ダンボール戦機白き翼   作:izuki

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2026/08/12 全体的に大幅な加筆・修正を行い再投稿しました。



第十三話 お泊まり

「ただいま」

「……おじゃまします」

 

 ガチャリと玄関の鍵を閉め、俺たちは静まり返った我が家へと足を踏み入れた。

 今夜、俺の家に泊まることになった幼馴染のミカ。

 幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた間柄ではあるけれど、二人きりの『お泊まり』なんてイベントは人生で正真正銘これが初めてだ。

 なので今、俺は、めっっっっちゃ、緊張しています。

 だってそうだろ!? いくら気心の知れた幼馴染とはいえ、初めてなんだよこういうこと。

 お泊り自体は、別にいいんだけどさ……ミカだよ!幼馴染とはいえ!誰だって緊張するだろこんなの!

 とりあえずリビングへ移動し、所在なさげにバッグをソファの脇に置く。

 えっと、どうする。

 いつもどうりじゃさすがにダメだよな。とりあえずご飯にするか? それとも先にお風呂を勧めるべきか?

 

「……ねえシキ、冷蔵庫に食材って何かある?」

 

 ミカがバッグを下ろしながら、台所の方へ視線を巡らせる。

 ああー、確かに。普段の俺は作業部屋に引きこもってカップ麺や出来合いの惣菜で済ませることが多いから、まともな食材なんて買い込んでいない。

 どうしようかと考えかけたが、ふと一昨日のことを思い出した。

 

「そういえば、一昨日に叔父さんがなんかダンボールで送ってきてくれてたな。ある程度は揃ってると思う」

 

 叔父さんは俺が料理が出来るのに、ほとんど自炊しないことを知っているため。

 料理をさせるためか、定期的に新鮮な野菜や小分けされた食材をクール便で送ってくれるのだ。

 

「そっか、なら私が晩御飯作っていい?」

 

 冷蔵庫の前に立ったミカが、振り返ってそう提案してきた。

 

「え、ミカ料理できたっけ?」

「うん。実はね」

 

 少し得意げにふふんと鼻を鳴らすミカ。幼馴染の知らなかった一面に、俺は少し新鮮な驚きを覚えた。

 

「じゃあ、俺も何か手伝おうか?」

 

 さすがに我が家に招いた女の子に全部丸投げして料理させるのはどうかと思ったのだが、ミカの瞳にはどこか強い意志が宿っていた。

 

「私にさせて」

「いや、でも──」

「私が、する」

「あ、……はい」

 

 なぜか譲らない彼女の気迫に押され、俺は一歩下がる。

 

「分かった。食材は冷蔵庫の中のやつを好きに使ってくれ。エプロンはそこの棚のフックにかかってるから。……あ、せめてご飯を炊くのくらいは俺にやらせてくれよ」

「わかった。じゃあ、できるまで待ってて」

 

 俺は米びつから米をボウルに移し、手際よく研ぎ始めた。その傍らで、ミカは少し大きめのエプロンの紐を後ろで結び、冷蔵庫の中身を物色し始めている。一体何を作ってくれるのだろうか。

 米を研ぎ終え、炊飯器のスイッチを入れる。表示された炊き上がりまでの時間は30分。

 さて、ご飯ができるまで手持ち無沙汰だな。リビングのソファに腰掛けた俺は、スクールバッグから大破したトールギスを取り出した。

 待っている時間を使って、コアスケルトンのメンテナンスでも進めておくか。

 バックに入れてる簡易工具セットだけでも、ある程度できるだろ。

 ソファーに座り作業に没頭すること小一時間。キッチンの方から、醤油と出汁の香ばしい良い匂いがしてきた。

 コアスケルトン自体のダメージは俺の予想よりも遥かに軽微だった。もうほとんど終わっている。

 ただ、アーマーフレームに関しては完全に歪んでおり、修復不可能なレベルだ。

 これに関してはむしろ好都合と言えた。以前から温めていた、トールギスの全面改修用設計プランを適用する絶好の機会と捉えよう。

 素材は現行フレームのパーツを加工・流用すれば十分に足りるだろう。

 

「シキ、ご飯できたよ」

「あ、うん。わかった」

 

