バカとその後と恋愛模様!   作:八百六十三円の片道切符

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「やばいぞ!坂本!砦がひとつ破られる。もう5分と持たん…」
先程からやばいやばいと伝令が飛ぶ。そんなことは分かっているのだ。
どうやら作戦は失敗。完全に見破られた。二度同じような手は通用しないというわけだ。

「翔子のやろうっ!やりやがるな… 。」
なんて呟きつつ、時計の針を見る。休戦時間まではまだ20分弱。
一階の収集がつきそうだと言っていたムッツリーニを行かせて、久保と対峙させてやりたいところではあるが、男の勘というやつだろうか、少し嫌な予感もする。
ならば、
「仕方ねぇ。俺がいく。」





バカと天才と召喚戦争4

「…これで終わりか。」

補習室はいやだぁ!、なんていう叫びが人通りの少ない一階に響く。

 

一階廊下は、完全に掌握した。

少し危なかったのではあるが。

 

体育の授業が少し早めに終わったらしく、大島先生がこちらに歩いてきた。そのタイミングでFFF団の正装を身にまとって誰か分からなくした上で、敵の前に姿を現して、雑魚だと油断させた上での一掃。

体育が早く終わるなんていうのはまぐれ、勝つには勝ったのであるが運が良かったから、と言ったほうが正しいかもしれない状況だった。

 

普段なら教師が来るまで待てばいいなんて焦ることもないような状況であったが、工藤愛子が探しにくる、なんていう情報が耳にはいったというのが大きかった。愛子に見つかるのは非常に厄介なのである。

 

体育の点数だけで周りを圧倒することができなくなるからだ。

1対1なら愛子に負けないとはいえ、自分についで2番目の点数を保有する愛子が相手にいると、束になられると苦しいわけだ。

それについ先日のこともあって、自分でもどこか意識してしまうところがあった。とにかく見つからなくてよかった、というわけだ。

 

とにかく勝つには勝ったのだが。

いつもと違うな、と思うこと一つ。これまでの雄二の作戦には運なんて不確定なものに頼るようなことはなかった。

 

だが今回はどうだ。

 

「…戻るか。」

深く考えても仕方ない。戻ろう。そう思い立ち動きだす。もちろん抜き足差し足忍び足。

雄二からは、隠密を厳命されている。

 

 

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散り散りになってしまっている味方の輪の後ろに駆け込む。点数表示に目をやると、

『Fクラス 山井&坂口

生物 28点&16点』

 

 

やはり、相当に苦しいらしい。

 

雄二も一応の護衛は2人つけてきたが、相手に久保がいるとなるといくら雄二でもまともにやれば敗北の2文字を飲まされることになる。

 

 

「お前ら!退却の準備をしろ!」

「坂本!?お前、なんでここに。」

 

 

「緊急事態に動かないでいて、なにが代表だ。安心しろ、戦う気は無い。」そう、後ろのクラスメイトに見向きもせず、大声あげて説明して手前の久保に向き合う。

「総大将自ら出てくるとは…本当に驚かされるよ。いざ!」眼鏡をちゃきっと手で押しやってから、召喚獣のデスサイズを構える。

 

「だから、戦わねぇっていってんだろ!」

 

 

「腕輪発動!」

そう言いつつ、手を上に向ける。すると雄二の周りからフィールドがすーっと作成されていき教師のフィールドと衝突して、パリンと割れて両クラスの生徒の上に出ていた点数表示が消滅する。

 

「なっ…!」フィールドを割られた教師が唖然としている。なんせ生徒によって割られたのだから。

 

つまりは、干渉を起こしたわけだ。

それから間髪入れずにもう一度後ろに向けて、

 

「退け!ここの後ろの階段は、鉄格子で塞いだ。10分なんかじゃ到底通り抜けられん!」

と命令する。

その場にいたFクラス勢力(残党とも言うべきかもしれないが)が慌てたように引いていく。

 

「さすがは坂本君。考えることが違うよ…。」

「深追いは危険だな。」

「坂本を仕留めたかったが…」

 

Aクラスは追うのをそこで躊躇する。なんせフィールドが壊れた今体力面では、Fクラスには劣る。それに、鉄格子なんて言われたらなにをされるか分かったものではない。相手はFクラスだ。とんでもないことをされる未来しか見えないというものだ。

 

