バカとその後と恋愛模様!   作:八百六十三円の片道切符

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僕とみんなと合唱コン5

 

 

 

 

 

「明久くん。」

「あ、おはよう!姫路さん。」

「今日は元気みたいですね?」

「うん!ちゃんと朝ごはん食べて来たしね!」

「あの…もし、ですよ。もし少しでも物足りないなら、わたし、家で蒸しパンを…」

「大丈夫!全然大丈夫!今日は朝からカツ丼だったから!!」

 

 

学校では、あれからどんどんと合唱練習がすすんできていた。歌を聞いて覚える段階から、歌っていく段階。そこからしっかりとパートごとのテープを聞いて、歌えるように仕上げていく。

 

きっと今のFクラスの人間に、今一番熱いものは?ときいたら、少し前なら間違いなくどこぞの女優の名前でもでてきていたろうが、今なら「合唱」と迷わず出てくるのではなかろうか。

そのレベルで、しっかりと練習をしていた。教師陣に、「勉強もその調子でやれよ…。」と言われるほどに。

 

須川のピアノもネタかと思われていたのであるが、意外にも本気も本気。みんなが、「おぉ。」とか「ちっ。須川のくせに。」とかいうほどのレベルであった。すらりと爪がしっかりと切られた指が鍵盤の上で踊るように的確な場所を叩いていく。それはもはや熟年の技すら思わせた。まぁ、なんというかとてもうまかった。

 

他のクラスももちろん練習しているらしく、その歌声はよく聞こえてくる。その歌声が日に日にうまくなっていくのも、一層やる気をふるいおこさせるらしく、授業なんてなんのその。

 

福村や、原田に至っては授業中まで、携帯音楽プレーヤーに落とし込んだ課題曲「きらめき」をこっそりイヤホンを背中から回してきてばれないように聞きこんで、いるほどだ。

 

 

一方で、進展していないものもある。

 

あれからもあいも変わらず明久は、美波とは話せていない。それどころか目線が少しあっては、そらすというこの繰り返し。そうまでされると、瑞希や他の人に迷惑や心配をかけまいと気丈に明るく振舞ってみても、やはりどこかでこたえるものがある。

 

「明久よ。そこのとこ、もう少し高めじゃな。」

「ごめんごめん。」

あーあー、と声を出して確認する。ドレミファソラシドなんて言われて調整できるものではないけど、人やCDの真似をする形なら明久にもできることだった。

 

「そうじゃな!」

「ごめんね。ありがとう。」

 

ちゃんとやらないとなぁ、と。歳をとったご老人の回顧録みたいにしみじみと思う。

とはいえまぁ、やる気満々の同級生を見ていることは、明久にも一応のやる気を起こさせてくれた。

 

 

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「島田よ。主は歌がなかなか達者じゃのう。」

 

「そうかしら?」

「…録音したい。」

「しないでね?」

「ムッツリーニの録音はもう始まっててもおかしくないからのう?」

「…なんでばれた!」

「土屋、ちょっと…」

 

明久は、そんな声をなんとなく聞いてしまっていた。話しかけるわけでもなく。ほんとなんということもないいつもの面子の会話であるのだが。まぁ雄二は、小山とまたまたなにやら話しているからその場には、いないが。瑞希は…

 

「明久くん、どうかしたんですか?ぼーっとして。練習中ですよ?」

明久の練習に絶賛付き合ってくれていた。

秀吉のトレーニングで音を合わせられるようになったのはいいが、今度は一緒に歌った時に他のパートの人に流されないようにしなければならない、という課題が生まれてくる。

どうしても主旋律とは音程の違うテナーで歌っていると、ソプラノにつられてしまう。

それを克服するための、瑞希とのトレーニングというわけだ。

はからずも、明久にとっては緊張と嬉しさと色んなものが入り混じった状況が起こっていた、というわけだ。

 

「いや、なんでもないよ。」

また心配をかけるといけない。明久もとりあえずの貼り付け笑顔。

 

すると、瑞希は「よかったです!」と、花満開という言葉ままのような笑顔を返してくれる。

それで、明久は何と無くズキっと心が痛んで、少しだけ本当のことを言おうかな、とか思えてしまって、

 

「…ちょっとみんなと話したいなー、って思って。ほら、疲れたしさ。」なんて言い草をしてみる。疲れた、なら当たり障りない理由だろう。それに…

今ならば、みんなと一緒になら美波とも少しは話しやすいかもしれない。今、そんな光景を見ていてそう思ったのだ。

 

そんな明久の言葉に対して、瑞希はすらりと伸びた細い指を、あごに当てて首をかしげて、少し思案顔。

 

