それはそれは丁寧で、かつ綺麗に書かれていて、それよりなにより心からの気持ちがこめられているような、そんな気がした。
「お土産…お土産っと。」
「なにがいーですかね…!これも可愛いですけど…」
「なんかいーものあったー?」キーホルダーやらなにやらがじゃらじゃらと陳列されている棚を前に2人でうんうん言っている瑞希と美波に声を掛けると、
「今探してるのよ。アキたちも一緒に探す?」なんて返事が返ってきた。
「ま、前日までにも少しは買ってあるし、俺はパスだな。」
最終日、予定のほとんどが買い物というやつに費やされる今日この日。
色々見て回りがる女の子なら苦でもなんでもないのだろうけど、正直少し…いや、かなりたるい。
それに頭の中にあるのはもう今日の夜のことばかり。なんなら早く夜になって欲しいような、なって欲しくないようなそんな気持ち。
それにしてもお土産か。なにを買って帰ろうか…。と、そこでふと思い出す。そういえば玲にキャラメルだったか。買ってこいー、とか頼まれていたのだっけか。もう少し奥にある菓子土産の一角らしきところならば、購入できるだろうか。
「そだね。ごめん美波、ちょっと奥の方行ってくるよ。姉さんになんかキャラメル買ってこいって頼まれててさー。」
「あ、私も頼まれていたんでした!ついていっていいですか?」
瑞希は明久と同じようにはっと思い出したように、一言。
「おう。…だそうだが、島田はどうする。」1人残された形になった美波は、
「なら、…行くわよ。どーせあとで行くつもりだったし!」少し怒り気味にではあるが結局ついてきた。なんとも美波らしい。
「あれ、そういえば秀吉とムッツリーニは?」
「あぁ、ムッツリーニは観光客のお姉さんの写真を撮っていたところを工藤に見られて、あそこでしょっぴかれてるな。秀吉は…」ついにばれてしまったか、ムッツリーニ…。そう心の中で呟く。もう写真を買うこともないと思えば感慨深くないこともない。
「木下は?」
「1人で演劇を見に行った。」
まさかそこまで好きな劇団だったとは。人の趣味とは難しいものだ。
店の奥の方に行き、すぐ右手のところにある市場に向かうと、たくさんの人が溢れかえっていた。みんながみんな観光客なのだろうか、すごい活気だことである。
なにがあるんだろうか、とその先を見ていると何台かのカメラ。どうも撮影でも行われているらしい。
昼の情報番組かなにかだろうか、ローカルではあろうが。
「すごいすごい!なにしてんだろ。」
「おい、島田。あんまり先行くな。」
ついさっきまではなんなら嫌々ぐらいの雰囲気をかもしていたというのに美波はすっかり目も心も奪われて、その人ごみの中に突入。素晴らしいがまでの突貫力である。
雄二の制止は届かず、雄二はそのまま美波についていった。
「さすがですね、美波ちゃん。」
「だね。まぁ美波らしいとは思うけど。」
瑞希と2人、中に分けいった美波と雄二を見ながらしみじみとこぼす。
「追いかけなくていーんですか?」
「あとでちゃんと捕まえておくよ。」多少は放っておいても大丈夫だろう。雄二が一緒に行ったからはぐれることもあるまい。
「姫路さん。」
「?はい。」
それよりも。しなければならないこと、ひとつ。いや、ふたつ。
瑞希には昨日のことを謝らなければならないし、それに手紙の返事もしなければならない。
瑞希の方は見ないで、
「昨日はごめん。それと、手紙読んだ。行くよ、きっと。」そう切り出す。目を見やるのは少しそれは照れくさいというか、はばかられるというか。
「…いいえ、気にしてません。それと、絶対ですよ?きっとじゃなくて、絶対。」だからかどうか知らないが瑞希も明久の方を見ずに、答えてくれる。
「うん。」
絶対、絶対。
「はいっ!…っと。ほら、美波ちゃんたちにはぐれちゃいますよ?」
「行こっか。」
人ごみの奥に2人がちらつく。見えないががやがやする前方から美波の声が聞こえた。
「ったく、どれだけはしゃいでやがるんだよ。」
「美波ちゃんらしくていーじゃないですか。」
「…まぁ、ね。」
瑞希がいるので無理に割って入るわけにもいかず、少し遠回り。ようやくもって、美波と雄二のところにたどり着く。
「アキ、ほらすごくない?」
「お…おぉ。」
なるほど、テレビが来ていることもあるのか繰り広げられていたのは大盤振舞いもいいところの大盤振る舞い。そこらにある商品のほとんどに半額以下などの札がつけられていた。
