ネットミーム・デビルサマナー   作:生しょうゆ

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第十五話 アリスこれ知ってるわ!

 

 

 

「うわあ、六本木も随分様変わりしたもんだね。僕がヤタガラスを離れた頃は軍事施設が沢山あったんだけどさ、それが今や、こんなに商業施設が建ち並ぶとはねえ」

「何だこの生首!?(驚愕)」

 

 体格に対してかなり大きめの黒コートを羽織った器ちゃんの傍らに浮遊するのは、ぶっ殺したはずのクソ野郎こと二代目キョウジである。正確にはふよふよと浮くその生首である。お前ゆっくりか何か?

 

「いやいや、実際僕も驚いているのさ。罪人を転用するとしても業斗童子として黒猫か鴉にでもさせられると思ったんだけど、いやあやっぱり僕の術式は素晴らしいね。肉体不変の……ごべっ!?」

「生首が喋るのはルールで禁止ですって言っていますよね」

「いきなり蹴るのもルールで禁止にしてくれないかな……」

 

 器ちゃんの回し蹴りを受けてキョウジは転々と地面に転がった。いや、見えちゃったけど首の断面そのままなのかよ。ゆっくりと言うにはグロすぎるだろこいつ。

 

「上層部も何でこいつを器ちゃんに預けたかね……。被害者と加害者を一緒にするとかあたおか」

「ホモガキに同意するのは屈辱ですが、私もそこは陳情したのですよ。しかし『調伏した敵を利用することこそ、退魔師としての正道ではないか』と真顔で言われてしまいまして……」

「うーんそういう話は実際よく聞くから何とも言えん……」

 

 異界の主に力を認めさせて仲魔にするなんてありふれた話だし、それを娯楽にしてやがる奴等も多い。まさしくポケモンゲットの精神だ。

 

 坂上さんの何とかだってそうだし、諏訪さんのミシャグ……あの、あれだって、元はタケミナカタに負けたのが切っ掛けで、諏訪地方の祭祀を司るようになったって話だしな。

 

「だけどこいつ今レベル5じゃん。ゴミじゃん。何の役に立つの?」

「君たちが今やろうとしている事とかかな? 霊地の管理、巡回と、やっていることは昔と変わらないようで安心したよ」

 

 器ちゃんに見下げ果てるような目を向けられながら、キョウジはそう言った。

 

 そう、俺と器ちゃんと諏訪さん、そしてゆっくり(グロ)は今、六本木に居た。別に12月のイルミネーションを楽しもうって話ではない。クソカップル共が蚊柱のように沸き立ってゴミクソと呟きたくなるが、これはヤタガラスの仕事なのである。

 

「綺麗ですね……。これ全部、電灯なんですか?」

「ゴミクソが……」

「チッ……カス共が蠢いていますわね……」

「凄い電気の無駄遣いだよね。人の欲って呆れるほど底深いなあ」

「あのあの、まだ感動している途中なんですが」

 

 器ちゃんが訴えるようにコートの袖を引っ張ってくるが、こんな所に長居していたら野獣ママに寝取らせを指示してしまいそうになるからさっさと移動しよう(提案)

 

 

 

 使えるものは使うってのがヤタガラスの精神らしく、修練場にて器ちゃんが順調にタフちゃんになりつつあるという報告が成された後、上層部から『お前も退魔師にならないか?(要約)』という誘いがあったらしい。

 

 器ちゃんも何を思ったかホイホイ誘いに乗っちゃって、その結果が監視兼護衛役として諏訪さんと、ちゃんと面倒見ろやボケって事で俺と、何の役にも立たない生首を連れたお試し任務である。

 

「だけど六本木にある霊地の巡回なんて仕事、楽すぎません? レベルに対して仕事が合ってなさ過ぎるだろ」

「は? 何を抜かしていますかこのおマヌケは。霊地の管理、巡回、調査はヤタガラスの基本的な任務ですわよ。レベルが、という話ではなく、国家守護の基礎となる重要なものです」

「そんな仕事やったことないんですがそれは」

「……お前の初任務、何でしたっけ?」

「坂上さんに連れてかれて異界ぶっ潰しました。二個も(半ギレ)」

「ああ、そう……」

 

「キチガイ……」「あんだって?(半ギレ)」と諏訪さんと肘を小突き合いつつ、ぶらぶら夜の六本木を歩いていく。クソデカビルにイルミネーションと、文明の輝きの象徴みてえな街に悪魔や退魔師なんて古臭いオカルトが入り込む隙間など無いように思われるが、実際にはオカルトがぎっしりと詰め込めるだけ詰め込まれているのだ。

