僕のSSは針のヘイト創作しかない 作:エルフ
ごお、と風切り音。
気付けば、アドラメルクに掴まれていたはずの僕の体はアレクに支えられていた。
「チッ」
「なるほど、速いな」
アレクが剣を振り、当たるのを嫌ったアドラメルクが僕を手放して距離を取ったのだ。アレクの片腕に受け止められながら理解する。
強い。
アドラメルクの速さに引けを取らない剣速に、近くに居るだけでもびりびりと
なるほど、あのケンシを差し置いて剣聖とまで呼ばれるだけはある。勇者やケンシを近くで見ていて剣に対する評価はそれなりに厳しいものを持っていると思っていたが、今の一振りですら素晴らしい技の冴えだ。剣が風を切り裂くのではなく、風が自ら道を譲っているのだ、と錯覚する程。
「悪いな。ちょっとじっとしててくれ」
戦いの邪魔にならないよう隅に置かれ、ぱしゃり、と何やら冷たい液体を被せられる。恐らくは何かしらの薬だろう。
「なあ、魔族よ!」
「あ?」
飛び退いたままのアドラメルクに対し、アレクが呼びかける。
「ここから退く気はないか! 見たところ、お前はまだ一人もここでは殺していない! これ以上戦わないのなら見逃すが、どうだ!」
甘い。
甘すぎる。
誰も殺していないからって、魔族を逃がす? 滅茶苦茶だ。殺されていないだけで僕は死ぬかもしれないくらいの傷を負ったし、それに、逃がした先で絶対に人々を殺していくだろう。そもそも、魔王の手先は全て殺す、降伏しようが、泣いて詫びようが容赦しない。それが人間の戦士にとって鉄の掟であるはずだ。
それに、コイツは──
「は? はァ?????? オマエ、今、なんつった?? 『見逃す』?? 見逃すつったのか?? アタシが、オメーみたいな雑魚に、へーこら媚びて逃げなきゃいけないって?? アタシがテメーより弱いって言いてーのか??????」
「ああ! 俺は強いからな! お前みたいな魔族もこの前倒したぞ!」
「…………フー……………。言ってくれるじゃん。アザゼルのことだろ? アタシをあんなスピードだけが取り柄の雑魚と一緒にしないでくれる?」
「そうか! すまんな! 俺にはいまいち違いが分からん! だが、スピードならアザゼルの方が明らかに速かったぞ!」
「殺す!」
どのみち、逃げる気なんてない。
アドラメルクがアレクに勢いよく飛びかかった。風のような速さに加えて、僕と相対した時とは違う、明確に殺意の乗った拳を繰り出してくる。
それを、ガキン! と大きな金属音を立てて、大剣が防いだ。
攻撃の余波で風が吹きすさび、木の葉が舞う。
「な?」
「……チッ!」
アドラメルクは今度は周囲を飛び回り始めた。そして、次々に色んな方向から攻撃を繰り出してくる。どうやら、対処の難しい攻撃を繰り出し続けることで最終的にアレクの防御を乗り越えることを狙っているようだ。アレクも今は捌けているが、これが続いたらどうなるかは分からない。
アドラメルクが蹴った地面がえぐれ、木々がしなり、移動による風、打ち込みによる爆風が空気をかき乱す。
まるで小さな竜巻を目にしているようだ。
いや、それよりも。まずい。
アレクはアドラメルクの『完全反射』を知らない。幸いにして、今のところは使われてはいないが、アレクとて自分の強力な技を喰らってはただではいられないだろう。
一刻も早く彼に教えなくては。だが、散々殴られたダメージのせいでまともに叫ぶことすら──
いや。
口が動くようになっていた。おそらく、先程頭から被った薬の効果だ。どうやら随分と質の良いものをふりかけてもらっていたらしい。だが、これで自分の役割を果たすことができる。
「ッ……ア"、アレクさん"!! そいつは反射能力を持っています! 迂闊に攻撃するのは危険だ!!」
だが、遅かったか。
僕が叫んだ頃には、アレクは大剣のひと払いでアドラメルクの姿勢を崩し、大技を撃ち込む体勢へと入っていた。
「ヴァンダライズ!」
「『
エネルギーを纏った大剣が打ち込まれ──それを綺麗に反射される。
だが、 反射された『ヴァンダライズ』が巻き起こした土煙が落ち着いた後も、『剣聖』アレクは顕在であった。
「おーいてて。……少年、じっとしてろって。だが、おかげで助かったぜ」
「……テメェ」
「ん? そんな不思議そうな顔することでもないだろ? 攻撃が反射されるって知ってて全力で攻撃する馬鹿なんていないさ」
「チッ。だが、今ので分かっただろ。テメーの攻撃はアタシには効かねえ。テメーはアタシの攻撃を防げる程度の技量はあっても、アタシを捉えられるほどのスピードは持っちゃいねえ。このまま一方的に攻撃してれば、いつかはアタシが勝つ」
「……うーん、参ったな。その通りだ。俺には
そんな……!
