僕のSSは針のヘイト創作しかない   作:エルフ

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エピローグ:パーティだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぐはぐはぐばぐはぐ! うめー! おっちゃんもう一杯」

「ホラホラもっと飲めなの!」

 

 

「なんだこれ」

 

 どんちゃん、としか表現する他ない、まさしく馬鹿騒ぎ。

 村のあちこちで炊き出しが行われ、酒と肉を食べながら踊り狂っている。

 広場の中央には大きなイノシシが丸焼きにされていた。

 

 邪教のサバトか?

 

 あの後、僕はアレクサンドラ隊と一緒に村に帰り、治療を受けていた。今は夕方だが、動いてもいいくらい傷が癒えるまで待っていたらこれくらいの時間になっていたのだ。とはいえ、半日とかからず死にかけの僕をここまで回復させたのはアレクサンドラ隊の回復術師、ティーの尽力あってのものなのは間違いない。回復術師の腕前も超一流ということか。

 そして、傷が癒えたため、何やら大騒ぎしている広場にやってきたのだが……

 

「お、来た来た! みんな! 此度の主役の登場だ!」

「とりあえず一杯飲めなの!」

「いや僕は酒は……むぐ」

 

 問答無用で口にジョッキを押し付けられ、飲み込んだことを確認されるや否や大勢に囲まれて胴上げされる。

 

 わっしょーい、わっしょーい、わっしょーい。

 

 ひとしきり僕を上げたら満足したのか、男たちは再び各々好きな場所に戻って飲み食いし始めた。完全に出来上がっている。

 

「……なんですか、これ」

「宴だ! やっぱ、戦いのあとは飲まないとな! これ食うか? 猟師さん秘伝のタレらしい! 美味いぞ!」

「……いただきます」

「おう! あ、これもうまいぞ、どんどん食べろ!」

 

 出されたものを食べないほど僕も礼儀知らずではない。場の空気には馴染めないまでもご相伴に預かるとしよう。そう思い、まずは差し出された肉串に手を付けた。

 あ、本当だ。タレが効いていて美味しい。

 

 

 ……

 

 

 

「でですね! ケンシのやつ、ひどくないですか!?」

「うんうん」

「もう一杯くれなの!」

「僕はこれでも僕なりに頑張ってたんですよ!! なのに、ケンシ、シンシアときたら!! アレクさんもそう思いますよね!?」

「うん、そうだな。全くもってその通りだ」

「これめっちゃうめーなのー!」

「あ、すまん。飲み水くれ。二人分」

「ちょっと! 聞いてるんですかアレクさん!?」

「なのの酒が飲めねーなの!? ハナタレ小僧が偉くなったもんなの!!」

「……」

 

 あれからしばらくアレクやサンドラと飲み明かしていると、アレクは随分と大人しくなってしまった。僕たちとの会話がつまらなかったのだろうか? いや、それとも僕が一方的に喋りすぎたか? 思い返してみればアレクの話をしばらく聞いていない気がする。退屈な思いをさせてしまったかもしれない。

 そう考えるとなんだか猛烈に申し訳なくなってきた。

 

「うっ、ぐすっ、なんだかすみません……」

「き、急にどうした」

「なんか悲しいことでもあったなの!? そうだ! エルフの故郷に伝わる歌を歌ってあげるなの! これを聞けば首の柔らかい乳飲み子から爪が木の皮みたいになったジジババまで元気いっぱいになるって評判なの! ラ〜」

「頼むからちょっと黙っててくれサンドラ」

 

 酒のせいだろうか。

 少し、感情の起伏が激しくなっている気がする。

 

「いえ……なんだか……申し訳ないなって……命を救ってもらっただけじゃなくて、こうやって食事を奢ってもらったり、話を聞いてもらったりして、良くしてもらって……アレクさんたちは僕と違って強いのに……」

「君と違って強いのに、か。そういえば少年あの戦いの時、『強くなりたい』って小声で言ってたもんな」

 

 !!!!

