ダンボール戦機白き翼   作:izuki

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2026/08/12 全体的に大幅な加筆・修正を行い再投稿しました。

       誤字報告ありがとうございます。


第十七話 箱の中の魔術師

 あの後、約束を破って逃げ出した3人組に機嫌が悪くなったバンを宥めながら、逃げていた郷田三人衆と合流し再び郷田の元へと向かっていた。

 

「ほら、ここだよ」

 

 案内されて到着したのは、商店街の一角にあるゲームセンターだった。

 ここのゲームセンターはクレーンゲームやコインゲームなどの他にLBXのバトルスペースが設置されている。

 俺もたまにミカとの暇つぶしで立ち寄る場所だ。

 

「わざわざこんな場所に呼び出すってことは、やっぱりバトルか?」

「だとしても、今のアキレスなら誰にも負けない!」

「とりあえず中に入りましょ」

 

 俺たちは自動ドアをくぐって店内へと足を踏み入れた。

 だが、先に入店したはずの郷田三人衆が、入り口のすぐ側で信じられないものを見たかのように呆然と立ち尽くしていた。

 何かあったのか。と、彼らの視線の先バトルスペースの大型メインモニターを見上げた瞬間、俺たちも言葉を失った。

 モニター画面に表示されているのは店内で行われているLBXバトルの様子。

 画面に映し出されていたのは、無残な姿を晒すハカイオーの姿だった。

 自慢の剛腕は根本から切り落とされ、重装甲の各所には痛々しい亀裂が無数に走り、大地へ無様に倒れ伏している。

 

「リーダー!」

「嘘でごわす!……あのリーダーが……!」

「信じらんねぇ、一体何が起こったんだよ!?」

 

 ミソラ二中の絶対的なボスであり、地獄の破壊神とまで呼ばれた郷田ハンゾウの完全なる敗北。

 その事実に三人衆は激しく動揺し、バンたちも驚きを隠せない。

 

「見ての通りだ」

 

 Dキューブの対面から、ハカイオーの残骸を見下ろす一人の男が淡々としかし酷く冷徹な声を放った。

 

「地獄の破壊神が地獄を見た……だよな?」

「……ッ!」

「そんな体たらくだから、LBXを始めたばかりのド素人に負けちまうんだ」

 

 そいつの言葉にCCMを握りしめた郷田は悔しそうに顔を歪ませる。

 

「仙道ダイキ!」

「カズ、知ってるの?」

「ミソラ一中を仕切ってるヤツさ。郷田とはずっと張り合ってるんだ。そして別名『箱の中の魔術師』!! 変幻自在なバトルを仕掛けることで有名なヤツさ!」

「なるほど、あいつが……」

 

 カズが冷や汗を流しながら解説する。

 箱の中の魔術師、仙道ダイキ。俺も噂自体は耳にしていたが、こうして直接出くわすのは初めてだ。

 カズの説明通り変幻自在なバトルを仕掛けてくることで有名だが、その中でも最も有名なのは──

 

「……俺の負けだ。約束通り、お前の言うことに従うぜ……」

「そうだなぁ〜……このゲーセンは俺たちの縄張りだ。今後一切、ミソラ二中の出入りは禁止だ」

「ふざけんじゃないよ!! そんなの認められるわけ──!!」

「口を出すな!!」

「けどリーダー!」

「……俺は負けたんだ。どんな屈辱も……甘んじて受け入れる……!」

 

 これには、リコをはじめとした郷田三人衆が黙ってはいなかったが、激昂する三人衆を、郷田は重々しい一喝で制した。

 それを仙道は呆れたようにため息をつく。

 

「はぁ、嫌だ嫌だ。そう言う暑苦しいの、嫌いなんだよねぇ」

 

 やれやれと肩をすくめる仙道。

 だがその時、俺の隣でアミがフッと不敵な笑みを漏らし、仙道に向かってとんでもない言葉を投げかけた。

 

「あれぇ〜?な〜んか格好つけてるけど、ハカイオーを倒したのあんたが最初じゃないから」

 

 突然、アミが仙道に向かってそんなことを言った。

 俺はその一言でなぜかすべて察してしまった。

 

「──その通りだ、仙道!!ハカイオーを最初に倒したのは奴だぜ!!」

「えっ!?いや、えぇ〜っと……」

 

 案の定、郷田がこれ幸いとアミの言葉に便乗してバンの方を指さした。

 当のバンは、突然スポットライトを浴びせられて慌ててタジタジになる。

 

「アミって……時々めちゃくちゃいい性格してるよな」ヒソヒソ

「うん、バン。巻き込まれて可哀想」ヒソヒソ

「二人とも、全部聞こえてるわよ」

 

 アミがギロリとこちらを睨んでくる。

 

