2026/08/12 全体的に大幅な加筆・修正を行い再投稿しました。
あれから数日。
俺たちはアングラビシダスに向けて、学校の放課後チャイムが鳴るや否や、一目散にキタジマへと足を運ぶ日々を送っていた。
今日はアミ、カズ、ミカ対バンという3体1のバトルが行われていた。
アミとミカの前衛二機が、息の合った連携で絶え間ない猛攻を仕掛け、バンのアキレスがそれを紙一重で躱し続ける。
「そこっ!」
アキレスが躱した瞬間に生じた僅かな隙。それを見逃さず、離れた岩山の頂点からカズのハンターが狙い撃つ。
だが、現在のアキレスは動きは以前のそれとは違った。弾道をあらかじめ予測していたかのように最小限の動きで弾丸を躱し、追撃してきたクノイチの攻撃を盾で弾く。
そのままアマゾネスの槍の突きをいなしながら、ハンターのいる岩山へと身を翻して一直線に急接近を開始した。
「させるか!必殺ファンクション!」
《アタックファンクション》
──《スティンガーミサイル!》
ハンターの背中から発射されたミサイルが激しい火炎の尾を引きながらアキレスへと直撃し、視界を覆い尽くす大爆発を引き起こした。
カズの顔に勝利を確信した笑みが浮かぶ。
だが、その爆煙を力任せに切り裂いて無傷のアキレスが空中へ飛び出してきた。
「なにっ!?」
カズは慌ててアキレスに照準を合わせようとするが、すでに遅い。
アキレスはハンターの懐へと滑り込み、アキレスランスの穂先が鋭く胴体を突いた。
倒れたハンターから光がはじける。
ハンターがブレイクオーバー。
「よし!」
「……もらった」
カズを落とした歓喜の瞬間、アキレスの完全に無防備となった背後へ、回り込んでいたアマゾネスのパルチザンによる薙ぎ払いが直撃した。
吹き飛ばされるアキレス。バンは何とか体勢を立て直して起き上がるが、そこへクノイチが追撃の構えをとる。
「これでトドメよ!必殺ファンクション!」
《アタックファンクション》
──《
クノイチの目にも留まらぬ連撃がアキレスを切り刻み、ついに限界を迎えたアキレスが光をはじけさせながらその場に崩れ落ちた。
アキレス、ブレイクオーバー。
「負けた……」
「けど、最初の頃よりも確実に戦えるようになってきた」
「ああ、ここ数日の特訓で大分腕を上げたと思うぞ」
勝利できずに悔しさを滲ませるバンだったが、ミカとシキの言葉を聞きすぐに気持ちを切り替えて笑顔を見せた。
そこへ、特訓の様子を奥で見守っていた北島店長が、奥からモーターらしきコアパーツを持ってて現れた。
「腕を上げたな、バン!今のお前ならこれなら使いこなせる」
「使いこなせるって?」
「『シグマDX9』。タイニーオービット社製の最新高速モーターだ」
「凄い……!」
バンが目を輝かせる。確かにシグマDX9は、現行のコアパーツでもトップクラスの最高出力を誇る超高性能モーターだ。
ただ…………こいつはスロットを縦横含めて10マスも使うという非常に大きいコアパーツでもある。
これ一つ入れるだけで、他の補助パーツの配置が完全にカツカツになる。
正直に言うと……ものすごく使いづらい。
今のバンにそれを言って水を差すのは野暮なので口には出さないが。
「ほれ、受け取れバン」
「え? もしかして、くれるの!?」
「あぁ、俺からのプレゼントだ。その代わり、アングラビシダスでは必ず優勝しろよ!」
「店長、ありがとう!!」
店長からシグマDX9を受け取ったバンは、作業スペースを借りて早速シグマDX9をアキレスのコアボックスへ組み込む。
換装を終えたバンは早速、どの程度パワーアップしたのかを確かめるべくバトルしようと意気揚々と声をあげた、その時だった。
「いらっしゃい!」
キタジマに新しいお客が入店してくる。
店長がいつもの元気な声で出迎える。
俺たちが何気なく入り口の方へ視線を向けると、そこには非常に見覚えのある、特徴的な三人組の姿があった。
「お前らは……!」
「四天王、郷田三人衆!」
「よ、久しぶり」
「と、初めましてな奴らもいるな」
派手なスカジャンを羽織ったリコ、ヒョロ長いギンジ、そして大柄なテツオ、郷田三人衆であった。
「この人たちは?」
「ほら、前に話した郷田三人衆」
「ああ……」
ミカが小声で聞いてきたので適当に合わせる。
一応、俺は以前の郷田戦の時に裏で見ていたから知ってはいるが、表向きは知らないフリを通しておく。
