僕のSSは針のヘイト創作しかない   作:エルフ

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守れ!

「アガサちゃーん!聞こえてるなら返事してー!」

 

 アガサ──パン屋の娘の名前を虚空に向かって投げかける。

 

 僕は件の森へ来ていた。

 やはり、穏やかな場所だ。木こりや山師が手入れをしてくれているのか、視界は開けているし足場もよい。子供の遊び場としてはちょうどよいくらいだろう。

 

「アガサちゃーん!」

 

 捜索の基本は、声かけだ。

 森は極めて視界が悪い。というか、物が多すぎて視線が通らない。すぐそばの草むらに潜む猫に簡単には気付けないように、視認性の悪さというものは想像以上に視界のみの探索の難易度を上げる。だから、声を出すのだ。音であれば視線よりは通りがよい。僕の声が聞こえたのなら向こうに返してもらえばよい。僕の声が聞こえたのであれば、向こうから返ってくる声も聞こえる道理だ。

 

 声をかける。少し歩く。また声をかける。

 これを繰り返して、どんどん捜索範囲を塗りつぶしていくのだ。

 

「アガサちゃーん! いたら返事をしてー!」

 

 だが……クソ。

 まずいな。森の浅い部分は大方探し終えてしまった。とすると森の内部に入っていっているということになるが、その場合アガサちゃんの生存確率がそれなりに下がる。

 

「勘弁してくれ……」

 

 僕も幼少期のことを思い出せばあまり強くは言えないのだが、子供という生き物はちょっと活発すぎると思う。安全な場所とそうでない場所の分別がついていない場合があったりなかったりするのがより性質の悪さを加速させている。街中でかけっこをするとか、もっとそういう危なく無い遊びをしていて欲しい。

 

 もし、仮にアガサちゃんが森の奥深くに行ってしまったとすれば、僕も早めに入った方がいい。時間が経てば経つほどあの子が危ない目に遭う可能性は増大するだろう。

 

 無事でいてくれと願いながら、薮を掻き分け始めた。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 アガサは逃げていた。

 

 アガサは走っていた。

 

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

 

 アガサは森の中を駆けていた。

 枯れ枝や荊が引っかかったのか、その体には無数の切り傷があり、限界を超えて走り続けたことにより、既に脚と肺が悲鳴を上げていた。

 

(なんで、こんなことに)

 

 酸欠からか、アガサの思考が現在最優先すべき、追っ手からの逃げ方から、これまでの経緯へと、逸れる。

 

(いつもみたいに木の実を取りに来ただけなのに)

(いつもみたいに森に遊びに来ただけなのに)

(たまにするみたいに、ちょっとだけ、奥深くに入っただけなのに)

(どうして、どうして、どうして)

 

 それは、一種の本能から来る、防衛的反射だったのかもしれない。

 走馬灯のように、打開策のない現状をどうにかすべく、記憶の中から糸口を探す行為だったのかもしれない。

 だがそれは、足元の覚束ない場所で全力疾走をしている現状において、致命的な隙として機能してしまった。

 

「あっ……!!」

 

 アガサの足がもつれ、つま先が地面に引っかかる。

 前進しようとする体に対して、停止しようとする足先。それぞれ逆方向に加わった力は回転モーメントを生み出し、結果として、アガサは顔面をしたたかに打ちつけた。

 

「いたぁ……」

 

 衝撃でどこか痛めたのか、ぼたぼたと鼻血が流れ落ちる。目にゴミが入ったせいで視界が朧げだ。アガサは自分の視界がどんどん滲んでいくのを自覚した。

 

「ゲッゲゲゲゲ」

「ゲーッ、ゲーッ」

 

 足を止めてしまったのが悪かったのだろう。

 後方の茂みから、ついに追跡者が姿を現す。

 それは、全身が漆黒に染まった、二足歩行の獣だった。

 鋭い爪に、ぎざぎざとした獰猛な牙。後ろ脚だけで立つようになった代わりに、前脚──腕には他者を害するための武器を握っている。

 二匹で連携しながら動く生態に、嗜虐性に染まった瞳は、悪魔的なまでの知性を感じさせた。

 

「いっ、いやっ……来ないで!!!!」

「ゲゲッ、ゲゲゲッ!!」

「ゲギャーッ!! ゲギャーッ!!」

 

