なんて小さくつぶやきながら、教室の扉を開けると、
「「「いやっほおぉぉーーぃっ!!」」」
がらっ、と扉を閉め切る。突然聞こえた謎の奇声たち。もう何度目かの異世界に繋がってしまったらしい。
教室の扉の前で呆れていると、
「おう、吉井。おはよう。」
後ろから須川が明久に気づいて、挨拶をしてくる。
「おはよー、須川くん。あれ、なんなのさ…。」と尋ねてみると、
「あぁ。修学旅行が近いこともあって大はしゃぎしてるんだ。なんせ美人CA…ぐふふ。」
だめだ、こちらも末期らしい。
「ほんとみんな子どもだね。たかが修学旅行だよ?高校生なんだし、もっと落ち着つけないのかなー。」
と勝ったような顔で言っていると、
「ま、冗談は置いといて、修学旅行中に女子といいことがあればいいのになぁ。」
須川が上を見上げつつそう呟く。
女子と、いいこと。。
美波と、いいこと…。
教室の扉を、いやもとい異世界の扉を開け放って叫ぶ。
「いやっほおぉぉーー!全く修学旅行が楽しみだ!!」、と。
そして明久はそのままクラスメイトの輪に加わっていく。
それを呆れて見つつ須川は、
「ま、楽しめればいいか…。俺も木下と…なにかあってくればいいんだけどな。」
試験召喚戦争が終わった次の日。通常授業が普段通り行われ、今は学活が行われている。なんせもうすぐ修学旅行なのだ。3月に入ってすぐだから、もうそこに迫っているといえる。
四泊五日で、北海道。楽しみかと聞かれればもちろんとても楽しみである。
今は修学旅行のそれぞれの班ごとに、分かれさせられたところだ。
「お前ら、今からの時間は修学旅行の班ごとに分かれて修学旅行の大まかなスケジュールを組んでもらう。今回の旅行は基本的には自由行動が多い。くれぐれも慎重に予定を立てろ。できたら先生に提出。それと、内容があまりに無惨ならやり直ししてもらうからな。提出期限は1週間後までだ。」という鉄人の言葉に、
「「はーい。」」FFFは珍しく鉄人の言葉に素直に同意。
それを聞いて満足したのか、鉄人が教室を出て行くと…
「よし。」
「おっしゃああっ!やっぱり、まずはおさわりパブ行きたくね!?」
「お、歓楽街いーねぇっ!」
「ばっか!お前ら、地元の女子高生との交流が先だろっ!」
「やっぱりこうなるのね…。」それを見て、美波が呆れ顔で呟く。
「あはは…。」瑞希はこれに苦笑い。
「ま、俺たちはちゃんと話し合いするぞ。」
「…残念。」
「ならあっちに行くかの?」
「…勘弁してくれ。」
康太が真顔で否定する。そんな様子を眠気まなこでぼーっと見ていると、
「明久どーしたんだ?」雄二がそれに気づいてこう聞いてくるから、
「あーいや、なんでもないよっ!」と答えると雄二はそのまま今日の議題へと入っていく。
「じゃあ聞いていくか。まず明久、お前はどこ行きたい?」
授業の眠さにぼーっとしていてまだ回らない頭に浮かんできたのはさっき聞いた、
「おさわり…」
「最低ね。」
「全くじゃ。」
「誤解なんだっ!!」
今度ばかりは自分で言っといて言い訳が通じない気がする。
「バカは置いといていいとして。島田はどこ行きたい?」
言い訳に徹する明久を置いて行くように雄二は話をすすめていく。
「そうねー、夜景の綺麗なとこがあるらしいのよ。ちょっと丘の上なんだけど。」
「いいですね、それ!」
「いいんじゃないか?夜はご飯のあとは消灯までは自由らしいしな。」
雄二がペンを動かして、すらすらと予定表の箇条書きの欄を埋めていく。相変わらずの手際である。
「じゃあ秀吉は?」
「うーむ…あ、ちょうど北海道でワシの好きな演劇の集団が舞台をやるのじゃ!出来れば見たいのじゃが…」北海道に行ってまでも演劇推しとは秀吉はさすがにぶれない。
「ほんと演劇好きよね、あんた。」
「うむ。あれはいいものじゃ!」
なんて言っていると雄二が、
「秀吉、たしかその劇団東京でも同じ演目で公演するって言ってなかったか?」
「うむ、それも見に行くぞい。北海道でも見てみたいのじゃ。」
そうのたまう秀吉に明久と康太は顔を見合わせたあと示し合わせたように口をそろえて、