 

「……聞こえてたんですか」

「アレクはガキの頃から地獄耳で有名だったなの。あんまりコイツの近くで噂話とかしない方がいいなの」

「ははぁ……」

「いや、人聞きが悪いな……それで? 強くなりたいのか?」

「強くなりたいのか、って……」

 

 そりゃ、なりたいに決まっている。

 

 でも、僕はそれを面と向かって彼に言うだけの勇気を持ち合わせていなかった。所詮、僕はどこまで行っても小市民だ。純粋な子どもの頃ならそれも出来ただろうが、身の程というものを知った今となっては違う。彼のような本物の英雄の持つ輝きは眩しすぎる。これは間違いなく僕の中で最も強い輝きを放つ願いだが、彼がいるだけで放っている光と比べればくすんで見えてしまうだろう。

 僕は、自分の持っている輝きを否定されることが、精一杯背伸びしてみせたそれでさえどんぐりの背比べでしかないという現実を突きつけられることが怖かった。なら、見せることで現実を返されるのならば、いっそのこと見せることそのものを止めてしまって、現実とやらを不確定なままにしてしまおうと考えたのだ。

 

「嫉妬、羨望。あるいは後ろめたさ」

「!!」

 

 その感情を、サンドラに無理やり引き出される。

 

「……どうして」

年寄り(エルフ)舐めんななの。キミみたいな悩める子羊なんてそれこそ無数に見てきたなの。成長して、どんな道を選んだのかも含めて。……なのから言わせてみれば甚だアホらしい悩みとしか言えないけどなの。そんなこと悩んで何になるなの? 自分を隠したら明日美味い肉でもお天道様からもらえるなの? どうせ60年ぽっちしか生きられない弱っちい命なんだから、もっと好き勝手に生きたらいーなの」

「サンドラ」

「……酒のせいなの」

「いえ、ありがとうございます。その通り……だと、思います」

 

 ……いや。

 でも、そうだ。

 どのみち、ここで言おうが言わまいが、僕の思いはここで決まっているんだ。

 僕を育ててくれたオウルタニアさんも言っていた。少しだけでいい、自分の心の声に従いなさい、と。

 

「僕は」

 

 今はどうだ? 僕は少しでも、自分の心に従っているのか?

 

 いや。

 

 「今従っていない」んじゃない。ずっと前から、僕が気付かぬうちに、そうなってしまっていたんだ。

 

「僕は……ッ!!」

 

 自分の心に嘘をついて。

 妥協を繰り返して。

 そうやって、ちょっとしたズレを重ねて、道を外れてしまっていったんじゃないか。

 

「強くなりたいです……ッ!! 誰よりも強くなって、また、シンシアの隣に立てるようになりたい……ッ!!」

「……うん、そうか」

 

 言えた。と思った瞬間、言ってしまった、という羞恥心。

 胸の奥から火が沸いてくるような感覚に、今すぐ過去の行いを取り消してしまいたくなる。

 

「いや、すみません。やっぱり、今の」

「いやいやいや! 撤回すんなよ。俺は立派だと思うぜ。確かに、そうだな。少年。君は今はまだ弱い。ハッキリ言うけど、君じゃ魔族と戦うのは無理だ。前線に出たところで嬲り殺しにされて終わるだけだろう。それこそ、今日俺が駆けつけるまでの君がそうだったように」

「ぅ……」

「でも、これは忘れないでくれ。今日の英雄は、俺じゃなくて君なんだってことを」

「え?」

 

 いや、英雄はアレクだろう。今日の、という言い方は引っかかるが、恐らくは功労者とかそういうことが言いたいのだろうが……それにしたって最も貢献したのはアレクだ。あの場の戦闘を百人に見せても百人がそう答えるだろう。その自信がある。

 

 それに、英雄アレクは朗らかに笑って返す。

 

「え? じゃねえよ。パン屋の娘さんを助けたのは誰だ? 俺は全然間に合ってなかったぜ」

「……あ」

 

 そうだ。

 元は、アガサちゃんを助けるのが目的。シャドウフォックスに襲われていたとき、僕が駆けつけるのが少しでも遅れていたら彼女はきっと凄惨な目に遭っていたはずだ。

 

「いや、でも、その後僕は魔族に殺されそうになってましたし……そこで殺されてたらアガサちゃんも死んでいました。結局、ダメじゃないですか」

「そんなことねえよ! だいたいどうして俺があの場所に駆けつけられたと思う」

「え? それは戦闘音とかじゃないですか? 派手に動いてましたし」

 

 地獄耳らしいし。

 

「そうだけどさあ……そういうことじゃねえよ! その前! 逃げてきたアガサちゃんが俺達に助けを求めてきたの! 男の人が森で魔族に襲われてるから助けて、ってな」

「……!!」

 