「だってあの人、嫌な感じなんだもん」

「いや、巻き込まれたバンの気持ちも少しは考えてやれよ……」

 

 仙道は郷田を倒したというバンの方を見る。

 

「ふ〜ん……アイツがねぇ……」

「そうだ!最初じゃねぇ……てめぇは二番手ってこった!!」

「黙れよ敗者」

 

 仙道は郷田を鼻で笑い飛ばすと、ゆっくりとした足取りでバンの前へと歩み寄ってきた。

 その口元には、獲物を見つけた蛇のような歪んだ笑みが浮かんでいる。

 

「お前、名前は?」

「……山野、バン」

「お前が山野バンか。いい機会だ、俺の『ジョーカー』と戦え」

 

 仙道からの唐突なバトルの要求に、バンはメインモニターの映る仙道のLBXに目を向けた。

 ジョーカーはタイニーオービット社製のストライダーフレームのLBXであり、トランプの道化師を模した禍々しくも奇抜な外見が特徴だ。

 ストライダーフレーム特有の高い機動力を活かし、トリッキーな動きで相手を翻弄する戦い方を得意とするが、挙動に独特の強い癖があるためプレイヤーを選ぶ機体である。

 そのためジョーカーを使っているプレイヤーはほとんどいない。

 

「いいよ、やってやる!」

「……見える」

「え?」

「見えるぞ。お前が俺にひれ伏す姿がな」

 

 そう言って仙道が取り出したのはタロットカードの『死神の正位置』だ。

 楽観的な言葉や行動から、非常に大きな問題を引き起こしてしまうことを意味する。

 

「……そのカード、何?」

 

 だが、当のバンはタロットカードの知識など1ミリも持ち合わせておらず頭に?を浮かべていた。

 

「バン! お前タロットカードを知らないのかよ!」

「タロットカード?」

「バンって、LBX以外無頓着」

「さすがの俺でも少しは知ってるぞ」

 

 まあ、俺はこういった類のものはあんまり信用していないけど。

 仙道はバンの無知さに深くため息をつき、カードをしまうとDキューブの前でCCMを構えた。

 

「始めようか」

「あぁ!」

「気をつけろよ、奴の異名は伊達じゃない、信じられない挙動で惑わしてくるぞ!」

「心配ないさ……行け、アキレス!!」

 

 アキレスがバトルフィールドの市街地ジオラマへと鮮やかに舞い降り、大鎌を担いだジョーカーと対峙する。

 仙道はその洗練された機体デザインを一瞥し、僅かに目を細めた。

 

「初めて見るLBXだな……」

「アキレスさ!」

「アキレスねぇ……レギュレーションはアンリミテッド。バトル開始だ」

 

《バトル スタート》

 

「アキレスの力を見せてやる!」

 

 アキレスはジョーカー目掛けて一直線に猛進。槍による突きをくり出す。

 しかし、ジョーカーはまるで重力から解放されているかのようにその猛撃を軽々と躱してみせた。

 

「へぇ、結構早く動くじゃないか」

「確かにパワーアップしてやがる。俺と戦った時と段違いだ」

 

 ジョーカーはその勢いのまま巨大な鎌『ジョーカーズソウル』を死神のごとく斜め下から振り抜く。

 アキレスは反射的にシールドを滑り込ませて防ぎ、間合いを離した。

 

「思ったよりもやるねぇ」

 

 アキレスの間合いを離したバンは一気に勝負を決めるべく、CCMのキーを叩いた。

 

「行け!ライトニングランス!!」

「は?」

「え、いきなり必殺ファンクション!? 早すぎるわよ!」

 

 《アタックファンクション》

 

 ──《ライトニングランス》

 

 先ほどイノベーターを消し飛ばした青白色の強烈な光線が、ジョーカーに向けて一直線に放たれる。

 だが、ジョーカーはそれを軽々と躱してみせると、大技を放った反動で硬直したアキレスの隙を見逃さず、一瞬で懐へと踏み込んで大鎌を振り下ろした。

 

「あぁ!」

「ライトニングランスねぇ……どんなに強力な攻撃も、命中しなければ何の意味もないよねぇ!」

「バン! 必殺ファンクションに頼り過ぎだ!立ち回りが雑になってるぞ!」

 

 俺が叫ぶが、焦ったバンは再びライトニングランスを繰り出そうとする。

 しかし、ジョーカーのトリッキーな動きを捕えることが出来ない。

 

「動きが読めない……これじゃあライトニングランスが撃てない……」

 

 必殺ファンクションを過信してしまったバンは動きが単調になり、その隙を突かれてジョーカーの大鎌がアキレスの右脚関節部分を深く切り裂いた。

 

「大したことないねぇ…。郷田、こんなヤツに負けたのか?」

「お前こそ!逃げてばっかりいないでちゃんと戦え!!」

「逃げる?馬鹿言うなよ。これは戦略、戦いのスタイルだ。お前のスタイルはこんなものか。必殺ファンクション頼みの単調な力押し、まさに愚かしさの極み」

 