 アガサは、這いずりながらも叫んだり、手元の土や枝を投げつけてなんとか抵抗しようとする。

 が、その効果は獣たちの嗜虐心をただ煽るだけで終わった。恐怖を煽りたいのだろう、すぐさま飛び掛からず、にじり、にじり、と徐々に距離を詰めていく。

 

「いや、いや!!!! 誰か、だれか助けて!!!!」

 

 

「誰か!!!!!!」

 

 

 

 叫びが、森に吸われてゆく。

 

 

 

「……ゲッゲッゲッゲッ」

「ゲゲゲゲゲ」

 誰も来ない。当然だ。ここは森の奥深く。危険な獣はいても、人などいない。猟師などであれば可能性はあったが、残念ながら今はいないようだ。

 シャドウフォックスが近づいてくる。じゃらじゃら、かちかち、と爪を打ち付け、鳴らして、見せつけてくる。

 ああ、このまま私は死ぬのだろう。爪で身を刻まれ、メイスで打ち付けられ、剣で皮を剥がれ、いたぶられながら死んでいくんだ。

 そう、アガサは考えて絶望した。

 

 ……絶望、した。

 

 

 

「うおああアアァァァァッッッ!!!!」

 

 

 

 瞬間、視界の端から白いものが飛び込んでくる。そのまま白い塊は空中で身を翻し、シャドウフォックスの片割れに飛び蹴りを叩き込んだ。突然の攻撃に蹴られた方が怯み、もう片方は距離を取る。そしてそのまま白い塊はアガサとシャドウフォックスの間に立ち塞がった。

 

 アガサはその白い塊に見覚えがあった。街で見かけた人だ。今にも死にそうな顔で、ふらふらとした足取りで歩いていた人。昨日、店の余り物のパンをあげた人。

 

「もう大丈夫」

 

「僕があいつらを倒すよ」

 

 マヌルが、来た。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 クソッ!! 『所有者による、この武器以外での攻撃のダメージ無効』ってこういうことかよ! 本当にゴミだなこの針!!

 

 幾分かカッコつけたセリフを放っている最中、僕は内心毒づいていた。

 というのも、先刻の飛び蹴りはシャドウフォックスの一体を葬るつもりで放ったものだったからだ。

 シャドウフォックス自体、勇者たちと共に魔王討伐の旅を続けてきたマヌルからすれば「今更」な魔物だ。本気の蹴りを入れれば、頭蓋の一つや二つ余裕で粉砕できる腹積もりだった。

 が、当たった瞬間に返ってきたのは、雲でも殴ったかのような手応えに「ぼすっ」というなんとも情けない衝突音と、ハエでも飛んできたかのような魔物のリアクション。頭蓋を割り砕くどころか、毛ほどの疼痛も与えていないのは火を見るよりも明らかだった。なにせ、飛び蹴りという都合上全体重が足先に乗っていたきも関わらず、吹き飛ばしたり押し倒すどころか、逆にこちらが跳ね返されたのだから。これでは有効打どころか「攻撃」と呼ぶことすらできない。

 

「……」

 

 一瞬、考える。

 

 2体のシャドウフォックスを相手取るのとアガサちゃんを抱えて逃げることの、どちらが成功率が高いか。

 

 そして一瞬で逃げる考えを捨てた。理由は簡単だ。純粋に荷物を抱えての逃走は難易度が高いこと。逃げの一手を打つには周辺環境が悪すぎること。自身に攻撃力がないため、牽制の一つも見込めないからだ。

 

 であれば最悪、ここで僕が盾になり続ける方が、マシ。

 そういう判断だった。

 

「ふーっ」

 

 深呼吸。

 

「せいっ!」

 

 そして勢いよく、自分の掌に針を突き刺した。

 

「!?」

「……ゲゲ?」

 

 後方からは驚愕の気配、前方からは自傷を訝しむ声。

 

 よし。

 

 手のひらを見る。

 針は思いっ切り突き刺したものの、手のひらを貫通することなく、浅く刺さっていた。皮を貫通して、ほんの少し下の組織に侵入した、といったところか。僅かに血が出ていて、痛い。

 だが、血は出るし、痛みは与えられるということが分かった。

 痛いなら攻撃になる。攻撃ができれば牽制ができる。牽制ができれば敵の注意を僕に向けることができる。

 なら、やりようはある。

 

