バカとその後と恋愛模様!   作:八百六十三円の片道切符

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僕と恋と結論2

急に冷えだした寒空の中、瑞希に言われた待ち合わせ場所に走る。どうにも部屋で少し話しすぎたらしい。少し遅れ気味なのだ。

暗くなってきたこともある。もし、待たせている間に瑞希になにかあられても困る。

かじかみだした手にはぁと息を吹きかけて、走る、走る。

 

 

そうしていって、ようやく。

目の前にちらりとうつる。見慣れたピンク色の髪。

 

髪留めだけじゃ抑えきれず、少し風に吹かれているのを自分の手でもって抑え込みながら。

 

 

いた。姫路瑞希は。そこに。

 

「明久くん、こんばんは。」

 

「こんばんは。…大丈夫だった?」

「…?」

「いや、こんな暗いところで待たせちゃってさ。」

周りを見渡すと、人影のひとつもない路地裏みたいな場所。一体全体どうやって見つけたんだ…というくらいに。

 

「はい。ここはそーゆうところですから。それにもしなにかあったら、明久くんが助けてくれます。」

…なんて、あるわけないか。

 

 

瑞希は最後の言葉をかすれるような声で明久には聞こえない程度に呟く。

 

「え、なんて…」

「いいえ!なにもありません。」

精一杯の笑顔を明久に向けてみせる。危ない、弱気になんてなる必要はないのだ。最後くらい自分の気持ちをまっすぐに伝えればいい、とそう思うから。

 

 

「とにかくここは危ないからさ、少し場所変えない?ほら、暗すぎるし。」

「…心配なんてしてくれるんですね。」

「?…するよ、そんなの。女の子をこんなとこに置いとけない。」

当たり前のことだ、と明久は思う。女の子をこんな暗闇にいさせたままにするのは、いかがなものであろうか。それに周りからなにと思われるか考えても、ここはいけない。

 

「なら…嬉しいなぁ。」瑞希はそうこぼしてから、続けて、

「だったら移動しましょー!」と少し元気な声で宣言する。

 

 

「うん。」

 

 

 

 

 

「明久くん。」

 

少し明るいところに移動して、落ち着いてから瑞希は明久の名前を呼んだ。それから明久にぱっと身体を向け合わせて、背中は後ろにあった落下防止の柵に預ける。

 

そして、おもむろに

 

「お話が…あります。」と言った。

「うん。」

明久は瑞希の真剣な目をしかりと見返す。これから言われること、見ること全部目に、耳に心に焼き付けるために。

 

 

 

 

「…明久くんは、覚えていますか?」目を閉じて、思い出すように瑞希は切り出しはじめる。

「ほら、小学生の時。一緒にうさぎの飼育係になったときのことです。」

「…!うん。覚えてる。」忘れもしない。影で努力して、本当に人一倍努力していた女の子のこと。どんな状況でも、一生懸命に頑張っていた女の子を。

 

それに気づいたとき、初めて誰かを好きだと心から思った。可愛いから、とか関係なくて心から。

きっとそれが初めての恋。

 

それから瑞希と関わることがない間も瑞希はずっと明久の憧れだった。

 

「嬉しかったんです、本当に。病気がちでクラスに馴染めていなかった私なんかのために、わざわざ一緒にやってくれるなんて、思ってなかったので。」

 

「…そんないい風に思われてたなんて、意外だよ。僕の方こそ姫路さんのこともっと知りたいって思ってただけだったから、さ。ほんとただそれだけというか。」

同情とかそんな感情はからきりもなかった。だからと言って、初めから好きという感情を持っていたかと言われたらそれも違う。

隣のクラスの女の子、放課後1人で黒板に何回も絵を描いては消して、描いては消して。ただそんな女の子が気になったのだ。

だからそんないいように思われてたなら、少し申し訳ない。

 

「中学の時も喋ることなんかほとんどありませんでしたけど、見てたんですよ?ずっと。」

「…!そっか。」

 