 仙道はフッと嘲笑うと、今度は別のタロットカードを指先で弄んだ。

 『愚者の正位置』、無計画な行動がもたらす破滅、あるいは盲目的な突撃を意味するカード。

 

「箱の中の魔術師の本気を少しだけ見せてやるよ。そしてお前のLBXは切り刻まれ、お前は俺にひれ伏す」

「バン! 油断するな、始まるぞ!!」

 

 郷田の警告と同時に、ジョーカーは先ほどよりも素早い動きを見せると、ジョーカーはアキレスを中心に猛烈な速度で円を描くように走り始め、その残像がどんどん濃くなっていく。

 次の瞬間、ジョーカーの輪郭がグニャリと歪んだ。

 一機だったはずの道化師が、瞬時に二機、そして三機へと『分身』したのだ。

 

「あぁ!」

「分身!?」

「マジかよ!?」

「っ!?」

 

 目の前の怪現象に、バンをはじめカズやアミ、郷田三人衆までもが驚愕する。

 全員が驚愕に目を見張る中、俺は、腕を組んでその光景を極めて冷静に観察していた。

 

(……分身?あれが?あれは、分身なんかじゃない)

 

 箱の中の魔術師の代名詞であるこの分身魔術。

 バンたちにはオカルト的な何かに見えているようだが、俺にはこれの正体が完璧に見抜けた。

 たしかに、これは並のプレイヤーじゃ出来ない。

 まず、しようとする奴はいてもできるやつがほとんどいないだろう。

 これだけの芸当を実戦でやってのける仙道ダイキは相当腕の立つプレイヤーなのだろう。

 ……俺も、こんどやってみようかな。

 そんなことを考えているうちに、3機に増えたジョーカーは無慈悲にアキレスへと襲いかかっていた。

 どれだけ攻撃を躱そうとも、躱した直後には必ず死角から攻撃をくり出すジョーカー達。

 波状攻撃に対処しきれず、アキレスは攻撃を受けて傷つき、ついに先ほど受けた右脚のダメージが限界を迎えてその場に膝をついてしまった。

 

「こんなはずじゃ……動け、アキレス!」

「さぁ……これで終わりだ!!」

 

 3機のジョーカーが同時に高く跳躍し、大鎌を振りかぶって無防備なアキレスへと同時に急降下する。

 完全に詰みの状況。回避行動も間に合わない。

 

「アキレス!」

 

 もはやここで終わりかと思えた。その刹那。

 凄まじい金属衝突音がゲームセンター内に響き渡った。

 アキレスとジョーカーの間に滑り込んできた小さな禍々しい影。

 それは、4枚の大型刃を備えた巨大ハンマーでジョーカー3機の同時攻撃を片手一本で完璧に受け止めてみせていた。

 深紫の重装甲、頭部を飾る王冠の意匠。

 見間違えるはずがない。あの地下闘技場で圧倒的な強さを見せつけた、海道ジンの操るLBX──

 

「『ジ・エンペラー』……!」

 

 俺の呟きと同時に、振り払われた衝撃でジョーカーが分身を消して大きく後方へと飛び退いた。

 

「誰だ!?」

 

 仙道は店内を見渡す。

 すると、バトルの喧騒から少し離れた薄暗いゲーム筐体の影から、海道ジンが冷徹な眼光を湛えて静かに姿を現した。

 

「海道ジン……!」

 

 バンが呆然とその名を呼ぶ。なぜあいつがここにいる。

 なぜバンを助けるような真似をした。彼にとって、バンを助けるメリットなど何一つとして存在しないはずだ。

 仙道は海道ジンのCCMに視線を落とし、不快そうに眉をひそめた。

 

「仙道くん……だったな? 君もアングラビシダスに出るつもりなら、決着はそこでつけたらどうだ?」

「……お前、アングラビシダス出るのか?」

「あぁ、出場する!」

「……お前は?」

「…………」

 

 仙道の問いに海道ジンは無言で答える。

 どうやら仙道ダイキも例のアルテミス出場枠を狙ってか、アングラビシダスへ出場するらしい。

 先ほどまで乱入されたことに激怒していた仙道だったが、さらに大きな相手の存在を確認したことでその怒りは一瞬で消え去り、代わりに不敵な笑みがその顔に張り付いた。

 

「いいねぇ、大勢のギャラリーの前で二人とも無残に潰される、それじゃ、アングラビシダスでまた会おう」

 

 仙道は素早い手つきでジョーカーを回収すると、そのままゲームセンターから去っていった。

 その直後、海道ジンもアキレスや俺たちには一言の視線も交わすことなく、静かに店を出て行った。

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