「俺達に何の用?」
「ちょっとな。リーダーが顔貸せって言うから、アタイ達がわざわざ呼びに来てやったんだよ」
「特に、バン。お前に用があるでごわす」
「郷田がバンに?」
「一体何かしら?」
「……わかった。行くよ」
「いいのか?」
俺の問いかけに、バンは頷いた。そのまま俺たちも付き添う形で、郷田三人衆の後をついていくことにした。
道中、特訓を中断させられたアミは少し不機嫌そうに眉をひそめていたが、カズに関してはパワーアップしたアキレスの相手にうってつけなんじゃないかと前向きに捉え、そんなカズの考えにバンは賛同する。
ミカは相変わらず、俺のすぐ横を無言で歩いている。
一方の俺はというと──何やら面倒な事件に巻き込まれそうな、嫌な予感がしてならなかった。
「悪いけど、ここから先は行かせないよ」
そんなことを思っていたとき。
商店街の分岐道に差し掛かった瞬間、俺たちの前に奇妙な三人組が立ち塞がった。
金髪のグラマラスな女性、背の高い痩せ型の男、そして背の低い肥満型の男。
全員が黒の高級スーツを身に纏い、顔には不気味なピエロかひょっとこのような仮面をつけているため、その素顔を窺い知ることはできない。
「なんだこいつら?」
カズとアミが不審者を訝しむ中、バンはその特徴的な出で立ちを見て記憶を呼び起こした。
「何だよ、ひょっとこ野郎ども!」
「俺達を誰だか知らねぇのか? そんな所に突っ立ってたんじゃ通れねぇだろ!」
「さっさと退くでごわす!」
そんな中、三人衆は臆することなく仮面の集団へ詰め寄っていく。
しかし、次の瞬間だった。
痩せ型と肥満型の男二人が、素早い身のこなしで瞬時に郷田三人衆の背後へと回り込んだ。そして、自身の仮面に指を触れる。
仮面の表情が狂気的な笑顔へと変化した刹那、郷田三人衆はまるで恐ろしい化け物でも見たかのように顔を真っ青にし、悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすようにその場から逃げ出してしまった。
…………おい。
「ふん。あんた等に用はないんだよ、引っ込んでな!」
邪魔者を一瞬で追い払った女性の仮面が、今度は残された俺たちを捕える。
「さぁ、これで邪魔者はいなくなったよ。痛い目を見たくなかったら、大人しく、私達に付いてきてもらおうか」
相手は三人とはいえ、明らかに常人離れした身体能力を持つ得体の知れない連中だ。下手に逆らえばどんな目に遭うか分からない。
俺たちはアイコンタクトを交わし、とりあえず大人しく奴らの後をついていくことにした。
案内されたのは、細い路地を入り込んだ場所にある人目に付きにくい小さな空き地だった。
「ここなら邪魔が入る事はないよ。さぁ──」
「お前達、イノベーターだな!」
「「えっ!?」」
「っ!」
(ああ、やっぱり?)
女性の言葉を遮るようにバンが言い放った一言に、カズ、アミ、ミカの3人が驚愕する。
俺は小さくため息をついた。ということは、こいつらの目的はバンの持つプラチナカプセルの奪取だ。
「だったら、どうだって言うんだい?」
「お前達に聞きたい事がある!」
「あ? 聞きたい事?」
「俺の父さんが今どこにいるのかを知ってる筈だ! それを教えてもらうぞ!」
イノベーターを前にしても、バンは一歩も引かずに鋭く詰め寄る。
だが、仮面の三人組はそれを聞いて、くつくつと小馬鹿にしたような笑い声を漏らした。
「何を言うかと思えば、偉そうに」
「分かってるんですかねぇ? 自分の立場ってものが?」
「まったく、誰に物言ってるんっすかねぇ?」
「俺は、俺はイノベーターだからって怖くないぞ!」
「「あぁ?」」
「生意気なお子様だねぇ! でも、私達を前に逃げる事無く立ち向かってくるその勇気だけは褒めてやるよ。だから……」
女性は懐からDキューブを取り出すと、空き地の地面へと放り投げて展開させた。
そして、自身のCCMとLBXを取り出す。
「私達とバトルして勝ったら、教えてあげなくもないけどね。……けど、あんたに勝てるかしら? この『デクーエース』と!」
「「俺達の、『デクー改』!!」」
「生まれ変わった私達のLBXに?」
取り出されたのは3機のLBX。
デクー改と呼ばれた機体は、青を基調とした重厚な装甲を持ち、肩と膝に凶悪なスパイクが追加されている。