 工具を片付け、ソファーから立ち上がってテーブルへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 晩御飯を食べ終えた俺は、シンクの前で使い終わった食器を洗っていた。

 最初はミカが「私が洗うよ」と言ってくれたのだが、「いやいや、流石に美味しいご飯を作ってもらって、その上皿洗いまでさせるわけにはいかない」と強硬に主張し、俺が担当することにした。

 ミカはテーブルの対面で、自身のアマゾネスのアーマーフレームを丁寧に磨いている。

 ちなみに、ミカが作ってくれた晩御飯についてだが。

 ──めっっっちゃくちゃ、美味しかったです。

 俺の好物である鮭の塩焼きをメインに据えた和食の献立で、全体の味付けの塩梅も驚くほど俺の好みでした。

 あ、ちゃんとミカには言ったよ。

 

「これで、終わりっと」

 

 洗った皿を水切りラックに並べ終え、水気を拭き取りながら席へと戻る。

 

「アマゾネスの方は大丈夫そう?」

「うん、メンテもちょうど終わったところ」

 

 ミカのアマゾネスもトールギスやアキレスほどではないとはいえ、激しい攻撃の余波を受けていたため心配だったがどうやら問題ないようだ。

 俺はミカの対面に座り、メンテを再開した。

 といっても、こちらはほとんど終わっているのであとは簡単な動作テストだけだが。

 

「ねえ、シキはアングラビシダスには出るの?」

 

 アマゾネスをケースにしまいながら、ミカがふと真面目なトーンで問いかけてきた。

 エンジェルスターの倉庫で敵のスピーカーから告げられた、山野博士の身柄を解放する条件、アングラビシダスの優勝。

 バンの性格からして、父親を救うために間違いなく出場するだろう。

 

「わかんない。それに、まだどこでやってるのかも分からない状況だし……今の状態だと決められないかな」

 

 正直に言って、俺はアングラビシダスには出る気はない。

 なぜなら、アングラビシダスの優勝者に与えられる特典は、世界大会『アルテミス』への無条件での特別出場枠だ。

 俺自身、今年もアルテミスに出場して優勝を狙うつもりでいたから本来ならその出場枠は喉から手が出るほど欲しい。しかし、バンの父親の件が絡んだことで話が変わった。

 山野博士の居場所を知るための条件が、アングラビシダスの優勝ということでバンが参加し優勝しなければならない。

 つまり、特別出場枠はバンが勝ち取るべきものだ。

 俺がそこで勝ち残ってバンの邪魔をする理由がないし。

 俺がアルテミスに出るためなら、近日中に隣町で開催される公式地区大会に出場して、自力で権利をもぎ取った方がいいだろう。

 

「それにほら、肝心のトールギスがこんな状態だからさ。出るのは厳しいと思う」

「そっか……」

「そう言うミカは?出るの?」

「シキが出ないなら、いいかな」

 

 ♪~~『──お風呂が沸きました』

 そんな話をしていた絶妙なタイミングで、電子音声がリビングに響き渡った。

 

「ええと、俺は後でいいから先に入ってきなよ。バスタオルとかは脱衣所の棚に置いてあるからさ」

「……うん、先に入らせてもらうね」

 

 ミカは自分のバックを持ってバスルームへと向かっていった。

 一人生の残された俺は、リビングを後にして2階の作業部屋ではない方の自室へと向かいデスクトップパソコンを立ち上げた。

 このPCには、俺がこれまでに独自に設計・モデリングしてきたガンダムタイプのLBXの機体データが入っている。

 今回は、以前設計したトールギスの強化機体、『トールギスⅡ』の確認をあらためてしようと思って図面を立ち上げた。

 

 『トールギスⅡ』

 トールギスの強化機体。

 白と青とのカラーリングに変更し甲冑を思わせる頭部デザイン、フェイスフェイス部分が少しガン ダムに近くなっている。

 全体的なスペックも若干の底上げをしている。

 武装は新規でヒートサーベルを追加。

 ヒートサーベルは大型の実体剣で使用時には刀身が赤熱化させ切れ味を上げることが可能。普段はシールドに設置したサーベル用のアタッチメントを介して装備され刀身が上向きになる形でセットされる。