 そうだ。

 そういえば、あの時、いつの間にかアガサちゃんの姿はなくなっていた。アレクサンドラ隊に、いや、近くの誰かに救援を求めに行っていたのか。

 ラッキーとしか言いようのない結果ではあるが、結果的に、アガサちゃんを助けたことが僕の命も救っていたようだ。

 

「少年。君は何やら卑屈なところがあるみたいだけど、これは本当に、もっと誇っていいんだぜ。君の勇気が少女を助け、君が少女に与えた勇気が君を救ったんだ。最初から言ってるだろ。今回の英雄は君で、この宴の主役は君だ。君は、英雄なんだ」

「……ありがとう、ございます」

 

 実感が湧かなかった。

 

 だが、アレクが、目の前の英雄が、それを本気で言っているということだけは理解できた。

 

「……ま、そのうち、十年も経てば今の言葉も分かるようになってるさ。君なら素直に鍛えていけば、十分に強く──」

「あ、ごめんなさい。それは無理です」

「……なんだって?」

「僕、この武器に呪われているんです。他人をほとんど傷付けることができません。だから、僕は戦士として強くなれないんです」

「……なんだって……そりゃまた……」

「ちょっと見せてみるなの」

 

 言われ、サンドラに右手の針を見せる。針は相変わらず、僕の手に貼り付いていた。

 

「……『高位解呪(ハイ・ディスペル)』。うーわ、マジなの。樽の底の石みてーなガンコな呪いがこびりついてやがるなの。申し訳ないけど、ちょっと一朝一夕じゃ解けそうにないなの」

「……ティーでも無理か?」

「これは無理なの。なのとティーの二人がかりでも……まあ、十年付ききっきりで解析させてくれるなら解呪できるかもしれんなの」

「それは……流石に無理だな。俺達も戦わなきゃいけないし」

「なの。そこの白チビにも生活があるなの。だから実質解呪不可なの」

「いえ……分かってたことです。大丈夫です」

「……あー……」

 

 分かっていたことだ。

 この針の呪いは並大抵のものではない。そもそも、手から離そうとすればするほど肉に食い込んでいくという現象すら聞いたことがないのだ。気が狂った魔術師か、それか悪魔か何かの悪戯でこうなったのだろう。

 

「……ちょっと待ってろなの」

「サンドラ?」

 

 サンドラがそう言うや否や、彼らの荷持を漁り始める。何かを探しているようだ。これじゃない、あれじゃないと言いながらぽいぽいと荷物を投げては、その数だけアレクの笑顔にシワが増えていく。

 

「あったなの! ちょっとこれを見るなの」

「これは?」

「……ここら一帯の地図か。なんでまた?」

「いいから聞くなの。今、なのたちがいる村はこの山の麓……ちょうどこの辺なの。ここをこう出るとこの街道に出るから、それを西に進むなの。すると、天を貫くほど高い山が見えてくるなの」

「天を貫くほど高い山……」

「それで? 話が見えてこないぞ」

「聞けって言ってるなの。昔々、人のツボを突くことで体内の気を操作する武術を使う獣人の一族がいたなの。彼らはちょっと……色々あって迫害を受けて、それでこの山の奥に逃げ込んだとされているなの」

「ツボ……」

「……? つまりどういうことなんだ?」

「アレク……お前はいつまで経ってもオツムが育たねーなの」

 

 まさか……

 

「そっちの白チビは気付いてるみたいなの。獣人……クオンツ族はツボを押す際、針を道具として用いたとされるなの。針を刺すことで傷を与えられない呪いがあっても、ツボを押すだけなら」

「……!! そうか! そういうことか! そのツボを押す武術とやらを学んでくれば!」

「また、戦える……?」

「かもしれん、というだけの話なの。全部なのの推測でしかないなの」

「いやでも! これ、これいけるぜサンドラ!」

「オマケで、ちょっとだけいいこと教えてあげるなの。アレク。ちょっと腹出して全力で力込めろなの。そう、例えば、今からサイクロプスに腹殴られるぐらいの気持ちで防御するなの」

「……? いいぜ、こうか?」

「うむ、なの。白チビ、ちょっと針貸すなの」

「え、うわっ」

 

 その体躯に見合わぬ、意外なくらい強い力で僕の右手ごと針を引っ張られる。

 サンドラはそのまま、アレクの腹筋へ針を刺す。

 ちくり。

 ぷつ、と針先だけが浅く刺さり、ドーム状に血が滲んでくる。

 

「いて。……あれ、ん……? サンドラ、それエンチャントとかしたか?」

「してねーなの」

「え? いや、どういうことですか?」

「コイツ……アレクはこんなアホ面だけど、戦闘力だけは本物なの。アレクは昔、東の地方に修行に行って『闘気』という、体内の魔力を練って身に纏う戦闘術をマスターしてきたなの。そんなアレクが本気で防御すれば本来、こんな小さな力で押した針なんぞ、腹筋どころか眼球にすら傷一つつけられないはずなの」

「いや、えぇ……」

 

 鉄の針で目を刺して、傷一つつかない?

