「…5.4.3.2.1.…」瑞希のカウントダウンする声が、戦前の静けさの中に響き渡る。
「0です!」
「きた…か。よし!行くぞ、お前ら。配置の場所まで走れ!途中で先公どもに止められても振り切れ!…明久に島田。頼んだぞ。」勝たなければならない。
「「言われなくても!」」
抜群のシンクロ率。走りだした2人の背中を、他のFクラス共もおっていく。
いよいよ、とそう思うとなんだか楽しくなってきて、口元が緩む。それだけ待ちわびていたのだ。この時を。
「ムッツリーニ、戦況の確認と相手の作戦確認を頼む。」
「…御意。」
「ふふ。楽しそうな顔してますね?」精鋭、いや1人でクラスの1/3もの戦力を担うほどの少女は、またからかうように聞いてくるから、
「そう見えるか?」
「はいっ!頑張らないとですね。翔子ちゃ…」禁断のフレーズを言わんとした瑞希の口元をなんとか塞ぐ。
何度も言うが、それだけは言ってくれては困るのだ。
「姫路…それだけは言わないでくれ。」
回りの護衛の目線が少しキッとこわばった気がした。
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「吉井!福原先生だ。」福村幸平が明久と美波のすぐ後ろ声をはる。
「福原先生か…。」
廊下をまっすぐ走りながら、渡り廊下の入り口を確認。いるのは、福原先生だ。福原先生は社会。
ということは、4階は数学だから舟越先生でもいるのだろうか。行かなくてよかった、と心の底から思う。
須川たちの冥福を祈りながら、目の前の戦況に巻き込まれて行く。
「福原先生!Aクラス横田奈々。吉井明久、島田美波に試召戦争申し込みます。」
「「同じくいきます!」」
「ふむ…。承認します!」いつも動きののろい元Fクラス担任教師はゆっくりと承認をすると、そのフィールドを開く。すると教師のまわりから結界のようなものがすーっと開ける。
「「試験召喚獣、召喚!サモン!」」
そして各々の足元にすーっと築かれて行く幾何学模様。そして、ぽんっと出てくるのは本人の姿をそっくりにトレースした召喚獣。
科学とオカルトのたまもの。我が文月学園が誇る試験召喚制度である。
「Fクラス吉井明久受けます!」
「島田美波もいきます。」美波も、他のみんなもついている。しっかりと堅実に戦おう。
「「試験召喚獣、サモン!」」
戦いの火蓋とは切って落とされた。
敵の指揮官たる木下優子はいない。ということは上にでもいるのだろうか、そうなると上には瑞希が行くだろう。つまり、ここには大した援軍は来ない。だがラッキーなことに科目は社会。ここはなんとか食い止めなくては。
『Aクラス 横田奈々&栗本雷太&花岡麗
世界史 250点 &180点&220点』
『Fクラス 吉井明久&島田美波
日本史 365点 &53点 』
「美波。」
「なによ?」
「50点ってどういうこと?」美波の召喚獣の上表示された点数。
「に、日本語が読めないの!」
予想外の点数の低さ。
だけれど相手は理系の人なんだろうか、栗本という人の点数は、あまり高くない。
だから後ろを振り返らず、まっすぐ前を見たままクラスメイトに指示する。
「みんな、ここを通さないようにね!第二陣形だ。」
そういうと、普段は全く明久の言うことなんて、「アホ」とか「ちんちくりん」とか言って、一切聞いてくれないクラスメイトたちだが、今日はそうではない。明久の指示どおりの第二陣形。召喚獣を半円形状に開けていく。
召喚獣を操るのは、本当に難しい。自分より数倍小さな召喚獣。頭の中で動きをイメージして、ようやく思い通りに動くのであるが、そうはうまくいかない。ひとつのことを考えると、もう一つのことを忘れたりしてしまう。だからはじめはこうもうまく陣形なんてものは組めなかった。しかし今はいとも簡単にこれくらいのことならできる。
これも努力、経験の賜物である。唯一Aクラスに優っているところかもしれない。