反射でやられることこそ防いだものの、アレクですら、『完全反射』には成すすべがないというのか。
「……なんだ? 急に負けでも認めたか?」
「いや? ──これは俺のカンなんだが、お前、能力の起点は腕だろ? つまり右手と左手、一度に二個までの攻撃しか対処できないってわけだ」
「……だからなんだ。オマエの剣は一本、こっちの腕は二本。どうやってもアタシの防御を超えることはできないけど」
「そのとおり。俺一人じゃオマエには勝てない。けど、悪いな。──サンドラァ!!!!」
「ッ!?!?!?」
!?!?!?
突然、地面が震えたかと錯覚するほどの大声でアレクが誰かの名前を叫ぶ。その余りの音の大きさに、その場にいた僕とアドラメルクが一瞬怯み。
ガサッ、と、少し離れたところの樹上から赤髪のローブを着たエルフが飛び降りてきた。
──魔導師!?!? アレクに様子見をさせて、待機していたのか!
「──人は、群れて戦う生き物なんでね」
「
「全力全開!! ヴァンダ!!!! ラァァァァイズ!!!!」
決まった。
双方の攻撃が繰り出された瞬間、そう強く確信した。
鳳凰を模した炎の魔法に、巨大な気の杭を模した聖なるエネルギーの塊、そして本気のアレクの『ヴァンダライズ』。アドラメルクは三方向から襲い来るそれらのいずれか二つしか反射することができない。そして、その攻撃は全てが一撃必殺、いや、必滅の威力が込められている。
そして、僕は、その光景を前に、慄くでもなく、驚くでもなく、ただ涙を流していた。
僕のかつての理想が、ここにあった。
勇者と僕の二人でふるさとの村を飛び出した、あの、純粋な頃に描いていた理想の姿。
パーティを追い出されたあの時みたいに、無力な姿じゃなくて。
強くなっていくみんなに追いつけなくなって、ただサポートと雑務に徹していく姿じゃなくて。
劣等感をどうにかしたくて、仲間だけじゃなくて、他の人も助けようと血眼になっていた情けない姿じゃなくて。
こうやって、二人で並び立って、強敵に立ち向かって行きたかったんだ。
一人の戦士として、勇者の隣に、立ち続けたかったんだ。
「強く、なりたい……ッ!!」
それはきっと、無意識のうちに零れ出た、僕の心の奥底からの願いだった。
「舐めるなァァァァァァァッッッッッ!!!!!!」
「ッ!?」
「……?」
「!!」
アドラメルクが叫んだ。
幕引き直前の空気を切り裂くように。
『まだ終わりではない』と、そう、誇示するように。
「『
アドラメルクが何か技名を叫び──
三つの技が、激突する。
目を、疑った。
「ガッ、グッ、ハァッ……!! ザコがッ……!! この程度で、アタシを、殺せるわけがねえだろうが……!!」
「……マジか」
ここに来て初めて、アレクの表情から余裕が消える。
コイツ。
コイツ……
コイツ……ッ!!
腕の曲線を利用して、魔法の軌道を曲げやがった……!!!!
アドラメルクのとった行動は、説明してみれば実にシンプルだ。
まず、光の魔法を反射した。聖なる魔法は魔族にとって猛毒だ。おそらく、最も脅威度が高いと判断したのだろう。それを最も確実な『完全反射』で処理。
残る二つだ。アレクの剣撃と、炎の魔法。本来の想定であればアドラメルクは残るどちらかも反射によって対処し、残る一つは命中、無事撃破できる予定だった。
それを、
「ガァッ!!」
「ぐッ!?!?」
凍りついた時間の流れを、アドラメルクの攻撃が再開させる。
僕の近くまで勢いよく飛んできたアレクは、大木の幹に衝突することでようやく停止した。その鎧には、くっきりと拳の形の凹みが出来ている。
「ぐ……げほっ。くそ、この鎧高かったんだぞ。オシャレにしてくれやがって」
「……『
「待てサンドラ! 威力を上げるだけじゃ無理だ!」
「……なの」
まずい。
状況が膠着した。
一連の攻防によってアドラメルクにダメージを与えることはできたとはいえ、確殺だと思っていた攻撃を凌がれたショックは大きい。加えて、魔法を反射されたサンドラ(何かの防御魔法を事前にかけていたのか、被害は軽微なようだが)に、無防備なところに一撃もらったアレク。こちらも小さくないダメージをもらっている。優勢とは言い難い。
「アレク! 周りに他の魔族はいねえみたいだぜ!」
「ムサシ! ティー!」
援軍か!