「「一回でよくね?」」
秀吉が出ている演劇ならまだしも、知らない人たちが出て、台本通りに動いて、歌ってする演劇は明久にとっては退屈なものになるだろうし、こういう場合十中八九眠りこける。
小学校の時に謎に連れて行かれたオーケストラの演奏など起きてみれば、ちょうど終わるタイミングであったことも何度もある。
「む…!2回見てこそ深みが…」口を揃えた2人に反論したいがためになにか言おうとする秀吉を、
「ま、候補ということで置いておこう。次、ムッツリーニ。」と、雄二がさらりとその提案をうやむやに葬りさる。雄二としてもそーいう類は苦手らしい。
「…スキーとかしてみたい。」
「「楽しそう!」」
「いいわね!」
「そうだな、たしか一日自由行動の日があったっけか。そこで行くか。」
「むぅ。この演劇との反応の差はいったい…」明久からしたらその差は一目瞭然なのだけれど。
「よし、じゃあ姫路。」
「はいっ。私は北海道のご当地お料理体験に参加…」
「「「調べてみたら、定員埋まってた!」」」
まさに反射神経。これぞ防衛本能。そのレベルの早業で携帯で調べた全く関係ない料理教室の案内を瑞希に明久と康太は再び2人同時につきつける。旅行先に行ってまで、死と直面するわけにはいかない。したくない。
「坂本はどっかないの?」美波が瑞希の話を水に流そうと、すかさず雄二にふる。
ふられた雄二はすぐに、
「ま、単純に向こうの商店街とか行ってみてーな。お前らも色々買い物とかしたいだろーしな。」
いざという時の備えは揺るぎない。鎌倉時代の武士のいざ鎌倉!とかと似たような感覚だろうか。
その後もとやかくあったがどんどんと話し合いは進んでいく。
しかし時間内には終わりそうもなく、その日は大まかな行程を決めてそれでしまいということになった。
そこで雄二が、
「次の休みに、ファミレスにでも集まるか。」なんて提案をする。誰も予定が無かったのか、その提案にみんなが賛同していって結局日曜日に集まることになった。
提出期限は来週の木曜日だから余裕はある。
雄二が手元にひらひらとしていた、今日一日終えての修学旅行のスケジュールの完成具合を覗き込むと、
・とにかく北海道を楽しむ
・
・
・
・
と、なんともシンプルに一言だけ。
「雄二、どういうこと?」
「雑談しすぎて、時間とか一つも決めてないからな。今日。」
あまりの果てしなさに明久は思わず、
「wow…。」
と、声をこぼした。
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「ねぇ美波、みんなが来るまでくらい待ったらどーなのさ。」
「うーん…折角早くきたんだしドリバーくらい先に頼んだっていーと思わない?」
その日曜日。待ち合わせには少し早かったのだが、明久と美波は早めにファミレスを訪れていた。
なぜ2人一緒かというと明久の部屋の掃除を美波が手伝うということになって、玲からのお願いもあって徹底的に行われていたからだ。
もちろんボロを出したくなかった明久は色んなものをその前日に雄二の家に預けに行ったのだが。そのおかげもあって穏便にそれもスピーディーに終わって、今に至るというわけだ。
兎にも角にも美波をなんとかなだめて、しばらく待っていると、
「…はぁーお腹すいた!」
「そーだな。」
「明久くんに美波ちゃん、やっ!」
「やっ、なのじゃ。」
他のみんなが同じタイミングで駆けつけてくる。
「みんな!どーして一緒なのさ。」
「ま、たまたまそこで会ったてとこだな。」
「それにしてもやっ、ってなんなのよ、瑞希。」
「えと…キャラを変えてみよーって話になりまして、てへ!」
「…。」瑞希のキャラのしっくりこないことといったら。
言葉にならない。
そうしていると後ろから雄二が不意に明久の肩を叩いて、
「明久、ちょっとこい。」と言ってくる。
素直にそちらを向く。
「ん?どうしたの、雄二?」
すると雄二は、
「明久、すまなかった。ほんとに申し訳ない!…えと、以上だ。」
そう一言だけもらして、明久を放っておいてみんながいる方向に向き直る。
まさか、まさか!
