
雪が降りしきる公園のベンチに島田さんは座っていた。からっぽの買い物袋をさげて。
なにをしているのか不思議に思って声をかけようとすると、どうも電話をしていたようだった。悪い気もしたが、気になってしまったのでよく聞いてみると、
「……うん。でも少し疲れちゃったかも。」
向こうの電話の声は聞こえないが、島田さんの声ははっきりと聞こえた。
続けて聞いていると、
「葉月の面倒だけでも手一杯なのに、日本語わからないし、だから友達とも壁があるように感じて…」
そこまで言ってから、島田さんは泣き出した。
電話の相手は誰なんだろうか。ともあれ、泣き出した友人をほおっておくわけにはいかない。電話が切れるのを待ってから、
「…しまっ…」声をかけようとすると、
まだ泣いていた。
僕なりに考えた。
学校では友達に壁を感じて、家では家事、日本語もまだまだわからない、そんな環境で周りの人に、笑顔を見せてきたこの女の子のことを。きっと1人で全部背負い込んできたのだろう、と。
そしてもう一度、
「島田さん!」
「…吉井?なにしてるのよ、そこで。」
まずい!聞かれたくない会話….だったよね?声をかけてしまってから気づく。とんでもないことをしてしまった。人の話を盗み聞くばかりかその話が人に聞かれたくないような話だなんて…最低のことをしてしまった。
なんとかごまかそうと僕は思いっきり雪に顔を突っ込んで、
「ゆ、雪を食べようと思って。学校のとは味が違うかもしれないなぁとか思って…さ。」うん。うまくごまかせたはずだ。さすが僕は演技派だね。
そんなことを言うと、島田さんが笑ってくれた。
「ほんとバカね。」とか言って。
「島田さんこそなにをしてたの?」電話をしていたことくらいは分かるのだが、一応かまかけ程度に聞いてみる。なんせできることなら、ばれたくない。盗み聞きしてたなんてことは。
「ちょっと電話よ。ドイツのおばあちゃんと。」なるほど。相手はドイツにいるおばあちゃんだったみたいだ。
「なんで、こんなとこで?」
「なーんてことないのよ?ドイツにいた頃、こんな風に雪が積もった公園であそんだなー、と思って座ってたの!ほんとただそれだけ…。」と、笑いながら、雪の降る空を少し見上げながら島田さんは言う。
泣いていたのに。笑うのだ。僕の前で。この女の子は。色んなものを色んな風に抱えて、それでもこんな風に笑ってる女の子。
一人で泣いて、人前では笑う女の子。上を向くことで肩口に垂れたポニーテールがふわりと風に揺れる。その髪は雪のせいか、はたまた涙のせいか少しばかり濡れていた。
明久は思った。
そんな女の子の、
「島田さん!」
「明日からお昼ご飯一緒に食べない?」少しでも支えになれるのなら、と。たとえそれが少しずつでも。
「へ?なによ突然ね。っていうか吉井の弁当って塩水じゃない!」
「し、塩水だって立派なお昼ご飯だよ!」いや、なりたいから。
「ふふ、ばーか!」
島田さんの透き通った声が跳ね上がって、冷たい空気に消えていった。