その勢いは点数差をものともしない。
A教室の中。
見渡すと、思ったよりも人が多い。
雄二が見積もっていたよりは護衛は多かったらしい。
自分と翔子の点数表示を見ると、
『Aクラス 霧島翔子
古典 358点
VS
Fクラス 坂本雄二
現代文 287点』
「…雄二。」
「なんだ。」
「…まだ私は負けてない。」
「おう。」
そんな翔子の声に反応したのか、
「そうだ!Fクラスに負けるなんてわけには…」
なんていいつつ、護衛が襲いかかってくる。
だが今はそんな場合ではないのだ。
「悪いが今は相手にしてられないんだ。狙うは総大将の首だけなんでな。よし…やれぇぇっ!!」
そう叫ぶと、
「おりゃああ!!」という叫びとともに、天井の蓋があいて、真上からは吉井明久の召喚獣が降ってくる。
さらには横窓からは、土屋康太が無音で侵入。
「…吉井に土屋!」
翔子が気づいた頃にはもう後の祭り。
康太の召喚獣が投げたクナイで翔子の召喚獣は身動きを取れなくされたうえ、フィールド上方から明久の召喚獣が木刀を頭上高く振り上げ、翔子の召喚獣の脳天に向けて振り落とす。
召喚獣頭上の点数表示を見ると、
『Aクラス 霧島翔子
古典 80点 』
「雄二っ!」
「おう。分かってる、ありがとな明久。」
「柄にもないこと言わないでよ。気持ちが悪い。」
明久のそんな言葉を背に聞き流す。
「坂本くん!こっちは抑えました!」
「こっちもなんとか抑えれたわよ。」
瑞希や美波、秀吉、さらには須川など全員がその場に総がかりで他のAクラスの人間を抑えてくれる。
はじめに考えていたセオリーでは、瑞希に仕留めてもらおうかなどとも考えていたのだが、ここまで来たら自分の手で決めてやりたいと思う。
自分のことなんだ。自分で決めないでどうする。
自分のためにも。こんな奴を好きになってくれた小山のためにも。
雄二は召喚獣に鉄拳握りしめさせて、翔子の召喚獣に殴りにかからせる。
点数表示は…
『Aクラス 霧島翔子
古典 DEAD 』
その表示がされたあと、
…
少し空気が固まってからFクラスの人間たちから歓声があがる。
まさに待ちに待った瞬間。歓声の中にはどさくさに紛れて頭をたたかれたことに対する怒気を含んだ声、さらには単純に嬉々とした声などが入り混じる。
そんな中。
「翔子、俺の勝ちだ。」
「…私の負け…?」
「あぁお前の負けだ。それで、だ。勝ったらひとついうことを聞く約束だよな。俺がお前にして欲しいことはひとつだけ。」
「…なに?」
「……。翔子、お前との関係を一度無しにしたい。」
そう言い切ると、
「!」
途端に翔子の目には大粒の涙が浮かびはじめる。康太が入ってきた時に開け放たれた戸からこぼれる光がその目元をきらきらと照らす。
泣くなよ、と言いたい。これからやり直そう、と。ただそれだけのことなのに。
翔子の近くにもう一足寄って小さくささやく。
「それと、放課後…A教室で待ってろ。」
「…。」
無言。言葉が返ってこないので聞き返すと、
「翔子?」
「…分かった。」
と小さく声が聞こえた。
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「にしても長い戦いだったわね。」
「そーだね。しかも昼からは授業なんて最悪だったよ。」
Aクラスとの戦争が終わり、午後は点数補充のための補習と通常授業が再開された。
本来なら教室が入れ替わるはずなのだが…。
戦争が終わって数分後に学園長、もといクソババアとののしられるだけの人がやって来て、
「あんたら、勝ったんだってねぇ、おめでとう。だけどねお前たち、教室の入れ替えは無しにさせてもらうよ。もう3学期も終わるのに、こんな時期に入れ替えは手続き等々面倒なんでね。旅行の方だけはAクラスと入れ替えてやるからそれで勘弁しとくれ、バカども。」
ということらしい。
もちろんそんなことを言われてただで納得するFFFではなかった。「クソババアしね。」とか「教育委員会に訴えてやろうか!」とか「呪いかけたかんな!ぺっぺっ!」なんていう声が飛び交った。
だが最後には当初の一番の目的である美人CAの方だけは確実に拝めるらしいということもあったり、逆らうものは補習室だ、なんて鉄人が言うのもあったりで、なんだかんだと丸め込まれてしまった。
「で、坂本。なんであの時翔子に告白しなかったのよ。」
そう美波が唐突に本題を切り出す。
それにFクラスのいつものメンバーが「うん、うん。」と同調する。
「なんでって…あんなとこでいったら須川たちに殺されるだろーが。」
「翔子ちゃん泣いてました。」
「ま、それに関しては少しは自分のこれまでの態度を反省しろってことだ。」
それにはちょっと明久もいらっときて、
「雄二!なんてことを…」と声をあげると、
「わりぃ、明久。ちょっと用事があるから行くわ。」それをかわすように雄二は明久の5歩ほど先、そんなことを言い残して手をあげて去っていく。