しかしAクラスからすれば、十分な戦果をあげたと言えよう。

フィールドを作成したことで、雄二の点数は確実に減った。

代表はルール上回復することは、できない。

逃がした魚は大きいが、得た獲物もでかいというものだ。

 

 

 

追ってこないAクラスを確認する余裕もなく雄二たちは、一心不乱に教室にかけ戻る。鉄格子なんてまるっきりの嘘だ。そんなものはもちろんない。

それどころか、臨時に兵を回したせいで本陣は護衛すらすかすかなほどである。

だいたい冷静に考えて、そんなものがあったら、Fクラスも通り抜けが出来ない。少し考えれば分かることであるのだが。

往々にして、戦場の空気のピリピリ感の中では正常になにが正しいか判断するのは難しい。

 

兎にも角にももうすぐ昼休みのチャイムが鳴る。この窮地はしのぎ切ったと言えよう。

 

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昼休み。少し遅れて

「雄二!」

「おう、明久か。」

「雄二、最前線まで出たってほんと!?」

補充から帰ってきた明久はクラスのみんなが言う情報に耳を疑った。なんせまだ前半戦で、総大将が動かねばならない、ということはそれはまずい状況だと思ったからだ。

それにそんな状況なら、補充もそこそこに行かねばならないのに。

 

一方で、焦り気味の明久とは対照的に雄二は極めて冷静に、

「まぁな。あの時は、あれ以外仕方がなかったんだ。…それより、ムッツリーニ。」それより、と雄二は、弁当を取りに自分の机に戻っていたのであろうムッツリーニの方へ体を向ける。

なんだか適当にあしらわれた気がして、腹立たしい。

 

「…ん?」

「よくやった、ありがとう。2階の戦場で出くわすかと思ったが…」

「…嫌な予感がしたから遠回りして、窓から帰ってきた。」

相変わらず無駄な身体能力の使い方である。

 

 

「普通に窓から帰ってきた、って言えるところがさすがですね…。」

いつの間にか横に立っていた瑞希が明久が思ったことをまんま代弁してくれる。

 

「そうか…助かった。実は俺も少し嫌な予感がしてな。午前中はギリギリ持ったがこのままじゃ苦しいな。翔子にこちらの考えていることを手に取るように分かられている気がして仕方がねぇ。」

さすがは学年主席かつ雄二の飼い主である。噛みつこうとするペットをいなす、なんてのはお手の物というわけだ。

とはいえ雄二はペット以下だろう。ペットと同列に扱うと、犬や猫が可哀想といったものである。

そう。雄二はいわば、寄生…

「明久、なにか失礼なこと考えてねぇか?」

「え⁉︎そ、そ、そんなこと、あ…あるわけないじゃないか!」

明久はひとつ大事なことを忘れていた。こと明久に関しては、自分の周りにはエスパーしかいないということを。

 

「とにかくご飯にしよ?」

「じゃな。」美波と秀吉がこのままうだうだと続きそうな醜い応酬にストップをかける。

 

そして教室前方。

 

なんやかんやでいつもと同じように集まった見慣れたメンツ。

やはりこういう時こそ落ち着くというものだ。

 

 

雄二が先陣きって、一番手前の席に座る。そのあとに明久や他のみんなもその周りに椅子を持ってきて、机を囲う。

Eクラス設備を手に入れてからの、

 

「今日はね、昨日のハンバーグの残りにさっとチーズを乗せてみたやつ。それと…これはほうれん草のおひたしで、こんにゃくの甘辛炒め。それと薄味の卵焼き。これでもカロリー控えめなのよ?」

なんて美波が自慢する。何度か美波が明久に作ってくれたようなものもその中にみえる。

相変わらず美味しそうだ。

 

 

「明久くん、今日はお弁当持ってきてるんですか?」

瑞希が明久に尋ねてくる。

一応適当な炒め物くらいは作ってあるから、

「うん、少しだけだけどね。昨日は熱で寝込んでたから、買い物できてなくてさー。」

なんて答える。

「明久もか。俺もそーなんだ。母親は今朝、ペットボトルの蓋を焼いていた。」

なにか有害な物質が大量に家に充満してしまっているに違いない。

 

相変わらず狂気じみた母親だことである。いや、自分で子供のご飯を作ってやろうとするだけ明久の母親よりはましなのか。

どちらにせよダメなことは変わりあるまい。

そんな明久や雄二を見て、

「だったら、私今日みなさんに元気になってもらおうと思って、お料理を…」

な、なんだって?