 

 何かクソデカビルを建てると人の欲やら気やらが集まりすぎてヤベーから、設計の段階から龍脈やらも勘案してオカルト的に作ってあるらしい。建築業界は金払いが良いからありがたいってゲイリンがこの前言ってたゾ。

 

「先人の尽力もあり、設計の段階で破綻のないよう作成しておりますから、阿多様も気負う必要はございませんわ。今夜は悪魔と出会うことなどないでしょう」

「夜中歩いているだけでオッケーとか何だこのクソ楽な任務!?(驚愕) じゃけんコンビニで酒とつまみでも……」

「訂正します。そこのクソアホよりは気負って下さいね(半ギレ)」

「はいっ。頑張ります!」

 

 器ちゃんは元気よく返事をした。その表情には少しの緊張と興味、関心、そして楽しさが含まれているようである。これで右手に生首をふん捕まえてなければ完全少女だったんだがな。

 

「へえ、こういう術式を組んでいるんだ。塔に集まる気を分散する形……でも、建てる側からすれば気を集める方が良いだろうにね。バランスを取るヤタガラスらしい組み方だ」

「今回は仔細込み入った所までは見ず、あくまで表面的に異常がないかだけ確認していきましょう(ガン無視)」

「おっ、そうだな(便乗無視)」

「分かりました!(眼中になし)」

「事実、古来より塔は多分に宗教的意味を含んでいる。寧ろ宗教的意味を含んでいるからこそ、古代にわざわざ高層の塔を建てたとも言えるだろうね(こっちもガン無視)」

「チッ……」

 

 キョウジのクソうぜえゆっくり解説を垂れ流しながら俺達はぶらりと夜を歩んだ。存在の位相がどうたらで一般人には見えないからって好き放題喋り散らかしてるんじゃねえよ。

 

 だけど、それを差し引いてもヤタガラスに入ってから一番楽な仕事じゃねえかこれ。わざわざ召喚する必要もないし、ジュセの顔を見ずに一日を終えられるとか最高すぎるだろ。

 

『ギロッポンでシースーをゴーゴー食いまくりたいけどな~~俺もな~~』

「うわっ黙れ」

『ちょっと直球過ぎやしませんかね……?』

『私達が居なくても大丈夫そうだ、問題ない』

「そうだよ(肯定)。お前らは大人しくおねんねしてろ」

 

「往々にして、大きさ、高さという分かり易い威容は、存在そのものが信仰を得る事が多いんだよ。大山に然り、大岩に然り、大木に然りね」とかキョウジは誰も聞いてねえゆっくり解説を続けているが、器ちゃんの方は順調である。諏訪さんの指導に一つ一つメモを取り、うんうんと頷いては理解を示している。こういうまともな指導が欲しかったけどな~~俺もな~~。

 

「では、指差し確認です。ヨシ!」

「良し、です!」

「前の二人が確認したから多分ヨシ!」

「殺すぞ(半ギレ)」

「だって確認の仕方なんて知らへんし……」

「だったらお前もメモを取りなさいよ(半ギレ)」

 

 しょうがねえなあ(悟空)と、俺もすっかり新人気分で諏訪さんに付いていく。こういう仕事も出来ますよアピールしてればまた楽ちんちんな夜を過ごせるかも知れねえしな。

 

 そんな風に六本木ヒルズをぐるぐる回る形で各地を調べていく。が、変わったことなど何も起こらない。当たり前の話だが……えっ、当たり前の話なの? そうか……毎回悪魔と戦う羽目になるのって当たり前じゃなかったんだな……。

 

 俺の哀しい現在……を再確認している最中、ふと、目的地である公園に先客がいた。スーツ姿にコートを羽織った数人は、一見してお堅い官僚って感じの風貌である。実際間違ってない。何度か目にしたことのある奴等だった。

 

「……ん、ヤタガラスさんか」

「退魔庁の皆さんじゃないっすかぁ」

 

 どちらからともなく俺達は一礼した。言ったとおり、こいつらは退魔庁の退魔師である。どことなくヤタガラスっぽい雰囲気と、ヤタガラスに似つかわしくない近代的装備が特徴的な業界人だ。こうして比べてみると組織としては完全に上位互換じゃねえか。

 

 しかし暗黙の内に礼を交わしたことからも、別に俺達は険悪って仲じゃない。護国をお題目に掲げてんのは同じだしな。どうせこいつらも定期的な巡回とか何かだろう。

 