それは明久も、である。学力優秀、容姿端麗。瑞希はみんなの憧れの的だった。それに比べて、明久は学力最底辺、いつも叱られてばかり。近づけるわけなんてなかった、残っていたのは恋心とかじゃなくていうなればただの憧れ。そう、高校2年の春が来るまでは。

 

「だから高校2年、Fクラスって聞いてもそれはそれで…って思えたんです。明久くんの近くにいられるなら、って。」

「…。」

言葉に詰まる。なにも返すことができない。相手は初恋の人、それに一度は告白までした人である。今、その思いを聞くというのは少し…いや、かなり胸が痛む。

 

「…それで1年間、みんなで色んなことをして。明久くんと2人きりにもなれて。3年生との試召戦争のあとは本当に嬉しかったんですよ?」

 

ここまで言ってからもう言い切ろう、と瑞希はそう思い直す。なんだかんだいっても結局のところ伝えたい言葉はたった一言。たった2文字なのだ。

 

 

「私は…」

「…!」

「明久くんのことが好きです!!」

 

 

恥ずかしがるようなこともなく、ストレートな瑞希の告白。明久は逃げたくなるくらい真剣なその目をしかりと見返す。

 

ーーちゃんと答えないと、な。

 

「姫路さん。ごめんなさい、僕は…」

 

 

「…分かってます。だからこれは私の中での区切りです。付き合わせて…すいません。ほら、前に言ったじゃないですか、私には分かってることがある、って。」

「うん。」たしかに覚えている。あれは合唱コンクールの最終日だっけか。

 

「明久くんは美波ちゃんが好き…絶対にです!」

 

「…うん!」

強くうなずき返す。

 

 

「…これで最後です。ひとつわがままを聞いてもらえませんか?」

「…なにさ。」

「後ろ、向いてもらえますか?」

「…こんな感じ?」

よくわからないままに、瑞希に背中を向ける。すると、ふわっと後ろに瑞希が背中を寄せてきた。背中に突然に伝わってくる温かさに驚く。

 

 

 

「姫路さん…?」

「すいません、少しだけこのままいさせてくれませんか?」

「…。」

 

背中を合わせたまま瑞希も明久も黙り込む。そういえば美波にも同じようなことを言われた時があったっけか。

 

 

無言のままそうしていてどれくらいたったろうか、

 

その時。

 

 

「あ…」

上を見上げて、思わず声をあげる。

 

ー舞ったのだ。舞い始めたのだ。小さく白い小雪が。はるか天の上からちらちらと。

 

 

「雪…ですね。」瑞希が小さくこぼす。

 

「雪、だね。」

雪。頭の中にひとつの光景が浮かび始める。

 

 

公園のベンチで1人で泣いている美波の姿。それでも明久の方を向いて、笑ってみせる美波の姿。

 

 

ーそうだ、行かないと。美波のところへ。

 

 

降るんだ。こんなタイミングで。

きっと今年最後の雪。なんせもう3月である。それに天気予報も晴れ、なんなら雲ひとつない晴天の予報。

 

だけど雨どころか雪がふった。予報なんて、関係ないというようにまるっきりひっくり返すのが美波らしい。

「そういえばクリスマスイブの時も雪が降りましたね…。」

「あぁ、うん。」

「…明久くんは別のことを思い出したみたいですけど。」消えいるように、溶かすように放たれた瑞希の声が最短距離で聞こえた。

 

 

 

 

「姫路さん。」

「もう…行きますか?」

「うん、行かないと。美波のところに。」

 

まだぴったりと背中合わせたままの状態から明久が離れようとしたのを瑞希は手を握って、留める。

「?」

「…私を選ぶならここが最後ですよ?」

なんて、ことを言う。

 

「…。」

 