聞こえなかった。うん、聞こえなかった。

 

「姫路、俺はあんまり食うと頭回らなくなるから大丈夫…」

「わしは、ほら!弁当がここに…」そういって、明らかな作り笑顔で弁当箱を上に持ちやって、見せびらかす。

 

ぱか(秀吉の弁当の蓋が取れる音)

ぱく(中身がムッツリーニの口に入る音)

ごん(秀吉が卒倒する音)

 

 

「…俺はさっきまでお菓子を食べてたし、弁当も食べた。」ムッツリーニもここぞとばかりに、自分の身を守るのに躍起になる。

 

 

 

雄二も自分の命は大切だ。それにゴミみたいなバカのために命をはってる時間すらもない。

「そもそも姫路が弁当を食べさせたいのは明久だろ?」

 

 

 

無言が流れる。

 

しまった。口をついてでてきてしまった言葉とはいえ、

あまりに考えがなさすぎた。

 

 

気まずい沈黙を、瑞希の甲高い声が破る。

 

「いいえ、えっと…みんなにです。みんなに!」

聞いてる分にはポップに聞こえるくらいのその言葉。実際には何年もの恋心の重みがあると思うと、少し胸がいたむ。

 

 

「でもちょっと時間がなくて、4人前ぐらいしか…」

つまり生き残れるのは、

 

 

1人。

「だ、第327回!」

「基本的人権争奪杯!!」

「「「いぇーい!!」」」

いぇーい!なのに悲鳴に聞こえるというのは皮肉なものだ。

 

美波も瑞希の料理がどれほど恐ろしいか目の当たりにしてきた。鍋が溶けてしまっていたのを見て驚愕し、秀吉が倒れたのを見て確信した。あれはやばいものだ、と。

 

今回ばかりはみんなのためと言っているので、美波も参加せざるを得ない。この不毛な争いに。

なんて思っていると雄二が、

 

「明久。」

「なにさ?」

「頭にハチが止まってるぞ。」

「え⁉︎え⁉︎ほんとに⁉︎」

「最初はグーじゃんけん…」

 

 

「「「ほい!」」」

ハチと言われて頭に気を取られた明久が手を出しそこねる。

「…明久、後出しは反則。」

「そうだぞ、明久。ちなみにハチはどっか飛んでいったぞ、よかったな。」

 

「雄二ぃぃ!!!貴様ぁぁ!」

 

納得なんぞいくわけがない。というかこんなことで死にたくない。

 

 

明久が雄二につっかかっていって、とっつかみあいが始まる。

 

 

変わっていく関係もあれば、変わらない関係もある。人間関係なんてものは往々にそういうふうにできている。

 

 

 

その後、秀吉やムッツリーニ、美波も巻き込んでなんとか争いを長期化させることでかけがえのない、言うなればもともと特別なオンリーワン。そんな命は助かった。

瑞希には申し訳ないと思うのだけれど。

 

 

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「午後は、3時半までと短い。とりあえず今日は午前と同じように耐え忍びつつ相手にあたれ。この状況でどこまで耐えうるかがこの戦の分水嶺になる。なんとしても、守り抜け!」

 

午後の、実質的戦闘時間は2時間強。色々と計画は狂ったが、今日を凌ぎ切って明日に持ち込めば、今日の夜にいくらでも作戦だって考え直すことが出来る。

少し翔子を見くびっていた。幼馴染だから分かった気でいたが、それは裏を返せば逆に分かられてもいるのだ。

スタンガンに目つぶし、それだけの女ではない。

 

「久保や木下姉が来るようなら、姫路なりを向かわせる。あと、今回は姫路にも初めから戦場にいってもらう。とにかく相手の平兵を根こそぎ倒してくれ。」

「はいっ!」

無理なお願いが続いているのだが、瑞希はいい返事をしてくれた。

 

 

「姫路と島田は、4階。明久と秀吉は3階。ムッツリーニは、2階。運のいいことに大島の教師部屋は2階にある。休むならそこに来るはずだから捕まえてくれ。須川は…」

 

雄二の命令が細かくひとりひとりに伝えられていく。先ほどより情報も増えてより細やかになった気がする。

 

一通りの説明が終わって、最後。

「よし、行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

気合は十分だ。

 

 

_________________________________

 

 