なんでも、かかげられたふれこみをみると賞味期限などが近いものなどを大幅なプライスダウンさせて売っているらしい。
「たしかに魅力的かもです…。」横で瑞希が口に指先を当てつつ見ている。すると、瑞希のその認めなければならないほどの完璧な美貌、ほんのり桜色に染まった頬。それにピンクブロンドの少しウェーブがかかったような綺麗な髪。それに気づいたのか、横にいたテレビカメラとリポーターであろう綺麗な女の人がこちらに近づいてくる。
「すいません、インタビューさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、えと…」
全く慣れていないのだろう瑞希は少しどもったようになる。
「あー、4人でいーなら受けますよ。」そのままにしておくわけにもいかず、すかさず雄二がフォローをいれる。
…まさかこんなところでテレビ局のカメラに捕まるとは。この機会に僕が賢くて、イケメンであることをアピールしておけば、某アイドルを多数輩出してるあの事務所から声がかかる可能性が微粒子レベルで存在して…なんてそこはかとなく思ってみたりしないこともない。
「あ、はい!では早速。修学旅行の方々でしょうか?」
「そうだ。今日で最終日だけどな。」雄二の対応はさすがの落ち着き。まぁ興味関心が基本的に全くないから、なのかもしれないが。
「どこに行きましたか?」今度はマイクは美波に。普段見慣れたマイクとは違って、色々装飾が施されていて大きく見える。
「色々よ。たとえば…えっと、なんだっけあの…おじさん。クレ…?」
「美波ちゃん…クラークさんです!」
「あ、それ!」
美波…。緊張しているのかなんなのか分からないけれど、さすがにそれは…。
「ばか。」ぽかっと頭を叩く。それくらい常識として知ってるべきだ!と思う。
…という明久も一昨日それを知ったという事実は秘密である。
「うるさいわね…。」
「と、ところで!!今日はここでなにかお買いになるのですか?」
喧嘩でも始まると思ったのか、焦るようにリポーターさんは話題転換。
そして、今度は明久にマイクが差し出される。
「へ…えと、なにを買うかでしたっけ?」
唐突すぎた。なにを買うかってなんだっけ。
たしか…
「…。」
ど忘れしたらしい。
そこで考え直す。とにかく修学旅行生として、インタビューされてるんだ。修学旅行らしい答えを言えばいいに違いない。
えと修学旅行といえば、
「ぼ、木刀!!」
「「「はぁ…。」」」他3人は一様にため息。バカだ、と言わんばかりに。なんなら言われなくても伝わってくる。
「…な、なるほど!ここはお安いですからね、是非是非お買い求めください。」
明久の答えに「??」となりながらも丁寧にそう言って、カメラとともに去っていくリポーターさん。
ここは、食料品がメイン。きっと木刀なんて置かれていないだろう。いや置かれているはずがない。
「ばか、をそっくりそのまま返してやるわよ。」
「むぅ。」反論の余地?残念ながらそんなもの、あるわけがない。
追い打ちをかけるように横から雄二が、
「明久、これならあったぞ。」
プラスティック製の刀の形をしたおもちゃを差し出してくる。柄の部分には『ライジングブレード』なんて刻印が。ふむ、なんてかっこいい名前なんだ。
これはとってもとっても…
「い…いらねえぇぇぇ!!!!!」
当たり前である。
美波と瑞希はもうかまってられないわ、といった感じでお土産選びを再開。もはやこちらを見てはいない。
「美波のやつっ…!…雄二、これ返してきて。」
自分も変わらないくらいのバカさをひけらかしていたのに、自分は関係ないです、みたいにしやがって。
「明久。」雄二はライジングブレードを雄二に突き返そうとする明久の肩にぽんと手を置く。
「なにさ?」
「夜ご飯終わったら、部屋に集合な。」
「…?なにするのさ。僕、用事があるんだけど。」
それもとっても重大な用事である。もし要件が翔子から婚姻届を取り戻すとかだったら、死んでもいかない。
「知ってるさ。まぁ決起集会…とでも言っておく。」
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1時間ほど前に日が沈んだろうか。夕日から照らしだされていた光が少しばかり残って、まだ外はほんの少しばかり明るさが感じられる。その明かりはぼんやりと電気のつけられていない部屋を照らし出した。