 とてもではないが信じられない。それはもう「強い」という言葉一つで片付けてしまっていい領域を超えているのではないのだろうか。人間をやめているというか。

 

「そんなアレクの肌に、今、この針は傷をつけた。その意味がわかるなの?」

「!!」

 

 確かに、明らかにおかしい。この針はそれこそ、その辺の道具屋に売っている洋裁針と比べてもナマクラなはずだ。道理が通っていない。

 

「あれ? どういうことだ? 少年は呪いで誰にも傷をつけられないはずだろ?」

「厳密には、『僅かな傷しか与えられない』なの。ただし、この呪いは表裏一体でもあるなの。どれだけ強く刺してもほんの僅かしか刺さらない。代わりに、どれだけ弱い力でも、ほんの僅かな傷は絶対に作る」

「ああ、なるほど、そういうことだったのか」

 

 そういう、ことだったのか。

 固定1ダメージ。それは、使用者の強さを無視して1ダメージ『しか与えられない』呪いだとばかり思っていたが……なるほど確かに、発想を転換してみればどれだけ弱く刺しても確実に1ダメージ『は与える』特性でもある、というわけだ。それだけではない。先程のアレクのように、本来であれば僕では傷一つ与えられないような強者相手にもその防御を乗り越えて1ダメージは与えられる特性でもある、ということである。

 

「名付けて『絶対貫通』。ま、所詮薄皮を切り裂く程度の貫通度合いでしかねーけどなの。でも、ツボを押すのにはちょうどいい特性なんじゃねーなの?」

「あ、ああ! そういう! そういうことか、サンドラ! すげえ! これすげえぞ!!」

「ちょ、アレク! 胴上げはやめるなの! お前がやるとシャレにならな──」

 

 ぎゃあぎゃあと、しばらく二人で騒いでいる。

 

 ……こんな、こんな僕でも。

 

「こんな僕でも、戦っていいんですか」

「……はぁ、はぁ……いいんじゃねーなの? なのはさっきも言ったなの。所詮、キミみたいな人族の寿命なんて60年しかねーなの。そんだけしかない人生の中で、『アレはやっていい、コレはやっちゃダメ』って悩むとかバカバカしーなの。だから、なのがやりたいことを叶える方法を教えてやるなの。年寄り(エルフ)だから」

「……ありがとう、ございます……!!」

 

 今までで一番深く、頭を下げたかもしれない。

 後光が差しているかのようだった。

 まさしく文字通り、『希望』がそこにあった。

 

「この地図やるなの。あ、代金とか気にすんじゃねーなの。なのたちは王国最強部隊『アレクサンドラ隊』なの。もちろん金もメッチャ持ってるなの。こんなペラい紙切れ一つ、ウンコ拭き取る葉っぱと大して変わらんなの」

「よぅし、そうと決まればもう一回乾杯だ! ムサシ、ティー! そんなとこいないでこっち来いよ!」

「げっ、取り込んでたから離れてたのに……」

 

 そうして、離れてちびちびと飲んでいたムサシ、村人と談笑(?)していたティーが呼び戻される。

 

「あ、そういえば少年、名前なんだったっけ? 今の今まで聞きそびれてたな、スマン」

「ああいえいえ。マヌル、って言います」

「そうか! 知ってるみたいだけど、俺はアレクだ! よろしくな!」

「なのはサンドラなの」

「あはは……よろしくお願いします」

 

 

「では、改めて! 一人の少女を救った勇敢な少年にして! 今日! 新たな旅立ちを迎える一人の戦士、マヌルに! 乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 

 

 

 ──こうして、この針と僕との冒険が始まった。

 

 この先、沢山の困難と絶望が待っていて、砕けて消えそうな心を、大切な人たちに支えてもらいながら、乗り越えていく。

 

 このお話は、そんな僕が成長して──

 

 

 ──夢を叶えるまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 




Thank you for reading!!
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