「瑞希、行くわよ。」

「あ、はいっ!」

チャイムが鳴るまであと少し。2人は男子より一足先に、戦場となるであろうあたりを歩いてきていた。

 

なんとなく緊張もあって、ここまで心知れた仲ではあるが少しの沈黙が間に流れる。

 

相手が来る方向からは誰が来るわけでもないらしく、音沙汰はない。

そのぶん廊下に足音だけがコツコツと少し長く、大きく響いている。

 

 

瑞希と2人きり。

 

「…あのさ、瑞希。」

「はい。」

「ごめんね、ウチは本当に自分勝手だ。瑞希を応援するとか言ってさ。結局ウチはアキが好きだった。それで、今なんて…」

「美波ちゃん。」

 

自分は最低だ。そう言おうと思っていたら、その言葉を瑞希は遮る。

 

 

「私は美波ちゃんが悪いだなんて思いません。私たちは…譲り合いをしてたのかもしれませんね、する必要のない譲り合い。口では欲しい欲しいと言ってても、どこかで今のままの関係を求めてたんです。でもね、美波ちゃんはそんな状況を壊したんです。自分で。自分の力で。それに…明久くんも。明久くんだってほんとは最初から…美波ちゃんを求めていたんだってそう思います。」

「瑞希…。」

瑞希の言葉のひとつひとつを噛みしめる。

瑞希の気持ち、自分の気持ち。もっと色んなものが重なって、壊れて、今がある。

 

「でも叶わなくても、気持ちくらいは伝えてみようって思ってます。いくら届かなくても、これが私の初恋ですから。一生忘れられない、素敵な。」

 

瑞希は明久に告白するらしい。明久が顔を真っ赤にして動揺してそうな絵が思い浮かぶ。

 

「まだ私が告白するって言ったら、ちょっとは焦ってくれますか?」

美波の顔からそれを察したのか、笑顔ながらそんなことを言ってくる。

正直に言うと、そんなことされたら、少しくらいは焦ってしまう。明久は押しに弱いのだ。

 

「ばーか。」

瑞希の頭にぽんと手のひらを立てて、かるーくチョップ。

 

「いてっ。」

瑞希は、小さく呟いた。

 

 

「さっ、切り替えてしっかり戦うわよ!」

「はいっ!科目は…えーっと国語になりそうですね。」

「…瑞希、頑張ってね。」

 

「ははは…。」

瑞希の乾いた笑いがもれる。

 

なぜこういう時にかぎって、一番の苦手科目になってしまうのだろう。

 

 

 

_________________________________

 

 

 

戦はおおいに均衡していた。 不思議と木下優子はでてこないし、久保もまた情報がない。

とはいえ、まだ午後が始まったばかりだからということかもしれないが。

 

今、明久は戦場から少し外れの教室で待機をしていた。

クラスメイトが、どうにかこうにか戦闘しているのがかろうじて隙間から見えるような場所。所在なしといったとこか。

 

 

なんでも雄二は「オオヤマを張る」とか言っていた。なんでも小さな小技が通用しないなら、運でもなんでも味方にしてやる、ということらしい。

だからといって、「明久は良くも悪くも運があるからなー。」なんていって送り出すというのは少し、身勝手というものだ。

 

雄二の指示どおり隠れたまま、召喚した明久自身の召喚獣を、「えーっと…こんな感じだっけ…」なんてつぶやきつつ、F衣装を着た召喚獣に変装させてゆく。

そうこうしながら、ぼやーっと戦場を見ていると、

 

「吉井のやろおおおっ!」

「なんでだ!なぜだ!うおおお。」

みんなそんなにこの暇な明久の状況を羨ましく思うのだろうか。

出て行ってはいけない指令だが、たとえ指令が無くても出て行きたくはない雰囲気だ。

 

 

「お主らのう…。」

前線の指揮は、麗しきその容貌。ついつい目を引かれてしまうような髪のツヤ、香り。優しさとどこかに憂いを秘めたようにすら感じさせるその目元。

ご存知、木下秀吉である。

 

この人はそう、男なのだ。

 

 

「仕方なかろう。明久は…いわば生贄じゃ。」

 

やっぱり!?とはいえまぁ、そんな気はしていたのだが。

 

_________________________________

 

 

「姫路さんは4階にきたみたいね。」

優子が髪をさらーっとかきあげながら、片手に握った紙に目を落としながら話しかけてくる。

 