「雄二!まさか…」
「あぁ。お前の大切なものは俺の宝物と一緒に翔子によって焼却された。」
「「ちくしょー!!」」
そんな2人を見て瑞希は不思議に思って、聞いてみる。
「どーかしたんですかね。」
「…男の戦い。」
「?」
康太の言葉の意味はよくわからなかったが、なんとなく触れてはいけないものだなと悟る。
「だいたい!俺の家に避難させようとしたお前が…」
「雄二が明日は安全だって!」
「なっ、お前が無理矢理…」
「言葉の端々だけ聞きとるとものすごい会話に…」2人が争っている中秀吉がそう言うのを明久と雄二は敏感に聞きとって、
「「それはいうなぁっ!!」」
大絶叫。店の中にあまり人がいないのが唯一の救いといったレベルである。
「とりあえず落ち着けバカどもっ!ほら座って注文、注文!」
美波がいい加減にしろとばかりに呆れ顔で、無理くり2人を座らせる。
「…はーい。」
すると2人も落ち着いたのか、ようやくメニューに目をとおしはじめる。
他のメンバーもそれに従うようにメニューをみて、注文を決めていく。
それからウエイトレスを呼び、注文をする。まさに流れ。
「すいません!ドリバー5つとおろしハンバーグの…」
明久としても終わってみればこんなに醜い争いはなかったと思う。雄二が冷静に店員の人に注文を伝えている声を聞きながら、少し反省する。
明久がなんてことをしているうちに雄二の注文が終わり、店員が去って行く。
するとすぐに瑞希は立ち上がって、
「じゃあドリンクとってきますね!」と聞いてくる。本当にそうゆうところですぐに気が回るあたりが瑞希らしい。
ただ黙ってそれをみているというのもなんだから、
「あ、僕も一緒に行くよ。なんでもいーよね?」そう言って、席を立ちつつ聞く。
「「うん。」」と返ってきた言葉を聞いてから、瑞希と2人飲み物コーナーへ。
その途中で、
「明久くん、手伝ってくれてありがとうございます!」なんてことを瑞希が言ってくれる。
「いーよ、そんなこと。いつも姫路さん1人にやらせるわけにもいかないしね。さっきの騒ぎの償いもしないといけないし…」
自分にありがとうなんて言われる資格はないと思う。いつも人任せ、それに他人に迷惑もかけてしまっているくらい。
「いえ、そんな。…全然、迷惑なんかかけられてないですよ!みなさんと、明久くんと喋っていると…むしろ楽しいくらいで。」
コップに氷をいれながら、瑞希は言う。
「姫路さん…。」
「私ね、このクラスになれて本当に良かったと思ってます。はじめはなんでFクラスにならなきゃいけないんだ、とか思ってました。けどみなさんと遊んだり勉強したり。今までの学校の中でも一番楽しい一年になったなぁって思うんです。でも修学旅行が終わったら、ほとんどこのクラスも終わりじゃないですか。だから今を楽しみたいんです。」
「そうだね…僕も姫路さんと同じクラスになれて楽しかったよ。思い出しても思い出しきれないくらい。」
「はいっ!願わくば…願わくば、ずっとこのまま。変わった方がいいとも思うんですけど、ふとした時にそんなことを思っちゃうんです。みんな、ずっとこのままって。すいません………変なこと言っちゃいました。はい、ドリンクいれ終わったんでみなさんのところに戻りましょう。」
「あ、えと…うん。」
ずっとこのまま。ずっと…美波とも…
それは
それは、違う。
席に戻ろうとする瑞希の背中に向かって、思ったことを言ってみる。
「姫路さん!僕は、変わっていってもいいって…思うよ。いや変えたいって、そう思う。」
それを瑞希は振り返らずに背中で聞いてから、返してくれる。
「そう…ですか。はいっ、それでいいと思います!明久くんが決めたことなら。…ほら、早く戻ってスケジュール考えましょう!」
「うん。」
迷いはない。やっと決めた答えだから。
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「アキくん、荷物の準備は出来ましたか?」
キャリーバッグの中身は昨日2人で確かめたのだがもう一度口頭で聞いて、確かめてみる。
「あ、うん!パスポートも保険証のコピーも持ったし、防寒具もばっちりだよ。」
…。
「まさか知らないなんてことは無いとは思いますが北海道に行くのにパスポートなんて必要ないですよ?」
「え!?あ、しっ…知ってるよっそんなこと!!一応だよ!一応!」
我が弟ながら、なんてバカなのだろう。
「そうですか。あ、キャラメル買って帰ってくるのを忘れないでくださいね!」知らなかったことは明白なのだが、姉としてとりあえずそういうことにしておいてやる。
「あ、うん!キャラメル…キャラメル。任せといてよ。じゃあ行ってくるね、姉さん。」
「はい。では、行ってきますのキスをしてから…って、あら。」
言葉を言い切る前に勢いよく閉められる扉。外の廊下には明久が駆けていく足音とキャリーバッグを引く音がゴロゴロと響いている。
何日か姉に会えないというのにこの所業。
とにもかくにも。
「美波ちゃんとうまくいけばいいんですが。」