 僕が自らの武器の性能の確認をしている間に、2体のシャドウフォックスは完全に体勢を立て直していた。お互いの距離を広く取り、僕を囲う形で構えている。挟撃とか、挟み撃ちとかいうやつだ。数的有利を活かしたいのだろう。

 

「ふっ」

 

 全く。

 

 雑魚の、魔物のくせして。

 

 小賢しい。

 

 

「来い」

 

 

 知能の低い魔物でも分かりやすいように、挑発。どのみち僕はアガサちゃんからは離れられないのだから、向こうから来てもらうしかない。

 

「ゲッ! ゲゲゲゲゲ!!!」

「ゲーッ!!」

 

 即座に激昂した2体が襲いかかってくる。飛びかかりは完全に同時。怒りに飲まれながらも息の合った完璧なコンビネーション。恐らく本能的に刻まれたものなのだろう。見事なものだ。

 

 だからなんだ。

 

()ッ!!」

 

 飛びかかって来た2体のうち、剣を握っている個体から対処する。刃ではなく、それを握っている腕を押し上げるように手を、重心のたっぷり乗っている軸足にこちらの右足を添えて姿勢を崩す。そのまま相方と衝突させるように投げ──たかったが、力が抜けて失敗した。投げ技もダメなのか。とはいえ、転ばせること自体はできたため及第点とする。

 もう片方が振るうメイスが迫るが、同士討ちが狙えないことが分かったため普通に避ける。普通に遅すぎる。そのまま後ろに回って組み付き、首筋の辺りを針で滅多刺しにする。

 

 いちにぃさんしぃごぉろくしちはちくぅじゅうじゅういちじゅうに──12回刺した辺りで暴れられた。1回の攻防で12ダメージ狙えるということか。

 

 そのまま距離を取られて再び睨み合いの形になる……が、お互い頭の中は前回とは全く異なるだろう。自分たちから攻撃したのに相手は全くのノーダメージで自分たちだけが一方的に傷を負ったのだから。この一回で実力差を完全に「わからせる」ことに成功した。事実、向こうはじりじりと後退しており、明らかにビビっているのが見て取れる。

 

 いいぞ。そのまま逃げてくれ。逃げなくてもそのまま一生攻撃を躊躇っていて欲しい。こと現状において、時間稼ぎをして有利になるのは僕の方だ。アガサちゃんの捜索に乗り出したのは何も僕一人だけではない。一番最初に辿り着いたのが僕なだけであって、時間が経てば他の誰かも到着するだろう。そうなればそのまま勝ちだ。

 

 だが、事はそう甘くはないようで。

 

「ゲゲーッ!!」

 

 再びシャドウフォックスが襲いかかってくる。今度は明らかに僕狙いではない。

 狙いは──アガサちゃんだ。

 

「させない!」

 

 横からシャドウフォックスの目を狙って刺す。生物的な弱点を刺そうが針のクソ性能のせいで1ダメージしか見込めないが、それでも手の皮膚を薄く貫通し、出血をさせる程度の殺傷性能があることは先程確認している。そもそも、殺傷力の有無に関わらず目に異物が入るのを避けたがるのが生物というものだ。僕の行動は牽制として十分機能した。

 

「グゲッ……」

 

 アガサちゃんを襲おうとしていたシャドウフォックスを止めることは成功。だが、アガサちゃんを守ることに全力を注いだ僕には当然、隙が生まれる。

 

「ゲアーッ!!」

「ぐっ……」

 

 背後からメイスで一撃。

 体に叩き込まれた衝撃の分、肺から空気が溢れる。HPがいくばくか削れる感覚。反撃を恐れたのかメイス持ちが下がるが、僕も手痛い一撃をもらってしまった。

 

「ゲゲゲ」

「ゲゲゲゲゲ」

 

 ……言葉が通じなくても理解できる。笑っているのだろう。

 先程とはまた一転、状況が変わった。僕が「お荷物」を抱えているという事実、それをあちらが有効に利用できることに気付いたのだ。

 アガサちゃんが襲われれば僕はそれを止めざるを得ない。だが、その行動は隙を生み、相手に攻撃のチャンスを与える。相手も多少の手傷を負うが、無防備な僕が負うソレとは比較にならないほど軽い。ダメージの収支で言えば確実に向こうが上だろう。