「あら、巡回にしては少々人数が多くありませんかしら? 何か調査でもなさっています?」

「ちょっと気になる噂がありましてね。最近六本木で悪魔のようなものを見たって話です」

「恥ずかしながら、こちらはその様な噂など耳にしてはおりませんが……」

「まあSNSとかでの噂なんで。それも大して多くもないんですが、こういう細々とした『もしか』もやっとかなくちゃなりません。ヤタガラスさんがデカいのをやってくれる分、ウチがね」

 

 実に立派なことである。使命感にきらきらと笑みが輝いている。上層部はどうか知らんが、実働部隊の奴等は気の良い者が殆どだ。今もちょいと歓談にでも興じるつもりなのか、器ちゃんの傍らに転がるキョウジを見つめ、言った。

 

「お嬢さんの仲魔は飛頭蛮かな? こんな若さでヤタガラスに入るとは立派なことだ。私では力及ばぬ分、この国を頼むよ」

「なっ……!? お、怒らないで下さいね! こんな生首が仲魔だなんて馬鹿みたいじゃないですか!」

「えっ」

「阿多様っ!? ええとですね、この生首と、このお方との関係は非常に複雑でしてね? ええ、ええ……申し訳ありません……」

「あ……も、申し訳ありません……つい……」

 

「ははは! 僕が飛頭蛮か。あまり侮辱してくれるなよ鴉にも劣る……げえゅっ!?」「貴方はクソです」と、生首をごりごりと踏み潰す器ちゃんに引いた顔をしながらも、退魔庁の奴等は引き攣った苦笑を浮かべて流した。

 

「は、はは……まあ、ヤタガラスの皆さんが個性的なのは、何時ものことです。……最近噂のとんでもない奴も、皆で『ヤバすぎる』って話してますよ。名は確か本庄……」

「……ん? ん、ん!?(興味津々)」

「え゛っ、本庄ですか……」

「本庄様ですかっ!? えへへ……」

 

 急に俺の名前を出されて思わずびっくりしちゃった。でもこれ褒める流れ? 俺、いつの間にか有名になっちゃった感じっすか(笑)

 

「そう、有名なキチガイ本庄です。サマナー歴一年未満で不死身のキョウジを殺し切るとか本当にキチガイ染みていますよね」

「うはは! キチガイだってよ君!」

「お前もゆっくりにしてやろうか?(全ギレ)」

「えっ、なんですか」

 

 何だその二つ名!? 普通そういう話なら†天才の本庄†とか、†神速の本庄†とか、†キリト†とか付くもんじゃねえのかよ! なんで†キチガイの本庄†なんだよお前よぉ!?

 

「あっ、貴方ーーっ! 本庄様を愚弄する気ですかっ!」

「えっ……え?」

「器ちゃん! 怒ってくれたのは嬉しいけどちょっとタイミングが悪かったな!」

 

 うーん、思いっ切り指差して叫んだせいで、器ちゃんへの軽い引き顔が、俺への二度見からの真っ青な顔に変わってしまった。軽い歓談の場の筈が死ぬほど気まずい雰囲気に早変わりだよ。どうだよ。おい、土下座しかけるの止めろ(半ギレ)

 

「ゆ、許して下さい……ちょっとあり得ない存在だなあと思っただけなんです……。本気でキチガイだとは誰も思っていませんから……」

「いや、正しい評価ですよ。こいつキチガイですよ。諏訪の名において貴方達を許しますわ」

「えっ……あっ、諏訪の祝様っ!? ……私の命を捧げますので、部下は許してくれませんか」

「どうしてそうなるのです?」

「だってあんたも有名じゃん。あの……あれで全部呪い殺すって」

「ミシャグジさまをあれ呼ばわりするな。殺すぞ(全ギレ)」

「ヒエッ……」

 

 あの……召喚してないのに悍ましい雰囲気滲ませるの止めてくれない? 祟りの極致を懐に抱えたまま平気で生活してるとか、この人もこの人で立派なキチガイの一員なんだよなぁ……。

 

 結局、退魔庁くん達は『変な爺さん二人と可愛い女の子が遊び歩いているらしい』とかいう、それ悪魔って言うか変質者情報だろって感じの話を残して逃げるように去ろうとした。諏訪さんのせいでビビりまくってるってはっきりわかんだね(責任転嫁)

 

「それでは、悪魔にお気を付けて……なんて、ヤタガラスさんに言うのもおかしな話ですがね」

「ま、あれだ……色々ときな臭えご時世だが、今後ともよろしく……」

「……そうですね。ウチもウチで、上の方は色々と面倒そうです。そう言うのを抜きにして、ヤタガラスさんとも上手くやっていければ良いんですが」

 

