マオがどうやらアビドスへと赴いたようです。
梅雨明けて夏の陽射しが強まる季節、大嶽マオは百鬼夜行連合学院自治区ではなく電車に揺られながらアビドスへと赴いていた。そんな彼女をどこか物珍し気に見やる乗客たちの視線を特に気にしていない様子で、移りゆく景色をぼうっとどこか惚けた様子を出しながら見ていると彼女の視線を遮るように5人の不良たちが並び立ち、彼女に脅しをかけた。
金品を出せと強請りをかけた不良たちであったが、目的地である駅に到着するまでの間マオは特に何をするでもなく黙って座っていたままだった。あまりのだんまり具合に流石にキレた不良たちであったが、マオは銃を出す素振りさえないまま接近戦に持ち込み、たった一撃だけの攻撃を5人全員に味合わせた。攻撃をくらった不良たちはその一撃で全員ノックアウトされ、目的の駅に到着すると不良たちは全員駅の壁に向かって投げられる。
マオは何事も無かったかのように駅から出ていき、待機していたVIP用装甲車とその傍で立つ紳士めいた服装とヘイローを有した黒髪の女性が後部座席のドアを開けた。
乗り込んだマオは早速付き人の運転のもと、とある場所へと車を向かわせる。比較的発展した都市部の景色を眺めていると、次第に彼女の視界に町の雰囲気に似つかわしくない砂が映った。
やがて目的地である学校と思わしき場所に到着し、校門前に車が停められる。車外へと出た途端、砂漠の砂を含んだ風が吹くが付き人が風上の方に立ってマオに届かないように守った。
「マオ様、ご無事ですか?」
「あぁ、ありがとう。あとは1人で大丈夫だから、車の番を頼むよ」
「かしこまりました、お気をつけて」
付き人が車を移動させた少し後に、マオは目の前にある砂混じりのアビドス高等学校へと足を踏み入れる。
「ごめんくださーい!」
かなり大きめの声を出して訪問したことを知らせたものの待てど出迎える者は居ないのか、ただ風の音が聞こえてくるだけであった。マオはそのまま校舎の中へと足を踏み入れ、悪いと思いながらも砂だらけの校舎を土足のまま歩いていく。
辺りをうろつき、対策委員会と書かれた紙が貼られた学級表札を発見し教室の扉を叩いた。
「ごめんくださーい!」
「んんぅ……あとごふん」
人の気配はあるが返事が返ってこなかったので、教室の扉を開ける。中にいた淡い水色の髪に太陽を象ったヘイローの浮かんだ女子生徒が机に突っ伏して眠っており、ここまでして起きない彼女の肝っ玉の大きさに感嘆すべきか、或いは三大欲求の一つに抗うことなく眠りこけている彼女に呆れるべきか。そんなことを考えながらもマオは彼女の体を揺すって起こすことにした。
「もしもーし、起きてくださーい」
「ん……んぅ?」
机に突っ伏していた彼女はマオの呼びかけに反応してゆっくりと体を起こし、重い瞼をほんの少しだけ開けてマオの方へと視線を向ける。暫く2人が見合っていると漸く誰か来たことに気付き、慌てて椅子から立ち上がろうとしてその場でコケるという別方面で器用なことが起きた。尻もちをついて痛そうな様子を披露している彼女にマオは手を差し出す。
「大丈夫ですか? やけに器用な転び方でしたけど」
「いたたた……あ、ありがとうございます」
マオの手を握り引っ張られる形で起き上がった彼女は、目の前にいるマオに対して誰なのか分からずきょとんとして訊ねた。
「えっと、貴女は?」
「あぁ、申し遅れました。私はこういうものです」
マオは着物の袖から名刺入れを取り出し、彼女に向けて差し出す。
「キシン同盟が1人、百鬼夜行連合学院自治区にて活動しているオオタケ組合の会長、大嶽マオと申します。以降お見知りおきを」
「ご、ご丁寧にどうも。あっ、そういえば今日お客さんが来る予定だったような……」
「よく寝ていらしましたね」
「あははぁ、そのぉ……ごめんなさい」
「構いませんよ、お互い忙しい身空なのですから。何事もなく眠り惚けていたいのは共感できます」
「あっ、お茶の用意してきますね!」
「あぁ、構いませんよ。それと敬語も使わなくても良いですよ、貴女より歳下ですし」
「いやいやそんな────えっ、歳下? 幾つ?」
「14です」
「まだ中学生なの!?」
「そうですよ」
意外な歳の差に彼女が驚きを見せる。そうした意外な話題から入った2人は、他愛のない話を暫くしてからマオは目の前に座っている彼女に向けて本題に入る。
「さて、そろそろ本題に移りましょう。とはいえ長ったらしいご説明も聞いてて飽きてしまうので、簡潔に」
マオは柔和な表情を崩すことなく、目の前の彼女に要望を伝えた。
「単刀直入に言いましょう、我々と取引をしてもらいたいのです。このアビドスに腐るほどある砂漠の砂を、我々に提供していただきたい」