百鬼夜行連合学院自治区のとある山奥、都市部から離れているこの場所にそれはそれは広い道場があった。その建物からは外から門下生の張り切る声が絶え間なく響いており、真摯に稽古に取り組んでいる事がありありと思い浮かぶ。
その道場に居るおよそ80名ほどの門下生が組手稽古を行う中、1人だけ門下生たちから1歩離れた距離感で道場内を巡っている黒い1本角の生えた褐色肌と橙色のヘイローを有した人物。彼女の身に着けている道着の帯の色は、他の門下生とは違い赤色の帯が巻かれていた。時折組手稽古を行う2人の間に入り、体の動きや重心についての指摘をしつつ実際に見せてたり、技を掛けさせてみたりしていた。
そんな時間はあっという間に過ぎ、午後17時目前となったところで赤帯の彼女は門下生の中心で終了の掛け声を出す。その場にいた全員が稽古を止めて整列し、80人全ての視線を彼女が集めた。
「皆、よく成長しておる! 修練の成果が目に見えて分かるほどに! しかし忘れてはならん。どのような時であれ、己を制する事を決して疎かにしてはならん事を! 最後に訓戒を述べ、本日の稽古を終了とする!」
「では始めッ!」
≪≪≪≪≪1つ! 真摯な
「よろしい! ではこれをもって、本日の稽古を終了とする!」
≪≪≪≪≪ありがとうございました!≫≫≫≫≫
門下生が一斉に彼女に向けて礼をすると、各々が帰宅の準備を始めていく。そんな中、赤帯を着けている彼女のもとへと向かう紀州犬の特徴を有した犬人が居た。その犬人の手にはスマホが握られてる。
「アクロ様、ウラ様からお電話です」
「うむ、ご苦労。車の用意は?」
「既にご用意しております」
「では着替え次第出発とする。道場の施錠は任せたぞ」
「かしこまりました」
アクロと呼ばれた彼女は使用人からスマホを貰い、通話待機画面に映し出されたウラの名前を一瞥して道場と地続きになっている母屋へと向かいながら電話を掛けた。
「もしもし」
『アクロ、あと30分しか無いの分かってるよな?』
「開口一番小言か、ウラ。今から着替えて向かう、ちと待っておれ」
『お前はこの前も30分遅刻したから信用ならないの! 一緒に食べる用にとか言って土産選びに時間かけてたの何処の誰だったっけ!? 今日は土産とか買わなくて良いからさっさと来い!』
「えー、土産を食って話す方が良くないかの?」
『なら時間守れや! お前一応重役の1人だろうが!』
「そこはあれだ、重役出勤というやつよ」
『んなこと良いから今日は時間守れよ!? 今日の会議はただでさえ事が大きいんだから、話す時間を引き延ばしたくないの!』
「まーったく仕方ないのぉ。間食用のにぼし持って行くから落ち着け」
『どうでもいいわ!』
『どうどう、ウラも落ち着いて。にぼし食べて落ち着きましょう?』
『何? 今日にぼしの日かなんかなの? ボク以外にぼし常備してるの? というか3kgも要らないんだけどマオ!? どこから出したのそれ!?』
「おぉ、ならこちらは5kg持っていくとしようか」
『そんなに用意して何に使うんだよこのバカ! あと業務用でも1kgしかないのに、そんな量のにぼしどこから仕入れてきたんだよ!?』
「マオがくれたな」
『しまったマオもバカなこと忘れてた……!』
『今に始まったことでも無いでしょう?』
『きぃぃるるるるるるるるらららら!』
「ぶははははは!」
『とにかくさっさと来い! 良いな!?』
電話相手のウラはそう言った直後に通話を切り、ひとしきり笑ったアクロは自室に戻り着替えを行ったあと玄関先の門前に停められていたVIP用装甲車に乗って2人の待つ場所まで向かっていった。
百鬼夜行連合学院自治区内にある現代的なビル。あまり人目のつかないこの場所に鎮座するこの建造物には、少しだけ変わった設備が存在していた。車から降りたアクロはそのビルの中にあるエレベーターに入ると、1→2→8→10→5→7→6→4→3→9→閉ボタンの順に押す。するとエレベーターの扉が閉じ、行き先が本来辿り着くはずの無いB5と電光板に表示され下へと降りて行く。
そうして降りて行った先に待ち受けていたのは、人々が横行する鉄の広場であった。足場はエキスパンドメタルで構成されており、その上を歩いて別の部屋へと向かっていく様々な人の姿がそこに居る。そしてその全ての人に共通する特徴として、頭の上にヘイローがあり全員女性であった。
横行する人々を横切るようにアクロが歩いていくと、立ち止まり彼女に向かって頭を下げて挨拶が行われた。アクロはそうして挨拶をした彼女等に返事をしつつ、自身の目的地である1部屋の中へと向かって行った。
目的の部屋に到着したアクロが扉を開けると、小さな会議室と判断がつく内装の中に、いかにも高級で座り心地の良さそうな椅子に座っているマオとウラに加え、マオとウラの後ろにそれぞれ立つ2人の人物とモニターの傍に立つスーツ姿の人型ロボットが待ち構えていた。
「……5分遅刻、まぁアクロにしては早い方だからもう良いけどさ」
「なーんも買っておらんから安心せぃ。流石に今日は自重したわい」
「普段から自重してくれれば──」
「まぁまぁ、こうして集まったんだから良いじゃないですか。小言ぐらい後でたっぷり言う時間はあるでしょう」
「愚痴りたいのはマオについても同じなんだけどね」
「ならそれも後でたっぷり言わせてあげますから。アクロ、座って」
「ほいきた」
アクロも2人と同じく椅子に座ったところで、マオはモニターの傍に立つロボットへと視線を送り、受け取ったロボットが一礼してモニターの前に立つ。
「キシン同盟の皆様、お集まりいただき感謝いたします。
本日の会合内容はご存知の通り、先日発生したイワヤ警備所有の現金輸送車襲撃に対する
────カイザーコーポレーションへの報復計画についてのご説明となります」
その言葉を皮切りに、マオ、ウラ、アクロの3人は真剣な表情に変貌し、空気が張りつめた。
これから行われるのは報復。誰に喧嘩を売ったのか分からせる為の見せしめであり、
ひとまずの人物紹介はこれで終了です。
次回からは敵役として便利なカイザーにカチコミに行く内容になります。