「…瑞希は4階…。美穂が向かったけど、長くはもたないだろうから、お願いするかも。吉井は?」

瑞希はたしかに強い。だが、そんなすぐに佐藤美穂レベルを破ることができるわけではなさそうだ。

 

「それがまだ現れてないみたいなのよ。さっき紺野君が帰ってきたときに聞いたんだけどね…。」

 

「……分かった。」

「それといえば、土屋君は?」

 

「…土屋は、2階。体育のフィールドを張られた。…2階はもう劣勢。今、愛子が向かってくれた。仕方が無い。」

愛子がはやくにつけば、まだ形勢の持ち直しはできる。

 

にしても吉井明久が現れてこないのはどういった理由であるのだろうか。回復に時間でもかけているのであろうか。

 

詳細は分からないが、情報を掴めていないのは確かだ。

なんてとやかくしていると、

 

 

「僕はどうしようか?」

と、横から久保が話しかけてくる。なんといったってうちのエース。このまま教室に優子も久保も置いておくというのは、なんとももったいないというものだ。

 

雄二が狙ってるのは、久保というよりは優子。行かせるとするなら…

 

「…久保、3階に行って。」誰もいないのは3階。殲滅するにはぴったりだ。

「了解!」

 

 

_________________________________

 

 

もう一時間は、停滞が続いたろうか。そんな頃。

 

「久保!」

「久保くん!来てくれたのね。」

「科目は?」

「社会だ!」

Aクラスはやきもきしていた戦場の状況を打開できると喜んだ。

なんだかんだずっと防御に徹するFクラスを打ち崩せないでいたからだ。召喚獣の使い方がうまいと言おうか、長槍隊に刀、薙刀、鉄砲隊。どこぞの織田軍かと言わんばかりに統制もとれている。

(報酬が、聖書であるからなのだが。)

 

兎にも角にも、久保がきた。これで完全にAクラス有利というものだ。

 

 

対するFクラスは…

 

「ふふっ。」

「ははっ。」

「えへへ。」

頭に虫でもわいたらしい。

 

 

 

まぁというのも、Fクラスからしてみれば計算ずくなのだが。

ひとえに前線の指揮たる木下秀吉の演技指導のたまものである。

 

「久保、頼むぞ。」

「分かったよ、悪いが覚悟してくれるかな?木下君。…試験召喚獣、サモン!」

点数表示は、圧倒的なまでの

『Aクラス 久保利光

日本史 426点

VS

Fクラス 木下秀吉

世界史 105点

 

「そうじゃのう…。いざ尋常に、じゃな。」

口をそんなふうに動かしつつ、横にある教室にむけて、ちらっとAクラスに見えないように、後ろで指を動かして明久に合図をする。出てこい、と。

 

 

「行くよ!」久保がそんな宣言をしてから、召喚獣のデスサイズを振り回して突っ込んでくる。

秀吉はなんとかかんとか鉈で払う。それでもダメージは大きく食らってしまうのだが。久保が来たからと気を抜いたのか他のAクラス勢は、後ろから動かない。

 

しかしこれで、背中は…がら空きというものだ。

 

「おりゃあああ!!」明久の召喚獣が、久保の召喚獣に突撃していく。狙うべきは、一点。喉近くである。召喚獣の小さなうごきをごくごく微妙な感覚までをもコントロールして、間違いなく突く。木刀で突くからには、

 

「なっ…」

 

『Fクラス 吉井明久

日本史 360点

VS

Aクラス 久保利光

日本史 19点』

狙いは正確だった。それでもこれだけ残されてしまった。

だが…

 

「みんなっ!」

Fクラス長槍隊が一歩踏み込んできて、久保の召喚獣を串刺しにする。

 

『Aクラス 久保利光

DEAD』

「なっ…。」

「よっしゃあああああっ!」

 

 

戦場の空気感が一変にFクラスに傾く。

 

「吉井くん、君には負けたよ。」

 

「ごめんね、久保くん。今回だけは…どうしても仕留めたかったんだ。」

「いや、吉井くんに負けるなら、満足だよ。負けるなら吉井くんにやられたいと思ってたんだ。」

なんて素直に褒められたと喜んでいいだろう台詞。

 

 

なのに、それなのに、

 

寒気がするのはなぜだろうか。

 

とにもかくにも、これで今日達成すべきノルマは達成したと言えよう。

 