デクーエースと呼ばれた機体は、鮮やかなワインレッドとゴールドの機体色で他の2機と比べてすらりとしたフォルム。どうやらストライダーフレームのLBXのようだ。
「どんな奴が相手だって、俺は負けない!」
「言うじゃない! あぁ、そうそう言い忘れてたけど、このバトル、戦うのはあんた一人だよ」
「っ!?」
「つまり、3対1って訳さ? どうする、それでも私達にバトルを挑むかい?」
「卑怯よ!」
「よせバン、相手のLBXの性能も分からないのに戦うのは無茶だ!」
カズとアミが必死に制止するが、すでにバンは覚悟を決めているようだった。
「大丈夫、父さんを助ける為なら俺はどんな相手とだって戦う!」
「泣かせるねぇ~。だからって、手加減なんてしてやらないけどね! やれ、デクーエース!!」
「ほら行け、デクー改!」
「やれ行け、デクー改!」
「アキレス!」
展開されたフィールドは、港湾都市をモチーフとしたジオラマ。
ルールは当然、何でもありのアンリミテッドレギュレーションだ。
バンのお父さんの情報をかけた勝負。
バトル開始と同時に3機は完璧な連携で散会。瞬時にアキレスを取り囲む包囲陣形を形成すると、銃とロケットランチャーで三方向から攻撃を仕掛ける。
だが、アキレスは飛来する弾丸や弾頭を躱し、逆に相手を翻弄する。
「アキレスの動き、以前よりも格段に良くなってる」
「凄い、これもシグマDX9のお陰ね!」
「何やってんだいお前達!」
「だってボスぅ、アイツ早いんですよ」
「そうッスよ」
仮面共が動揺する中、アキレスはトップスピードを維持したままコンテナの間や壁を蹴り進み、隙の出来たデクー改の1機へと急降下。
槍による容赦ない連続突きを浴びせて体力を削り、援護に来たデク―改からの攻撃を避ける。
ヒット&アウェイを繰り返し、地道に体力を削っていく。
「よし! これで決める!」
《アタックファンクション》
──《ライトニングランス》
「いけー!ライトニングランス!」
アキレスランスの穂先に、エネルギーが集約する。
放たれた一撃は、眩い青白色の巨大な光の槍となり、ターゲットとなったデクー改の胴体を完全に貫通。
直後、凄まじい大爆発がジオラマ内に響き渡った。
「スゲー!今のアキレスの必殺ファンクションか!?」
「凄い!」
「威力が高いな」
「うん、それに長射程」
俺たちが冷静に分析する傍らで、残されたイノベーターの2人は一撃で消し飛ばされた味方の有様に唖然としていた。
だが、すぐに我に返るとすぐに距離を取る。
「や、やってくれるじゃないのさ!」
「なら、間合いを取るまでッス!」
デクーエースと残るデクー改は、正面からの撃ち合いを避け、ビルやコンテナの物陰へと身を潜めた。
遮蔽物を利用したゲリラ戦に移行するつもりだろう。しかし、今のバンには通用しなかった。
「隠れたって、もう一発、ライトニングランスだ!」
《アタックファンクション》
──《ライトニングランス》
間髪入れずに放たれた二撃目の光の槍が、敵機の身を潜めていたビルごと貫くように直撃。
激しい爆煙が晴れた後に残されていたのは大きく抉り取られたビルの残骸と、その下敷きになって文字通り無残な残骸と化したデクー改の姿だった。
「こんのぉ! いつまでも調子に乗ってるんじゃないよ!」
最後の1機となったデクーエースがアキレスの死角から一気に懐へと飛び込んでくるが、そこにアキレスの蹴りが炸裂。
手に持っていた銃が遥か彼方へと吹き飛んでいく。
「何っ!」
そして、無防備となったデクーエースの胴体に穂先が突き刺さる。
デクーエースは派手な爆発を起こしてステージに沈んだ。
3対1の不利なバトル。バンが勝利した。
「やったーー!」
「おめでとう、バン!」
「おめでとう!」
「特訓の成果ちゃんと出てたな」
「うん、ばっちり」
俺たち拍手を送る中、仮面の三人組はこの結果が信じられないのか、文字通り硬直していた。
「約束通り父さんの居場所を教えてもらうぞ!」
その言葉でようやく我に返った三人組は、咄嗟に顔を見合わせ、、仮面の奥の視線だけで高速の会話を交わした。
「ヤダね!」
「知りたきゃ自分で何とかするんですね!」
「と、言う訳で……」
「撤収!!」
「「ラジャーッ!!」」
そして、三人組は一目散に路地の奥へと脱兎のごとく逃げ出した。
それを慌てて追いかけるが、三人組の逃げ足の速さを前に、途中で追いかけるのを諦めるのであった。