 その他武装に関してはビームサーベルの変更はないが、シールドは同じ円状のシールドだがエンブレムはない。

 ドーバーガンはトールギスに装備していたものを改良し片腕で連射・発砲する事ができる仕様となった。装備場所は変わらず右肩のアタッチメントに装備することが可能になっている。

 

 設計自体はデスサイズと同時に完了していたのだが、これまでは従来のトールギスの性能で戦況に十分対応できていたため、実機の製造には至らずデータフォルダの奥に眠らせていたのだ。

 しかし今回の戦闘でトールギスが大破してしまったため、これの製造に踏み切った。

 画面上の図面をスクロールしながら、大破したトールギスからどれだけのパーツを流用できるかを計算していく。

 

「…………ってか、忘れてた。ミカが寝る場所どうしよう?」

 

 作業に没頭していて、一番重要な問題を完全に失念していた。

 予備の布団は……確か押し入れの奥にあったはずだ。

 部屋は……両親の寝室を使う。いや長期間使っていないから掃除が行き届いていないし、かといって女の子をリビングのソファで雑魚寝させるなんて男として論外だ。

 ……俺の部屋しかないか。

 ベッドをミカに譲って、俺がリビングのソファで寝れば丸く収まるか。

 そんなことを考えていると部屋のドアが静かにトントン、とノックされた。

 

「どうぞ」

「……お風呂、上がったよ」

 

 ドアが開き、部屋に入ってきたミカの姿を見た瞬間、俺の思考回路は本日二度目のフリーズを起こした。

 微かに湯気を上らせたミカは、初めて見るお洒落なパジャマ姿。

 いつも結われているツインテールの髪は下ろされており、肩にかかる黒髪が妙に大人っぽく見える。

 部屋に入ってきたミカは初めて見るパジャマ姿でツインテールにしていた髪を下ろしていた。

 普段の学校生活では絶対に見ることのできないその無防備な姿に、心臓がドクンと音を立てた。

 

「何してたの?」

「あ、ああ、いや、トールギス大破しちゃっただろ?ちょうどいいから設計してたトールギスの強化機体に改修しようと思って」

「へぇ……それが、これ?」

 

 ミカがトコトコと歩み寄り、俺が座るワークチェアのすぐ隣でパソコンの画面を覗き込んできた。

 ──近い。気のせいじゃなく、いつもより距離が圧倒的に近い。

 お風呂上がりのいい匂いがダイレクトに鼻腔をくすぐる。

 やばい、これは精神衛生上よろしくない。

 

「う、うん。トールギスⅡ」

「元のトールギスに比べると大分カラーリングが違うね。」

「だろ?……完成したらまたバトルしよう」

「うん」

「えっと、じゃあ、風呂入ってくるね」

 

 これ以上同じ空間にいたら変なことを考えてしまいそうで、俺は着替えを取り出しバスルームに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シキが部屋を出て行った後、私はパタンと閉まったドアを見つめ、それから彼のベッドの端にゆっくりと腰掛けた。

 シキの部屋。男の子の部屋なのに変な匂いもしなくて、不思議と落ち着く空間。

 ベッドのスプリングの感触を確かめながら、今日の事の発端を思い返す。

 ことの発端は、一昨日の夕食の席でお母さんが突然言ってきたことだった。

 

『早く行動に移さないと、シキ君。他の女の子に盗られちゃうかもよー?』

 