戦場は渡り廊下。ただ廊下といっても、走った分だけ少し新校舎の階段よりになったから、ある程度開けたところである。横の幅には余裕がある。
先鋒にいるAクラスの人は、とりあえず3人、真ん中に2人。
Aクラスの後方を見やると人はまだあと数人はいる。小競り合いの戦場はそれぞれの本陣につながるおよそ6ヶ所ほどだろうから、少し少ないような気もするが。
「とりあえず、行かせてもらうぞ!」
「そうね!」
「おっけー。」
Aクラストリオ代表栗本が気合を入れるために叫んでから、突撃してくる。その大きな声に、
「来いや!」
といいながらさっと、身構える。が、しかしAクラスコンビは、
ひとえに美波のところへ。
「美波!」
とっさに、飛び込んで、召喚獣の木刀でなぎ払う。他のクラスメイトたちも後ろから槍をひたすらに構えて、一気突撃を許さないようにしてくれている。
「させるかぁっ!」
ないでから、次の相手の太刀をよける。さらに後方援護射撃の弓がいくらか飛んできたが、多少は当たっても、死にはしないと思いつつも、こちらも気にせず上から下へ叩き落とす。よくみると、その弓の先の鏃は、ねじれていてかつ鋭く尖っていた。
結果として当たらなくてよかった。
にしても相手の武器は真剣だったり、大刀だったりというのが、少し理不尽な気はするが、今さら仕方はない。
そして、美波の召喚獣の前に立って、正面中段の構え。
「アキ!」美波の召喚獣は腰を抜かしたように倒れこんでいた。幸いに点数は3点しか減っていない。
「福村くん!」
「おっけー!3人目は任せとけ!だから、お前は2人頼むな。」福村がそういうから、
「了解!」とかえす。こと日本史においては信用も厚いらしい。
一方、美波は
「ウチは無用ってこと!?」
「まぁ科目切り替えまで耐えてよ!」美波がいないと困ることなんか、今後いくらでもあるだろう。だから、ここは任せておいて欲しい。
「とにかくいくぜ!サモン!」
『Fクラス 福村幸平
政治経済 160点』
出てきた瞬間、
え?と思わず目をこする。16点…160⁉︎驚きの点数は何度目をこすっても変わらない。
「福村くん!?」
「なんだ?」
「すごいね、点数。」
「政経は得意なんでな。将来は政治家にでもなってやろうか、なんてな。」センター試験対応になって、よかったということだろうか。
「僕、福村くんだけには絶対投票しないよ」
「なんだと!?」
投票して万が一にも当選したら汚職のオンパレードだろうから。
なんて会話していると、Aクラスが仕掛けてくる。
「たかが160だろーが!」なんていいながら。
たしかに、そうなのであるが、操作技術というものがある。それによっては、100点、ないしは200点のビハインドは返せる。
まずは左からまっすぐ正直に切り込んでくる真剣を下からかちあげて、バランスを失わせる。
もちろんその間にも死角はない。同じく切りかかってきたもう1人の相手の一太刀目を、木刀の鍔で抑え返して、まず頭に一撃。木刀だから一撃必殺とはいかないが、これで
『Fクラス 吉井明久360点
VS
Aクラス 横田奈々65点』
だいぶ削ることはできた。
「美波、これであとは任せたよ?」
「う、うん!」やっとのこと立ち上がって、美波も相手に構える。
「ふふふ!こんなとこで負ける訳にはいかないっての!」勝てるとわかった途端に美波の勝ち誇りよう。いやはやわかりやすい。
「美波…。」
「なによ?」
「油断しないでよね!」
「もちろん!」
なんて言ってるうちに、なんとか逃げ帰ろうと後ろの人とチェンジしようとする横田さんの首元を美波のランスが一刺し。
あっという間に決着はついた。
『Aクラス 横田奈々 DEAD 』
交代にもたつくなんていうのはFクラスではもうない。この程度ならこの戦場は早いうちに破れるだろう。
『Fクラス 吉井明久&福村幸平
日本史、政経 306点&132点点』
