ダンボール戦機白き翼   作:izuki

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2026/08/12 全体的に大幅な加筆・修正を行い再投稿しました。



第十五話 特訓

 ブルーキャッツの地下闘技場を後にした俺たちは、その足でキタジマへと集まり先ほど目撃した海道ジン、そしてアングラビシダスについて意見を交わしていた。

 

「3機同時撃破なんて、凄いテクニックね」

「あんなの、真似しろって言われても俺には絶対に無理だな」

「私なんか、速すぎて何が起こったのか全然分からなかったもん」

 

 アミやカズが戦慄するのも無理はなかった。海道ジンの操作技術は異常だ、プロプレイヤーに匹敵すると言ってもいい。

 あいつもアングラビシダスに出るのであればあいつは確実に決勝まで登ってくるだろう。

 もしあいつがアングラビシダスに出場するのであれば、確実に決勝まで無敗で登ってくる。

 そしてバンがお父さんを救い出すためには、その決勝で勝たなければならないのだ。

 

「1週間後か……よし、それまでみっちり鍛えてやろう」

 

 腕を組んだ北島店長が力強く言い放った。

 

「え、店長が特訓してくれるの?」

「ただの特訓じゃないぞ装甲をカバーパットに換装してもらう。AX-00で俺とバトルだ」

「な!無茶言うなよ!そんなの勝てっこねーじゃねーか!」

 

 カズが思わず叫び声を上げる。

 防御力が無いに等しいカバーパトであるAX-00では、グラディエーターの一撃を掠っただけでブレイクオーバーしかねない。

 だが、俺は店長の意図を正確に察していた。

 

「いや、それくらい極端なことをやってもいいかもしれない」

「どういうこと?」

 

 怪訝な顔をするアミに、俺はアングラビシダスの本質を噛み砕いて説明する。

 

「アングラビジダスの別名は『破壊の祭典』、公式戦なら一発で失格になるような危険なカスタムや、妨害アイテムの使用も完全に自由だ。それにバンはこれまで、アキレスの性能に頼ったバトルをしてきた。アングラビシダスでもそのままじゃ猛者たちには絶対に通用しない。だからこそAX–00でのバトルってことですね?」

「その通り。バン、これくらいのハンデで根を上げているようじゃアングラビシダスで優勝なんか出来ないぞ!」

「……お願いします!」

 

 バンは覚悟を決めてアキレスのアーマーフレームからカバーパッドのみを装着したAX-00の状態で、店長のグラディエーターに挑み始めた。

 当然、最初はグラディエーターに一瞬で叩き伏せられる。

 それでもバンは泥臭く、何度も何度も立ち上がって泥縄の特訓に食らいついていった。このガッツがあれば大会当日までには相応の仕上がりになるだろう。

 

「私たちも頑張らないとね」

「ああ、そうだな」

「ミカ、俺たちも手伝おう」

「それはいいけど……シキ今LBXないでしょ」

 

 ミカにジト目で突っ込まれ、俺は思わず天を仰いだ。

 

「あ……じゃん。忘れてたわ」

 

 トールギスは昨夜の戦闘で重機に大破させられ、現在トールギスⅡへの全面改修の真っ最中だ。

 どんなに急いでも機体の調整にあと4日はかかる。

 かと言って、ここでガンダムを使うわけにはいかない。

 どうしたもんか、と頭を掻いていると、カウンターの奥から北島沙希さんが声をかけてきた。

 

「LBXなら、修理が終わるまでこれを使っていいわよ」

 

 そう言って沙希さんがレジカウンターの上に置いたのは、『ムシャ』だった。

 

「え、良いんですか?」

「ええ。もともとお店でお客さん用に貸し出してるレンタル機だから問題ないわ」

「助かります、お借りします」

 

 俺はムシャを受け取り俺の反応速度に合わせるよう、自分好みに調整を施していく。

 

「なら、あとは誰と誰がするかだな」

「それなら、最初はカズとミカ。その後に俺とアミでどうだ?」

 

 俺がそう割り振ると、アミが不思議そうに首を傾げた。

 

「どうしてその組み合わせなの?」

「主に、カズのためさ」

「俺の?」

「ああ、カズはハンターを使い始めてからまだ日が浅い。それにカズは動いている相手に照準を合わせるのにまだ慣れていないみたいだから、ストライダーフレームで高機動なクノイチかアマゾネスのどちらか。で、カズとアミで戦ったら俺たちがいる意味ないからこの組み合わせ」

「なるほどね」

「あと、そうだ。はいミカ、これ」

 

 俺は作業机のデスクの引き出しに眠っていたあるものを取り出して、ミカに渡した。

 ミカは最初、それが何か分からず不思議そうな顔をしていたが、すぐに理解して頷いた。

 ちょうどバンと店長が休憩に入り、空いたDキューブへカズとミカが向かい合って立つ。

 

「ゴーッ、ハンター!」

「……アマゾネス」

 

《バトルスタート》

 

 バトル開始と同時に、先手を取ったのはハンターだった。

 ハンターは逆関節特有の高い爆発的な跳躍力を生かし、巨大な岩山の頂点へと一気に登頂。

 スナイパーにとって圧倒的に有利な高所を陣取った。

 ハンターは迷わず銃口を眼下のアマゾネスへと定め、間髪入れずにライフルの引き金を引く。

 アマゾネスは持ち前の機動性をフルに発揮し、その弾道を回避。

 

「くそっ、すばしっこいな!」

 