 つまり、結果だけで言えば、向こう2体は今と同じ戦術を続けるだけで勝てる、ということになる。

 

「お、お兄ちゃ……」

「大丈夫」

 

 不安そうなアガサちゃんに朗報、優位性を得たと勘違いして悦に浸ってる魔物どもに悲報だ。

 

 僕は薬師──回復職だ。

 

「『アトムスフィア』」

 

 ポーチから取り出した薬草を掴み、薬師のスキルを発動する。

 

 『アトムスフィア』。薬師の最も基本的なスキル(就いている職業ごと扱える魔法のようなものだ)の一つで、効果は薬草などから薬効を取り出し、手で触れた対象に直接与える、というもの。メリットは即効性。効果を直接取り出しているのですぐ効く。デメリットは手の届く範囲しかリーチがないということと、抽出元をそのまま使うよりも総合的な効果の『量』は落ちてしまう、ということ。まあ要するに戦場のヒーラーとしては不向きなスキルである、ということだ。だって戦っている味方に触れるくらい近寄らなくてはいけないのだから。近接職からしたら普通に迷惑行為である。町医者としては有用なのだろうけども。

 

 ただし、自分に使うのならリーチのデメリットはまるまる踏み倒せる。なんたって自分の体は常に自分の手が届く範囲にあるのだから。

 

 ポワ……というなんとも間の抜ける音と共にHPが補填され、それに伴って傷も急速に癒えていく。

 

 これでほぼ全快。

 

 さあ。

 

 どうする。

 

 お前たちがアガサちゃんを狙ったところで無意味である、ということを見せつけてやったぞ。

 

「グ、ゲ……」

「ゲ……」

 

 狼狽えているな。

 

 この先、これ以上行える「見せ合い」は1回ずつが恐らく限度だ。

 

 推測の範囲だが、シャドウフォックス側の切り札は自身の性質。シャドウフォックスは味方が死ぬたびに強化されていく性質がある。ここから先が途中まで結果の見えた不毛な殺し合いでしかなくとも、相方が死ねば逆転の目がある、ということだ。だが生物である以上苦楽を共にした相棒が死ぬことは避けたいはず。ならば現状では戦闘をやめて逃走するのがベターだろう。魔物としての性質がそれを許すのであれば、だが。

 

 対する僕の切り札は……この針だ。

 実は針に隠された力が眠っていて僕は既にそれを扱える、とかではない。純粋に針の性質──1ダメージしか与えられない特性を利用するのだ。

 1ダメージしか与えられない、ということはダメージをコントロールできるということだ。どれだけ頑張っても1ダメージしか入らないし、どれだけサボっても当たりさえすれば1ダメージは入る。なら、針を当てた回数がそのまま相手に与えたダメージになるというわけだ。

 一般的にシャドウフォックスの攻略法としては、同時、またはそれに近いほど素早く両方を撃破することだ。仲間の死で強化されたシャドウフォックスは魔物の中でもかなり強い部類に入る。できるだけ相手をしたくない。

 その同時撃破のために、針によるダメージコントロールが活きる、というわけだ。2体に対して均等にダメージを与えていけば、片方が倒れた時はもう片方も瀕死のはずだ。そこからであれば如何に強化されようが簡単に倒すことができる。

 

 要するにこの勝負、僕の勝ちなのだ。

 アトムスフィアに使用する薬草が尽きない限り、という制約はあるが。そこは賭けである。

 

「引くんだ」

 

 勝ちを強く確信した上で、言う。

 

「君たちにも家族がいるだろう。今逃げるなら追いかけはしない」

 

 言葉が伝わっているのか、それとも雰囲気を感じ取ったのか。それとも純粋に怯えただけか。

 数瞬、迷った後、徐々に後退りし、ある程度距離が取れた瞬間一気に背中を向けて走り去っていく。

 

 ……正直、僕としても助かった。一般的にシャドウフォックスのHPは320とされている。2体合わせて合計640。本気で削り切るつもりなら、先ほどの攻防を何度繰り返せばいいか考えたくもない。

 

「ゲーッ!! ゲゲゲーッ!!!」

「ゲゲーッ!!」

「魔物のくせに妙に人間臭い逃げ方するなあ……」

 

