夜中、いやもう明け方といえようか。ようやく作戦が煮詰まり切る。
ノートには非常事態のそなえからなにから全て書き込んである。これで十分というものだ。
明日(今日)のことを考えてみる。他にすることは…
そうだ…自分の気持ちを伝えなきゃいけない。なんせこれだけ待たせたのだ。しっかりと伝えねーと。
なんて思っていると
坂本くん、好きだよ!
なんて言葉が頭によみがえってくる。
答えを出すのは1人にだけじゃダメらしい。
「おう。明久、おはよう。」
「雄二、おはよー!」
なぜかやけににこにこしているように見えたから、
「なんだ、嬉しそうだな。」
「へへ、そう見える?実は今日父親から仕送りが届いたんだ!母親からは水しか送られてこないんだけど、野菜とか生活用品とか送られてきてさぁ。大助かりだよ。」
「母親はどーなってんだよ、それ…。」
嬉しそうな友人の笑顔はいいことなのだけど、母親からは水だけとは。
問題も山積みだなと思う。
「雄二、今日は頑張ろーね。」
「おう。明久、お前にももうひと頑張りしてもらうことになる。頼んだ。」
「そうこなくっちゃね。」
Fクラスの個々は弱いかもしれない。だがしっかりと団結さえすれば、そんなことにない。Aクラスだって凌駕できる。
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「ふぅ。」
大きくひとつ深呼吸をする。
戦争はあと数分でスタートする。明久もそれに向けて準備をしていた。
先ほど戦争のガイドラインを雄二から聞いたのだが、内容はいたって簡単。しかしやれと言われると難しいったら難しいという内容であった。
色々文句でも言ってやろうか、と思ったら
「この戦争、あとは勝ちにみちびくだけだっ!!」
とかなんとか高らかに宣言しはじめたからそのタイミングも逸してしまった。
そのことでわりと悩んでいたら、
「アキ、うまいことやりなさいよ。」
と美波が横から声をかけてくれた。
「うーん、どーやったらうまくいくかな。」だったら甘えてやれとばかりに、なんてことを聞いてみる。
「…うーん…イメトレとか?成功するイメージを頭に思い浮かべるの。」
イメトレといえば頭の中で一旦鮮やかなイメージを作っておくことで、本番も耐えうるといった方法のものである。
「成功するイメージ…。分かったやってみるよ、ありがと美波。」
「あ、うん!坂本のためだからアキも張り切ってるわね。」
「なんで雄二のために張り切らなきゃいけないのさ!」なんて言い返す。とはいえ、頑張ろうという気持ちは本当にあるのだが。
雄二のために。
「ウチは嫌いじゃないわよ?口ではとやかく言っても、人のために頑張っちゃう人。」
!
「頑張るよ。うん…頑張る。」
美波がそう言ってくれるんだ。やってやろう。親友のために。
「Aクラスが来たぞ、吉井!」
「おっけー!みんな、Bクラスの後ろの扉まで押しやって!お願い!」
「「おう!」」
もはや召喚獣とかどうこうの話ではなく、脚力でさきにFクラスが渡り廊下を渡り切ってしまう。
そしてなんとかかんとかBクラスの後ろの扉につけることができた。
あとは中に入って…と。
明久にはひとつやることがあるのだ。
「吉井!うまくやれよ。聖書のためにもな。」
「うん。俄然やる気が出たよ。」
そう言い残して、みんなが走る勢いに紛れて扉の隙間からすっとBクラスに忍び込む。
中に入ると、代表の根本が待ち構えてくれていた。
大方、雄二がそうするようにさせたのだろうが。
「吉井、来たか。」
「あ、うん。よろしく!」
「ところで、聖書ってなんのこと…」
「あー、僕はキリシタンなんだ。」
根掘り葉掘り聞かれると困るから、全くの嘘を言っておく。
「まぁいい。とりあえず説明をする。今はこのクラスは自習だ。先生はいない。」
そこまで根本は言うと、すたすたと移動して、天井の蓋の真下へ。
そしてポケットから折りたたまれた紙を一枚。
「そんで配管口の入り口はここだ。この地図どおりいけば、Aクラスの真上の配管口に出れる。向こうの天井の蓋も緩めておいた。心置きなく行け。」
雄二から聞いた作戦。それは明久の召喚獣の物理干渉能力と腕輪による二体同時召喚の2つを目いっぱい利用したAクラス本陣急襲作戦。前からも突入、窓からも、上からも突入となれば、いくらAクラス、霧島翔子とはいえ予想の範囲外というものだろう。
「ありがと、根本くん。」
「教室交換してくれないだけでありがたいよ、これくらい。」
まぁそーゆうことだろうとは思ったが。
なんせ根本なのだ、ただの優しさでここまでするわけがない。こういったことで、クラスメイトからの地に落ちた信用の回復を少しでもしようというのかもしれない。
急にざわざわと外が騒がしくなる。