「木下、4階は姫路たちが制圧したらしい。」

という報告もはいる。午前とは一変、素晴らしいがまでの勝ちである。

 

_________________________________

 

 

午後の終了まではあと1時間ほど。

 

「ムッツリーニ、どーする!」

「…お前ら点数低すぎる。撤退もやむを得ん。」

 

 

「なにさー康太くん。逃げるなんて、許してあげないよー!」

愛子が意地の悪そうな顔と、どこか甘え猫のような、それでいて挑発してくるようなそんな声でもって目の前に立ちはだかる。

 

「…うるさい。」

 

そもそも出るタイミングを誤った。2階は絶賛体育のフィールドなのだが、思ったより大島先生が来るのが遅かった。

康太が早めに出てしまったため、Aクラスまで伝わり、工藤のもとまで情報が行ってしまったというわけだ。

 

『Fクラス 土屋康太&加藤隆

保健体育 684点&72点

VS

Aクラス 工藤愛子&奥井うらら

保健体育 624点&186点』

 

点数差はたいしたことないように思えるのだが、他のメンバーも全員Aクラスのメンバーの−100点近いというのだから、その差はわりと辛いというものだ。

やはり愛子を敵に回すと面倒臭い。

 

 

だがその程度で、諦めるほどの康太ではない。これまでの戦いだってそんなことで諦めてたら、全部負けていたと言っても過言ではない。劣勢ならどうすればいいか、自分に有利な状況を作るにはどうしたらいいか。

 

 

 

ズルでもなんでもすればいい。そうやって生きてきたし、それがよほどのことでない限り悪いことでもない。

 

雄二の命令を思い返す。とにかく、大将クラスを打ち取りさえすればいいわけだ。なら、今狙うべきは愛子1人…。

 

 

「…工藤。」

「むぅ、愛子って呼びなよ!」

なんてことを言うのだ。

愛子が不満そうにそう言うのにFFFは大反応。

目線が痛い。

 

「…おまっ…今はそういう場合じゃ…」

そう言いつつ、思わず工藤に一足近づくと、

「きゃっ…ってなにさ攻撃してくるわけじゃないんだねー。そういう場合ってどーゆう場合さ?それともえっちなことでもしたくなったのかな?」

「…謝るから、もうやめろ。」

回りの全ての人から殺気が放たれている気すらしてきた。

 

 

だがこの作戦自体には関係ない。むしろ逃げられるから好都合なくらいだ。

 

許せ、工藤。

「…大島先生。土屋康太、工藤愛子に保健体育のこの場でのテストによっての勝負を申し込む。」

「「⁉︎」」

 

まぁ、というわけだ。これで康太と愛子の試験での一騎打ちに切り替わる。

この場から保健体育のフィールドは消える。次の教師は向こう側がはじめに用意していたろう英語の遠藤先生になるはずだ、つまり科目は外国語。階上の戦線はそうそうに収集がつくだろう。ならば、美波が来ることで、この戦線も圧倒できる。

 

「ほう…、工藤、お前は?」

 

 

「…工藤。」

「へー、そーゆうことするんだ。さすがだね、Fクラスは。いや、というよりは坂本くんはっていうべきかな。」

読まれている。

 

「…えーと…、2人きりになれるな。」

 

「っ!…それはずるいよ、康太くん。えと…先生、工藤もやります!」

心は正直痛む。だが仕方が無いといえば、仕方が無い。

 

でもこれはただの嘘なんかじゃない。

本当の気持ちじゃないわけじゃない。

今はそう自分に言い聞かせる。

 

_________________________________

 

 

 

 

 

「ほんと、康太くんには負けるよ。」

「…くど……愛子もさすがだ。…けど今回だけは譲れなかったんだ。」

自分を導いてくれた友のため、

勇気をくれた野郎に。

 

 

 

 

「ふぅ。ま、土屋の勝ちだ。もう時間だから、工藤は明日には補習だ。」

大島は、どうにもこうにも嬉しかった。

自分の教え子のレベルが高い競い合いとその仲の良さに目を細め、少しにっとしてしまうくらいの気持ちになる。

 

「お前らは、俺の誇りだ。」

そういって、2人の頭の上に同時にぽんと手をやる。

勝ち負けはついたかもしれない。

だけどこの2人は分かってるだろう、それより大切なもの。

それはその笑顔を見ればすぐにわかることだ。

 

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