 まるで小悪党の捨て台詞のような鳴き声(勝手にそう感じただけだが)を残して、シャドウフォックスたちは森の茂みに消えていった。

 

「さて! 帰ろっか。怪我は……ちょっとしてるね。『アトムスフィア』。どう? 痛くなくなったかな」

「あ、うん……もう平気」

 

 苦笑する。流石に怯えられちゃったかな。まあ、僕としては助けたくて助けただけだ。アガサちゃんも無事だし、万々歳の結果だろう。

 

「出口はあっちだよ。疲れてるからしれないけど、もうちょっとだけ頑張ろう」

「あ……えと、その……」

「うん? 何かあった?」

 

 トイレだろうか? 緊張から解放されたら尿意を催してしまうのはおかしくない。状況的に推奨される行為ではないが、多少離れて背を向けておくべきか?

 

「そ、その! 助けてくれてありがとう!」

 

 え。

 

「ああ、気にしないで。ほら、僕は他の人より戦えるからさ。それに、僕も君がパンをくれたおかげで飢え死にしないで済んだからね。パンの時の恩だよ」

「でも! 怖かったの! 寂しかったの! このまま死んじゃうかもって! 誰にも助けられないまま、一人で暗い場所で死ぬんだって! でもお兄ちゃんが来てくれたの! 嬉しかったの! 安心したの!」

 

「だから!」

 

「ありがとう!」

 

 ……

 

「あ、あはは……なんだが、戦って感謝されるのなんて随分久しぶりだ。反応に困っちゃうや。うん、でも、そうだね」

 

 本当に、感謝なんて随分と久しぶりだ。勇者パーティにいた頃は、僕はただ自衛程度にしか戦えないだけのお荷物で、ずっと足を引っ張っていたから傷を治しても感謝されることなんて全然なかった。僕もそれが当然だと思ってた。

 今回アガサちゃんを助けに来たのだって、言わば僕ならできると思ったからだ。なんなら恩を返すちょうどいい機会とさえ考えていた。打算的だ。100%達成可能なことを達成しただけで、褒められるようなことをしたという実感はどうにも湧かない。

 

 でも。

 

 なんだが。

 

 随分と、悪くない気分だ。

 

 本当に、悪くない。

 

 ああそうだ。「ありがとう」と言われたら、こう返すのが一般的だったな。

 

「どういたしまして」

「うん!」

 

 なんだが、足と地面の噛み合わせが悪い。ふわふわする。

 ちょっとだけの力ですっとんでいってしまいそうだ。

 

「じゃあそろそろ──」

「ギャッ!!」

 

 異音。

 

 違う。

 

 これは、先ほどの──シャドウフォックスの、断末魔だ。

 

 どさり。

 

 僕たちの近くに大きな、ボールみたいなものが落ちてくる。

 

「ヒッ……!」

 

 アガサちゃんが息を呑む音。

 

 飛来してきた物体は見間違えようもない──シャドウフォックスの、生首。

 

「オイオイオーイ」

 

 森の奥──シャドウフォックスたちが逃げていった方角から、声がする。

 明るい女性の声だ。

 この鬱蒼とした森の中では場違いなくらい、明るい。

 

「人間から逃げてどうすんのさ。"魔"に連なる自覚がちょーーーーっと足りないんじゃない? 最近の魔物は軟弱者ばかりで困るよねえ」

「……アガサちゃん、逃げて」

 

 出口がある方向を指差してアガサちゃんに指示を出す。

 アガサちゃんは見ない。

 見れない。

 目の前の女から、目を離せない。

 

「やっ」

 

 そいつは、長年の友人にでも挨拶するかのような、気楽な仕草で、僕たちに挨拶をした。

 

 全身から冷や汗が吹き出す。

 片手を上げて挨拶するその動作が、攻撃の予備動作かと思ってしまった。

 

 全身に纏う悪しき気配。生きとし生けるもの全てを害する存在感。呪いそのもの。

 

 シャドウフォックスのもう片割れの首をその辺に捨てながら、そいつは名乗った。

 

「私はアドラメルク。人間ちゃんたち、ここで会ったが100年目」

 

「死んでけ」

 

 こいつ、魔族だ。




アドラメルク戦まで書くと長くなりすぎるから一旦切るなの

あとキャラに関しては基本的に色々盛る方針なの。ヘイト創作なので原作を守る気ゼロなの
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