「…本当に考えちゃいましたか?」瑞希の顔は背中合わせのままでひとつも見えないが、きっと少し笑むくらいの顔で言っているんだろうなと思う。

「どうだと思う?」

「質問返しは反則です。」

「まさか。」

「…ですよね。」

満足したようにそう呟くと瑞希は合わせていた背中をふっと離す。背中にあった温もりが瞬間じわりじわりと消えていく。

 

そして、

「…行ってください!」

 

そんな言葉の餞別とともに どん、と背中を腕押しされる。これで瑞希に送り出されるのも2回目だっけ。

 

 

「うん!!」

 

行こう。隣に立っていたい人のところへ。他の誰でもない、美波のところへ。

 

 

 

雪がはらはらと舞っている。気づけばかじかんでいた両の手をぐっと握りしめて、走りだす。後ろはふりかえらない。やっと見えた本当の答えに、もう迷いはない。

 

 

 

 

 

ふりかえらずに走り去っていく明久の背中を瑞希は、最後の最後まで見送る。ふりかえられなくてよかった、とそう思う。わけがわからないくらいに涙が溢れてくるのだ。終わった、6年越しの恋が。

その重さは口で言うよりもこの涙が全てを表している。

でも、それでも言った。たしかに伝えた。

「私、言いましたよ?木下くん。」少し遠くの場所で同じように思いを伝えようとしているであろう友人に思いをはせる。ちゃんと言えているだろうか、なんて。

 

「よくやったのじゃ。」

「きゃっ…って、木下くん!なんで…というか、告白はー」思いのほかすぐそこにいた秀吉に驚く。

 

「とっくに終わったぞい。お主らが時間かかりすぎなだけじゃ。」なるほど、もうとっくに伝え終えたらしい。

 

 

 

「あとは、見えてる結果が出るのを待つだけじゃな。」

「はいっ。」

 

 

 

 

「…木下くんは泣かないんですか?」

「男は泣かぬと決めておる。姫路、泣いてもよいのじゃぞ?」

言われなくても溢れ出てくる涙は止まらない。いくら笑顔を作ろうとしても。でも。今、流れた涙はいつか見えない強さに変わると思うから。この先、どこまでも続いていく中できっと前へ踏み出す背中を押してくれる、と信じているから。それでいい、と思える。

 

 

 

 

 

_________________________________

 

 

 

 

 

 

君は悪魔。いつもいつも困らせられる。だけど同じくらいに君は天使。その笑顔の隣でいつまでも笑っていたいと思わせる。…って、いつもいつも困らせているのは僕も一緒か。

 

変わりたいと願って、動かないと思っていたもの全て動かして、それでも隣に。もし選んだ答えが周りから見て間違っていたとしても、苦しんで苦しんでそれでも導きだしたこの答えはきっともう変わらない。間違いなんてとうの昔から慣れっこだ。そんなものよりもずっと大切なものがあると思うから。ただ素直なこの気持ちが。

 

 

 

雪がまだちらついている中、最後の階段を駆け上がっていく。今日一日走ってばかりの気がするが、不思議と息は切れない。

 

そして登りきって、いるかいないかも確認せずに一思いに叫ぶ。

「美波!!」

 

 

「…遅いわよ、アキってば。それにうるさい。」どうやらちゃんと来てくれていたらしい。

「ごめんごめん。」

 

「そんなに待ってないからいいけどさ。」

「そっか、ありがと。」

「…雪ね。」

ひらひらと舞っている雪を手ですくうような形で手のひらを空に向けながら、懐かしむように美波が言う。

「だね。」

 

雪が降るあの夜に誓ったこと。この女の子の力になりたいと思ったあの日から。僕はきっと、これから先もずっと。

 

「美波。」

「なによ?」

 

 

 

 

 

 

「僕は美波のことがーー」

 

 

 

 

 

 

 












次回で最終回になります!!
雪のくだり、3話も合わせてごらんいただければ幸いです。
感想等お待ちしてます^ ^
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