 ミカのアマゾネスはフィールド内を縦横無尽に駆け回り、点在する遮蔽物を巧みに利用しながらハンターの狙撃を完璧に殺し続ける。

 一方、撃てども撃てども弾丸は虚しく岩肌を削るばかり。カズの表情に、明らかな焦燥の色が浮かび始める。

 だが、そんなカズの動揺を見切ったかのようにアマゾネスが仕掛けた。

 岩陰から突如として姿を現すと、そのまま一直線にハンターの方向に向かっていく。

 

「近づけさせるかよ!」

 

 ハンターが狙撃の照準を合わせようとした瞬間、アマゾネスが懐からミサイル型の小さな投擲アイテムを取り出し、頭上のハンターめがけて力任せに放り投げた。

 カズは咄嗟に迫る物体へと銃口を向け、見事に空中でそれを撃ち抜く。

 ──しかし、撃ち抜かれたカプセルから爆発的な白煙が噴出し、一瞬にして岩山の周辺。

 強いてはステージ全体の視界を完全に遮断する濃密な煙幕へと変わった。

 

「な、なんだよこれ! 何も見えねえ!」

「俺特性の煙幕弾」

「そんなのありかよ!?」

「ありなんだな、これが」

 

 アングラビジダスでは、間違いなくこれ以上に卑怯なことしてくる奴らがゴロゴロいるだろう。

 これくらいのことには今から慣れていってもらわないと、文字通り一瞬で愛機をスクラップにされるだろう。

 視界を完全に奪われたハンターは、煙幕に乗じていつどこから襲ってくるか分からないアマゾネスの気配を察知しようと周囲を警戒し続ける。

 しかし、アマゾネスは一向に襲ってくる様子がない。

 数秒が経過し、徐々に煙幕が風で晴れ始めて周囲の視界が戻ってきた。

 張り詰めていた警戒が、ほんの一瞬、緩んだ。

 

「もらった」

「っ!? しまった、──後ろ!?」

 

 その僅かな油断を、ミカは冷徹に待っていた。

 晴れゆく煙の完全な死角。ハンターの真後ろにアマゾネスは最初から音もなく回り込んでいたのだ。

 完全に無防備な背後から、アマゾネスの槍が強烈な一撃となってハンターを捉える。

 まともに直撃を喰らったハンターはまるで糸の切れた人形のように前方へと吹き飛び、そのまま地面へ激しく倒れ込んだ。

 バトルの決着がついた。

 

「くっそー、負けたぁ……」

 

 ハンターを回収したカズは悔しさを零す。

 だが、十分な成果があったと俺は思う。

 ハンターの攻撃は一撃も当たりはしなかったけど、アマゾネスの軌道自体はちゃんと追えてる。

 この感じなら、動く相手にもすぐに当てられるようになるだろう。

 

「てか、煙幕なんて卑怯だろ」

「カズ、アングラビシダスはルール無用の大会。相手を壊すためなら、これ以上の邪悪な改造をしてくる奴だって絶対にいる。甘く見ない方がいい」

「ま、マジかよ……」

 

 自身の認識の甘さを突きつけられたカズは、少々気が滅入ったように頭を抱えていた。

 

「ミカ」

「ん?」

「ナイス」

「ん」

 

 その後は、沙希さんから借りたムシャを使って俺がアミのクノイチと手合わせをしたり、合間にバンのAX-00の相手を引き受けたりと、ひたすらバトルを繰り返した。

 気がつけば、窓の外はすっかり夜の帳が下りて真っ暗になっていた。

 今日の特訓は幕を閉じ、俺たちはそれぞれ帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 俺は作業部屋でトールギスの改修を進めながら、今度俺が出場する隣町の大会のことについて考えていた。

 俺出場を予定しているその大会のレギュレーションは、『ゼネラルレギュレーション』。

 アルテミスをはじめとする公式の大会でのみ採用される、最も実力が試されるルールだ。

 『スタンダード』や『ストリート』同様、基本的にはLBXを過度に破壊せずに戦うのが基本だが、必要であれば相手のLBXの破壊も認められる。

 また、禁止アイテムは使用不可。

 これが『ゼネラルレギュレーション』の特徴。

 そして、今回の大会ではこのルールと別にLBXは3機まで登録でき、登録した3機の中から自身の使用LBXを自由に変更しても良いことになっているのだ。

 俺は今回の大会、プレイヤーネーム『ゼロ』として登録を済ませているため、ガンダムでエントリーしても何の問題もない。

 問題は、どの機体で出場するかなのだが…………

 

「……とりあえず、ウイングは無しだな」

 

 頭の中の機体リストからウイングガンダムのチェックを外す。

 ウイングは俺の相棒機なのだが、現在はオーバーホールを兼ねた長期メンテナンスの真っ最中なのだ。

 あの機体は独自の可変機構を有しているが、素体となったコアスケルトン自体は飛行形態への変形など想定した設計になっていない。

 そのため関節駆動部への負荷が凄まじく、定期的なメンテナンスが必要で今回の大会はちょうどそれに被っているのである。

 

「使えるのは……デスサイズ、ヘビーアームズ、サンドロック、シェンロンの4機か……」

 

 デスサイズはこの間ようやく完成し、すでにテストも済ませている。

 せっかくだ、デスサイズを使うか。

 初陣が公式大会というのもまたいいだろう。

 残る枠はあと2つ。

 残りはヘビーアームズ、サンドロック、シェンロンのどれから選ぶかだが……ヘビーアームズは、この前の暗殺事件で使用したし…………よし、残りはサンドロック、シェンロンにしよう。

 そうと決まれば、機体の状態確認をしておこう。

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