そうしてしばらくして、

「…まぁ息抜きなら!じゃあみなさんのところに行きましょう?まぁ…坂本くんは、友香ちゃんと話しっきりですけどね。」

瑞希が見やっていた方向の2人を見やると、なにやら言い合ってるよう。その会話は限りなく終わる気配がないように明久には、みえた。

たぶん会話ももはや代表対談ではなく、雑談の領域であろう。

こうなってくると、

「霧島さんに袋叩きにされないことを願うしかないね…。」ひたすらここに尽きる。少し前なら袋叩きにされろ!なんて思っていたろうが、今の明久にとっては、雄二はスーパーマン並みの救世主に見えている。(錯覚だろうが。)霧島翔子にやられて急逝なんてことでは困るのだ。

「にしても友香ちゃんもなかなか手強いですね。」瑞希は、指で髪をすーっとときながら、そうボソッとつぶやく。

「小山さんが?…どういう意味?」

「いえ、なんでも!」

そう言われると逆に気になるのであるが。

なんて会話をしながら、瑞希と一緒に3人のところにあくまで自然に近づいていって、極力不安感とかを声に出さないように抑えながら、

 

「何の話してるの?」なんて話しかける。

「明久に、姫路!それが、ムッツリーニがまた…」

 

すると…秀吉の言葉を遮るように美波がうつむいて決してみようとしないまま、本当に低く、それでいて重みを感じるような凍てついた声で、

 

「あ、う…私ちょっと用事あったんだ。じゃあね。」

そう言って、ポニーテールを翻して、一目散に教室外去っていく。少し小走りのような足取りで。

明久に一瞥の視線もくれずに。

「美波ちゃん、どうかしたんですかね。」

「よくわからんのう…。」

「…。」

 

明久は、そんな美波の声に本当に凍らされてしまったかのように、少しの声も出ない。

 

だめだ。徹底的に無視を決め込むつもりらしい。

 

 

「明久よ、なにか知らぬかの…って、どうしたのじゃ?」

秀吉は明久が少しうつむいて、ぼーっとどこかを眺めてしまっていたのを敏感にも察知したのだろう、疑問を投げかけてくる。

 

「なにもないよ!なにもないし、なにも知らない。僕はね。」

「…。」

 

言葉強く言い放ってしまったからだろうか。妙な沈黙がその場に流れて、明久の次に言葉を発するものはなかなかいなかった。

 

瑞希は、そんな状況を見兼ねて、まさに全力であはは、と作り笑い。

「さ!みなさん…練習、練習!!」

と、まずは明久を個別練習に戻るように促す。

 

それでもなかなか動かないのできっと大丈夫であろうくらいの接触、服の袖のあたりだけをきゅっと握って、明久を引っ張る。

 

明久の体には全く力は皆無。瑞希が引っ張るがままに、いとも簡単に明久を引っ張りいだすことに成功する。

 

頭をくるっくるっと周りを見渡してから、誰もこちらに注目していないことを確かめてから明久に話しかける。

 

「明久くん?」

「…ん?」

「なにか隠してませんか。」

「だからなにも…」

なにか言おうとする明久をさえぎって、

「とは、聞きません。」

そう言い切って、さらに続ける。

「聞きませんから。今はそれでいいんです。それでもいつか、いつか明久くんから話してくれたら嬉しいです。」

本当は聞きたいことなんて山ほどあるのだけど。今は聞けないなんてことは見てたらわかることだった。

だったら、聞かなくていい。いつか向こうから話してくれるに違いないと信じてやまないから。

 

「雄二にも同じ事を言われた…。ありがと。」

どうやらはからずも、二番煎じになってしまっていたらしい。こういうことがあると坂本雄二は本当に明久のことを良くわかってるな、と改めて思う。

たとえ男相手でも嫉妬してしまうほど。

 

「覚えてますか?2人でしたお話のこと。」

「うん…。ほぼ一字一句、ね。」

もう随分と前に感じる新年明けましての夜。明久と2人きり話した変な話。自分でも変だと思うような話を明久は真面目に聞いてくれた。

分かってないみたいではあったけれど。

 

「よかったです。」だから思わず柔和な笑みが浮かぶ。

 

だったらいつか話してくれる。そしたら、それでよくなるんじゃないか、と思うのだ。手遅れなんてものは、きっとないから。

 

 

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「坂本くん、部活とか入ってないの?」

「ん…あぁ。面倒だしなー。小山は茶道部だっけか。」

放課後、クラスの人間が全員帰った後。雄二と小山はCクラスで2人きり。代表としての話し合いが終わった後、なにをするわけでもなく、雑談していた。

夕日もだいぶ傾いてきて、帰るのもたるくなってくる時間帯である。

そんな話もひと段落したとき。

 