あと少し、いよいよ、だ。ここ2年近く。とくにここ数ヶ月。何度だって悩んで、そして苦しんで、ようやく見つけた答え。きっと正解なんかじゃない、だけど。もしそうだとしても。
壊れても何度だって、直してきた。それはきっと脆さじゃなくて、強さになってくれる。だから何回だって、歯車は回しはじめられる、と。そう分かった。
とにかく答えを出すときがきた。
…とその前に、
「なんなのさ。」
不平不満を漏らしながらももう4日目となるホテルの一室。明久はそこに昼間に雄二に言われたとおりにやってきていた。部屋には雄二と康太がドンと待機。とくに変わった様子もみられない。
「まぁ待て。じきに分かる。」とは、雄二。いったいなんだというのだろうか。
「…うん。」
そのわざとらしく意味深な言葉に部屋の隅で、康太が相槌を打つ。
謎に無言になる室内の中、じきにっていつだよ…と思っていたその時、
部屋の扉が開く。いよいよそのじきに、が来たらしい。
しかしそこからゆっくりと現れたのは、
「…秀吉。」
木下秀吉であった。じきに分かるというのは秀吉のことだったのだろうか。だとしたら、意図がわからない。
それにしても…秀吉といえばとかく気になることひとつ。
「そういえば、演劇見に行ってたってほんと?」
「あぁ、ほんとじゃ!今回もよい公演だったぞい。」
気になっていたことはどうやらほんとだったらしい。にしても、ここまで演劇に肩入れしている人間を見るのは初めてだ。
そんな様子を見て、雄二が壁に背をもたらせかけながらため息混じりにおもむろに
「…はぁ。雑談もいいが話しておかなくちゃいけないことがあるだろ、お前ら。」と、そう言う。
「…!」
ーーあぁ、そうだった。とそこでようやく思いあたる。
そうだ、秀吉に言っておかなければならないことがあったんだった。雑談なんかよりずっと大切なことだ。
まったく…雄二のやつ、またいらないお節介を回してくれたらしい。
言わなくちゃ。
「…秀吉。あのさ、僕、ちゃんと美波を呼び出したよ。」真剣な目で秀吉を見つつ、まっすぐに届ける。
もう迷いはない。間違いなく迷わずに、一歩前へいける。その覚悟が、確信がある。
だから口から紡ぐ言葉にも迷いはない。この目も一つもそらさない。
「…!」一瞬だけ驚いた顔を見せたあと秀吉は、
「そう、か。…なら、明久よ。」
秀吉の表情は満足したような顔に変わっていく。さらに明久の名前を呼びかけて、
「しっかりと伝えるのじゃぞ。」と明久を激励する。ひとつひとつ確かめるように、確かに告げる。
「…うん。秀吉こそ、ちゃんと言いなよ?」それを受けて明久はそのまま激励返し。
「分かっておる。というか、言われなくてもじゃ。」
部屋の真ん中の方の開けたところで秀吉と、目と目をしっかりと引き合わせて言葉を交わす。
ぼんやりと光がさすだけで、暗い部屋。時間が経つごとに暗くなっていく。その中で、じっと。
それを雄二と康太は壁に背をかけて、ただただ無言で見守っている。
「…姫路のこともしっかりと、のう。」
「!…うん。」
首を縦に、力強くふってうなずく。自分の気持ちがどうだからといって、瑞希をないがしろにするのはそれは違う。瑞希の気持ちだって無下にはしない。
それもちゃんと分かっているつもりだ。
「…。」
明久の短い返事のあとに、
無言の空気が流れる。おおよそ言っておかねばならないことは言った、ということらしい。
「…終わったか。」
雄二がそんな空気を裂くように一言。そしてため息をひとつついたあと、
「よし、行ってこい。」
壁から離れて部屋の扉を開けやりながら、そう続けた。
「明久よ、ここから先は一旦敵同士。だからここでお別れじゃ。」そう言いながら、拳を握ってこちらに向けてくる秀吉。その拳に応えてやるようにこちらも拳を握ってぽんと押し返す。
「うん。…もう行くよ。」
「…頑張れ。」
「だな。」
雄二と康太の応援の台詞を背に受ける。
もう行こう、瑞希のところへ。
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空がにわかに雲じみてきた。太陽が残していった光もいまやすっかりと消えた。風が少し吹きつける。暗さも寒さもこれから増していく一方であろう。