「雄二!待て…」待てよ、と言いかけたところで前に行こうとする明久を後ろから美波が服の袖を引っ張って止めてくる。
「アキ!」
「なにさ?」少し不機嫌にそう返すと、
「坂本は翔子のところに行くのよ、きっと。それに、アキの知ってる坂本は翔子を泣かせて心痛めないような人?」
「…。」美波が諭すように言ってくる言葉に、確かにそうだと納得してしまって言葉を失う。
秀吉や瑞希もそれに同調する。
「雄二のやつも色々考えてるということじゃ。」
「というか、そんなことは明久くんが一番分かってるんじゃないですか?」
その通りだ。全くもって。
「ま、そーゆこと。そうかっかっしない!」
「はーい…。」
気がはやりすぎていた。良くないことだ。
「…それにしても明久が雄二を止めてるのを見ると、霧島に嫉妬してるようにしか見えん。」
ムッツリーニがとんでもないことを当たり前のように言う。そんなわけないと否定しようとするとその前に美波が、
「なんだかんだいって坂本をとられたくないってことかー!」と言う。
さらに、
「それなら納得いきますね。」と、瑞希もそんなふうに笑いながら、その言葉に同調してくる。
「そんなわけないじゃないか、納得いかないよ!」
そこでようやく反撃のきっかけを得て、なんとか言葉にすると、
その場にいた全員して、
「「はいはい。」」
「流さないでくれる!?」
全く遺憾だ。
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明久たちと別れて、Aクラスの教室の前まで、自分に平常心平常心なんて言い聞かせながらてくてくと歩いていく。ただ一言いうだけだ。そう今さらの話なのだ。
そして教室前についたあと、扉の前で一旦一時停止して大きく深呼吸。
いける、そのために何年も費やした。ただ一言いうだけなのだから。
そしてひと思いに扉を開けて、
「翔子!」と名前を叫ぶ。
が。
「…。」
いない。ぐるりと教室の中を見渡して見てもいない。
「なんだよ、あいつ…。」
まだ来ていないというのはおかしい。なんせここはAクラス。翔子が授業を受けている教室だ。
またどこかへ行ってしまったというのだろうか。また1人で。
とにかくいないものは仕方が無い。探すしかないか、とそんなことを思いつつ教室を出て、階段をおりていって、下駄箱の靴を適当に履いて、校門に向かうためグラウンドに出る。
出ていったグラウンドではちょうど部活動の真っ最中で、ソフト部やサッカー部といったところがボールを一生懸命追いかけている。
外は風が強く吹いていて、もわっとした暖かさのあった校内とは真反対に凍てついている。
「くそ…さみぃな。」
そう思いながら、鞄の中からマフラーを出して巻きつつ、なんとなしに上を見上げる。見上げた空はどこまでも青く、雲ひとつ見えない。
そんな時。ふと、校舎の一つの教室の窓がこんなに寒いにも関わらずあいていることに気づく。
なんであいてんだ、とか思いながらその教室の窓を眺めていると、
窓から風になびく艶のある長い黒髪。見覚えのあるその髪。
「…翔子?」
たしかあの教室は…C教室だ。
雄二はC教室に向かって、来た道を戻ってもう一度下駄箱に戻り、土足のまま校内に飛び込む。
そして一心不乱に今度は階段を駆け上がる。
ものの数分のうちに上ったり下りたりとバカらしいがそんなことは気になりもしない。とにかく翔子に会いたい。会って、それで。
そして教室の前。今度は躊躇せずに扉を開けて、もう一度名前を叫ぶ。
「翔子!!」
「…雄二…!」今度は、いた。その黒髪の少女は。窓側の机の上にちょんと座って。
とりあえず見つけられたことに、ほっとする。
「はぁ。なんでこんなとこにいんだよ。」
「…小山に会ってた。」
「なんで…」と理由を聞こうとしたところで翔子が口早に、
「…聞きたいことがあったから。」と、そう言う。
「んで?聞いたのかよ、小山から。」もしかしたら小山から聞いてしまっているかもしれないと思い、たずねる。
そんなことを聞いていると思うと自分の顔が赤くなるのが分かって、顔を下に背けながら聞く。
「…聞いてない。雄二から聞いて、って小山から。」
小山のやつ。
ほんと余計なはからいをしてくれる。その心遣いに少し微笑みながら、
「翔子。」
「…なに?子作りなら歓迎する。」
「こんな時になに言ってんだよ、バカ。」
「…ごめんなさい。いいよ、言って。」
「おう。その…さ。」
「…うん。」
「好きだ。」
言った、言ってやった。
「…私は嫌い。」
「そーかよ。」
「…嘘。」
「おう。」
やっと、
やっと。なるべき形に。
「坂本のやつ、ばっちり翔子に告白したかしら。」
「どーだろ。ま、雄二はやる時はやる奴だから心配ないさ。」
きっと雄二は答えを出して、霧島翔子に告白をしただろう。やる時はやるやつだ。
だったら、僕は。
僕は、まだ美波に自分の気持ちを…
「アキ?どーしたのよ。」
「えと、いや…なんでもないよ!」
明久が素直になれるのはまだ先らしい。