「まったくゴトウ長官も、獅童議員と結ぶなど……」と、ぶつくさ言いながら退魔庁くん達は去って行った。政治とかクソ面倒くさそ~~。関わらないのが最良だってそれ一番言われてるから。

 

「ウチはそう言うの全部ゲイリンに丸投げしときゃいいから安心だな!」

「……そう軽く言えるから本庄と呼ばれるんですよ、キチガイ」

「って逆ゥー!」

「うっざ、死ね」

 

 豊富なボキャブラリーで諏訪さんと罵倒し合っていると、ふと器ちゃんが「あれ?」と呟いた。

 

「あれ……あの女の子、こんな夜中に一人で……」

「え? どうせ立ちんぼかなんかでしょ(適当)」

「懐かしいね。僕が若い頃はパン助って呼んでたんだよ」

「お前ら教育に悪すぎますわね……」

 

 何故か知らんが器ちゃんは急にふらふらと歩み出した。人生の迷子を案内するとか面倒臭えなあ~~。そう思って彼女が話しかけた少女を見て。

 

 ぞっとした。

 

「……召喚:マナツノヨルノインム、イーノック」

「──っミシャグ……ああダメだわ阿多様にまで当たる!」

「っはははははは! こんっな事ってあるのかい!?」

「えっ?」

 

 唐突な召喚に器ちゃんが驚いたように振り返る。その背後で少女は笑っていた。金色の髪に青色の服。絵本から飛び出てきたような美しい少女だが、それが振りまく雰囲気は吐き気がするほどに悍ましい。

 

 アナライズにCOMPが異常な駆動音を響かせる。そうとも目の前の存在はあり得ざる者だ。こんな異界化もしてねえような場所で出てくるわけがない化け物だ!

 

[魔人:アリスが 一体 出た!]

 

「……お友達を見つけたわ」

 

 少女が笑う。狂ったような笑みを浮かべている。奴は器ちゃんの手を取ると、空に向け叫んだ。

 

「赤おじさん! 黒おじさん! アリス、お友達を見つけたわ! この子は紛れもなく、アリスのお友達!」

「──ふむ、それは良かった」

「──ええ、とても良かったです」

「っ!? な、悪魔……っ!」

 

 唐突に現れた二人の男に、今更ながらに器ちゃんが逃げ出そうとするも、その腕は魔人に掴まれて剥がせない。しかし魔人は最早どうでも良かった。いや良くないが。二人の男が囲むように立っているのが最悪だ。

 

 二人の男……いや悪魔。それもクソゲボに強力な、強力すぎる悪魔!

 

[魔王:ベリアルと 堕天使:ネビロスが 出た!]

 

「……諏訪さん」

「……ええ」

 

 俺と諏訪さんは一瞬の内に全てを理解して互いに頷き合った。

 

「死んだな、これは……」

「死にましたわね、私達……」

「君たち、ちょっと諦めが良すぎないかい?」

 

 あのさぁ……んな事言われてもさぁ……ライドウ並に強い悪魔とか初めて見たんだよね。それも三体とか世界の終わりか何か?

 

「……本庄様、諏訪さん、お逃げ下さい。この悪魔は私に興味を示しているようです……ですから……!」

「ヤベえ、器ちゃんが昔の伝奇系ヒロインモードになっちゃった! またタフ読ませなきゃ……(使命感)」

「聞いてます?」

 

 しかしそんな事を言っている間に、魔人が何かに気が付いたように「あっ!」と俺の方を指差した。止めろよマジで指先だけで呪えんじゃねえかって感じだろお前(戦慄)

 

「ねえおじさん達、あの悪魔さー……」

「ほう、イーノックか。久しいな」

「……ベリアル」

「イーノックお前知り合いかよぉ!? だったら無敵の『大丈夫だ、問題ない』でなんとかしてくださいよォ────ッ!」

「ううん違うわ! あっちよ、あっち!」

 

 その指差した先、野獣は「えっそれは……(震え声)」とガクブルしていた。えっ、こんなうんこが魔人と知り合いなの? マジで?

 

「あの悪魔、まさか……!」

「……っ! アリス! 止めなさい!」

 

 ふと、二体の悪魔が慌てたように魔人に言う。しかし、魔人は喜色満面の笑みで言った。

 

「! アリスこれ知ってるわ! イキスギイクイク! 枕がデカすぎるわ!」

 

 えぇ……(困惑)

 

 

 


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