 

「で、ほんとに指揮なんかできるのかよ?」

雄二は唐突にそう切り出す。というのも理由があるのだが。

指揮はあまり誰もやりたがらない役どころで、結局どちらかの代表がやることになって、先ほどじゃんけんをして、死闘も死闘。まず何回じゃんけんするかで小競り合い、次に「いんじゃんで…」なのか、「じゃんけんで…」なのか。最終的に、普通のじゃんけんでは面白くないと、突拍子もない提案からあっち向いてほいと、どっち出すの、による2番勝負になって、6回引き分けの末。小山に決まったのだ。

つまりほぼ無理矢理。

 

「あ、うん….練習次第じゃない?」

練習次第…か。そう呟く小山の顔はいつもより自信がなさげであった。

 

なんというか話すようになってからであるから、最近の小山は、なのか本当の小山は、なのかがあまり分からないがとにかく。雄二が小山に対していままで持っていたクールな印象とは違って、ミスもするし、よく笑いもするそんな普通な女の子という印象に変わっていった。

 

 

「やっぱりやったことはねーのな。」

「まぁね。…でも努力は結果を裏切らないってね。練習するわよ。」

それに、こんなこと言う奴だとはつゆほども思っていなかった。せいぜい根本の元カノぐらいの認識しかなかった。

こういうところを知れば知るほど根本にはもったいない、とは思う。

 

 

にしても、指揮の練習を1人で、たってどうやってやるのだろう。なんて疑問を密かに頭に浮かべる。

「問題はどーやってやるか、よね…。ね、坂本くん。手伝ってくれない?」

「へ?俺?」

予想の斜め上をいかれた気分だった。

「うん。坂本くんしかいないじゃない。」

「つっても…なにするんだよ?」

「放課後!今日みたいに一緒に残って、練習してくれたら嬉しい…かな。」(それで少しでもわたしに…)

 

「…なにか言ったか?」

「いいえ。なんでもないわ。」

小さすぎて最後のところが聞こえなかったが、とにかく、

「構わねーぞ。それくらいなら、な。」

翔子と一緒に帰りさえすれば問題ないだろう。そうすればこの前みたいに追いかけ回されることもないだろう、と雄二は、浅はかにもそう思った。

 

クラスのバカどもが珍しくやる気になってるんだ。代表がやる気にならなくては、仕方が無い。

なんとか今回ばかりクラスのためになってやろう、と。

 

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「…雄二。どういうこと?」

やはり、だ。しかしやはりこうなるのである。宿命かなにかなのだろうか。いや、そんな残念な宿命背負った記憶など微塵もないのだが。

 

「なにがだ。」

「…小山と浮気してた。」

放課後2人きりで残っていたところをばっちりと抑えているあたりがとても怖い。

どうしてこうもすぐに、なんでもばれるのだろうか。

「してねーよ。…だいたいお前と夫婦になった記憶なんてない。」

「…ひどい。あんなことや、こんなこともしたのに。」

「いつも逆にあんなことやこんなことをされて、困ってるぐらいなんだがな…。」

雄二の頭に、これまでされてきた色んな行動が思い起こされる。

 

「…小山といて楽しい?」

なんてことはいつも聞かれる。そのパターンであると思って、

「さぁな。微妙なところだな。」

と流してやる。

「…楽しいって顔してる。」

 

「そう思うのは、お前が勝手にそう思い込んでるからだ。」

そういつだって、翔子は勝手に悩んで、勝手に怒って、勝手に泣いてしまう。いつもはあんなに強気なくせに、だ。

とんだじゃじゃ馬なことだ。

 

 

「…雄二。」

翔子がおもむろに、雄二の名前をつぶやく。このあと目潰しとかなら、いつものパターンなのだが、今日はそれがなくて、

 

「なんだ?」

 

「…信じてる。」

 

と、突然のひとこと。しかししっかりとした重みを感じる言葉。

そこでようやく気づく。

もしかしたら不安にさせてしまっていたのかもしれない、と。

ならば、と雄二もなんとか不安にさせないために、しっかりと言葉を返してやる。

 

「おう。」

 

そう、はっきりと。

 

もう雄二の答えは決まっているんだから。あとは時間の問題。

 

 

だから、雄二が答えを出すのに苦しんでたとき、自分を助けてくれた大バカのことが気になって仕方ないのだ。

 

そいつがどんな答えを出すかなんてどうでも良い。その過程でもし苦しみもがくのであれば、手を差し伸べてやりたい。

今は自分は後回しで構わないとさえ思えた。

 

 

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