 その言葉に、私は心臓が止まるかと思うほど動揺した。

 シキは、ぱっと見は女の子と見紛うほど綺麗な顔立ちをしているけれど、さりげない気遣いが自然にできるし、誰に対しても分け隔てなく優しく接する。

 普段は本人が信じられないくらい鈍感だから気づいていないだけで、実は学校内でもシキのことが好きな女子は影で結構多いのを私は知っている。

 もし、シキが他の女の子と仲良さそうに並んで歩いているところを想像したら────胸の奥が、ぎゅっと絞られるように痛くなった。

 嫌だ。

 誰にも盗られたくない。ずっと私の隣にいてほしい。

 これからもシキの隣にいるのは私でありたい。ずっと、一緒にいたい。

 けれど、自分から「好き」と告白する勇気なんてどこにもなかった。

 もし告白して、幼馴染としての関係まで壊れてしまったらと考えると、怖くて足がすくむ。

 けれど、お母さんは言った。『行動しないと結果はついてこないわよ』って。

 ……よし、だったら。

 私はその場で決意を固め、お母さんに明日シキの家に泊まっていいかと聞いた。

 すぐに許可が下りた。

 お母さんは昔から私の相談なんかに乗ってくれているので、むしろ応援してくれた。

 肝心のシキの許可については……大丈夫、直前になって言っても泊めてくれる。

 だから今日、私は最初からお泊まりの着替え一式をバッグに隠し持ってシキと一緒に登校。

 その後、一応お母さんに許可を貰ったことを見せるために工場でメール。

 帰りの夜道で泊まることを伝えてそのままシキの家に。

 『男の心を掴むには、胃袋を掴め』っていうし、晩御飯は私が作ると決めていた。

 食材があるか不安だったけれど、叔父さんからの贈り物のおかげでシキの好物を作ることができた。ありがとう、叔父さん。

 「めっちゃ美味い」って言ってくれた時のシキの笑顔を見て、胸がちぎれそうなくらい嬉しかった。

 そしてさっき、髪を乾かした後にわざと無防備さを装ってシキの顔のすぐ近くまで顔を寄せてみた。

 その時、シキの耳が真っ赤になって視線を泳がせていたのを、私は絶対に見逃さなかった。

 幼馴染の私を――“女の子”として意識してくれている証拠だよね。

 私は嬉しさを噛み締めるように、シキの枕を抱きしめてベッドにごろんと横たわった。

 ふんわりと包み込んでくる、大好きなシキの匂い。

 驚くほど心が安らいでいって、今日一日の疲れも手伝ってか、私の意識は急激に心地よい微睡みの中へと沈んでいった……

 

 

 

 風呂から上がり、温まった身体で自室のドアを開けた俺は、その場で硬直した。

 ベッドの上には、俺の枕を抱え込んだまま、信じられないほど無防備に熟睡している「天使」の姿があった。

 危ない。あまりの破壊力満点な可愛さに、意識を失うところだった。

 ええと、どうするこれ。布団も被らずに丸まって寝ているから、このままじゃ風邪を引いてしまう。

 一旦起こすべきか……いや、でも、本当に気持ちよさそうに寝ている彼女を起こすのは流石に気が引ける。

 仕方がない。めくれている掛け布団を上からかけてやることにした。

 

「……んぅ……」

「あ、悪い……起こしちゃった?」

「……ん……シキ……?」

 

 布団の擦れる音に反応したのかミカが長い睫毛を微かに震わせ、とろんとした瞳を開いた。完全に寝ぼけている。

 

「いいよ、そのまま寝てて。俺は下のソファで寝るから」

「……やだ。シキも……一緒に寝よ……?」

「えっ」

 

 次の瞬間だった。

 ミカの細い両腕が俺の右腕をガシッと力強く掴んだかと思うと、信じられない引きの強さで俺の身体をベッドの上へと引きずり込んだのだ。

 

「っちょ」

 

 唐突な事態に慌てて出ようとするが。ミカの腕が思ったより力強く、抜け出そうとすれば起こしてしまいそうだ。

 さらには足まで絡めてきた。

 柔らかく、それでいて確かな弾力を持つ感触がダイレクトに伝わってくる。

 ミカって、普段のタイトな服のせいで着痩せして見えるだけで、実は……その、隠れたポテンシャルが結構大きいというのは本当だったんだな────

 じゃ、ない!バカ!

 しかし、密着したミカの身体から伝わってくる心地よい体温と、部屋を包む静寂。

 そしてお風呂上がりなのが合わさり、俺の脳内にも猛烈な睡魔の波が押し寄せてきた。

 

「……もう、無理……おやすみ、ミカ……」






・ミカの秘密
 実はミカの部屋には幼い頃のシキの写真が飾られており、寝る前や起きた時にそれを見るのがルーティンになっている。
 最近、シキに抱きしめられる夢をよく見るようになった。

ミカがガンダムを使うならどれがいい?(これからの物語に影響があるかもしれない)

  • ガンダムデスサイサズ
  • ガンダムヘビーアームズ
  • ガンダムサンドロック
  • シェンロンガンダム
  • アマゾネスのままでいい
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