『Aクラス 栗本雷太&花岡麗
世界史 60点&DEAD』
また1人とAクラスの人が倒れて行く。横を通り抜けて行こうとするものには、槍を構えているから簡単には突破できまい。とはいえ、明久の点数もじりじりと減ってきて、306点。
このまま優勢を保って、こっちも交代をしていきたいところではある。
なんて思っていると、
「吉井!点数削られた奴は交代するぞ。」
後ろから援軍が入る。
「じゃあ、とりあえず近藤くんと君島くんを!ごめんだけど、福村くんはもう少し戦ってくれるかな?」
「しゃあねぇ!」
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「もういやだ!俺は帰る!」
「まて!俺が先に帰る。」
「おまえ!俺より点数低かったろ!」
「あれはまぐれだ!!!」
4階の戦場は、まさに一方的だった。そしていつもの仲間割れ。
「なんだ…。吉井くんはここにいないのね。」須川率いる隊は乱れに乱れていた。立て直すのは、いくらFFF団トップとはいえ至難の技であった。
「早くトドメさして次いこ!」そんな声がAクラス側からあがる。たしかあれは佐藤美穂だったか、なんて須川が思ったのも束の間、相手はこちらに攻撃を仕掛けてくる。
まとまらない隊列、もしまとめることができたなら多少の抵抗、さらには本陣への連絡が出来るのだが、なんせまとまりはない。
どうにか出来ないか、と考え続けてついに閃く。これならいけるのではないか、と。多少自分としては損な事態が発生するが、なりふり構っていられない。
「深夜病棟、癒しの新人ナースぅっ!!」
「「須川隊長!ご指示を!」」
実に単純である。自分も同じなのであるが。
「よし。とにかく陣形3だ!」この陣形は、坂本雄二から示されたいざという時のための守りの陣形だ。円を囲うように順番に敵に当たって行って、交代を繰り返しつつ後ろで補給、つまりは控えの隊との交代を行う。
そして消耗していた原田に「回復ついでに坂本に、木下優子と佐藤美穂は4階だと伝えろ!」と指示する。
「了解!」原田が走って行った背中を見送るすきもなく、敵にむかいあう。西洋鎧にランス、点数も絶大的なものがある。
『Aクラス 木下優子
数学 368点
VS
Fクラス 須川亮&田中明
数学 86点&28点』
「くそっ!」
伝令が届けば、きっとFクラスのエース、そういうと聞こえが悪いから学年NO.2姫路瑞希が来てくれるだろう。しかしこの陣形でも崩れるのはやはり時間の問題。
かくなるうえは…
「木下優子!」
「なに?えっと…須川くん。」
どうやら名前を覚えてはくれたらしい。これは目覚ましき進歩だ。
「お前が好きダァッ!!!」
「ちょ……え!?えと…はぁ!?」
突然の大告白。
相手の指揮官はテンパる。
これも坂本雄二の作戦のひとつだった。なんでも「年末にあれだけののとを本人の前で言っておいて殴られないってことは悪くも思われてない。」ということらしい。
年末に果たしてなにをいったか記憶にないがとにかく、チャンスなのは間違いない。
「みんな!防御を固めろ!これはわざと、だから!な?」
それは確認しておかなくてはならない。もししなかったら、間違いなく殺されるのだから。本当に木下優子のことが好きであったから、あまりこういうことに使いたくはなかったが仕方があるまい。
「須川くん、そ、その…」恥じらいを含んだような目。そしてどこか赤い頬。しっかりと実ったよ 果実のような顔。
「な、なんだ?」
「殺すわよ?」
怒りで。
「やべーよ!」
「おまっ!むしろ怒らせてんじゃん!」
わざと、だと知ったからだろうか。それとも単純に腹が立ったからなのだろうか。
「須川に告られる=女の恥らしいぞ。」
「お前、年末の時も好きって言ってたのにな!お疲れ。」
「やめろ。盛大に傷つく。」本当にどいつもこいつも、こういう時にだけ口達者なのだ。