いや、確かアレクサンドラ隊は四人のパーティだったか。つまりこれで初めて全戦力揃ったわけか。
いける。流石に四人なら手数の心配もない。今はダメだったが、アレクサンドラ隊で総攻撃を仕掛ければ間違いなく倒せるだろう。二人だけですらギリギリのところまで行ったのだから。
「認める」
地獄の底から鳴り響くような、低い声。
「認めるよ。オマエらは雑魚じゃない。アタシに『
なにか、嫌な気配。
アドラメルクが、何か懐から小石を取り出し──
「オマエらは、全力で──」
「アドラメルク」
「「「「「!?」」」」」
唐突に現れた魔族の女にその手を抑えられることによって、動きを止めた。
新手!? いつ、どこから現れた!? まるで気配がなかったぞ!?!?
「……おいムサシ、さっき他の魔族はいないって」
「いやいやいやマジでいなかったって! 俺とティーで死ぬ気で走り回ったんだぜ!?」
「……!!(コクコク)」
「──転移魔法か、なの」
「ご明察。流石エルフ、博識だね」
転移魔法……?
いや。少しだけ、勇者と旅をしている最中聞いたことがある。離れた二点間を瞬時に移動する魔法らしいが、既に失われたとか、実現には大掛かりな魔法陣が必要であったと聞いたはずだが……?
「……アスタロト。オマエ、何しにきた」
「おお怖い怖い。いやなに、助けにきただけだよ。アザゼル君の件があったし、魔王様も心を痛めておられただろう? また同胞を失うわけにはいかないんだ。だから、ね」
「オマエも、アタシが負けるとでも……ッ!?」
「そう見えるけど? 傷だらけだし多勢に無勢、明らかに押されているじゃないか。ほら、分かったら帰るよ」
「……チッ」
「逃がすかよ!!」
アドラメルクと新たな魔族──アスタロトが会話しているところを、ムサシが強襲、その手に持った刀で斬りかかる。
が。
「『
アスタロトとアドラメルクを囲うようにして発生した球状のバリアに触れた瞬間、それ以上進むことが出来なくなったかのように、ビタリと止まってしまう。
こいつも、能力持ち……!!
「動か、ねえ……ッ!!」
「やれやれ。私は争いは好きじゃないんだ。ここはお互い痛み分けということで、お暇させてもらうよ。アドラメルク、何か言いたいこととかあるかい?」
「……そこの、白髪のガキ」
そして、アドラメルクは僕を睨みながら。
「ツラ、覚えたからな」
「……二度と会わないことを願うよ」
なんで、アレクサンドラ隊じゃなくて僕なんだよ。
と、内心理不尽に嘆いていると。
「ではね、人間諸君。君たちとはきっとまた会うことになるだろう。その時まで、また」
そう告げた瞬間、アスタロトは現れたときと同じように唐突に消えていった。仲間のアドラメルクを連れて。
「……大した前準備もなしに任意の場所から転移。アイツ、とんでもねー魔法使いなの」
「獲物を獲り逃した」としか言えない結果。どこか暗い雰囲気に押し黙っていると──
「まあまあ!! 魔族は撃退したし少女は無事! 少年もこうして助かったんだから、大金星じゃないか! そうだろ?」
「ああ、それもそうだな」
「(コクコク)」
「それもそうなの」
アレクが僕を背負う。
「よっ……と。さ! 英雄様の帰還だ! 楽しみにしとけよ!」
「楽しみにって……なんかあるんですか?」
「何言ってるなの? 戦いのあとにやることと言えば一つしかないなの」
「おう! それはもちろん……」
「宴だ!!」
これにて戦闘終了なの。次話で最後なの
……これ完結させたら人生で初めて完結させた創作が針二次になっちゃうんだけどどーしよ……なの……