それを聞いて、根本が
「お、外の戦闘も始まったな。」
なんて言う。
「うん。科目は、国語…か。とにかく…試験召喚獣召喚!試験召喚獣サモン!!」
幾何学模様と共に現れる点数表示は、
『Fクラス 吉井明久
国語 135点 』
「なんだ、やけに点が高いな。」
根本が驚いたように呟く。
予想外の褒め言葉に明久は少し喜びつつ、言葉を返す。
「うん。秀吉に教えてもらったところがピンポイントで出たんだよ。」
いわばただの運だが。
「ダブル!」
今度は腕輪を上に掲げて、2体の召喚獣を同時に使うダブルを発動する。
「気をつけていけよ。」
「おっけー!」
そう言うと召喚獣のうちの一体のみを天井の上に送り込んで
明久自身はガラガラと戸をあけて、もう一体の召喚獣と廊下に戻る。
すると、その途端に
「吉井がいたぞ!」
「叩け!」
「また隠れていたとは…!」
よほど警戒されて、狙われているらしい。
『Aクラス 金子洋 &福田香奈
国語 234点&167点
VS
Fクラス 吉井明久
国語 63点 』
ダブルを使う以上明久の点数は半減。さらには明久の意識は基本的には今、目の前にいない主召喚獣のほうに基本的には置いていくことになる。
つまりは戦いにも集中なんてしていたら、頭がオーバーヒートしてしまう。
どうしようか、なんて思っていると、
「明久よ!わしらに任せるのじゃ。」
「そうね。あんたは死なないだけで価値があるのよ。」
秀吉と美波が助太刀してくれる。
これは明久がなにかしていると悟られないために、不自然さのない演技。
美波の台詞もはじめから決められた台詞だ。
とはいえ、わりと傷つくのだが。
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Fクラス相手とはいえ、まさにこっちは飛車角落ち。
切り札は昨日、相手方の計略でやられてしまって、完全に封じられた。
「代表、このままじゃ…!」
「…うん。」
こうなったら、
「…優子、Fクラスの本陣に奇襲をかけれないかな。」
「え⁉︎」
このままみすみす負けるよりは抗って負ける方が、幾分マシだ。
そう思った。
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夕日が眩しい。車のひとつもない田んぼ道。
『…雄二。』
『なんだ、お前になんざ俺は用はないぞ。』
『…悪鬼羅刹って呼ばれてるんだって。』
『だからなんなんだよ。そんなのはただの他人がつけた名前だ。俺は…ただ力が欲しいだけだ。』
『…かっこいいと思う。』
『勝手に思ってろ、バカ。』
『…私、今は雄二より頭いい。』
『なっ…うるせーよ!…というか、ついてくんな。』
『…私の家もこっち。』
『嘘つけ。あっちだろーが、帰れよ早く。』
『…雄二、ひどい。』
『はぁ。』
『…明日はうちの中学校休み。』
『だからなんだ。』
『…遊びに行きたい。』
『勝手に行けよ。じゃあな。』
『…。』
鬼のような強さ、人を寄せつけないその目。悪鬼羅刹。
それが坂本雄二の二つ名だった。そんな雄二にいつもつきまとう女が1人。
いつも一匹狼気取ってた自分を1人にしてくれなかった女が。
1人にしないでくれた人が。
『…雄二。』
『なんだよ。』
回りには殴り倒した、調子に乗っていたたチンピラが苦しそうに倒れている。顔にはあざ、さらには拳からは血すら垂れている。
『…雄二がやったの?』
『だったら、なんなんだよ。』
『…苦しそう。』
『こんな奴らのことは知らね。どうでもいいし、自業自得だ。悪鬼羅刹を討って名前をあげようだなんて、宣言するような奴らだ。』
『…違う、私が言ってるのは違う。』
『?』
『…苦しそうに見えるのは雄二。』
『…っ!』
いつも、いつも。なにをしてもどんなに非道なことをしても、いて欲しくない時もいて欲しい時もそばに。
『…雄二。』
『あん?』
『…諦めるの?』
『お前には関係ない。それに、出来ることと出来ないことくらいぱっと見でわかるだろーが。』
『…雄二はなにも変わってない、小学校の時から。』
『…うるせぇ…うるせぇ、俺は変わった!俺には力がある。俺には…』
『…変わってない!』
全くその通りだった。喧嘩が強くなってもどうなっても結局、なんにも変わってない。
無理なものは無理とすぐに諦めていた、結局。無駄に頭が切れるのだ。判断だけは素早く。
『…雄二。』
『なんだよ。』
『…高校に入ってからの雄二は変わった。…どんなことと諦めなくなったし、それに人に優しくなった。』
『…気のせいだろ。』
高校で本当のバカに出会った。どうしようもないバカに。
自分が持っていないものを全て持ってるバカに。