とにかく絶対絶命のピンチ。
その時、
「須川くん!大丈夫ですか!?あとは任せてください。」
「姫路!」
「「「女神が降りたぁっ!!」」」
まさに女神。救世主。戦場に絶対的な力が現れた。
「瑞希…か。みんな!冷静にね。」
優子としては、予想外のことが多すぎてあまり頭は回っていないが、そんな中なんとか手探りの状態ではあるが指揮を保とうとしていた。そんな中の敵のエースである。
「試験召喚獣、サモン!」瑞希は息を整えてから、召喚のフレーズを唱える。
『Fクラス 姫路瑞希
数学 436点』
「おおおおっ!!」そんな声が両クラスからあがる。
瑞希はなんとしてもここでAクラスを食い止める、その一心である。坂本雄二のために、霧島翔子のために。
「後ろの人と入れ替わりつつ、撤退よ!」優子が、クラスメイトに向けて、そんな声かけを行う。Fクラス相手とはいえ、多少消耗しているまわりのクラスメイトには少し辛い状況になるからだろうか。
しかし、そう簡単には引かせる訳にもいかない。
「させません!腕輪、発動!」
手を上に向かって、さしあげると召喚獣の腕輪が光って、前方一体に光の剣尖を放つ。
「はぁはぁ…!」
『Fクラス 姫路瑞希
数学 214点
Aクラス 森兵衛&飯島拓也
数学 DEAD&DEAD』
「くそっ!」Aクラスから悲鳴が漏れる。ここまで圧倒的だとは、というのとなのだろうか。
とりあえず何人かは仕留め切ったらしい。が、しかし自分の点数の消耗も大きい。
「一旦下がるわよ!堂上くん、しんがりお願い!」
「了解!」
木下優子を仕留め切ることはできなかったが、とりあえずはこの戦場は耐えきったと言えよう。
「須川くん、何人補習室に?」
「4人だ…面目ない。」
「いえ!5人補習室送りくらいまでならまだ大丈夫そうだ、って坂本くんが言ってました。にしても優子ちゃんなにかおかしかったような…」
「なんだろうな。」須川がそっけない顔でひゅーひゅーと口笛を吹く。
瑞希は、なにかはぐらかされた気がした。
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時計は11時前をさしていた。
「…3階渡り廊下、明久と福村のおかげでとりあえず先行部隊の撃破成功。…4階は姫路が向かったから大丈夫。…2階は階段下までおされている。1階玄関口の伏兵が、戦闘開始。護衛は、誰1人やられていない。」
ムッツリーニからの報告が入る。今のところ善戦が続いてるらしいが…
「坂本!2階下に久保出現!至急援軍を!2階下はもう限界だ。」
「…やっときた、か。」
単純にまだ向こうは準備不足だったろう。だから、久保が出てこなかった理由は回復とも考えられる。とはいえこんなに遅くとは思わなかった
ともかく久保出現の情報に教室は、ざわめく。
少し誤算があった。回復したからすぐ何処かの戦場に持ってくるのではなく、瑞希がどこに向かうかでその判断したわけだ。さらには、瑞希や明久を倒そうというのではなく、砦とも言える陣の一点を破ることで、突入のきっかけを作ろうという策にでたわけだ。
「とりあえず、一階なら体育館前まで持って行くよう伝えて、ムッツリーニは戦闘準備。それから一階の戦いへ。久保のところは、そうだな…行ってくれるか?明久一号。」
姿形はまさに学校一、もとい世界一のバカ、吉井明久。しかしその実中身はクラスメイトの朝倉であるのだが。相当に似せられていて、多少のことでは気づかれないだろう。
「その呼び方はやめろ。ま、行ってくる。」
朝倉はそう言いつつも、教室から抜けていく。
「ふぅ。」とひとつため息が聞こえたから振り向く。一仕事終えたといったところだろうか。
「お疲れさま、だな。秀吉。」
「まぁ…あんなもんじゃろ。」自分の得意とすることへの妥協をしない奴である。本当にこと演劇に関われば人が変わる。
とりあえず昼休みまでは、これで持ちそうだ。