そして今、ようやっと自分が変えられて来た気がする。自分がしなきゃいけないこと、したいこと。はっきりと分かるようになってきた。それで、その上で動けるようになった。
それまでの本当にダメな自分の横にも、今も。
それでもずっといてくれた。その女の子は。好きだと言ってくれた。
その心に、やっとちゃんと答えを出す時が来た。
答えを…
『坂本くんのことが好き!』
ふと頭に友香のそんな言葉が蘇る。ちゃんと答えを出さなきゃいけないのは、翔子相手にだけではないらしい。
「おい、坂本ー!」呼び声に、頭の中、思考の世界から、ふっと帰ってくる。
「ん?どーした?」
「いや、何回か呼んだんだが、反応しなかったからよ。ムッツリーニからの情報だ。あと20分もしたら、相手の本陣に突入できそうだそうだ。」
どうやらそろそろ大詰めらしい。
「そうか、ありがとよ。それと…須川。もひとつ頼まれてくれねぇか。」
「ん?」
「悪いが本陣見張っといてくれ。ちょっと行くところがあるんでな。」
「ん?おう。どこいくんだ?」
「トイレだ。」
行こう、小山のところに。
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電気のついていない暗い教室の中で待っていると、
扉が開けられて、小山友香が中に入ってくる。
「きたか。」
「坂本くん?いきなりメールしてきたと思ったら、こんなとこに呼び出して…。なによ。」
「それはだな…」
理由を言おうとしたら、
「もしかして、そーゆうことでもしたくなったの?」小山がふざけて、意地の悪そうな、それでいて試すような顔でそんなことを言って来る。
「小山。」
「?」
「真面目な話だ。」
「!」
そう言った途端に、たった2人きりの教室はしーんと静まり返る。
数秒、されど何分にも感じるような時間経過を感じた後、
そんな空気の中で自分に確かめるように喋り出す。
「…俺は、俺は…霧島翔子が好きだ。今度は、もう迷わない。だから小山にもう一回だけ言っておきたかった。すまない。」
そう言い切ると、いきなりと言ってもいい言葉に戸惑ったのかしばらくしてから小山がこう口を開く。
「…分かった。」と一言だけ。
今にも泣き出しそうな顔を抑えながら、小山はそう答える。
それから続けて、
「坂本くん、あのね。ありがとう。私はいっぱい間違ってた。どうしようもなかった。でもそんな私に坂本くんは、本当の好きって感情を教えてくれた。恋ってさ、理屈なんかじゃないんだ、ってこと分からせてくれた。好きなものは好きなんだって。私の本当の初恋は坂本くんだ。だから、その…ありがと。それと…さよなら。」
「…おう。」
自分なんかを好きになってくれて、本当にありがとうと、そう思える。
小山がいたから、自分は気づかされた。霧島翔子への気持ち、思い。
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「坂本くん、ごめんだけどここで倒させて…って、あれ。」
微妙に薄かった警戒網をくぐり、なんとかかんとか本陣であるFクラスに飛び込む。
しかしそこにはどれだけ探しても坂本雄二はいなかった。
代わりにいたのは、
「悪いが、坂本はいないぞ。」
「須川くん!」
横から不意に声をかけられて、驚きつつも振り返る。
にしても、坂本雄二がいないなんて、そんなわけがないのだが。
「もひとつ悪いが、木下優子!ここで打ち取らせてもらう!」
そう言われたから反射的に、
「勝てるとでも思って…」
なんて言い返しをしていると、外野から
「お、須川。いとしの木下優子との会話か!?」
「全くもって許せん。」
なんて声が飛び交う。
それで思わず
「は!?なんで、そうなるの…」なんてしていると、さらに奥から聞き慣れた声で、
「木下さん、あなたの負けです。」
「そうじゃぞ、姉上。」
「まさか、Aクラスに奇襲されるとは思わなかったけどねー。」
「なっ…。」
いつの間にか秀吉や瑞希、美波が回りを取り囲んでいた。
「悪いが、負けるわけにはいかねーんだ。悪いな、木下姉」そんな時、教室の後ろから代表坂本雄二が顔を覗かせて、呟く。
どーやら読まれていたのか、偶然なのかちょうど教室にいなかったらしい。
まさに万事休す。これだけ囲まれたらいくら点数が高くても厳しい。
こうなった以上、あとできることといえば…
「秀吉っ!帰ったら覚えてなさい!」
これくらいだろうか。
「とんだとばっちりなのじゃ…。」
弟のそんな声を聞いているうちに、
『Aクラス 木下優子
数学 DEAD 』
「よし、あとは本陣に総攻めかけるぞ。」
「「おう!!」」
野太い声がF教室の周りを飛び交う。
「アキはうまくやってるかしら。」
「まぁ明久なら大丈夫だろ。」
「少しは信用してやったらどーじゃ?」
「それも、そうよね。うん。」